AS オートマティック・ストラトス   作:嘴広鴻

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第13話 究極の選択

 

 

 

――― 布仏虚 ―――

 

 

 

「~~~♪」

「あれぇ? かんちゃんご機嫌だねぇ」

「あ、本音? うん、ようやく注文していたものが届いたの」

「え、なになに? 新しいアニメのDVDとか?」

「ううん、違うよ。ロッド型弾頭の山嵐。

 これを使えば一夏も落とせると思うんだ♪」

「……お、おう」

 

 

 

 

 

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「とまぁ、最近のかんちゃんはこんな感じで機嫌がいいです。

 ……あんな朗らかな笑顔でいわれても、私困っちゃうよ」

「簪ちゃんがグレちゃった……」

 

 

 簪様が明るくなったことを喜べばいいのか、それとも性格が変わったことを嘆けばいいのか……。

 もしかして簪様は山嵐の弾頭をコレクションするのが趣味になっていませんかね? この前もフレシェット弾頭やら何やら仕入れていましたし、ミサイル撃つのが好きになってきたのでしょうか? トリガーハッピー?

 グレたというより病み始めたといった方がいいかもしれません。

 

 これではお嬢様と簪様の和解は難しそうです。

 何しろ今までは簪様の方もお嬢様のことを何かと意識していましたが、最近では全くお嬢様のことを無視しているそうなのですから。

 

 

「最近はかいちょーの話題が出ても皆スルーするから、かんちゃんがかいちょーのことをどう思っているかはわかりませ~ん。

 おりむーは頑張ってかいちょーの話題を出そうとしてくれているんだけど、むしろデュッチーたちが話題を避けようとするんだよねぇ」

「そ、そんなにラウラちゃんが私の影響で裸エプロンしようとしたことが気に入らなかったのかしら……?」

「当然のことだと思いますよ。私だってお嬢様の影響で本音が裸エプロンなんてしようものなら、本音をお嬢様に近づけるのは御免蒙ります。

 それに蔑視から無視にランクアップしただけマシではありませんか。織斑君に感謝ですね。

 何しろお嬢様が裸エプロンをしたのは、織斑君がどれだけハニートラップに免疫があるかテストするためだったと、簪様に説明してくれたのですから」

 

 

 ま、本音が裸エプロンなんかするわけないんですがね。

 むしろ着ぐるみのような恰好をするのも辞めてもらいたいんです。小学生じゃあるまいし、私の妹ながら何であんな恰好が好きなんだか……。

 

 でも簪様だけではなく、専用機持ち組み自体がお嬢様のことを快く思っていないのは面倒ですね。簪様にご友人が出来たことだけなら喜んでいいのですが、これではお嬢様と簪様の仲を改善しようにも邪魔をされる恐れがあります。

 しかし気持ちはわからないのではないですが、ボーデヴィッヒさんに関してはお嬢様よりもドイツ軍で同じ部隊に所属しているハルフォーフ大尉とやらを問い詰めた方がいいと思うのですが?

 

『え? 日本男子にとってはハーレムは基本ではないのか?』

『『『『ちょっと生徒会室行ってくる!』』』』ガタッ!

『座ってろ』

『不潔ですわ不潔ですわ!』

 

 なんてやり取りもあったらしいですが、さすがにハーレムに関してはお嬢様はノータッチですよ。

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとは言いますが、何でもかんでもお嬢様のせいにするのは止めて頂きたいですね。

 

 ……まあ、キッカケを作ったのはお嬢様の方なのですから、一概に冤罪というわけではないのですが。

 

 

「それでもノリノリでやったことは既に言っちゃってたし、そもそもハニートラップ対応テストで裸エプロンをチョイスする感性に引いちゃったみたいだけどね~」

「本来なら私がやるところを、“部下に汚い仕事を押し付けたくない”という理由で自らテストしたというのは美談になりえますけど……」

「そもそもかいちょーの普段が普段だもんね~」

「お願い。もう許して」

「というかこんな言い訳したら、織斑君や簪様に私が普段から色仕掛けのようなことをしていると思われてしまうではありませんか。

 私に汚名を被せるようなことをしたんですから、約束通りにこれからは真面目に生徒会業務を行ってもらいますよ」

「……はい、ありがとうございます。虚様には感謝してます。

 これからは本当に真面目に仕事に取り組みますので本当に許してください」

 

 

 私に様付けされても困ります。

 反省をなされているのなら、これからの行動で示してください。普段から真面目な態度をとっていたら、簪様との仲もこうまで捻れることはなかったでしょうに。

 

 これからが大変なのですよ。

 いくら悪意がなかったとはいえ、織斑君が簪様に吹き込んだことを払拭するのは一苦労どころの手間ではないんです。

 

 

 

 

『お宅のお姉さん、裸エプロンしてたよ』

『…………ねえ? 今、何て言ったの?』

『何って? 俺は別に何も?

