――― 篠ノ之束 ―――
もしもしひねもす~、いっくんってばこんな朝早くからどうかしたのかなぁ~? 確か今日から修学旅行で京都に行くんじゃなかったっけ?
まだ超電磁ISゴーレムⅤは出来ていないよぉ。
……へあっ? ……うん、サイレント・ゼフィルスとアラクネ、それにゴールデン・ドーン?
その機体に使っているコアNoはわかる? …………うん、うん。えーっと…………ああ、IS学園の近くにあるね、三つとも。
でもそれがどうかしたの?
……。
…………。
………………へぇ~、そうなんだ。頑張ってね。
あ、そんなどうでもいいことよりも京都土産よろしくぅ!
――― セシリア・オルコット ―――
……。
…………。
………………よし、これですわっ!!
「これで私もアガリ…………じゃないですわ!?」
「残念、それは私のジョーカーさんだ」
くぬっ!? こ、この私が読みを見誤るなんて……。
ですがセシリア・オルコットの名に懸けてビリは何としてでも回避しますわ!
さあ、ラウラさん! 右手に持ったカードと左手に持ったカードのどちらを選びますか!? もちろんヴォーダン・オージェは無しで!
「お前ら、もうちょっと静かにしろ。
いくらこの車両はIS学園の貸し切りとはいえ公共の乗り物だ」
「あ、お……織斑先生。申し訳ありませんでした」
「フン。それと学園に残っている更識姉から連絡があった。
「ム、本当ですか、教官?」
アラ、遂に動きましたか、
それでも一昨日から今まで泊まっていたホテルから別のホテルへ移動したので、直近の情報が手に入れられていなかったのが心配でしたけど、どうやらそれ以前に計画した通りに動いているようですわ。
それにしても、修学旅行のために京都まで行くことになっている私たち一年生が新幹線に乗っている時間、それも京都―名古屋間のちょうど真ん中辺りにいるときに仕掛けてくるなんて考えていますわね。
京都駅まではまだ20分以上かかります。他の乗客がいる状況では新幹線を緊急停止させることなんて出来ませんので、もし私たちが援軍に向かうとしても京都についてからになってしまいますわ。
そしていくらISが音速を越える速度を出せるといっても、京都―東京間で500kmは離れていますから、どんなに急いでも私たちがIS学園に戻れるのは今から30分以上かかるでしょう。
それに全速力でIS学園に戻ったとしても、スラスターエネルギーをほとんど消費してしまっているでしょうから、そもそも
これでは私たちは無力化されてしまったのと同様です。
「お姉ちゃん、大丈夫かな……」
「教官、やはり私たちの何人かは学園に残った方がよかったのでは?」
「仕方があるまい。お前たちの戦力が重要だということはわかっているが、相手もそれはわかっているだろう。
お前たちに介入されないためにも、コチラにも陽動で何かを仕掛けてくる可能性は充分にある。それに対処するためにも、お前たちは他の生徒と一緒に修学旅行に来なければならなかったのだからな。
しかも戦力バランスを考えても、お前たち六人はコチラが妥当だ」
それはそうなのですが、イギリスから強奪されたサイレント・ゼフィルスが使われているということですので、私も出来れば
しかも私たちはこうして新幹線に乗っているのに対し……
「でも一夏は学園に残っていますよね?」
「一夏は寝坊だ、凰」
……何という信じられない言い訳。
「相変わらず無茶苦茶な……」
「寝坊って言ったら寝坊なんだ。
そういえば更識姉が、寮の自室で眠りこけていた一夏を発見したとついでに言っていたぞ」
「いや、そんな棒読みで言われても困ります」
「もうちょっとマシな言い訳はなかったのでしょうか?
しかも
もちろん
白式・ウルフヘジンでしたら京都―東京間なんて10分程度で来れますから、一夏さんも修学旅行参加されるのはいいんですけどね。
「そりゃISコアの配分で一夏の口添えがあるんだったら、そのぐらいの便宜は図るだろうさ」
「ああ、先日の企業から没収した二つのコアの帰属先のことね。
一つは一夏用に取っておくとして、もう一つをどこ所属にするかでIS委員会が紛糾しているとか……」
「アラクネやサイレント・ゼフィルスとかは盗まれた国がわかっているので、帰属先が決まっていますからね。しかし没収したコアでしたら新たにコアの配属先を決める必要があります。
一夏は日本政府が白式に使用しているコアを提供してくれていることから、今回の援軍の件も併せて日本が新たなコアを手に入れることが出来るようにIS委員会に口添えするそうですね。
我がドイツとしても欲しいとは思っているでしょうが……」
「……
「何かおっしゃいまして、シャルロットさん?」
ハァ、これではまたイギリスに対する一夏さんの貸しが増えますわ。本国のお偉方も頭を抱えているのでしょうね。
それでもISコアが一個戻ってくるのだから文句はつけられませんが。
というか戦力バランスを考えるというのなら、むしろ一夏さんもコチラに最初から同行すべきではないのでしょうか?
