AS オートマティック・ストラトス   作:嘴広鴻

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第14話 ○欲を持て余す

 

 

 

――― 更識簪 ―――

 

 

 

 かつて何処かで、そしてあれほど困惑したことがあっただろうか。

 あなたは素晴らしい。掛け値なしに素晴らしい。しかしその本性は誰も知らず、また誰も気付かなかった。

 幼い私はまだ本当のあなたを知らなかった。

 いったいあなたの趣味は何なのだろう。いったいどうして、あなたはそんな趣味に目覚めたのだろう。

 もしあなたの趣味が淑女にあるまじきものならば、そのまま封印してもらいたい。

 何よりも幸福なその瞬間――あなたが年を取ったら後悔をするだろうから。

 ゆえに姉よ、目を覚ませ。裸体を晒すな。

 衣服を脱ぎ去り何かに目覚めた。私はあなたに問いを投げたい。

 本当にそれでよいのか? 人として何か過ちを犯していないか?

 姉よ。私はあなたを見れず、あなたに共感出来ない。

 あなたの趣味に嘆く私を、一夏だけが知っているから。

 

 ゆえにお姉ちゃん…………目を覚まして。お願い!

 

 

 

 

 

「私がお姉ちゃんの目を覚ます!

 お姉ちゃんが私をどんな風に思っていても! お姉ちゃんがどんな趣味を持っていたとしても! それでもあなたは私のたった一人のお姉ちゃんなんだから!」

「ちょ、待って!? 簪ちゃん、まずは落ち着いて話し合いましょう!」

 

 

 何でそんな血の涙を出しそうな悲しい顔をするの!? そこまで露出をやめたくないの!?

 こうなったら絶対私が矯正してみせるんだから!

 

 

「待てって、簪」

「そ、そうよ! ホラ、一夏君もああ言っているし……」

「何で止めるの、一夏!?」

「いや、せめてアリーナに場所を移してからにしよう。

 他の生徒を巻き込んだりしたらマズいだろ」

「ソッチ!? お願いだから火に油を注がないでぇっ!」

 

 

 あ……そ、それもそっか。生徒会室でISの戦いをするわけにはいかないもんね。

 一夏が着いて来てくれてよかった。私だけだったら頭に血が上ってどうなるかわからなかった。

 

 

「ちょっと待って! お願いだから話を聞いて!

 一夏君もお願いだから簪ちゃんを止めてぇっ!!」

「いや、止めてるでしょ。ここで暴れたら危険ですし。

 それじゃあアリーナ行くか。俺が立会人になるから、思いの丈を思う存分ぶつけるといいさ」

「アンタ本気で殺すわよ!!」

「…………ねえ? 今、何て言ったの?」

 

 

 一夏を……何するって?

 

 

 

 

 

――― 織斑一夏 ―――

 

 

 

 いやー、良いことした後は気分が良いなぁ。

 更識会長も簪と仲直りすることが出来たのが嬉しいのか涙を流しているし、俺も色々と動いた甲斐があったよ。

 

 

「本当なの……私は別に露出が趣味というわけじゃないの……」

「うん、わかってる。私はわかっているから。

 だからお姉ちゃんもこれから一緒に頑張ろう?」

「そんな全てを受け入れるような顔しないでよ!

 お願いだから私の話をちゃんと聞いて簪ちゃん!」

「うん、大丈夫。大丈夫だから……ね?」

 

 

 良いことした後は気分が良いなぁ、うん。

 簪も慈母のような安らかな顔で更識会長を見ているから、もうわだかまりはなくなったんだろう。

 

 ま、何にせよ決闘まで発展することなく、話し合いだけで済んでよかった。

 やはり更識会長のスパイラル土下座が凄かったな。『話を聞いてください!』って見事なジャンプから螺旋の軌道を描いて繋げた土下座には、さすがの簪も呆気にとられてた。

 更識会長は多芸だなぁ。

 

 その後の落ち着いた話し合いで仲直り出来たのが嬉しいのか、やけに更識会長が俺のことを涙目で見つめてくるけど、せっかく仲直りした姉妹の間に水を差すわけにはいかない。俺はここら辺で退散することにするか。

 あの様子だったら再び変な風に捻れるなんてことはなさそうだし、姉妹二人っきりで話をさせてあげようじゃないか。

 

