依頼:私を、変えて欲しい   作:クラウンギア

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二人の現在地

川崎がローテーブルの上に組んだ腕の中に隠れてしまって数分。

 

ひとしきり川崎が隠れてしまったことに慌てたあと、俺は飽きずに川崎の髪の毛をじっと眺めていた。何これなんか変態っぽい。青が映える髪の毛は、何だこれ?これがキューティクルてやつなの?光に照らされ神秘的に輝いて、人間離れしているような感覚に至った。この考察、やはり変態でした。

 

そんなことを考えていると、川崎は唐突に顔を上げた。

 

「うおっ・・・どうした?」

 

川崎は俺の質問には直接的に反応せず、じっとローテーブルを見つめて何度が頷く。

 

「わかった。」

 

「おう・・・え、何が?」

 

「何がって、自分が言ったんでしょ?ちょっと寝させてもらうよ。でも今日中には帰るようにするから、寝過ぎてたら起こしてくれる?」

 

「おお、そ、そうか。分かった。」

 

顔を上げてからの川崎は、全くもって眠そうではなかったが、そこには触れずに承諾する。とにかく今は、まぁ、ここまでしてくれた川崎が思うようにしてやりたい。そう思って川崎を見直すと、視線が落ち着いていなかった。どうしたのそわそわと。何度かベッドに移った視線を感じ取ったので奨めてみる。

 

「ほれ、ベッド使え。俺が寝た後で悪いが、ベッド自体はなかなかのものだぞ。」

 

これは実際にそうだった。1番金がかかっているまである。両親に合格祝いに何がいいと聞かれ、2割くらい冗談で現金を要求したら、もう子供じゃいられないんだから最後くらいモノにしてくれと、これでもかと言うほどの呆れ顔で言われて、結果このベッドを頂いたのだ。いや冗談だからそこまで呆れなくても良くない?まぁ8割くらい本気だったんですけどね。ごめんね可愛くなくて。可愛さは全て小町に振られてるから許して。

 

「う、うん。ありがと。じゃぁ、うん、失礼する・・・」

 

ガチガチになっている川崎から似合わない言葉が出てくる。立ち上がった川崎はもじもじしながらも、テーブルを挟んで反対側のベッドに向かおうとする。

 

「なんだよその言い方。似合わねぇ。」

 

「う、うるさい!あ、少し洗面台借りるから。」

 

むくれた調子をそのままに、翻って廊下へ行ってしまう川崎。まぁ食後と言うものあるし、最低限で口でもゆすいでいるのだろう。少し経って帰ってきた川崎は、ちらりを俺に目線を向けて頷くと、ベッドへ向かった。掛け布団を剥いで、するりとベッドに収まり、向こうを向いた状態で眠りに入ってしまう。

先ほど川崎が下げてくれた食器でも洗おうかを立ち上がり、声を掛ける。

 

「まぁ、無論何もしないし、無理に見ることもないから、安心してよく寝てくれ。」

 

「何それ。」

 

そう言って川崎は、俺に顔半分見えるくらいこちらを見て、

 

「・・ありがと。おやすみ。」

 

と言った。その顔は怒っているようにも、照れているようにも見えたが、少しだけ見えた口元が緩んでいるように見えたので、それを信じることにした。きっとこいつも昨日から気を張ってばっかだったろうからな。

 

「ああ、おやすみ。」

 

そう言って俺は、テレビを音量を聞こえるか聞こえないかくらいまで下げて、台所へと向かった。

 

-------------

 

二人で食べた分の食器を洗っている最中に、俺は気付かなくて良いことに気付いてしまう。あのー、俺、とてつもなく恥ずかしいこと言ってなかった?寂しいとか、帰ってほしくないとか、嬉しさをあげたい、とか・・・

 

終わった。完全に終わってない?くっ、俺はなんて事を・・・。泡に塗れたスポンジをギュッと握りしめる。口元が自責の念で震えてしまう。さ、叫びてぇ!!黒歴史を大幅更新してしまった。でも川崎は寝ているし、うるさくするのは本望ではない。スポンジから出た泡が、指の間を通ってシンクへ落ちていく。きっと家庭を持った夫は、こうやって静かに自分を諌めるのかもな、などと考えつつ、俺史上稀にみる表情で、沸き立った恥ずかしい感情を殺した。

 

洗い物やら後悔の整理などが一通り終わり、ドアを静かに開けると、自然と俺の視線は川崎が眠るベッドへと向いた。先ほど見た状態から動きはないが、一定のリズムでほんの少し上下する掛け布団を見て、眠っていると判断した。

 

川崎にとっては少し明るい気がしたため、天井灯を豆電球に変える。テレビの明るさもあったが、あまり経験のない部屋の雰囲気に家主である俺がのまれそうになる。まぁ、いま目の前で、めちゃ美人で可愛くて気立ても良くて良妻待ったなしのやつが眠ってるんだから、いつもと違うのはしょうがない。が、それにしたって、この雰囲気はなんかこう、怪しい。豆電球に変えたことによる影響を俺の中だけで必死で処理し、小さな溜息を吐いた。

 

台所から持ってきたマッ缶を片手に、静かに座椅子へと腰を落とす。一口飲むと、遠慮がちに川崎が眠るベッドを見た。よく眠れているだろうか、眠れていればいいなと、本心から想う。

昨日川崎に話しかけられてからここまでの展開は、もちろん急なそれに感じる。しかし、川崎にも伝えたように、それが嫌であるとは一切思っていない。このこと好意的に捉えるならば、元から合っていた、のではないだろうか。まぁ、互いにボッチだしな。そんな奇跡みたいなことが、今ここに形を成して有り得ているのかもしれない。

