――― 篠ノ之束 ―――
『ピーッ! ピーッ! ピーッ! ピーッ! ピーッ! 恥じらいセンサー検知!
変身後決め台詞で恥じらって口籠ってしまったので“IS少女サウザンド☆ウィンター”は全力を出せませーん。
全力を出したい場合は、もう一度変身からやり直してね!』
……わー、いっくんが今度は何するかなー、って観戦してたら衝撃的な映像を見ちゃったぁ。
というかアレの存在……ラヴギターロッドの存在なんてスッカリ忘れてたよ。
「ふざっけんなああぁぁーーーっっ!!
篠ノ之束は何を考えてこんなもの作りやがったんだっ!?」
いやいやいや、勝手に使っておいて私のせいにしないでよ。
実家に置いてきたラヴギターロッドを君らが勝手に持ち出したんでしょ。私は何もしてないよ。
……それにしてもアレはちーちゃん以外は扱えないように制限かけていたんだけどなぁ。
いっくんが敵として見ているから放っておいても壊滅するだろう思っていたし、興味がないからって
けど“IS少女サウザンド☆ウィンター”があるんなら、いくら恥じらいセンサー検知によるリミッターがかかっていてもちょっとばかしマズいかなぁ? それにエムって子の顔はちーちゃんにソックリだし……。
「行かせないわよ、織斑一夏君!」
「邪魔すんじゃねぇ、露出狂!!」
というかいっくんがグレた!? 私もちーちゃんもいっくんをそんな汚い言葉遣いをする子に育てた覚えはないよ!
バーサーカーシステムの狂化Bランクを発動しているからそのせいなんだろうけど、やっぱりバーサーカーシステムをウルフヘジンに搭載するのだけは反対した方がよかったかも……。
「せめて雪片だけでも!!」
「チィッ!?」
ゴールデン・ドーンがぶつかってきたせいであのエムって子の横を通り過ぎちゃったいっくんたちは、勢いが止まらずにそのまま一緒に絡まったまま後方に転がっていき、大木にぶつかってようやく停止した。
転がっている最中にいっくんがが量子化解除して刺したのか、ゴールデン・ドーンには雪片弐型(改)が突き刺さっている。
零落白夜が発動して見る見るうちにゴールデン・ドーンのシールドエネルギー量が減っていくが、逆にゴールデン・ドーンは雪片弐型(改)を抱え込んで固定し、雪片弐型(改)の零落白夜展開口に向けて銃撃を行う。
そしてシールドエネルギーがゼロになる直前に雪片弐型(改)を折った!
「くそがぁっ!」
「あああぁぁっ!?」
「スコールッ!?」
いっくんが折られた雪片弐型(改)を捨て、すぐさま雪片偽型を量子化解除してスコールを薙ぎ払った。
その一撃でゴールデン・ドーンのシールドエネルギーはゼロとなってゴールデン・ドーンが解除され、更に量子化解除されたスタンロッドで操縦者が打ち据えられる。
バチィッ! と火花が飛び散りって操縦者が崩れ落ちた。絶対防御が働いていない状態で電撃を喰らったのだから、あの操縦者はもう戦えない。
狂化している割には冷静だよね。
完璧に狂化していたらスタンロッドなんか使わずにそのまま雪片偽型で撲殺しそうなんだけど、どうやらいっくんは最後の一線は踏み止まってくれたみたいでよかった。
別に有象無象のことなんてどうでもいいけど、いっくんが人殺しなんかしたら箒ちゃんとちーちゃんが悲しむからね。
だけどこれでいっくんは零落白夜を使えなくなった。
バリアー無効化攻撃を実現する雪片弐型(改)はその性能がゆえに
AISである白式・ウルフヘジンはISよりも
複数の雪片偽型は持っているだろうけど、これで白式・ウルフヘジンの攻撃力が激減した。
「織斑一夏ァァァッッ!!」
「やらせないっ!」
「私らを無視すんじゃねぇっ!」
「ええぃっ雑魚共が! 私の邪魔をするなっ!
“ビートバリア”ッ!!」
サウザンド☆ウィンターがラヴギターロッドを掻き鳴らして周囲にバリアを形成。ミステリアス・レイディのガトリングガンを始めとした三十機以上のISの攻撃を防ぐ。
駄目! シールドバリアー以上の防御力を誇るあのビートバリアを突破するのなら、零落白夜がないと!