 それじゃあ、お二人さん。ごゆるりと……。

 あ、生徒会室は外から鍵をかけておくから、いくらでも二人で話し合えるからね。

 更識会長は俺をそんな涙目で見つめるなよ。照れるじゃないか。

 

 

 

「さて、食堂に行って一服するか」

 

 何だか良いことをしたせいか顔がニヤついている感じがする。

 フッ、良いことをして嬉しがるなんて俺のキャラに合わないから、苦いコーヒーでも飲んで顔を元に戻そうかな。

 

「……おりむー、本当にアレでよかったのかなぁ?」

「いいんじゃないのか? これであの二人も仲直り出来るだろ。

 それに更識会長の脱ぎ癖も矯正出来るんだから一石二鳥だし」

「え? ……もしかして嫌がらせでなくて、織斑君って本当にお嬢様が露出趣味と思ってます?」

「趣味や見られるので興奮する性癖とまではいかなくても、脱いだのを見せた相手が慌てふためくのを見て笑うような人だとは思ってますね」

「……それは否定出来ませんね。やはり結局はお嬢様の自業自得ですか。

 これを機に真面目になっていただけるのならありがたいのですが……」

 

 

 いくら何でもここまでやれば、さすがにこれで大人しくはなるでしょう。

 布仏さんも大変ですね。あんなのが上司で。

 

 

「それでは俺は食堂に行きますが、布仏さんとのほほんさんはどうするんですか?」

「私たちはお嬢様たちの様子を見ておきます。

 あの様子ではまたケンカするような事態にはならないと思いますが、話が終わったらお嬢様を宥めないと駄目そうですからね」

「じゃあ私はおりむーと一緒に「駄目です。本音は簪様についていなさい」……ちぇー、仕方がないかぁ。

 確かにかいちょーと仲直り出来て喜んでいるかんちゃん見てると、何だかやけにハイになっているように見えて不安になってくるもんね」

「了解。それでは後のことはお任せしますね」

 

 

 やれやれ。簪が更識会長のことを変態と呼び始めたときにはどうなるかと思ったけど、何とか無事に終わったな。アレは本当に焦ったわ。

 それと簪が『嘘!? 嘘よそんなの! 取り消しなさい! ねえ違うわよ有り得ないわ!』って更識会長の露出を必死になって否定した時の声がやけに怖かったんだよ。特に『取り消しなさい!』の声がヤバかった。簪は絶対に怒らせないように気を付けよう。

 俺が煽った面があるとはいえ、その後の簪があそこまで更識会長のことを嫌うなんて予想出来なかったわ。そんなに“裸エプロン先輩”が嫌だったのだろうか?

 

 ……普通は嫌だな、ウン。

 まあ、簪は潔癖症とまでいかなくても、そういう方面は苦手そうだからな。拒否感も合わさってあんな風になったんだろう。

 

 

 俺としてもこれで更識会長のからかい癖が自重されたらそれでいいし、原作では二学期に入ってからだった姉妹の仲直りが学年別トーナメント前に終わらせることが出来たんだ。

 この後の学年別トーナメントが終わって臨海学校が終わったら夏休みになる。仲直りしたんなら夏休み中に姉妹二人で遊びに行くことだって出来るだろう。打鉄弐式の人員が白式に取られるなんてことはなかったから、簪は既に打鉄弐式を持っているんで整備室に籠る必要なんてないだろうし。

 今までお互いに素直になれずにすれ違っていたんだ。これからは普通の姉妹となって仲良くやっていくだろう。夏休みは仲良くするための絶好の機会。それに間に合わせるために頑張って仲直りさせたんだ。

 

 だから『僕は悪くない』。むしろ俺って褒められることをしたよね?

 いやー、良いことした後は気分が良いなぁ。原作よりかはちょっと捻れた仲直りだけど別に問題はない。

 

 

 ま、もう終わったことはいいとして、次は学年別トーナメントか。

 どうするんだろうな? 原作みたくツーマンセルで行うんかな?

