AS オートマティック・ストラトス   作:嘴広鴻

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第15話 自業自得

 

 

 

――― 織斑一夏 ―――

 

 

 

「それでは今度行われる学年別トーナメント、“ツー()()セルトーナメント”について説明する」

 

 

 え? なんだって?(鈍感)

 

 

「従来の学年別トーナメントは生徒同士が一対一で試合を行っていたが、今年の学年別トーナメントは二つのコアを一組単位として試合を行うことになった。

 要するに二人でIS二機を使うか、一人でAIS一機を使うかだな」

 

 

 ぱーどぅん? 何を言っているのかわからないな、千冬姉さん?

 もしかして俺にボッチになれと言っているのは気のせいだよね?

 

 俺がさっき職員室から運ばされた学年別トーナメントの参加登録用紙には二名分の記述欄があるけど、これはツー()()セルじゃなくてツー()()セルの参加登録申し込み用紙だよね?

 

 

 ……いや、いやいやいやいや、だって無理でしょ。

 一年生は全部で240人なんだよ。俺が一人で出場するとなると残りは239人。これだと奇数になって一人余っちゃうじゃないか。

 誰か一人をシードにして、一回戦で負けた生徒をそのパートナーにする? 現実的ではないでしょう、それは。

 

 あ、そっか。俺にAISで出るなって言いたいんだな。ウン、きっとそうだろ。

 よくよく考えたらいくらAISがルール的に問題はないとしても、普通のタイマンやツーマンセルの試合でAISを使うのは実際のところかなり卑怯だろう。

 現に先のクラス代表戦では手加減したというのに、俺のシールドエネルギーを100減らせる人がいなかったんだからな。

 

 いくらルール的に問題ないとはいえ、学年別トーナメントでもAIS無双をすることが予想出来ていたら生徒のやる気が失せてしまうかもしれない。AISはルール的には全然問題ないんだけどね! 大事なことなので二回言いました。

 学園としても学年別トーナメントを開催する目的として、一年は浅い訓練段階での先天的才能評価をしたいということらしいから、なるべく学生には同じ条件で戦ってもらいたいんだろう。ウン、きっとそうに違いない!

 

 やれやれ仕方がないなぁ。

 企業のスカウトや各国の重鎮にAISの性能を見せつけられないのは残念だし、AISを使わないのはAIS開発に協力してくれたデュノア社に申し訳ないけど、今回は白式単体で出場することにするか。

 ルールだから本っ当に仕方がないなぁ。いや、まったく残念だけど仕方がないなぁ。

 

 

「なお今回のトーナメントのためにデュノア社がベルセルクルの貸し出しをしてくれることになった。もちろん稼働データの提供は必要だがな。

 それと貸し出されるベルセルクルは一つだけなので、希望者が二人以上いたら抽選となるから、ベルセルクルの貸し出しを希望する場合でもパートナーの目星はつけておけよ。

 希望者は明日の五時までに申し出るように。その後に希望者で抽選を行う」

 

 

 あばばばばばっ!? 何ソレ!? 確かにそれなら余る人はいなくなるけど!? でも俺そんなことデュノア社から聞いていな…………くはない?

 アレ? そういえばこの前電話で話したとき、親父さんがデモンストレーションのためにIS学園にしばらくコアを一つ貸し出すようなこと言ってたわ。俺もノリノリで追加武装の案を出してたわ。自業自得かよ、コンチクショウ。

 

 ってか追加武装案でヤベェの提案しちゃってたぞ! あくまで対IS用の武装であって対AISを考慮していなかった武装だとはいえ、それでもラファール・ベルセルクルに当たったら次の試合に響くかもしれないからマズい!

 こんなことになるなら少しは自重した武装を提案しておけばよかった!

 

 

「はい。それじゃあ二人組作ってくださいね」

 

 

 おいやめろ。トラウマ直撃しないで山田先生。

 小四で箒が転校しちゃってからはクラス人数が奇数になったから、体育の時間とかは箒とばっか組んでた俺が余るようになったんだよ。担任の先生にはお世話になりました。

 

 べ、別に嫌われてたりしなかったんだからね!

