以下の問いに答えなさい。
『PKOとは何か、説明しなさい』
月乃瀬=ヴィネット=エイプリルの答え
『Peace-Keeping Operations(平和維持活動)の略。
国連が地域紛争に軍隊を派遣し、紛争の拡大防止や停戦維持などを目的とする活動のこと』
教師のコメント
その通りです。また、PKOの一つにPKF(国連平和維持軍)というものもあります。こちらも覚えておくと良いでしょう。
天真=ガヴリール=ホワイトの答え
『Player Kill Online の略。
プレイヤーキル推奨のMMORPGのこと』
教師のコメント
ちょっと殺伐としすぎだと思います。
白羽=ラフィエル=エインズワースの答え
『パンがないなら・ケーキを食べれば・OKです の略』
教師のコメント
それではBCOです。あなたはどこぞの女王様ですか。
胡桃沢=サタニキア=マクドウェルの答え
『ペゲーロ・岸・岡島 の略』
教師のコメント
それはパ界の平和を守る人達です。
『──試験召喚大会一回戦の開始十分前になりました。参加者の皆さんは、特設ステージにお集まりください』
ピンポーン、という軽快な音と共に、そんなアナウンスが校内放送で流れてきた。
「ほらガヴリール! もう開始十分前だよ!? 早く行かないと不戦敗になっちゃうよ!」
「いーやーだーっ! 私は絶対出ないぞ! 木下か土屋でも誘えばいいじゃないか!」
「もう僕らの名前でエントリーしちゃったんだって! いい加減諦めなって!」
「嫌だっ! そもそも、あの二人が相手だなんて聞いてないぞ! なんで見えてる地雷に自分から突っ込まなきゃいけないんだ! 私は教室に帰らせてもらう!」
「そりゃ僕も嫌だけど、それでも僕はどうしても優勝したいんだよ!」
「じゃあお前一人で頑張って! 私は陰ながら応援してるから! 草葉の陰から見守ってるから!」
「一人じゃ無理だからこうして頼んでるんだろこの駄天使!」
「人にものを頼むならそれ相応の態度を見せろこの馬鹿!」
廊下の隅で、本気の口喧嘩をする高校生男女の姿がそこにはあった。
ていうか、僕とガヴリールだった。
事の顛末はこうだ。
僕らは学園長の依頼で清涼祭の目玉イベント、試験召喚大会にペアを組んで参加することになってしまった。そして、僕らが優勝して学園長の依頼──曰く付きの優勝賞品を回収すること──を達成できれば、学校側が無償でFクラスの教室を改修してくれるのだ。そうすれば、僕らはまともな学習環境を獲得でき、姫路さんの転校を阻止できるはず。
だからこそ、僕は人一倍気合を入れて、今日の大会に臨んでいた訳だが……。
「大会なんて何の意味があるんだっ! やりたい奴にだけやらせとけ!」
僕のペアがご覧の通りなのである。
彼女の名前は天真=ガヴリール=ホワイト。天使学校を首席で卒業し、天界から下界へとやってきたエリート天使なのだが、色々あってこんなグータラでダメダメの駄天使になってしまった。
小さな体躯をめいっぱい使って柱にしがみつく姿は小動物のようで可愛らしいのだが、中身はダメ人間……いや、ダメ天使そのものだ。全く、誰に影響されたんだか。
とはいえ僕も、彼女がここまで嫌がる気持ちが分からない訳じゃない。それは一回戦の対戦相手が、二年Dクラスの清水・玉野ペアだからだ。
Dクラスの玉野さんといえば、初めて試験召喚戦争に挑んだDクラス戦で(色んな意味で)苦戦を強いられた、あの玉野美紀さんである。事あるごとに僕に女装を強要し、さらにはガヴリールにも手を出そうという、僕らにとってはもはやトラウマ的存在の危険度が限界突破した女の子だ。前回の対決では、僕とガヴリールの二人で応戦し、なおかつムッツリーニの奇襲があったからこそ辛勝することができた。しかし、今回はムッツリーニの加勢を得ることができない。その上、相手は玉野さん一人じゃないのだ。
もう一人の対戦相手は清水美春さん。彼女も玉野さんと同じDクラスで、いかにも気の強そうなツリ目と、縦ロールをツインテールにした髪型が特徴な女子生徒である。口調はお嬢様然としていて、黙っていれば可愛らしい女の子なのだが、困ったことに彼女は、僕らのクラスメイト島田美波(♀)を崇拝と言ってもいいほど猛烈に慕っているのだ。ライクではなくラブのほうで。なお美波の方はその想いに応える気はないらしく、いつも突っ撥ねているけれど……。
その一方で、彼女は男をとてつもなく毛嫌いしている。特に、美波とそれなりに仲の良い僕のような奴の存在は到底許しがたいものらしく、明らかな敵意を向けられてしまっているのだ。
なのでこの対戦カードは、僕にとっての天敵二人と相対しなければならない。だから僕だって、姫路さんの転校が掛かっていなければ、とっくに尻尾を巻いて逃げ出している。
