――― 織斑千冬 ―――
「
…………は? え? いや……え? …………それはアリなのか?
ISは究極の機動兵器
↓
しかしリミッターで枷を嵌められている
↓
ならリミッターを外せば究極の機動兵器に戻れる
なんてアホな論理は?
そもそも
「何ですか、その三段論法?」
「……まあ、織斑一夏君らしいといえばらしいんじゃないかな?」
しかし一夏らしいと言えば一夏らしいかもしれないが…………え? しかし本当にそれはアリなのか?
言っていることはわかる。確かにISの
でもそれはアラスカ条約とかに違反したりしないのか?
「規制する条項がないから違反じゃないねぇ。そこら辺のことはちゃんといっくんも調べていると思うよ。
というか
「……やはり一夏君が常日頃から言っているように、確かに早急なIS関係の法律整備が必要ですな」
「そして織斑一夏君本人は地球を守るという名目で
まさか隕石の地球落下阻止を
「だ、だとしてもだ!
これからは束がリミッターを外せばいいのはわかる! だとしても今まではどうなんだ!?
確かにそういう
「うん、そうなんだけどね。だから白式が正攻法で
よろしい、ちょっとばかりちーちゃんのために束先生のIS授業をしようか」
束の授業によると、通常のISは
しかし白式と紅椿は
というのも
要するに
そして白式は束が設計、紅椿に至ってはその全てが束謹製の特別品であり、同時に束は一夏と箒のことをよく知っているし、おそらく二人の生体データも持っているはずだ。きっと白式が暮桜と同じ零落白夜を使えたのも束が暮桜のデータを参考にしていたからだろう。
なので一夏と白式、箒と紅椿はISと操縦者の相性が最高になるように最初から束による手が加えられていたので、
普通のISと操縦者だったら
まあ、それはいいとして、問題は白式とは
現在確認されている
そう言われるとたしかにそうだが……。
そしてもう一つの懸念は、白式に使われているISコアが白騎士に使われていたISコアであるということだ。
もちろん白式のコアとして使用する前にコアの初期化はしている。初期化はしているはずなのだが、これはISの不思議なところで、初期化はしたはずなのに以前のISの特性や経験を残していたりすることがある。
そして元白騎士のコアということは、
更には一夏が
……一夏は狙ってやっているのか、コレ?
「どーせいっくんのことだから問い詰めても『え? ……ああ、そういう可能性もあるのか。気付かなかったよ、アハハ』って感じで流すだろうけどね。証拠は何もないんだし。
でもいっくんの今まで言動からすると、
「ね、狙ってやっているとしても、それを実現出来るかどうかはわからないんだろう?」
「そりゃあね。いくら私がISの開発者とはいえ、これから白式がどう進化していくかはいっくん次第だからさ」
「なら問題ない」
「問題ないというより、問題は
「今が問題なければそれでいいんだよ!」
そうだ。確かに将来的には問題が出るかもしれないが、それはどのISにも言えることだ。
白式以外のISから
だから今が問題なければそれでいいんだ。
まだやってもいないことで一夏だけを問題視するわけにはいかないんだから……。
「多分、いっくんは白騎士にあった操縦者の生体再生能力の発現も狙っているんじゃないのかな?
ウルフヘジンの機動力を扱いこなすにはあったら便利だし、何よりそうでなきゃバーサーカーシステムのAランクなんて設定しないでしょ。Aランク狂化を10分間でも連続発動させたら、いっくん廃人になって戻れなくなっちゃうよ。ガチで」
「だから今が問題なければそれでいいって言ってるだろう! そういうことにしておけっ!
……しかしそうか、生体再生能力か。確かにあの能力があれば、ウルフヘジンの無茶な機動力で発生する身体への影響も大丈夫になるかもしれんな。
それとバーサーカーシステムは…………まあ、一夏なら自制出来るだろう。というかAランクを使用するような危機が発生するとは思えんぞ、この状況なら」
最初っから全部狙っていたのか、アイツは?
