AS オートマティック・ストラトス   作:嘴広鴻

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第24話 亡国機業の憂鬱

 

 

 

――― 織斑マドカ ―――

 

 

 

「……真面目にピンチだわぁ」

 

 

 

 スコールの気怠そうな声がした。いつもこんな感じの気怠そうな声をしているが、今日の声は心なしか疲れが混じっている感じがする。

 パソコンでメールを見ていたらしいが、どうやら嫌なことでもあったらしい。

 

「下手したら私たちが持っているISコア三つのうち、一つを取り上げられるかもしれないわねぇ」

 

 成程。それは確かにピンチだな。

 私たちが現在持っているISは、私のサイレント・ゼフィルス、オータムのアラクネ、そしてスコールのゴールデン・ドーンの三つ。

 もしこのうちの一つを取り上げられたら、ただでさえ少ない戦力が更に激減だ。

 

 亡国機業(ファントム・タスク)の下級構成員が多く逮捕されてしまったので、今の亡国機業(ファントム・タスク)は手足であるバックアップを司る構成員の数が不足している。

 バックアップの人間がいなかったらスコールやオータム、私みたいにISを持っている人間でも暴れることぐらいしか出来なくなるが、目的も定まらない現状でそんなテロリストじみた行為をするのは意味がない。

 なので私たち実力行使組はこうやって無為を貪るしかなくなるのだ。

 

 私たちが最近した行動といえば、減少した戦力を集中してようやくイギリスの第三世代IS“サイレント・ゼフィルス”を奪ったことぐらいだろう。

 しかし奪ったはいいが、次の行動には移れない。

 何をするにしても事前の調査や準備が必要なのだが、今の亡国機業(ファントム・タスク)にはその調査と準備に費やす力がない。何か一回行動するだけで息切れしてしまうのだ。

 

 

 亡国機業(ファントム・タスク)の戦力が激減した原因はASショック。

 そしてあの男……織斑一夏が最大の原因だ。といっても織斑一夏本人は『正当防衛の緊急避難』ということで何とも思ってなさそうだがな。

 

 ASショック。織斑一夏を拉致しようとしたあの日から亡国機業(ファントム・タスク)は躓いた。

 貴重なISコアを一つ失い、捕えられた構成員から芋づる式にドンドンと別の構成員が捕まえられるなど踏んだり蹴ったりな目にあっている。

 ほとんどの幹部は逃げ切れたとはいえ、それでも多くの戦力と資金を失ったことには変わりない。

 

 しかも厄介なことに織斑一夏がアメリカやドイツなどから亡国機業(ファントム・タスク)の情報を貰って、自らのブログで亡国機業(ファントム・タスク)の幹部の顔写真を公開した。アクセス数は一日数百万を超すブログでだ。

 私の顔写真はなかったとはいえ、おかげでスコールやオータムなどは迂闊に外を出歩くことも出来ない。

 特にスコールは持っていた表の顔が使えなくなったので大ダメージだ。行きつけのレストランやエステに行けなくなったと愚痴を言うぐらいに。

 

 ちなみに顔写真には織斑一夏の一言コメントが添えられていたのだが、スコールは“ナルシストっぽい”でオータムは“ヤンキー姉ちゃん”だった。

 二人に悪いとも思わないが、これには少し同意する。

 

 ……スコールは露出狂の方があってるんじゃないか?

 

 

「……何を考えているのかしらぁ、エム?」

「別に」

 

 

 日に日に亡国機業(ファントム・タスク)の戦力は減少していっている。

 織斑一夏のブログで幹部の顔写真を公開されたのが地味に響いているからだ。

 

 元からアメリカ政府などから指名手配犯として公開されていた顔写真も多かったのだが、ほとんどの一般人はそんなことは知らなかった。隠されているわけではないが、調べようと思わなければ知る機会はない。

 しかし問題は織斑一夏のアクセス数が一日数百万を超すブログで顔が晒されてしまい、しかもスコールやオータムがなまじ美人だったのが不幸だったのかあっという間に全世界へと拡散された。

 おかげでスコールやオータムは変装しなければ禄に外出も出来ない毎日を過ごしている。

 

 特に日本での騒ぎ酷い。

 いや、私たちが今いる国のことなんだが、元からIS操縦者は女性アイドルのような扱いをされることもあることから、グラビアやイラストがネットに掲載されている中に変わり種として悪役キャラのスコールやオータムが出現。

