AS オートマティック・ストラトス   作:嘴広鴻

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原作開始
第6話 IS学園入学初日


 

 

 

――― 山田真耶 ―――

 

 

 

 イギリス代表候補生、セシリア・オルコットさん。

 専用機はブルー・ティアーズ。

 

 フランス代表候補生、シャルロット・デュノアさん。

 専用機はラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。

 

 ドイツ代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒさん。

 専用機はシュヴァルツェア・レーゲン。

 

 中国代表候補生、凰鈴音さん。

 専用機は甲龍。

 

 日本代表候補生、更識簪さん。

 専用機は打鉄弐式。

 

 篠ノ之束博士の妹、篠ノ之箒さん。

 専用機は紅椿。

 

 そして織斑先生の弟、織斑一夏君。

 専用機は白式。

 

 

 

 

 

「……何でこの子たち全員が1組所属なんですか、織斑先生?」

 

 

 一学年に代表候補生が5人っていうのも例年に比べたら多いですけど、専用機持ちが7人というのは多すぎですよ。

 現に専用機持ちは2年生では2人。3年生に至っては1人なんですから。

 

 しかもその子たちが全員同じクラスなんて前代未聞ですよぉ。

 

 

「情けない声を出すな、山田君。もう決まったことなんだから。

 ……仕方がないだろう。全員を各クラスに散らすのもマズいし、かといって誰かだけを他のクラスにするのもマズい」

 

 

 わかってますよぅ。

 確かにこの子たち全員を各クラスに散らしたら、クラス代表のほとんどが専用機持ちになってしまいます。

 それではクラス対抗戦などが実質専用機持ちの戦いになってしまいますから、IS操縦者育成というIS学園の目的が果たせなくなってしまいます。

 

 かといって誰かだけを別のクラスに……織斑君と別のクラスにしたらそれはそれで所属している国があまりよく思わないでしょう。

 おそらくどの子も世界唯一の男性IS操縦者である織斑君のことを調べるように言われているのでしょうし。

 

 しかも篠ノ之さんについては、織斑君が篠ノ之さんの護衛役のようなものだと伺っていますので、織斑君と篠ノ之さんは別クラスにするわけにはいかないでしょう。

 重要人物である織斑君が護衛というのおかしい話ですが、そこは篠ノ之束博士が溺愛する妹さんですからね。

 織斑君が重要人物であることは間違いないのですが、爆弾という意味では篠ノ之さんの方が一段上でしょう。篠ノ之さん本人は自分が爆弾ということについて喜んでいませんでしたけど。

 そんなわけで織斑君と篠ノ之さんを別のクラスにするのも却下。というか第4世代型ISって何なんですかぁっ!?

 

 現実的なのは織斑君と篠ノ之さんを同じクラスに、そして残りの子たちを同じクラスにすることだったんでしょうけど……。

 

 

「押し付けられたんですね、織斑先生?」

「……私がいるのだから、織斑と篠ノ之の面倒は私が見る必要がある。

 そうなると必然的に他の先生が5人の専用機の面倒を見ることになるので……」

 

 

 私がもし担任だったとしても、5人もの専用機持ちの面倒を見るのはゴメンですよぉ!

 しかもそのうち3人はイギリス、フランス、ドイツの代表候補生。テーブルの上ではにこやかな笑顔で握手をしていて、テーブルの下では足をゲシゲシ踏み合っているような関係の3国です。

 下手をしたらクラスの中で国の代理戦争が始まるかもしれないじゃないですか!

 中国だって他の4国と仲がいいわけじゃありませんし、日本だってむしろこのIS学園がある国だからこそ面倒なことになりかねません。

 

 かといって織斑君と篠ノ之さんのクラスというのも大変です。

 いや、お二人は良い生徒というのはわかっていますよ。お二人が去年から訓練のために週末になるとIS学園に通っていた関係で、私も何度も顔を合わせているのでどういう子なのかはわかっています。

 アリーナの使用申請なんかもちゃんとしてくれますし、使い終わった後の後片付けとかもちゃんとしてくれるシッカリしている子でした。

 織斑先生が織斑君のことを自慢するのもわかる……って痛たっ!? 別にからかってませんのでアイアンクローは止めてください!