「なっ!? 何なの、あの防御力!?」
「全員下がれ! 俺が前に出る!」
「お前はアレが何なのか知ってんのか!?」
「
アレは
「なっ!?」
「というかそれって織斑先生の専用機!?」
「……いや、千冬姉さんは
その後に
「何でそんなアホなもの作ったんだよ、篠ノ之博士は?」
「そんなことは
『いやいやいやいやいや! サウザンド☆ウィンター考えたのはいっくんじゃんか!』
「「「「「やっぱりお前かぁっ!?」」」」」
私のせいにするなんて酷いよいっくん!
しかもあの時はちーちゃんに着せる瞬間にいなくなっちゃったせいで、私一人だけがちーちゃんにボコボコにされちゃったんだからね!
「チッ、冗談のつもりだったんだよ!」
「というか何で白式から篠ノ之博士の声が!?」
「そんなことは最早どうでもいい!
こうなったのも何もかもお前のせいだ! 殺してやるぞ、織斑一夏ァッ!!」
「知るかボケ! デカい口叩いておいて泣きべそかいてんじゃねぇぞ、クソガキがぁっ!
更識会長はスコールを確保! 残りは後方で待機! それとこの戦闘地域にシールドバリアーで覆って戦闘の余波が外に出ないように!」
「わ、わかったわ!
(ワ、ワイルドな一夏君か……)」
「(……コレ、報告書に何て書けばいいんだよ?)」
エムちゃんちょっと涙目。
ちーちゃんにソックリな顔でそんな表情されるとゾクゾクしちゃう。
「オラアアァァッッ!!」
だけどそんなちーちゃんにソックリなエムちゃんに手加減することもなく、いっくんは雪片偽型で斬りかかる。
超高機動型のウルフヘジンの特性を生かした神速の踏み込み。30mは離れていた距離を刹那で詰める姿はちーちゃんを思い出す。まだまだ荒削りなところはあるけど、もういっくんは個々の技術ならちーちゃんに匹敵するねぇ。
「チィッ! 硬ぇ!」
だけどその一撃もエムちゃんには届かない。
ビートバリアに雪片偽型がぶつかり、負荷に耐えられずバリアと雪片偽型が同時に砕けるけど、それでもエムちゃんの肉体には一歩届かない。
すぐさま新たな雪片偽型を再展開するけど、いくらウルフヘジンでもあそこまで全速力で突撃したら方向転換には時間がかかる。さっきと同じようにいっくんはそのままエムちゃんの横を通り過ぎてしまった。
その隙をついてエムちゃんはビートバリアを再展開。
「ビートソニック!」
そして守るだけではなく攻撃も。
またもやラヴギターロッドを掻き鳴らして、今度は音符の形をしたエネルギー弾を自らの周囲に展開。その音符が槍となっていっくんを狙い撃つ!
「ハッ、遅ぇんだよっ!!」
「ええいっ、チョコマカと!」
でもその音符の槍も白式・ウルフヘジンの機動力相手では追いすがることすら出来ない。
いっくんはアッサリと躱して反撃に出るけど、やはりビートバリアを破壊するだけで力尽きる。二刀流にして最初の一太刀でビートバリアを破り、二太刀目で攻撃しようとしてもラヴギターロッドで防がれる。
攻撃して防がれて、攻撃して躱されての繰り返し。やっていることは単純だけど、モンド・グロッソの大会でもあるかないかの激しくて速い戦闘。
IS学園の生徒と教師、それに自衛隊と米軍のISはその戦闘についていけず、いっくんを援護することも出来ないでいる。
…………っていうか私限界なんだけど、もうゴールしても良いよね?
『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッゲホッゲフッゲホッゲフッ! ……ハァッ、ハァ 「駆け巡れ、トーンのリング!」デュブヒュッ!? ゲフッ、ゲフッ、ゴホッ!!
…………ブフゥッ! 無理、やっぱり耐えられない! アハハハハハハハッ!』
「笑うなぁっ!!」
「
『ゴ、ゴメンブフッ!』
でも耐えられないんだけど!