私たちは専用機持ちが六人で、織斑先生が打鉄を持ってきていますので戦力はIS七機。
それに対して、IS学園側の戦力は一夏さんを含めて…………
「“四十対三”ってイジメですわよね」
しかもそのうちの十機はAIS。一夏さんを入れてですけど。
結局“ドキッ☆ ISだらけの
ですけど
「今日はアメリカ代表のイーリス・コーリングを始めとしたアメリカ軍IS部隊が、AISの体験をしにIS学園を訪れるんですよね、織斑先生?」
「ああ、自衛隊のIS部隊と合同でな。一年生が修学旅行に行くおかげで授業に使わないISの数が普段に比べて多いから、この機会に大規模な合同訓練を行うらしいぞ。
そんなときに
「(千冬さんが遠い目をし始めている……)」
「(既にもう全部諦めちゃった顔をしているわよね)」
「
「クラリッサたちを呼べなかったのが残念だ。アイツらも一夏や箒と一緒に訓練した仲だというのに」
……一夏さんのせいで死ぬより辛い目に遭わされるような気がするのは気のせいなのでしょうか?
ご愁傷様ですわね、
でもそれは自業自得なので、遠く離れた京都に行く私たちにはどうにも出来ないことですわ。
ですから私たちを恨まないでくださいね。私たちは何もしていませんので。
――― イーリス・コーリング ―――
「人間一人に出来ることは限りがある。でも一人じゃ不可能なことだったとしても、もっとたくさんの人間が集まれば可能にすることだって出来る。
もしかしたらそれを甘えだと、一人では何も出来ない弱者の言い訳に過ぎないと思う人もいるかもしれない。
でも……そうだとしても、俺は一人でやることに固執して大切なものを失うぐらいなら、周りの皆に助けてくれと頼み込む。
……良いこと言っているのかもしれないけど、アラクネ踏み潰しながら言うことじゃねーよな。
「というわけでドーモ、
「な……何で織斑一夏君が空から降ってくるのかしらぁ……?」
「(……オータム、生きているのか?)」
IS学園の裏手から侵入しようとしていた
とはいえ串刺しだけだったらまだ救われた気もするんだが、
……アラクネの操縦者ってちゃんと生きているのかよ?
零落白夜による串刺しは操縦者の肉体を外してされたみたいだし、一瞬でシールドエネルギーがゼロになるわけじゃないから、シールドバリアーがどれくらい発動出来たかどうかによるな。
一応は急ブレーキもかけてたみたいだけど……。
でも誰も回避出来んわ、アレは。
織斑一夏がコレを出来ると知っていたとしても、四六時中警戒していなきゃどうしようも……いや、警戒していてもどうしようもないか。
警戒していたことで織斑一夏に気付けたとしても、その気付いたコンマ何秒後かには既に白式・ウルフヘジンに押し潰されることになるので、ISを展開する時間すらないから無理だ。
対抗するならば、ステルスモードで隠れた織斑一夏を探し出さなきゃどうしようもないな。
ISじゃなくて狙撃手を相手にするようなもんだろ、アレ。
ハァ……何か弱い者イジメみたいでやる気が失せてきたな。任務だからやるけどさ。
うし、それじゃあ私らも行くか。
それにしても戦争が起こったわけでもないのに、ここまでISが集まるなんて滅多にないだろうな。それこそモンド・グロッソとかそういう大会でもない限り、四十機ものISが集まるなんてないだろう。
「なっ!?」
「囲まれたっ!?」
学園からの合図と同時に、ステルスモードを解除して部隊を展開。
参加した人数は専用機持ちが私の他に、織斑一夏とIS学園の更識楯無にダリル・ケイシー、フォルテ・サファイアの五人。
その他にIS学園の教師と国家代表候補生を始めとした選抜生徒が合わせて二十人。そして自衛隊のIS部隊が十人。私と一緒に来たアメリカ軍IS部隊が五人。計四十人。
……何このイジメ?