 

 うぅ……良い子だとしても、世界唯一の男性IS操縦者と世界唯一の第4世代型ISの担当をするっていうのは、考えただけでも頭が痛くなります。

 

 

 

 結局、織斑君が男性なのにISを使うことが出来るようになった要因は、“ASショック”から1年半ぐらい経ったのにまだわかっていません。

 織斑君が聞いたところによると、篠ノ之束博士でもお手上げ状態のようです。

 何でも体重計で身長を測ろうとしているような的外れ感しかしないようで、新しい計測方法自体を考案しなければ先に進めないのではないか、とも言われています。

 

 まあ、そもそも“何故女性ならISを使えるのか?”というのも解明されていませんので、そうそう上手く行くわけなかったのですが。

 今ではむしろ織斑君と他の女性IS操縦者の違いを調べ、人間がISに反応する理由を調べるという方向にシフトしているようです。

 そんなわけで織斑君の重要度は全く変わっていないわけです。

 

 むしろ織斑君がISを使えると発覚した直後より重要度は上がっているかもしれません。

 本来なら比較のためにも、誰か他の男性が織斑君と同様にASを4年間ほど展開しておき、織斑君と同様にISを使えるようになるかを調べるべきなのですが、

 

『おい、誰かやれよ』

『嫌だよ、むしろお前がやれ』

 

 と、何処の企業も何処の国もやろうとはしていません。

 量産機の1機ぐらいいいじゃないか、とも思いますが、流石に4年という長い時間には躊躇してしまうようです。

 もし4年間使用しておいて、織斑君のようにISに反応することが出来なかった等の良い結果が出なかった時のこと考えると、仕方がないのかもしれませんけど。

 それに比較のためなら1機じゃ足りませんので、出来れば織斑君を入れて最低でも5~10機ぐらいのサンプルは欲しいですからね。 

 そんなわけで結局

 

『織斑一夏がいるならそれでいいじゃないか。

 文句がある奴は、ソイツがIS提供しろ!』

 

 で落ち着いてしまったのです。

 結局のところ男性がISを使えるようになるというのは、将来的なことを考えると重要なことなんですが、逆に言えば短期的には何の役にも立たないんですよね。

 ですから織斑君のデータの解析が完全には終わっていない以上、どの企業も国も二の足を踏んでいるのです。

 

 もう数年経ってもわからない場合は流石に変わってくるでしょうけど。

 

 

 まあ、そんな重要人物を含めた子供たちを纏めることが出来るのは、やっぱりブリュンヒルデである織斑先生しかいないわけで、こうして7人を纏めて面倒見せられることになったわけですね。

 

 ううぅ……織斑先生が私のことを副担任として指名してくれたって聞いたときは嬉しかったですけど、むしろこれは厄介ごとに巻き込まれてしまったようなものじゃないですか!

 クラス分けが発表されたとき、他の先生方から同情の目で見られましたよ!

 

 それとフランス代表候補生のデュノアさんもデュノア社の関係で、何度か織斑君たちと一緒にIS学園に来たことあるので知っていますけど、イギリスとドイツの代表候補生についてはわからないのが不安です。

 

 

 

「安心しろ、山田君。

 織斑と篠ノ之は自分の立場が分かっているので、そうそう面倒はかけてこないだろう。更識も同様だ。

 残りの4人も……まあ、デュノアは大丈夫じゃないかな?」

「3人は駄目って言っているようなものじゃないですかぁ!」

「いや、ボーデヴィッヒは天然でな。アイツ自身は悪気はないのかもしれんが、それでも騒動を起こす可能性はある。

 私はドイツでISの教官をしていたから面識があるのだが、アイツが日本に到着して挨拶に来た時は山吹色のお菓子を持ってきたぞ」

「賄賂っ!?」

「いや、本当にお菓子だ。そういうネタ菓子があるんだよ。

 ボーデヴィッヒの日本観はネットで拾ったものが多いらしく、ボーデヴィッヒ自身が天然ということもあって、ちょっとしたネタでも真に受けるんだ。

 決して悪い奴ではないのだが……」

 

 

 それは苦労しそうな子ですねぇ。

 とはいえ悪い子ではないのなら、ちゃんと話せばわかってくれる子なのでしょう。

 

 

「オルコットはイギリスに行ったときに1回だけ会っただけなので、どういう人物かはまだ見極められていないが、随分とプライドが高い小娘のようだったな」

「プライド……ですか?

