バカと天使とドロップアウト   作:フルゥチヱ

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清涼祭アンケート
学園祭の出し物を決める為のアンケートにご協力下さい。
『喫茶店を経営する場合、ウェイトレスのリーダーはどのように選ぶべきですか?
【1.可愛らしさ 2.統率力 3.行動力 4.その他】
 また、その時のリーダーの候補も挙げてください』

木下優子の答え
『【1.可愛らしさ&4.洞察力と気配り】候補……月乃瀬さん』
月乃瀬=ヴィネット=エイプリルの答え
『【1.可愛らしさ&2.統率力&3.行動力】候補……木下優子さん』
教師のコメント
 お互いをリスペクトし合える良き関係のようですね。教師として君たちを誇りに思います。

胡桃沢=サタニキア=マクドウェルの答え
『【4.カリスマ性】候補……胡桃沢=サタニキア=マクドウェル』
白羽=ラフィエル=エインズワースの答え
『【4.面白さ】候補……サターニャさん』
教師のコメント
 却下。

姫路瑞希の答え
『【1.可愛らしさ】候補……吉井明久くん』
天真=ガヴリール=ホワイトの答え
『【3.行動力】候補……吉井明久』
教師のコメント
 確かに吉井君は行動力の化身ですが、彼にウェイトレスをやらせる気ですか……?


第十七話 天に召されろババア長

 文月学園新校舎一階。その一角にある学園長室に、僕は雄二とガヴリールと一緒にやってきていた。老朽化した教室の改善を直訴する為である。

 雄二がノックと同時に雑にドアを開く。その先には、長い白髪が特徴の老婦、学園長の藤堂カヲルがいた。試験召喚システムの開発責任者であり、この文月学園において最も権力を持つ人間と言えるだろう。

 

「何の用だいガキ共。私は暇じゃないんだがねぇ」

 

 まさか開口一番にガキ呼ばわりされるとは思っていなかった。学園の経営を教頭に一任して研究ばかりしていたせいで常識を見失ってしまったのだろうか。

 まずは名を名乗るのが社会の礼儀と言われたので、クラス代表の雄二が前に歩み出て名乗った。

 

「失礼しました。俺は二年F組の代表坂本雄二。こっちの二人は──二年生を代表するバカとグータラです」

 

「ほう、そうかい。アンタたちがFクラスの坂本と吉井と天真かい」

 

「待ってください学園長! 僕らはまだ名乗っていませんよ!?」

 

 むしろ学年を代表するバカはFクラス代表の雄二だろう。僕はちょっとお茶目なだけの、どこにでもいる一般生徒だ。

 僕らの名乗りによって学園長は気が変わったのか、話だけは聞いてくれることになった。雄二はそれを受けて、僕らFクラスの環境が如何に最低で劣悪かを説く。

 

「要するに、老いぼれの肌のように荒れ果てた教室のせいで体調不良を訴える生徒が出てくるから、さっさとアンチエイジングしろクソババア、という訳です」

 

 なんて見事な説明なんだろう。修正すべき箇所が一つも見当たらない。

 そんな切れたナイフと化した雄二の慇懃無礼な言葉に、学園長は思案顔を見せた後、こう返した。

 

「却下さね」

 

「ガヴリール、このババアをなんとかして天に召すことはできないかな?」

 

「やだよこれを天に導くなんて。ちゃんと寿命を全うさせて、畜生道に落ちてもらわないと」

 

「お前ら、もう少し態度には気を遣え……」

 

 畜生道って、確か悪行をした人が生まれ変わる世界のことだったっけ。

 

「どうか理由をお聞かせ願えますか、ババア」

 

「そうですね、教えてくださいババア」

 

「そして一刻も早くその命の灯火を燃やし尽くしてくださいババア」

 

 僕や雄二もだが、ガヴリールも放課後に時間を取られているだけあって、かなりキレてるなあ。

 

「理由もなにも教育方針だからねぇ。しかし、可愛い生徒の頼みだ。こちらの頼みも聞くなら、相談に乗ってやろうじゃないか」

 

 この様子だと一蹴されるかと思っていたが、意外にも学園長は、交換条件付ではあるけど話を聞いてくれた。

 しかし、その条件こそが曲者だった。なんでも清涼祭で開催される試験召喚大会の優勝賞品を、学園長は回収したいらしい。召喚大会の優勝賞品は二つあって、一つは白金の腕輪、もう一つが近日オープンされる如月ハイランドのペアチケットだ。学園長が回収したいのは後者の方で、このペアチケットには良からぬ噂があるとか。