 ただちょっとお宅のお姉さんがどんな格好していたか言っただけじゃないか』

『嘘!? 嘘よそんなの!

 取り消しなさい! ねえ違うわよ有り得ないわ!』

『そう言われてもなぁ、事実だしさぁ。

 ま、下に水着も着てたとはいえ、俺としてもあの格好はどうかと思ったんだがねぇ。あいにく個人の趣味だからどうしようもない。

 あんな格好してても、止めたりは出来ないのさ』

『何で? ねえ何で!? どうしてなの!?

 あのお姉ちゃんがどうしてそんな格好していたの!?』

『そりゃ世の中変わった趣味を持っている人ぐらい腐るほどいるさ。中には他人に見られるのが快感という人もいて、大方そういう類の人なんだろうさ。

 俺も姉がいるから更識さんの気持ちもわかるんだけどなぁ、ちょいと力になれそうもない。

 ――で、下に着ていた水着だけどさ、かなり危ないヤツだったぜ。箒とかだったら着れないような、“身体を動かしたらズレた”とか、着るのには勇気がいるタイプ』

『……ッ!』

『おーおー、怖いねぇ。姉がそういうの着てたらキツイなぁ、更識さんも。

 同じ趣味だと思われて、変わった人を見るような目で見られたりしてな? まー、それならいいけど? ヘタしたら同じような水着薦められたりしてな?

 変わった趣味だよなァ。ちょっと見たり見られたりぐらい、若気の至りで発展してみたり?』

『…………さない』

『ん? どこ行くんだ、更識さん?』

 

 

 

 

 ……ん? 織斑君の発言はもしかしなくても悪意バリバリ?

 この後に簪様が生徒会室に来てお嬢様に『……最っ低』と言い放ったみたいですが、こんなこと言われたらさすがにフォロー出来ませんね。

 

 まあ、水着エプロン姿で部屋に待ち伏せられたりしたら、織斑君が悪意バリバリになっても仕方がありませんか。

 ヘタをしたら、一緒に学園を訪れていた篠ノ之さんとデュノアさんとの仲が悪くなるところだったのです。そんなことされたらお嬢様に悪意を持っても仕方がありませんね。

 これはお嬢様の自業自得です。

 

 

「あくまで織斑君は本当のことしか言っていません。

 ですのでくれぐれも織斑君を逆恨みするようなことはしないで下さいよ」

「はい、わかってます。全て私の自業自得です。

 ……でも一夏君てそうなのよね。嘘はつかないし本当のことしか言わないけど、それでも自分の都合の良い様に物事を進めるように誘導するタイプ」

「お嬢様?」

 

 

 逆恨みしないでください、って言ったばかりでしょう。

 

 

「いや、コレは逆恨みじゃなくて真面目な話よ。水着エプロンのことだって、からかいやハニートラップが主目的ではないとはいえ、一夏君と友好的な関係を結べるようにワザとはっちゃけた部分もあるの。

 以前に上がってきた一夏君の中学時代の報告書では、一夏君ってクラスメイトが大騒ぎにならない程度の馬鹿やっているなら放っておいて観覧してるタイプらしいのよ。その代わり自分から騒ぐことはないみたいのだけど、踊るアホウを見るのが好き、という感じかしら。

 だから事務的にいくより、ある程度の冗談を挟んだ方が上手くいくと思ったんだけどねぇ」

「え? かいちょーってば本能で行動してたんじゃないの?」

「口を慎みなさい、本音。

 思っていてもそんなことは言ってはいけません」

「虚ちゃん、思うのはいいのかしら?」

「日本国では憲法で思想の自由が認められていますので……」

 

 

 フム、とはいえ確かに織斑君と友好を結ぶのには、こちらから一歩踏み出さないといけないということについては同感ですね。

 

 何しろ織斑君は世界唯一の男性IS操縦者であり、尚且つ織斑先生と篠ノ之博士の弟です。

 放っておいても近寄ってくる人間は後を絶たないでしょうから、おそらく織斑君から望んで新たに誰かと仲良くなろうと近づくことはないでしょう。

 待っていたとしても、わざわざ織斑君の方から近づいてきてくれるとは思えません。

 