 

 でも原作のツーマンセルトーナメントは、確かクラス対抗戦で起きたゴーレムⅠ乱入のアクシデントのようなことを警戒してツーマンセルにしたはずだ。

 だったらここでは普通のトーナメントになるかもしれないな。

 

 クラス対抗戦でゴーレムⅡが参戦したとはいえ、別に事件や事故扱いじゃなくて束姉(たばねー)さんの思い付きワガママとして受け止められているみたいだから、改めてわざわざ警戒する必要はないんだよ。

 まあ、もしかしたらまた束姉(たばねー)さんが変な発明品を送ってくるかもしれないと教師陣は戦々恐々しているかもしれないけど、さすがにこの短い期間で新たな無人機を作るのは束姉(たばねー)さんでも無理だろう。

 いや、通常の無人機なら無理ではないけど、ロマン機体は無理というべきか。原作のゴーレムⅢのようなものならもしかしたら既に何機か持っているかもしれないが、わざわざ束姉(たばねー)さんが送ってくる理由はない。

 

 ロマン機体といえば、ゴーレムⅡは大人気だったなぁ。ネットでもスレ立てられてたし。

 ゴーレムⅡの騒ぎは結局『篠ノ之博士だから仕方がない』で終わった。

 それに地中用シールドバリアー問題があるので特に問題視はされなかったんだろう。どこの国も重要拠点、原発やら国会議事堂とかに地中用シールドバリアーを設置するのに大忙しみたいだし、むしろ世界は束姉(たばねー)さんにお礼を言う立場だからな。

 俺はせっかくのISコアを3つも壊したことに少し皮肉を言われたけど、あまり責め立てられるような感じじゃなかった。束姉(たばねー)さんが今度自ら会いに来るようなことを言っていたから、その前に弟である俺にケンカ売るようなしたくなかったんだろう。

 それに新たにISコアが3つ手に入ったとしても、コアの帰属先でまた揉める羽目になっただろうしな。せっかく束姉(たばねー)さんが失踪してからの混乱から落ち着いてきた頃なのに、また波風立つのを嫌だったんだろう。

 

 どうやら世界各国は、このまま見守っていたら束姉(たばねー)さんがそのうち世間に帰ってくると考えているみたいだ。

 それなら今わざわざ混乱を引き起こすようなことをしたり、コアを手に入れようと暗躍して篠ノ之博士の不興を買うようなことを仕出かすのを恐れているんじゃないかと思う。

 テロリストや各国の強硬派以外はもう変なことを仕掛けてこないとみていいだろう。更識の協力もこれまで以上に望めるだろうし、当面は身の危険はないと考えていい。

 

 

 話が逸れた。

 まあ、ツーマンセルじゃなかったら普通にやればいいだけだけど、もしツーマンセルだったらどうしよう?

 だって一年の専用機持ちは七人なんだよ。奇数だから一人余っちゃうんだよ。

 

 専用機持ち同士で組まなきゃいけないってわけじゃないけど、ウチの女性陣六人は普通に仲が良いからなぁ。プライベートでも俺そっちのけで遊んだりしているみたいだし、これだとわざわざ他の一般生徒と組む理由がない。

 もしかしたら簪ぐらいはのほほんさんと組むかもしれないけど、俺と当たるときのことを考えて出来るだけ信頼が置けて強い奴と組みたいと思うの当然だろう。

 だから一人余っちゃうんだが、その場合に余るのはやっぱり俺なのだろうか?

 

 俺と組んだら優勝はほぼ確実だからなぁ。

 ウチの女性陣は優勝確実がわかりきった組み合わせはつまらないと切って捨てて、むしろ俺という強力な敵を倒すという困難な道を選ぶタイプだし、下手をしたら俺は本当にボッチになるかもしれん。

 そうなったらのほほんさんでもタッグに誘おうか。

 

 ……受けてくれるかな?

 今回のことで少しやり過ぎたかもしれん。脅えられたりしないかなぁ?

 

 かといって抽選で見ず知らずの人と組むことになっても気まずい。抽選で組む相手は確実に一般生徒だろうから、俺の白式・ベルセルクルという連携もクソもない機体と組ませるのはさすがに可哀想だろう。

 近づいてぶった切るのに連携もクソもないんだよなぁ。箒ぐらいに息が合ってれば大丈夫かもしれないけど、一般生徒にそこまで望めるわけないだろうしなぁ。

 

 それに一緒に戦って、恋愛云々で噂とかされると恥ずかしいし……。

 

 

 

 ……恋愛云々といえば、俺をからかったらどうなるかこれでわかっただろうし、もう更識会長のイタズラは気にしなくてもよくなったのかな。

 これで少し気が楽になった。

 

