AS オートマティック・ストラトス   作:嘴広鴻

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原作開始前
第1話 ISショック


 

 

 

――― 織斑一夏 ―――

 

 

 

 我輩は転生者である。名前は織斑一夏(もうある)

 どうして転生したか(とん)見當(けんとう)がつかぬ。何でも我輩を抱きしめる姉の胸の中でエンエン泣いて居た事(だけ)は記憶して居る。我輩はこゝで始めて姉といふものを見た。

 (しか)もあとになるとそれは織斑千冬といふ人間中で一番最強で最恐な個人になつたそうだ。(この)姉といふのは時々生徒を捕まへて“あいあんくろう”なるものをするといふ話である。

 (しか)(その)當時(とうじ)は何といふ(かんがへ)もなかつたから別段恐しいとも思はなかつた。(たゝ)彼女の胸に抱きしめられた時何だかポカポカした感じが有つた(ばか)りである。

 胸の中で少し落ち付いて姉の顔を見たのが所謂(いはゆる)姉といふものゝ見始(みはじめ)であらう。此時(このとき)妙なものだと思つた感じが今でも(のこ)つて居る。

 

 

 

 “どうしてこうなった?”…………と。

 

 

 

 

 

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「とまあ、現実逃避はこれくらいにしておいてと……」

 

 

 目の前に4人の男達が倒れている。服装や顔に目立った特徴はなく、どこからどう見てもただの“一般人”という風体だ。

 でもこの人達は“誘拐犯”……いや、“誘拐未遂犯”なんだよな。俺が誘拐未遂犯から奪ったスタンガンで気絶させた…………本当に気絶してるか? とりあえずこの誘拐未遂犯達が持ってたスタンガンが連発式テイザー銃だったから、残った弾も撃ち込んでおこう。

 

 

「ば、馬鹿な……」

 

 

 そしてもう1人。気絶している4人の男の他に、1人の女性が倒れている。

 意識はまだあるみたいだが、脳震盪を起こしているのでうまく立ち上がれないのだろう。俺を困惑しながらも睨みつけているが何もすることができないようだ。脳震盪から復活されても困るから、男達と同じくスタンガンで気絶してもらおう。

 いくらISを身に纏っているとはいえ、直接肌に針を接しさせてシールドバリアーを無効化し、死なない程度の攻撃で絶対防御が発動しないようにすれば問題ないはずだ。

 きっと頭の中で警報がうるさいことになっているだろうから、早めに就寝させてあげないと。

 

 

「さ……さっきのシールドバリアーといい、()()()()I()S()()使()()()()()……?」

「おやすみなさい」

 

 

 バチィッ、というよりドゥチィッというスタンガンの音が周りに響き、ISを纏った女の人が意識を失う。どうやら意識を失うと同時にISも解除されたようだ。

 ……やっぱりコレ結構音が大きくて火花も大きいけど、さっき撃ち込んだ男達は大丈夫だろうか? この女の人はちゃんと呼吸しているけど……まあ、いい。どうせ心臓発作で死んでたとしても、俺は罪に問われまい。

 しかし原作でセシリア・オルコットが言っていたように、本当に絶対防御も完璧ではないんだな。俺はシールドバリアーでテイザー銃の針自体を弾くことができたけど、この女の人みたいに直で針から電気流されたら駄目か。俺も気をつけないと。

 いかに俺もISを持っているとはいえ、周囲のISに発する警報とシールドバリアーと絶対防御、それと少しばかりの拡張領域(バススロット)とISコア隠匿のためのステルス機能しかない。これではパワードスーツとは名ばかりの凄いボディアーマーだ。つか装甲すら存在しねぇから、ボディアーマーですらないな。

 

 とりあえずこれで当面の危機は去った。誘拐未遂犯達と顔を合わせてからまだ1分ぐらいしか経っていない。だけど俺のISが誰彼構わずそこら付近一帯に発した警報を聞きつけて、もうすぐ誰かが駆けつけてくるだろう。

 それまではこの女の人の身体検査だな。さっさとISコアを取り上げなければ危険でしょうがない。先ほどの不意打ちは二度と効かないだろうから、復活されたらマジメにピンチだ。

 えーと、コアの反応は…………このブレスレットからかな?