 つまり交換条件は、僕らが召喚大会に出場して優勝できたら、優勝賞品と交換で教室の改修を行う、ということだった。ついでに学園祭の利益で設備を変更することにも目を瞑ってくれるらしい。

 

「わかりました。この話、引き受けます」

 

「それじゃ、交渉成立さね」

 

 話がまとまって学園長は満足げに頷くと、対照的に苛立たしげな様子で雄二が尋ねた。

 

「ちょっと待てババア。召喚大会は二対二のタッグマッチだと聞いている。だが俺たちは三人。あと一人出場者を連れてきても構わないだろう?」

 

「あん? なに言ってんだい、その心配は無用だろう。アンタはAクラスの代表と既に組んでいるじゃないか」

 

「はあ!?」

 

 驚愕に目を剥く雄二に、学園長は一枚のエントリーシートを差し出す。

 その用紙には霧島さんの名前と共に、確かに彼の名前が記入されていた。ご丁寧に朱肉の印鑑まで添えられて。

 

「おふくろーっ!」

 

 手を伸ばしてエントリーシートを奪おうとした雄二だったが、学園長はそれを素早く机の中にしまってしまった。

 

「という訳だ。坂本、アンタは霧島と組んで出場するこったね」

 

「待ちやがれババア! 俺はそんなモン書いた覚えはねえ! 無効だ無効!」

 

「そうは言ってもねえ、もう登録しちまったんだ。取り消すことはできないよ」

 

「畜生! 翔子の奴、おふくろを利用しやがったな……! 騙されるおふくろもおふくろだ!」

 

 悔しそうに地団駄を踏む雄二。よく分かんないけど、雄二は霧島さんとペアで出場するってことかな? ってことは僕は……。

 

「ガヴリール、一緒に出てくれる?」

 

 返事は分かっているけれど、一応訊いてみる。

 

「えっ、嫌だよ。面倒臭い」

 

「ですよねー」

 

 知ってた。じゃあ秀吉かムッツリーニを誘うかな。確か二人はエントリーしてなかったはずだし。

 

「ふむ。チケットを交換したら賞が一つ減ってしまうからね。アンタらが優勝したら、代わりに食堂のタダ券を一か月分くれてやろうじゃないか」

 

「頑張ろうな明久! タダ券──じゃない、ババア長の為にも!」

 

 なんて変わり身の早さなのだろう。ここまでくるといっそ清々しい。しかし、学食のタダ券が貰えるのなら、僕だって本気を出すに決まってる。

 

「さて、ここまで協力するんだ。当然優勝できるんだろうね?」

 

 そう念を押してくる学園長の視線は、雄二ではなく僕とガヴリールに向けられていた。成績的には雄二と霧島さんの方が優勝する確率は圧倒的に高いというのに、なんでだろう?

 僕がそんな疑問を覚えていると、雄二は黙ったまま鋭い目つきで学園長を見遣る。

 対して、ガヴリールは得意げに笑っていた。ガヴリールは数学以外なら選択問題を利用して高得点が取れるし、やる気もあるみたいだから何とかなるだろう。

 

「そっちこそ、約束を忘れないでくださいよ」

 

 勿論僕だってやる気全開だ。目的地が見えたんだから、後はそこに向かって全力で突っ走るだけだ。

 ……あれ? そういえば、学園長がガヴリールを呼び出したのは結局なんでなんだろう。まさか僕らが一緒に来るのを予測していた訳ではないだろうし、別の理由があると思うんだけど。

 引っかかりを感じていると、部屋を出て行こうとする僕らに、学園長は思い出したように投げかけた。

 

「あ、そうそう。試験の形式なんだがね、少し変えさせてもらったよ」

 

「……はい?」

 

「なんでも、不思議なくらい運の良い生徒が一人いるらしくてねえ。選択問題だけで腕輪を所持されてしまうと不公平だろう? 試験召喚システムの関係上、これからは選択問題はサービスの数問のみにさせてもらうよ」

 

 その言葉を最後に、バタンと重そうな扉は閉じてしまった。

 えっ? それってつまり、これからのテストでは選択問題は殆ど出ないってこと? じゃあ、今まで選択問題だけを解いていたガヴリールは……。

 