 男子女子が元々両方とも奇数だったんだよ。箒が転校した頃には既にクラスの中でペア組む相手がだいたい決まっていたから、箒がいなくなった後の俺が余っただけなんだ。元々余った男女で組んでも平気だった俺と箒が組んでたんだしさ。

 ……鈴が翌年転校してきてくれて本当に助かったわ。

 

 って、こうしちゃいられねぇ!

 この状況、早く何とかしないと!

 

 

「ねえ、ラウラ。私とペアを組もうよ」

「望むところだ。シャルロットとなら連携も上手くいくだろう」

「私はどうしましょうかしら?

 ブルー・ティアーズの性質上、近接戦闘に秀でた方がいいですわね」

「それじゃあ私と組もうか、セシリア。私の甲龍は近距離格闘型だしさ」

「フム、それなら私は簪とだな。火力に不安がある私にとっては良い相棒だ」

「うん、荷電粒子砲のエネルギーが切れたら箒にお願いするね」

 

 

 やめて。俺をそっちのけにして話し合わないで。

 くそっ! 俺の原作と違う動きによってこんな違いが出てくるなんて!

 

 それと鈴もラウラも、自分一人だけの力で俺に勝つとか言ってなかったっけ?

 

 

「いや~、私としてもそうしたいんだけどねぇ」

「ルールだから仕方があるまい」

「そうそう。残念ですがルールですから」

 

 

 全然残念そうな顔じゃないよ!

 諦めんな! もっと熱くなって俺を1人で倒すって意気込んでみろよっ! ネバーギブアップ!

 

 ……え、これもしかしてマジでボッチ?

 

 

「シャ、シャルロットさん? 俺が白式単体で出ますから、シャルロットさんがベルセル「ゴメンね一夏。この申し込み用紙は二人用なんだ」だから俺がその二人になるって言ってるの!」

 

 

 くそっ! いつもは俺の周りに集まってくるのに、こういうときだけ女子で結託するなんて!

 俺何か悪いことしたか!? せいぜい白式・ベルセルクルで無双しただけじゃないか!

 

 ウン、それだよな! 自業自得だったな!

 

 

 ……だ、大丈夫。俺の白式・ベルセルクルに勝てる可能性を持っているのは、専用機持ち組ではラウラとシャルロットペアだけだ。

 鈴・セシリアペアは普通に各個撃破すればいいし、箒・簪ペアも速攻で簪を倒してから箒をじっくり倒せばいい。

 

 だけどラウラ・シャルロットペアではラウラのAICで完璧に動き止められて、手足も出せなくなったら勝ち目がなくなる。

 マズい。それを回避するためにも速攻でラウラを神鎗零落白夜で落とさなければ。

 他に可能性があるとしたら、誰かが使うことになるラファール・ベルセルクルの武装次第か。

 

 それにほぼ勝てるだろうけど、ペアで行うお祭りに参加出来ないのはちょっと寂しい。

 こうなったらラファール・ベルセルクルを使う人にアドバイスしまくって、専用機ペアを倒させてやるーっ!

 

 

 ……って、待てよ。何でAISは一機のみなんだ?

 俺を入れたら二機だけど、どうせ一回の試合で使うコアの数は変わらないんだから、AISの数をもうちょっと増やしてもいいんじゃないのか?

 それこそシードが出ないように2の乗数、2の7乗である128組になるようにベルセルクルで組数を調整すれば公平になるんじゃないのか。

 

 一学年240人だから、ツーマンセルなら120組が出来る。俺ともう一人がAISで出るんなら121組。

 こんな感じに組数を増やせば……って、よく考えてみたらそこまでベルセルクルの余裕がないな。いくらデュノア社でも、この短期間にコア抜きとはいえ15機分のベルセルクルを用意するのは無理だろう。

 

 チッ、トーナメント順位ベスト16全てをAISで独占するという野望が早くも崩れ去ってしまったか。

 白式・ベルセルクルとラファール・ベルセルクルでは勝手が違うとはいえ、それでも平均的な一年生程度の技量では、火力による圧倒的なゴリ押しが出来るAISの方がかなり有利になるはずだ。

 それに専用機持ち組相手でも勝てる武装は提案済みだから、ベスト16全て独占も夢ではなかったのに残念だな。

 

 まあ、いい。こうなったら俺ともう一人で、優勝と準優勝をAISで独占してやらぁっ!

