バカと天使とドロップアウト   作:フルゥチヱ

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バカテスト
問 以下の意味を持つことわざを答えなさい
(1)得意なことでも失敗してしまうこと
(2)悪いことがあった上にさらに悪いことが起きる喩え

天真=ガヴリール=ホワイトの答え
『(1)謝罪とか要らないから詫び石よこせ
 (2)緊急メンテとかふざけんなサーバー強化しろ詫び石よこせ』
教師のコメント
 試験中に詫び石乞食をしないでください。

胡桃沢=サタニキア=マクドウェルの答え
『(1)タナトスもインフェルノに墜つ』
教師のコメント
 地獄や冥界でなら通じるかもしれませんね。

白羽=ラフィエル=エインズワースの答え
『(2)禍去って禍また至るサターニャさん』
教師のコメント
 個人名を書く必要はありません。

月乃瀬=ヴィネット=エイプリルの答え
『(1)釈迦にも経の読み違い
 (2)弱り目に祟り目』
教師のコメント
 月乃瀬さんは天使です。


バカと天使と試験召喚戦争
第一話 ぐーたら天使、学校へ行く


 その部屋の有様は、まさに地獄絵図だった。

 放置されたゴミ袋、乱雑に積まれた雑誌や漫画、脱いだまま投げ出されたであろう衣服、床に転がる空き缶やお菓子の残骸。

 そして、それらゴミや物の山に埋もれて眠る金髪の女の子が一人。

 ボサボサの金髪、でっかい鼻提灯、ダボダボのジャージ……なまじ見てくれがいいだけに、彼女のズボラさが一層濃く映し出されて見えた。

 

 その部屋には、もう一人女の子がいた。

 肩の辺りでバッサリと切った黒髪、前髪に留められたヘアピン、着崩すことなくきちっと着られた制服、そして──手に持った黒い三つ又の槍と、頭の両脇から伸びる獣のようなツノ。

 彼女は足の踏み場もない部屋を蹴散らすようにずんずん進んで行くと、光を完全に遮断していた巨大なカーテンに手をかけ、それを一気に開け放った。

 

「起きなさいこの駄天使!」

 

「うわぁあ!? 目がっ!? 目がぁぁ!?」

 

 黒髪の少女の名前は月乃瀬=ヴィネット=エイプリル。通称ヴィーネ。

 彼女の一日は、ぐーたらでダメダメな天使を起こすことから始まる。

 

   ○

 

 僕らが文月学園に入学してから、二度目の春が訪れた。

 窓から見える街並みは、既に桜満開といった風情で淡く輝いている。花を愛でるような雅な人間ではないけれど、毎年この景色を見るたびに目を奪われる。

 美しい桜の姿にセンチメンタルな気分になるが、しかしそれも一瞬もこと。

 

 隣の部屋から響いてきた女の子の荒っぽいモーニングコールに、意識を引き戻されたからだ。

 

「月乃瀬さん、相変わらずだなぁ……」

 

 僕の朝に、隣人宅から響く月乃瀬さんの怒号はつきものだった。春休み中は中々聞く機会がなかったので、なんだか懐かしい。

 そんなことを考えていると、今度は隣から、布団から出たくないと駄々を捏ねる声が聞こえた。

 

「ガヴリールも変わらないね……」

 

 思わず苦笑してしまう。

 それからは「起きなさい」と「やだやだ」の水掛け論である。

 

 抵抗を繰り返す彼女の名はガヴリール。僕の住むマンションの隣人にして、同じ高校に通う同級生だ。

 僕たちの出会いは一年前まで遡る。高校入学前、ガヴリールはマンションの隣の部屋に引っ越してきた。その時の彼女は、素晴らしい人格の持ち主で、わざわざ隣人の僕に粗品をもって挨拶にきたり、若者は誰も挑みたがらないようなボランティア活動に嫌な顔一つせず勤しむような女の子だった。

 

 だが、彼女は変わった。

 正確に言うと、僕が変えてしまった。

 

