――― 布仏本音 ―――
「お~、高い高い。遠くまでよく見えるわ~」
「コラ、急に飛びつくな、鈴」
「な、何をしていらっしゃいますの、鈴さん!」
「見ればわかるでしょ。移動監視塔ごっこよ」
あー、リンリンがおりむーに肩車してもらってる。
楽しそう~。わたしもやりたい~。
「あー、もう。なら移動監視塔ごっこと言わず、灯台ごっこをさせてやろう」
「え、ちょっと一夏!?」
あ、おりむーが舞空術でリンリン担いだまま空に飛んで行った。
お~、高い高い。
「……荷物持ちのときといい、PICでする空中浮遊といい、こういうときは本当にASが便利に感じられますわね。
まあ、来年辺りには法律が改正されてASの使用にも制限がかかるとは思いますが……」
そうだね~。手ぶらでお土産を持って来たって言われたときはわけがわからなかったけど、中空からケーキを取り出したときはビックリしたよ。
それにしても高くまで浮かび上がるなぁ、おりむー。どこまで行くつもりだろ?
……お~。
…………お、お~~~?
………………ほ、本気で高い。30mぐらいまで浮かんだ?
「よぉーし、それじゃあ次は火曜サスペンス劇場断崖絶壁ごっこだ。
息止めておけよ、鈴」
「いやいやいやいや! 火サスの断崖絶壁は犯人を追いつめる場所であって犯人を突き落すところじゃないしましてやジャイアントスイングでブン投げたりなんかするわけないわ「そぉい!」わきゃぁーーーーっ!?」
うわ、リンリンが海に放り投げられちゃった。
だ、断崖絶壁ごっこまではしたくないなぁ……。
――― 凰鈴音 ―――
き、昨日は酷い目に遭ったわ……。
いやぁ、それにしても海に来るのも久しぶりだわ。去年と一昨年はISの訓練で忙しかったからそんな暇なかったし、こうして海に来るのも丸三年ぶりくらいかしら。
酷い目にも遭ったけど昨日は楽しかったわねぇ。ビーチで遊んで温泉入って旅館の食事に舌鼓を打って。たまにはこんな風に思いっきりIS以外で体を動かすのもいいわよね。
そして今日の二日目からは臨海学校としての本番のISの非限定空間における稼働試験が始まるわ。
昨日と変わらない青い海。白い砂浜。輝く太陽。
「おえええぇぇ~~~」
そして一夏が嘔吐する声。
……大丈夫かしら、一夏?
「君はやっぱり応用的にはお馬鹿さんだね、織斑一夏君」
「ホラ、言った通りDDS無しでウルフヘジンを全力稼働させるのには無理があるよ」
「うわー、いっくんてばまた随分とぶっ飛んだこと考えたねぇ」
今この場にはIS学園の部外者が三人いる。
一人は白式を製造した倉持技研の第二研究所所長の篝火ヒカル。白式の責任者みたいな立場にいるみたいで、今までも白式の話題をしていたときに話に出たこともある人。一夏曰く“変人”。
もう一人はシャルロットのお父さんでもあるデュノア社社長。この臨海学校で行う新型IS補助用AS“ウルフヘジン”の稼働試験の陣頭指揮のために来日。……まあ、どことなくシャルロットに似てるかな?
そしてもう一人は篠ノ之束博士。世界の誰もが知っているISの開発者。
……何でいるのよ? 特に最後の。いつの間に来てたのよ?
