ドーナツ・・・そう呻きながら、亡者のような足取りで歩を進めるのは、朝比奈葵。超高校級の、スイマー。として。かつて、注目された選手だ。なお、彼女の頭の後ろのゼンマイ等を指摘しても、ロボットの物真似で誤魔化されるだけなので、あしからず。なお、これは葉隠康比呂氏の言葉のため、信用できない。
さて、まぁ―そんな彼女だが、お腹が空いていた。「ドー・・・ナツ・・・ドー・・・ナツ・・・」と呻いているのも、それが原因だ。いや、彼女が無類のドーナツ好きだというのもあるが。さて、そんな彼女だが。「ジュワァ...」と。ドーナツの揚がる音が聞こえる。ドーナツの揚がる匂いが聞こえる。五体で、全身で感じ取っているのだ。欲と感覚に任せて、ただただ向かう。走り続ける。様々な部活にスカウトされただけはある、途徹もない才覚で、様々なスポーツに参戦したことのある、途方もない俊敏さで。ドーナツへ、臭元へ、香元へ、匂いの元へ向かう。
そこで見つかったのは、ジュワリと。カラリと。さくっと。唐揚げのように綺麗に揚がった、多種多様なドーナツ。熱さも気にせず、「頂きまーす」と呑気に頂く。次の瞬間。彼女は光に包まれた。
...うー、プロデューサーさーん。そう呟く彼女は、椎名法子。アイドルをやっている。かなり有名なのだが、―そんな彼女は、普段とは真逆に、ある意味それらしく、ご多分に漏れず、ドーナツを求めていた。彼女もドーナツ好きである。
―!? ドーナツを見つけた。金の杯に。―あまり趣味がわからないというか、あまりいい趣味ではないというか。
―でも、少しくらい食べても大丈夫ですよね?と、いうと。
「あむっ。」
ドーナツに、かぶり付いた。かじりつき、食べ、咀嚼し。嚥下、消化。そして、すこしスポーツドリンクでも飲もうかと思った瞬間―同じく、光に包まれた。
二人が目を覚ました時、―そこは、ドーナツの楽園だった。ドーナツで埋め尽くされ、ドーナツで出来た、ドーナツの、ドーナツに、ドーナツとして。そんな、まさに、夢の国。そんな、二人に。 佇む者、一人。
「何故、妾の城塞で勝手にドーナツを貪っておる?まぁ、妾の城塞も変貌したが...」
そこにいたのは、サーヴァント―いや、今は何らかの方法で受肉しているのだろうか。アサシンにして計略者(キャスター)、セミラミスであった。
「全く、妾の城塞もどうしてここまで―いや、まぁいい。見たところ、異界の有名人といったところか。特にそちらの小娘は魔力?も存在している世界らしいし、そちらも―サンタ?がいるらしいし...いや、神秘がよくわからんが。ともかく、協力しようではないか。」
「―え?」
「―んむ?ごくんっ。」
そう、これはもう一つの迷宮(Labyrinth)の物語―
Fate/Please one more Order ~of the doughnut ~
可憐な少女達の、ドーナツを追い求めた、可愛い迷宮の探索記だ。