 

 

 

 

 

――― シャルロット・デュノア ―――

 

 

 

『……というわけで、今度貸し出すことになったベルセルクルのことはお前は関わらなくていい。自分たちのことだけを考えなさい。

 使うのが誰になるかはまだ聞いていないが、一夏君がAIS使用者の先輩として面倒を見てくれるそうだ』

 

 

 へー、そうなんだ。

 一夏がツーコアセルトーナメントのことを知ったのは昨日だけど、随分と動きが早いねぇ。

 といっても、私が知ったのも一昨日の夜なんだけどさ。ベルセルクルの使用を許可するかどうかの議論で、最後まで職員会議が紛糾して遅れちゃったみたいなんだよ。

 

 それも仕方がないんだけどさ。

 何しろデュノア社内で行った模擬戦では、ラファール・ベルセルクル一機でラファール・リヴァイヴ二機を相手に勝っちゃったってことなんだから。しかも圧倒的な戦いだったから、ラファール・リヴァイヴがもう少し増えても問題なく勝てるみたい。

 戦い方は防御を考えずに火力でゴリ押し。そりゃミサイルを散々撃ち込んで動きを止めた後、荷電粒子砲をインコム使って10丁以上同時に叩き込めば、あっという間に各個撃破出来るよね。

 

 さすがにこれだったらIS学園もAISの使用許可を出すのを渋っちゃうよ。機体の性能……というか火力のゴリ押しだけで勝負が決まっちゃうなんて、これ以上やる気が削がれる話はないもの。

 一夏の白式・ベルセルクルも零落白夜とかあるからアレだけど、でもあそこまで強いのは一夏の技量あってのこと。一夏だったら私たち専用機持ち組にも勝てるだろうけど、今の一年生が白式・ベルセルクルをつかっても完封されて終わりになると思う。一人じゃ辛いけど多分二人だったら余裕かな。

 だけどミサイルとか荷電粒子砲を適当に撃ちまくってたら勝てるっていうのは、技量も何もあったものじゃないからねぇ。

 

 だからAISを一機使うってだけでも英断じゃないかな。

 それにIS学園は研究機関としての側面もあるから、誰もやりたがらないAISの性能評価もしなければならなかったのだろうしさ。

 

 

 ……それにしても、何だかやけに疲れてるような声してるね、お父さん。

 

 

「あ、使用者は決まったよ。今日の放課後にくじ引きをして決めたんだ。

 当選者はウチのクラスの布仏本音さんって人。彼女ならちゃんとラファール・ベルセルクルを扱ってくれると思う」

『フム、ならコッチの昼頃には報告が来るか。詳しいことはそれを待ってからにするとしよう。

 シャルロットも一夏君に勝てとまでは言わないが、専用機持ちにふさわしい戦いをしてくれ。日本以外の専用機は第三世代以上のISだから厳しいとは思うが、フランスとデュノア社の名誉はお前の肩にかかっていると思ってくれ』

「わかってる。機体の性能差が戦力の決定的な差ではないことを示すよ。

 言っておくけど、いくらデュノア社のベルセルクル相手でも手加減しないからね」

『……デュノア社としては、出来れば機体の性能差で勝てるようなISを作り上げたいところなのだがな』

「アハハ……頑張ってね、お父さん。

 でも本当にラファール・ベルセルクルの方はいいの?」

『大丈夫だ……というより、シャルロットもその布仏さんも同じトーナメントの参加者だろう。

 シャルロットがその布仏さんに関わるのは馴れ合いともとられかねないし、ラファール・ベルセルクルの後付装備(イコライザ)の中身をシャルロットが事前に知っていたら、布仏さんが不利になるかもしれないことを学園は考えているんだろう』

「それもそっか。でもそれだったら一夏はいいの?」

『問題ないだろう。布仏さんはAISに不慣れなのだから、AISの先輩である一夏君から少しアドバイスしてもらうぐらいのハンデはあってもいいはずだ。

 それに後付装備(イコライザ)についても白式・ベルセルクルは性能的に極端な機体だからな。中身を知っていようが知らなかろうが、結局は一夏君のやることに変わりはないのだからな。

 ああ、もちろん学園の許可は取ってあるぞ』

「ふーん。それなら安心だね。

 ところでその許可を取ったのは、お父さん……じゃなくてやっぱり一夏なのかな?」

『………………』

「………………」

『………………』

「……何か言ってよ」

『ル、ルールに違反するような後付装備(イコライザ)はつけないから!!』

 

 

 答えになってないよ、お父さん!