 俺としても大変だったんだよ。俺以外は女性のIS学園という場所にいるのに、その上で裸エプロンで迫られたりしたら男として辛いんだよ。

 ただでさえ箒や鈴からのアタックと、あざといけど本気でやってるかどうかわからないシャルロットの行動で大変だというのに、更識会長はイタズラでそれ以上の過激なことをしてくるからなぁ。

 

 箒はゴーレムⅡ戦以降、やけにくっついてくるようになった。一度許したものを跳ね除けるのは気が引けたし、他人が見ているところではそれほど大胆にくっついてこなかったから窘めようがなかった。だけど人前でないところでは積極的にくっついてくるんだよ。それも決して一線を越えないようにはしていたのでこれも窘めることが出来なかったし、正直胸の感触がたまりませんでした、ハイ。

 鈴は鈴で箒に張り合うようにくっついてくるようになった。箒と比べたら感触は物足りなく感じるのは仕方がないが、胡坐かいて座ってた俺の膝の上に乗って俺の身体の内側にスッポリ収まるなど、中々に俺のツボをついた小柄なその体を生かした攻勢を仕掛けてくる。その状態で俺の手を取って、自らを抱きしめさせるように手を前に回させる女の子って可愛いよね。

 シャルロットのデュノア社からの報告書の説明するときに、俺の後ろに回って胸を押し付けながら説明するのはわざとなんですかね? それを指摘したら真っ赤になって離れて『一夏のえっち……』なんて言ってくるなんて、あざといにも程があるわ!

 ラウラ? ……ラウラにくっつかれても別に平気だな。箒や鈴やシャルロットがしてくるようなこと全部してくるけど、ハイハイって感じで流すことが出来る。やっぱ俺はロリコンやなかったんや!

 セシリアはたまに一人で妄想しているのか急にイヤンイヤンと顔を赤くしながら頭をブンブン振っているときがあるし、簪は最近お菓子を作ってきてくれることが多くなった。

 

 真面目な話、もう少しで若さが暴発するかもしれません。たまに箒たちに手が伸びそうになる。

 これで更に更識会長のイタズラがあったら本当にどうなっていたかわからん。

 性欲を持て余す。

 

 もう本気で辛いんです。煩悩を解消しようにも部屋には盗聴器がセットされている可能性は否定出来ないし、そもそも18禁のものを持ち込むことが出来なかった。

 シャルロットによる定期検査があるからベルセルクルの拡張領域(バススロット)に入れておくわけにはいかないし、部屋に隠しておいたら更識会長辺りの家探しで見つけ出されそうなので、怖くて持ち込むことは出来なかったんだよ。

 もし18禁のものが見つかって、女子にヒソヒソと噂話されるようになったときのことを考えるだけで死にたくなる。

 

 だけど、これで更識会長の心配はなくなったので、安心して18禁のものを持ち込めるな。弾に頼んでおいたものを今度の休みにでも取りに行くか。

 俺は「え? なんだって?(鈍感)」で流すことの出来るラノベ主人公の境地には至れないんだよ! チクショウがっ!

 

 

 

 

 

――― 五反田弾 ―――

 

 

 

[これが依頼されたものだ]

[感謝する]

 

 

 タブレットPCと待機状態ISの立体映像で筆談、というかタイプ談?するのはめんどくさいな。

 とはいえ一夏がいるから盗聴されているかもしれないので、こんなことを口に出すわけにはいかないから仕方がない。

 

 

[注文通りのスタンドアローン型のタブレットPC。そもそもの部品がないからネットには絶対繋がらない]

[それでいい。スタンドアローンにしないと束姉さんに侵入される恐れがある。

 あの人にとって市販PCのセキュリティなんて、ティッシュペーパーより軽く破れるものだろうさ]

[お前も大変だな。エロ本を持ち込むのにここまで苦労するなんて]

[用意してくれたお前も苦労しただろう]

[いや、俺は仲介役のようなもので、実際の作業は数馬だ]

 

 

 蘭がいつ入ってくるかわからねー部屋でそんな作業出来ねーって。

 

 一夏に依頼されたものは、エロ本やらAVを入れたタブレットPC。

 ダミーとしてA(アニマル)V(ビデオ)なんかも入れているが、鈴や箒たちに見つかったらやはりマズいだろう。

 