昨日まではいなかったのに、当然のように朝食の席にいたから皆でビックリしたわよ。
「なぁ、一夏君。やはり無理だよ。ウルフヘジンはスペックダウンさせよう。
如何に性能が良くても、あまりの加速度に対G用薬剤を投与する
「超々高感度ハイパーセンサーで思考の高速化をしないと、あっという間に操縦不能になって墜落するね、コレは」
「コレちーちゃんだって使いこなすのは無理だって。
今のいっくんなら精々三割。DDS内蔵ISスーツとバーサーカーシステムを使用して五割。バーサーカーシステムの狂化をすればようやく八割ってとこかな? 全力で真っ直ぐ飛ぶことぐらいなら出来るだろうけど、トリッキーな動きはちーちゃんでも無理だよ。
しかもいくらAISでコアを二つ使えるとはいえコアにリミッターがかけられている今なら、全力でトリッキーな稼働すると白式単体と同じくらいの継戦能力しないんじゃないの?」
「ペッ! ……あー、海水しょっぱい。
ああ、別に構いませんよ。何度も言っていますが、別に俺はIS競技者として食っていくつもりはありませんから。
それとこういう機体を頼んだのは俺なんだから、社長が謝ることはないですよ」
新しい単語がいくつも出てきたから説明がいるわね。
まずは“ウルフヘジン”。
意味は古代ノルド語の『オオカミのジャケットを着た者』という意味で、『クマの上着を着た者』であるベルセルクルと並び称され、それかもしくは同一の存在ともされる狂戦士。
ウルフヘジンはさっきも言った通り機動特化型の新型IS補助用ASで、ベルセルクルに比べてスラスター数が格段に増加しているわ。理論上はその加速力だけでラウラのAICを打ち破れるらしく、そのせいでインコムアンカーは搭載していない。
クマよりオオカミの方が足が速いからウルフヘジンにしたのかしらね。しかも黒いベルセルクルと違って白色だから白狼って感じ。
スラスターはベルセルクルみたいに背中だけについているんじゃなく、足裏、腿裏、太腿裏、肘裏、脇腹、肩など身体の各部分に大小合わせて合計30ものスラスターが配置されているから、直線の動きだけでなくトリッキーな動きをすることも可能。
それに加えて胸部や腹部のような機体前面にも、後付部分展開によってスラスターを更に増設することが出来るから、前に進むのも後ろに退くのも自由自在。さすがに刀を振る邪魔になるから普段は機体後面にしかスラスターはつけていないけど、後付部分展開スラスターで更に最大16基追加なんて頭おかしいわ。合計で46基よ46基。
だけどその機動力の凄まじさが故に、全力稼働をしたらISのバイタル調整が追いつかないぐらいに操縦者の体に負担がかかる。
そしてその操縦者の負担を抑えるためのが“
デリバリードラッグシステムってのは、体内の薬物分布を量的・空間的・時間的に制御し、コントロールする薬物伝達システムのこと。薬物輸送システム、もしくは薬物伝送システムとも言われるわね。
まあ、ウルフヘジンの驚異的な加速力に操縦者が耐えられるようにするために対G薬剤を操縦者の体内に注入したり、エアバックで身体を締め付けることで血液の流れをコントロールすることが出来るISスーツなんだけど、そんなもん作るぐらいならウルフヘジンを何とかしなさいよ。馬鹿じゃないの?
ちょっと本気出して動いただけで吐いちゃってるじゃない!
そして“バーサーカーシステム”。
白式に追加された新たな機能で
無理矢理に操縦者の生体機能を操作して正常に戻すシステムで、DDS内蔵ISスーツと同じく操縦者の負担を軽くするための目的のもの。白式の
何しろウルフヘジンの無茶苦茶な機動力によってかかるGはDDS内蔵ISスーツによって何とかならないでもないけど、それでもかかるGや対G薬剤投与によってバイタルに異常が出るから、その滅茶苦茶になる生体機能を強制的に操作するのがこのシステム。
もちろん
何でも生体機能操作度合いにE~Aのランクをつけていて、
・Eランク=平常の一夏の生体機能に固定
・Dランク=興奮時の一夏の生体機能に固定
・Cランク=IS競技ルールに違反しない範囲での生体機能に固定
・Bランク=後遺障害が発生しないぐらいの生体機能に固定
・Aランク=やめておけ
って感じに操作度合いを変えて臨機応変に対応出来るようにしたみたいなんだけど、やっぱり馬鹿じゃないの? 普段はEランクで使うらしいけどさ。
そしてBランクぐらいの狂化具合になったら、一夏が精神的にハイになってチンピラっぽくなるとか…………ワイルドな一夏ってのもちょっと見てみたい気もするわね。
あとは“超々高感度ハイパーセンサー”かしらね。『々』が増えてる。
超高感度ハイパーセンサーを使うと、最初は体感時間が早まって周りの世界の時間の流れがゆっくりとなるように感じるけど、超々高感度ハイパーセンサーはそれの強化版。
まあ、ウルフヘジンの超機動力を活かすために素早い判断能力が必要だけど、さすがにこんなものを使わなければウルフヘジンでの高速戦闘なんか出来るわけないわよね。
……ウン、イカれてるわ。
何てものを作らせるのよ、一夏は。シャルロットのお父さんがすまなさそうな顔をしているけど、その顔をすべきなのは一夏の方よ。
いくらASの
千冬さんも何とか言ってよ!