 そのせいか各国のIS代表をモデルにして書いたら苦情が来るようなイラストがスコールとオータムがモデルとしてネットに出回っているので、本人非公認のネットアイドルとしても人気急上昇中だ。

 この国もう駄目だろ。

 

 しかも顔写真だけでスコールがSでオータムがMと予想した連中が先駆けとなって、スコールには“スコール様に踏まれ隊”やら“スコール様に鞭でしばかれ隊 ”、“スコール様に罵られ隊”、“スコール様に調教され隊”のような変態(ファン)がネット上に出現している。

 オータムも“オータムたんをいじめ隊”、“オータムたんのお尻をペシンペシンし隊”のような変態(ファン)がついたみたいだし、大人気でよかったな、二人とも。

 自分の描かれたイラストを見て、オータムは涙ぐんで喜んでいたぞ。

 

 ……私の顔写真は晒されなくてよかった。

 というか滅びてしまえ、こんな国。

 

 

「付き合いのあった組織から力を借りて何とかしているとはいえ、このままじゃその付き合いすら切られそうよ。

 近いうちに何とかしてISコアを手に入れないとねぇ。そうすれば私たちが力を失っていないということも誇示出来るし、資金も融通してもらえるらしいわぁ」

「シャワー終わったぞ。

 次はエムがシャワー浴びるんだよな」

「あ、ごめんなさい、エム。

 その前にトイレ使っていいかしら?」

 

 

 オータムがシャワールームから出てきた。

 それなら私も寝る前にシャワーを浴びるとしようか。スコールのトイレが終わった後で。

 酒飲み過ぎなんだよ。というか節約しろよ金ないんだろうが。

 

 それにしてもビジネスホテルのトリプルの部屋で宿泊なんて、今まで使用していたようなスコール御用達の高級ホテルとは雲泥の差だな。

 まあ、私としては別に寝るところはベッドでも床でも構わないんだが、それでも出来ればトイレとシャワールームは別にしてほしい。

 

 それとスコールとオータムとは別の部屋にしてくれ。私が隣のベッドで寝ているのに二人で盛るんじゃない。

 というか深夜にペシンペシンしだすな。眠れないだろうが。スコールも“オータムたんのお尻をペシンペシンし隊”なのかよ。

 

 それもこれも織斑一夏が悪いんだ。

 資金難に喘いでいることもそうだが、今まで使用していた高級ホテルにはスコールとオータムを始めとした連中の顔写真が出回っているので、軒並みそういうところは使えなくなった。

 アチコチに用意しておいた隠れ家も資金難で手放すことになっていたので、最近の宿泊先はもっぱらこういう安宿だ。

 

 ちなみにIS学園に近いホテルほど特にチェックが厳しいらしい。

 IS学園が狙われていると織斑一夏が考えていることの証だろう。

 

 

 

「……で、どうすんだよ、スコール?

 IS学園のIS強奪するのはいつ行うんだ?」

 

 だから冷蔵庫から出したビール飲むな、オータム。せめて近所のスーパー行って買って来い。

 こいつら金持ってた時の感覚が抜けてないな。

 

「私としては今度行われる学園祭か、もしくはIS学園の一年生が修学旅行に行くときがチャンスだと思っているのよねぇ。

 学園祭はチェックがそこそこ厳しいとはいえ、学園関係者以外の人間が大手を振って学園内を歩き回れる数少ないチャンスだし、修学旅行は専用機持ちのほとんどが京都に行くのよ」

「それなら確かにそこら辺が妥当だな」

「学園祭のときに入り込んで情報収集。そして修学旅行のときに実行というのが一番かしら。何しろIS学園のセキュリティについては不明な部分が多いから、一発勝負というのは難しいでしょうね。

 それに何よりも修学旅行のときには、最大の脅威である織斑一夏君が学園にいないわ。彼の白式・ウルフヘジンが手に入れば一番なんだけどねぇ」

「No.1とNo.468のコアか。プレミアが付きそうだな」

「あら、違うわよ。白式のコアは確かにNo.1だけど、ウルフヘジンのコアはNo未登録よ」

「あ? そうだったのか?」

「ええ、彼が篠ノ之束からコアを貰ったあとも、篠ノ之博士は世間に出すコアを作り続けていたからね。織斑一夏君のブログによると、ウルフヘジンのコアはNoで言うなら450番辺りに作られたらしいわよ。

