運命の出会い、という言葉がある。
それは、人間の意思や行動の範疇を超えた、偶然の出会い──そう、例えるならば、神から賜りし巡り合わせだ。幸か不幸かはともかくとして、それ以降の人生を変えてしまうような奇跡。
僕の名前は吉井明久。もうすぐ高校生になる、どこにでもいるような普通の……いや、ちょっとだけ頭悪いけど……まあ、平凡な男子だ。
日本人らしく無宗教で、神社やお寺にお祈りに行ったりすることはあれど、神の存在を本気で信じてはいない。
だが、その時だけは別だった。
彼女と出会った時、彼女を初めて見た時は、この子は神が自分の元に遣わした天使なのではないかと、運命なんじゃないかと、本気で思った。
それだけの存在感だったのだ。
その出会いは、中学校の終業式から高校の始業式までの休学期間のことだった。
両親は仕事で海外赴任、姉は海外の大学に留学しているため、僕はマンションの一室で一人暮らしをしている。
一人暮らしというものは自由で、いくら夜更かししようとも、誰からも怒られることがない。
なのでその日も、夜中の二時を回るまでゲームに興じ、その後沈むように惰眠を貪った。そして目を覚ましたのが、昼の十二時過ぎである。これが母や姉に露見すれば、説教を食らうこと間違いなしであるが、今の僕は一人暮らし。よって悠々自適に過ごすことが出来るのだ! ビバ一人暮らし!
僕はもぞもぞとベッドから抜け出して、朝ごはん兼昼ごはんにカップラーメンを食べようとお湯を沸かそうとした──その時だった。
ピンポーン、と、来客を告げるインターホンの音が鳴った。
「ん? 誰だろ、通販かな?」
なに頼んでたっけなあ、と考えながら、僕は寝起き姿のジャージのままで玄関のドアノブに手をかけた。
ガチャリ、と扉を開ける。
一瞬、時が止まったのかと思った。
そこにいたのは、宅配業者ではなく、セーラー服を着た女の子だった。
彼女は、驚くほど整った顔立ちをしていた。
透き通った白い肌、流れるようにサラサラの金髪、そして吸い込まれてしまいそうなほど深い藍色の双眸。
その姿はまるで大空を白無垢の翼で飛び、ハープの音を奏でる天使を連想させた。
自分が彼女の前でジャージ姿でいることは、大罪に当たるんじゃないかとさえ思った。
僕が言葉もなく固まっていると、彼女はにっこりと破顔して言った。
「初めまして。私は今日隣の部屋に引っ越してきた、天真=ガヴリール=ホワイトと申します。今後とも宜しくお願いします」
「あっ、これはどうもご丁寧に……。僕は吉井明久と言います。こちらこそよろしく、えっと、天真さん」
「歳も近そうですし、気軽にガヴリールと呼んでください」
「あ、じゃあ僕のことも明久でいいよ」
「はい、明久さん。あ、これ粗品のお茶菓子です、よかったら食べてください」
「え、いいの!? これで一週間は凌げるよ! ありがとう!」
「は、はあ……凌ぐ?」
なんて、なんていい子なんだろう!
近所付き合いが希薄になりつつある今の世の中でここまで丁寧に挨拶しに来てくれる子なんて中々いないよ!? しかも食料まで恵んでくれるなんて、彼女は本当に天使なんじゃないか!?
