――― 篠ノ之束 ―――
箒ちゃんといっくんが楽しそうに戦っている。
IS学園の監視カメラにお邪魔して2人の戦いを見ているけど、やっぱり白式の隣に並ぶのは紅椿しかいないね。
それにしてもやっぱり有象無象は駄目だね~。
結局4人合わせても、いっくんのシールドエネルギーを200も減らせなかったよ。
ましてや金髪と水色髪に至っては、いっくんに一撃をすら当てることが出来ない始末。
確かに機体の性能差はあるけど、ここまで弱っちいといっくんの練習台にすらなれやしないじゃん。
あの調子だったら2機どころか4機同時に相手してもいっくんなら勝てるだろうね。
ま、その不甲斐ない有象無象がアッサリと負けたおかげでアリーナの貸し出し時間が余っちゃったから、その後に第4世代IS紅椿のデモンストレーションとして戦うことになったからいいんだけどさ。
何しろあの4連戦の後だから注目度は抜群!
しかも前の4人は2分以上持たせることが出来なかったのに対し、既に箒ちゃんは10分以上いっくんと戦い続けている。
これでいっくんの隣にいるのは誰が相応しいかボンクラでもわかったでしょ。
『クッ!?』
お? またいっくんの刀が箒ちゃんの刀を掻い潜って箒ちゃんの二の腕を掠めた。
やっぱり剣の腕は箒ちゃんよりいっくんが上か。
零落白夜が発動していたようで、絶対防御が発動して見る見るうちに紅椿のシールドエネルギーが減っていく。
だけど紅椿の
『まだだっ!』
紅椿の展開装甲から黄金の粒子が放出される。
黄金の光に包まれた紅椿は残ったシールドエネルギーを増幅させ、見る見るうちに紅椿のシールドエネルギーが回復していく。
これが紅椿の
白式の一対零のエネルギー消滅能力である零落白夜に対して、紅椿のは一対百のエネルギー増幅能力である絢爛舞踏。
さすがに零落白夜を胴体や頭部に直撃で受けて、シールドエネルギーを一瞬でゼロにされたら絢爛舞踏でも打つ手はないけど、腕を掠めたぐらいなら一度ではゼロにはならない。
箒ちゃんはなるべく大きくシールドエネルギーを減らされる正中線を庇いながら、真っ正面からいっくんと戦い続けている。
白式・ベルセルクル相手に遠距離型ISは不利だ。
遠距離型は如何に相手を近寄らせずに間合いを保ちながら攻撃をし続けるのが肝心だけど、あいにく白式・ベルセルクルは超高機動型とも呼べるIS。
白式単体だけでも機動力で勝るのは第4世代の紅椿ぐらいの高機動型だったんだけど、更にベルセルクルによって大型スラスター4基と小型スラスター4基が増設されている。
なまじのISだったら、あの金髪と水色髪みたく
遠距離型は接近戦が不得意だからねぇ。
いっくんの得意技で、技と言えないぐらいに単純だけど、単純が故に極まったら対応策は少ない。
伊達にいっくんもこれを集中して練習していたわけじゃないね。
これなら遠距離型より近距離型の方がまだ戦える。
現に前の4人の中では中華娘が一番粘ったけど、それは今の箒ちゃんみたく近距離を維持して
最後には結局、雪片弐型(改)を往なせなくなって零落白夜を喰らったけどね。
いっくんの近距離戦闘はちーちゃん仕込みだから、もう既に国家代表級だからねぇ。
そのせいかラファール・リヴァイヴ使っていたときでも、銃火器みたいな遠距離武器は
遠距離で仕掛けたら
近距離で仕掛けたら零落白夜で斬られる。
白式・ベルセルクルを相手にするのなら、超強力な遠距離攻撃の一撃で落とすか、もしくはちーちゃんのように近距離戦闘技術で圧倒するしかない。
でも近距離でいっくんに勝つには剣道で例えると10本……いや、30本勝負で全勝するしかない。30本中に一度でも一本を取られたら負け。
いやー、いっくんも変なこと考えつくねー。
まあ、私の設計した白式に余計なものが付いちゃったのはアレだけど、ぶっちゃけベルセルクルって
白式にかけられてる
何よりいっくんが頑張って考えたものだから、お姉ちゃんとしていっくんの頑張り認めてあげなくちゃ。
それにいっくんがリクエストしてきた
実を言うと、AS使わなくてもシールドエネルギー最大値を100ぐらいまで減らして
その場合は30本じゃなくて2本先取で勝ちになるけど、金髪と水色髪みたく一撃も当てること出来なかったらどうしようもないよね。
いっくんは当たらなければどうということはない!