……もーいい。考えるのはこの臨海学校終わってからだ。
せっかく滅多に食べれない新鮮な海の幸を味わっているんだから、胃が痛くなるようなことはお終いにしよう。
なかなか美味しい食事を出すIS学園の学食だが、さすがにこういう新鮮な刺身を置いてあるわけではない。
それに家でも新鮮な刺身を食べるような機会はあまりない。一夏の料理スキルでは魚を一から捌いて刺身にすることは出来ないので、食べるとしたら柵になっている刺身を買ってくるときぐらいだ。
それ以前に家では肉が多いんだよなぁ。魚は精々が焼き魚ぐらいか。
ウン、せっかくの機会なので、今は食事を優先しよう。
何だかんだで問題は出そうだが、今の白式・ウルフヘジンに束による
それにそもそも
ウン、それがいい。
というわけで山田先生、刺身の盛り合わせをもう一船おかわり。日本酒も瓶で持ってきてくれ。
「え? 束さんは別にウルフヘジンのコアにリミッターかけたりしてないよ?」
……。
…………。
………………は? おい、束。それは……どういうことだ?
「どういうことも何も…………ウルフヘジンは元々いっくんに渡したASのコアを使っているでしょ?」
「そ、それがどうかしたか?」
「? だってちーちゃん、私がいっくんにASを渡した理由覚えてる?
“いっくんの安全のため”だよ。いっくんの安全のためにAS渡してシールドバリアーと絶対防御を使えるようにしたのに、何でわざわざリミッターかけてシールドエネルギーの量を減らさなきゃいけないのさ?」
「はあっ!?!?
……いや、待て! リミッターはかけられているはずだ!
確か一夏が白式・ベルセルクルを初お披露目したときに『ベルセルクルにも
「その通りです! デュノア社でもASのコアにリミッターがかけられているのは確認しています!」
「倉持ではノータッチだったから私は知らないね」
「うん、確かにウルフヘジンにはリミッターがかけられているよ」
「だったらどういうことなん…………た、束? ASのコアにリミッターをかけたのは誰だ?」
束はリミッターをかけていない。
そしてデュノア社も倉持技研も知らない。
だが現にリミッターはかけられている。
…………ということは?
「そんなのいっくんに決まってるじゃん」
やはりそういうことかぁっ!!!
あの馬鹿、わかってて黙ってたなぁっ!!!
しかも考えてみればリミッターに関しては、一夏が『かけてある』と言っていて、それに対して束は『かけられている』と言っていた。
この言葉通りに受け取るなら、リミッターをかけたのは確かに一夏になる!
だけどそんなこと思い当たるわけないだろうが! わざとそういう言い方をしたな、一夏の奴め!
「ホラ、ASショックでいっくんがAS持ってるの世間にばれたでしょ。その後にいっくんからリミッターのかけ方を教えてって頼まれたんだよ。
その時はASがいっくんの手元に残るかどうかわからなかったからね。下手したらIS委員会に没収されるかもしれないから、リミッターをかけていないコアなんてマズいでしょ。だからいっくんにリミッターのかけ方を教えておいたんだよ。
これは別に問題ないでしょ?」
「なるほど。そういうことなら問題はない……とでも言うと思ったかぁっ!?
絶対それだけではないだろう!?」
「えー? どうしてそういうこと言うのかなー?」
「今までお前と一夏がやらかしてきたことを考えてからそのセリフを言ってみろっ!!」
落ち着け。落ち着くんだ。
……デュノア社がリミッターがかかっていることを確認しているなら、一夏がコッソリとリミッターを外して使用していたということはないだろう。
だが一夏のことだから、絶対それだけではないはずだ。
そう……例えば、例えばリミッターをかけ方を教わったのなら、その逆のことも教わることも可能なはずではないのか?
