AS オートマティック・ストラトス   作:嘴広鴻

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第12話 クラス対抗戦最後の日

 

 

 

――― 凰鈴音 ―――

 

 

 

『くそっ、戦い辛い!』

『ハッハァッ、いっくん対策はちゃんと考えてあるよ!』

 

 

 意外や意外。一夏が予想外の苦戦を強いられている。

 

 私たち待機組の待機は解除された。

 襲来者が篠ノ之博士だということが確認されたし、その篠ノ之博士の目的もテロではないことがわかったからだ。

 なのでISも解除して皆で一夏とゴーレムⅡの試合を見ているのだけれど、なかなか面白い戦いだわ。

 

 篠ノ之博士は一夏のことをよくわかっている。

 それ以前に白式を設計したのは篠ノ之博士ってことだから、白式に対してどう戦えばいいかよくわかっているみたい。いくらベルセルクルが増設されていても、基本の白式は変わらないからね。

 篠ノ之博士が一夏のもう一人の姉ということは伊達じゃないわねぇ。

 

 

 それにしても篠ノ之博士の目的がテロではないとはいえ、篠ノ之博士また凄いこと仕出かしたわね。

 

 ドリルで土中を掘って進む技術と無人IS。

 まあ、前者は確かにテロに使用されたら厄介だけど、対策方法が既にあるということなら大丈夫でしょ。

 それに後者についてはアメリカが無人機の開発を進めているってラウラが言ってたし、何よりそれ以前に箒の紅椿という第4世代のISを出したのに比べたら、そんなに驚くことじゃないと思っちゃうのよね。

 一夏の言う通り、ISの開発者である篠ノ之博士が世界より一歩進んでいるのは当然のことなんでしょうし。

 

 それでも重大なことには変わらない。

 来賓たちは目立つ来賓席にいるにも関わらず、携帯電話で何処かに電話をかけている人もいる。

 私も今日中に国へ連絡しなきゃいけないわね。

 

 けど最後には“篠ノ之博士だから”で受け入れられそうよね。

 

 

『私のドリルが回って唸るゥ! いっくんを倒せと震え叫ぶゥ!

 必殺! ドリィーールパンチ!』

『ドリル怖ェエエェーーー!』

 

 

 篠ノ之博士の叫びとともに、ゴーレムⅡの左手のドリルがロケットパンチのように飛び出した。

 

 うん、確かにドリルが迫ってくるのは怖いわ。ギュインギュイン唸ってるし、何というか見た目からして圧迫感があるのよ。

 私の双天牙月や一夏の雪片弐型(改)みたいな触れる場所を間違わなければ怪我をしない武器と違って、高速で回転しているから触っただけで怪我しそうなのよ。

 だからなのか、さすがの一夏もドリルに向かって突撃するのは躊躇っちゃうみたい。あと歯医者とか思い出しちゃうのも理由かしらね。

 

 

「まあ、無理もありませんわね。

 アレは確かに怖そうですわ」

「……なるほど、ドリルか」

「真似しちゃ駄目だぞ、ラウラ」

「これなら一夏から提案があった旋空剣をもっと検討しておけばよかったかなぁ」

「圧迫感もそうだけど、雪片で打ち合えないのも不利」

 

 

 その通りね。雪片とドリルが打ち合ったら、ドリルの回転で雪片が明後日の方向に弾かれちゃうみたいなのよ。そのせいでバランスを崩してしまって一撃を喰らっちゃったし。

 しかもドリルと打ち合ったら雪片が破損しちゃうから、切り札の零落白夜を使えなくなっちゃうかもしれない。それを恐れてか、一夏も攻めあぐねちゃっている。

 

 

『ハァッ!』

『にゅっふっふ、甘~い』

『……チィッ! また地中に!』

 

 

 それと厄介なのは、ゴーレムⅡが地中に逃げること。

 どうやら事前にアリーナの下に多くのトンネルを作っておいたらしく、あっという間にアリーナに20カ所以上の穴が開いて、その穴のどれかから上半身だけを出してドリルパンチみたいな遠距離攻撃をして直ぐに地中に避難する戦い方をしている。

