バカと天使とドロップアウト   作:フルゥチヱ

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バカテスト
問 次の( )に正しい年号を記入しなさい。
『(   )年 キリスト教伝来』

月乃瀬=ヴィネット=エイプリルの答え
『1549年』
教師のコメント
 正解です。月乃瀬さんにとってはこれくらい朝飯前でしたかね。

胡桃沢=サタニキア=マクドウェルの答え
『8月15日』
教師のコメント
 問うているのは年号ですし、それは胡桃沢さんの誕生日でしょう。

天真=ガヴリール=ホワイトの答え
『2017年』
教師のコメント
 去年あなたにキリスト教伝来並みの出来事でも起こったのですか?

白羽=ラフィエル=エインズワースの答え
『1549年、スペインナバラ王国生まれのバスク人カトリック教司祭でイエズス会員のフランシスコ・デ・ザビエルによる宣教活動が日本最古のキリスト教伝来として記録されている。ザビエル様は、コスメ・デ・トーレス神父、ジョアン・フェルナンデス修道士らとともに鹿児島に上陸し、平戸・山口・堺などでも宣教活動を行った。またザビエル様のキリスト教布教以降、ガスパル・ヴィレラ司祭、ルイス・デ・アルメイダ医師、ルイス・フロイス司祭、ガスパール・コエリョ司祭などのイエズス会員も相次いで日本に来航し――(以下、日本のキリスト教史がずらりと続く)』
教師のコメント
 詳しすぎです。


第十一話 バカと天使とドロップアウト(中編)

 試験召喚戦争の細かなルールの一つに、戦後回復試験というものがある。これは一つの戦争が終わった後に、その参戦クラスの生徒は点数補充を行えるというもので、例え連戦になるとしても消耗した点数を回復するための期間が与えられる。複数のクラスが結託して一つのクラスを集中狙い──なんて事態が起こった時の為の、戦争の公平性を促すためのルールだ。

 これを利用して、二年FクラスはBクラス戦後に全員で回復試験を受けていた。万が一Aクラスとの交渉が決裂し、クラス間の戦争に発展した場合に備えてである。

 今のテスト科目は歴史。つまり日本史と世界史である。シャーペンの芯を出しては戻す者、回答をしているように見せかけて答案用紙に落書きをする者、卓袱台に突っ伏して既に諦めモードの者。態度は様々であったが、その顔色は総じて良いものではなかった。数少ない例外といえば、鬼気迫る勢いでペンを走らせる姫路瑞希くらいだ。

 そして、我らが駄天使こと、天真=ガヴリール=ホワイトは──

 

「輝け! シャイニングアンサー!」

 

 コロコロコロ……

 鉛筆を転がしていた。

 

「天真さん、試験中ですのでお静かにお願いします」

 

 と、パンパンと教卓を叩いて警告するのは試験監督の福原先生。

 

「あ、すんません」

 

 その瞬間、叩かれた教卓がバキバキと崩れ落ち、生徒たちの目の前でゴミ屑と化した。軽く叩いただけで崩壊する教卓に、足が折れかけの卓袱台、腐臭漂うボロ畳──これがFクラスの現在の教室設備なのだ。

 ガヴリールはそんな現実から全力で目を逸らしつつ、転がした鉛筆をちらりと見遣る。正確には、その鉛筆の側面に刻まれた記号に。

 

(ふむ、この問題はウか)

 

 記述問題を完全にスルーし、記号問題の解答欄だけを粛々と埋めていく。

 完全に試験を舐めているとしか思えない行動だが、実は彼女、ここまで全ての記号問題の回答が正解なのだ。

 それは何故か。

 天真=ガヴリール=ホワイトは──神に愛されるレベルの幸運を持つ、天使の中の天使。エンジェルオブエンジェルだからだ。

 かつての優等生としての姿は見る影もなく、普段は友人であるヴィーネや明久から駄天使と揶揄されている彼女だが、決して天使としての力を喪失したわけではない。そもそも、彼女の持つ幸運というのは生来のものだ。