箒ちゃんは当たってもどうということはない!
いっくんと箒ちゃんは仲が良いねぇ!
箒ちゃんが初めて絢爛舞踏を発動出来た日、箒ちゃんから電話があってこう言われたんだよ。
『ありがとう、姉さん!
これで私も一夏と戦える!』
うんうん! 箒ちゃんが喜んでくれて何よりだよ。
あんなに喜んでくれたらお姉ちゃん冥利に尽きるってものだよ。
私が考えていた絢爛舞踏の使い方と違うけどねっ!!
……違うんだよ、箒ちゃん。
確かにいっくんと戦うために紅椿を、絢爛舞踏をプレゼントしたんだけど、いっくんと戦うためっていうのはいっくんを相手に戦うためじゃないんだよ。
いっくんと一緒に戦うためなんだよ。
いっくんの隣に立って戦うための絢爛舞踏であり紅椿だったんだよ! “一緒に”が抜けてるよ。
望んでいたのは「お前と一緒なら」「どんな相手だって勝てるさ!」みたいなキャッキャウフフ出来るパートナー関係であって、決して「やるな」「へっ、お前こそな」みたいなライバル関係じゃなかったんだよ。
……うわー、ミスったかなぁ。
箒ちゃんのいっくんに対するライバル意識を甘く見てたみたい。
もう箒ちゃんも大人だから、いっくんに甘えてばかりというのは望まないのかぁ。
しかも箒ちゃんはいっくん以外とISの模擬戦するの苦手だからねぇ。
それで余計にいっくんと戦うのが嬉しいんだろうねぇ。
何しろ絢爛舞踏発動させたら、零落白夜みたいに一撃でシールドエネルギーをゼロにしないと延々とシールドエネルギーを回復し続けちゃう。
フランスの金髪と何度か模擬戦やったみたいだけど、ラファールの全武装を使い切っても紅椿のシールドエネルギーはゼロに出来なかったし。
絢爛舞踏発動させて相手が疲れきるまで待ってればいいだなんて、さすがにあんな弱い者虐めみたいじゃもうやりたくなくなっちゃうよねぇ。
まあ、そのおかげでいっくんと模擬戦をやるのが余計に楽しくなったみたいだから、私としては別に良いけどさ。
…………でも2人とも楽しそうだなー。
というか、箒ちゃんとちーちゃんといっくんの3人で一緒に暮らしてたなんて羨ましいなー。
私も一緒に暮らしたかったなー。
今でもIS学園で3人一緒にいるのに、私だけが1人ぼっちだし。
そりゃあ私にはくーちゃんだっているけど、それでも昔みたいに私たち姉妹とちーちゃんたち姉弟で一緒にいたいなぁー。
……。
…………。
………………よし! 私も混ざろう!
箒ちゃんの天使のような純粋さに気後れして家出した私だけど、考えてみたらそろそろ戻ってもいい頃だよね!