お菓子を受け取って小躍りする僕を、困惑して目をパチクリさせて見る姿さえ可愛らしい。身長は低いものの、ルックスならあの姫路さんにだって負けていないだろう。
もし神がいるのなら感謝したい。彼女と出会わせてくれた最高の奇跡に。
そして、もし神がいるのなら、懺悔しなければいけない。僕の罪を──
○
「ふー、荷解き終わりっと……」
「お疲れ様です、明久さん。すみません、手伝ってもらっちゃって……紅茶淹れたんで良かったらどうぞ」
「ありがたく頂くよ」
テーブルに置かれたカップを一つ取り、ぐいっと嚥下する。
優しい香りと心地いい温かさが、労働で疲れている身体に染み渡るようだった。それに、こんなに可愛い女の子に淹れてもらった紅茶である。紅茶なんて高級品を飲んだのは久しぶりだったが、三割増しくらいに美味しく感じた。
僕は今日、このマンションに引っ越してきたばかりという彼女の荷解きを手伝っていた。
彼女も僕と同じように一人暮らしをして、高校に通うのだという。しかもその高校が、僕も通う予定の文月学園だというのだから驚きだ。
「ガヴリールはどこから引っ越して来たの?」
「えっ!? え、えっと、海外ですっ! でも私、日本の文化に興味があって、それでですね……」
「遠路はるばる留学してきたんだ。すごいね」
「い、いえ」
謙遜したようにガヴリールは笑う。
そういえば、さっき挨拶に来た時、天真=ガヴリール=ホワイトと名乗っていたのを思い出す。確かに日本人離れした名前だ。見た目的にはヨーロッパとかそっちっぽいけど……あ、でも天真って名字だし、ハーフなのかな?
僕は一息ついた後、カップをテーブルの上に戻して、何となく彼女の部屋を眺める。
そう、僕は今、女の子の部屋にいるのだ。荷解きしている最中は意識していなかったが、隣人故の役得だ。
彼女は引っ越してきたとはいうが、それほど荷物は多くなかった。必要なものは、これから新たに買い足していくのだという。
ならば、一人暮らしの先輩として、色々教えてあげるべきだろう。
だけど、今日は流石に長居しすぎちゃったかな。
「僕はそろそろ帰るよ。紅茶ご馳走様。良かったら、今度はガヴリールがウチにおいでよ。もてなせるようなものはないけど、遊び道具には困らないよ」
「下界の娯楽ですか、それは楽しみですっ」
「下界……?」
「あっ、いえ、なんでもないですっ!」
○
それから、僕とガヴリールが友達になるのにそれほど時間はかからなかった。
僕が彼女の家に遊びに行ったり、彼女が僕の家に遊びに来たり。毎日ではないが、二日三日のペースで会っている。
ガヴリールと交流している内に分かったのは、彼女は機械の操作方法に大変疎いということだった。
洗濯機を回そうとして床を泡だらけにしたり、パソコンのキーボードになぜかビビったり……もしかすると彼女は、どこかの国のお姫様で、箱入り娘として育てられたんじゃないだろうか。
だが、次第にここでの生活に慣れてきたのか、テキパキと家事をこなすようになり、今では公園の草むしりやゴミ拾いのボランティアなんかもしている。彼女の今時珍しいほどの奉仕の精神は、近所の大人たちを感嘆させていた。
ある時、僕は気になってこんなことを訊いた。
「どうしてガヴリールは、そんなにボランティアに熱心なの?」
すると彼女から返ってきたのは、意外すぎる言葉だった。
「全ての人を幸せにできるような天使になるのが、私の夢なんです」
ともすれば、見惚れてしまうような笑顔である。だが、今の僕はそれ以上に、二文字の単語が脳裏に強く響いた。
天使。そう彼女は言った。
「あっ……」
やってしまった、という風に。
さっと、ガヴリールの顔から血の気が引いた。
普段の僕なら、もしかして痛い子なのかな? と思う程度だが、彼女の反応が言葉の信憑性を裏付けている気がした。いや、でも、天使って……まさか、本当に?