 篠ノ之博士の声がする方向を頼りにしようとしても、ゴーレムⅡからではなくてアリーナ中のスピーカーから声を出しているので当てにならない。……というかゲッ○ーⅡって目から○ッタービーム出せるのね。

 それにしても超高機動型の白式・ベルセルクル相手だったらAICで壁を作るぐらいしか逃げる方法はないと思っていたけど、地中に逃げるというのは盲点だったわ。

 

 白式・ベルセルクルの唯一の装備である雪片弐型(改)では地中にいる敵にはどう頑張っても攻撃は出来ない。顔を出した瞬間に斬りかかろうとしても、攻撃を仕掛けたらすぐに逃げるから捕まえられない。

 いくら超高機動型といっても20ヶ所以上ある穴からランダムに出てくる敵を、しかも攻撃もしてくるからその攻撃を躱した上で斬りかかるのは難しい。

 遠距離攻撃があるならそうはいかないでしょうけど、一夏相手には有効だわ。

 

 あのゴーレムⅡ相手ならブルー・ティアーズを持っているセシリアか、山嵐を持っている簪が相性良いのかしら。どちらも複数の地点を狙えるし。

 次に私と箒、シャルロットね。射撃専門というわけじゃないし、面制圧できるほどの火力はないから辛いけど。

 けどラウラのレールカノン一門というのも辛いわね。一夏よりマシとはいえ、ラウラも相性悪そうだわ。

 

 まあ、このモグラ叩きに一番相性悪いのは一夏だけどね。

 斬りかかるだけじゃなく、インコムアンカーを離れた場所において、ゴーレムⅡが顔を出したら動かして攻撃させようともしたけど、インコムアンカーでも間に合わない。

 アンカーはいくら音速を越えているといっても、銃弾より遅いぐらいのスピードしか出ないもの。アンカーは重量があって威力があるから仕方がないけどさ。

 

 

『どうする~? このままじゃ時間切れだよ~?』

『ええいっ、ゴーレムⅡは何個ISコアを使っているのさ!?』

『フハハハハハ、3つに決まっているじゃん!』

 

 

 ゴーレムⅡの残りシールドエネルギー量は3000。一夏はまだ一撃も当てられていない。

 一夏の残りシールドエネルギー量は2100。最初に不意打ちを喰らった上に、慣れない攻撃方法に戸惑ってしまったのか試合の初めの方は良い様にやられていた。

 時間が経って慣れてきてからは一撃も当てられてはいないけど、それでもダメージを与えられた上に元の絶対値がゴーレムⅡの方が多いので、確かにこのままじゃ一夏の負けとなる。

 

 ……私たち以外の誰かに一夏が負けるのは悔しい感じもするけど、それ以上に一夏(アンタ)の相手をしていた私たちの気持ちがわかったか! って気持ちの方が大きいなぁ。

 頑張れ、篠ノ之博士!

 

 

 あら? 一夏が上空へと上がっていったわ。

 一度仕切り直しする気かしら? あそこまで上空に上がったら、ゴーレムⅡの攻撃は余裕をもって回避出来るし。

 

 

『フゥゥゥーーー……』

 

 

 一夏の深呼吸。やっぱり仕切り直しか。あのまま地上で戦っていても良い様に手玉に取られるだけだもの。

 あそこまで上空に上がれば、ゴーレムⅡの遠距離攻撃は余裕をもって躱せる。それにもし攻撃が届かないことに焦れて篠ノ之博士がゴーレムⅡを地上に上げたらそこを狙って攻撃出来るけど…………ま、そこまでは無理でしょうね。

 

 

『いっくーーーん、まだーーー?

 私は外に出たりしないよーーー?』

『……ちょっと待って。今、気を落ち着けているから』

 

 

 アララ、やっぱり。篠ノ之博士だってわざわざ有利な状況を手放したりしないか。

 それにしても一夏はどうするつもりなのかしらね? 篠ノ之博士から話しかけられても生返事しかしていない。どうやって戦うかを考えているのかしら?