 ……思えませんが、

 

 

「だとしても、友好的な関係を結ぶために裸エプロンするところが間違っています。これからは手段をちゃんと選んでください。

 だいたい経験もないのに年上ぶるからですよ。篠ノ之さんのことや中学時代の告白され具合を考えると、男女のことなら織斑君の方が経験あるんじゃないですか?」

「そ、そそそんなことあるわけないでしょ。私の方が経験豊富よ」

「はいはい。そんなことはどうでもいいんです。今後は自重してくださいね。

 それにしても踊るアホウではなくて、見るアホウの方ですか。

 そう考えたら、確かにちょっと印象が違いますね。ASやゴーレムⅡのことからすると、織斑君は自分から行動するタイプかと感じるのですが」

「そうよねぇ。はっきり言って、AS発表からのこの1年ちょっとは一夏君が散々世界を引っ掻き回したようなものよ。油を撒いて延焼させたのは他人だとしても、火種を作ったのは一夏君だわ。

 もしかして全部わかっていてやっていたなんてないわよね?」

「かいちょーは深読みしすぎだって~」

「ええ、さすがにそれはないでしょう」

 

 

 まあ、誘拐されるのを予想していたのを“わかっていた”というのなら、その言葉の範疇に収まってしまいますが。

 それでも織斑君が望んでこのような事態を引き起こしたわけではないでしょう。誘拐騒ぎは“亡国機業(ファントム・タスク)”がそんなことを仕出かさなければ起きなかったのですよ。

 

 織斑先生の弟であるということから誘拐される恐れがある、と考えるのは別段おかしいこととは思いません。

 中学生……いえ、ASを篠ノ之博士から貰ったのが小学4年生のときですか。小学生の頃からそんなことを思いつくのは確かに変わっている子供だとは思いますが、実際の織斑君を見る限りはただの大人びた頭の良い子だったからじゃないですか?

 

 

「ま、それもそうか。誘拐される恐れがあるとは思っていたとしても、モンド・グロッソで実際に誘拐されることを知っていたわけじゃないわよね。

 ただ単に身を守るために準備しておいただけのことよね。その準備のせいで世界が変わってしまうのがおかしいんだけど、確かに合理的な考えに基づいてのことだし、有り得なくはない……というか、わかることなんて無理よね。変なこと言っちゃったわ。

 それにしても一夏君って発想が自由よね~。ASのことといいゴーレムⅡのことといい」

「ええ、それについても同感です。ゴーレムⅡのときのように自由過ぎて困るところもありますが、柔軟な発想を出来る人ですね。

 そういえば織斑君の自室の本棚には空想科学読本とかがあるらしいですから、そういうことを考えるのが好きなのでしょう。オルコットさんのブルー・ティアーズにも“カッコいいから”という理由でアドバイスしているそうですし」

「本棚にあったのはそれと北欧神話関係のやつね。少年漫画も結構あったけど。

 ISには北欧神話関連の用語を使っているのが多いから、それから興味を持ったのかしら?」

 

 

 そう考えたら子供っぽいところもありますよね。彼は他にも結構色々と動いているみたいですし。

 そういえば先日は舞空術なんかしてましたね。白式じゃなくてベルセルクルの方にPICを積んで、スラスターを使わずに見た目は生身で空を飛ぶというのを。墜落してもベルセルクルのシールドバリアーがあるので平気ですし、白式を纏えない状況でテロリストに襲われた場合の対応策として考えたと言っていたみたいですが、絶対アレは単なる趣味でしょう。出せる速度は自転車より速いぐらいでしたし。

 他にも本音は織斑君がデザインした新しいデュノア社マスコットのオレンジ色したウサギのヌイグルミを貰ったとか言ってましたし、改めて考えると多芸な男の子です。

 

 織斑君自身が言うには「グータラ姉がいるから(現在進行形)」という理由で多芸になったらしいですが、サボり生徒会長とのんき妹を持った私は…………自分で言うのもなんですが、私も多芸ですね。

 何だか織斑君に親近感が湧きました。

 

 

 

 

「簪ちゃんも一夏君にご執心みたいだし、ますます一夏君から目が離せないわ。世界唯一の男性IS操縦者であることもそうだけど、ISに関する発想が専門家とは違うアプローチすることもね。

 幸い一夏君とは友好関係を築けていると思うけど、一歩間違えばどうなるかわからないのが怖いわねぇ。

 一夏君って人間嫌いの気があることだし」

「え? おりむーが?」

「そんなことは報告にありませんでしたが……?