 一夏ったら何か企んでいるようだったけど、もしかして全力で布仏さんに全面協力するつもり!?

 それに“ルールに違反しない”って言い回しがもの凄く気になるんだけど!?

 

 

『真面目な話、IS学園でいったい何があったんだ?

 昨日、一夏君からジャパニーズスマイル全開で連絡があった時は恐怖を感じたんだが?』

「えー、一夏ったら本気で拗ねちゃったのかなぁ?」

『な!? な、何をしたんだシャルロット!?

 一夏君の機嫌を損ねるようなことをしたのか!?』

「いや、ただタッグトーナメントに一人で参加するのが寂しいだけだと思うよ。

 ああ見えて一夏は寂しがり屋だから」

『……そんな風に彼のことを言えるのはシャルロットぐらいだろうな』

 

 

 私だけじゃなくて箒たちも同意見だよ。それと織斑先生も。

 というか、元々は織斑先生がそう言っていたから、私たちも注意して一夏のことを見てたらそんな風に感じたんだけどね。

 

 何でも一夏は事前に話しておけば大抵のことは許してくれるけど、話を通しておかなかったりしたら拗ねるらしいよ。

 織斑先生が学生時代、篠ノ之博士に付き合わされたせいで連絡もせずにいつもより帰る時間が遅くなったりしたら、小さい頃の一夏は顔は笑っているんだけど気配が拗ねてるんだってさ。気配が拗ねてるってのもおかしいんだけど、そうにしか感じられないみたい。

 宥めるのに苦労したって織斑先生が言ってたよ。

 

 それに私たちから見ても、一夏の部屋に押し掛けても口では憎まれ口叩くけど、お茶やお菓子は常備していつでも出してくれたりで歓迎してくれるんだよね。それに何より“もう遅いから帰れ”はあっても、“来るな”とは言われたことないし。

 部屋から帰るときもドアのところまで見送りに来てくれるし、そういう細かいところまで気を使ってくれるもの。要するにツンデレだね。

 もちろん私たちも一夏に頼ってばっかりじゃなく、手作りのお弁当やお菓子でお礼をしているよ。……セシリアはお茶淹れ係だけどさ!

 

 ……ああ、思い出しちゃった。一夏が激怒したときのことを。

 一回だけあったんだよね。セシリアの料理があまりにも酷かったから、セシリア自身に自分の料理を食べさせたときの一夏の微笑みは確かに怖かった。

 まあ、あまりのマズさに自分でも完食出来ないような料理を作ったセシリアが悪いんだけど、それでも一夏の余りの怖さに私たちは誰もセシリアを取り成すことも出来なかったもん。あれはジャパニーズスマイルとはまた違うものだと思うんだけど、普段は冷静な人ほど怒ると怖いって本当みたい。

 お父さんもあの笑みに当たっちゃったのかぁ。ご愁傷様。

 

 

『ほ、本当に大丈夫なのか?』

「これぐらいなら大丈夫だって。一夏はそんな小さい人間じゃないよ。それに明日にでも皆でご機嫌を取っておくから。

 それに一夏が本気で怒っていたらお父さんに連絡なんかしないよ。連絡しないで一夏が自分一人で何かを企むだろうね」

『それを聞くと余計怖いんだが……』

「大丈夫大丈夫。こんなことで崩れたりしない信頼関係は築けているよ」

 

 

 もちろん一夏の厚意に甘え続けたりはしないけどさ。

 ちゃんと一夏の期待には応えるし、何より私自身も一夏の力になりたいって思ってるから。

 

 だけど今回のトーナメントについては悪気があったわけじゃないんだけどなぁ。

 確かに一夏に伝えられなかったのは悪かったと思うけど、そもそもは学園が最終決定を出すのが遅かったのが理由なんだし。

 