 

 

『……なるほど。確かにわかりやすい』

 

 

 そう言って地上に降りる一夏。戦い方が決まったみたい。

 降り去ったのはアリーナ中央。アリーナのあちらこちらに開いた穴の位置分布的にも中央の位置。

 インコムアンカーを分離させて穴があるところより外側に、2つのアンカーを自分を挟んで対角の位置に。いつゴーレムⅡが現れてもいいように、アンカーは左右に開かれてゴーレムⅡを捕まえる準備をしている。

 

 そして待つ。右手には雪片弐型(改)。右足をタン、タン、タン……と小刻みに足踏みさせている。

 さっきと状況は変わっていないと思うんだけど、何を考え付いたのかしらね?

 

 

『んー? 何を企んでいるのかなー?』

『出てくるの待ってるんだよ』

『そりゃそうだけど、いったいどうやってゴーレムⅡを捕まえるのかなー……ってね!』

 

 

 篠ノ之博士の言葉と同時に、ゴーレムⅡが音もなく穴から姿を現す。

 位置的に一夏から見て8時の方向。右利きで雪片弐型(改)を右手に持っている一夏に対して、左斜め後方からの攻撃。これなら少しは一夏の反応も遅れる。

 

 まあ、0時と6時の方向にはインコムアンカーが配置されているし、かといってインコムアンカーから一番離れている3時と9時の方向だったらあからさま過ぎるからね。

 仕掛ける位置としては悪くない。

 

 

 それに対する一夏は、明らかにゴーレムⅡが姿を現す前に反応していた。

 

 いきなりインコムアンカーの方向を変えながら、アンカーの先端付近に雪片の量子化を解除させて出現させる。そのままアンカーで雪片を挟み込んでアンカーに装備させた。

 そしてインコムアンカーを瞬時加速(イグニッション・ブースト)で突撃させる。ドリルパンチを放とうとしていたゴーレムⅡは躱すことは出来ず、そのまま零落白夜を発動させた雪片弐型(改)が突き刺さった。

 

 ……って、遠距離での量子化解除に加えて、アンカーで雪片弐型(改)を装備させての零落白夜の発動!?

 右手に持っているのは雪片偽型の方なのね!

 

 雪片弐型(改)が突き刺さったのは場所はゴーレムⅡの左肩。

 ドリルパンチを放とうとして左腕を突き出していたのが裏目に出たわね。突き刺さった雪片弐型(改)は左肩を貫通し、そのまま地面にグサリと刺さる。

 これでゴーレムⅡの動きは縫い止められた。

 

 

『おわっ!? …………あちゃー、やられた。

 いっくん、弱点わかったー?』

『うん、束姉(たばねー)さんが言っていた通りにわかりやすい。ハイパーセンサーを使っていたら本当に丸分かりだ。

 その地中用シールドバリアーを張っているせいで、ゴーレムⅡの周りだけ()()が感じられない。ポッカリとその場所だけ穴が開いているように感じる』

『ちぇー、いくらヒントを出していたからって、もう少しぐらいはイケると思ったんだけどねぇ』

 

 

 ああ、なるほどね。

 さっき篠ノ之博士が言っていたように、地中用シールドバリアーはドリルで土を掘るときの振動や音を外に出さないようにしている。

 だけどその掘削音だけを器用に外に出さないようにしているんじゃなくて、シールドバリアーで囲われている範囲の中の振動を丸ごとシャットダウンしているんでしょう。

 そこでさっきの右足で行っていたタン、タン、タン……という足踏みの振動をアクティブソナー代わりにして、ハイパーセンサーで音が帰ってこないところを探したのね。

 

 

『確かにこれは早めに公表しておいた方がいいわ。

 知らずに仕掛けられたら対処は難しいけど、ちゃんと準備していれば簡単に対応出来る』

『でしょー? やっぱり公開した束さんは悪くないよね。バンカーバスターがあったら終わりだもん。

 …………だからいっくんも、何故か怒ってるみたいなちーちゃんのことを宥めて欲しいなー、なんて……』

『ほほう? 切り札を2枚切らされた上に千冬姉さんの機嫌を取れと?

 出来ればまだ使いたくなかった切り札なんだけどねぇ』

 

 

 篠ノ之博士、一夏に切り札切らせてくれてありがとーーーっ!

 

 これマズいって。知らなかったらどうしようもないわ…………アレ? もしかして知っていてもどうしようもない?

 両手+両アンカーに雪片弐型(改)と雪片偽型装備されたら、どれに対応していいか結局わからない?