「……あ、あのババアーッ!」

 

 ガヴリールの怒声が廊下に響き渡る。

 文月学園が誇るダメダメコンビは、こういう最悪な形でのスタートとなってしまった。

 

   ○

 

 学園長との交渉から一週間。いよいよ清涼祭当日の朝がやってきた。

 見慣れた校門を抜けると、見違えるほど華やかに装飾された学び舎が僕らを迎えてくれる。その周囲に設置された仮設テントや屋台では、出し物の準備の為に生徒たちがせわしなく働いている姿が見えた。そんな光景に、テンションは否応なく高まってしまう。

 

「楽しみだねっ」

 

「うむ。とりあえず屋台を全制覇しなくちゃな」

 

 一緒に登校してきたガヴリールもやる気満々みたいだ。彼女の視線はりんご飴やチョコバナナの屋台に釘付けである。漂ってくる甘い匂いに後ろ髪を引かれながら、僕らは二年Fクラスの教室へと向かう。

 中華喫茶ヨーロピアンという看板が立て掛けられた障子を開けると、まだ朝早い時間帯だというのに、クラスメイトは殆ど全員が揃っていた。皆もこの文化祭に賭ける思いは強いらしい。

 僕らは学園長と交渉をして、この清涼祭で出た利益を使って教室設備を買い替える許可を正式に得た。つまり中華喫茶が成功すれば、僕らは貧相なみかん箱とござからおさらばし、まともな机と椅子を手に入れることができるという訳だ。だからこそ、皆やる気を出して準備にあたっている。

 そんなFクラスを統率するのは代表の坂本雄二だ。普段はただの馬鹿だけど、彼の統率力は本物である。いつもは全くまとまりのないクラスメイト達が、雄二の指揮に従って作業を行い、僕らの教室は汚らしいボロ小屋のような有様から、ちょっと小洒落た中華風の喫茶店へと姿を変えていた。

 教室内に等間隔で配置されているテーブルは、実はみかん箱を巧く積み重ねてその上からクロスを掛けたものである。秀吉が演劇部の小道具を持ってきて、テキパキと作ってくれたのだ。中身はまあちょっとアレだが、それでも学園祭のレベルとしては十分な完成度だろう。

 

「丹念に掃除もしたし、きっと上手くいくよね」

 

 倉庫から持ってきたパイプ椅子をテーブルの周りに並べていると、厨房の方からムッツリーニが盆を持ってやってきた。

 

「…………味見用」

 

 教室内に溢れる香ばしい香りに、皆が作業を止めて彼の周囲に集まる。盆の上にはカラッと揚げられた胡麻団子が載っていた。

 

「ほう、胡麻団子か」

 

「…………自信作」

 

「おっ、確かに旨いな!」

 

「甘すぎないところが良いのう」

 

 クラスメイト達が口々に大絶賛。ムッツリーニが料理が得意というのは嬉しい誤算だった。彼曰く紳士の嗜みらしいが、まあこの際動機には目を瞑ろう。

 それにしてもこの胡麻団子、本当に美味しそうだな。今日の朝食は豪勢にパンの耳を食べたばかりだが、見てたらお腹が減ってきてしまった。

 

「ムッツリーニ、僕も貰っていい?」

 

「私も頂戴するわ。クク、この大悪魔サタニキアの舌を唸らせることができるかしら」

 

 ムッツリーニが差し出した盆から胡麻団子を一つ摘まみ、僕と胡桃沢さんはなんの躊躇もなくそれを口に放り込んだ。

 瞬間、口内に広がる死の香り。咀嚼するたびにゴリゴリと精神が抉られ、思わず天にも昇ってしまいそうなほどの味わい──んゴパっ。

 

「なにこれ美味しいじゃない!」

 

 僕とは正反対の感想を胡桃沢さんが述べる。これを作ったのは一体誰だっ!?