「束。一夏にリミッターのかけ方を教えたとき、同時にリミッターの
……いや、一夏のことだから
『
ああ、軍事用リミッターの外し方はいいよ。さすがにそこまでいくとテロというより戦争になるし、競技用のリミッターを外すだけで充分にテロリスト相手には対処出来ると思うから』
とか言われていないだろうな?」
「おお、よくわかったね、ちーちゃん。確かに言われたよ。
でも教えたかどうかはノーコメント」
……終わった。それが一夏の鬼札か。
確かに
さすがの軍事用リミッターの外し方なら束も渋るだろうから、最初っから競技用リミッターの外し方を狙ってたな。
他の切り札や隠し札とは次元が違う。まさしく
いくら競技用リミッターを外すだけとはいえ、この
しかも今となっては
それに加えて絶対防御という最強の盾と、それを支えるリミッターを外すことによる豊富なシールドエネルギー量。
最強の矛と最強の盾を制限ほぼ無しで扱えるなんて反則にも程がある。
これを考えたら束が言っているように、どう考えても一夏は
ここまで準備しているなら、一夏がそのことを考えていないわけがない。この狙いが成功して軍事用リミッターすらをも外せたら、本気で他のIS466機を全て同時に相手してでも戦えるぞ。
「競技用リミッターをかけてあるISなら、精々が駆逐艦と互角くらいだからねぇ」
「ああ、駆逐艦はISを落とせないだろうが、ISも駆逐艦を沈められないだろうな。魚雷とかの対艦装備をしておけば何とかなるだろうが、対ISの装備では火力が足りん。
だから
……束、何でこんなことを許した?」
「…………正直な話、束さんもいっくんの思惑に気付いたのは最近なんだよ。何しろ自然に競技用リミッターの外し方を聞かれて、その理由も納得出来ることだったから最近まで忘れていてさ。
倉持にバーサーカーシステムを頼んだり、デュノア社にウルフヘジンやDDS内蔵ISスーツを頼んだりした辺りからいっくんの行動に疑問を持ってたんだけど、よくよく考えたらこういう結論に辿り着いてね。
いっくんの一つ一つの言動を見る限りでは、特におかしなことは感じなかったからさ。束さんも気づくのが遅れちゃってね……」
確かにそうだ。一夏のしていることはべつにおかしなことではない。
AS理論を考え付いたのも。
AISの有効性を考え付いたのも。
リミッター無しコアを世間に出さないようにリミッターのかけ方を教わったのも。
そのときについでにテロ対策にリミッターの外し方を教わったのも。
隕石の地球落下の阻止のためにウルフヘジンへの改造をしたのも。
隕石落下阻止のときにはリミッター外しを束に頼むのも。
別に一つ一つを考えたらおかしなことではない。
おかしなことではないが……。
「……育て方間違ったかな」
「いっくんは昔からあんなんだったと思うけど?
こういうこと考えていながら、
「?
「……何故知っているんですか? と篠ノ之博士に聞くのは意味のないことですかね。
一夏君が新たにIS委員会からコアを貸し出されたときに、そのコアを使用して
「さすがにAISでIS競技に参加するのは心苦しいらしいね。
といっても、今までで貯まった稼働データを反映させて、白式を織斑一夏君に更に適応させた機体になるだけだろうけど」
……それも一夏らしいと言えば一夏らしいか。
過剰に準備しておいて圧倒的になったとしても、逆にその圧倒的なことについて罪悪感を抱くというのは。
「これ……問題になったりしないだろうな?
IS委員会から何か言われたりとかは……?」
「問題? 何でさ?
さっきも言った通り、いっくんがそういうことを企んでいる証拠というのが全くないんだよ。いっくんを問い詰めても、いっくんが否定しちゃえばそれ以上追及出来ないんだし」
「……本気で育て方間違ったかな」
「だからいっくんは昔からあんなんだったって。
それにそんな言い方したらいっくん悲しむよ。何だかんだでちーちゃんの負担を減らすためにこんなことしているんだから」
「余計に負担がかかるわっ!
それに小さい頃の一夏は今と違って本当に素直で良い子だったんだぞ!」
「今でも別の意味で素直じゃん。
それに今感じている負担はあくまでいっくんがやり過ぎていることに対してであって、別にいっくんの身の安全を心配してとかじゃないでしょ」
何を言う!
昔の一夏は千冬姉さん千冬姉さんと私の後ろをついて来たり、私が学校から帰ってきたら玄関まで出迎えてくれたり、私の誕生日にはちゃんとケーキを買ってきてくれたり、私が風邪をひいたときはお粥を作ってアーンして食べさせてくれるようなシッカリした良い子だったんだ!