 でもそんなに一夏が拗ねてるんだったら宥めないと駄目だね。

 デュノア社としてもAIS一機がIS二機以上の性能を発揮することを、他の企業や国の重鎮さんたち相手に是非ともこのトーナメントで宣伝したいから、AISで出てもらう一夏には頑張ってもらわないといけないし。

 もちろんのほほんさんにも頑張ってもらわないとね。私だとISに慣れ過ぎているせいか、AISを使うとどうも勝手が違うように感じちゃうんだよ。その点のほほんさんだったらまだISに慣熟しているわけじゃないから、逆にAISに慣れやすいと思うよ。

 

 

『……シャルロットがそこまで言うのなら大丈夫か。

 以前に電話で話したときも、一夏君にシャルロットがいてくれて助かっているとお礼を言われたんだし』

「え? ……えへへ、一夏ったら恥ずかしいなぁ、もう。

 というか、お父さんって意外と一夏と仲良いよね?」

『まあ、男同士だからな。ブリュンヒルデやシャルロットに言えないことだって一夏君にはあるんだ』

「別に深く聞き出そうとは思わないよ。お父さんと一夏の仲が良いのは、私にとっても都合の良いことだし。

 それじゃあ、そろそろラウラが帰ってくるから切るね。お義母さんにもよろしく言っておいて」

『わかった。それとシャルロット……』

「? まだ何か?」

『………………』

「……な、何なのさ?」

『絶対防御があるから安心だからな!』

「……は? 何なのその不安にな『それじゃあ頑張れ!』るって……もしもしっ!? もしもーし!?」

 

 

 電話切られた!? ヤダー……一夏ったらいったい何を企んでいるんだろう?

 これは本気でマズいかな。今すぐ皆と相談しておこうか。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、抱っこ」

「何を言っているんだ、ラウラ?」

 

 次の日の昼休み、昼食を取りにクラスの皆がバラバラに移動し始めたときに、ラウラが一夏の前に立って一夏に両手を伸ばす。

 

「抱っこ」

「……いや、高校生にもなって抱っこって……」

「抱っこ」

「………………」

 

 無言でラウラを抱っこする一夏。もちろんお姫さま抱っこじゃなくて、普通の子供にするような抱っこ。

 高校生にもなってと言うけど、身長が180近い一夏が150に満たないラウラを抱っこするのはあまり違和感が感じられないよ。しかも今まで散々肩車やらおんぶやら好きにさせていたんだから何を今更って感じなんだけど。

 それにやっぱり一夏はラウラに甘いよね。

 

「一夏、今日は私と箒と鈴でお弁当を作ってきたんだ」

「和洋中と勢揃いだぞ」

「屋上に行って皆で食べましょう」

「デザートにカップケーキもある」

「私は飲み物を用意してきましたわ」

「……のほほんさんも一緒にだからな」

「うん、行く行くー。かんちゃんのケーキー!」

 

 

 ご機嫌取り終了。

 何だか“ちょろい”という言葉が思い浮かんだけど、一夏がちょろくなるのは私たちに対してだけなのがちょっと嬉しいな。

 他の女の子が同じことやっても警戒して終わりだし、これで機嫌が直ってくれるということは私たちを受け入れてくれているってことだからね。

 

『いっくんはねー、ああ見えて甘えん坊だよ。ちーちゃんと同じくね。

 といっても、自分から甘えてスキンシップを取ることなんて出来ないから、逆に甘えられてスキンシップを取るのが好きなんだよ。恥ずかしがり屋さんだからねぇ。

 え? ……ちーちゃんは違う? いつも私が抱き着こうとしたら殴られて拒否されてる?

 あはは、違うよ箒ちゃん。ちーちゃんが本気で嫌がっているんなら、抱き着こうとすることさえ出来ない目に遭わされるに決まってるじゃん。何度もチャレンジ出来てるってことは、逆にちーちゃんが本気で嫌がっていない証拠だよ。

 ちーちゃんも恥ずかしがってないで、もうちょっといっくんに甘えたらいっくんも喜ぶのにさ。どーせ普段からいっくんに身の回りの世話を全部任しちゃっているんだから、今更“凛々しくて頼れる姉(キリッ!”もへったくれもないのにねぇ、ハハッ!』

 