 ガヴリールは僕が勧めたネトゲにハマってしまい──グータラダメダメの駄天使へと堕ちてしまったのだ。

 一日のプレイ時間は最低でも十時間を超えるという立派なネトゲ廃人と化した彼女は、過去の美しい姿は見る影もなく、今ではサラサラだった金髪もボサボサの毛玉のような有様である。

 

 さて、さんざんガヴリールのことを貶すような説明をしてしまったが、僕たちは決して仲が悪いわけではない。むしろ良好と言えるだろう。

 それは、僕も彼女と同じく、ゲーム好きであるからだ。そもそも彼女がゲームにハマるきっかけを作ったのは僕であり、その環境を提供したのも僕である。

 そしてゲーム好きというのは総じて負けず嫌いなもので、僕とガヴリールは切磋琢磨して、互いのプレイングセンスを磨きあってきた。流石にネトゲではガチ勢の彼女と比べると劣ってしまうが、コンシューマーゲームでは引けを取らない自信がある。

 

 かつてのマジ天使だった頃のガヴリールではなくなってしまったのは至極残念ではあるものの、今の駄天使ガヴリールも親しみやすく気のおけない間柄であるし、普通に好きだ。

 

 なんて物思いに耽りながら、遅刻しそうなので急いで学校へ行く準備をしていると、突然僕の家のドアが開け放たれ、金髪の毛玉がウチに転がり込んできた。

 

「明久っ、助けてくれ!」

 

 金髪毛玉もといガヴリールは靴を玄関に脱ぎ捨て、ネクタイを結んでいた僕の元へ一直線に飛び込んできた。そして僕を盾にするように、背後に回り込んでから玄関のほうをチラチラ覗いている。

 

「ヴィーネが、ヴィーネが私をいじめるんだ!」

 

「いじめるって……そんな大袈裟な」

 

「大袈裟なんかじゃない! あいつは未だ春休み気分が抜けきっていない私に学校に行けって言うんだぞ!?」

 

 なんという自分勝手な暴論であろうか。確かに僕も休み明けに学校へ向かうのは気分が重いけど、それでも制服を着て今から家を出ようとしていた。だがガヴリールは未だ部屋着のジャージのままであった。しかもズボンを穿いていない状態。なんというズボラさ。大変際どい格好ではあるのだが、もうあまりに見慣れ過ぎた姿で、見ても何も感じなくなってしまった。

 

 そもそも、月乃瀬さんは彼女の為を思って毎朝遠回りをしてまでガヴリールを起こしに来ているのだ。感謝はされど、苛めなどと言われる筋合いは皆無である。それは勿論ガヴリールも理解しているのだろうが、実際眠い朝に叩き起こされるとイライラのほうが勝ってしまうらしい。まあ、気持ちはわかる。

 

「ガヴ~? いるんでしょ、早く出てきなさい!」

 

 ドアの向こうから月乃瀬さんの声が聞こえた。このままダラダラしていては彼女まで遅刻してしまう。優等生の月乃瀬さんにそんな恥ずかしい真似をさせるわけにはいかないので、僕は背後にいたガヴリールを逃げ出さないよう固くホールドしながら、玄関のドアを開けた。

 

「おのれ謀ったな明久。この裏切り者ぉ!」

 

「おはよう月乃瀬さん。今日はいい天気だね」

 

「おはよ、吉井くん。ええ本当にいい天気」

 

 あーだこーだと騒ぐ毛玉天使を無視してあはは、うふふ、と和やかに笑いあう僕たち。なおその目は全く笑っていない。

 

「さあ急いで着替えて学校に行くわよガヴ」

 

「いーやーだー! 私は梃子でも動かないぞ!」

 

 月乃瀬さんに首根っこを掴まえられずるずると引きずられるガヴリール。僕だって本当はこんな朝早くから家を出たくないし、惰眠を貪っていたい。だがそんなことをしてしまえば、成績のあまり良くない僕は卒業できなくなってしまう可能性がある。高校四年生とか絶対になりたくない! だから嫌でも面倒でも学校へ行かなければいけない。しかし、自分一人がそんな思いをするのは癪だ。だから君も道づれだガヴリール! 