 

 

 出合った誘拐未遂犯達は最初に男達が素手で俺の身体を拘束しようとしてきた。

 しかし、俺がかなりの勢いで抵抗した上に防犯ブザーを鳴らしたので、優しく取り押さえるのは諦めてスタンガンでの捕獲に切り換えた。スタンガンでの電気ショックでは運が悪ければ死ぬ可能性があったから、なるべくは使いたくなかったのだろう。

 そして俺に向かってテイザー銃を撃ち込むも何故か俺の服に弾かれて効かない。テイザー銃から発射される針を気にすることなく突撃してきた俺に虚を突かれたようで、アッサリと男の1人からスタンガンを奪うことに成功した。あとは相変わらずテイザー銃を撃ち込んでくる男達に向かって、こちらも同じくテイザー銃で反撃するだけで男達の片はついた。

 そりゃ撃たれることを気にせずに突撃してくる男子中学生なんて考えてもいなかったんだろ。本当はシールドバリアーのおかげだったのだけれど、おそらく防弾服か何かだと勘違いしたのだろうな。肌が露出している顔や手を狙おうにも、顔に針を撃ち込むのは危険だし、手のような小さな的に当てることは困難だ。

 最後の男を撃ったところで、ISを展開した女に襲い掛かられた。どうやら怪我はさせないように言い含まられていたようでIS用の武器を使われたり殴られたりはしなかったが、スタンガンを持っていた右腕を捻り上げながら俺の首を掴んで持ち上げられた。すぐに抵抗するべく女の顔面にパンチを打ち込んでみたがアッサリとシールドバリアーに止められる。

 男達を倒したのには驚いていたようだったが、ISに掴まれて身動きが取れない上に効かないパンチをした俺を見て余裕を取り戻し、「大人しくしてれば怪我はさせない」「こんな子供にやられるなんて、やっぱり男はだらしない」とかベラベラと喋りだした。そこで俺は掴まれていない左腕でキスをするときのように女の顎を掴み“クンッ!”って感じで左右に振った。

 

 …………範馬勇次郎の真似したのがあんなに効果が出るとはなぁ。

 効かなかったら頚動脈締めに移行するつもりだったが、アッサリと女は崩れ落ちた。やっぱISは絶対じゃないな。気をつけよう。

 

 

 そして息を落ち着かせるために少しばかり現実逃避をしていた冒頭に繋がるというわけだ。

 

 

 言い忘れていたが、ここは第2回モンド・グロッソ会場。いわゆる原作の織斑一夏が誘拐されたはずの場面である。

 原作知識があった俺は一応ISという対応策を持ってはいたが、正直このように誘拐犯達を返り討ちにできるとは思っていなかった。本命は束姉(たばねー)さんに作ってもらっておいたISコア内に搭載されている警報装置だ。

 この警報装置は付近一帯のISを始め、トランシーバーや携帯電話などの通信機器類へ向けて、俺の居場所とエマージェンシーコールを強制的にうるさいぐらいに送るだけものだが、このモンド・グロッソ会場は警備が厳しい上に数十のISがいる。おそらくもうしばらくすると警備員達が駆けつ「大丈夫か一夏ぁっっっ!!!」…………おおぅ。千冬姉さんが壁をブチ破って登場したぞ。いくらIS展開しているからといって無茶すんなよ。

 

 

「怪我はないか!? いきなりISから警報が鳴り響いたから驚いたぞ。私だけではなく周りの専用機持ちも驚いていたが、一緒に送られてきたメッセージからするとお前が送ったもので間違いないようだな。

 ……こいつらがお前を? お前どうやってこいつらを…………いや、とにかくお前が無事でよかった」

「うん。特に怪我はないよ。千冬姉さんは大丈夫? 決勝試合は?」

「安心しろ、決勝開始まではまだまだ時間がある」

 

 

 そういえばそうだな。

 今日の決勝を見るために時間に余裕を持って会場に入ったところで襲われて、それから数分しか経っていないから大丈夫か。

 初の実戦後ということで気が昂ぶっているんだな、俺も。

 

 それにしても俺の持っているIS……いや、ASについてどうやって話そうかな?