 以前、篠ノ之博士が一夏のことをこう評したらしいんだけど、一夏と親しくなればなるほどこの評に納得しちゃうな。

 例えば一夏が甘えているところ……それこそ織斑先生とかに甘えているところなんてのは、私では全然想像出来ない。一夏は同年代の私から見ても大人っぽいし、それこそ更識会長なんかよりも大人に見えるし落ち着いているから、そんなことするとは思えないもの。だけど織斑先生が一夏を跳ね除けるのも想像出来ないんだよなぁ。一夏が抱き着いたら驚いて硬直するか、もしくはムスッとした顔をして一夏の好きにさせるのかのどっちかだと思う。

 それにラウラを甘やかしている様子を見ていると、一夏はスキンシップを取るのは好きに見える。ラウラを抱っこするだけじゃなくて、空いている右手でラウラの髪を梳いているのって明らかに一夏の意思でやっているよね。

 

 なお、この後に篠ノ之博士の研究室のモニターにいきなりヒビが走るという心霊現象があったみたい。織斑先生の悪口は何があっても絶対に言わないでおこうと思う。

 

 

 ……それにしてもいいなー、ラウラ。

 

 一夏が男の子だからなのか、一夏から甘えたりスキンシップを取ってきたりはしない。甘えたいけど甘えられない。だから甘えて欲しい。そんなところかな。

 やっぱり一夏はツンデレだよ。

 それとやっぱり世界で唯一の男性IS操縦者ということが関係あるんだろうね。一夏がどうしてIS使えるかがわかるかIS学園を卒業するまでは彼女を作らないって決めているみたい……なんだけど、見ていると最近は一夏もこの状況に流されてきているようなのは気のせいかな?

 箒を抱き着かせて甘えさせたというのもそうだけど、明らかにラウラに対して甘くなりすぎている感じがするよ。もしかしてこの女子高生活のせいで一夏の感覚狂ってきてる?

 

 

 ま、それはともかくとして、一夏の気持ちもわかるなぁ。

 私だって正直なところ、気持ちよさそうなラウラを見ると一夏に甘えてみたいと思わないでもない。でもやっぱり甘えるのは恥ずかしいという気持ちの方が強いんだから。

 

 箒はこの前一夏に甘えることが出来たって言ってたし、鈴はラウラ程じゃないけど普段からスキンシップを取っている。

 だけど私は今まで一夏の秘書代わりとして隣に立っていた。そのことは別に苦じゃないし、一夏の役に立てることは嬉しいとも思う。

 でもだからこそ、部下半分パートナー半分みたいな対等に近い立場にいたのに、急にラウラみたく甘えるなんてのは恥ずかしくて出来ないよ。

 

 

 

 

「(……おりむーは恥ずかしいんじゃなくて、我慢しているだけじゃないのかなぁ?)」

「のほほんさん、何か言った?」

「何でもないよー。それにしても凄い量のお弁当だね」

「皆で食べようと思ったからね。のほほんさんも遠慮しないで食べてよ」

「ありがと、デュッチー」

 

 ホラ、ご飯食べるんだからラウラもいい加減に一夏の胸にに顔を擦り付けていないで、一夏の膝の上から退きなさい。お行儀悪いよ。

 

「お兄ちゃん、ちゅ~ウゲホッ!? ……え、襟を急に引っ張るなんて何をするんだ箒!?」

「それはこっちのセリフだ! いったい何をしようとしているんだ、ラウラ!」

「私には一夏の頬にキスしようとしたのに見えたんだけどなー?」

「親愛のキスだ! 欧米では一般的だし、日本でも唇でなければ異性の家族間でするのもおかしくないはずだぞ!」

「小さい子限定よ、そんなの!」

「それに同じこと千冬さんに言えるものなら言って来い! 『織斑先生は一夏と姉弟だからキスとか普通にしますよね?』とか言えるものならな!」

「え? ……言ったら何かマズいのか?」

「素でやってたの!?」

「言うなよ! 絶対に千冬さんには言うなよ!」

「なるほど、エミュー倶楽部という奴だな。それでは期待に応えなければなるまい」

「「だからやめろって!」」

「実際のところどうなの、一夏?」

「酔った千冬姉さんはノーカンでいいか? 千冬姉さんの二十歳の誕生日のお祝いに酒を出したら、前後不覚になるまで飲んじゃってさ。飲みやすい甘口のワインを出したのがマズかったんだろうな。