 となるとフランスとドイツの代表候補生と張り合う可能性がありますね」

「フランスとドイツだけではないだろう。

 日本であろうと中国であろうと、世界唯一の男性IS操縦者であろうと世界唯一の第4世代型ISであろうと一緒だ。

 まあ、プライドが高いだけあって姑息な真似はしないような奴には見えたから、そこら辺のことについては問題は起こさんだろう」

 

 

 プライドが高いというのも一長一短ですか。

 しかし変なことは仕出かさなくとも、ボーデヴィッヒさんとは違って、話してわかってくれてもプライドのせいで承知してくれない可能性がありますね。

 

 

「凰は……どうだろうな?

 織斑の昔の同級生ということで少しは知っているが、私自身が親しかったわけではないし、一昨年に中国に帰ってからは会っていない。

 それに織斑が言うには“ちょっと落ち着きが足りないけど元気な子”ということだから、騒ぎを起こす可能性がないわけじゃないな」

「専用機持ちの子に落ち着きが足りないのは困りますね」

「まあ、その辺は織斑に任せておけばいい。

 小学生の頃から学級委員などをしていたので、ワガママなガキには慣れているだろう」

「え? ということは織斑君をクラス代表になさるんですか?」

「いや、私がクラス代表を指名することはしない。

 だが織斑ならクラス代表にならなくても勝手にやるさ」

 

 

 織斑君がリミッター役として協力してくれるなら、少しは安心出来ますね。

 確かに織斑君は面倒見良さそうな子でしたし、知らない仲じゃないですので協力してくれるなら助かります。

 

 

「しかし真面目な話、クラス代表はどうしましょうか?

 代表候補生の誰かがなるとしたら、他の代表候補生との関係で角が立ったりしませんか?」

「それについては安心してくれ。

 織斑がクラス代表に立候補することになっている」

「確かに織斑君なら何処にも角は立たないと思いますが……他の子が立候補したらどうするんですか?」

「立候補した奴らで決闘でも何でもさせるさ。その結果でなら文句はつけられまい」

「? その言い方ですと、織斑君が絶対に勝つように聞こえますが……?」

「ま、その時になったらわかるさ」

 

 

 はあ? ……織斑先生がそう仰るなら構いませんけど。

 でもいくら織斑君が御自身のISとワンオフアビリティを受け継いだからってそんな喜……ってギブギブっ!? チョークスリーパーはご勘弁を!

 

 

「フゥ、まあいい。

 それでは山田君は先に教室に行っててくれ。私は理事長に呼ばれているので少し遅れる」

「わかりました。ホームルームを先に始めてますね」

「ああ、それではな」

 

 

 ……ハァ、緊張してきました。

 

 ああ、まさか専用機持ち7人の副担任になるなんて、去年IS学園に就職した時には考えてもいませんでしたよ。

 日本代表候補生だった前歴から企業のスカウトも何社か来てましたけど、やっぱりそっちの方に就職した方がよかったかなぁ。

 

 それに織斑先生とは去年に同時にIS学園に赴任したんですけど、やっぱりまだ織斑先生にも緊張するんですよね。

 一応は私が日本代表候補生、織斑先輩が日本代表の頃からの付き合いではあるんですが、それでも世界を救った白騎士であり、モンド・グロッソ二連覇を成し遂げたブリュンヒルデである織斑先生相手に普通に付き合うのは無理なわけでして。

 織斑先生に副担任として指名されるぐらい信頼して頂けるのは光栄なんですが、時たまその信頼が重く感じることがあります。

 

 

 しかし、泣き言ばっかり言っていても仕方がありません。

 私だって元日本代表候補生。

 例えクラスに5人の代表候補生がいようとも、7人の専用機持ちがいようとも、今までだって散々代表候補生や専用機持ちや国家代表と会ってきたんです。

 その人たちの大半は私より年上か同年代でしたので、それに比べたら年下の代表候補生たちなんか軽い軽い。

 

 私だって年上の女。

 織斑先生の手を煩わせずとも、立派に年下の子たちを纏めてみせます。

 

 そんなこんなで教室に到着です。

 さあ、それでは元気良く挨拶して、ここに山田真耶有りということを生徒の皆に示してみましょう!

 

 

 

「皆さん、おはようございます!

 これからホームルームを始め……ま……す?」

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……へぇ、箒ってば一夏の家にこの一年間居候していたんだぁ?」

 

 

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「ああ、そうだが? それについて鈴は何か文句でもあるのか?