 誘拐未遂犯の女は発動したシールドバリアーで俺がISを持っていることを気づいたのだろうか…………あれ? シールドバリアー発動してからペラペラとお喋りしてたよな。もしかして意味不明な攻撃で倒されたから俺がISを持っていると判断した?

 まあ、どっちでもいいか。どちらにしても俺の懐に入っているあの女が持っていたISコアを渡せば、俺がISを倒したということに気づかれる。かといってコアのことを黙っておくというわけにはいかない。千冬姉さんは俺が襲われたことで若干混乱気味だからまだ気づいていないのだろうけど、他のIS専用機持ちがここに来たらコアに気づくはずだ。俺のASみたいにステルス機能なんてないわけなんだし。

 でも俺って武器は持っていなかったから、実質IS無しでISに勝ったのと同じなことしたんじゃあ…………考えないでおこう。どうせ運が良かっただけだ。

 そういえばこのISコアどうしようかなぁ? アメリカかイギリスとかから奪った奴なんだろうけど、何処に渡すかでケンカが起きそうだ。IS委員会に丸投げするかね。

 

 

 

 インフィニット・ストラトス。通称IS。

 元々は束姉(たばねー)さんが宇宙用マルチフォーム・スーツとして作り出したものだが、現在は主に軍事用と競技用の飛行型パワードスーツとして利用されている。

 このISは発表された当時はまったく注目を浴びなかったが、“ISショック”で地球を救ったことによって脚光を浴びることとなった。

 

 “ISショック”とはアクシズと命名された小惑星の軌道が地球への衝突コースを描いていることが発覚してから起きたパニックから、その混乱が終結されるまでの一連の事件の通称。

 アクシズが地球へ衝突するということがわかってから、地球は酷いパニックに陥った。それもアクシズの大きさが直径10kmと恐竜を絶滅させた隕石と同等のものであり、これは人類を絶滅させるには充分すぎるものであるということが判明したからだ。

 

 この大きさの隕石が地球に落ちてきたとしたら、例え人類の一部が核シェルターなどに逃げ込んでいようと無駄なこと。

 詳しくはwikiでも参照してもらうことにして、簡単に説明するとまずは隕石が衝突しただけでも深さ40km、半径70~80kmのクレーターができ、衝突地点付近に爆風が吹き荒れてマグニチュード10程度の大地震が起きる。

 そのクレーターが海に接していた場合、クレーターに水が引き波となってクレーターが一杯になっても押し寄せ、最終的には押し波となって津波が全世界へと広がる。もちろん津波の高さは100m以上。

 そして隕石質量の2倍の岩石が蒸発してガスとなり、隕石質量の15倍の溶けた岩石と隕石質量の300倍の粉砕された岩石が世界に飛び散る。

 蒸発してガスとなった岩石には石灰岩や石膏が含まれているために大量の二酸化炭素と二酸化硫黄が発生し、溶けた岩石は地上に落ちて森林火災を誘発して煤を大量に発生させ、砕かれた岩は大きなものは岩の雨となって、小さなものは塵となって大気中に巻き上がる。

 細かな塵や煤は数ヶ月もの間を大気中を漂い、太陽光を遮る。隕石が落ちた直後は地球に降り注ぐ太陽光は通常の100万分の1になると言われるほどだ。そして溶けた岩石から発生した二酸化硫黄は硫酸となって酸性雨として地上に降り注ぎ、または硫酸エアロゾルとなってこれも太陽光を遮る。

 塵や煤、硫酸エアロゾルが原因となって太陽光が遮られた結果、地球は暗闇に閉ざされて寒冷化する。この“衝突の冬”は10年もの間続くとされる。

 そして“衝突の冬”が終わったとしても、今度はうってかわって溶けた岩石から発生した二酸化炭素による地球温暖化が数十万年続くのだ。

 僅かな人類が生き残ったとて、最終的には人類の絶滅は免れないだろう。滅びを避けるにはあまりにも人類は自然から離れ過ぎた。

 