 おかげで俺のファーストキッスはレモンじゃなくてゲロの味だったぞ」

「ノーカン! それはノーカンだ!」

「というかそんな不幸な体験は忘れなさい! 織斑先生のためにも!」

「……そんな教官の醜態に近いことはさすが聞けんな」

 

 

 あはは、ラウラったら仕方がないなぁ。

 そういうのを日本でするのは、せいぜいが幼稚園ぐらいまでなんだよ。いくら何でもラウラの年じゃ違う意味にとられちゃうから気を付けないとね。

 

 ……次やったら許さないよ。

 

 

「ケーキケーキ!」

 

 

 あ、コラ。のほほんさんってばいきなりデザートから食べちゃ駄目でしょ。

 というかこの状況に動じてないね。一夏がお姉さんの方の布仏先輩と区別するためにのほほんさんと言い始めたんだけど、本当にのほほんとしているなぁ。

 はい、ウエットティッシュも持ってきてるから、サンドイッチやおにぎりを食べる前に手をちゃんと拭いてよ。

 

 それにしてもこうして和洋中と揃うと壮観だね。

 私も最近は部活の料理部で和食の勉強をしているけど、まだまだ箒には敵わないや。おにぎりも綺麗な形に握られているし、見栄えがとても綺麗。

 鈴も元々は冷めた状態で食べられることのない中華料理を、冷めた状態でも食べられるように油少な目の味濃い目にちゃんとアレンジしているし、こうやって皆で料理を持ち寄るのはやっぱり勉強になるなぁ。

 

 ……私の作ったサンドイッチはフランスじゃなくて、イギリス発祥ってのがちょっと悔しいかな。

 それにフランスのピクニックでは、バゲットやらハムやらチーズをそのまま持っていくから、こういうお弁当としてはちょっと見栄えが劣って見えちゃう。

 味では負けていないし、むしろキャラ弁当とか作る日本の方がおかしいと思うんだけど、こうして並べられるとちょっとね。

 

 

「あ、一夏。これお父さんから送ってもらったカマンベールチーズだよ。前食べたとき好きって言ってたでしょ」

「ああ、ありがとう。シャルロット」

 

 

 そういえばそろそろラウラにも料理仕込まないと駄目かなぁ。軍隊生活で一応は炊事は出来るんだけど、レシピは少ないし何だか大雑把なんだよね。

 簪はお菓子作りが得意だし、私たちの中で料理が微妙っていうのは可哀想だしね。

 

「い、一夏さん? その……そろそろ私も料理の勉強を始めようかと……」

「却下だ」

 

 私たちの中で料理が微妙っていうのは可哀想だしね!

 ラウラはセシリアみたくなっちゃ駄目だよ。

 

「そ、そんなことをおっしゃらずに! 私も反省しておりますから!」

「セシリア、どこまでスレ読み進んだ?」

「ろ、67スレ目。【地震・雷】嫁のメシがま○い 67皿目【火事・食事】まで……」

「それじゃあ100スレ目まで読み終わったら、カップラーメン作るのから始めようか」

「ちょ!? いくら何でもそれはあんまりですわ!

 私は紅茶を淹れることが出来るんですよ! それに比べたらお湯を入れるだけのカップラーメンなんて簡単に作れますわ!」

「粉末スープとかやくの袋を取り除かないままお湯を入れるに一票」

「カップ焼きそばだったらお湯捨てに失敗するに一票」

「味付けが足りませんわ! といって色んな調味料をブチ込むに一票」

「いや、カップラーメンなら軍で何度も作ったことあるが、アレで失敗するわけないだろう」

 

 ラウラは甘い!

 それで失敗するのがメシマズなんだよ!