 

 

「あんな切り札があっただなんて……。」

「だ、大丈夫だ! 一夏はまだインコムアンカー2つの同時操作と白兵戦を一緒に行うことは出来ないはずだ!」

「ほ、箒さんとシャルロットさんはご存知でしたの!?」

「ああ、知ってたぞ。要するに足からか○はめ波だろう。

 インコムアンカー経由の絢爛舞踏もそれと同じ発想だったし」

「一応、アンカーも白式・ベルセルクルの一部だからね。

 ちょっと発想を変えれば出来たそうだよ」

 

 

 また一夏ったら変なことをっ!

 うう、ますます一夏に勝てる確率が少なくなっていっちゃうじゃないの。

 

 

『それにしても零落白夜が当たったのに、減ったシールドエネルギーがたったの1000? しかも1000ピッタリ?

 もしかしてゲットマシ……じゃない、ゴーレムマシン1機につきシールドエネルギー1000?』

『うんそうだよ』

『それはまた無駄に凝ってるな』

『もうホーク号とクマー号からパンサー号へのシールドエネルギーの移し替えは完了したから動けるけどね。

 それにしてもアッサリ逆転されちゃった。しかも回路が切断されたのか左腕は使えなくなっちゃったし、同じ戦い方を続けていたら勝てないから外に出るかぁ』

 

 

 右手のペンチアームで左肩に刺さった雪片弐型(改)を引き抜くゴーレムⅡ。そしてよっこらしょ、と地面に上がった。

 一夏は引き抜かれた雪片弐型(改)は量子化され、インコムアンカーも巻き取って回収した。

 

 どうやら左手のドリルアームはもう動かせないみたいね。これでドリルパンチという射撃武器…………射撃? え、遠距離武器は使えなくなったわ!

 となると残っている注意すべきものは目からのゲ○タービームかしら。

 

 

『切り札が2枚ねぇ。いっくんは残り何枚ぐらい切り札があるのさ?』

『切り札…………でなら残りは2枚かな。それと伏せ札1枚に隠し札1枚、そして鬼札が1枚。

 あ、自爆も入れたら切り札3枚だわ』

『おい、やめろ』

『何で!? 白式のコアを取り出してから白式を自動で吶喊させて自爆。

 だけど俺はベルセルクルのシールドバリアーで無傷というステキ戦法なのに!』

『だからやめろ。

 そんなことしたらいっくんにはもう何も作ってあげないからね!』

『……箒を守るためだったとしても?』

『うぐぅっ!?』

 

 

 

 わぁお、聞きたくなかったそんな事実。

 な、何て外道な戦法を考え付くのよ……。

 

 ま、負けちゃ駄目よ、篠ノ之博士!

 一夏に勝てる可能性があるのは博士と千冬さんぐらいなんだから!

 

 せめてこの戦いでもう一枚ぐらい切り札を使わせてぇ!

 

 

 

 

 

――― 篠ノ之箒 ―――

 

 

 

『オープン・ゴーレム!』

 

 

 ゴーレムⅡが3機のロケットマシンに分離した。よくもまあ、あそこまでソックリに作ったものだな。

 

 そのうちの1機は先ほどの雪片弐型(改)にやられた破損が大きいのか、動きが少しグラついている。あれがパンサー号なのだろう。

 そんなんじゃ一夏のインコムアンカーを避けきれないぞ。あ、撥ねられた。

 

 

『ちょっといっくん! 合体途中に攻撃してくるなんて何考えているのさ!』

『やかまし』

『うわーん、いっくんがグレちゃったーーー!

 昔はあんなにメカについて語り合ったのにーーー!』

 

 

 合体失敗! 一夏絶対怒ってる!