「………………」
「うわー、ちーちゃんがこんなに悩んでいるところ初めて見たよ」
駄目だ。千冬さんも役に立たない!
ウルフヘジンの性能を聞いて一夏に食って掛かっていた千冬さんだけど、一夏がウルフヘジンをデュノア社に作らせた理由を聞いて頭を抱えている。
このウルフヘジンはともかくとして、DDS内蔵ISスーツとバーサーカーシステムを使用するなら、薬物使用禁止ルールに引っ掛かるからIS競技には出ることは出来ない。
それにも関わらずこんなアホなものをデュノア社が作った理由としては、まず一つに機動型IS補助用ASの限界を探るためのテストとしてなんだけど、もう一つの理由が
“ISショックのときのアクシズのような隕石の地球落下に備えるため”
という一夏の目的に賛同したからだったので、さすがの千冬さんも文句はつけられないみたい。
ISショックのときは、千冬さんが白騎士を使ってアクシズを地球引力圏から押し出すことで地球を救った。
現在はISショックのときに比べてISの数が466機も多いんだから、また同じようなことが起こっても大丈夫かと思うかもしれないけどそうはいかない。
何故ならISはその類稀なるポテンシャルにわざとリミッターをかけているから。
まあ、リミッターをかけないと、もしISが戦争に使われてしまったらそれが地球最後の日になってしまうぐらいのポテンシャルをISは秘めているから仕方ないのだけれどね。
でもまたアクシズの地球落下のような事件が起こってしまったら、実は現状のISの性能じゃ対処が出来ないのよ。
リミッターを解除すれば大丈夫じゃないか? と思う人がいるかもしれないけどそれも無理。
何故なら今のISの機体はそのリミッターの範囲内で作られているものだから、スラスターなどがそもそも宇宙空間に上がることの出来る性能を持っていないの。それこそ白騎士みたくフルにISの性能を発揮出来る機体じゃないと、隕石の落下なんて阻止することは出来ない。
それに加えてリミッターを解除させることにも抵抗があるのでしょうね。混乱に乗じてもし他の国がリミッターを外したISで攻撃を仕掛けてきたら? なんて疑念が何処の国の上層部も持っているはずだわ。
要するに全ての国が同時に核ミサイルの発射体勢を整えるのと同じだもの。
そんなわけで例え篠ノ之博士の協力があったとしても。世界の何処の国もリミッターを解除したISを用意出来ない。
かといってIS委員会直属のリミッター解除をしたIS部隊なんかも、結局は操縦者の国籍の問題で用意出来ないでしょうね。
今後もまた隕石落下が起こるかもしれないと理解していても、こんな理由があるから対処が今まで出来ていなかった。
誰もが“あんな事態はもう起こらないだろう。起こるとしても遠い未来の話”という現実逃避をしている。
だけど一夏とこの白式・ウルフヘジンなら、諸々の問題も多少目をつむりさえすれば、再び隕石の落下が起こっても対処出来るわ。
基本スラスターだけでも充分な性能を持っているし、後付部分展開スラスターを使えば地球の重力から逃れることも可能。トリッキーな動きをしなければ操縦者への負担も小さいからね。
それに加えて篠ノ之博士にISのリミッターを解除して貰ってシールドエネルギーやスラスターエネルギーを増量すれば、例えアクシズ以上の大きさの隕石が落下しようとしても地球引力圏から押し出すことも出来る上、DDS内蔵スーツで栄養剤を点滴で体内に注入出来るから、一週間ぐらいなら補給なしでの連続稼働が可能にもなるわ。
もし再び隕石の地球落下が起こったとしたら、その阻止には白式・ウルフヘジンを使う一夏以上に適任者はいないでしょうね。
しかも一夏一人ならISのリミッターを解除したとしても、国家間のパワーバランスに問題が起きるわけがない。一夏個人がいくら強かったとしても全世界を相手にして勝てるわけないし、何よりも一夏が世界にケンカを売る理由がないもの。
もしかしたらリミッターを解除した白式・ウルフヘジンなら、零落白夜を使えることもあって他の466機のISを相手にしても勝てるかもしれないけど、でも勝ってもその後はどうするの? って話になるわ。