 そんなもの一夏のブログを見てたらわかると思うんだがなぁ?」

 

 

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 …………おぅふ。篠ノ之さんと凰さんがメンチ切りあってます。

 

 

 

 

 

「成程。これが修羅場というものか。自己紹介が終わった途端に凄いことになったな。

 嫁よ、せいぜい良い船に乗せら(nice boat.さ)れることのないように気を付けろ」

「ラウラちゃん。その言葉、誰に教わったのかお兄ちゃんに教えなさい」

「そんなのクラリッサに決まっているじゃないか、お兄ちゃん」

「……うん、知ってた」

 

 ボーデヴィッヒさんを肩車していないで、さっさと2人を止めてくださいよ、織斑君。

 ドイツで同じ訓練をしたから仲が良いとは聞いていましたが、本当に兄妹のように仲が良いんですね。ボーデヴィッヒさんは織斑君の肩の上に座りながら、織斑君の頭を抱え込んでご満悦のようです

 でも妹さんにばっかり構っていると、織斑先生が拗ねますよ。

 

 

「……わ、私は大丈夫だよね? 何度か一夏の家に長期宿泊させてもらったけど……」

「15歳の女の子がずっとホテル暮らしというのは良くないって言いだしたのは箒だから、そんなに心配しなくてもいいと思うぞ。

 デュノア社関係で来ていたんだし、あまり専用機持ちは外に出ない方が良かっただろうしな」

「あの箒と凰さん見ていると不安になってくる……」

「……シャルロットだって専用機持ちなんだから大丈夫!」

「全然安心出来ないよ! というか早く一夏が二人を止めてよ!」

 

 成程。織斑先生が言った通り、デュノアさんは問題が起きたら、ちゃんと止めてくれるような人みたいですね。

 でもデュノアさんのISは改造がなされているとはいえ第2世代のものですから、第4世代の篠ノ之さんと第3世代の凰さん二人を相手にするのは辛いと思いますよ。

 

 

「不潔ですわ不潔ですわ! 二人の女性と同時に付き合うなんて!

 見損ないましたわ、一夏さん!」

「いや、俺はまだ誰とも付き合っていないから」

「ああ……いけませんわ、そんなこと。

 一夏さんに弄ばれながらも……いけないこととわかっていながらも、一夏さんへの愛に溺れていく若い二人。

 そんな二人を一夏さんはケダモノのように貪って……」

「待って、待ってください。お願いします」

 

 オルコットさんは顔を赤くしながら何を言っているんでしょーねー?

 そういえばオルコットさんのことを小娘って織斑先生は言ってましたね。確かに見た感じでは、何処にでもいる妄想逞しい少女って感じです。

 貴族のお嬢様で現当主ってことですから、もしかしてストレスでも溜まっているんでしょうか。

 

 

「………………」

「そんなゴミを見るような目で見ないでくれ、更識さん」

「…………名字で呼ぶのはやめて。簪でいい」

「この状況で初めて会った女性のことを名前を呼べと?

 つまりは火に油を注ぎたいんだな?」

「そ、そういうつもりじゃないけ「「アア゛ッ!?」」ヒィッ!?」

 

 ああ、数少ない常識人がロックオンされてしまいました。

 篠ノ之さんも常識人だと思っていたのに、恋が絡むと人はこんなに変わってしまうんですね。

 というか篠ノ之さんと凰さんの目付きがマズいです。恋する少女のしていい目付きではありません。

 

 

 

「ホラ、副担任の山田先生が来たからもう終わり。

 全員席に着け。ラウラもいつまでも俺の上にいるなよ」

「……チッ」

「……チッ」

「そうだよ、皆。席に着こう!

 それと他のクラスの皆も大丈夫だから! いつまでも教室の端に避難していないで!」

「ム、もうそんな時間か」

「ハッ!? 私は今何を……?」

「(こ、怖かった……)」

 

 

 織斑君の声のおかげでキャットファイトが発生せずに済みました。

 それとデュノアさんが篠ノ之さんと凰さんの剣幕に教室の後ろに避難していた他の子たちをフォローしてくれていますので、やはり頼れるのはこの二人なんですね。

 この二人だけなんですね

 

 ボーデヴィッヒさんは軽業師のようにヒョイっと織斑君の肩の上から跳び、そのまま自分の席に着席。軍人というのはこういうことも出来るんでしょうか?