 

「明久お前覚えてろよ……」

 

 三流の悪党のような台詞を残しながら、ガヴリールは自室へと連れて行かれた。そして待つこと五分。

 

「くそっ、いつもならまだ余裕で寝てる時間だぞ。本能に逆らうなよ、欲に忠実に生きさせろよ……」

 

「はいはい、天使がそんなこと言わないの」

 

 文月学園の制服に着替えたガヴリールと月乃瀬さんが戻ってきた。時間はギリギリではあるが、まだ何とか間に合う。

 

「あれ、吉井くん待っててくれたの?」

 

「ガヴリールが道端で駄々捏ねだしたら月乃瀬さんに悪いと思って」

 

「ああ……そうね、助かるわ」

 

「そんなことしないわ!」

 

「いや忘れたとは言わせないよ!? 僕一年生の時から何回も君のこと背負って登校したり下校したりしてるんだけど!?」

 

 全く、恩知らずな天使である。

 僕はガヴリールをいつものようにおぶってやろうと背中を差し出す。もはや主人と僕、シンデレラと馬車のような関係になりつつある気がしたが、考えないことにした。月乃瀬さんもだが、僕も大概世話好きである。それとも、ガヴリールには世話を焼きたくなるようなオーラがあるのか。

 

「ふっ、明久。この天使学校首席たるこの私が、いつまでも誰かのおんぶに抱っこだと思っていたのか?」

 

 すると、なぜか自信満々に言う駄天使。今だって月乃瀬さんがこなければまだ眠っていただろうに。

 

「私は神から奇跡の力を賜った天使様だぞ? ちょっと本気を出せばここから学校までひとっ飛びなんだからな」

 

「ちょ! アンタまさか神足通を使うつもり!? 誰かに見られたらどうするのよ!」

 

「バレなきゃ違反もセーフなんだよ。さあ、偉大なる神の意思よ、私を学校まで移動させてっ」

 

 と言いながら、ガヴリールは祈りを捧げるようなポーズをとる。その瞬間、彼女の周りには光が溢れ、ふわりと身体が浮き上がった。

 神足通とは、天使の業の一つで、自分の思うところに出現できるという力だ。僕のような普通の人間に見られてしまったり、下界でこの業を乱用することはルール違反らしいが、ガヴリールはバレなきゃセーフという謎理論でこれを行使しようとする。

 

「安心しろ、二人もまとめて連れてってやるから。全く、私の優しさに感謝してほしいよ」

 

 親切なのか高慢なのかよく分からない台詞をガヴリールが呟くと、辺りは眩い光に包まれた。そして、その光が晴れると──

 

「あれ……?」

 

 そこはよく知るマンションの廊下だった。全く移動できていない。

 

「失敗したの?」

 

「いや、そんなはずは……ハッ!」

 

 ガヴリールは急に顔を真っ赤にして、スカートの裾を抑えた。

 一方その頃──文月学園二年F組の教室には、空から白いパンツが降臨していたらしい。

 神速通は失敗したのではなく、本人を置き去りにして、パンツだけを学校へ移動させた。

 つまり、天使の力は実際に行使されたのだ。

 

 ガヴリールは、本物の天使なのである。

 天界の天使学校を首席で卒業し、下界に送り込まれた、エリート中のエリート天使なのだ。

 彼女が本物の天使であることを知ったのは、グータラの駄天使に堕ちてからのことだった。

 通常、下界の人間には天使の存在を秘匿しなければならないらしいが、僕は半分共犯者のような感覚で、彼女の秘密を知ってしまっている。

 それは何故かというと、人間に正体がバレた天使は、最悪天界に強制送還されてしまうからだ。下界に染まりきったガヴリールはもう天界には戻りたくないらしく、絶対誰にも言うなと釘を刺されている。

 

 まあ、それはさておき。

 今の僕は、ガヴリールが所謂ノーパン状態であることを勿論知らない。

 なので急に顔を真っ赤にして蹲った彼女を心配して声をかけようとする。

 

「ガヴリール、どうしたの? 大丈夫?」

 

「み、みみみみ、見るなぁ!」

 

「ぐぼぁ!?」

 

 しゃがみ込んだ僕の両目にガヴリールの目つぶしが突き刺さり、視界を奪われた。この駄天使全力でやりやがったな! ものすごく痛い! 