一夏としても起きるかどうかわからない隕石落下に備えてさえいれば、自分の価値が天井知らずの鰻登りに上がっていくので危険が減る。
何しろ研究材料としての価値じゃなくて、世界の危機を救えるかもしれないという価値だもの。
これで一夏に害を加えたら総スカンにされるどころじゃないわね。
それに隕石落下の阻止という危険なことをしなきゃいけなくなるけど、もし本当に隕石が落下してくるならAIS操縦者として行動しないといけないのには変わりないのだから、どっちにしろ危険度は変わらない。
むしろあらかじめ世界各国からのバックアップが期待出来るだけ、いざというときの危険度は下がるわ。
デュノア社や倉持技研としても、世界を危機から救うかもしれない機体を作るってことで名声を得ることが出来るから、IS競技に役立たない機体を作っても無駄にはならないし、むしろ稼働データだけでお釣りがくる。
ここまで誰も損のしない提案なら、ケチつけるのは難しいでしょうね。
「ひ、必要なこととはわかっているが……それでも一夏一人だけに危険な役目を押し付けるのは……」
「別に隕石が落っこちてくるような事態が来なかったら、それはそれでいいんだからさ。
そして隕石が落っこちてくるようだったら結局やることは変わりないんだから、あんまり深く考えないでいいと思うよ」
「何でこんなことを進めていたのを黙っていたッ!?」
「言ったら反対するでしょ」
「織斑先生の御心中、同じ保護者としてお察しする。
デュノア社としても基本的に一夏君の要望を最大限取り入れたのだが、さすがにこれはやり過ぎだと思うんだがなぁ……」
「根っこはあまり似ていない姉弟なんだね、織斑姉弟は」
さすがの千冬さんもこれには困惑気味かぁ。
でも確かに千冬さんにあらかじめ話してたら、千冬さんの性格からして反対されていたでしょうね。
「姉さんはこのことを知っていたのか!? シャルロットも!?」
「う、うん……」
「知ってたよー。前からいっくんに相談されてたしね。というかIS委員会に働きかけたのも私」
「何で!? どうして一夏をそんな危険な目に遭わせるようなことを!?」
「それは一夏に言ってよ! むしろ私たちは一夏を止めた方だよ!
だいたい私たちデュノア社が、一夏のお願い(意味深)を断ることなんて出来るわけないじゃないか!」
「私はいっくんにお願いされちゃったからねぇ。
それにいっくんが言うように隕石が落ちてくるならやることは変わりないし、いっくんの立場を強めるためにはこれ以上ない理由になるから、特に反対する理由がなかったんだよ。
そもそも隕石が落ちてこなかったら、いっくんの一人勝ちになるんだしさ。
それに大丈夫だよ、箒ちゃん。いっくんはコア二つ持ってるんだから、ちーちゃんがアクシズ押し返したときより危険はないよ」
うわー、篠ノ之博士からこんな話が来たらIS委員会も賛成するしかないわ。
この話を却下することも出来なくはないけど、もし却下したならISショックのような事件が起こっても一夏は手伝わなくてもいい、という保証をIS委員会がしたことになっちゃうものね。
以前からIS委員会がやけに一夏の肩を持っていると思ってたら、こういう話が水面下で進んでいたのねぇ。そりゃ不法ISを捕まえたら一夏にコア貸出しする気にもなるわよ。
確かに必要なことだし、誰も損をしなくて世界のパワーバランスも崩れない案なんだけど…………でもさすがにこれは無茶苦茶ねぇ。
千冬さんが悩むのも仕方がないわ。
「た、大変です! 織斑先生ー!」
あれ、山田先生?
専用機持ち以外の生徒の面倒を見てたはずだけど、何かあったのかしら?
――― 篠ノ之箒 ―――
場所は変わって、ここは旅館の宴会場。
ただしIS学園から様々な機械が持ち込まれていて、現在の有様はさながら指揮所と言ったところか。
私たち専用機持ちが集められ、他の一般生徒は自室で待機ということらしいが、いったい何があったのだろうか?