 それと篠ノ之さんと凰さん。女の子がしていい舌打ちじゃありませんでしたよ。更識さんが涙目になっているじゃないですか。

 

 

「そ、それでは時間ですのでホームルームを始めます……」

 

 

 ……ああ、このクラスは苦労をしそうです。

 転職考えようかなぁ……。

 

 

 

 

 

――― 凰鈴音 ―――

 

 

 

「知っているとは思いますが、世界唯一の男性IS操縦者の織斑一夏です。専用機は白式。

 所属国家は決まっていないんですが、篠ノ之束博士所属と思って頂いたら間違ってはいないと思います。

 好きな言葉は“Simple is best”です。これから一年間よろしくお願いします」

 

 

 

 一夏の自己紹介が終わると同時に、クラスの皆の歓声が教室中に響き渡った。

 やっぱり世界唯一の男性IS操縦者であり、ブリュンヒルデの弟でもある男の子のことは全員が気にしていたようだ。

 皆が顔を赤くして一夏を見ている。顔を赤くしていないのは専用機持ちと、それと何か袖が余りまくっている制服を着ているのほほんとした感じの子だけだった。

 

 わ、私は顔を赤くなんかしてないわよ!

 

 

 

「イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ。専用機はブルー・ティアーズ。

 皆さま、これから一年間よろしくお願いいたします」

 

 

 

 一夏と約1年半振りに直接会った感想は“大人っぽくなっている”だった。

 中学時代から大人っぽい奴だとは思っていたけど、今では高校生なのに大学生と言われても信じてしまいそうな風格を漂わせている。

 

 男の子って1年半でこんなに変わるものなのね。

 身体付きも以前に比べて……以前もクラスの他の男子に比べたら鍛えていたけど、凄く精悍になっている。背もかなり伸びてるわ。

 

 私だって少しは背が伸びたけど、明らかに身長差は開いたわね。

 あのドイツ代表候補生のラウラって娘みたいに肩車とかも問題なくしてもら…………わなくてもいいわ、別に。ウン。

 

 

 

「に……日本代表候補、更識簪……です。せ、専用機は打鉄弐式。

 …………よ、よろしく」

 

 

 

 それにしても、我ながらよく中国の代表候補生になれたもんよね。

 なるまでは無我夢中だったから何とも思わなかったけど、落ち着いた今考えたら凄いことしたわね。

 お母さんとお父さんには感心を通り越して呆れられちゃったけど、これで私も一夏と同じ位置に立てたわ。

 

 中国に行って正解だった。

 日本に残ったままじゃ専用機持ちなんかなれなかっただろうし、それ以前にIS学園に入学出来るかどうかもわからなかったもの。

 もし入学出来たとしても、さっき教室の端で固まっていたクラスの女子と似たような立場だっただろうしね。

 

 まあ、代表候補生になったせいで政府から一夏と友好関係を築くことと、一夏の情報を手に入れるように言われているけど、情報収集なんてものは無視よ無視。

 だいたい一夏の情報は一夏自身がかなり公開している上に、白式とかの情報もある程度は出回っているんだもん。

 一夏って麻雀のオープンリーチとか好きなのよねぇ。

 

 それに逆にもし一夏が何かを隠しているとしても、そんなに簡単に一夏が隠していることを暴けるわけないじゃない。

 だから情報収集なんかに余計な力を使うより、一夏と友好関係を築くことに全力を注いだ方が良いわよね~。

 

 

 

「篠ノ之箒だ、よろしく頼む。専用機は紅椿。

 といっても専用機を持ってはいるが、何処かの国の代表候補生というわけではない。

 一夏と同じで篠ノ之束博士……私の姉所属と考えてくれ」

 

 

 

 何しろ強敵が出現したんだからね!

 ……くっ、何よ箒のあの胸は。本当に同い年なの!?

 

 マズいわ。あそこまでご立派だと一夏が宗旨替えするかもしれないわ。

 姉の篠ノ之博士も胸が大きかったけど、やっぱりこういうのは血なの!? 恨むわよ、お母さん!

 しかもこの1年間、ずっと一夏の家で居候していた始末!

 弾からのメールで知ったときは、中国に行ったことを後悔したわよ!

 

 で、でもまだ大丈夫。

 一夏のブログからするとまだ付き合っているわけじゃないんだから、まだまだ私にもチャンスがあるわ!

 一夏が言ってた「今は誰とも付き合わない」から方針転換するわけないし、だいたい千冬さんがそういうことはまだ許さないと思うの!