しかもそのうちIS学園の九機はAISであるラファール・ルベドだし。
事前の作戦では、私ら専用機持ちたちが敵ISの無力化を行う…………はずだったんけど、既に一機落ちたんだよな。この場合はどうしたらいいんだろうか?
作戦では織斑一夏が一機、アメリカ国家代表の私が一機、更にロシア代表でIS学園生徒会長の更識楯無を始めとするIS学園の専用機持ち三人で一機をそれぞれ担当することになっていたんだが、この場合なら私が織斑一夏の援軍に行けばいいのかよ。
なお、IS学園のラファール・ルベド隊は作戦区域を包囲。敵ISが離脱を計ったら“
IS学園の残りのIS十一機は周囲の警戒と予備戦力のために待機。
自衛隊と米軍のIS部隊は後方からの火力援護。
……コレ、私らと自衛隊はいらんかったんじゃないかな?
いや、もちろん任務だし、アラクネ奪還のために協力することは悪いことじゃねーんだが、どうにも弱い者イジメの感が強すぎて気が乗らない。
私かナタルのどちらかが行けばいいってことで、AIS体験につられて私が任務を受領したけど、やっぱりナタルに任せておけばよかったか。ナタルも久しぶりに織斑千冬に会いたがっていたことだし。
ベキ、ベキベキベキベキ!
おい、無言でアラクネを解体すんな、織斑一夏。
「オ、オータム!?」
「動くなバカッ!」
織斑一夏がオータムを串刺しにした雪片弐型(改)を量子化して回収し、素手でベキベキとアラクネを解体していく。
そして解体したアラクネから操縦者とISコアを引きずり出した織斑一夏は私たちの方に跳んできて、操縦者とISコアをポイッて感じに放り投げてきた。私の後ろにいた部下がナイスキャッチ。
コイツ、本当にあの織斑千冬の弟かよ!? 顔は確かに似ているけど、取る行動は全然違うぞ、オイ!
「それではイーリス・コーリングさん。
アラクネ本体は…………まあ、この戦闘が終わって無事に残っていたらということで」
「あ、ああ……コアが一番重要だからな。機体そのもの自体は安全を確保出来てからでいい。
おい、お前らは後退しろ。奪い返されたりしないようにな」
「イ、イーリス・コーリング!? アメリカ国家代表の!?」
パスされたアラクネのコアと操縦者を受け取ったファング・クエイク二機を後ろに下げる。
コアは重要だし、テロリストにも後で聞くことがある。まさか流れ弾でテロリストが死亡しましたってわけにはいかないからな。
それにこの戦力差なら二機いなくなっても大した問題じゃないし。
というかオータムって奴は病院行かせないと駄目っぽい。
「くっ、オータム……。
……な、何故貴女たちがここにいるのかしらぁ、アメリカ国家代表さん? それに織斑一夏君は修学旅行に行くんじゃなかったの?」
「え? ……あー、何だ。日米合同AIS使用体験ツアー?」
「俺は寝坊しました」
……寝坊かよ。私だってもうちょっとマシな言い訳考えるぞ。
しかし、このスコールってのはまだ諦めていないな。私らに話しかけながら、シッカリと周囲の状況を窺っている。あまり情報を取られる前に仕留めるべきか?
それにしても自分で言っておいてなんだけど、日米合同AIS使用体験ツアーって言葉の違和感がこの上ない。
まあ、未だに成功率が40%しかない
実際に後でAISを借りて訓練する予定だ。
織斑一夏はAS方式で訓練を積んだおかげか、AS方式でなくとも
軍にいるとお偉いさんがうるさくてAS方式とか試せねーんだよな。そんな暇あるならISの訓練しろって。まったく頭の固い。
だけど国家代表としてはIS学園の一生徒なんかに負けてらんねぇ。今回のツアーでコツを掴んでやる。
そのためにはさっさと終わらせないと。
というか、ここまで来ると流石にテロリスト相手でも良心が咎める。さっさと終わらせてやろう…………と思っているんだが……。
「織斑一夏ァッ……!!」
あの激怒しているエムって奴の顔、どう見ても織斑千冬そっくりだった……よな?