もちろんシッカリしているだけじゃなく、テレビを見るときは私の隣に座って身体を預けたりするような、意外と甘えん坊なところもあったりしてなぁ!
それと確かに一夏の身の安全はもう心配していないけど、むしろ一夏のテロリストとかへの過剰対策が負担になっているんだよ!
うう……小さい頃の一夏が懐かしい。
「……小さい頃といえば、私はよく箒ちゃんといっくんを膝の上に乗せてテレビ見たりしたなぁ。
今じゃ逆に私がいっくんの膝の上に乗らなきゃいけないだろうけど」
「え、何それ?」
「え? ホラ、ちーちゃんがウチの道場で修行している間、待ってるいっくんたちの暇つぶしのためにね。
他にもちーちゃんはいっくんが小学校に上がってからは一緒にお風呂に入らないようにしたみたいだったけど、私は箒ちゃんがいっくんとお風呂に入るのを恥ずかしがるまでは3人でよくお風呂に入ってたりしてねぇ」
「だから何それ? 何でお前そんなことしてんの?」
「聞き分けの良いいっくんに甘えて、ちーちゃんがいっくんを放っておいたのが悪い。
いっくんはちゃんとワガママも言わずに大人しくちーちゃんの修行を終わるのを待ってたんだよ」
「ぐはぁっ!?」
「(……この二人にもこういうところがあるんだ)」
「(シャルロットの隣に座ると、妻の隣に移動される私はいったい…………いや、きっとシャルロットが思春期だからなんだ!)」
……そ、それを言われるとキツイ。
何も反論出来なくなってしまう。
前々から思ってはいたが、やはり一夏があんな風に育ったのは私のせいなのか……。
「ショックだ……」
「大丈夫だってば。ここまでやり過ぎなぐらいまで準備したら、もうすぐいっくんも落ち着くよ。箒ちゃんも言っていたけど、いっくんは“過剰に準備して結局は使わなかった”ってことをよくするからね。
今まで確保した力も、結局ほとんどは使わないまま終わるでしょ」
「確かにそうなのだが、それでもいい加減そろそろ注意しないと…………でも効果的なことは間違いないからどうやって注意すればいいかがわからん。
アイツは保存食とか冷凍食品を用意しておくの止めないんだよなぁ。結局は賞味期限が切れそうになってグジグジ言いながら食べるんだから、せめて少なめに準備すればいいのに……。
でも元はといえば、それもこれも私が家事を一夏に任せているのが原因だから注意出来るような立場じゃないし……」
「だから気にしなくていいって」
「束は一夏に甘い!
というか前から思っていたのだがお前ズルくないか? 私は一夏に厳しく当たっているのにお前は甘くするなんて、まるで飴と鞭じゃないか。
おかげでお前は一夏に頼られるのに、私は全然一夏に頼られないし……」
考えてみれば生徒と教師という関係でもあるのに一夏から不明な点を教わりに来られたりしていないし、むしろクラス代表にかこつけて雑事を任せていたり、それ以前に私の寮の部屋の掃除を一夏に任せていたり…………マズい、私は本格的に駄目人間だ。
これでは『千冬姉さんに恋人が出来たら明日にでも作るさ。無理だろうけどな。ハハッ!』と一夏が弾君に言うのは当然のことじゃないか。
それによくよく考えてみたら昔は私が一夏を養っていたが、今となっては私より一夏の方が稼いでいるじゃないか。というか日本に戻ってきてからは生活費の無心をされていないぞ。
た、ただでさえ家の内のことは一夏に任せて私が家の外のことをしていたのに、このままだったら家の外のことまで一夏がすることに……。
……花嫁修業。もう24歳だけどまだ間に合うかな?