「あ、あの、このことはどうか、ご内密に……」
「う、うん……というか、信じる人そんなにいないと思うよ」
実際、僕も半信半疑である。
だが彼女は、今の言葉を僕が信じていないというニュアンスで受け取ったようで、ほっと息を吐いていた。
「……良かったです。もし私の正体が人間の方にバレてしまったら、天界に記憶抹消措置を申請しなければいけないので……」
「ん? 何か言った?」
「い、いえなんでも! あ、そうです! 今日はパソコンのことをもっと詳しく教えていただけませんか? これを使いこなせば、この世界のことをもっと知ることができるのでっ」
ガヴリールは両手を四方八方に動かしながら、まるで言い訳をする子供のように捲し立てる。
何か物騒な呟きが聞こえたような気がしたけど……ただ、それよりも強く、僕の脳裏には天使という言葉が貼りついていた。
まあ、人に言いふらしたりはしない。もしかしたら今、彼女は自分に不思議な力があるとか、何かの生まれ変わりだとか、そういう風に思い込みたくなる時期なのかもしれないしね。僕にも覚えがある。
僕は天使という言葉を頭の奥にしまい込んで、ガヴリールにパソコンの使い方を教えた。
ガヴリールは基本的に頭がいいようで、教えたことはすぐできるようになった。彼女は明久さんの教え方が上手いんですよと謙遜したが、僕なんかとは地頭の出来からして違うのだろう。
一段落ついてから、僕はちらりと時計を見る。
午後四時ぴったり。その時、とあるネットゲームのイベントが四時から開始だったことを思い出した。
「ごめん、ちょっと変わってもらってもいい?」
「あ、すみません、明久さんのパソコンで夢中になっちゃって……これは何ですか?」
「ネトゲだよ。パソコンで出来るゲームなんだ」
「パソコンでゲームが? この前やった、ぴーえすふぉーとはまた違うものなんですか?」
「えっと、PS4とかはコンシューマーゲームって言って、専用のゲーム機で遊ぶゲームのことなんだ。で、これはネットゲーム。パソコンで遊べるように作られたゲームのこと」
「一言でゲームと言っても様々な種類があるのですね……」
ガヴリールは関心したように嘆息する。僕がキーボードとマウスでゲーム内のイベントをこなしていると、彼女は正座したまま、どこか落ち着かない様子でソワソワしていた。
──もしかして、やってみたいのかな?
もし過去に戻れるのなら。
この時の僕の軽率な判断を、殴ってでも止めに行く。
「やってみる?」
「えっ、いいんですかっ?」
「うん、僕まあまあこのゲームやりこんだし、レベルもそこそこ高いから、操作方法さえ分かれば大丈夫だと思うよ」
「あ、ありがとうございます! じゃあ、さっそく……移動はこのキーで行うんですよね?」
「うん。で、ここで攻撃」
「おおっ、倒せましたっ」
「上手いね! じゃあ次に、ここを押すとね……」
僕は今になってようやく、後悔先に立たずという言葉の意味を知る。
○
文月学園に通い始めて、早いもので数週間が経った。
この高校は特殊なカリキュラムを用いた新設の進学校だと噂には聞いていたが、勉学への意識は確かに高い。僕のように中学の義務教育や高校入試でさえ息切れしていた者にとっては、中々厳しい環境である。
だがその分、ここ文月学園は、他の高校と比較すると学費が圧倒的に安いのだ。その理由は前述した特殊なカリキュラムにあるらしい。詳しいことは知らないが、スポンサーなどから多くの補助金を受けているとのこと。
そして、その学費が安いというのが、僕がこの高校に進学を希望した理由である。僕は両親から毎月仕送りを受け取っているのだが、その仕送りには学費も含まれているのだ。
なので、学費をできる限り節約できれば、その分プライベートにお金を回すことができる。我ながら賢い!
放課後、僕は高校で新しくできた友人たちと別れ、家路についていた。既に道脇の桜は散っており、道路を桃色に染め上げている。
その桃色の道の先に、人影を見つけた。学生服の上に、桜の花と同じ桃色のパーカーを羽織った、金髪の女の子。
間違えるわけがない、ガヴリールである。
高校入学前にマンションの隣の部屋に引っ越してきて、友達になった女の子だ。
僕は駆け足で坂道を下り、彼女の背中を追いついた。クラスが別々だったため、ここしばらく会っていなかったのだ。
なので、自然とテンションも高まってしまう。
「ガヴリール、久しぶりっ」
僕が後ろから声をかけると、彼女はサラサラの金髪を靡かせて振り向く──ことはなかった。
あ、あれ? サラサラ……か?