 まあ、未登録のコアなら強奪してもコアNoという証拠がないから好ましいんだけどね。でも今は組織の立て直しのために奪いやすいNo付きのコアで我慢しましょ。

 それにAISに剥離剤(リムーバー)が効くかどうかわからないしねぇ」

 

 …………織斑一夏、か。

 

 残念だが、今の私では奴を殺すことは出来ないだろう。

 ISの操縦技術が劣っているということではないが、あの白式・ウルフヘジンを相手にするのはサイレント・ゼフィルスでは厳しい。

 

「……エム、言っておくけど独断専行は許さないわよ」

「わかっている。その代わりISコアを手に入れたら……」

「ええ、約束通りに三つ以上コアを手に入れたら、貴女のサイレント・ゼフィルスをAISにしてあげるわ。出来れば四つ以上欲しいけどね。

 一つは今まで援助してくれた友好組織に、一つは亡国機業(ウチ)に、そして最後の一つは貴女に。四つ以上なら亡国機業(ウチ)の取り分が増えるだけね」

「足元見てやがんなぁ。ちょっとばかりの援助でISコアを手に入れるつもりかよ。

 しかも四つ以上手に入れても、私らの手に残るのはエムの一つだけか。幹部会の方もぼったくるんじゃねぇよ」

「仕方がないでしょう。それ程までにウチの負ったダメージは大きいんだから。まあ、予想外に手に入ったら、上と交渉して何とか私たちの取り分を増やしてもらうわ。

 エム、貴女が織斑一夏君に勝てるようになるのは私たちとしても都合がいいから、そこら辺の約束は絶対に守ってあげる。だから精々頑張りなさい。

 そのために貴女も監視用ナノマシンという首輪がなくなっても、私たちについてきているんでしょう?」

「わかっているさ」

 

 以前までは私の体内には監視用のナノマシンが定期的に注入されていた。

 理由は私が組織に従順でないので造反や命令無視を防ぐため。定期的に注入されていたのはナノマシンは生理現象で自然に体外に放出されるためだった。

 しかし亡国機業(ファントム・タスク)の力が落ちると、その監視用ナノマシンを手に入れるための労力を別のことにまわさなければいけなくなったので、監視用ナノマシンの在庫が切れてからは私は首輪が外れた身となった。

 

 まあ、それがどうしたという話なんだがな。

 織斑一夏を殺すためには残念ながら私一人では無理なので、亡国機業(ファントム・タスク)の力がいる。

 サイレント・ゼフィルスをAISにしてくれるというのなら、スコールに従って手も貸してやるさ。

 

 私が私であるために、織斑一夏は絶対に殺す。そうしないと私は始まることさえ出来ない。

 そのためには何だってしてやるさ。

 

 

「でもサイレント・ゼフィルスをAISにするより、例のモノを使った方がいいと思うけどねぇ」

「それはイヤだ」

「何でもするんじゃねぇのかよ? ……ま、アレ使ったら篠ノ之束が動く可能性があるからしゃーねーか。

 それじゃあ次に動くのは学園祭のときでいいんだな」

「ええ、お願いするわ、オータム。

 エムは情報収集なんて器用な真似が出来ないし、私は顔が割れているわ。今まで表の顔でアチコチに顔を出していたのが災いして、変装程度じゃ見破られそうなぐらいに顔割れしているから私じゃ無理でしょ。

 それに引き換えオータムは顔写真が晒されたといっても解像度が低い遠くからの写真だし、結構昔のオータムだものね。それに表の顔がなかった分だけ私よりマシだわ。印象が変わるような変装するぐらいで大丈夫でしょう。

 でもオータム。変装のために髪の毛を切ったりしないでよ。私、貴女の髪の毛好きなんだから」

「お、おう……」

 

 顔を赤くするな、ガチレズども。

 こんなとこにいられるか。もう私はシャワーを浴びるぞ。

 

 それと私が情報収集に向いていないというのは同意するが、だいたい私は姉さんと顔が同じなんだから姉さんが働いているIS学園に顔を晒していけるわけないだろう。

 少しぐらい変装していても、あそこの生徒たちに姉さんの熱狂的なファンが多いことからしてアッサリばれるだろうし。

 

 私はもし変態どもに襲われたとしたら、それが生身の人間であったとしてもIS使って蹴散らすからな!