 

 

 

「フランス代表候補生のシャルロット・デュノアです。専用機はラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。

 デュノア社の所属パイロットでもあって、デュノア社と一夏が技術提携していることから一夏の秘書のようなこともしています。

 皆さん、よろしくお願いします」

 

 

 

 でもまさか、箒に加えてダークホースまで出現するとは!

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 ドイツ軍に少佐待遇で出向している娘で、一夏とは訓練を共にした仲。

 しかもさっきの感じでは一夏のことを嫁と呼んだりお兄ちゃんと呼んだり、どう見ても一夏のこと狙っているじゃないの!

 一夏も肩車するぐらいに心を許しているみたいだし、とんだダークホースの出現だわ。

 

 くっ! それにしても相変わらず一夏は小さい子に甘いわね。

 そのおかげで私が日本にいたときは一夏と仲良くなれたのかもしれないけど、ラウラは私よりも小さい上に一夏のことをお兄ちゃんって呼んでるわ。

 これじゃあ私のポジションが奪われるちゃうじゃない!

 

 

 

「……凰さ~ん? 次の自己紹介は凰さんの出番ですよ」

「おい、凰。百面相してないでさっさと始めろ」

 

 

 

 それにしても一夏ったら箒やラウラのことを除いても、フランス代表候補のシャルロットって娘とも仲が良いみたいだし、随分と周りに女の子が増えたじゃないのよ!

 中学時代は一夏の周りにいる女の子は私ぐらいで、あとは弾とか数馬だけだったのに!

 

 ……決して男の子扱いされてたわけじゃないわよね? 弾たちと同じ扱いされていたわけじゃないわよね?

 

 うぅ……中学のときは、周りの女子は一夏を憧れの感情で見てたから逆に近寄りがたかったみたいで、そんなこと気にせずに踏み込めた私が有利だった。

 だけど、そのせいで近くになり過ぎたのかなぁ。

 

 一夏のブログに載せる写真撮影にも付き合っていたけど、あれは生家から離れざるをえなかった箒のために始めたブログだったし。

 一夏が女子に告白されたときも、告白してくれた娘を傷付けないような断り方について相談されたこともあったし。

 

 周りの娘より一歩進んでいたことは間違いなかったんだけどなぁ。

 

 

 

「教師を無視するとはいい度胸だな、凰」

「……お、織斑先生。どうかお手柔らかに」

 

 

 

 最大の問題はやっぱり千冬さんよね。

 一夏は何だかんだ言ってシスコンだから、彼女を作るとしたら千冬さんが気に入るような女性になるはずだわ。

 まあ、本気で好きになったら、例え千冬さんが気に入らない女性でもその人を選ぶんだろうけど、それでもわざわざ千冬さんが認めないような女性を選ぶことはないはず。

 

 その点、箒は千冬さんの親友の篠ノ之博士の妹で子供のときからの付き合い。今でも家に居候させるぐらいに親しい。

 ラウラも千冬さんがドイツで教官をしていたときの教え子ってことだから、他の子たちよりも気が知れているはず。

 

 うぅ……中学時代、千冬さんが苦手だからって寄り付かなかった私のバカ。

 こんなことなら千冬さんともっと親しくしておけばよかったわ。

 

 

 

「……でもまだ大丈夫。まだ間に合うはずだわ」

「いや、もう遅い」

 

 

 

 ……え? あれ? 千冬さん?

 私の机の前に立って何をしようとしてるの?

 

 

 

 

 

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「アホか、お前は。久しぶりなのに全然変わっていないな」

「うるっさいわね、黙ってなさい」

 

 

 もう昼休みになったのに、朝に喰らった千冬さんの出席簿アタックの痛みがまだ引かない。

 流石はブリュンヒルデね。ISの訓練で負った傷なんか目じゃない痛みだわ。

 

 といっても、千冬さんと面と向かってブリュンヒルデって言ったら怒られるみたいだけど。

 確かに男盗られたヴァルキリーの名前で呼ばれるのは嫌よねー。

 

 

「それにしても、これだけの専用機持ちが揃うと壮観だな。

 千冬さんが言ってたが、1学年に7人もの専用機持ちが集まるのはIS学園史上でも前代未聞らしいぞ」

「その7人の専用機持ちが1クラスに纏められたのには更に驚いたけどね」

「仕方ありませんわ。IS学園にも事情があるのでしょうし」

「ま、それぞれの所属国と自身の立場ってのもあるだろうけど、せっかく同じクラスなんだから仲良くしようぜ。俺と箒は所属国無いけど。

 これだけ人数がいれば充実した模擬戦も出来るだろうし、他人の操縦技術を見るいい機会になる」

「うむ、そうだな。

 良い笑顔をした教官に『仲良くしないと怒るぞ』と、私たち全員名指しされて言われていることだし」

 