だけど、姫路さんの転校を阻止するためなら、僕は絶対に逃げない。たとえきっかけは不運なものだったとしても、せっかくクラスメイトになれたんだ。彼女が転校を望まないのならば、できる限りそれに応えてあげたい。そして僕らには、この状況を打開できる手があるんだ。だったら、頑張るしかないだろう。その為にも、なんとかガヴリールを説得して──
「愚かねガヴリール。大会が何のためにあるか……ですって? それは勝者と敗者を選別するためよ! そして、その頂点に立つのはこの私。見てなさい人間ども、天使ども! 今日はずっとサタニキアタイムなんだから!」
ガヴリールを説得しようとしてたら、なんか凄いやる気の人が乱入してきた。僕らのクラスメイトで(自称)大悪魔の胡桃沢=サタニキア=マクドウェルさんだ。
「あれ? 胡桃沢さんも召喚大会に出るの?」
「フッ、当然でしょ? この私が勝負から逃げるわけないじゃない。ねえねえガヴリール、あんたは出ないの?」
「うるさいなバカ、一人でバカ騒ぎしてろ」
「私と戦うのが怖いの? ま、やる前から結果は見えてるものねー、ププッ」
「あ? どういうことだよ」
「それは私が説明しますっ」
と、胡桃沢さんの背中からひょこっと顔を出したのは、Aクラス所属でガヴリールの幼馴染である白羽=ラフィエル=エインズワースさん。彼女は僕とガヴリールに見えるように一枚のプリント──試験召喚大会のトーナメント表を広げた。
「私とサターニャさんペアと、ガヴちゃんと吉井さんペアは、同じDブロックに振り分けられています。そして、もし双方が勝ち抜いた場合、私たちは二回戦にぶつかることになるのです。なので、もしガヴちゃんが棄権した場合、まるでサターニャさんと戦うのを恐れて逃げ出したようにも見えますよね?」
「……いや、別にあいつは全然関係ないんだけど。むしろお前らこそ勝ち抜けるの?」
「私は優勝とか興味ないんで。ただ、サターニャさんが面白──格好いいバトルを見せてくれることに期待してるだけですっ♪」
「なーっはっはっはっは! 望むところよ! ただし、足だけ引っ張らないでよね!」
「はい! 全力でサターニャさん(の面白さ)をアシストする所存ですっ」
「……お前いい性格してるよなホント」
「あははは……」
僕は苦笑するしかない。まあでも、胡桃沢さんは召喚獣の扱いに長けた観察処分者だし、白羽さんもAクラスに所属する成績優秀者だ。優勝候補の一角であることは間違いないだろう。
胡桃沢さんが高笑いを上げながら立ち去った後、白羽さんは笑みを崩さぬままガヴリールに耳打ちした。
「ところでガヴちゃん、本当に棄権してしまってもよろしいのですか?」
「いいよ別に。だってアイツら相手するの嫌だし──」
「サターニャさん、さっきの理由で一週間は調子に乗ると思うんですけど」
「……」
「Dクラスのお二人を数分相手するのと、調子に乗ったサターニャさんを何日も相手するの、どちらが大変だと思います? 吉井さん♪」
「えっ僕? えーっと……」
正直、Dクラスの二人のほうが大変な気がする。胡桃沢さんとは観察処分者の雑用で一緒にいることも多かったし、別に彼女のことは全然苦手じゃない。むしろ好ましいくらいだ。あそこまで何事にも全力な姿は見ていて心地いいし。
だが、ガヴリールにとってはそうじゃなかったようで、
「……分かった、出るよ」
「えっ、ほんと!?」
じっくり唸った末に、そんな嬉しい決断をしてくれた。さすが幼馴染の白羽さん、ガヴリールを煽る術を心得ている。
「ああ出てやるよ! ただし、出るからにはどんな手を使ってでも優勝するぞ!」
「うん! もちろんだよ! 一緒に頑張ろう!」
「うふふっ、ガヴちゃんと対戦するの、楽しみです♪」
ガヴリールが参加の決意を固めたところで、僕らは立ち上がり、会場の特設ステージへと向かった。
○
「それでは、試験召喚大会一回戦を始めます」
校庭の中央に作られたステージに、僕とガヴリールは並んで立っていた。
今回、審判及び召喚フィールドを展開する立会人を務めるのは、数学の木内先生。今大会は、三回戦まで一般公開はないらしく、周りには順番待ちの参加者たちがぽつぽつと点在するのみだ。
「一回戦の教科は数学だよ! 頑張ろうねガヴリール!」
「ああ。頑張れよ明久」
そんなやり取りを交わしていると、僕らと相対するように、ステージの反対側に二つの影が現れた。
「あっ、久しぶりだねアキちゃんガヴちゃん! 私はこの日をずっと待っていたよ、待ちわびていたよ! やっぱりこれって、きっと運命なんだよね……私たちは赤い糸で結ばれているんだね!」
「うわっ、出た!」
まるで野生動物でも出没したかのようなリアクションを取るガヴリールである。
おでこと三つ編みが特徴的な女子生徒が、瞳に怪しい色を宿してそこにいた。彼女こそが、Dクラス所属であり僕の天敵でもある玉野美紀さんだ。その手には、何故か僕とガヴリールが着るのに丁度良さそうなエプロンドレスが二着握られていた。服のサイズを把握されているだと……!?