今はサイレント・ゼフィルスのバイザーで顔が隠れているからわからないけど。
あの顔を見たときはビックリしたぞ。
そりゃ顔以外、それこそお子様体型だったことから織斑千冬ではないってことは一目瞭然だったけど、あそこまで似ていたら何らかの関連性があるって疑ってしまう。
織斑千冬と織斑一夏の親族については両親の名前ぐらいしかわからなかったし、蒸発しているということで確認のしようはないが、エムって奴はもしかしたら二人の妹……とか?
……織斑一夏がどう動くかだな。
織斑一夏はシスコンって聞いているが、姉と顔がそっくりな奴を見て何か思うかどうか。
オータムを潰したときはいい。
私らにアラクネのコアを渡すって目的もあってまずはオータムを潰したんだろうが、問題はエムとお互いに認識し合いながらこうやって向かい合っている状況だ。
まさかいきなり姉と同じ顔した奴とは戦えないなんてことは言いださないだろうが、動揺して何らかのミスを仕出かす恐れがある。
となると私と更識たちがエムを担当すべきか。そして織斑一夏がスコールを。
スコールのISの詳細が不明だから学生にそんな奴の相手をさせるのは気が引けるが、私ら四人がかりでさっさとサイレント・ゼフィルスを落として援護に向かえば……。
「さて、知られているようですけど一応は自己紹介をしておきます。ドーモ、世界で唯一の男性IS操縦者の織斑一夏です。
それでは事情と戦力比は分かったでしょうから一度だけ言います。
最初は降伏勧告からか。顔には出していないけど、もしかしてエムと戦いたくないって思っているのかね。
でもまあ、この状況なら当然だわな。
「……それを私たちが聞くと思っているのかしら」
「さあ? 別に個人的には結果はあまり変わらないのでどっちでもいいですけどね。大人しく降伏した人を拘束するのか、叩き潰してから拘束するのかなんてのは大した違いじゃないでしょう。
でもまあ、これから京都まで飛んでいかないと駄目なので、降伏してくれた方が手間が省けるからソッチの方が助かりますね」
「何様のつもりだ、貴様ッ!!」
「おお、怖い怖い。ま、オータムさんを見捨てて逃げようとしても、コチラは一向にかまいませんけどね。
ちなみに逃げようした場合、ここを囲んでいるラファール・ルベドの“
逃げようとせずに俺たちに立ち向かってくるなら…………そうですね、俺がスコールさんの相手をしますので、コーリングさんや更識会長たちはエムさんの相手をお願いします。
スコールさんのゴールデン・ドーンは防御型らしいので、零落白夜を使える俺の方が相性はいいでしょうから。
他の皆さんは待機で、隙があったら遠距離から援護を」
「お、おう……」
「えっと…………本当に一夏君は一人でいいのかしら?」
更識の腰が若干引けている。
エムのことについて事前調査が不十分だったことを気にしているんだろうか。それとも織斑一夏が一人でスコールを相手にするのに対し、私らは国家代表二人を含んだ四人でエム一人をボコるというのが気が引けるのか。
でも別に間違ってはいないんだよなぁ。
私らのうち誰か一人が織斑一夏と組んだとしても、白式・ウルフヘジンのデータからするとあまり効果的な援護は出来そうもない。そもそも白式・ウルフヘジンがソロで運用するような機体だからしゃーねーが。
なら四人がかりでサッサとエムを落として、それから織斑一夏の援軍に向かった方がいいか。
「オータムさんを潰すときにシールドエネルギーを500ぐらい使っちゃいましたけどね。それでもIS一機仕留めるぐらいは問題ないでしょう。スコールさんが俺の姉以上の腕前だったら危ないですが、その場合はどちらにしろ俺が相手するしかありませんし。
まあ、最悪の場合でも相打ちに持ち込みますんで」
「……最近その“肉を切らせて骨を断つ”的な考えの度合いが強くなり過ぎているんじゃないかなー、ってお姉さんちょっと心配しているんだけど……。
いくらシールドバリアーと絶対防御があるとはいえ、過信し過ぎるのはよくないわよ?」
「シビアなところは姉似か……。
あー、何だったらもう修学旅行に行ってくれてもいいぞ。あとは私らで終わらせておくから」
「いやいや、一応は最後まで見届けます。何だったら二人とも俺がやりましょうか?」
「それは私らのメンツ的に勘弁してくれ」
マジメにここで存在感を少しでも見せておかねーと、上から何言われるかわかんねぇ。
前回のシルバリオ・ゴスペルや今回のアラクネといい、アメリカは織斑一夏には借りが多すぎる。これで何もせずにアラクネのコアだけをポンと渡されるのは、流石に私らのメンツが立たない。
「……それに今この場所から離れると、奪還コア数が二つカウントされないかもしれないし」
オイ、小声で何言った?