「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代のIS、“
情報によれば無人のISということだ」
無人のIS。要するに姉さんの作ったゲッ○ーと同じようなISか。
いや、変形合体はしないと思うけ…………トラ○スフォーマーってアメリカの作品だったか? しないよな、変形合体?
「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2km先の空域を通過することがわかった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった。
というわけで一夏、ちょっと行ってぶった斬ってこい。なるべく機体には傷付けないようにな」
「そんな軽く言わないでください」
「やかましい、こんなときのために散々色々準備していたんだろう?
……私に黙ってな。私に黙ってな!」
「はいはい、とりあえずその福音とやらの機体データをください」
千冬さんが拗ねてる。
一夏のことも名字じゃなくて名前で呼んでいるし、これは本気で拗ねてるな。
気持ちはわかるけど、今は教師としての務めを……あ、山田先生が説明してくれるんですね。
……。
…………。
………………フム。
とりあえず教員は戦闘予想地域の封鎖を担当するということは、私たち専用機持ちでその福音を何とかするということか。
まあ、一夏一人でも充分だとは思うが、少なくとも福音に追いつけて尚且つ絢爛舞踏を使える私は一緒に行った方がいいかな。
それにしても福音は広域殲滅を目的とした特殊射撃型ということだが、これって一夏にとってはカモにしかならなくないか?
攻撃と機動に特化した機体のようだが、それは白式・ウルフヘジンも同じことだ。むしろ福音以上。
特殊武装によって全方位に攻撃出来るようだが、一対一なら零落白夜を使える白式の方が有利だ。
今も超音速飛行をしているようだが、白式・ウルフヘジンなら余裕で追いつけるので、アプローチチャンスはいくらでもある。
……もう一夏一人でいいんじゃないかな?
気になる点としては、福音は競技用ISではなくて軍事用ISということか。
ISはそのポテンシャルの高さが故に
白式・ウルフヘジンはISコアを二個搭載しているとはいえ、競技用リミッターのかけられていない軍事用ISと比べたら、白式・ウルフヘジンの方が
とはいえ零落白夜がある上に福音が無人機ということなら、容赦なく一夏も攻撃出来るからそんなに気にすることではないか。
これなら特に問題なく福音を落とすことが出来るだろ…………ん? 一夏が不思議そうな顔をしている。何か他に気になる点でもあったのか?
「……福音が暴走したのが、たまたま俺たちが臨海学校に来ている日で、たまたま俺たちがいる近くを通過する、か?
随分と都合の良いことだな」
「ム、そう言われると確かに……」
「
「おい、一夏。いきなり何を「はいはーい! 呼んだかな、いっくん!?」…………姉さん」
何いきなり天井から出現してるんですか?
関係者以外は立ち入り禁止…………だけど、ISに関しては姉さん以上の関係者はいないか。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャーーーン! どうかしたのかな、いっくん?」
「何で福音は俺たちがいる近くを通過するのかな?」
「どうしてだろうねー? 不思議だねー?」
「……何で今日、福音は暴走したのかな?」
「さあ? 稼働試験の日程が今日だったからじゃないの?」
「…………何で福音は暴走したのかな?」
「さあ? 束さんから見て笑っちゃうようなプログラムでも組んでたんじゃないの?」
「
「フハハハハ! 束さんに不可能というものはないんだよ!」
「じゃあ今すぐ千冬姉さんに抱き付いてみてよ」
「え、ちょ!?」
「……うん、大体わかった。
了解。出撃します。ただし専用機持ち全員で。作戦は行く途中で説明する。
とりあえずこれ以上、福音を日本に近づけないようになるべく沖で戦う。そのためにちょっと箒に頼みたいことがある」