ちなみに、ガヴリールの今の格好は先ほどまで来ていたチャイナドレスではなく、学校指定のジャージ姿である。やっぱり恥ずかしいからと着替え直してしまったのだ。とてもよく似合っていたので残念だけれど、相手が玉野さんならある意味着替えておいてよかったのかもしれない。
「明久、やっぱり逃げよう! こんな奴ら相手したくない!」
既に半分泣きそうなガヴリールが、僕の制服の袖をグイグイと引っ張りながら訴えてくる。さっきまでやけにイライラしていたのは虚勢を張っていたからだったのか……。
そんな目で言われてしまうと、思わず彼女を抱えてどこまでも遠くへと逃避行を繰り広げるべきなのではという衝動が抑えられなくなってしまう。どうにか一歩後ずさるだけで留まって──不意に、背後からとてつもない殺気が襲い掛かってくるのを感じた。
「死になさいブタ野郎!」
「ふぬおおおおおっ!?」
振り向きざまに、肉薄してきた直線定規の先端を白刃取りの要領でなんとか受け止める僕。あ、危なかった……! もし気づくのが一秒でも遅れていたら、この定規は僕の頸椎を貫いていたことだろう。紛れもない人体の急所の一つである。なんてデンジャラス!
「おのれ吉井明久……ッ! いつもいつも美春の邪魔立てを! 大人しく汚い華を咲かせなさい!」
「そりゃ僕は命を狙われているからね!? 邪魔立てじゃなくて正当防衛と言ってほしいな!」
「そんな言葉は美春の辞書にはありません!」
「なんて自分勝手な辞書なんだ!?」
「問答無用です! 殺して解して並べて揃えて晒してやります!」
「それはもはや殺人鬼の思考回路だっ!」
そして目が本気だ……! 一瞬でも気を抜いたら間違いなく殺られる! 召喚獣同士で雌雄を決するはずの召喚大会で、なぜ僕らは生身で戦っているのだろう?
「あー……お二人とも、召喚を行わないのでしたら、両者失格と見做しますよ」
木内先生のそんな言葉に清水さんはギリィと歯噛みして、不承不承といった感じで定規を懐に収める。僕は完全に被害者なのだが、とりあえず助かった。
「ちっ、命拾いしましたねブタ野郎」
「その言葉をそのままの意味で受け取る日が来るとは思わなかったよ……」
ふう、と一つ溜息を吐く。まだ一回戦だというのになんなんだこの重圧。はじまりの村を出ていきなり魔王とエンカウントしてしまった勇者の気分だ。
彼女こそDクラス女子の問題児筆頭、清水美春さんである。玉野さんもそうだが、個人個人でも厄介なのに二人合わさるとその対応の難しさは倍以上だ。これは僕の天敵ランキングを久々に更新する必要がありそうだな……!