 一夏って切り札とかは使うべきときには惜しまず使うけど、使い終わったあとに不機嫌になるんだよな。使わされる羽目になったことに不機嫌になるというか……。

 

 あーあ、知らない。私知らない。

 姉さんのフォローなんかしてやらない。

 

 

 一夏は手に持った雪片を量子化して、さらにもう一回量子化解除をした。

 先ほどインコムアンカーに装備させた雪片弐型(改)を手元に戻したのだろう。

 

 これであとは瞬時加速(イグニッション・ブースト)で近づいて、零落白夜で斬ればいいだけだ。

 もう地中には潜らないと言っていたから、この試合ももうすぐ終わりだろう。最初はどうなるかと不安だったが、何とか無事に終わりそうだな。

 

 

『えーい、邪魔だよいっくん!』

『おおおううぅっ!?』

 

 

 って、うわぁっ!? 土砂がっ、突然土砂がアリーナの中に壁となって現れた! トンネル掘るときに発生した土砂か、アレ!? たまに巨大な岩も落ちてくるし。

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)中だった一夏は止まることが出来ず、振り続ける土砂の雨の中に突っ込んだ。そして出てこないぞ!? 岩にぶつかって押し潰されたか!?

 余りの土砂の量のせいで標高10mぐらいの小高い山になっても、ずっと土砂がその上に降り続けている。

 

 未だにインコムアンカーがロケットマシンを追いかけているから、一夏自身はシールドバリアーで何ともないんだろうけど、さすがにこれは驚いた。

 というか一夏脱出すること出来るのか、コレ!?

 

 

『フハハハハ、動けまい、いっくん! さあ、今のうちに合体だぁ!』

束姉(たばねー)さん、いったいどんだけの長さのトンネル掘ったのさ!?

 いつまで続くんだよ、この比喩表現じゃない土砂降りは!』

『え? 10kmはいってないよ。海の底を通ったから少し遠回りになったけどね。それに通った穴にある程度土砂を捨ててきたから、このアリーナが埋まることはないよ。

 さあ、ゴーレムⅠになってホーク号の拡張領域(バススロット)ほぼ全てをエネルギーパックとして使って放つ一撃、ストナーサン『一夏ァッ、今すぐゴーレムを叩っ斬れ!』……ってなにさ、ちーちゃん?

 せっかくこれから必殺技を放つのに』

『アホか、お前は!?

 そんな一撃を放ったりしたら、このアリーナごと吹っ飛ぶわ!』

 

 

 姉さんのアホーーーっ!

 何て馬鹿なことをしようとしているんだ!

 

 

『チェーンジ、ゴーレムⅠ!』

『おい、せめて真・ゴーレムⅠで放てよ!』

 

 

 ズドドドド、降り続ける土砂から一夏はまだ脱出することが出来ず、ついに合体が完了してしまった。

 

 今度の機体は赤色をしていた。腹部や腕部に白色や、腰部が黄色になってはいるが基本色は赤。

 さっきのゴーレムⅡのような細い機体ではなく、太くもなく細くもなくといったところか。両手には斧。前腕部には爪のような刃物もついており、赤いマントを靡かせている。アレがゴーレムⅠか。

 

 あ、電光掲示板の選手名もゴーレムⅡからゴーレムⅠに変わってる。

 無駄に凝ったことをするな、姉さん。

 

 

 そしてゴーレムⅠが右半身を前に出し、胸の辺りで両手を合わせるような構えを取って、両腕にエネルギーを集め始めた。

 一夏、早く何とかして『ハァッ!』……って、おおっ!? 土砂の山から青白い光線が突き出てきた!

 

 

「な、何なんですの、アレは!?」

「零落白夜の刀身!?」

 

 

 そのまま青白い刀身が降り下げられ、ゴーレムⅠを頭から唐竹割にした!

 右半身と左半身、それと構えからの関係で右腕も一緒に斬られてバラバラと落ちていき、地面に落ちると同時に爆散して果てたゴーレム。

 幸い両腕に集められたエネルギーは霧散して消えた。

 

 

『私のゴーレムがぁーーー!?』

『よくやった、一夏!