あれから時間も経って、電話で箒ちゃんと話してもギクシャクすることなんてなくなったし。
……あー、でも箒ちゃんの新しい武装の開発しなきゃいけないから、まずはそれを終わらせなきゃいけないか。
雨月と空裂が紅椿の標準装備だけど、いっくん相手じゃ慣れない二刀流では勝ち目がないからって、今では通常の近接ブレード使っちゃってるしねー。
いっくん相手に距離を取るのも自殺行為だということで、遠距離用のエネルギー刃放出は使っていないから無用の長物みたいだし。
いくら絢爛舞踏が紅椿の最大の売りだとはいえ、使う武装が打鉄の近接ブレードってのは格好がつかないから、なーんか良いの考えてあげなくちゃ。
それにいきなり私が乗り込んだら有象無象どもが群がってきてメンドイことになるから、とりあえず以前に開発した無人機でも送り込んでワンクッション置いてみようかな。
騒ぎを起こしてちーちゃんに怒られるのも嫌だし、いきなりくーちゃんを連れ帰って箒ちゃんに姪っ子として紹介するわけにもいかないもんね。
まずは電話だけじゃなくて、他の手段で箒ちゃんたちにコンタクトをとってみよう。
確か再来週にIS学園のクラス代表選があったから、そのときに合わせて無人機を送り込もっかな。
それとちーちゃんに怒られないために、昔いっくんが出したアイディアを実現した機体にして、ちーちゃん相手にも言い訳をつけるようにしないといけないねー。
再来週までに改造を間に合わせなきゃ。
よーし、箒ちゃんに久しぶりに会えるかもしれないって思うと漲ってきた!
どうせなら無人機の改造も思いっきりやっちゃおうかな。どうせいっくんなら多少の無茶は何とかなるでしょ!
――― 織斑一夏 ―――
……何か寒気がしたんだけど、
それともヒートアップしているあっち側かな?
「なーんか見てたら私もやりたくなっちゃったなぁ。
ねえ、箒。明日、2人で一夏に挑まない?」
「そうだな。結局、今日も1人じゃ勝てなかったし、たまにはそれもいいかな」
「何を弱気なことを言っているのだ、箒!
私は1人で嫁に勝つまで諦めないぞ!」
「私だって諦めないわ!
千冬さんはあの一夏に勝ったっていうし、何か勝つ方法はあるはずなのよ!」
「グギギ……この私が何も出来ないまま終わったなんて……」
「とりあえず山嵐はすべて爆薬弾頭というのは止めよう。
榴弾やフレシェット弾を混ぜて超高機動であろうと避けられないようにして……」
ハハハ、モテる男はつらいなぁ。6人もの女性が俺のことを狙っているなんて。
しかも箒とシャルロットに至っては俺1人に2人がかりで挑もうとするんだから、男冥利に尽きるってもんだな。
これじゃあ弾が言ってたみたいに本当にハーレムを築けそうだよ。
色気もへったくれもないハーレムをな!
「つーか、何で皆して俺の部屋に集まるんだ?
そろそろ風呂に入って寝たいんだが。さすがに五連戦は疲れたんだぞ」
「ああ、私はデュノア社に提出する報告書が出来たから、一夏にも一言書き加えてもらおうと思って。
第一報はもう送ったから、一夏の分は明日の夜までぐらいに作成してくれればいいよ。はい、コレ。
それに明日のクラス代表就任パーティーの前にある程度は発散させておいた方が良いんじゃない? 下手したらパーティー中でもずっとこうだよ?」
「私は一夏にマッサージでもしてもらおうと思ってな。
負けたとはいえ、私は一夏のシールドエネルギーを400以上減らせたんだ。
シールドエネルギーダメージボーダーラインの100の4倍以上だぞ。それならマッサージのご褒美ぐらいあっていいじゃないか」
そりゃ計算上、ISコア1つでベルセルクルと同等の装備を追加しようと思ったら、シールドエネルギー最大値を100まで減らさないといけないからな。
公平な条件で行うなら、俺はシールドエネルギーを100減らされたら負けになるということだ。
しかもそうなったらスラスターエネルギーとかの関係上、継戦可能時間はウルト○マンより短いし。
でも箒、今日の対紅椿戦で俺がお前に与えたシールドエネルギーダメージは、詳しくは覚えてないけど軽く5000は超えてるぞ。普通のISのシールドエネルギーの10倍ぐらいだぞ、オイ。
それに減った400のうちのほとんどは零落白夜発動のための消費だぞ。
ったく、ダメージ与える度にギュンギュンギュンギュン回復しやがって。しかも手足の末端は捨てるけど、正中線はしっかり守って一撃死を防ぐし。
俺の零落白夜も大概だけど、お前の絢爛舞踏の方が一般ISに対しては酷いと思うぞ。
毎ターンHP完全回復って、本気で零落白夜持ちじゃないと勝てないと思うんだが。
「な、何よそれ!?