私に? というか今の姉さんとの問答は……。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
現在、海上上空を飛行中。
ただし私が他の六人を引っ張ってだ。私に頼みたいことってコレかよ。
確かに福音と戦う戦場は広域になると予想されるので、なるべく接敵まではスラスターエネルギーを節約しておきたいのはわかる。
それなら私の紅椿は展開装甲によってシールドエネルギーを攻撃・防御・移動の全てに流用出来る上に、シールドエネルギー自体を絢爛舞踏で回復することも可能なので、接敵までにエネルギーをいくら使っても問題はない。
待ち受け場所に到着したら絢爛舞踏で回復すればいいだけだ。
福音迎撃の作戦は私たち専用機持ち七人が三班に分かれる。
まず第一班……といっても一人だけなのだが、担当は一夏。
最初に接敵し、攻撃を仕掛けて福音の情報を引き出すとともに、落とせるならそのまま落とす。
でも多分、この一夏一人で終わると思う。
次に第二班。担当は鈴、セシリア、ラウラ、簪の四人。
一夏が仕留めきれなかった場合、もしくは一夏を無視して福音が別方向に進路変更した場合などに備えての第二陣。
もし福音が進路変更したり一夏を突破したときは、一夏とこの第二班で挟み撃ちにするように動く。
最後に第三班。担当は私とシャルロット。
役割としては補給だ。
私の絢爛舞踏でシールドエネルギーは回復出来るし、シャルロットは教員が使う予定だったISコアを一つ借りてラファール・ベルセルクルにして使う。
ラファール・ベルセルクルのその大容量な
基本的な戦術としては、
① 第一班が福音と戦闘。第二班待機。第三班は後方待機。
↓
② 第一班が消耗したら第二班と交代。
↓
③ 第二班戦闘開始。第一班は第三班によって補給。
↓
④ 第二班が消耗したら第一班と交代。
↓
⑤ 第一班戦闘開始。第二班は第三班によって補給。
↓
⑥ ②に戻ってエンドレス。
まあ、エンドレスといっても第二班の補給はシャルロットの量子格納で持ち運び出来るだけになってしまうだけなのだが、それでも三巡は出来るだろう。
要するに福音は最低でも、第一、第二班合わせて計6回は戦闘をしなければいけないということだ。
いくら軍事用ISとはいえ、これではエネルギーが持たないだろうな。
福音には零落白夜のような一撃必殺攻撃はないのだから、余裕をもってシールドエネルギーが半分になったら交代するようにすれば落とされたりはしないはずだ。
……何このイジメ?
相手が無人機でよかった。こんな戦い方を人間相手にするのはさすがに気が引ける。
かといって私たちの後ろには日本列島があるから、万が一にも福音を通すわけにもいかないからな。些か卑怯だが仕方があるまい。
まったく、何でこんな事態に……。
「……一夏、今回のこの騒動をどう見る?」
「そりゃ
「ど、どういうことですの、一夏さん!?
まさか篠ノ之束博士がこの騒動を仕組んだとでもおっしゃるのですか!?」
やっぱり一夏もそう思うのか。
一夏の言う通り、やけに
「いや、今日で騒動が起きたのは本当にたまたまなんだろう。
どうやら福音の稼働試験はずっと以前から日程が決まっていたらしく、そこに
「じゃあ、篠ノ之博士が福音を暴走させたってことなの?」
「それも違うと思う。
何故福音が俺たちのいる近くを通過するかを聞いたときは茶を濁したのに、俺が暴走原因を聞いたときは
「そこら辺のことは、篠ノ之博士のことを知っている一夏の判断に任せるよ。
それで結局流れ的にはどういうことなの?」
「あくまで俺の想像だけど、
・福音の暴走はノータッチ
・だけどIS開発者としては、ISの暴走によって死傷者が出るのは困る
・だから福音に対処出来る俺たちがいる方向に福音を誘導した
という流れだと思う。暴走も日にちも偶然だろうけど、俺たちがいるところの近くを福音が通過するのは
そもそも
よかった。福音の暴走を引き起こした姉さんなんかいないんだな?
しかし姉さんが福音の進行方向を誘導出来るなら、そもそも暴走自体を何とか出来たんじゃないのか? それに姉さんはどうやって福音の暴走を知ったんだ?