 

 絶対クラスでケンカ出来ねぇ。

 やっぱり笑うという行為は本来攻撃的なものであり 獣が牙をむく行為が原点であるってのは本当みたいよね。

 

 ウン。ケンカとかの騒ぎを起こすと国際問題にもなりかねないんだから気を付けましょう。

 せっかく同じクラスになれたんだもんね。仲良くできるなら仲良くしましょ。

 

 私はまだ死にたくないの。

 

 

「やっぱり代表候補生の皆でも、千冬姉さんのことは怖いんだな」

「怖がらない嫁がおかしいんだ。

 どうせ教官のあの笑顔での脅しも、嫁が教官に言ったことなんだろう?」

「当たり前のことでも改めて口に出すのってのは、意外と大きな効果があるんだよ。

 ま、それぞれの立場で譲れないことも出てくるだろうけど、なるべく話し合いとかで解決しよう。間違っても無許可で決闘紛いのことをして千冬姉さんをキレさせることのないように。

 もしそうなったら、俺は当事者たちを見捨てて安全なところに避難するから」

「ま、待て、一夏! 友を見捨てて逃げるなど男の風上にも置けないぞ!」

 

 

 箒ったら、何で私を見てからそんなこと言うのかしら?

 確かにケンカする可能性が高いのは私と箒みたいだけどさ。

 

 

「あら? 朝も気になったのですが“友”って……箒さんと一夏さんはお付き合いなされているんじゃなかったんですの?

 一緒に暮らしているぐらいなんですから、てっきり私はそう思っていたのですが……」

 

 

 ぐあ!? セシリアったらいきなり核心的なことを!?

 

 

「いや、俺と箒は付き合っていないぞ」

「まさか一夏さんがブログに書かれていた“自分がISに反応する理由がわかるまでは女性とは付き合わない”ということは本当だったんですの?」

「……うん。付き合っていない。私と一夏の間には何もないぞ。

 ドイツでの訓練が終わってから日本に戻ってきて約1年半、ずっと一緒に暮らしていたけど何もなかった…………本当に何もなかったんだ」

「……朝にケンカ売ってゴメンね、箒。心底アンタに同情するわ」

「ありがとう、鈴。同じ悩みを持つ者同士、これから仲良くしよう」

「俺からはノーコメントで」

「……ブログに書かれていた理由が理由なので納得は致しますが、箒さんたちが不憫ですわね」

 

 

 一気に箒に親近感が湧いたわ。

 でもこれで私にもまだチャンスがあるってことがわかったんだから、気が少し楽になったわね。

 

 

 

 

「何だ? クラリッサが言ってたみたく、嫁はハーレムを望んでいたのではないのか?」

「一夏、そこに直りなさい」

「介錯は任せろ。痛みは感じさせん」

 

 

 一夏も変わっちゃったのね。1年以上離れていたら仕方がないか。

 でも大丈夫。私がちゃんと矯正してあげるから。

 

 

「待ってください、お願いします。

 ラウラちゃん、いったい何を言い出すのかな?」

「? いや、嫁がクラリッサに薦めた漫画雑誌にそういうのがあっただろう。

 確か“T○LOVEる”だったか? 私も読んだがあれが日本男子の日常かと……」

「俺が薦めたのは同じ雑誌の“CLAYM○RE”とかだよ! 週刊の方は世界的に有名だから月刊の方を薦めたのに!

 ……ハァ、クラリッサさんは相変わらずだな。

 少女漫画ばっかり読んでたら修羅の道に突き進んでいきそうだったから、少年漫画の方も薦めたけど失敗だったか。変な化学反応を起こしてそうだ。

 ラウラちゃん、クラリッサさんは自分のことを“腐女子”とか“貴腐人”って自称してなかったかな?」

「“婦女子”に“貴婦人”?

 確かにクラリッサは女性だから“婦女子”とは呼べるかもしれんが、間違っても“貴婦人”とは呼べんぞ。

 だいたい私たちは“軍人”だ。“貴婦人”とは一番遠いものだろう」

「それならいい。

 クラリッサさんはまだ最悪の事態までは進行してないか。少し安心した……」

「それにしても嫁はハーレムを欲しくないのか?