 努力と幸運、その二つの才覚を持ち合わせていたガヴリールだからこそ、彼女は天使学校主席にまで上り詰めることができたのである。

 なのでガヴリールは、やろうと思えばネトゲのレアドロップアイテムなど一発で獲得できるし、なんなら宝くじで一等を当てるなんてお茶の子さいさいだし──テストの選択式問題を勘で百発百中させることなど容易いのだ。

 こうして彼女は、記号問題の配点が少なかった日本史においても二百点、記号問題の配点が多かった世界史においては四百点という高得点を獲得したのであった。

 

   ○

 

 世界史

『Aクラス ヴィーネ 376点 VS Fクラス ガヴリール 400点』

 

 参考として召喚獣の頭上に表示されたガヴリールの点数に、Fクラスは歓喜の声を、Aクラスは驚愕の声を上げる。

 それも当然だろう。四百点ジャストなんて、学年においてトップ中もトップ。その科目において間違いなく五本の指に入るほどの成績だからだ。

 前までは僕と殆ど同じくらいの点数だったはず。バカのはずなのに! バカのはずなのに!

 

「ちょっとガヴ! アンタまさか不正とかしてないでしょうね!?」

 

 そう抗議の声を上げたのは彼女と相対する月乃瀬さん。真っ先に不正を疑われる天使って……。

 

「そんなことしてないって。ただ少し、神様のご加護を受けてるだけだよ」

 

「してるじゃないっ!」

 

 屈託のない笑顔で告げた駄天使にツッコミを入れる生真面目悪魔。

 

「祈っていいのは、祈られる覚悟のある奴だけだ!」

 

「そりゃアンタは天使だし祈られることもあるでしょうけど!」

 

 君たちはきっと生まれる種族を間違えている。

 ……ちなみに、Fクラスの神棚をガヴリールは未だに取り壊せずにいる。襲撃に赴くたびにクラスメイトたちの妨害に遭うからだ。しかも、あの神棚が祈り拝まれる度、天界からの仕送りが少し増えるらしく、彼女もあまり強く出られないというのが現状だった。

 

「でもヴィーネ、考えてみてよ。人間共だって、試験前に神社とか寺に神頼みしに行くじゃん?」

 

「まあ、そうね。私も振り分け試験の前日にはお参りに行ったわ」

 

 悪魔が参拝というのもどうなんだろう、という疑問は今更なので置いておく。

 

「つまり、私の場合はテスト中に神様にお願いした、それだけの話だよ(にこっ)」

 

「アンタの神頼みは洒落にならないでしょーが!」

 

「ガヴちゃん、昔から神様たちに愛されてましたもんねー」

 

 多分、その神様たちはロリコンだと僕は思うんだ。

 

「私が不正したというのなら、その証拠を出してみなよ。高橋先生、そんな事実はありませんよね?」

 

「はい。天真さんは試験中、至って真剣でした」

 

「ほらね」

 

「至って真剣に──鉛筆を転がしていたと報告されています」

 

「だとさ、ヴィーネ」

 

「アンタいつか天界に強制送還されても知らないからね!?」

 

 月乃瀬さんのキレッキレのツッコミ。いつだったかガヴリールが、彼女の突っ込みは神様にも通用するなんて言ってたが、本当に通用しそうなレベルだ。

 

「……ところでさガヴリール、数学は何点だったの?」

 

 僕の中に一つの疑問が湧いたので訊いてみる。

 数学といえば、マークシート方式でもない限り選択問題が殆ど出ない科目の一つだ。

 

「聞いて驚け、明久」

 

 彼女は振り返って、不敵な笑みを浮かべながら言った。

 

「一桁だ」

 

「ば、バカだ! バカがいる!」

 

「なんだとっ!? お前にバカって言われたくないぞこのバカ!」

 

 一桁なんて僕でも滅多に取ることがない点数だ。バカ以外の何者でもないだろう。

 ムッツリーニといい島田さんといいガヴリールといい、どうして僕の周りの連中はこう極端なんだ。あ、Fクラスだからか。

 

「はあ……因数分解ってなんだよ。勝手に分解するなよ、自然なままにしておいてやれよ」

 