無理! 絶対無理だって! だってちーちゃんと同じ顔した子がノリノリでサウザンド☆ウィン「三拍子! 1、2、3……フィナーレ!」ブフォォッッ!?!?
ゴメン一度切る。接続切る見るのストップする。お腹痛いお腹痛い笑い過ぎてお腹痛くて喉も痛い!
くーちゃん! お水頂戴!
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ハヒュー……ハヒュー……ハュー…………こんなに笑ったのはいつ振りだろ。
「……あ゛~~~、笑い死ぬかと思った」
「だ、大丈夫ですか、束様?」
「うん、大丈夫だよ、くーちゃん。もう落ち着いた。
もっかい見たらまた笑っちゃうだろうけど」
だって仕方がないじゃん。ちーちゃんと同……いや、思い出しちゃ駄目。また笑いが止まらなくなっちゃう。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、くーちゃん。
それより笑い過ぎてお腹空いちゃった。朝ごはんお願い出来るかな」
「は、はい! すぐにお持ちしますね」
「うんうん、そんなに慌てなくていいからね」
本人たちは真面目に戦っているのに、どうしてあんなに面白く見えるんだろ。さっきまでのシリアスさんが御臨終されちゃったよ。
エムちゃんもよくあんなの使う気になったよね。私でさえ本当の意味での冗談で作ったものだったのに、朝っぱらからあんなものを見る羽目に…………ブフッ!
いやいやいやいや、思い出しちゃ駄目。止まらなくなっちゃう。何か真面目なことを考えないと……とりあえず水もう一杯飲もう。
…………ハァ~。それにしてもサウザンド☆ウィンターかぁ。いっくん大丈夫かな。
恥じらいセンサーが検知されたということは攻撃系の出力にはリミッターがかけられているだろうけど、それでもシールドエネルギー量がISはもちろんのこと、AISにも比べ物にならないぐらい保持しているんだよねぇ。
それでも零落白夜があれば平気だったろうけど、ゴールデン・ドーンに折られちゃったし。
えーと、いっくんの残りの装備は…………雪片偽型が八本、か。
通常の近接ブレードと同等の性能があるとはいえ、サウザンド☆ウィンターのシールドエネルギーを削れ切れるかなぁ。
他には対人用のスタンガンとかがあるけど、流石にそんなんじゃサウザンド☆ウィンターには通じないから、雪片偽型を使い終わったら徒手空拳で攻撃しなきゃいけなくなっちゃう。
あ、雪片偽型が残り七本になった。
こりゃ流石のいっくんも鬼札の切り時かな。
まあ、鬼札さえ切って競技用リミッターを外せば、攻撃出力リミッターがかけられているサウザンド☆ウィンターに勝てるだろうから問題ないか。
「お待たせしました、束様」
「おお~、美味しそうだねぇ。それじゃ一緒に食べよう」
「はい! …………あの、先生は大丈夫なのでしょうか?」
「ん? いっくんのこと心配?」
「それはもちろんです。まだ一度も直接お会いしたことがないとはいえ、先生は私に料理を教えてくれた人です。
先生にメール越しで料理の指南をしてもらえなかったら、きっと今でも束様に焦げた料理をお出ししていたと思います」
あー、懐かしいねぇ。あの頃のくーちゃんは泣きながらこんなの出してゴメンなさいって謝っていたっけ。
そのころに比べたら随分と料理も上達したよ。
今日の朝食はトーストと生野菜のサラダ、それと目玉焼きとベーコンにコーンスープ。
うん、見事な洋風朝食だね。これだけ出来れば立派立派。
「でも私なんてまだまだです。
この朝食だってトーストは買ってきた食パンをトースターに入れただけですし、付け合わせのジャムやバターも買ってきたものですよ」
「いやいや、ジャムやバターとかは一般家庭でも普通に買ってるから」
「サラダだってレタスを一口大に手で千切って、その上にミニトマトを乗せただけです。
目玉焼きもベーコンも焼いただけですし……」
「最初は焦がしちゃってたじゃん。その時に比べたらちゃんとしているよ。
……あ、このコーンスープ美味しいね。インスタントじゃないみたいだけど、これは手が込んでるんじゃないの?」
「いえ、缶のクリームコーンをミキサーにかけて、温めながら牛乳と混ぜただけです。
先生の教えてくれる料理はどれも簡単なものばかりですよ」
あー、確かにいっくんの料理はそうだよね。
十の手間で十の美味しさの料理を作るんじゃなくて、五の手間で八の美味しさの料理を作るって感じ。
男の子らしい料理っていえばそうなのかな?