 いえ、確かに無礼な真似をしたマスコミなどには厳しい態度をとっていますが、IS学園に入学してからは人気者ですよ。織斑君に邪険な扱いをされた子がいるという話は聞いておりません」

「えー、一夏君は人間嫌いでしょう。人間嫌いというか、警戒心が強いって言った方がいいかもしれないけど。

 知ってる? IS関連企業の売込み激化に嫌気がさした一夏君は、そういう売込みはシャルロットちゃんを通してするように他社に要請……というか強制したのよ。もしシャルロットちゃんを飛び越えて一夏君に直接セールスしたら、その企業の製品は何があっても採用しないらしいわ。

 さすがに白式の倉持技研は除くみたいだけどね」

「それ、デュノア社の一人勝ちじゃないですか?」

「いや、それがもしデュノア社が恣意的に他社のセールスの邪魔、要するに売込みを握り潰したりしたら、デュノア社との協力関係を打ち切るって釘刺しているのよ。

 デュノア社からしたら、一夏君と他社の間のクッション材にされてるだけのようなものね。あまり旨みはないでしょう。

 旨みがあるとしたら、誠実に仕事をこなすことによって得られる一夏君からの信頼ぐらいかしら。まあ、その信頼自体が他社にとっては垂涎の的になるんでしょうけど」

「なるほど。お嬢様にとって最も必要なものですね」

「虚ちゃん、もしかして私のこと嫌い?

 ……でもまあ、そこら辺は仕方がないのよ。一夏君は留守がちだった織斑先生の代わりに小さい頃から一人で家を、両親のいない家を守ってきたのよ。

 それこそ一夏君経由で織斑先生に取り入ろうとした人もいるんじゃない? そういうの相手にしていたら、どうしても外面は取り繕えるようになってしまうでしょうね。

 だから一夏君は結構シビアよ。恋愛に対する考えからしてそうでしょう。

 私が見た感じ、一夏君は名誉欲と出世欲とか持ってないように感じるのよ。世界に対する影響力を確保するように動いているけど、私欲で何かをしようとしないで自分自身と自分の周りの人間の身を守るためだけに専念しているように見えるの」

 

 

 ……なるほど。そう言われるとそうですね。

 篠ノ之博士のこともあるし、他人のことはかなり警戒しているかもしれません。他人を警戒していなかったら、身を守るために篠ノ之博士にASなんてねだったりしないでしょう。

 そう考えたら本当の一夏君は、簪様みたいに内に籠るタイプかもしれないですね。

 

 

「で、でもおりむーは私たちに優しいし、クラス代表の仕事も立派にやっているよ?」

「良くも悪くもクラスメイトでは力がないからね。そこまで警戒する必要がないんでしょう。

 それに優しいって言っても、一夏君といつも一緒につるんでる専用機持ち組以外で一夏君の部屋に入れてもらった子はいる?」

「……聞いたことない」

「きっとスパイの可能性のある不特定多数の子は部屋に入れたりしないでしょうね。きっと外面は良くてある程度までは自由に近づけるだろうけど、そのある程度以上は自分のテリトリーに踏み込ませないわよ。

 専用機持ち組は個人的付き合いが以前からあった子が多いから入れたのだろうし、仲良くすることの方がメリットがあると考えているのでしょうね。部屋の盗聴器の調査をお願いされた私みたく。

 一夏君はそこら辺の損得勘定はしっかりしているわ」

「そういえばお嬢様は織斑君から合鍵を貰ってましたね。

 信頼されているようには思えないお嬢様が合鍵を貰えたことを不思議に思っていましたが、そういう理由があったんですか」

「虚ちゃん、私のことやっぱり嫌い?