 だから起動させるためのパスワードも通常の数字4桁ではなくて、大小文字の区別アリ英数字16桁の高セキュリティ。更には2週間ごとにパスワードを変えるらしい。

 そしてそもそも見つからないように隠し場所にも工夫をした。隠し三重底になっている箱を用意し、一番上のほとんどの空間はダミーの小物入れとして利用。一番下にこのタブレットPCを隠して、真ん中の空間には家探しした連中対策に『アダルトDVDかと思った? 残念! アニマルDVDでした!』と書かれたメモが貼られた“もふも○テクニック”が仕込まれている。ウホっ! いい肉球。

 箱自体が重めの素材で出来ているので、タブレットPCの重さでバレることはないだろう。

 一夏がIS学園に入学する前に頼まれた奴だが、ようやく最近になって学園内に持ち込んでも平気と判断したらしく、こうやって遊びに来たついでに持って帰るらしい。

 結構重いけどISの拡張領域(バススロット)に入れて手ぶらで持って帰れるってのは楽そうだな。

 

 ……でも相変わらず大変だなぁ、一夏は。

 実家にいたときもあの千冬さんと一緒に暮らしていたんだから、もし見つかった時のことを考えたら家にエロ本とかは置けないし、そもそも千冬さんの弟ということで町でも有名人だった一夏はエロ本自体を買えなかった。だから千冬さんが長期的に家を空けるときに俺や数馬が手に入れたエロ本をコッソリ渡していたんだが、それでも限度がある。

 世界的有名人である千冬さんの暮らしている家はネットの監視もされているかもしれないから、ネットでエロ画像を見ることも出来ないって言ってたしなぁ。

 おかげで一夏は外面は完璧な清廉潔白な好青年だ。

 

 俺と一夏は中学から同じ学校になったけど、小学時代からの付き合いがある奴は一夏のことをリーダーとして頼りにしている節があったんで、なかなか自分の弱いところはそいつらに見せづらいらしい。

 一夏自身も学級委員とかもちゃんとやっていたし、IS使えることが発覚しなけりゃ中学三年になったら生徒会長とかもやってたんじゃないかね。

 それに一夏の性格的に自分を頼ってくる奴を無碍には出来ないし、自分の行動で千冬さんに迷惑がかかるかもしれないということを考えたら変なことは出来ないだろうしな。そりゃそんな生活を送っていたらストレスは着々と溜まっていくだろうよ。

 

 だけど俺は一夏がウチの食堂に小学時代からよく来てた縁で知ってたから、中学時代から知り合った奴よりは最初から親しかったし、小学時代に世話になってないから別に一夏をリーダーのように思っていなかったので、一夏とは普通の友人として付き合えた。……いや、友人になってからは勉強では世話になったけどさ。

 それで一夏としても俺は楽に付き合える人間だったんだろう。小さいときから知っているし、特に取り分けて面倒を見る必要もない。お互いに姉妹がいる立場だから愚痴を言い合えるような仲だ。

 だからこうやって一夏も他人やそれこそ千冬さんにすら……というか千冬さんにこそ言えないことを相談してくるけど、一夏の立場は男としてマジで同情するわ。

 俺に出来ることがあるなら手伝ってやるから、これからも頑張れよ。

 

 ……と、いつまでも黙っていたら、監視役の人間に変に思われるかもしれないから、何でもいいから喋るか。

 

 

「おい、一夏。いつまでもマンガ読んでねーでそろそろゲームしようぜ」

「ちょっと待ってくれ。

 マンガなんか購買に売っていないから、こうやって外に出てこないと買えないんだよ」

「じゃあ俺先に一人で始めてるぞ」

「ああ、もうちょい待っててくれ」

 

 

 相変わらずIS学園ってのは大変みたいだなぁ。

 メールで泣き言らしきものを何度か聞いているが、俺だったら一夏と同じ立場で過ごす自信ないわ。

 タブレットPCが見つからないようにあんな細工をする必要があるなんて。蘭がいることで少し気を使っているだけの俺とは比べ物にならねぇな。

 まあ、一夏以外は全員女子って状況なら仕方がないけどよ。

 

 

 それに今でもいくら警護目的とはいえ、IS学園から外出する時は常に見張られてるなんてゾッとするわ。

 そりゃ身の安全のためには仕方がないのかもしれないけど、そんなことされたら俺だったら気が狂うね。

 

 一夏の友人ということで、テロ警戒のために俺の家も一応は監視……というか、この町で騒ぎが起こったら確認を行うための情報員が町にずっと滞在しているらしいけど、俺たちのプライベートまで覗くようなことまではしていないらしいのは助かる。蘭がいるからそういうのはさすがに困るんだよ。

 情報員に俺たちのプライベートの邪魔をしたり覗いたりしないように、一夏の方から要求してくれているらしいから俺たちはまだいいけどよ。ま、そもそも人手が足りないから、俺たちのプライベートを把握するってのは物理的に無理らしいが。

 しかもその情報員が警護がてらウチでちょくちょく食事しているらしいせいか、売り上げが例年より微増しているらしいのはありがたい。

 

 

[約束通り、報酬としてIS学園の学園祭入場チケットを渡そう]

「っしゃあ!」

[声出すなバカ!!]