「ま、いっくんなら大丈夫大丈夫」
「そうですか。それならいいのですけど。
それはそうと、束様からも先生へ包丁の使用禁止を解くように言って頂けませんか? 私だって料理に少しは慣れてきましたので、そろそろ本格的な料理を……」
「う、う~ん…………いっくんと相談してみるね」
いっくんは過保護だからねぇ。私もちょっと心配だし。
特にメール越しで直接教えられないから、刃物とかの扱いには慎重みたい。くーちゃんに料理を教え始めた頃は、火を扱う際には私が立ち会うようにって厳重注意してたしね。といっても
でも確かにくーちゃんも料理に慣れてきたみたいだし、包丁の使用ぐらいは許すようにいっくんに言ってみようか。
となると
引っ越しもしなきゃいけないから、ついでに色々と拡張もしちゃおうか。
「え、場所を移動するんですか? いったいどこへ?」
「ちーちゃんの手が届かない場所まで」
そうしないとちーちゃんに殺される。サウザンド☆ウィンターを着せた時以上に酷い目に遭わされるよ。
だから逃げる! 沖縄か北海道。いや、いっそのこと地球の裏側のブラジルまで!
ゴメンね、いっくん。
私とくーちゃんは遠くに逃げるけど、世間へのサウザンド☆ウィンターの説明は任せるからね!
――― 織斑マドカ ―――
これで敵わないと? これで届かないと?
これで……この程度で……
「私が織斑一夏以下などとスコールもオータムもほざいていやがったのかぁっ!?」
「Fahr' hin, Waihalls lenchtende Welt!」
戦える。戦えている。あの織斑一夏と戦えている。
確かにサイレント・ゼフィルス使用で、奴が零落白夜使用可能だったら瞬殺されていたかもしれないが、今の私は織斑一夏と互角に戦えている!
やはり私と織斑一夏では操縦技術には差があまりない。おそらく六分四分で私が有利。
とはいえ機体慣熟度の差で五分五分。そして奴がバーサーカーシステムの狂化Aランクを発動したせいで四分六分と差が逆転されているが、シールドエネルギーの量を加味したらそれでも私が有利。
攻撃をくらわぬ織斑一夏と、くらっても全く効果のない私。一見、互角の勝負だが、結果は火を見るより明らかだろう。
このまま織斑一夏のシールドエネルギーが切れるまで耐えきったら私の勝ちだ。
「く……私らじゃ手が出せねぇ。
というか一夏はあそこまで狂化とやらをしても大丈夫なのかよ!?」
だが流石に奴を倒した後に、残り四十近いISを倒すのは厳しいだろう。だから早く奴を倒し、スコールとオータムを回収して撤退しなければ。
ここに姉さんがいたのならそのまま奴を倒した後に戦いを挑んでも良かったが、あいにく姉さんは京都に行っていてこのIS学園にはいない。
私の最終的な目標はあくまで姉さん。だからここで、織斑一夏を倒しただけで終わるわけにはいかない。
「ビートソニック!」
「Zarfall' in Staub deine stolze Burg!」
ぐあっ!? ……くっ、いくら私が長期的に有利でも、短期的には奴の方が有利なのはやはりマズいか。
やっぱり奴は速い。ビートソニックが掠りもせず、すぐさま反撃に移られる。
ビートバリアがあるからダメージをくらったりはしないが、それでもビートバリアの維持や再展開するためにエネルギーが必要なので、このまま良い様に打ち据えられ続けたらエネルギーの消費が激しすぎる。
織斑一夏との戦いで消耗し過ぎたら、逃げられるものも逃げられなくなってしまう。早く勝負を決めないと……。
それに何よりも奴のシールドエネルギー切れを待つなんて戦い方で勝っても私の気がすまん!
織斑一夏をぶちのめして勝たなければ!