はい! だったら私も一夏のシールドエネルギーを103減らしたからマッサージ!」
「ぐっ!? わ、私は68……。
だけど最初の私の戦いを見たからこそ鈴は対策を立てられたのだろう! だったら鈴は私にその権利を譲るべきだ!」
「皮肉ですか!? 一撃も当てることの出来なかった私への皮肉ですか、皆さん!
どうせ私と簪さんは零落白夜発動に消費した5だけですわよ!」
「あー、セシリアや簪との戦いは酷かったからね。
何しろブルー・ティアーズの展開やミサイルの発射が完了する前に
「仕方がないだろ。
俺は近接攻撃オンリーなんだから、近寄って斬るしか攻撃方法はないんだし」
「まさか一撃必殺攻撃を持った超高機動型があんなに厄介だったなんて思わなかった。接近戦型に対して接近戦で相対しなきゃいけなくなるなんて……。
織斑先生とか姉さ……変態はいったいどうやって一夏と戦ったの? 織斑先生には負けて、変態とは引き分けたんでしょう?」
わざわざ変態と言い直した!?
……更識会長(水着エプロン先輩とかで呼ぶと殴られる)について余計なこと言っちゃったかなぁ。
それと簪とセシリアのことも名前で呼ぶことになった。
だけど『あ、貴方には名前で呼んでほしいな』とかじゃなくて、『私の名前を覚えておけ! アンタは私が倒すんだからな!』って感じなのは何故だろうか?
まあ、それはそれとして、入学試験で千冬姉さんと戦ったときは、初撃の打ち合いで雪片弐型(改)の零落白夜展開口を潰されたんだよ。それでもう零落白夜が使えなくなった。
インコムアンカーは避けられた後にワイヤーぶった切られて使えなくなるし、
だからその後はもう、ひたすら近接ブレードでの立ち合いだ。
2時間ぐらい粘ったんだけど、結局千冬姉さんに一撃も当てることが出来ないで終わったよ。
まあ、試験が終わった後に、
『最後まで諦めない根性と、恐怖をこらえて踏み出す勇気だけはもう一人前だな』
って褒められたから悪くはなかったけどさ。
「ちなみに私は、一夏と同じく近接ブレードでの斬り合いになって順調に絢爛舞踏で回復し続けてたら、頭に一撃を喰らって気絶して終わった。
どうやって千冬さんがシールドバリアーと絶対防御を抜いたのかは未だにわからん」
「ああ、そういえば俺のときも、インコムアンカーのワイヤーにはシールドバリアーが張り巡らせてたはずなのにぶった切られたな」
「……何それ?」
「え? 織斑先生って入学試験のときは打鉄装備だったんですわよね?」
「さ、さすがは教官。第2世代量産機でAISと第4世代に勝つとは……」
「いや、千冬さん相手に2時間粘れる一夏も充分凄いでしょ。
いくらシールドエネルギーが2500あったとしても、私にはそんな自信ないわ」
「それに初撃で零落白夜を使用不可能にされたってことは、織斑先生も一夏には警戒してたってことだよね。
例え一撃必殺攻撃を持っていてもそれが素人相手だったら、織斑先生なら武器破壊したりせずにそのまま完璧に抑え込んで勝つだろうし」
せめてIS学園にいる間に千冬姉さんに一撃を与えられるようになりたいんだが、モンド・グロッソを無傷で二連覇した千冬姉さんには難しいかなぁ。
それと更識会長を相手にしたときは、旧型のベルセルクルを増設したばっかりで上手に動かせられなかったからな。
確か5、6回は
戦いとしては、主に蒼流旋と雪片弐型での戦いにだった。
最初は蒼流旋の槍と積んでるガトリングガンで良い様にやられっぱなしになったし、零落白夜が全然当たらなかったけどな。