 人類の絶滅を避けるためにも世界は人類史上初めて心の底から一致団結し、隕石衝突を回避する策を出し合うも、アクシズの発見が遅かったことが災いとなり、結局は国連軍によるミサイル攻撃で隕石の軌道変更を試みることしか出来なかった。

 そのミサイル攻撃が功を奏したのか隕石の軌道が徐々にズレ始めたのも束の間、隕石に脆弱な部分があったのかは不明だが隕石が真っ二つに分離。一つは地球から逸れていくも、もう一つは逆に地球への衝突コースへと進み始めた。

 すわ地球のお終いか! と皆が諦めかけたその瞬間、

 

 

『駄目だよ、ちーちゃん! 今計算してみたけどアクシズの後部は地球の引力に引かれて落ちる! 国連軍の頑張り過ぎだ!』

『大丈夫だ、束! たかが石ころ一つ、ISで押し出してやる! “インフィニット・ストラトス”は伊達じゃないっ!』

 

 

 日本より1つの流星が宇宙に向かって飛び上がってアクシズに取り付き、遂にはアクシズを地球との衝突コースから押し出すことに成功した。

 当初は粉砕されて飛び散った細かな隕石の欠片に紛れていたので、千冬姉さんがアクシズの軌道を変更させたというのは国連軍のレーダーで判明することはなかったが、隕石を望遠鏡で観察していた多数のアマチュア天文家によって隕石に取り付いていたのが確認されている。

 最初はそれこそ「メタリックな宇宙人が地球を救った!?」と噂されることもあったが、最終的にアクシズが発見される少し前に日本の女子中学生が発表したインフィニット・ストラトスであることが判明。

 その結果、ISが有名になったんだけど……

 

 

 

 ゴメン。多分、俺が束姉(たばねー)さんと一緒に“アル○ゲドン”見たせいなんだ、コレ。

 

 

 

 見終わったあとに「……なるほどねぇ~♪」と凄く上機嫌になった束姉(たばねー)さんを見た瞬間に俺は自らの失敗を悟ったね。“やっちまった!”って。箒に心配されるぐらいに顔が真っ青になって後悔をしたさ。

 日本の危機から地球の危機へと危険度が爆上げされたよ。千冬姉さんがアクシズを押しているのを他の人とは違った意味で緊張してみていたよ。アレで世界終わってたら、俺が世界を滅ぼしたよーなものだったんだよなぁ。

 あ、この世界にガン○ムはないから。

 

 そうこうしているうちに大量の警備員達がやってきた。他にも昨日までの試合に出場していたような人達が混じっている気がするが、とりあえず彼女達を呼んだのは俺に間違いないのでお辞儀をして挨拶をしておく。

 

 

「一夏、まずは安全な場所に行こう。日本チームの控え室なら大丈夫だろうからそこに行って…………少しばかり話を聞きたいんだが構わないか?

 それといい加減にこの警報を止めてくれ。ずっと頭の中で鳴り響いているのはさすがに辛い」

「大丈夫。ちゃんと全部話すよ。

 警報は…………アレ? 止めるのどうするんだっけ?」

 

 

 マズイ。束姉(たばねー)さんから警報の止め方聞いてないぞ。

 それにお姉さん達にお辞儀したらとんでもないようなもの見る目で見られた。懐に隠したコアに気づかれたっぽい。これはさっさと千冬姉さんと一緒に日本チームの控え室に逃げ込んだ方がいいだろう。この広い場所で注目を浴びるのは良くない。

 事情を説明するのは束姉(たばねー)さんにASを貰うときに一緒に貰った“束姉(たばねー)さんのAS講座”フリップを使えばいい。当時小学生だった俺でもわかるぐらいにわかりやすいものだったし、何よりもアレを見せたらASが束姉(たばねー)さんから貰ったものだって千冬姉さんに簡単に理解してもらえる。

 

 さーて、これから原作よりちょっと早くに物語が始まるぞー。

 

 

「……おい、一夏? お前はいったい何を持っている?」

 

 

 あ、千冬姉さんにも気づかれた!?