 

 

 

 

 

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「シャワー浴び終わ…………おい、何故オータムが顔を赤くしている?」

「さ、さっきシャワーを浴びたからだろ!」

「私がシャワー浴びる前より明らかに赤いだろ。

 それと何故ケツをモジモジと動かしてる?」

「そ、それはだなぁ……」

「ウフフ、オータムったら可愛いわぁ」

 

 

 もうやだ、コイツラ。羞恥プレイに目覚めやがった。

 別の部屋とってペシンペシンしてろよ。

 

 

 

 

 

――― 更識楯無 ―――

 

 

 

「ハッ!? 何だかどこかでキャラを奪われた気がする!?」

「いきなり何言っているんですか?」

 

 あら、ごめんなさい。

 何だか電波を受信しちゃって…………けど、別に変態キャラなら奪われてもいいわよね。私はノーマルだし、ウン。

 

 それにしても夏休みもあっという間に終わっちゃったわねぇ。

 といっても夏休み中も私たちは寮で生活していたから、そんなに生活スタイルが変化したというわけじゃないけどね。夏休み中も普通に今みたいに生徒会室も使っていたし。

 

 ところで何の話をしていたんだっけ?

 

「学園祭についての話だよ、お姉ちゃん」

「ああ、そうだったわね。

 それで一夏君のクラスは何をやるのか決まったのかしら?」

「喫茶店です。和洋中のお菓子を準備しておくことになりました。

 飲み物はコーヒー、紅茶、緑茶、抹茶、中国茶と各種取り揃えています」

「あら、それは楽しみね。

 時間があったら私も寄らしてもらうわね」

 

 なかなか期待出来そうね。

 何でも一年一組では料理が密やかなブームになっているらしいし。

 

 何しろ元から専用機持ちは料理上手が多かったし、何より一夏君が料理上手っていうことが他の女の子のプライドをへし折ったみたいね。

 それで入る部活を決めていなかった一年一組の生徒が料理部に大量に入部したとか。

 

 ただでさえ一夏君は高嶺の花なのに、家事スキルですら自分たち女子より上で、自分たちが勝っているところが見つからないという事実は確かにつらいわよねぇ。

 別に女尊男卑主義でも男尊女卑主義でもない女の子が多かったみたいだけど、それでも一夏君に料理の腕で負けたってのは悔しかったみたい。

 

「でもそんなに飲み物を用意して予算は大丈夫なの?」

「大丈夫です。余ったら皆で買い上げますし、日持ちするモノばかりですからね。

 それに元々一組では昼食後のお菓子と楽しむ喫茶がブームになってまして、紅茶はセシリアの伝手、中国茶は鈴の伝手で夏休み前から手に入れていたんですよ。コーヒーや緑茶、抹茶は普通に市販品ですけど。

 大量に注文したらその分安くなりますから、この機会に自分の分も買おうとしている子が多いので、むしろ余ることが前提で注文することになっています」

「でも一夏がいるから来客数は多そうだし、余るどころか足りなくなるんじゃないかな。

 そうなったら争奪戦が始まりそう」

「わーお、バイオレンス」

 

 そういえば昼休みに一年一組にお邪魔したとき、電気ポットやお茶の道具が教室に置いてあったわね。

 あんなものが教室に置いてあっても、織斑先生は何も言わないのかしら?

 

「普段は俺のウルフヘジンの拡張領域に入れていますんで」

「まだバレてないから大丈夫」

「そんなことにISを使うんじゃありません」

 

 相変わらず好き勝手にISを使っているわねぇ。

 というか簪ちゃんが一夏君に毒されてきている気がするわ。

 

 まあ、IS学園の生徒は元々お金持っている子が多いから、そういう嗜好品を買う子も多いんでしょ。

 奨学金を貰ってくる子がいないでもないけど、そういう子は最初からIS学園のような限られた進路しか取れなくなる学校じゃなくて普通の進学校を選ぶから、物凄い競争率に比べたらそういう生徒は少ないのよね。

 

 

 

「それで確認しておくんだけど、一夏君が来客チケットを渡すのは五反田弾君ということでいいのよね?」

「ええ、数馬との死闘に勝ったみたいなんで、弾にチケットを渡すことになりました」

「死闘って……数馬君とやらは生きているのかしら?