「ならばいいさ。鳴り響かせてやる……」
「Leb' wohl, prangende Gotterpracht!」
ビートソニックの音符槍を小型にして展開。小型にした分だけ展開可能数を飛躍的に増やす。
奴の弱点……というより攻略法は知っている。点や線、面の攻撃ではなくて、ラファール・ルベドの“
だったら私も同じことをしてやるさ。
「ビートソニック!!」
「End' in Wonne, du ewig Geschlecht!」
私の掛け声と共に、逃げ場がないほどの密度で小型の音符槍が全方位に放たれる!
これならいくら白式・ウルフヘジンでも避けられまい!
……でもこの音声認識がないと発動しないのは何とかならないのか? 展開時も決め台詞と決めポーズをとらないといけないし。
篠ノ之束め、余計なことをしやがって……。
「アガッ!?」
「どうだ効くだろう、織斑一夏? 今日のは特にイイ感じなんだ。最高だろう、このビートは?
永遠に聞かされる気分てのはさぁ……クッ、ハッハッハッハッハ! どんな気分だよっ!? なァ、教えてくれないか!?」
「クッ……カ、カカッ……!?」
「くふはははは……そうだな悪い悪い!
サムライどころかバーサーカー風情じゃあっ、人間様の言葉も喋れないみたいだなぁっ!?」
豪雨のように降り止まない音符槍の攻撃で、遂に白式・ウルフヘジンの足が止まった!
動いていたら槍の雨に高速度で突っ込むことになり、その分だけダメージが増えるからだろう。
「チッ!? オイ、戦闘区域のシールドバリアーを解け!」
「無理です! こんな状況では解けません!」
戦闘区域を覆っているシールドバリアーの外でイーリス・コーリングが何かを喚いているが、もう遅いしお前たちには何も出来ないよ。
AISである白式・ウルフヘジンでさえ無理なのに、普通のISがこの音符の槍の雨の中を突破するなんて出来るものか!
流石にここまで攻撃を激しくするとエネルギーの消耗も激しいが、それでも織斑一夏に良い様に攻撃され続けるよりはマシだ。このまま押し切ってやる!
「……ァが、ぁぁがガガ……!」
「ああ……ああ、イイ感じだぞ、織斑一夏。
そうだ……その顔だよ。姉さんに似ているその顔を! 私は滅茶苦茶にしてやりたくてなぁっ!!」
「ァガっ!? ……ガ、グ……ァァアアアアアァァァァァッッ!!」
「……っ、なぁっ!?」
この槍の雨の中を強引に突き破ってきた!? 何て無茶苦茶な!?
「Und, mach mich nicht lachen!!」
「つぅっ!?」
ビートソニックを発動中なので、新たなビートバリアは展開出来ない。
仕方なしにラヴギターロッドで受け止めるがまともに受けたら一撃が重い。手が痺れる。
「Und, mach mich nicht lachen!!」
「がぁっ!?」
雪片偽型を増やして二刀流にされた。片方はラヴギターロッドで防げるが、もう一本の雪片は防げない。
ガツンッ! と無防備な頭部に一撃を放たれるが、絶対防御が発動して何とか耐えきる。
まだかっ!? もうシールドエネルギーを3000は減らしているはずだ!
なのに何故コイツは倒れない!?
シールドバリアーを全開にして機体へのダメージは避けているようだが、こんな使い方をしていたらあっという間にシールドエネルギーが枯渇するはず。
……チッ、そういえば白式・ウルフヘジンのシールドエネルギー量2500というのは、あくまで競技試合のときにおいての設定シールドエネルギー量だったな。
それなら実際のシールドエネルギー量にはまだまだ余裕があるということか。
だがそれでもリミッターをかけられていない私の方が、まだエネルギーには余裕があるはず!
いいだろう。こうなったら貴様と私のどちらが先に力尽きるかの勝負だ!
――― 織斑一夏 ―――
青い空には真っ白い雲が浮かび、そしてその雲を鏡のように移している水面。
臨海学校で見たときの夢の場所と同じだ。
ハテ? 俺はサウザンド☆ウィンブフッ…………エムと戦っていたはずだが?