 

「あ、それはさっき姫路が作ったものじゃな」

 

 やっぱりか。流石は姫路さん、相変わらず恐るべき破壊力である。

 

「サタニキアちゃん、お口に合いましたか?」

 

「ええ、流石は姫路だわ。これからも精進しなさい!」

 

「えへへ、はいっ!」

 

 褒められて嬉しかったのか、にこにこと微笑む姫路さんに胡桃沢さんはぐっとサムズアップする。

 まるで青春小説のワンシーンのようだが、気づいて胡桃沢さん。君は今クラスメイトをテロリストに導こうとしている。それは決して精進してはいけない道だ。

 

「…………(ぐいぐい!)」

 

 そして気づいてムッツリーニ。君は今、クラスメイトを亡き者にしようとしていることに。

 

「む、ムッツリーニ! 残った胡麻団子を僕の口に押し込もうとしないでよ! それは一般人が口にしちゃいけない物だ! 胡桃沢さんに処理してもらってよ!」

 

「…………女子にそんなことさせられるかっ……!」

 

「僕ならいいの!? 一応友達だよね僕たち!?」

 

 文字通り命懸けで友達以上知り合い未満の固い絆を確かめ合っていると、教室の戸がガラッと開いて、

 

「なあ、本当にこれを着てやらなくちゃいけないのか?」

 

「喫茶店を成功させるには必要なんだって。ウチも喫茶店成功させたいし……お願い天真さん!」

 

「いや、まあいいけど。やけに露出多くない?」

 

「あはは……その文句は作った土屋に言って頂戴」

 

 更衣室の方から、チャイナドレスに着替えたガヴリールと美波が戻ってきた。

 

「ムッツリーニ。僕たちの友情は不滅だよ」

 

「…………俺たちの絆はダイヤモンドよりも硬い」

 

 ぐっと握手を交わす僕たち。まさかチャイナドレスの裁縫技術まで修得しているとは、どこまで底の知れない男なんだろう。

 Fクラスの数少ない女子であるガヴリール、姫路さん、美波、胡桃沢さん、秀吉の五人は、チャイナドレスを着てウェイトレスをやってもらうことになった。男ばかりでむさ苦しい教室が一気に華やかになる。これなら女の子目当てで訪れるお客さんも増えて、売り上げは一気に伸びることだろう。

 

「それにね、ほら。天真さんにも着てもらわないと──」

 

 美波はどこか気まずそうに、姫路さんと胡桃沢さんをちらりと見遣る。

 

「ウチだけが比較されちゃうでしょ!? しかもあの二人、すっごい張り切ってるから動き回るのよ!? 暴れるのよ!? 世の中不公平よっ!」

 

「お、おう。よく分かんないけど苦労してるんだな」

 

 今にも泣き出してしまいそうな様子で力説する美波に、引き気味の視線を送るガヴリール。

 持つ者と持たざる者の違いを気にしていたのか……。別にそんなこと気にしなくても、美波には美波の魅力があると思うけどなあ。

 まあ、それはそれとしてガヴリールをチャイナドレスに着替えさせてくれたのはグッジョブだ。なんとしても心のフィルムに焼き付けなければ……!

 

「あ、明久……その、これ、どうだ?」

 

 ガヴリールが着ているのは、刺繍も見事な水色と白のチャイナドレスである。ムッツリーニがどこまで計算して作ったのかは知らないが、その衣装は彼女の金色の髪と見事なコントラストを生み出していた。

 恥ずかしそうに頬を紅潮させるガヴリールに、僕は咄嗟に言葉を返すことができなかった。似合ってるなんてもんじゃない。まるで天使のようだ──と言葉にするのは簡単だが、それは彼女にとっては少し意味の異なる言葉だし。露出度自体は普段見慣れているジャージ姿とそう変わらないというのに、この胸のドキドキはなんなのだろう。

 僕が返事に詰まっていると、ガヴリールが怪訝そうな顔で僕を見る。

 と、とりあえず何か言わないと! これじゃまるで、僕がガヴリールに見惚れてしまったみたいじゃないか!

 

「可愛──愛してる」

 

 あ、つい本音が。

 

「そ、そっか……」

 

「う、うん……」

 

 なんだろうこの空気。すごく居た堪れない。

 

「えっと……あ、そだっ、その胡麻団子、私も食べていいか?」

 

「えっ!?」

 

 ガヴリールが盆の上に置かれた胡麻団子に手を伸ばす。空気を変えようとしてくれたのだろうが、それは天使をも一撃で屠ってしまうであろうバイオ兵器だ! 君に口にさせるくらいなら……!