いや、よく見ると、腰の辺りまで伸びた髪がボサボサのままうねりにうねって、癖のあるモコモコヘアを生み出している。
彼女はぴくっとだけ動いて、はあああと大きなため息をついてから吐き捨てるように言った。
「振り向くのもメンドイ……」
「いくらなんでもあんまりじゃない!?」
「ウルサイなぁ……」
あれ!? ガヴリールってこんなダウナーな感じだったっけ? もはや別人なんだけど……。
僕の知っているガヴリールだったらここは「ごきげんよう、明久さん」って言う場面だよ!?
「えっ、えっと……もしかして、ガヴリールさんの双子の姉妹……とか?」
「は? 何言ってんのお前。歳の離れた姉と妹はいるけど双子はいねーよ」
「証拠はあるのかね天真くん!?」
「そのキャラうぜぇ……ほらよ、学生証」
彼女が見せてきた学生証には確かに天真=ガヴリール=ホワイトと記載されていた。……僕のよく知るガヴリールの顔写真と共に。
「いや、変わり過ぎでしょ! 衝撃の高校デビューだよ!?」
「あー、明久さぁ」
「いきなりフレンドリー!? 前まで明久さんって呼んでなかった!?」
「ウチまでおぶってくれね? 坂ぁ歩くのだるい……」
「……」
絶句だった。言葉を失った。開いた口が塞がらなかった。
ガラガラと音を立てて、僕の中のガヴリールという存在が崩れ落ちていくような感覚だった。
ど、どうして……。
「どうしてこんなになるまで放っておいたんだ……ッ!!」
「いや、なんの話? あ、喉乾いたからそこのコンビニで飲みモンとアイス奢ってくれていいぞ」
「すっごい上から目線! しかも喉潤すだけならアイス要らないよね!?」
「うるさい、私はアイスが食べたいんだ」
なんという傲慢さ。なんという理不尽。
だが僕の今の所持金は三十円だ。アイスも飲み物も買えないぞ!
「ちっ、シケてんな……おらピョンピョンしてみろよ。まだあるんだろ?」
「いやああああ、女子高生にカツアゲされるうううう」
緊急用に靴と内ポケットに忍ばせていた百円玉二枚も持っていかれた。僕の全財産が……なんという卑劣な!
にへらと意地汚い笑みを浮かべるこの極悪女子高生があの天使のようなガヴリールと本当に同一人物だというのか。
彼女がこんなに変わってしまった理由はなんだ。それを確かめるべく、僕は言った。
「じゃあ奢る代わりにさ、この後ガヴリールの家によってもいいかな? 久しぶりに」
「はあ? いいけど……この後イベント消化しなくちゃいけないからあんま長居すんなよ」
そして僕は、バニラアイスをチョコでコーティングしたアイスを頬張る彼女を背負って、坂道を下った。
僕らの住むマンションから学校までの通学路には、一直線に長い坂が伸びているので、登校は辛いが下校は楽──と考えていたのだが、その坂が急勾配なので、下りもなかなか辛いという二重苦なのである。女子高生を背負うことができるなんて役得以外の何物でもないが、状況が状況だ。
しかも、相手があのマジ天使だった頃のガヴリールならともかく、何故か別人のようになってしまったガヴリールだ。小柄なので背負うことは難なくできたが、それでも三十キロはあるだろう。ダンベルを持って坂を歩くのとほぼ変わらない。
「ぜえ……はあ……ッ!」
なので、マンションについた頃の僕はもう息も絶え絶えで、汗だくだった。
「よくやった、流石は私の親友」
「は、ハハ、ありがとう……」
真顔のまま言われてもあまり嬉しくない。
「少し散らかってるけど、まあ入れよ」
「お邪魔しまーす」
ガヴリールは鍵を開錠して、ドアノブを引く。
彼女の部屋は僕の部屋の隣ではあるが、最近は学校が忙しくて会うことができていなかった。よって部屋を訪れるのも大体数週間ぶりである。
未だに女の子の部屋に入るというのは、やはり落ち着かない。前に訪れた彼女の部屋は、とても整理整頓されていて、なんだか良い匂いがしていた。そんなことを思い出しつつ、僕は玄関を跨いで──唖然とした。
「これが、少し……?」
彼女はさっき、散らかっている、と言った。確かに言ったが……その部屋の有様は、散らかっているなんてもんじゃなかった。
足の踏み場もない、という表現がある。全く片付いていない部屋を揶揄する言葉だ。
さて、この部屋である。寝るためのスペースが確保されたベッドまわり以外は──放置されたゴミ袋、乱雑に積まれた雑誌や漫画、脱いだまま投げ出されたであろう衣服、床に転がる空き缶やお菓子の残骸などによって──本当に足の踏み場がないのだ。
こんなのが本当に女の子の部屋なのか?