 ハハッ、ザマーミロ束!』

『チッ、また切り札を使わされたよ。

(……千冬姉さん、ストレス溜まってんのかな?)』

 

 

 一時はどうなるかと思ったが、何とか無事に終わったな。いくら無人機とはいえ、あそこまで壊されたらどうしようもないだろう。

 この勝負、一夏の勝利だ。

 

 ……姉さんがガチじゃなくて遊びで作ったISで良かった。

 

 

「ゴ、ゴーレムⅠとの距離は20mはあったのに……」

「あそこまで零落白夜の刀身を伸ばせるのか。

 消費するシールドエネルギー量は爆発的に増えるみたいだが、それでもアレは……」

「……雪片は倉持技研が作っているからノータッチだったけど、デュノア社も参入出来るように一夏にお願いしようかな」

 

 

 だけどラウラたちは無事じゃないみたいだ。

 今回の試合で一夏の切り札がたくさん見られたから、その対処をどうしていいか困っているんだろう。

 

 あ、本当に一夏のシールドエネルギーが300減ってる。通常の零落白夜ならあの一振りで使用するシールドエネルギー量は10かそこらだろうけど、刀身を伸ばすとあそこまで消費してしまうのか。

 確かにコレは燃費が良くないみたいだが、充分な脅威になるな。話には聞いていたが、本当に零落白夜の刀身をあそこまで伸ばせるのか。

 

 …………あれ? 試合が終わったのに白式のシールドエネルギーがまだ徐々に減っていっているな。

 ああ、そうか。きっと土砂に埋もれないためにシールドバリアーの出力を上げて空間を確保し続けているのか。

 そうしないと雪片を振る空間が確保出来なかったんだろう。

 

 

 それにしても倉持技研が担当している部分は、私もシャルロットもあまり知らないんだよな。

 企業秘密とかの関係で、白式に何かあるときは一夏が倉持技研に出向くし、それには私もシャルロットも同行はしない。

 デュノア社のことがあるからシャルロットは仕方がないとはいえ、私ぐらいは一緒に行ってもいいと思うんだが、やはり企業というのは技術漏洩に気を遣うからな。

 

 姉さんの名前を利用すれば同行出来そうだけど、私としてもそんなことはしたくはない。

 一夏が千冬さんの威光を利用していると言われないように気を付けているみたいに、私も姉の七光りと言われないように注意しなければいけないな。

 

 

 紅椿? コレは護身のためには仕方がないから。

 

 

 

『酷いよいっくん! 束さんのゴーレムをこんなにしちゃうなんて!

 っていうかマジで全壊じゃんか! 3つのコアごと真っ二つじゃんか!』

『あ、そこまで上手くいったの?

 反応ある方にあてずっぽうで斬ったから、そこまで上手くいくとは思ってなかったわ』

『ムキー! 世界が欲しがって仕方がないISコアを3つも壊しておいてその言い方!

 いっくんがリクエストした“ありとあらゆる干渉、制約、介入を無効化出来る”単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)なんか絶対作ってあげないんだからね!』

『いや、今さら作られても零落白夜に慣れた今となっては正直……。

 そもそも千冬姉さんと同じ単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を、白式が使えるように出来るなんて知らなかったときにリクエストしたものだし』

『……それもそっか。

 なら箒ちゃんとの仲を認めないっ…………わけないです、ハイ』

 

 

 あ゛あ゛あああっ!? 今何て言った、姉さん?

 何だか聞き捨てならないことを言ったような気がするんだが、いくら姉さんでも言って良いことと悪いことがあるぞ。

 

 ……おい、シャルロットたちは私の顔見て引くな。鈴はガッツポーズ取るな!

 

 

『ほ、箒ちゃんの顔が怖い……』

『俺からはノーコメントで。

 で、どう? 束姉(たばねー)さん楽しかった?』

『ん? …………ウン! 楽しかったよ! いやー、久しぶりにハイテンションになれたよ。

 いっくんも私のワガママに付き合わせちゃってありがとね。何だか切り札を3枚も使わせちゃったみたいだし』

『いいよ、別に。また何か考えるから。

 ま、楽しんでくれたなら何より。俺も勉強になった』

『それならよかった。本当はゴーレムに使ってたISコアはお礼代わりにいっくんにあげようかと思ってたけど、壊れちゃったから我慢してね』

『別にいらんて。というか貰っても困るって』

 

 

 セェェーーーフっ!

 一夏がこれ以上コアを手に入れていたら、ますます勝てなくなるところだった。

 それ以前にコアの帰属先で揉めることならなくてよかった。いくら一夏でも、一人で5個のコアを所有するなんてのは無理だろう。

 それにそんなことしたらますますテロリストに狙われることになってしまう。コアが壊れてよかった。

 

 

『それじゃあそろそろお暇するねー。

 箒ちゃんもちーちゃんも元気でね、今度会いに行くよ』

『今度は騒ぎにならないようにしろ』

「え? ちょ、ちょっと姉さん!?」

『それじゃあね。バッハハ~イ!』

 

 

 …………会いに、来る?