 それはともかくとして、悪いけどその五反田君の事前調査はさせてもらうわよ。それと当日は陰ながら監視兼護衛もつけさせてもらうわ」

「大丈夫です。あらかじめそういうことがあり得ると言っておきましたから。ただ弾以外の家族には余計なことはしないでくださいね。

 それと弾はIS学園に来れるなら、時間を取って心理テストを受けてもいいと言ってましたよ。犯罪を犯しやすいかどうかの心理テストとか」

「そ、そこまではしてもらわなくていいかな~?」

 

 話が早いことは助かるけど、そこまで開けっ広げにされると戸惑っちゃうわね。

 というかそこまでしてIS学園に来たいのかしら、男子高校生?

 

 いや、まあ五反田君のことはただの確認だったからそれでいいのよ。以前から一夏君の友人ということで、書類上でだけど知っていたし。

 だけど問題は……、

 

「箒ちゃんが篠ノ之博士に来客チケット送ったって本当なの?」

「本当です。両親を誘おうにもチケットの割り当ては一枚だけですからねぇ。

 あの二人はどちらか一人しか行けないなら二人とも行かないって感じの仲の良い夫婦ですし、特別にチケット二枚割り当てられたとしても、そういう特別扱いを嫌う人たちですから。

 箒とは夏休みにもう会ったから、直ぐに会わなきゃいけないってこともないですしね。

 まあ、どうせ束姉(たばねー)さんも来ないだろうとは思いますけど、それでも礼儀として連絡用のニンジンロケットでチケット送ってましたよ」

「ニンジンロケットって何よ?

 ……一夏君は学園祭に篠ノ之博士は来ないと見ているのかしら?」

「ええ、学園祭に来るんだったら、夏休みのときの篠ノ之神社の祭りにも来ているでしょう。

 IS学園の学園祭となれば、IS関係者がわんさかいますからね。わざわざ束姉(たばねー)さんがそんな連中の中に飛び込んでくるとは思えません」

「それならいいんだけどねぇ。でも篠ノ之博士が来るとなったら、警備計画を一から見直ししなきゃいけないわ。

 一夏君には悪いんだけど、篠ノ之博士が来るかどうか確認してもらえないかしら? 来る可能性が高い低いだけでもいいから」

「来たら俺と箒が護衛を引き受ければいいだけの気もしますが…………まあ、確認しておきます。

 でも来ないと言っていながら、当日になって気が変わって来るかもしれないことは覚えておいてくださいよ。その逆もまた然り」

「それはわかってるわよ」

 

 ……フム、一夏君は篠ノ之博士は来ないと予想しているか。

 それなら来ないことを前提に進めていいかもね。

 

 それに篠ノ之博士が私たちが手配した護衛を近くに置くことを許すとは思えないから、もし本当に来たら一夏君が言っていた通りに一夏君と箒ちゃんにお任せした方がいいでしょう。

 二人に学園祭の当番とかサボらせちゃうかもしれないけど、さすがに篠ノ之博士の身の安全の方が大事だわ。その上で私たちが一夏君たちの手伝いをするという形をとれば、篠ノ之博士も文句をつけてこないわよね。

 織斑先生ともそういう方向で話を進めましょうか。

 

「それじゃあちょっと束姉(たばねー)さんに電話してきます。

 お茶ご馳走様でした」

「はいはい、お粗末様でした。

 篠ノ之博士のことお願いねー」

「じゃあ、私はお茶のカップを洗っちゃうね」

 

 

 

 篠ノ之博士に電話をしてくる、か。相変わらずシレっと全世界が熱望していることを気負いもせずに出来るわよねぇ。

 かといってその価値がわかっていないのではなく、わかっていながら気負わずに行う。一夏君の神経って注連縄並みの太さもありそうよね。

 

 それにしても、篠ノ之博士に直接コンタクトを取れる人物が今まで私の目の前にいた。しかもその人物は世界で唯一の男性IS操縦者であり、いざとなったときは隕石落下から地球を守る人物でもある。

 そう改めて考えたら凄いわ。

 

 

 ……一夏君は織斑先生と篠ノ之博士の弟ということはあったとしてもこの地位をほぼ独力で手に入れた。

 そりゃあ、あの二人の弟ってことが最大のアドバンテージなんだろうけど、それでも一夏君以外の誰かだったらここまで上手くいかせることが出来るかって言われると“難しい”としか言えないわ。