 

「目がぁっ! 目がぁぁあ!?」

 

「わ、わわ、私はもう一回着替えてくるから、絶対覗かないでよ!」

 

 痛みにのたうち回っている僕に涙声でガヴリールは言うと、バタンという音を立てて、部屋に戻っていった。

 覗きたくても覗けないよ! そもそも、ムッツリーニならともかく、僕は覗きなんて卑劣な真似するもんか! ……多分。恐らく。きっと。

 涙を流しながら廊下に倒れる僕に、月乃瀬さんは本気で憐れんだ声で言った。

 

「……あなたも大変ね」

 

 優しさが目に染みて涙が止まらなかった。

 

   ○

 

 結局、僕はいつものようにガヴリールを背負って登校していた。先ほどの茶番のせいで、遅刻確定である。

 パンツを学校に転送してしまったガヴリールは、絶対行かないぞとまたも抵抗したが、月乃瀬さんに悪魔の力で脅され、「行け」という命令に「はい」と答えるしかなかった。

 

 月乃瀬さんもまた、ガヴリールと同じように人ならざる者で、魔界学校を卒業して下界にやってきた悪魔なのだ。

 ちなみに悪魔であることは別にバレてしまっても問題ないという。

 天界がガチガチの規則によって統制されているのとは対照的に、魔界は規則なんて知るかと言わんばかりに自由な場所であるが故らしい。まあ、悪魔だしね。

 なお、規則は緩いものの、魔界の治安は結構良いとのこと。あれ、悪魔とは一体……。

 

「私のパンツが高校デビューするなんて……一世一代の大恥だよ!」

 

 僕の背中でガヴリールが顔を真っ赤にして言う。

 それを横目で見ながら、月乃瀬さんは呆れたように笑った。

 

「これに懲りたら、次からはちゃんと自分の足で登校することね」

 

「ああ、これからもよろしくな明久」

 

「さては貴様! 僕を馬車馬のように使い倒すつもりだな!?」

 

 そんな談笑をしていると、次第に校門が見えてきた。その前で、一人の男が仁王立ちしている。げっ、鉄人! 

 

「吉井、遅刻だぞ」

 

 向こうも僕らの存在に気づき、ドスの効いた低い声で呼び止められた。その筋骨隆々の体躯と彫りの深い顔立ちは、さながら歴戦の傭兵を思わせる。スーツを着ていなければ教師とは分からないだろう。

 まさか鉄人こと生活指導の鬼・西村教諭がクラス分け発表の担当とは、ついてない。僕は一年生のころからこの人に目を付けられていて、何かやらかすたびに生徒指導室に連行され反省文を書かされるのだ。もはやトラウマである。

 だから今回も遅刻のことを強く叱責されるんじゃないかとビクビクしながら「どうも」とだけ生返事した。

 

「西村先生、おはようございます」

 

「鉄人おはー」

 

 続けて月乃瀬さんとガヴリールも鉄人に挨拶をする。いや、おはーは挨拶に含まれるのかどうか知らんけど。

 中学時代は悪鬼羅刹という渾名で不良としてならしていた僕の悪友坂本雄二や、陰湿で外道な男として悪名高い同級生根本恭二ですら、この鉄人には最低限の敬意を払っているというのに、ガヴリールは全く臆していない。

 

「二人ともおはよう。それと天真、私のことは鉄人ではなく西村先生と呼べ」

 

「へーい」

 

「『へい』じゃなくて『はい』よガヴ」

 

「はいはい」

 

「『はい』は一回!」

 