 え? 本当に? 会いに来るの? 姉さんが!?

 今までずっと身を隠していた姉さんが!?

 

 ……うわ、何か嬉しい。電話ではよく話をしているけど、会いに来てくれるんだ。

 小学校4年の時以来だから丸5年以上か……。本当に久しぶりだなぁ。

 

 そういえば一夏は常日頃からブログでも、姉さんが失踪したのは世界がISを宇宙開発に使わずにいるからだと公言している。

 そのせいなのかもしれないが、世界で開発者である姉さんの希望に沿ったISの平和利用をしようという動きも出てき始めていて、国連でもISを使った宇宙開発プログラムが検討されていると聞く。

 姉さんの機嫌を取るためなのかもしれないけど、今まではそんなことをしようとも思っていなかったのだから、かなり姉さんの望みに近づいたんじゃないか。

 それで姉さんも世間に戻る気になったのかな。

 

 うん、会いに来てくれたら色々話をしよう。

 電話でも話せることだけど、それでも直接会えるなら私は嬉しいな。

 

 

 

 

 

『ところでこの土砂どうすんの?

 というか早く助けてくんないかな?』

 

 

 

 

 あ、そういえば一夏のこと忘れていた。

 一夏は高さ20mほどになった土砂の山の下にいる。

 

 

『おい、一……織斑。今はどんな状況だ?』

『おそらく見たまんまです。土砂の山の中にいます。

 シールドバリアーの出力強化で直径2mぐらいの空間は確保しているけど、この密閉空間でスラスター吹かしても大丈夫かな? 瞬時加速(イグニッション・ブースト)で無理矢理土砂の山を突き破っても平気かな?』

『それはやめておけ。あー……これで1学年のクラス対抗戦は終了とする。生徒は各自教室に戻れ。来賓の方々も控室の方に。

 ただし専用機持ちはこの場に残るように』

 

 

 専用機持ち、つまりは私たちか。

 あの土砂の山を崩さないようにせっせと掘らなきゃいけないのかな。

 

 それとアリーナに開いた穴のこともあるな。

 姉さんの話によると、海の向こう岸の山に繋がっているという話だけど、これは塞がないと駄目だよな。

 一応は掘ったトンネルを進む際に、トンネル内に土砂を捨ててきたということだから、ある程度は塞がれているだろうけど、それでも柔らかくなっている土だろうし。

 

 ……まさか私たちがトンネル中に進むわけにはいかないから、生コンでも流し込むか?

 

 

 

 

 

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「危うく閉所恐怖症になるところだった」

「お疲れさま、一夏」

 

 

 本当にお疲れ様。姉さんのワガママに付き合わせちゃって悪いな。

 でも姉さんは楽しめたみたいだし、一夏も勉強になったということだから許してあげてくれ。

 

 場所は一夏の部屋。千冬さんたち教師陣は後始末がまだまだ残っているみたいだが、私たち生徒は帰ることが出来た。

 どうやら開いた穴の後始末で、向こう岸の山に開けた穴の捜索をしたりとかで大変らしい。ウチの姉がホントすいません。

 

 ホラ、一夏。ホットミルクを作ったぞ。

 ベッドに寝たまま飲んだりするなよ。

 

 

「しかも山嵐やら衝撃砲やらレールカノンやらで、土砂の山を俺ごと吹き飛ばしやがるし」

「……お疲れさま、一夏」

「そりゃあの山を掘るのには時間がかかるだろうし、シールドバリアーがあるから平気だけどな。

 だとしてもアレはどうかと思うぞ」

 

 

 私は参加していないぞ。

 それにいくらシールドバリアーがあるから押し潰されなかったとはいえ、一夏がいた空間の残った酸素がどれくらいの時間持つのかがわからなかったんだ。白式には酸素マスクなどは搭載していなかっただろう。

 一夏の身命第一に考えた結果ああなってしまったんだから、終わったことをグチグチと言うな。お前だって窒息死なんてことはゴメンだろ。

 