 

 

 

 

 

――― 篠ノ之箒 ―――

 

 

 

 今朝起きたらTVのニュース番組が凄いことになっていた。

 

 昨日のドイツ時間15:00、日本時間でいうと23:00からモンド・グロッソの決勝が始まった。私も中継を見ていたけど、やはり千冬さんの勝利で終わった。まあ、これは“そうなるだろうなぁ”と思っていたので、あまり驚かずに“明日のニュースはこれ一色だろうな”と思いつつ就寝した。

 そして朝起きてTVを見たら、騒ぎになっていることは騒ぎになっていたのだが、どうやらよくよく見てみたら違うらしい。何でも

 

 

“織斑千冬の弟が昨日決勝前に誘拐されそうになったが、

 その弟がISを持っていた誘拐犯を“男でも使えるIS”で返り討ちにした。

 しかも持っていたISコアは未登録の468個目”

 

 

 ということが起こったらしい。

 そして現在、もうすぐ日本は朝の8:00。つまりドイツでは深夜の0:00だというのに、これからその“男でも使えるIS”について判明したことの記者会見を始めるようだ。

 TV中継されている記者会見場にはテーブルが一つと椅子が一つ。そしてその隣にIS、ラファール・リヴァイヴという機体が展開された無人状態で佇んでいる。

 

 …………いったい何をやっているんだ、一夏は?

 というか未登録の468個目のコアだということは、明らかに姉さんが関わっているじゃないか。

 

 

 織斑一夏。私の幼馴染。

 いつから友達になったのかは覚えていないが、幼稚園に通っているころからウチの篠ノ之神社の境内で一緒に遊んでいた記憶がある。そして小学校に上がってからは一緒に父さんの道場で剣道を教えてもらっていた。

 一夏は同年代にしてはかなり強く、結局離れ離れになるまで私は一夏に勝ったことはない。剣道だけではなく一夏は頭も良かったので私は勉強も教えてもらっていた。学級委員をしてクラスの皆を纏めたり手品でクラスの皆を沸かせていたり、とても多芸な男の子だ…………っておい、一夏のあの“何もないところから物を取り出す手品”って、もしかしてISの拡張領域(バススロット)を使っていたんじゃないだろうな? クラスの皆で全角度から見てでも手品の種がわからなかったけど、もしかして……。

 まあ、いい。今度の電話で聞いてみよう。

 

 私たちは仲の良かった友達だと思う。

 私の姉さんと一夏の姉さんの千冬さんも親友同士だったし、千冬さんも父さんの道場に通っていたからほぼ家族ぐるみの付き合いだった。さすがに小学生低学年だった一夏では女子とはいえ中学生の千冬さんと同じ稽古はできないので、早めに稽古を終わらせた私たちは千冬さんの稽古が終わるまでの間に私の姉さんと一緒に3人でTVを見るなどしてたから、仲の良かった友達だと思う…………うん、“友達”なんだと思う。“友達”でしかないんだと思う。

 私がクラスの男子に虐められたときも助けてくれたことがあったけど、そのとき一夏は「付き合ってんのかお前らー!」「夫婦(ふーふ)夫婦(ふーふ)!」とか言われても平然と顔色一つ変えなかったから、あくまで“友達”なんだと思う。私は頬が赤くなってたのに。

 …………一夏は他の女の子にも人気があったからなぁ。うぅ……。

 

 そして姉さんのことで私たちは離れ離れになった。私が日本政府の重要人物保護プログラムで転校することになったからだ。

 私があのまま篠ノ之神社にいたら、同じ町に住んでいる人たちに迷惑がかかるかもしれないということはわかっていたので仕方がなかったが、それでも一夏と離れるのは嫌だった。