「アンタかなりFクラスに染まってきてるわね」

 

 眩暈を抑えるかのように、額に手を当てる月乃瀬さん。

 しかしそうか、選択問題か。

 確かにガヴリールは、やけにレアアイテムのドロップ率とかガチャの排出運が良いとは思っていたけど、本気の運命力を発揮すればこれだけの点数が取れるのか。

 ……あれ? じゃあなんで振り分け試験でやらなかったんだろう? 仮に数学の点数が一桁だとしても、他の教科全てで三百点くらい取れば、余裕でAクラスに入れたはずなのに。

 

「じゃあ私の疑惑も払拭されたところで、そろそろやろうかヴィーネ」

 

「な、なんて卑怯な天使なの……!」

 

「どんな手を使おうとも最終的に勝てばよかろうなのだ! 七億円の恨み! 今ここで晴らさせてもらう!」

 

「アンタそれまだ根に持ってたのかよ!」

 

 ガヴリールの召喚獣は今までとは比べ物にならない跳躍力で飛び上がり、空中から矢を連射した。

 それらは凄まじいスピードで宙を疾走し、弧を描いて四方八方から月乃瀬さんの召喚獣へと迫る。

 四百点という高得点から繰り出される数の暴力。天使らしさの欠片もない雑な戦い方だが、だからこそ有効。僕や胡桃沢さんのように召喚獣の扱いに慣れている観察処分者ならば、致命傷を避けるようにしながら躱すことができるかもしれないが、月乃瀬さんは召喚獣の操作に慣れていないはず。この攻撃で早くも決着が──

 

「きゃぁ! あ、危なー……」

 

 つかなかった。

 月乃瀬さんは召喚獣の得物である長い三叉槍の中心を持って、それを扇風機みたいにクルクルと回転させることで矢を全て弾き落したのだ。

 え……? 今の動き、どう見ても初心者のそれじゃないぞ……?

 

「おいおいヴィーネ、ガードしちゃダメだろ。今は私のターンなんだから」

 

「ガヴの点数の攻撃をまともに食らったら致命傷でしょ! そりゃガードもするわよ!」

 

 重力に導かれて落下するガヴリールの召喚獣に、今度は月乃瀬さんの召喚獣が肉薄する。彼女の点数も三百点台後半なだけあって、凄まじい瞬発力だ。

 

「今度はこっちの番なんだから!」

 

「ちょ! ヴィーネ、なんでそんなに操作上手いんだよ!?」

 

 着地により生まれた隙を月乃瀬さんは見逃さず、槍による一突きを放つ。何とか急所は外すことに成功したものの、ガヴリールの召喚獣はふっ飛ばされて、弓を取り落としてしまう。ちゃ、着地狩り……!

 

 世界史

『Aクラス ヴィーネ 344点 VS Fクラス ガヴリール 352点』

 

 気が付けば、お互いの点数はほとんど拮抗していた。

 こうなってしまうと、ガヴリールは圧倒的に不利だ。点数のアドバンテージを失い、さらには何故か月乃瀬さんは観察処分者並みの操作技術を身に付けているのだから。

 ん……? 観察処分者並み……? ってことは、もしかしてそういうことなのか?

 

「まさか月乃瀬さん、君みたいな出来た人が観察処分者に認定されるなんて……! いったい何をやらかしたんだい……!?」

 

「フッ、ヴィネットもようやく悪魔らしくなってきたってことかしら? Welcome to the Underground、イカれた世界へようこそ」

 

「違うからね!? 先生の手伝いをしてる時に、召喚獣を扱う機会があっただけだから!」

 

 なんだって!? あんな死ぬほど面倒くさい雑用を自ら進んで引き受けるなんて、どこまで出来た人なんだ月乃瀬さんは! 悪魔なのに!

 

「月乃瀬さんにはいつも本当に助けられています。なにせ、本来雑用を頼むべき観察処分者の方々は問題ばかり起こしますから」

 

「「…………」」

 

 高橋先生の言葉に全力で目を逸らす僕と胡桃沢さん。ぼ、僕らはどこにでもいるような至って真面目な生徒なんですよ? 根は良い子たちなんですよ?