……駄目だ。バーサーカーシステムが発動してなかったら笑ってしまう。
アレは反則だろう。よくエムもあんなの使う気になったな。
確かにアレはリミッターがかけられていないという利点はあるけど、攻撃方法はラヴギターロッドを使ってでしか出来ないし、何よりも空飛べないんだぞ。
サイレント・ゼフィルスは更識会長がスコールと一緒に回収したはずだから、どっちにしろエムはIS学園から逃げることは出来ないだろう。
アイツ、きっと頭に血が上って忘れてるな。
それに俺だってまだ終わっていない。
競技用リミッターは外したからシールドエネルギーはまだまだ余裕があったはず。だからまだ負けたわけではないはずだ。
それなのにここにいるということは……。
「力が……欲し……いですか……?」
かけられた言葉に振り返ってみると影が三つ。白い少女、白い女騎士、そして白い狼。
臨海学校のときに見た夢で会った二人と一頭が、俺と同じ水面の上に立っていた。
「力が……欲しプフッ! ……フ、フフフフアハハハハッ!」
「………………」
「キューン……」
爆笑すんな。
何事かと思えば、最初は真面目な顔しくさりやがっていた白い少女が、耐えきれないと言わんばかりに爆笑し始めた。
オイ、どうすんだよ? 少女が笑えば笑うほど、隣にいる女騎士の纏っている雰囲気が剣呑になっていくぞ。
あまりの女騎士の剣呑さに、その隣にいるワンちゃんが脅えちゃっているじゃない「フンッッッ!!」ッ!? 女騎士が少し気合を入れただけで纏っていた鎧が吹っ飛んだ!?
しかも鎧がなくなった瞬間、女騎士の剣呑さがますます膨れ上がっていく。あれは鎧などではなく、女騎士本来の力を押さえ込む為の拘束具だったのか?
その呪縛が今自らの力で解かれていく。俺たちにはもう女騎士を止めることは出来ない。
具体的にはISの軍事用リミッターが解除された気がするんだけど?
「……殺せ」
「え? ……ど、どちら様をでございましょうか?」
女騎士さんメッチャ怖い。顔は相変わらず兜で覆われているけど。
いつだったか忘れたけど、家に忍び込んで写真を撮ろうとしたパパラッチを捕まえたときの千冬姉さん以上の恐怖を感じる。何だか“滅尽滅相ォ!”とでも叫びだしそうな雰囲気ですよ。
まあ、どちら様って言えば“
「ク、クゥーー「貴様もさっさと全力を出せぇっ!!」キャインキャイン!?」
ちょ、ワンちゃん苛めないで!?
思いっきり蹴ったせいで、ワンちゃんが着けていた首輪が吹っ飛んだじゃないか! 動物虐待反対!
……あ、今のでウルフヘジンの軍事用リミッターも外れた?
「いいから殺せ」
「ひ、人殺しはちょっと……?」
アカン。この人ったらガチ過ぎますよ。
オーケイ。わかった落ち着け。俺としても“
殺しはしないけど取り押さえますので、どうか俺の首筋に当ててる剣先を引いてくださいお願いします。お辞儀するので許してください。
そんなわけで今すぐ現世に向かいますんで、失礼してもよろしいでしょうか?
「頑張ってね…………プフッ」
……白い少女をブン殴りてぇ。っていうかこの子誰だよ、ホント。
それとワンちゃん嫌がっているから、女騎士さんはワンちゃんに騎乗するの止めなさい。
あーあ、轡までつけちゃって。馬じゃないんだか…………ア、アレ? 今もしかして白式とウルフヘジンの間に直通回路が通った?
今まではあくまで別物の独立したIS同士として機械を挟んで接続していたはずなのに、何だか今ので白式とウルフヘジンの間のパーテンションが無くなった気がするぞ?
…………さっさと戻って終わらせよう。
ちなみにエムちゃんは攻撃している間中、ずっとノリノリでラヴギターロッドを掻き鳴らしています。
次で最終話です。
全30話。長くもなく短くもなく、これぐらいがちょうどいいぐらいの量ではないでしょうか。
でもアニメ二期分の量が少ないか?
いやぁ…………それにしても突っ切りましたなぁ。色んな意味で。
何で私はこんなアホな話を書いているんでしょうかね?