 

「しっかし、やっぱり束姉(たばねー)さんだったか。

 予想はしていたし驚きはしなかったけど、あのゲッ○ーには驚いた。まさか俺が冗談で言ったことを本気で実現するとはなぁ。

 切り札を3枚も使わされることになるし……」

「きっとノリノリで作ったんだろうなぁ、姉さん。

 ……なぁ、一夏。最後に姉さんが言っていた『会いに来る』ということなんだが……」

「ん? ああ、代表候補生組はそれで大変みたいだな。いつもは俺の部屋に集まって部屋主そっちのけでガールズトークしているのに、今日は集まらないみたいだし。

 まあ、仕方がないだろう。地中用シールドバリアーの他にも爆弾が放り込まれたんだから」

「大丈夫かな?」

「よっぽどのことがない限り大丈夫だと思うぞ。

 ラウラやシャルロットたちと話した感じでは、少なくともコアを作るように迫るアホはいないみたいだ」

 

 

 そうだよな。大丈夫だよな。

 一夏が「コア作るように迫ったら、また失踪するだろうな」と皆に言ったら「いくら何でもそれはしないだろう」と言っていたし。

 

 まあ、姉さんのことだから会いに来てくれても、そのまま一緒に暮らせるということはないだろう。

 次回のことは社会復帰のためのリハビリと思えと一夏が言っていたように、おそらく世界各国がどんな対応をするかによって、姉さんが帰ってくるのが早まるかどうかが決まる。

 出来れば大人しくしてもらって、姉さんが帰ってきやすいようにして欲しいんだが……。

 

 

「俺もブログで牽制しておく。

 コア作るように迫るアホが出たとしたら、そいつが世界中から総スカン喰らうような感じにな」

「……程々にな」

「大したことはしない。ただちょっとそういうことを匂わせておくだけで、勝手に世界が犯人にしてくれる。

 まあ、箒は束姉(たばねー)さんに会えるのを楽しみに待っていればいいさ」

 

 

 お……おい、頭を撫でるな。子供じゃないんだから。

 そりゃ姉さんに会えるのは楽しみだけど、一夏の方からスキンシップをしてくるなんて珍しいじゃないか。普段は手すら繋ごうともしてくれないのに。

 

 い、今なら抱き着いたりしても大丈夫かな? ラウラみたいに甘えても振り払われたりしないかな?

 実はラウラのことを羨ましいと思ったことがあったり…………ええい、女は度胸! やってみるさ!

 

 

「ハァッ!」

「うおっ!? ……何その掛け声? 抱き着くときの掛け声じゃないだろ」

 

 

 まったく……と呆れてホットミルクを飲みながら、私の髪を手で漉いてくる一夏。

 うわ! 久しぶりだ! 一夏にこんなことしてもらうの子供の時以来だ!

 

 ……というか全然一夏は動じていないな。そんなに私は嬉しそうな顔をしてたんだろうか。

 もしかして普段からやっても平気だった? それとも2人きりだから?

 

 モノ○マみたいにセンスが微妙にズレているから、一夏はどこまでしてもいいかの線引きがわからないんだよなぁ。

 蕎麦やうどんは啜って食べるのは平気でも、パスタを啜って食べる人を見ると嫌そうな顔をしたりするし、もうちょっと一夏のことをよく知ることが出来たらいいのに。

 一夏は全然自分のことを話してくれない……。

 

 ま、これ以上進んだらさすがに怒られそうだから、今は抱き着くだけで満足しておくか。

 

 

 

 

 







 蕎麦やうどんを啜って食べるのは平気だけど、パスタを啜って食べるのは汚らしい感じがして嫌な嘴広鴻です。
 何ででしょうね?

 というわけでゴーレムさん退場です。ゲッ○ーⅡって漫画版では目からビーム出せるそうですね。
 残った切り札と隠し札と伏せ札と鬼札は、ちゃんとネタを考えています。

 クラス対抗戦も終わったので。次は学年別トーナメントです。
 シュバルツェア・レーゲンにはVTシステムが載っていませんのでクラス対抗戦と同様に、原作みたく途中で中止になったりはしないでしょう。

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