 

「ってことは月乃瀬は、Aクラス上位並みの点数に観察処分者並みの操作技術を持ってるってことか……!? 明久の完全上位互換じゃねえか!」

 

「言ったあああ! こいつ僕が目を逸らしていた真実を包み隠さず言ったあああーっ!」

 

 雄二の残酷すぎる一言に頭を抱える僕。

 このままだと僕の存在意義が! アイデンティティがぁ!

 

「さぁてガヴ? それじゃ続けましょうか?」

 

「ま、待ってよヴィーネ! タイム! タイムを要求したい!」

 

「タイム? まあ、いいけど……五分だけだからね?」

 

 優しっ。

 

「ど、どどどどうしよう明久! ヴィーネ強すぎるよ! 勝てる気がしない!」

 

「落ち着くんだガヴリール! 可愛さなら負けていない! いやむしろ僕の中では勝っている!」

 

「いや、お前も落ち着け?」

 

 雄二の冷静なツッコミに正気を取り戻す僕ら。

 

「…………弱点を見つけるしかない」

 

「胡桃沢、お前確か月乃瀬と同郷だったよな? なにか知らないか?」

 

「ヴィネットの弱点……そうね、アイツは褒められることに弱いわ」

 

「褒められること?」

 

「アレを見なさい」

 

 そう言って胡桃沢さんが指差したのは、Aクラス側の陣営である。

 そこでは、月乃瀬さんがクラスメイトたちに取り囲まれていた。

 

「凄いね月乃瀬さん! 腕輪持ちの相手に互角に渡り合えるなんてさ!」

 

「ああ。それに、君の操作技術はAクラスでも群を抜いているようだ」

 

「あはは。ありがとう工藤さん、久保くん」

 

「……代表として、私も鼻が高い」

 

「も、もう! 霧島さんまで……褒めてもなにも出ないんだからね?」

 

「侵略者であるFクラスに果敢に立ち向かうヴィーネさん。まさに勇者のようでした」

 

「あ、あはは……うん、悪魔っぽくないでしょ」

 

 急にテンションが。

 

「なるほど。悪魔なのに他人から褒められる、っていう食い違いを突くわけだね?」

 

「そういうことね。全く、すぐ側に生きた見本である大悪魔がいるのだから、ヴィネットはもっと私を見習うべきよねー」

 

 雄二たちに聞かれるわけにもいかないので、耳元で話す僕と胡桃沢さん。

 僕としては、月乃瀬さんには是非ともそのままの彼女でいてほしいものだ。

 

「……ふんっ!」

 

 すると、急にガヴリールが胡桃沢さんの側にやってきて、足の小指辺りを踵で踏み抜いた。痛そう。

 

「あだああああーっ!? な、何すんのよガヴリール!」

 

「すまん。なんかお前の顔見てるとムカついたから衝動的に」

 

「理不尽! しかもアンタ、謝るつもり全くないでしょ!」

 

「うむ」

 

「うむ、じゃないわよ! 表出なさいバカリール!」

 

「いや、私ヴィーネと戦ってる最中だから。じゃあなバカーニャ」

 

「むきーっ! 覚えてなさい!」

 

 足を抑えて床をのたうち回る胡桃沢さんを尻目に、ガヴリールは僕へと一瞥をくれた。

 まさか僕も足を踏まれるのだろうか。

 

「が、頑張ってね」

 

「……ん」

 

 僕が引きつった笑みを浮かべながら言うと、ガヴリールは相槌だけ返して、再び月乃瀬さんと相対した。

 良かった。僕の足は無事守られたみたいだ。

 

「行くわよガヴ!」

 

 低い姿勢で槍を構えて突進する月乃瀬さんの召喚獣。

 そのスピードの乗った一撃は、まともに食らえば戦死は免れないだろう。

 

「今よ! アンタたち!」

 

「「「応!」」」

 

 なので、僕たちは胡桃沢さんの作戦通りに合わせて声を上げた。

 ──月乃瀬さんを、褒め殺しにする台詞を。

 