 私だって更識家の当主としてある程度の地位は持っているけど、それだって如何に実力があったとはいえ先代の地位を引き継いだようなものだからねぇ。悔しいけど私じゃ真似出来ないかな。

 

 まあ、そういう状況なら更識家の当主としては何としてでも一夏君を更識家に取り込むべきなのだろうけど、どう考えても一夏君を取り込んだら消化不良起こすわよねぇ。

 特に何なのよ、拡張領域(バススロット)のリミッターを外す単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)ってのは? 確かに正攻法でのリミッターの外し方だけど、正攻法だったら何してもいいってわけじゃないってぇの。

 

 一夏君がそんなことを企んでいるって知っているのは織斑先生と篠ノ之博士を除いたら、デュノアの社長と倉持の篝火所長。

 幸いバラすような人たちじゃないし、そもそもデュノアと倉持は一夏君と一蓮托生のところがあるから、一夏君が不利になることはしないってわかっているからまだいいか。

 

 

 更識の親族の中には、私か簪ちゃんの婿として一夏君を迎えるなんて国家間パワーバランスを考えもしていないアホウがいたけど、ここまで来るとそんなこと出来るような状況じゃないわね。むしろ状況的にはさらに悪化してる。

 触らぬ神に祟りなしよ。不機嫌になられないように適当にお供え物を用意しておきましょ。

 

 といっても一夏君とはより良い関係を築いていかなければいけないのは確かだし、簪ちゃんに一夏君と仲良くしたらダメなんて言ったら本気で嫌われそうだからね。

 だから仕方がなくだけど。本っ当~~~に仕方がなくだけど、もし簪ちゃんが一夏君のところにお嫁に行くとなったのなら、それは姉としても更識家当主としても祝福しなきゃいけない。

 

 

「~♪」

 

 

 ……いけないんだけど、実際のところの進展の方はどうなのかしら?

 

 チラと簪ちゃんを見てみると鼻歌しながら洗い物しているし、四月以前に比べると本当に笑顔が増えた。人生楽しそうに日々を過ごしているわ。

 IS学園に入学して来た頃にはこんな風になるなんて思ってもいなかったけど、でも簪ちゃんが明るくなって本当によかった。

 簪ちゃんがIS学園に入学して、箒ちゃんたち友達がたくさん出来て、私とも仲直り出来て、そして何よりも…………恋をした。

 

 

 ベキッ!!

 

 

 あ、いけない。シャーペン折っちゃった。

 ああ、折ったといってもシャーペンの芯よ。芯。

 

 ……そりゃあさぁ、別に一夏君とのことについては反対しないわよ。

 一夏君がこれ以上ないっていう優良物件だってことは理解しているし、篠ノ之博士が一夏君なら箒ちゃんを任せられることが出来るって思っているように、私も一夏君なら簪ちゃんを任せられると思う。

 姉としても、更識の当主としても反対することは出来ないわ。

 

「お姉ちゃん、洗い物を終わったよ」

「ありがとね、簪ちゃん」

「うん。じゃあ、今日は私の番だからもう行くね」

 

 

 でも“私の番”ってナンノコトカシラネ?

 ……本気で一夏君を始末しないと駄目かしら?

 

 

「ま、まあ待ちなさいよ、簪ちゃん。

 一夏君もまだ篠ノ之博士と電話中かもしれないから、邪魔するのはよくないわよ」

「……それもそうかな?」

 

 いや、一夏君を始末するより、まずはシャルロットちゃんを何とかした方がいいかもしれないわ。

 

 一夏君のことを好きな女の子は六人。

 正確に言うなら一夏君のことが好きで尚且つ一夏君の傍にいれる女の子が六人であって、一夏君に憧れている女の子はそれこそたくさんいるんだけどね。

 

 でも一夏君一人に対して、傍にいれるのが六人というのはやっぱり多いのよ。

 放課後に一夏君と何かしようとしても、六人のうちの誰がするか決めるだけで時間がかかっちゃうし、下手したらケンカにすらなりかねない。

 

 そこでシャルロットちゃんの主導で、一夏君と一緒に放課後を過ごす順番を決めるようにしたみたい。これも秘書の業務の範囲なのかしらねぇ?