 ……ま、一夏君はただの優等生ではないわ。頭の中では何を企んでいるのかわからない…………んだけど、でも一夏君の行動がそれを裏切るのよね。

 自分の立場を利用して強権的に振る舞うことはせずに、ちゃんと周りにもメリットがあるように調整する。敵を作らないように動いているといえばそれまでなんだけど……」

「た、企むだなんて……。

 おりむーのポリシーは“誠意こそ最高の戦略。正直こそ最強の戦術。それが通らぬ状況を生まぬが真の策士”だって言ってたよ。

 だからおりむーは変なこと企んだりなんかしてないと思うけど……」

 

 

 ……本音。それって180°逆に向いていたのが、もう一回180°回転して元の位置に戻っただけじゃないのかしら? 絶対に“人類皆兄弟”みたいな甘い考えを持っているとかじゃないわよ。

 素で誠実な行動をとっているのではなく、意識して誠実な行動をとっている……か。

 

 

「……根っこは平和のために戦争をする現実主義者かしら?」

「確かにシビアな人ですね」

 

 

 しかしそのようなポリシーを持っているとするなら、今までの織斑君の行動は理解出来ます。

 

 現在の織斑君は、概ねの国と企業から“仲良くした方が得”と思われているようです。

 利益に対しては利益で返し、敵対には不協力と敵の敵の味方になることで返し、契約は誠実に守る。

 これなら敵対するより仲良くした方が得ですよね。実際のところ織斑君自体はそれほど力を持っているというわけではありませんが、力を持っている他の国や企業を動かすことは出来るはずです。

 放っておいても別にわざわざ敵対するような行動をしてくるわけではないですので、これでは誰も敵対しようと思うわけないですね。

 

 もし織斑君が危険視されるとするなら、特定の国に必要以上に肩入れした場合でしょうか。

 例えばアメリカに全面協力しておいてロシアには全面不協力したのなら、ロシアは織斑君に対して敵対するでしょう。別にアメリカとロシアの立場が反対でもそうでしょうし、これがロシアではなくて中国などでも同じです。

 一歩間違えば世界のパワーバランスが崩れる恐れがありますね。

 

 だけどそんな事態を引き起こすようなことは織斑君はしません。何しろブログなどで『俺のせいで第惨事世界大戦起こったら嫌だなぁ』と散々発言していますので、織斑君が意識して大騒動を起こすようなことはしないはずです。

 そしてそんな織斑君の心情は世界がわかっているはずですので、わざわざ独占しようと企む国はいないでしょう。

 

 いえ、正確には独占したいとは思っている国はあるでしょうが、この状況で織斑君を独占しようとしたものなら他の国から総スカンにされてしまうでしょうので、何処の国も手が出せないという状況ですね。

 しかも織斑君はちゃんと対価を払いさえすれば協力してますので、ケチをつけようにもつけられません。

 ヘタをしたら蝙蝠と思われかねない立場ですが、今のところはそのように思われている気配はありませんね。情報をオープンにしているのが功を奏しているのでしょうか。

 

 

 この状況を意識して作り上げたのなら、確かに織斑君は策士と言っていいかもしれませんね。

 

 

「意識してやったなら怖いわねぇ。

 しかも一夏君自身は誠実な行動を取っているだけだから批判されようがないもの。チョッカイかけた方が悪いって取られるわ」

「お嬢様なんか見事にそうなったでしょうが」

「はい、ゴメンなさい。

 ……そんなわけで、本音ちゃんも一夏君相手には誠実に相手してね。そうすれば一夏君も悪くはしないでしょうから」

「う~ん? おりむーってそんなに腹黒いかなぁ?」

「腹黒いというより悪戯好きってぐらいに考えておいた方がいいわよ。正道と邪道で同じ利益があるのなら、迷わず正道を取るでしょうから。

 ただ一夏君はシビアなところがあるだけよ」

 

 

 ま、結局はそんなところですか。

 更識としても行動の指針に変更はなく、織斑君を守ることを第一とする。決して藪をつついて蛇を出すような真似はせず、誠実に契約を履行する。

 それが織斑君との友好に繋がるでしょう。

 

 

 

 

 

「……で、それはそれとして、簪様とのことは結局どうするのですか?」

「ぐはっ!? いきなり現実に引き戻さないで虚ちゃん!」

「あ、おりむーのことは現実逃避だったんだね」

 

 

 仕事に逃げないで下さいよ。

 お嬢様はまったくもう……。

 

 これではお嬢様から動くのは無理ですかね。

 織斑君の働きに期待するしかありませんか。

 

 

 

 

 

――― 更識楯無 ―――

 

 

 

「ホラ、更識会長だってストレスが溜まってしまうことだってあるんだろう。何しろ二足の草鞋どころか更識家当主とロシア国家代表、IS学園生徒会長の三足の草鞋じゃないか。

 その溜まってしまったストレスのせいで露出に目覚めてしまったのかもしれない」

「………………」

「確かに簪の気持ちもわかる。俺だってもし千冬姉さんがそんなのに目覚めたとしたら絶望するさ。でも、そんな今だからこそ簪が更識会長の力になってやるべきじゃないのか?