 

「ひ、酷いですわ皆さん!」

「わかったわかった。

 でもそれはともかくとして、カップラーメンの味がどんなものか知っておいた方がいいと思うぞ。そんなに美味しいモノじゃないけど、逆に言えばカップラーメンより不味かったら本気で不味いということだからな。ボーダーラインの味も知っておいた方がいい。

 それと常備している非常食の賞味期限が来月で切れるから、そのついでにだ」

「ああ、もうそんな時期か。乾パン類は確かまだ大丈夫なはずだな。

 地震とかの災害の備えに非常食を用意しておくのは大切だが、賞味期限が近くなったらカップラーメンが続くのは好きじゃないんだがなぁ。千冬さんもその時期になったら逃げて外食で済ませるし……。

 まあ、年に二回あるかないかだし、何より食べ物を無駄に捨てるわけにはいかないから仕方がないか」

「意外とカップラーメンの賞味期限って短いのよね。

 でも一夏。IS学園にいるのなら、そういうこと考えなくてもいいと思うけど?」

「大した手間じゃないし、立場に甘えて備えをしないってわけにはいかないだろ。

 それにセシリアはカップラーメンの味を知っておいて、災害時になってから『貴族である私にこのようなものを食べろというのですか!?』と言わないようにしておいた方がいいだろうしさ」

「と、当然ですわ! そんな権力を笠に着たようなことをするなんてありえません!

 …………必要な経験だと思ってチャレンジしますわ」

「それが終わったらシャルロットが料理を教えてくれるってさ」

 

 

 だから何で私がしないといけないのさ!?

 うう……いくら一夏のお願いとはいえ、これは職場の権力を利用したパワハラに匹敵するんじゃないかな!

 箒や鈴だと確かにセシリアにブチ切れて料理の勉強どころじゃなくなるかもしれないけど、私はあくまで秘書であって便利屋じゃないよ!

 

 

「まあまあ、今度何か埋め合わせするからさ」

「……期待してるよ」

 

 

 な、なら頑張ってみようかな。一夏がそこまで言うんならやってみるよ。

 

 ……箒と鈴がピクリと動いたけど、結局見送ったのが不安になるけどさ。

 一夏の埋め合わせとセシリアへ料理を教える困難さを天秤にかけて、箒と鈴は一夏の埋め合わせを諦めたみたいだけど、私はあえて修羅の道を選ぶよ。

 

 

 

 

「アハハ、デュッチーも大変だよねぇ」

「慣れているから大丈夫だよ。それよりのほほんさんこそ大丈夫?

 ラファール・ベルセルクルにまだ慣れていないでしょ。一夏が教えるみたいだけど、私に出来ることがあったら何でも言ってね?」

「…………う、うん」

 

 

 だから何で目を逸らすのさ!?

 本気で一夏は何を企んでいるの!?

 

 

 

 

 

 







 そんな簡単に一夏の一人勝ちにすると思ったかっ!


 ……と言いたいですがアカン。今の白式・ベルセルクルに勝つ方法がガチで思いつきません。強化しすぎたか?
 ツーコアセルでシュヴァルツェア・レーゲンの武装をAICオンリーにしてAIC出力を最大限強化。動けなくなったところをブルー・ティアーズで嬲り殺し?

 なお、一夏はのほほんさんと決勝前に当たると優勝と準優勝を独占出来なくなるということがスッポリと頭から抜け落ちています。
 基本的には頭がいいんですが、応用的には抜けています。アクシズショックの発端を作ったり、こうして自らの行動でツーコアセルトーナメントにしてしまったりと、色々と失敗していますね。
 それと○欲が解消されたせいか、一夏は精神的に余裕が出来たようです。けどそのせいで深みに嵌まり込み始めている気がしないでもない。


 そしてセシリアのメシを怖いもの食いたさでチャレンジしたけど惨敗しました。
 食べてみたいと思ってしまった自分の浅慮と、アレに疑問に抱かないセシリアに沸々と怒りが湧いたようです。

 それにしても嫁のメシがまずいスレのスレタイトルは芸術的に感じます。【地雷戦隊】~【アレンジャー】とか【食材に】~【贖罪しろ】とか、センスが感じられるタイトルですね。
 個人的には【さしすせそ】~【せは洗剤】に衝撃を受けました。その発想は色んな意味でなかったわ。

 ちなみに記念すべき100スレ目は【それでも俺は】~【愛してる】。でもスレ見てたら私には無理ですな。結婚してないですけど。
 セシリアが深読みしてイヤンイヤンしますけど、一夏的にはキリがいいだけで特に意味はありません。

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