 月曜日にくじ引きでその週の月~土曜日の順番を決めて、余った日曜日は全員で一夏君のところに行く。むしろ日曜日は全員で一夏君にISの試合を挑みに行ってる。

 ただし一夏君のクラス代表とかの用事があればそれが優先だし、そもそも一夏君に希望があればそちらが優先される。

 

 ……まあ確かに、せっかく仲良くなった友達とケンカをするぐらいなら、あらかじめ順番を決めておいた方がいいのかもしれないし、逆に順番を決めたことによってあぶれた女の子同士で遊びに行ったりして楽しんでいるみたいだから、この取り決め自体はそう悪いことじゃなさそうなんだけどね。

 でも最近のシャルロットちゃんの笑顔に寒気を感じるのは何故なのかしら?

 

 それに傍から見ると、一夏君ってば日替わりで侍らせる女の子を変えているジゴロにしか見えないのよねぇ。

 六人でガッチリと一夏君の近くをガードしているから他の女の子が寄ってこないというメリットもあるんでしょうけど、正直言ってお姉さんやり過ぎだと思うんだけどなぁ。

 

 

「そういえば簪ちゃん。

 先週、初めてカラオケに行ったんだって?」

「う、うん。箒の当番の日に他の皆でね。

 初めて大きな声で歌ったから、次の日は喉が痛くなっちゃった」

 

 ……今度お姉ちゃんも一緒に行こう、って誘ってくれないのかしら?

 箒ちゃんたちとつるんでばっかりで、正直お姉ちゃん寂しいです。

 

 

 だけど私が寂しいと感じていても、この取り決めを止めさせることなんて出来ない。

 これで他の女の子を排除しようとしたり、一夏君の行動を束縛するようだったら止めさせることも出来そうだけど、あくまで簪ちゃんたち六人の中での約束でしかないからね。

 

 あくまで六人がお互いに邪魔をしないという取り決めなだけであって、別の女の子が一夏君のところに遊びに来ても排斥しないし、一夏君にその順番通りに女の子と一緒に放課後過ごせと強要したりはしない。

 当番の日もやることといったら、箒ちゃんだったら剣道を一緒にやってるぐらいだし、セシリアちゃんだったら一夏君に料理の勉強を教えてもらって、簪ちゃんだったら一緒にアニメ観賞……といった感じで、別に高校生にあるまじきふしだらことはしてないわ。

 だから止めさせる理由がないのよ。

 

 一夏君的にも“白に近い灰色”のようだから断ったりしないみたい。

 これがもし、順番決めたから放課後はその順番通りに女の子と一緒に過ごせと言われたら、一夏君なら絶対ヘソ曲げるでしょうね。むしろ『命令される筋合いはない』とかいって絶対に拒否する。

 けど考えたのが箒ちゃんなのかシャルロットちゃんなのかは知らないけど、一夏君が不機嫌にならない線引きはシッカリしているから問題はないみたいで、一夏君も多少の違和感は感じているみたいだけど特に断る理由がないから受け入れている。

 

 だけど一夏君がどんどん深みに入り込み始めている気がするのもお姉さんの気のせいかしら?

 一夏君って身内には結構甘いから、こんな風に身内に嵌められるとドンドン泥沼に沈んでいくのよね。

 

 

「一夏はね、私の作ったカップケーキの中では甘さ控えめにした抹茶味が一番好きみたいで……」

「へぇ、そうなんだ。

 一夏君って食べ物の好き嫌いはないけど、味付けに関しては結構細かいわよねぇ」

 

 

 まあ、生徒会長としては痴話喧嘩に発展しない現状ならそう目くじら立てることはないでしょうし、一夏君の護衛を依頼されている更識の当主としても、一夏君が周りと友好関係を築いている方が仕事がやりやすい。

 それでも簪ちゃんの姉としてはちょっとどうかと思っちゃうなー?

 

 しかも厄介なことにシャルロットちゃんはラウラちゃんと同盟を組み始めたみたいで、シャルロットちゃんとラウラちゃんだけは六日間に一度だけの優先権が六日間に二度になっている。独り占めならぬ二人占め。

 一夏君を独り占め出来ないけど、それより一夏君の傍に長くいることを優先したんでしょう。

 それにシャルロットちゃんとラウラちゃんは姉妹みたいに仲がいいからね。楽しそうに一夏君を含めた三人でゲームをしてたりするわ。

 

 まあ、それはいいんだけど問題は、簪ちゃんがそのシャルロットちゃんとラウラちゃんが仲良く一夏君と放課後を過ごしている光景を、羨ましそうに見ているのが増えてきたことなのよ。

 

 ……まさか、ね?