 本格的に露出趣味に目覚めたりしたら、将来きっと後悔することになる。幸い今はまだ不特定多数の人間に露出するようなことはしていなくて、機会があれば脱ぎたくなるぐらいだろうけど、このままじゃ自らを解放してしまうのも時間の問題だ。

 手遅れになる前に更識会長を更生させることが出来るかもしれないのは簪だけなんだよ」

「…………でも」

 

 

 

 グギギギギ……説得の方向が違う!

 私は露出趣味なんか持っていないわよ! 露出趣味を持っていないことを簪ちゃんに説明して私への誤解を解いて欲しいのに、その説明の仕方だったら私が露出趣味を持っていることを肯定しちゃっているじゃない!

 

「しかしお嬢様。もしかしたらこの方向なら簪様と仲直り出来るのではないですか?」

「あー、かんちゃんにかいちょーの露出趣味を治させるのを理由として、かんちゃんをかいちょーに近づけさせるのかなぁ?」

 

 ぐっ!? ……か、簪ちゃんに露出趣味と誤解されるけど簪ちゃんと関われるのと、露出趣味の誤解を解いて今までみたいな避けられる状態に戻るの。

 そんなのどっちを選べばいいってのよ!?

 

 

 

「簪だって更識会長が露出趣味だったりしたら嫌だろう?」

「それはイヤ。

 ……でもいくら部下に汚い仕事を押し付けないためとはいえ、ノリノリで露出するような人はちょっと……」

「うーん、確かにノリノリだったけど、半分はテンパってただけの感もあるんだよな。

 布仏さんに聞いた話では会長はお姉さんぶってはいるけど、実のところは恋愛経験ゼロの耳年増らしいからな。もしかしたら色仕掛けの加減がわからずに暴走しただけなのかもしれないんだよ。

 まあ、それでも何回もちょくちょく同じことを仕掛けたことからして、今回のことで露出に目覚めた可能性がある。だからこそ本格的に露出活動していない今のうちなら、その露出趣味を矯正することが出来るかもしれないぞ」

「………………」

「俺も手伝ってやるからさ。手遅れになる前に何とかしないか?」

「手伝って……くれるの?」

「ああ、友達の手伝いをするのは当然だろう。

 きっと箒たちだって手伝ってくれるはずさ」

「あ、ありがとう…………うん。私頑張ってみる。

 お姉ちゃんが露出趣味だったらイヤだもん。色んな意味で」

「いっそのこと決闘でも申し込んで、簪が勝ったら露出趣味をやめてもらうってことにしたらどうだ?

 簪もどれだけ会長と差があるか試してみたいだろ。ちょうどいい機会だから、思いの丈を全力でぶつけてみろよ」

「うん! 私やってみる!

 ……え、えと……その……あ、ありがとう……」

「どういたしまして」

 

 

 

 か、簪ちゃんが恋する乙女の顔に!?

 グギギギギ……やっぱり一夏君の毒牙に掛かっちゃったのね! さっさと()()しておけばよかった!

 というか虚ちゃんって私のこと実は小娘扱いしていない!? 誰が恋愛処女よ!?

 

「かいちょーおめでとー。かんちゃんが仲直りを考えてくれたみたいだよ」

「……でもこれって、お嬢様が負けたら露出趣味をやめたと思って頂けるかもしれませんけど、今度は生徒会長の座を簪様に譲らなきゃいけなくなりません? そして代表候補生に負けたとなると、必然的にロシア国家代表の座までも失うことに……」

「あ、そっか。 ……でもかんちゃんに勝っちゃったら露出趣味をやめたくないというメッセージにとられちゃうかもしれないねぇ」

 

 どっちを選んでもバッドエンド!?

 ねえ、一夏君ってやっぱりわざとなの!? わざとやっているの!? 隠れて様子を伺っている私たちのこと気づいているでしょ!?

 ラ、ライフカードを! 別の選択肢のライフカードをプリィィーーーズっ!!

 

 

 

 







 IS装備開発企業『みつるぎ』にとばっちりフラグ。


 それと一夏から更識会長にフォローが入りました。
 更識会長が望んでいた方向と若干ズレているようですが、それで妹さんと仲良くなれるんだから我慢してね!


 というか、皆さんヘルガ姉さん大好きですよね。
 おかげでヘルガ簪ならぬヘル簪爆誕。 …………()()簪? やっべぇ。

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