「では、召喚してください」
そんな僕の内情を知ってか知らずか、召喚フィールドを展開する木内先生。彼は数学教師なので、当然展開されるフィールドも数学だ。
「「
対戦相手である二人がお馴染みの掛け声を上げると、足元に魔法陣が現れて、そこから召喚者をデフォルメしたような姿の試験召喚獣が現れる。
数学
『Dクラス 清水美春 108点 & 玉野美紀 99点』
現れた二体の召喚獣。清水さんの方はローマ風の軍服と鎧にグラディウスを携えており、対して玉野さんの方はローブに杖と、まるで魔法使いといった出で立ちだ。点数自体はそこまで高いわけではないけれども、前の試験召喚戦争を経験して、Dクラスの彼女たちは召喚獣の操作にそれなりに慣れているはずだ。色んな意味で油断はできない。
「さて、僕らも行くよガヴリール!」
「うむ」
「「
対抗するように声を張り上げ、僕らも召喚獣を呼び出す。呼応して現れた魔法陣から顕現する僕らの分身。相変わらず僕の召喚獣は改造学ランに木刀、ガヴリールはセーラー服に弓という装備だ。
ガヴリールの召喚獣はこの中で唯一、遠距離攻撃が可能な弓を武器としている。なのでリーチでなら、僕らが圧倒的に有利なはず──
数学
『Fクラス 吉井明久 63点 & ガヴリール 22点』
「……ガヴリール」
「なんだ、明久」
「二十二点って! 君全く勉強しなかっただろ!」
「違うぞ、これでもヴィーネに付きっきりで教えてもらったんだ」
「謝れ! 勉強を教えてくれた月乃瀬さんに謝れ!」
そういえばガヴリールの苦手科目は数学だった。
とはいえ、前の点数が一桁だったことを考えると大きな進歩なのだろうか。だがこの点数じゃ、折角のリーチも火力不足で活かすことができない気がする。
「よし明久、それじゃ例の作戦でいくぞ」
「例の作戦?」
試合開始と同時に襲い掛かってきた清水さんの召喚獣の攻撃をいなしていると、ガヴリールがおもむろにそんなことを言った。僕は勿論作戦なんて考えていないし、ガヴリールからそれっぽい話を聞いてもいない。思い当たる節がなくなんだろうと首を傾げていると、彼女はこう続けた。
「まず片方の変態を明久が引きつけて──」
「ふむふむ」
片方の変態というのがどちらを指しているのかが分からないけど、とりあえず囮作戦ってことかな? その隙にガヴリールが弓矢で急所を穿つとか?
「──その隙にもう片方の変態をもう一人の明久が討つ」
「もう一人の僕って何?」
全然違った。僕は影分身の術を習得してるわけでも、古のファラオの魂をその身に宿しているわけでもないんだよ? というかガヴリールは何もしてない気がする。
「チッ、ヒューマンどもが手間かけさせやがって……いっそ世界そのものを終わらせて全てを無に帰すか」
世界の終わりを告げるラッパを構えるガヴリール。そんなゲームのリセットボタンを押すような感覚で滅ぼされる世界って……。
「落ち着いてガヴリール! 今はこの戦いに集中しよう! 後でなんか奢るから!」
「よし分かった。私は矢で牽制するから、明久は二人の点数をなんとか削ってくれ」
買収完了。相変わらず現物に弱い天使である。
ガヴリールは召喚獣を一歩下げさせ、矢を次々に射る。一発一発には命中しても大した威力はないが、それでも鎧の隙間やむき出しの首や顔の部分を狙って、確実にダメージを蓄積させていく。相変わらず天使らしくない堅実ながらも陰湿な戦い方である。だが、味方ならばとても頼もしい。
僕は矢の軌道を逃れるように体勢を低くしながら、清水さんの召喚獣に肉薄し木刀の一突きを放つ。
「その点数で真正面から向かってくるなんて、美春も舐められたものですね!」
「いや、舐めていないからこそだよ!」
回避よりも迎撃を優先したらしい清水さんは、僕の木刀と交差させるようにして短剣を振るう。致命傷だけは避けるために、その軌道を木刀で弾き、そのまますれ違いざまに木刀を薙ぐ。この攻撃で清水さんの点数を減らすことには成功したが、逆にこちらの点数もそれなりに持っていかれた。操作技術はこちらに一日の長があるぶん、下手に回避行動を取られるよりもこっちのほうがよっぽど厄介だ。点数の暴力ほど恐ろしいものはない。
「美春ちゃん、私がガヴちゃんを担当するから、美春ちゃんにはアキちゃ──吉井くんをお願いしてもいいかな?」
「ええっ!? 珍しく正しい呼び方に訂正してくれたね玉野さん! それだけ真剣ってこと!?」