 いや、それを言うなら引越しするときにリムジンで送られたのとか、姉さんが失踪してから私に護衛がついたのとか、大の大人が私に「戻ってくるようにお姉さんを説得してください!」と頼み込んでくるのも嫌だった。確かに地球を救った上にISのブラックボックスを一手に握っている姉さんが私のことを溺愛しているから、私の機嫌を損ねないようにするのに大変だったのはわかるけど、それでも大の大人のああいうみっともない姿を見たくなかったし、何より偽名で転校した先の学校でまるでVIPのように扱われるのは勘弁して欲しかった。“どこのお嬢様が転校してきたの!?”って感じだったから全然馴染めなかったんだよなぁ。

 というより、今も馴染めていない。電話する相手は遠距離に住んでいる一夏ぐらいしかいない。

 

 父さんと母さんとも離れ離れになり、家に帰ったら政府に雇われた護衛兼家政婦の人によるお嬢様扱い。それまで厳しい父さんに育てられていた私にとってはもう違和感しか感じなかった。何とか政府の人に頼んで自分の手近なことは自分でやらせてもらっているけど、最初は剣道すら“危険だ!”ということで辞めさせられるところだった。

 そんなに姉さんが怖いのか? それもこれも一夏が「箒泣かせたら束姉(たばねー)さん激怒するよ」って政府やIS委員会の人たちに言ったからだ!

 

 ……まあ、そのおかげで今でも一夏や父さん母さんとも電話で話しができるのは嬉しい。

 小学校4年のときに私は転校をしたが、転校する餞別にと一夏はリボンとテレフォンカードをプレゼントしてくれた。テレフォンカードは「寂しかったら学校帰りに公衆電話でも使って電話しろ」ってことだったんだけど、普通に家の電話を使うことが禁止されなかったので少し笑ってしまった。

 一夏は“過剰に準備して結局は使わなかった”ということをよくするんだよな。

 

 いや、素直に一夏の気持ちは嬉しかった。それに加え一夏は写真が趣味だったので、生家を離れた私のことを思って篠ノ之神社の風景写真や一緒に遊んだ町を写真に撮って定期的にブログにアップしてくれている。一夏との電話を含めて、一夏がいなかったら私は参っていたはずだ。

 一夏がプレゼントしてくれたテレフォンカードは今も私の財布の中に大事に入れてある。多分もう使うことはないだろうけど、これからも肌身離さず持っておく。私の宝物。

 

 

 

 そうしているうちにTVの中継先がざわめき始め、カメラのフラッシュが焚かれ始めた。どうやら記者会見が始まるらしい。

 そして記者会見の席に着いたのは日本の学生服を着た男の子……ってアレは一夏じゃないかっ!? 一夏本人が事情説明をするのか!?

 が、学校に行っている場合じゃない! もうすぐ家から出ないと遅刻してしまうけど、今日は自主休校だ。

 

 

「Hello, ladies and gentlemen. Thank you for coming today.

 My name is Ichika Orimura. I begin explanation about IS which is usable to a man from now on.

 Because my English and German is not yet perfect, I illustrate by Japanese.」

 

 

 英語っ!? いや、ドイツでの記者会見だからもしかしてドイツ語か!?

 でも最初に“ハロー”って言ったから、多分英語の方だ!

 

 でもどっちにしろわからん! うう……もっと真面目に英語の授業を受ければよかった。

 

 

「それではここからは日本語を使わせていただきます」

 

 

 結局日本語で説明するのっ!?

 

 

 

 

 







 はい。昔、にじファンとArcadia様の方で“テンプレ通りに進めたい”というの投稿した嘴広鴻です。
 無事に中国出張に逝って帰ってこれたので、新作の投稿を開始します。IS二期も始まりますしね。
 本来なら前作で予告していた“IS少女プリティ☆モッピー”を書くべきだと思ったのですが、あの狂気度は私の技量では上手く書けないので、リハビリを兼ねてこの作品を投稿します。
 というわけで、この作品にしばらくお付き合いください。おそらくアニメ二期と同じところで終わると思います。
 英語はyahooの翻訳に頑張ってもらっただけなので、合っているかどうかはわかりませんがご容赦ください。

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