だって零落白夜モードにしたら逃げるんだもん、あの人。
逃げて、俺が追いかけたら進路上に仕掛けた置き
でもガトリングガンの弾が切れて、俺も零落白夜を当てるのは諦めて実体刃でやると決めてからは、もう槍と刀の泥臭い斬り合いと突き合いだ。
何回か
まあ、その当時でさえ引き分けに持ち込めることが出来たんだから、今やったら多分勝てると思うぞ。
今なら雪片弐型も雪片弐型(改)になってるから零落白夜も当てられるかもしれんし、インコムアンカーも追加したからな。
とはいえ、あの人のことだから、まだ切り札か隠し札か伏せ札のいずれかは持っていると思うけど。
「当てにならんな」
「そうですわね。今とは条件が違いすぎますわ」
「あの変態……こんなときに役に立たない」
「かといって、千冬さんの真似は出来そうにないし……」
「デュノア社としては複数機相手の戦いをして、AISにはISコア2つを使用する価値があるということを証明してほしいんだけどね。
でも一夏のあの機動力だったら、複数機相手でも強引に1対1に持ち込めるのが困りものなんだよ」
「確かに白式・ベルセルクルなら、明日、キャノンボール・ファストに出場したとしても良い成績を残せるだろうからなぁ。
シールドエネルギーやスラスターエネルギーをほぼ無尽蔵に使えるようなも『ピーッ! ピーッ! ピーッ!』……ん? 一夏、何か鳴ってるぞ?」
「ああ、風呂のお湯が溜まったんだろ。
箒、悪いけど水道止めてきてくれるか」
「わかった」
「え、何? 一夏の部屋のお風呂には湯船がついているの?」
「おう。それにトイレだってあるぞ」
「あら、それは羨ましいですわ。
私たちの部屋にはシャワーしかありませんし、トイレも廊下のものを使用しなければいけませんのに」
入学するまでに1年以上の余裕があったからな。
さすがに男1人ということで、その位の配慮はしてもらえるさ。
俺としても風呂・トイレ付きが良かったし、何だったら俺が工事費用持ってもいいとは言ったんだけど、学園持ちで工事をしてくれたみたいだ。
なお、善意の寄付金をくれた企業には感謝してます。
……そういえば、俺が個室になったからには1人余っているよな。1学年8クラス30名、合計240人だから。
誰かボッチになっているんだろうか?
それとも上級生と同じ部屋か? 退学者とかがいないわけじゃないだろうし。
「止めておいたぞ、一夏。
それにしても洗面所に洗濯機まで置いてあるんだな」
「え、何々? ……うわ、凄いじゃん!
浴室はユニットバスだけどちゃんとした浴槽もあって、洗面所には乾燥機付き洗濯機。
トイレはこっちのドアかしら?」
勝手に探検しに行くな、鈴。
「一部屋の広さが他の部屋と一緒だからな。もう1人分のベッドとかクローゼットみたいな不必要なものを除けば、トイレや浴槽を増やすスペースぐらい出来る。
それに男女の変な間違いが起こったら困るんだから、俺がこの部屋だけで生活出来るようにはするだろうさ」
「男1人というのは大変。
でもいいな。私は個人で持ってきたキーボードとかの私物がたくさんあるから、部屋が広いのは羨ましい」
「しかしこの部屋は随分と殺風景じゃないか?
一緒に住んでいたときから思っていたが、一夏には植物を飾るとかの潤いがないぞ」
「でも元々寮の部屋って殺風景じゃない?
窓はこの部屋みたくカーテンじゃなくてブラインドだし、もうちょっと女の子が住むことを考えて作ってほしかったなぁ」
「そういうときは部屋を自分の好みに入れ替えればよいのですわ、シャルロットさん!