「え? そりゃコアのブラックボックスの中に、
それに
だってアメリカ・イスラエルが共同開発しているISだぞ。
「それは……篠ノ之博士の重要度が天井知らずの鰻登りになるな」
「俺とは比較にならないぐらいのな。
ただでさえ重要人物な上に世界各国のパワーバランスを崩しかねない影響力を持っているんだ。これで全世界のISを無力化出来るなんて知られたらガチで
一応、世界各国も開発者である
まだそこら辺の事情を白黒ハッキリさせるわけにはいかないし、かといってIS開発者としての立場からすると福音の暴走を放っておくわけにはいかないだろう」
「納得。確かにそれなら迂闊には篠ノ之博士は動けない。
この状況なら一夏が対処するのが最善だと思う」
「せめてもう10年もあればIS関連の法律もある程度は整うんだろうけど、まだ
こればっかりは世界情勢が落ち着くのを待つしかない。
多分、テロリストに奪われたISを
……なるほど。影響力があり過ぎるというのも大変だな。
一夏も世界に対して影響力を持っているが、そこまで絶大なものを持っているというわけではない。精々が何処かの国にお願い(意味深)を聞いてもらえるぐらいだろう。
それも対価が払われるということが前提でだ。
一夏の持っている影響力ぐらいが、ちょうどいいぐらいなのかもしれないな。
「ま、あくまで俺の想像だ。そんなに外れてはいないと思うがな」
「いえ、その理由なら納得出来ますわ。
一夏さんの考え、イギリス本国に話してもよろしいでしょうか?」
「別に構わないが、あくまで俺の想像ということは明記しておいてくれよ。
もしかしたら本当に
「いや、さっき一夏が言ってた通りに博士には動機がないでしょ?」
「わからんぞぉ。例えばそうだな…………俺の鬼札を暴くため、とかどうだ?
俺の鬼札をこの騒動で暴いて、クラス対抗戦の時のリベンジを考えているとかさ。現に伏せ札は使おうとは思っているしな」
「アハハ、さすがにそれはないでしょ。というか伏せ札使っちゃうの?」
「そうなると残りは隠し札と鬼札だけか!」
「こんな時に嬉しそうだな、ラウラ。
ああ、伏せ札は使う。どうせ白式・ウルフヘジンに改造したんなら、伏せ続けていてもあまり意味はない札だし。
それとどうせだから言っちゃうけど、隠し札はバーサーカーシステムのことだから」
「え、そうだったの?」
「まあな。今回のアップデート以前は、今で言うEランクとBランクのバイタル調整しか出来なかったんだよ。
ちなみに千冬姉さんにスコーピオン・デスロックをかけられても平気だったのは、このバーサーカーシステムのおかげだ。隠し札とはいえ、ちゃんと伏線張っていたんだぞ」
「いや、伏線とかわからないから」
わかるわけないだろ、馬鹿者。
というか、そんなことにISの機能を使うんじゃない。
……しかしそうなると今回使う伏せ札とはいったい何なんだ?
一夏は隠し札と伏せ札で分けて考えている。伏せてはいるが隠してはいないということは、今までの一夏の言動でヒントどころか答えそのものが出ているということか?
答えというより、おそらく今まで一夏が口にした何かを利用した戦法だと思うんだが…………思いつかないな。
まあ、見てればわかるか。
軍事用ISとの戦い、ジックリ後方から見させてもらうぞ。
そしてそれを参考にして、また皆でリベンジだ。
今度は更識会長もメンバーに加えよう。ベルセルクルにすら勝てなかったのに、あのウルフヘジン相手には手段なんか選んでいられん。
「ところで福音って、不法使用ISに入れていいんだろうか?
入れていいならコア貸出しまであと4機」
いや、それは無理だろ。
一夏は地球を守るヒーローになるようです。
『――というわけで、地球を守るためにも
『……お、おう』
『ISショックと同じようなことが起こったときは俺が何とかするよ。
まさかもう一回千冬姉さんに危険なことを押し付けるわけにはいかないからね。
『せ、せやな……』
『そうだよね。
でも大丈夫。もし次があったらおれがやるからさ――――だから協力してね。お願いだよ』
『………………』
どう考えても姉想いのヒーローです(棒)
そして
ウルフヘジンとバーサーカーシステムでの狂化を合わせてこその“
でも狂化はBランクだとヒャッハー中尉みたく、ハイになってチンピラ風になります。ヒャッハー!
それと“超々高感度ハイパーセンサー”で疑似“
これで一夏の残りの持ち札は伏せ札と鬼札のみ。両方とも次話で出ます。
まあ、伏せ札はともかく、鬼札は自分の知る限りでは誰も二次創作で使ったことはないと思うんですが、もし被ってたらごめんなさい。
それと
…………え? 実際のところは? ナンノコトデスカネ?