 ラウラちゃんが日本男子はハーレムが当然と思っていることに、シャルロットちゃんも影響されてるなんてことはないわよね?

 シャルロットちゃんたちの当番の日でも、たまに簪ちゃんを誘って過ごすことがあるみたいだけど、それはシャルロットちゃんが友達想いだからよね?

 決して簪ちゃんを愛欲の道に誘い込もうとしているわけじゃないわよね?

 

 

「と、ところで簪ちゃん…………最近一夏君とはどうなの?」

「え? や、やだなぁ。そんなこと聞かないでよ、お姉ちゃん」

 

 

 ああ、簪ちゃんが幸せそうに笑ってる。

 ずっとその笑顔でいて欲しい。

 

 そのためにはどうするべきか? 姉としてどうするべきか?

 単純に考えても六分の一という低確率にかけて簪ちゃんと一夏君が結ばれるように応援するか、もしくはシャルロットちゃんが考えているかもしれない方法で皆で幸せになれるように応援するか。

 

 

 ……くっ、正直な話、私の見たところでは前者においての簪ちゃんの勝ち目はかなり薄い。

 何だかんだで一夏君にとっての恋愛相手として見ている女の子の一番は箒ちゃん、次いで鈴ちゃんとシャルロットちゃんが同点という感じだから、よっぽどのことがない限り一夏君は簪ちゃんを選んではくれない。

 それと最下位はきっとラウラちゃんっぽいのよね。どう見ても妹として扱っているし、それに鈴ちゃんも若干妹扱いにしてるっぽいけど。

 簪ちゃんはおそらく四番目か五番目。セシリアちゃんと同じような位置かしら。

 

 だから勝ち目の薄い戦いにこのまま簪ちゃんを突き進ませるぐらいなら、発想を逆転させて一夏君に全員を受け入れさせる。

 一夏君なら六人全員養うことなんて簡単だし、簪ちゃん自身も女の子同士で仲が良いから寂しくなったりはしない。そして一夏君なら、そうなったとしても簪ちゃんを含めた全員を幸せにしてくれると思う。

 

 

 ……だけど姉としてはっ、簪ちゃんの姉としてはそんなこと許し難いのよ!

 

 

「……そろそろいいかな?

 お姉ちゃん、私も行くね」

「そ、そう? 頑張ってね?」

「が、頑張るって何を!? ……もう、お姉ちゃんったら」

 

 

 それに比べて、一夏君が簪ちゃん以外の女の子を選んだとしても、一夏君のことだからきっと簪ちゃんに配慮した断り方をしてくれるだろうし、今の感じだと簪ちゃん自身も青春の一ページとして悲しみながらも乗り越えてくれそう!

 だから簪ちゃんが悲しみを乗り越えてくれることを期待して…………乗り越えてくれそうなんだけど、でも簪ちゃんが悲しむことには変わりはないのよね。

 

 状況が状況故に、悔しいけど私としては一夏君が簪ちゃんを選んでくれるのが一番嬉しい。

 だけどその肝心の勝ち目が残念ながら薄い。そして一夏君が簪ちゃん以外の女の子を選んだら簪ちゃんは悲しむ。

 それなら簪ちゃんが悲しまないように、文句はあるけど簪ちゃんが一夏君の傍にいれるようにするのを優先するか……。

 

 でもそれは姉としてはやっぱり許し難い!

 

 

 くっ、自分の立場と一夏君の立場が恨めしい。

 一夏君が一般人なら何としてでも簪ちゃんとくっつけさせるのに……。

 

 まったくもって世の中は侭ならないモノねぇ。

 簪ちゃんが他の女の子と仲が良いのは嬉しいけど、本気でこのままズルズルといっちゃいそうだわ。

 

 何とか皆が納得するような決着の仕方はないかしらねぇ?

 

 

 

 

 






 シャ(以下略


 スコール様とオータムたんはネット上で大人気のようです。
 でもまぁ、人を誘拐しようとしたんだから情けは無用ですよね。
 それとマドカちゃんは変態恐怖症とネット恐怖症になりかけてます。ネットって怖いですよね。

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