IS乗ってるから聞こえてるぞ。
「フザケているのか、貴様ァッ!?」
「おお、エムさんはやる気満々ですね」
サイレント・ゼフィルスがライフルをこっちに向ける。
それに対して自衛隊の打鉄と私の部下のファング・クエイクが私らの前に立って壁となる。もしこのまま攻撃されたら、ライフルは量産機で耐えてその隙に私らが攻撃に移る。
数が多いと気が楽だが、逆に数が多すぎるというのは逆につけ込まれやすくなる可能性が高くなるということでもある。個人的には他人を盾にするのは気が進まないが、ここまで数が多いとそれぞれがそれぞれの役目に徹しないと余計な混乱を引き起こす可能性があるからな。
織斑一夏が学園のIS、戦力の約半分を予備戦力にまわしているのも、同士討ちや大勢が故の混乱を避けるためだろう。
「さて、それでは返答は如何に?」
「くっ!」
「…………おい、スコール」
お? エムがサイレント・ゼフィルスを解除した?
もしかして本気で降伏する気かぁ?
「持ってろ」
「エ、エム! あなたまさか!?」
ム? サイレント・ゼフィルスを解除したエムは、そのサイレント・ゼフィルスのコアをスコールに渡した。
どういうつもりだ? コアをスコールに渡すんなら、降伏するってことじゃないのか? この状況でISを解除していったいどうするつもりなんだ?
……しっかし、見れば見るほど本当にエムの顔は織斑千冬に似ているなぁ。学園の教師を始めとした全員がざわついている。
背や体型は違うとはいえ、ジュニアハイスクールぐらいの年齢の織斑千冬がこんな感じだったんじゃねぇのかな。
でもあの顔を間近で見て、織斑一夏がなんて思うか……。
「知らぬ存ぜぬ。纏めて心底どうでもいい」
思ったよりセメントだった。
……姉ソックリの顔をしている奴がどうでもいいのかよ?
「い、一夏君、本当に大丈夫?
何だったらコーリングさんが言ったように後は私たちに任せて……」
「は? 何言っているんですか、更識会長?
アレが彼女本来の顔とは限らないじゃないですか」
あ……そっか。そういう可能性もあるな。
「千冬姉さんの狂信的なファンとか? もしかしたら整形で千冬姉さんの顔ソックリに変えたのかもしれませんね。
中学のとき、千冬姉さんに憧れて千冬姉さんと同じ髪型にした女子がいましたけど、それの延長のようなものかもしれませんよ」
「ッ! キッサマアァ……!」
「お、落ち着きなさい、エム!
……それにしても何という言い方を……」
「いや、別にどうだっていいんですよ。千冬姉さんの狂信的なファンであろうと、生き別れの血の繋がっている妹であろうと、千冬姉さんのクローン人間であろうと何だろうと、大した違いはありません。
だって悪意と害意を持って敵としてやってきたんだから、俺が手加減する必要なんかありません。聞きたいことがあるのならとりあえずボコって大人しくさせて、捕まえた後で事情を聞けばいい。
そりゃ普通に会いに来てたのなら、話ぐらいは聞いてやってもよかったですけどね。それでもこちらの都合を考えない人間が相手なら、こちらも向こうの都合なんて考えなくていいんですよ」
よ、容赦ねぇ……。織斑一夏を怒らせるな、って上から強く言われていた理由がわかったわ。
もしアメリカが織斑千冬や篠ノ之束博士と敵対したら、コイツは迷うことなくアメリカと敵対することを選ぶだろう。
そして逆にアメリカが味方したら、その後に何か事が起こったら迷うことなくアメリカの味方になってくれる。
コイツは敵対するのだけは勘弁だな。
敵対した瞬間に脇目も振らず喉元噛みついてくるような狼を敵に回しても良いことなんて何もない。だけど今回のアラクネのコアみたいに役に立ってくれることもあるだろうから、適当に味方している方がメリットがある。
ここまでメリットデメリットがわかりやす過ぎるというのは、逆に弱みにつけ込みにくいよな。
「えーっと……結局どっちなんですかね? 降伏? それとも戦闘?」
「戦うに決まっているだろう、織斑一夏!
私はお前と姉さんを殺すために
へぇ、随分と無謀なことするな、エムは。
しかし“姉さん”ねぇ……本当に織斑千冬の狂信的なファンか、コイツは?