別に結婚する気はないが、せめて一夏に一人じゃ何もできない駄目人間と思われるのは避けたい。
しかしこれ以上一夏の負担を増やすわけにはいかないから、一夏に教わることは出来ない。むしろ教わるのはいくらなんでも恥ずかしい。
そういえば一夏にフィニッシングスクールというものを進められたことがあったな。確か部屋にまだチラシがあったはず。臨海学校が終わったら調べてみるか。
しかし私がそういうことに手を出し始めたら、マスコミや私を女尊男卑の旗持ちにしようとしている馬鹿どもがうるさくなるかもしれん。
別にそんな奴らにどう思われようと知ったことではないが、それで変なことを企てられても困るし、何よりも一夏に知られるのは避けたい。一夏が知ったら絶対に自分で教えようとしてくるだろうからな。
……そうだ、箒だ! それと凰。
あの二人に相談してみよう。あの二人としても、一夏がいつまでも私にベッタリというのは気に入らないだろうから、きっと協力してくれるはずだ。
きっと一夏なら結婚した後も私と同居するのは否とは言わないだろうが、私としては弟夫婦に頼るようなことは避けたいからな。
例え一夏がISを使える理由が判明して箒や凰のうちの誰かと付き合うようになったとしても、結婚に辿り着くまでには時間がかかる。一夏の性格ならどんなに結婚が早かったとしても、IS学園卒業するまではしないだろう。
だからこの三年弱で、せめて“恋人が出来ないのではなく作らない”と胸を張って言えるぐらいの花嫁スキルを手に入れなければ…………やるしかないっ!
「……しかし束。お前本気で一夏に甘過ぎないか?
あまり甘やかすのは一夏のためにならんぞ」
「そんなこと言われても、いっくんのお願いは断る理由がないものばっかりだからねぇ。それにいっくんが力を手に入れるのは、箒ちゃんの身の安全にも直結しているからさ。
むしろ束さん的にはもうちょっと頼ってくれてもいいと思ってるんだけど」
「それでもゴーレムⅡに使用したISコアを渡そうとしたのはやり過ぎだろう。
むしろ一夏に甘いというより、どこか一夏を気遣うというか機嫌を取ろうとしている節があるように思えるのは気のせいか?」
「そ、そそそそんなことないよ。別にいっくんに弱み握られたりしてナイヨ?」
「何故慌てる?」
おい、何をした?
もしかしてバラされたら困るようなことをして、それを一夏に握られたり…………結構してそうだな、主に箒関連で。
そういえば一夏が言っていたが、当初は箒の専用機を魔法少女型ISにしようと企んでいたんだよな、コイツ。
あいにく箒が『ハハハ、あの姉さんがそんなことするわけないだろう』と言ったせいで、箒の期待に背くわけにはいかなくなったので止めたらしいが。
箒は魔法少女型ISのことはあくまで冗談だと思っていて、本気で束がそうしようとしていたことを知らないから、これを箒にチクったら面白いことになりそうだ。
「……ま、妹を溺愛するのも程々にしておけよ」
「ちーちゃんにだけは言われたくないよ。いっくんに甘えるのも程々にしておけば?」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「(織斑一夏君が言う通り、弟妹が関わると本当に普通の姉っぽいねぇ)」
「(お、男独りは辛い。一夏君、早く戻ってきてくれ)」
フン、いざとなったら箒にチクってやる。
「ま、いっくんを怒らせるようなことはしないつもりだから、そこら辺のことは安心してくれていいよ」
「……コレも前から思っていたのだが、お前は一夏が怖いのか? よく一夏に怒られるのは嫌だと言っているが?」
「ん? ん~~~、まぁね。
昔にいっくんを本気で怒らせてからは、意識して怒らせないようにはしてるよ」
「え? 一夏君って怒ることあるんですか?
娘の話ではあまり怒らないと聞いていますが?」
「それよりも篠ノ之束が怖がるという感情を持っていたということに驚きだ」
……そういえば一夏が怒ったところなんてのはあまり見たことないな。
いや、もちろん洗濯物を出さずに溜めておいたみたいなことで怒られたりすることはあるが、一夏が本気で激怒したところは見たことがない。
オルコットが変なモノを一夏に食べさせたときは、オルコットが涙目になるまでオルコット自身にそのブツを食べさせ続けたと聞いたことはあるが、今でも普通にオルコットと付き合っているからまだ我慢出来る範囲のそこそこな怒りだったんだろう。
「しかしいつの話だ? 昔ということはお前が姿を消す前の話だろう?」
「いっくんと箒ちゃんが幼稚園の頃」
「……お前は幼稚園児を怖がったのか?」
「怖い……というのとはちょっと違うかな。
いや、確かにいっくんが怒ったら怖いだろうけど、あのときは感心したって言った方が良いかも。
ちーちゃん、私たち四人が初めて会ったときのこと覚えてる?」
「あー……確かお前が一夏を苛めて泣かしたんだったか?」
「違うって。いっくんを泣かしたのはちーちゃんだよ。
いっくんが『ひとごろしはだめぇっ!』って泣きながら、私を殴り続けるちーちゃんを止めてくれたんだって」
そ、そうだったか?