「ヴィネット! アンタまた近所の小学生に告白されたんですって!?」

 

「……へ? さ、サターニャ!? なんで知って!?」

 

「しかも相手を悲しませないように断ることはせず、『その気持ちを大人になるまで持っててくれたら、また告白してね』と頭を撫でてやったらしいぞ!」

 

「なんて優しいんだ! 月乃瀬さん、君はこの文月学園に咲く一輪の花! いや、舞い降りた天使だ!」

 

「…………流石お嫁さんにしたい女子ランキング単独トップ……!」

 

「や、やめて! 羞恥心で死んじゃうから! ねえホントにやめて!?」

 

 僕らのわざとらしい演説に、真っ赤になった顔を両手で抑える月乃瀬さん。

 月乃瀬さんの反応を見るに、胡桃沢さんの言ったことは全て本当のことらしい。こんなに優しい人の弱みに付け込むなんて罪悪感が半端ないが、これも勝利のため! 外道にだって成り下がってやるさ!

 月乃瀬さんの精神的動揺が召喚獣にも伝わったのか、彼女の召喚獣も顔を真っ赤にしてその場に蹲ってしまう。今がチャンスだ!

 

「ガヴリール!」

 

「わかってる!」

 

 ガヴリールは限定されたフィールド内での一対一で弓は不利だと悟ったのか、拳を握りしめて肉薄する。全力疾走の勢いをそのままに、ガヴリールの召喚獣は月乃瀬さんの召喚獣にパンチを繰り出した。

 

「食らえヴィーネ! エンジェルブロー!」

 

 説明しよう!

 エンジェルブローとは、天使の怒りと悲しみをのせた必殺の拳! 相手は死ぬ……らしい!

 

「くっ……!」

 

 流石の月乃瀬さんでもあの状況からの回避は無理だったのか、槍を構えて盾のようにするのが精一杯。ガヴリールの攻撃をまともに食らい、槍ごと後方へとふっ飛ばされた。

 

 世界史

『Aクラス ヴィーネ 267点 VS Fクラス ガヴリール 352点』

 

「腰の入ったいい拳だな」

 

 喧嘩慣れした雄二がガヴリールに賞賛の言葉を贈る。

 

「確かに、上手くボディを狙ったわね。褒めてあげるわガヴリール!」

 

「じゃあ声出そうか?」

 

「…………声? どんな風に?」

 

「よし、折角だから合わせてやろう。皆、僕に続いてくれ」

 

 大きく息を吸って、僕らは声を上げた。

 

「ガヴリール! ナイスボディ!」

 

「天真、ナイスボディだったぞ!」

 

「…………ナイスボディ……!(グッ)」

 

「ナイスボディよガヴリール!」

 

「ガヴちゃん、凄いナイスボディです!」

 

「お前ら後で覚えとけよ……!」

 

 顔を真っ赤にして怒りを露わにするガヴリール。あれ? 褒めたはずなのに怒られたぞ?

 

「天真さんがナイスボディってマジ?」

 

「おいおい、むしろ逆だろ?」

 

「「「だが、それが良い」」」

 

「お前らは後で全員コロス!」

 

 こんな僕らは仲良しFクラス。

 

「……随分楽しそうじゃない? ガヴ……」

 

 すると、地の底から響き渡るような声が、Aクラス側から聞こえた。

 え? 今の声……つ、月乃瀬さん?

 

「な、なんだヴィーネ。なんで怒ってるの?」

 

「……クク、怒ってる? 私が? そっかぁ……じゃあ私も一歩前進ってことかな? 悪魔的に」

 

 そう言って、不気味な笑みを零す月乃瀬さん。な、なんだか彼女の周りに暗黒のオーラが漂っている気さえする。

 

「そっちがその気なら、私も容赦しないわ……ガヴ、覚悟してね?」

 

「い、いや、今のは私じゃなくてサターニャの奴が……!」

 

「問答無用!」

 

 羞恥心を投げ捨てて吹っ切れてしまったらしい月乃瀬さんが召喚獣を突進させる。その鋭い視線は狙った獲物を必ず討たんとする猛禽類のようだ。

 ガヴリールは慌てて弓を拾いなおそうとするが、月乃瀬さんの迫るスピードはそれを遥かに上回っていた。攻撃も、回避も、防御も間に合わない。こうなってしまえばもうできることは──いや、まだあった!