 こんな時でも母親のようにガヴリールを叱る月乃瀬さんに思わず苦笑してしまう。

 西村先生は箱から三枚の封筒を取り出すと、それぞれ一つずつ、僕らに手渡した。

 

「ほら、クラス分けの発表だ。もうホームルームが始まっているだろうから、確認したらすぐに行くんだぞ」

 

「あ、どーもです」

 

「ありがとうございます、西村先生」

 

「あざーっす」

 

 僕、月乃瀬さん、ガヴリールの順に受け取る。

 さてさて、僕はどこのクラスになっているだろう。今回の試験は結構自信があった。何故ならいつもより多く、十問に一問は解けたからだ。

 

 ここ文月学園では、クラスがAからFの六つに分けられていて、二年生以上の生徒は振り分け試験の成績順でクラスを振り分けられるのだ。Aが成績上位者、Fが成績下位者といった具合である。

 しかし固いなこの封筒。中々開けない。

 

「あっ、やった! 私はAクラスだっ!」

 

 そう声を上げたのは月乃瀬さんだった。

 

「おめでとう月乃瀬。日頃の努力の成果だな」

 

 鉄人も素直に賞賛の言葉を贈る。

 実際、月乃瀬さんの名前が成績上位者として挙げられ始めたのは一年生の後半辺りからだった。元々彼女は魔界で暮らす悪魔で、日本の学問について殆ど知らなかったはずだ。その不足分を並々ならぬ努力で補ってAクラスに上り詰めたのだから、見事という他ない。……あれ、悪魔だよね? 

 

「いえ、先生方のご指導のおかげです」

 

 なんという謙虚な姿勢。

 僕だったら鉄人に嫌みの一つでも言う場面だが……悪魔ってなんだっけ? 

 

「月乃瀬は教師冥利に尽きる生徒だな。それに比べお前たち二人は……」

 

 西村先生は僕とガヴリールを見て、やれやれといった風にかぶりを振る。

 いや、そりゃあAクラスの月乃瀬さんに比べたら不出来な生徒かもしれないけれど、それでも今回の手ごたえならDかEは堅いと思いますよ? 

 

「吉井、今だから言うが、俺はお前のことを、もしかしたらこいつは馬鹿なんじゃないかと疑っていた。だが振り分け試験の結果を見て、自分の間違いに気づいたよ」

 

 なんか急に語りだしたぞ……でもまあ、バカっていう評価を覆すことが出来たのなら、真剣に挑んだ甲斐があったよね。

 

「そう言ってもらえると嬉しいです」

 

「ああ、お前は正真正銘の馬鹿だ」

 

 やっと開いた封筒の中に折り畳まっていた紙には『吉井明久……Fクラス』と記されていた。

 

「なんでだああああああ!」

 

 僕はその場に膝から崩れ落ちた。

 この結果はおかしい。体調管理はきちっとして、テスト前日は十時に寝て、ちょっとしたハプニングがあったとはいえテスト中はいたって真剣だったのに! 採点のやり直しを要求したい! 

 

「勉強していないからだ、馬鹿者」

 

「あはは、ご愁傷さま……」

 

 うう、Fクラスかあ。学年最低のクラスじゃないか。そんな世紀末なところでやっていけるのかなあ、僕……。

 

「で、アンタはどのクラスだったの? ガヴ」

 

 そういえば、さっきからガヴリールが一言も声を発していない。

 すると、僕の目の前をひらひらと一枚の紙が通り過ぎた。その紙には──

 

『天真=ガヴリール=ホワイト……Fクラス』

 

 と、記されていた。

 振り返ると、ガヴリールは白目でその場に立ち尽くしていた。

 そういえば彼女は、天使学校では首席卒業の超エリートだったはずだ。そこから文月学園最底辺のFクラスへと見事ドロップアウトしたのだ。

 つまり。

 

「……現実を受け入れられず放心してるね」

 

「ちょ! 戻ってこいこの駄天使ー!」

 

 月乃瀬さんがガヴリールの肩を強く揺らす。

 ──こうして、僕らの最低クラスでの学園生活が、幕を開けた。


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