いかんな、あまり覚えていない。いつの間にか私たち四人は自然につるんでいたからな。
「私は覚えているよぉ。学校が終わって家に帰ったら、幼稚園帰りなのか箒ちゃんが知らない男の子と神社の境内で遊んでいてさ。
けど私はその知らない男の子なんてどうでもよかったから、普通にその場に乱入して箒ちゃんを抱っこしてね。もちろん男の子は無視して」
「ああ、そんなことばっかりやってたから、当時の箒には全然一緒に遊んでくれる友達がいなかったんだってな。
そりゃあ幼稚園児にとっては自分を無視する中学生なんて恐怖の対象だろうから、そんなことをされたら逃げ出されもするさ。柳韻さんから聞いたことがある」
「昔の私は今の私より酷かったからねぇ。一緒に遊ぶ友達がいなくなった箒ちゃんが何で悲しい顔をするかすらわからなかったんだよ。
で、いつものように箒ちゃんを愛で始めたら、その男の子に止められてね」
『ほうきがいやがってる』
『アァ? 何だよガキ?
私と箒ちゃんの邪魔すんなよ』
「――って感じにちょっと脅したんだけど、全然その男の子は怯まなくてさ。もちろん怖がってはいたけどね。
ちょっとは驚いたよ。それまではちょっと脅せば子供なんて直ぐに逃げたからさ」
「聞けば聞くほど人でなしだな」
「だから反省しているから許してってば。
で、どうしようかと思ってその男の子を見てみたら、胸の名札には“おりむら”って書かれててさ。“おや?”って思ったね。しかも顔をよくよく見てみると何処となくちーちゃんに似てたし。
それでちーちゃんに弟がいるってのは聞いてたから直ぐにちーちゃんの弟さんってのはわかったけど、だからこそ困っちゃってね。
まさかちーちゃんの弟を殴ったりするわけにはいかないし、いっくんは私に怯まずに引かないでいるし、箒ちゃんは私の抱っこから逃げて泣きそうな顔していっくんの後ろに隠れしちゃうしで。
どうしようかなーって迷ってたら……」
「迷ってたら?」
「いきなり登場したちーちゃんに『一夏に何をするっ!』って殴り倒された」
……あー、確かにそうだったな。思い出した。
道場に行こうと篠ノ之神社に行ったら、一夏が女の子を庇って束と睨みあっていたのを発見したんだったな。
「それで私を殴り続けているちーちゃんをいっくんが必死になって止めてくれてね。初めて見た激怒したちーちゃんを見たせいでいっくん泣いていたけど。
しかも私を殴り終えたちーちゃんは泣いてるいっくん抱きしめながら私を睨んでくるしさ。誤解を解くのが大変だったよぉ。
……ま、それがあったからかなぁ。いっくんなら箒ちゃんを任せても問題ないと思ったのは。
何しろ幼稚園児が中学生相手に怖がりながらも一歩も引かなかったんだ。いっくんは小さい頃から勇気を持ってたよ。
今でも危険なことや目立つことはいっくんが引き受けてくれて、箒ちゃんが全然周りから騒がれないようにしてくれたりと色々頑張ってくれているから、それを考えたらいっくんのお願いぐらいは聞いてあげようって気になっちゃうよ」
「それも一夏らしいと言えば一夏らしいかな」
確かに箒については世間では全然騒がれていない。
情報規制もあるし、束の溺愛している妹だから下手にマスコミも扱いづらいということもあるだろう。
だが最大の理由は一夏が派手にやっているからだな。
箒について扱うよりも、一夏について扱った方がネタもたくさんあるし安全だしで扱いやすいのだろう。一夏自身も無礼な真似をされない限りはマスコミにも紳士的に対応しているし。
しかし言われてみれば、ASショック以降は一夏にしては随分と動いているようだったが、箒の代わりに目立とうとしていたのか……。
……それでも半分ぐらいは趣味で動いていたのだろうが。