俺としたことが、俺にもそんな小説みたいなことがあればいいなと、考えてしまった。

 

もう一口、と、マッ缶を傾ける。

 

まぁ、なんだ、これからもよろしく頼むわ。

少ない光を頼りに、読みかけの本を開いた。

 

------------

 

ふと、テレビの音が必要以上に大きく感じた。あれ、こんな音量だったっけ。ん、てかこの感覚やばくね?はっとして目を開いて首を上げると、容易に自分の状況が理解できた。

 

すみません。俺が寝ちゃってました。急いで時間を確認すると、午前1時を示していた。川崎に言われていたのは昨日の今日中であったから、完全にミスだ。やっちまったぁ!寝起きの頭をフル回転させて考え反省しつつ、ベッドを見ると、川崎がこちらを向いてすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。

 

「っ、お。」

 

急速に現実に引き戻された拍子に、言葉にならない言葉が口から洩れた。ほぼうつ伏せに近い形で顔がこちらを向いており、手が顔に近くで子供っぽくきゅっと握られている。この破壊力は尋常じゃない。というか可愛すぎる。何だこの生き物。小町か?いやそれ以上なのか?そんなこと有り得るの?

 

寝起きに一発かまされつつも、自分の使命を思い出し、川崎を起こそうと試みる。

 

「あー、川崎。起きれるか。」

 

全く反応がない。

 

「あのー、川崎さん?すみません、もう約束の時間すぎちゃってまして、申し訳ない。」

 

眉根がピクリと動くのが分かった。しかし、依然として寝息は一定速度だ。

 

「まぁなんだ。そこまで気持ち良さそうだと起こすのも何だと思ってしまうんだが、とはいえ、起こさないのもあれかと思いますんで・・・」

 

俺は一体誰に言い訳をしているんだ。社畜のどっちとも取れない意見の言い方みたいになってて、自分の将来が過る。怖い。そして川崎は一向に起きる気配を見せない。俺は決心して、握られた手の甲をポンポンと出来るだけ優しく叩いた。

 

「川崎。起きてくれ。」

 

精一杯の穏やかな声で話しかける。川崎の目元が揺れて、目覚めの瞬間が訪れる。薄目を開けてぼうっとしている川崎の目線が、一度俺の目線とぶつかる。何秒か目があったままで居ると、川崎はふふっと微笑む。そして、また目を閉じてしまった。

 

「いや、また寝るのかよ。」

 

「・・・起きたよ。けど、まだこうしてたい。」

 

寝ていた姿をそのままに、川崎が微睡んだ声で告げてくる。

 

「いや、俺のせいなんだが、時間が過ぎちまってだな。」

 

「んー、何時?」

 

「午前1時だ。」

 

「・・・別にいいんじゃない。」

 

目を瞑ったまま川崎が応える。

 

「いやいやでもお前昨日今日中に帰るって」

 

「いいの。何か困る?」

 

「俺は別に困りはしないが・・・」

 

「じゃぁ、いいの。・・・ねぇ、比企谷。」

 

「なんだ?」

 

「'これ'、嬉しいね。」

 

そう言って掛け布団を口元まで引き寄せた川崎は、何かを体現するように、身体を屈ませて掛け布団をぎゅっと抱きしめる。'これ'と言っているのは、きっと、いや絶対、俺が言った「起きたら誰かがいる嬉しさ」のことだろう。

 

「・・・俺なのが申し訳ないがな。」

 

「ううん、あんただからじゃないかな。」

 

「なっ!」

 

「おやすみー。」

 

川崎は、そう言ってもぞもぞと向こうをむいてしまう。俺は一気に茹で上がった顔を冷ますのをほどほどに、川崎に質問を投げる。

 

「っておい、何してんだよ。送っていくぞ。」

 

「え、もしかして帰すつもりなの?」

 

顔は見えないが、恐らく割と怖い顔で仰っている気がする。え、なんで?おかしい?どうすればいいか言葉を選んでいると、川崎が掛け布団をふわりと剥がして起き上がり、こちらを向く。

 

「ふふ、冗談。ん・・・うん、今日はちゃんと帰る。家でも気持ち良く寝られそう。悪いけど、送ってくれる?」

 

そう言いながら一つ伸びをすると、髪型を整えベッドに腰掛けた川崎が、ほくほく顔をこちらに向ける。

どうやらご満足いただけたようだった。

 

「もちろんだ。すまん、俺も寝ちまったから、少し時間過ぎたが。」

 

「電車乗るわけじゃないし、そのくらい気にしないでいいよ。」

 

そう言って川崎は帰り支度を始める。

その姿からは、寝る前にはなかった雰囲気が感じ取れた。

 

「うん。じゃぁ行こっか。・・・ねぇ、ちょっと向こうむいて?」

 

「あ、どうした。」

 

そう言いながら川崎に背を向けるとすぐに、ちょっとした衝撃が俺を襲った。

川崎が、俺の両腕と身体の間に手を差し入れ、抱きついてきたのだ。

 

「ちょっ、お前なにして」

 

「今日はありがとね。はい!」

 

川崎をそう言って、ポンと背中を押して離れた、俺は振り返り、川崎を見る。瞬間、俺ははっとしてしまう。川崎の表情が幸せそうで、恥ずかしそうで、でも嬉しそうで、今日という日が間違っていなかったことを表していたから。

 




私からすれば信じられないくらいのUAが付いており、とても嬉しいです。
今回もお読み頂き、ありがとうございました。
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