『作戦変更。俺がエムを相手します。皆さんはスコールの警戒を』
お、プライベート・チャネルか。
エムは戦うようだが、スコールがまだ動かない。降伏するかどうか迷っているのだろうか。
そしてエムの目的は明らかに織斑一夏みたいなので、相手を入れ替えるのは妥当だな。
それにしてもISを解除したうえで戦いを挑むなんて、エムはいったいどうする気なんだ? 普通逆だろ。
現にISを解除してエムが懐から取り出したのは………何だ、あの魔法少女ステッキみたいの? あんなもん持って何する気だ?
「……えっ?」
対する織斑一夏は何故か焦ったような顔をした。
あの魔法少女ステッキに心当たりがあるのか?
「こ、心のビートはっ……もうとめられないわ!!」
何かエムが叫びだした!? あまりの絶望的な状況に気が狂ったのか!?
いったい何を……って何だコレは!? 量子化か!?
エムが身に纏っていたISスーツが量子化された。
本来ならその下に見えるのはエムの肌の色はずだが、何故かエムの身体は青く発光している。
それにあの魔法少女ステッキからはIS反応!? これはまさかっ!?
「ポージングを……ポージングをとらせるな!!!」
私らは呆気にとられたせいで反応が遅れたが、織斑一夏が叫びながらエムに向かって突進する。
だが遅かった。目の前にファング・クエイクと打鉄の壁を作っていたのが災いした。
そのまま突っ込んだらISに激突してしまい、突進進路が狂う可能性がある。だから一度上昇してファング・クエイクたちを避けてエムに突撃しようとしたが……
「やらせないわよぉっ!!」
無駄に上昇した分だけ時間がかかってしまい、スコールが壁となる。
ゴールデン・ドーンが金色の繭らしきものを身に纏い、織斑一夏とエムの間に割り込んだ!
「チィッ!」
雪片弐型(改)さえあれば金色の繭ごとゴールデン・ドーンを斬り裂くことが出来たのだろうけど、スラスター制御に全力を注いでいたのか雪片弐型(改)の量子化解除が遅れた。
そのまま白式・ウルフヘジンは雪片弐型(改)を展開出来ずにゴールデン・ドーンと激突。横からぶつかって来たゴールデン・ドーンのせいで進行方向が僅かにズレ、そのままエムの横を通り過ぎ去ってしまった。
私らもこの時には動き始めていたが、エムの変身は止まらない。
アチラコチラにリボンが付いているフリッフリなドレスを身に纏い、髪の毛はサイドテールにセットされる。他にもアクセサリが付けられたミニスカート、ロングブーツ、ドレスグローブなどを装着する姿はまさしく魔法少女。
手にはギターらしきものを持っているが、もしかしてそれが武器か?
「つ、爪弾くは魂の調べ! “IS少女サウザンド☆ウィンター”ッ!!」
つーか……なぁに、コレ?
ワンサマーはメジャーなのに、サウザンドウィンターがマイナーなのは差別だと思うんだ。
中の人的に“ラジカルレヴィちゃん”ネタでもよかったんですけど、自分で書いていてアレですが“IS少女サウザンド☆ウィンター”がツボに入ったのでコチラを採用。
……スンマセン。このネタをやりたかったがためにこの作品を書き始めました。
もちろんIS少女サウザンド☆ウィンターはISコアを利用して、魔法少女ならぬIS少女に変身します。束さん驚異のメカニズム!!
あ、魔法少女型ISについては第5話で言及していますし、
誰もこんなことになるなんて思っていなかったでしょうがね!
それと専用機限定タッグマッチやインフィニット・ストライプスの取材などは無しです。
専用機限定タッグマッチは、試合をする切欠になった事件はない上に試合をやる意味もないですし、取材関係はシャルロットが取り仕切っていますから。
レストランの食事券は一夏が金持ちですから、特に欲しいとは思わないでしょう。
普段から白式・ウルフヘジンを使った訓練に付き合ってもらっているお礼に、外出時の費用は二人きりであろうと全員であろうと一夏が持っていますから、箒たちが「このレストランで食事がしたい」と言えば特に抵抗もなく予約の電話を入れます。
……アレ? 何かますます泥沼に入り込んでいないか?
でも小林先輩や仰木先輩とかにも試合の後に学食を奢っていますから、別に特別扱いしているわけではない…………といいな?