私の部屋は既にベッドから照明、壁紙に至るまで特注品に入れ替えていますもの、オホホホホ!」
「……セシリアのルームメイトが可哀想だな」
植物の鉢とか置いても水遣りが面倒だからな。それに虫が湧いたりすることもあるから好みじゃないんだ。
造花とかならまだ置いてもいいかな。
というか、なして「私だったらこうする」って俺の部屋を改造計画のようなものを話しているんだ?
あまり勝手なことはしないでくれよ。これからも俺の部屋に入り浸る気か?
でも椅子はもう少し増やしておいたほうがいいか。
7人もこの部屋にいるから俺がデスクの椅子に座って、女性陣はベッドの上に座っているし、鈴とラウラに至っては窓際のチェストの上に座っている。
さすがにこれでは狭苦しいだろう。
4人分ぐらいの椅子とテーブルぐらいは用意しておくか。どうせ部屋のスペースはまだ余っているし。
「ま、俺の部屋についてはそのぐらいでいいだろう。
モ○クマについても頑張って対策を考えてくれ」
「○ノ、クマ? ……あっ! ああ、ウン。そうだな」
おい、そんなに俺のネーミングセンスは変か?
いいよ、なら今度から白式・ベルセルクルって呼ぶから。
「それとシャルロットが言っていたことじゃないけど、AISについて何か言いたいことがあったら今のうちに言っておいてくれ。
別に後悔していないし反省もしていない。それに謝る気もないけど、文句があるなら明日のパーティーの前までにな。
それともし俺に負けたことで国から文句とかつけられたら言ってくれ。そういうことに関してならフォローするから」
「いや、それは……“ズルい”と思わないでもないがなぁ……」
「でもISの技術発展という意味では文句のつけようがない」
「国としてもこれには文句はつけれないんじゃない? 下手しなくても国家代表ですら勝てないわよ」
「とりあえず溜まった鬱憤は、そのうち一夏さんの顔面にレーザーライフルをぶち込むことで解消させて頂きますわ」
やだ。セシリアったら惚れちゃいそうなぐらいの良い笑顔してる。
こりゃしばらく模擬戦三昧になりそうだわ。
まあ、懸念していた一番プライドの高そうなセシリアが平気そうな感じ…………平気? いや、平気というか納得してくれている感じだから問題はないみたいだな。
それにそれぞれの国も、AISに負けたことに関しては文句つけては来ないだろう。
IS学園規定の情報公開についても問題ない。
AISは別に技術的には特殊な装備というわけではないから、技術漏洩に神経をとがらせる必要はないだろう。
ただ他の国や企業では、ISコアがもったいなくて研究に二の足を踏むだけの代物だ。
だけど将来的なことを考えたら研究をしなきゃいけないだろうし、せめてどういうものかだけでも調査するだろう。
だから俺がIS学園においてベルセルクルを使わないときに貸し出すという、情報公開同然のものをする誘惑には勝てまい。
貸し出しに関しては、デュノア社のIS学園担当代理人となっているシャルロットに申し込みをして、シャルロットを通して俺の許可を出すという形式だ。
秘書として貸し出されているシャルロットを信頼して、という理由でシャルロットに管理をお願いしているが、これならシャルロットはデュノア社において一定の権力を保持し続けるだろうから、シャルロットの将来的にも安全だろう。
何だか義母とは親父さんディスる過程で少しは仲良くなったらしいけど、それでもシャルロットの力を強めることは悪くないはずだ。
それと親父さんがシャルロット義母娘にディスられる代わりに、俺が親父さんと少し仲良くなったわ。
『私に直接連絡するなんて何かあったのかね、一夏君?』
『いや、提供してもらっているデュノア社製ISスーツについて、ちょっとお願いが……』
『? それこそシャルロットを通せばいいじゃないか?』
『ファウルカップに対応したISスーツください。女子だらけのIS学園に行く前に』
『…………ああ、成程。それは確かにシャルロットには言いづらいだろうな。
わかった。至急速やかに手配させよう』
『感謝します』
『……君も大変だなぁ』
って感じで。うん、何か親父さんとは分かり合えた気がする。
……いくら紳士的に振る舞ってても、俺だって性欲ぐらいはあるんだよ!