 クラリッサは男の夢だと言っていたぞ。

 おそらく嫁なら“IS学園ハーレム化計画”を実行に移すだろうと言って、私にはオレンジポジションで行けとアドバイスを……」

「何、そのアホな計画? ってかオレンジだったら声的にシャルロットじゃ……?

 とにかくいらんいらん。自分一人の面倒ですらまだ見切れないのに、他人の面倒なんか見れないって。

 しかも家に帰ればグータラな姉がいる始末。少なくとも学園卒業まではそういうこと考えたくないな」

 

 

 よかった。一夏にはハーレム願望はないのね。

 数馬なんかは男のロマンだとか言ってたけど、その前に数馬は一人でいいから彼女を作りなさいよ。

 私が結構長く中国に行ってたのに、まだ彼女が出来ていないみたいじゃない。

 

 

 でも一夏の今のセリフって、他人の面倒を見れる余裕が出来たらハーレムが欲しいってことなのかしら?

 

 そうじゃなかったとしても一夏の立場上、最悪な場合は何人もの女性と子供を作らなきゃいけなくなるかもしれないって、一夏のブログのコメント欄で騒がれていたけど…………やっぱり私はそんなのイヤ。

 なお、羨ましいとかコメントしてた男どもは地獄に落ちろ。

 

 もし一夏がISに反応する理由が超長時間ISに触れていたことじゃなく、遺伝子とかの一夏だけしか反応しない理由があったとしたら、一夏の子供もISに反応するかもしれない。

 そうだとしたら一夏がハーレムを望まなくても、お偉いさんたちが無理やり女性を捻じ込んで子供を作るように強制してくるかもしれない。

 女性優位になりつつある社会とはいえ、それぐらいする力はまだ男にもあるでしょうし、そもそもコメント欄で立候補してたバカがいるぐらいだから相手には困らないでしょうね。

 

 というか一夏のファンクラブって何よ!

 まるでジャ○ーズみたいなアイドル扱いをしている上に、子供産むの立候補していたバカは一夏よりかなり年上みたいじゃないの!

 というかIS学園内にもファンクラブが出来そうで怖いわ!

 

 

 

 ……ま、もしそうなったら一夏の性格上、肉体関係の出来た女性を放っておくわけないでしょうね。

 本人は不本意だとしてもハーレムを築くことになるんじゃないかしら。入るかどうかは女性の意思優先で。

 

 もし世界がそういう流れになったら、私でも一夏の隣にいることが出来るかもしれない。

 ただし複数いる女の中の一人としてだけど……そんなのはイヤ。

 

 どうせなら一夏の一番になりたい。

 私はそのために一度は一夏から離れて、苦労して代表候補生になったんだから。

 

 

 ……ガラにもないこと思っちゃったわね。

 我ながら、どうしてこうまで一夏に夢中になったのかなぁ。

 別に苛められているところを助けてもらっただけで惚れるような、安っぽい女のつもりじゃないんだけど。

 

 それにしても、こういうことでも千冬さんのことについて言及するってことは、やっぱり一夏の中の千冬さんは大きいってことね。

 どうにかして千冬さんとも仲良くならなきゃいけないんだけど…………怖いなぁ。どーしよ。

 

 

 

 

「っと、身内話はこれぐらいにしよう。

 悪いね、更識さん。わからない話ばかりしていて」

「……べ、別にいい。貴方が大変な立場にいることは知っているから」

「そっか、ありがとう。

 そういえば更識さんの打鉄弐式って、俺の白式と同じ倉持技研製なんだよな。

 白式のデータを参考にして製作されたって聞いているけど、どういう感じなんだ?」

「そ、それについてはお礼……を言う。流石は篠ノ之束博士が設計した第三世代IS。

 参考にするものがあったおかげで完成が早まったし、当初の予定よりも打鉄弐式の機動力がアップした。

 …………私からも聞いていい?」

「答えられることなら」

 

 

 

 

 

「生徒会長と……私の姉とISで引き分けたって本当?」

 

 

 

 

 

 







 とりあえず専用機持ちは1組ぶち込みました。
 わざわざ2人だけ違うクラスにする必要ありませんからね。
 まあ、簪ぐらいは姉馬鹿……馬鹿姉が一夏と違うクラスにするために手を回すかもしれませんが。

 もうすぐISバトルに入れそうです。

 それにしてもシャルロットが一夏の秘書か。
 ……何だか愛人ルートに突き進んでいる気がしないでもない。

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