 僕は胸の前で十字を切り、ガヴリールよりも先に胡麻団子を全部掴んで、己の胃袋に流し込んだ。

 

「初めて明久を格好良いと思ったぜ……」

 

「安心せい、AEDの準備はできておる」

 

「…………御武運を」

 

 僕はこの日、死んだお爺ちゃんと久しぶりに再会を果たした。

 

   ○

 

 保健室で目を覚ますと、時刻は清涼祭開始の十分前にまで迫っていた。

 一応僕はホール班のトップという立場なので(押し付けられた)、急いで制服に着替えて教室に向かう。すると、もう準備は万端といった様子で、クラスメイト達は自分の持ち場についていた。

 備品の最終確認と点呼を取り終えると、何故かレジに謎の投票箱を設置するガヴリールの姿が。

 

「何してんの?」

 

「んー。せっかく人間共がうじゃうじゃ湧くんだし、天使の仕事やっちまおうと思って」

 

「天使の仕事?」

 

「定期的に下界の情報をまとめて提出しないといけないんだ」

 

「へえー」

 

「明久も書いといてくれないか。こういうのは多いに越したことはないからな」

 

 ガヴリールからアンケート用紙を一枚受け取る。すっかり堕天してしまった彼女だが、こういうところはちゃっかりしてるのが何ともガヴリールらしい。

 

「で、何を調べてるの?」

 

 やっぱり世界平和の為には何が必要か、とかだろうか。あまり小難しいことは書けないので、簡単な質問だといいなあ。

 

「独身男性の好みのタイプ十選」

 

 これは予想外にもほどがある。

 

「確かに僕は独身男性だけど、未成年も含んでいいの?」

 

「いいんじゃない? その辺はテキトーで」

 

 ビックリするほど雑だ。

 ま、まあお客さんの割合は男性客の方が多くなるだろうし、丁度いいのかな?

 

「……」

 

 用紙に記入をしようとペンを取り出すと、ガヴリールはレジをカチャカチャと弄りながら、こっちをチラチラと瞥見していた。

 

「あ、あのさガヴリール。そんな風に見られてると、ちょっと書きづらいというか……」

 

「はっ、はあ!? 全然見てないんだけどっ!? い、いいから早く書いてよっ、もう文化祭始まっちゃうから!」

 

 驚くほどの剣幕で捲し立てられた。

 だが、開始時刻が迫っているというのは事実だし、僕は渋々アンケート用紙に向き直る。

 さて、好みのタイプか。独身男性の、とわざわざ限定している訳だし、この場合において尋ねられているのは、間違いなく異性のタイプのことだろう。

 可愛いとか美人とか、そういう回答も求められてはいないはずだ。もっと具体的な要素……うーむ、そうだな。

 僕が頭を捻っていると、ガヴリールが思い出したかのように言った。

 

「一応言っておくけど、カンガルーとかダチョウとかはダメだぞ」

 

「君は僕をなんだと思っているんだい?」

 

 聞くまでもないというか、聞きたくなかった忠告だ。まるで僕が二足歩行動物ならなんでも守備範囲みたいじゃないか。

 なんだか拍子抜けしてしまったので、僕は素直に、ふと思いついた三つの要素を紙に記入した。

 

「はい、ガヴリール」

 

「さんきゅ」

 

 アンケートをチラリと一瞥して、それをガヴリールは箱の中に押し込んだ。

 ちなみに僕の好みのタイプとは、金髪、巨乳、ポニーテールである。

 

「……」

 

「あいたっ」

 

 脛を蹴られた。ちゃんと正直に書いたのに……。

 

「うーっす。お前ら、喫茶店はいつでもいけるな?」

 

 すると、どこからか戻ってきた雄二がよく通る声で僕らに投げかけた。

 

「ホール班はバッチリじゃぞ」

 

「…………キッチンも完璧」

 

「よし。それじゃ、少しの間喫茶店は二人に任せる。俺たちは召喚大会の一回戦があるからな」

 

 雄二は霧島さんと、僕はガヴリールと組んでの出場である。参加することになるとは思ってなかったけれど、これも姫路さんの転校を阻止するためだ。頑張らないと。

 

「明久、トーナメント表だ。お前らの初戦の相手はDクラスの連中だぞ」

 

「Dクラスか。この前の試験召喚戦争で勝った相手だし、問題なさそうだね」

 

「……ああ、そうだな」

 

 何故か気まずそうに目を逸らす雄二からトーナメント表を受け取る。

 えっと、僕らの相手は……。

 

 一回戦 数学

『2-F 吉井 & 2-F 天真』

『2-D 清水 & 2-D 玉野』

 

 初戦から大波乱の予感しかしなかった。


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