ファウルカップで股間が全体的に膨らんで見えたとしても、
まあ、デュノア社とは良い関係が築けていると思う。
それにベルセルクルの貸し出しには俺の許可が絶対必要だから、俺が強い影響力も持っているのでワガママも通しやすいしな。
何しろ元AS、現ベルセルクルに使っているISコアは俺の私物扱いだ。
白式を貸与されたときに没収案もIS委員会で出たらしいが、
ISは展開していなければシールドバリアーや絶対防御は使用出来ないので、ASがなくなったら俺の危険度はググッと跳ね上がる。
常にシールドバリアーと絶対防御を展開しているASがなかったら、テロリストが撃った1発の銃弾で俺はアッサリと死ぬだろう。狂信的な女尊男卑主義者にとっては国際情勢なんか関係ないもんな。
それに加えてISコアを没収したとしても、コアの帰属先にまた揉めることになったはずだ。
もしそうなったら「帰属先はIS学園でよくね?」と、影響力のある俺が予め言ったことで、どの国もコアの所有権を強硬に主張しなくなった。
IS学園所属にするのは、どこか一国の所属にするより現実的だ。
所有権を得るために各国が争うこともなく、各国のパワーバランスが崩れることもない。
喜ぶのは使える量産機が増えるIS学園の生徒たちだけで、不満なのはコアを手に入れられなかった全ての国。
ただし不満があるといっても小さいもので、どの国としても『仮想敵国が持つ可能性がある案より100倍マシ』なのでコアを没収した後の帰属先はIS学園となった。
まあ、結局は俺の護身を考えて、俺の所有が認められたけどな。
量産機が増えてIS学園の生徒たちが喜ぶよりも、自国の馬鹿が俺を襲って取り返しのつかないことになるのをどの国も恐れた結果だろう。
どこの国にもそういう馬鹿はいる。
実際、女尊男卑主義者によって不幸の手紙が送り付けられたり、生卵をぶつけられそうになったこともある。
その後の対処は更識の皆さんに任せたので、下手人がどうなったかは知らないが。
ま、そんなことがあったので、デュノア社も大抵の俺のワガママは聞いてくれる。
そしてワガママを聞いてくれるなら、俺としてもデュノア社の力になりたいとも思う。
ちなみにベルセルクルは元ASの機能を損なっていない。
ASの能力は護身のための周囲のISに発する警報とシールドバリアーと絶対防御、それと少しばかりの
ベルセルクルは、その9割以上をシールドバリアーに注ぎ込んでいた
別にスラスターやアンカーを出してなくてもシールドバリアーなどは常に展開しているので、白式を展開するまでの時間的余裕は十二分にある。
白式を展開していないときに俺が襲われたとしても、すぐさま白式を展開するのと同時に援軍も到着する手筈になっている。
これなら今のところは“
ISコアであるということさえ除けば、ベルセルクルは是が非でも欲しい技術ではない。
強奪という他国を敵に回す恐れがある方法を取るぐらいなら、IS学園に在籍している生徒に命じて情報を貰った方が良いと考えるはず。
もちろん日々の警戒は怠らないけどさ。
「ホレ、俺はもう風呂入って寝るから帰れ。
それに消灯時間までもう少しだぞ」
「ム? マッサージの時間はないか」
「そうだね、そろそろ皆、自分たちの部屋に戻ろうか」
「対一夏について話し過ぎちゃったみたいわね」
「あのスピードを何とかしないといけないということはわかっているのですけど……」
「AICで本体の動きを止め、アンカーさえ凌げば何とか……」
「それかいっそのこと、空間全てを薙ぎ払って回避する余裕をなくせば……」
俺の目の前で俺の物理的攻略法を相談すんなや。
どうせなら色気的攻略法でも相談してくれ。
もうさっさと帰れ帰れ。
俺はこれから風呂入って二日分の洗濯して…………洗濯はもう夜だから隣部屋の人の騒音になるかな?