「そんなわけで私はいっくんには甘いと思うよ。
それにいっくんって本気で怒ったら何するかわからないからねぇ。そういう意味ではいっくんのこと怖がっているのも確かかな。普段は落ち着いている分、怒ったときの反動が怖いもん。
ちーちゃんだって怒ったいっくんなんて想像出来ないでしょ?」
「……まぁな。一夏の怒りの沸点もよくわからんし」
「ちーちゃん怒らせたなら殴られるだけで済むだろうけど、いっくんはねぇ……。
まずは無表情になるか笑うかのどちらかだと思うけど、それからどう動くのがわからないんだよね」
ムゥ、そう言われると困るな。
一夏は浅い怒りだったらおそらく内に秘めて何食わぬ顔で仕返しするときを待つのだろうが、抑えきれぬほどの怒りだったら確かにどう行動を起こすかわからんな。
一夏自身もそこまでの怒りを感じたことはないだろうし。
……ないよな? もしかして既に私の知らないところで誰かを【行方不明】したりとかしていないよな?
一夏がそんなことするとは思えんが、逆にもしそんなことしてたら私に気付かせないだろうとも思ってしまう。それが例えテロリストに対する正当防衛だったとしても、私や箒に心配かけないために秘密にしているとか。
いつの間にかデュノア社や日本政府、IS委員会なりの手を借りて証拠隠滅…………そんなことないよな?
……ちょっと不安になってきた。束に探ってもらうか。
デュノア社社長と篝火所長がいなくなったら話してみよう。
「ま、いっくんのおかげで世界もだいぶ変わってきたこともあるからね」
「それは確かに。ASショック以前とは随分と様変わりしたからな」
「うんうん、私も久しぶりに箒ちゃんにちーちゃん、いっくんに会えて嬉しかったよ。
これならもうちょっとでまた四人で遊べるかもね」
束がこの旅館に現れていることはIS学園もIS委員会も世界各国上層部も知っている。
それにも関わらず何の反応も見せないということは、おそらく一夏の言う通りに世界は束がもうすぐ帰ってくると思っているのだろう。もしチョッカイかけたせいで束の社会復帰が遅れたら他国にフルボッコにされるしな。
一夏は世界にISが馴染むまであと10年は必要と言っていたが、この束の様子だとそれほど時間は掛からないかもしれないな。
そのときになったら、またこうやって酒でも飲むか。
今度は一夏と箒も加えてな。
Q.どうやったらリミッターを解除出来ますか?
A.リミッターかけた人に解除方法を教わる。
はい、鬼札の詳しい説明でした。前話の反応からすると、以前にこのネタを使った人がいないようで何よりです。
もちろんこの作品のオリジナル設定ですので、多少の違和感はご容赦ください。
ちなみに元ネタとなったのは他にもネタで使っている“Dies iare”の登場人物である獣殿です。正確に言うなら元ネタというか発想元ですが。
三騎士やヒャッハー中尉とかのネタを使っていますので、獣殿のネタも使おうかと思ったのですがどう使おうか困りました。
だって獣殿の創造も流出も使いづらいんですもの。
アレをISで再現出来るわけないから、さぁどうしましょ? と悩んでいたところ、獣殿の渇望である
全力を出す機会が欲しい
にティンときました。『そういえばISってリミッターかかってるじゃん』……と。
そういうわけで“
……やりすぎたかな?
他にもISのコアネットワークを通じて敵ISにハッキング。
敵ISの処理能力を奪って自らのISに上乗せして、自機は性能上昇して敵機は性能低下の“
ちなみに一夏たち四人が初めて会ったときのことは、1話の冒頭の部分で言及している一夏の原初の記憶です。
最悪な出会いだな、四人とも。