「勿論だよアキちゃん! だって優勝したらペアチケットがもらえるんだよ!? あ、でさ! ペアってことは、やっぱりタチとウケがあるものだよね! やっぱり私、アキちゃんは総受けだと──」
「聞きたくない! そんな生々しい話聞きたくなかったよ!」
ペアチケットはそんな汚らわしい欲望のために刷られたものではないと思う。
「言われるまでもありません! この決定的に最低で最悪で愚かで劣悪なブタ野郎を始末することこそが、美春がこの世に生を受けたことの意味なのですから!」
ある意味ここまで強く想われていると、逆に幸せな気すらしてくる。
「そして優勝したら、お姉様は美春のことを褒めてくれます、受け入れてくれます、愛してくれます! 愛し合う二人はずっと一緒、円満な家庭を気づくのです! ああ、待っていてくださいお姉様! 必ずやこの汚物を始末した後、貴女を迎えに行きます!」
ある意味彼女は、愛の形の究極系なのかもしれない。
喜々として汚れきった欲望を語る玉野さん清水さんとは対照的に、それをうんざりとした様子で聞いていたガヴリールの目はどんどん濁っていく。
「明久さん、こんな世界滅んでしまったほうがいいとは思いませんか……?」
「……うん。僕も一瞬だけど、同じことを考えちゃった……」
そして前のDクラス戦みたいに、またガヴリールのキャラが崩壊しかけてる。
いっそ誰もいない静かな場所に、二人っきりで逃げてしまいたい。僕にもそんな欲望が沸々と湧き上がってしまう。いやほんと、この二人を相手にするくらいなら、胡桃沢さんの
「美春とお姉様の恋路を邪魔するものは許しません……コロス……コロシマス……!」
「アキちゃん、ガヴちゃん、お着換え……しよ? 大丈夫、怖いのは一瞬だけ、すぐに忘れさせてあげるっ」
「くっ、君たちの好きにはさせるものか。僕とガヴリールの未来は僕ら自身のものだ! 誰にも決めさせないぞ!」
何故だろう。まだ一回戦のはずなのに、気分的には頂上決戦だ。
「キシャアアアアアアアア!!」
もはや猛獣と遜色ない清水さんが本能の赴くままに襲い掛かってくる。その威圧感に思わず気圧されてしまう。僕なんかが敵う相手ではないと、冷静な自分が警鐘を鳴らしている。
だけど──僕は一人じゃない。クラスの皆の想いを背負ってここに立っている! だから、負けるわけにはいかないんだ!
「だらっしゃぁー!」
突進してきた清水さんの攻撃をスライディングで躱し、なおかつ足を引っかけて躓かせる。だが清水さんが転倒することはなく、身体を反転させてうまく受け身を取られてしまう。だが、それで構わない。一瞬でも隙を見せた今なら。
僕は木刀を真っすぐに構えた。そして、四つん這いの体勢から清水さんの召喚獣は一直線に突っ込んできた。──僕が構えた木刀の軌道上に、まんまと。
「ア……アア……」
清水さんの短剣が僕を貫く数センチ前で停止し、そのまま幾つもの小さなポリゴン片となって、彼女の召喚獣は消滅した。
「や、やった──」
と、喜んだのもつかの間、今度は玉野さんの召喚獣がすぐそこに迫っていた。
「なっ、玉野さん……!」
「美春ちゃんを倒して満足しちゃったのかな? これはタッグマッチだよ。最終的に、生き残っていたほうが勝ちなの」
彼女の召喚獣は、杖をまるで棍棒のように振るって、僕の召喚獣を亡き者にしようとする。これは、避けられない……!
「バイバイ、アキちゃん」
耐え難い痛みが襲うのを覚悟する──が、それよりも先に別の衝撃がやってきた。
キィン、と。
飛来した何かが、僕の召喚獣の木刀に衝突し、弾かれた。
「ああ、そうだよな──最終的に、私が生き残っていればそれでいい」
ガヴリールだ。
彼女の召喚獣が放った矢が、僕の木刀を弾いて向きを変えたんだ。そして、その木刀の先端は──迫っていた玉野さんの召喚獣の首元を、刺し貫いていた。
「あは……っ。やっぱり、私の入る余地なんて……ないんだねっ」
玉野さんの召喚獣は点数を全て失い、清水さんの後を追うように幾何学的な結晶となって消滅した。
「勝者、吉井・天真ペア!」
木内先生が勝者である僕らの名前を宣言する。一回戦突破だ。
「明久!」
「ガヴリール!」
「「いえーい! ハイタッチハイタッチ!」」
満面の笑みで、仲良くハイタッチを交わし合う僕たち。
多分、僕もDクラス二人の狂気に中てられて、ちょっとおかしくなっていたんだと思う。