二日分の洗濯つっても普段着るのは制服なんだから、洗濯するのは下着類とタオル類ぐらいだしな。制服はクリーニングに出すし。
これぐらいなら明日の朝にするか。
明日の朝練を終えてシャワーを浴びた後に洗濯しよう。確かあの洗濯機は予約機能ついていたよな。
登校する前に洗濯物を洗濯機に放り込んでおいて、放課後に部屋に戻ってくる時間ぐらいに洗濯が終了するような予約設定しておけばいいか。
……そういえば洗濯機に乾燥機はついているけど、ベランダに物干し竿とかあったかな?
アメリカとかではベランダとか他人から見える場所で干すのは貧乏人のすることだと言われているけど、俺的には洗濯物はやはり日光に当てて乾かし…………あれ? ベランダに干しても女子に盗まれたりしないよね?
箒や鈴がそんなことをするとは思えないが、ラウラがクラリッサさんに変なことを吹き込まれていたらあり得る。
というか俺以外は全員女子なんだから、当たり前のことだがベランダに下着を干したりしたら、それは女子に見られるってことだよな?
…………とりあえず、ベランダに物干し竿があるかどうかだけでも確認するか。
昨日は更識会長のせいで身の回りの片づけはろくに出来なかったし。
「……簪ちゃんが私のことを変態って呼んだ……」
「うおおぉぅっっっ!?!?」
ビックリしたぁっ!?
更識会長ぉっ!? ベランダで何してるんですか、アンタ!?
カーテン開けたらベランダにいたからガチでビビったわ!
「ど、どうやって入ったんですか?」
「……一夏君から貰った合鍵で。
簪ちゃんのことについて話をしようと思って部屋で待ってたら、あの子たちを引き連れて帰ってきたからベランダに……」
あ、そういえば更識会長には合鍵渡してたな。
っていうか、いくらカーテンかかった窓越しのベランダにいたとはいえ、訓練を受けているラウラや簪に気付かれない更識会長マジパネェっす。
俺の部屋の合鍵は千冬姉さんと箒、そして更識会長に渡してある。
千冬姉さんと箒は家族だし、更識会長についてはどうせこの人が本気になったら合鍵くらい手に入れられると思ったからだ。
それなら予め渡しておいて、信頼しているということを態度に現した方が今後のためになると考えた。
ちなみに千冬姉さんに渡したとき、代わりに千冬姉さんの寮長室の合鍵を貰った。
定期的に掃除をしろとのことだった。あのグータラ姉が。
教師としての守秘義務は良いのかともちゃんと聞いたんだけど、『お前はそんなことしないだろう』という信頼のお言葉を頂戴してしまった。
そんな信頼いらねーよ。今まで真面目にやってきたツケが回ってきたのかよ。
しかも極秘書類などは最初から金庫に入れてあるから安心らしい。……昔に俺がしたアドバイス通りに。
くそっ、千冬姉さんに余計な知恵つけちまった。
千冬姉さんの部屋を掃除するときに大事なものはちゃんと別にしておけと、口を酸っぱくして言ってたのが裏目に出た。
…………あれ? そういえば更識会長が俺たちが帰ってくる前からいたってことは、まだ夜になったら肌寒いこの季節で2時間近く外にいたってこと?
心なしか元から白い肌がもっと白く見えるような……。
ハァ、そこまで簪のことを気にしてたんかい。
だったら簪に知られたら気まずくなることをすんなよとは思うが、涙目になりながらブツブツ何か呟いている今の更識会長にそんなこと言えない。
本気で悪いことしちゃったかなぁ?
裸エプロン先輩がマジでヤバい状況になってきました。
だけどそれ以上に箒がチートになっている気がしますな。
一夏への良い意味でのライバル心によって覚醒したみたいです。
毎ターンHP完全回復とか零落白夜以上に反則過ぎた気がする。でも絢爛舞踏ってこういうこと出来ちゃいますよねぇ。
ちなみに一夏が束にリクエストした“ぼくのかんがえたさいきょうの
これなら