もしかしたらこれは眠っている僕が見ている夢なのではないかと思い至り、頬を抓ってみる。
「痛い……クソォ!」
「何やってんのお前?」
非情なる現実に僕が打ちのめされている間、ガヴリールは慣れた手つきで配線を行い、パソコンを起動させた。そして開いたページは……あのネットゲームだった。
「あれ? ガヴリールもそのゲームやってたんだ」
「まあね」
「どれどれ……」
ちらっとゲーム画面を覗いて、僕は驚愕のあまり声を上げた。
「えっ!? レベル150!?」
僕だってそこそこやり込んではいるけど、まだ50くらいだぞ!?
しかも彼女が行っているイベントは、現行、ゲーム内では最難関クラスと言われているステージだ。僕なんかでは、挑むことさえ許されていない。それを彼女は、強力なキャラクターと巧みな操作でステージを蹂躙していく。
「が、ガヴリール……このゲーム、どれくらいプレイしてるの……?」
「あー……お前にこのゲーム教えてもらってから始めて、今は一日十二時間以上はやってるな」
「十二時間!?」
まさか睡眠と学校以外の時間の殆どをゲームに費やしているのか!?
ガヴリールがここまでネトゲにはまってしまうなんて……。
確かに彼女は、少しだけ世間知らずなところはあった。だが、誰にでも優しく、コンクリートの道に咲く小さな花にさえ慈しみを忘れず微笑むような女の子だった。
そんな彼女は未知の娯楽、つまりネトゲに触れることによって堕落してしまった。そして、その原因を作ってしまったのは僕だ。僕の軽率な行動が、彼女の人柄も、性格も、人生さえも捻じ曲げてしまった。悔やんでも悔やみきれない。
──あの日出会った、天使のようなあの子は、もういないのだろうか。
気づけば、僕は泣き喚くように叫んでいた。ほとんど絶叫だった。
「全ての人を幸せにするのが夢って言っていた君はどこにいっちゃったの!?」
ガヴリールは、そんな過去を嘲るかのように、へっと笑った。
「その頃の私は本当の私を押し殺していたんだよ」
彼女の操るキャラクターが、バッタバッタとモンスターを薙ぎ倒していく。
「下界の娯楽に触れて気がついたんだ、本当の私は怠惰でグータラな……」
ふと、僕は彼女への第一印象について思い出した。この子は神が自分の元に遣わした天使なのではないかと、本気で思ったこと。
その神が遣わした天使は、
下界のバカと接触したことによって、
ミイラ取りがミイラになってしまうように──
同じくバカになってしまったのだ。
「救いようのない、駄天使だってことにね!」
彼女はキメ顔でそう言った。
──神様、仏様、もしいるのなら聴いてほしい。僕の懺悔を。
どうやら僕は、