 

「ガヴリール! 腕輪だ!」

 

 そう、単一科目で四百点以上を獲得した生徒の召喚獣にのみ与えられる特殊能力。今まで縁のない話でガヴリールも忘れていたみたいだけど、ちゃんと彼女の召喚獣にも腕輪は装着されていた。

 ガヴリールはハッとなって召喚獣の腕輪を輝かせる。疾走する月乃瀬さんの召喚獣が鈍く光らせる槍の切っ先と、ガヴリールの召喚獣が放つ腕輪の光が重なり──

 

「ガヴ、潔く降参しなさい」

 

「ま、まいった……」

 

 その輝きが収まると、そこにはガヴリールの召喚獣の首元に槍を突きつける月乃瀬さんの召喚獣の姿があった。

 

「勝者、Aクラス!」

 

 高橋先生の判定を受け、Aクラスから歓声が上がる。

 

 世界史

『Aクラス ヴィーネ WIN VS Fクラス ガヴリール LOSE』

 

 AクラスとFクラスの最終決戦──その先鋒戦は、Aクラスの勝利で決着した。

 

   ○

 

「それでは次鋒の方、前へ」

 

「ヴィーネさん、お疲れ様です。次は私が行かせてもらいますね?」

 

「……うん。後は任せたわ、ラフィ」

 

 疲労困憊といった様子でふらふらと後ろへ下がっていく月乃瀬さんと言葉を交わして前に出てきたのは、ある意味僕の因縁の相手、白羽さん。対してFクラスからは、

 

「よし、頼んだぞ明久」

 

「えっ!? 僕!?」

 

 まさかの代表直々のご指名である。

 

「大丈夫だ、俺はお前を信じている。教科の選択権も使うといい」

 

「……やれやれ。雄二、それは僕に本気を出せってことかい?」

 

「ああ、もう隠す必要もないだろう。この場にいる全員に、お前の真の力を見せつけてやれ」

 

 僕らの意味深な会話に、周囲がにわかに活気づく。

 普段の僕の姿からは、確かに想像できないかもしれない。でも、本気を出した僕はちょっと凄いのだ。

 

「高橋先生、教科は日本史でお願いします」

 

「承認します」

 

 僕の言葉を受けて、展開される日本史のフィールド。

 そう、なにを隠そう僕の得意科目は日本史。今まで披露する機会はなかったけれど、本気を出せばこの僕が百点を超える可能性がある唯一の科目なのだ!

 そして、僕の本気はこれだけじゃない。

 もう一つ、ずっと秘密にしてきた力がある。それをたった今、解放しようじゃないか!

 

「白羽さん、戦う前に一つだけ聞いてほしい」

 

「なんでしょう、吉井さん」

 

「今まで隠してきたけれど、実は僕──左利きなんだ」

 

「あらあら、そうでしたか。では私も一つお教えしましょう。実は私──両利きなんです♪」

 

「へっ?」

 

 魔法陣の中から現れる僕らの召喚獣。

 見慣れた学ランに木刀という出で立ちの僕の召喚獣と、ガヴリールとよく似たセーラー服に大弓という装備の白羽さんの召喚獣である。

 対峙する二体の召喚獣の頭上に、点数が表示された。

 

 日本史

『Aクラス ラフィエル 555点 VS Fクラス 吉井明久 298点』

 

「え、ええええええっ!?」

 

 なんだかどっちの点数もおかしい気がするんだけど!?

 僕はこんな高得点を取れるほど問題を解いていないし……っていうか五百点オーバーって! 教師並みの点数じゃないか!

 そんな風に困惑する僕を見ながら、白羽さんはにっこりと微笑んでこう言った。

 

「吉井さん、どうか私を退屈させないでくださいね♪」

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