「……い、いきなりどうしたんだ?」

「い、いやぁ、ようやく格ゲーで勝てなかった敵に初めて勝てたから、思わず声を出しちまって……」

[お前、学園祭で変なことするなよ。

 したら招待した俺がペナルティ喰らうかもしれないんだからな]

[わかってるって]

[もしやったら、来年は招待しないぞ]

 

 

 ワ、ワリィ。つい声出しちまった。今度から気を付けるから来年も招待チケットよろしく!

 でもあのIS学園に入れるんだぜ! 歓声上げてもしょうがねーじゃねーか!

 数馬も行きたかったらしいけど、ジャンケンで勝ったのは俺だしな。まあ、数馬にはIS学園に行けない分だけ現金収入が増えるとはいえ、文句ぐらいは聞いてやるけど。

 聞いてやるだけだけどな。

 

 数馬も苦労しただろうなぁ。

 俺が動いて俺が一夏に渡したら足が着くかもしれないから、俺を仲介役として数馬が動いて俺が渡す。

 一夏がIS学園に行ってからはこの町の監視も緩くなっているらしいからバレてはいない筈…………というか、監視役の上に一夏がいて、バレてないことはわかっているんだから問題ないよな。さすがの俺もこんなことしたなんて家族にばれたらヤバい。

 というか自分の立場を利用してこんなことするなんて、汚いなさすが一夏きたない。

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 お、どした? いきなりタブレットPCをISにしまって?

 っていうかやっぱり量子化格納って便利だなぁ。俺もIS欲しいぜ。

 

 

「い、一夏さん、よろしいですか?」

 

 

 ん、蘭か? そうか蘭の気配を察知したからタブレットPCをしまったのか。相変わらず一夏は鍛えているせいか、こういうのに鋭いな。

 蘭も蘭でいつもはしないノックなんかしてから呼びかけてくるし、こっちも相変わらず俺との扱いが違いすぎる。

 

 

「蘭ちゃんか、どうかした?」

「お、お茶を淹れたんですけど、いかがですか?

 お土産のシュークリームも一緒に……」

「ああ、わかった。頂くよ」

 

 

 けっ、蘭も色気づきやがって。というか俺の部屋なんだから俺にも声かけろよ。

 何で一夏はこうまでモテるんかね。傍から見たら告白してくる女子を容赦なく振る男にしか見えんのに、女子は逆にそれが“将来のこと立派に考えている”って思うらしいけど、一夏の本性を知っている俺からするとひいき目に過ぎると思うんだが。

 女子連中が思ってるほど一夏は完璧超人じゃねーぞ。一夏も一夏で無理して背伸びしてねーで、少しは周りに頼ればいいのに、まったく……。

 

 ま、疲れたら愚痴ぐらいは聞いてやるんで頑張れや。

 

 

 

 







 創造(ブリアッはぁ~☆)――“露出の変態淑女(Pervert Dame der Exposition)”!


 ……変態淑女とか変態紳士とか、ここまで語の中で矛盾している四文字熟語はほかにあるだろうか?
 これで更識姉妹は仲直り出来ました。ヘル簪もこれでようやっと落ち着いてくれるでしょう。


 そして一夏は性欲を持て余しちゃう――男の子だもん。

 更識会長をいぢめてた理由がこれです。
 最低だな、一夏。しかも企業からの寄付金をこんなことにも使うなんてますます最低だな、一夏。
 でももう少しで暴走しちゃって、人生の墓場に直行するところだったんだもん。仕方がないよね。
 ファウルカップ対応ISスーツがあって本当に良かった!


 それにしても“も○もふテクニック”一度でいいから見てみてぇ。
 あ、それと“露出の変態淑女(Pervert Dame der Exposition)”は機械翻訳ですからね。

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