バカと天使とドロップアウト   作:フルゥチヱ

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バカテスト
以下の問いに答えなさい。
『バルト三国と呼ばれる国名を全て挙げなさい』

月乃瀬=ヴィネット=エイプリルの答え
『リトアニア共和国、エストニア共和国、ラトビア共和国』
教師のコメント
 流石は月乃瀬さんです。

天真=ガヴリール=ホワイトの答え
『ヴァルハラ王国、アルカディア王国、エル・ドラード王国(※ちなみに私はこのうち二つの国を救っています)』
教師のコメント
 そうですか。

胡桃沢=サタニキア=マクドウェルの答え
『バ帝国、ル帝国、ト帝国』
教師のコメント
 君にはガッカリです。

白羽=ラフィエル=エインズワースの答え
『Lietuvos、Eesti、Latvijas』
教師のコメント
 白羽さんのこういうところ、先生は嫌いじゃありません。


第二十話 空前絶後バカバッカバトル

「くたばれぇぇぇッッ!!」

 

「ぐはぁぁ!?」

 

 僕とムッツリーニの肘打ちを受けて地面を無様に転がるのは、我らがFクラス代表坂本雄二である。舞い上がった砂埃を吸い込んだのか、咳き込みながらゴミ野郎は起き上がった。

 

「な、なんだ!? 何故いきなり俺は襲撃を受けなければならんのだ!?」

 

「とぼけるな! 雄二のくだらない茶番のせいで、こっちは営業が危うくなってるんだ!」

 

「…………代表としてあるまじき愚行」

 

「何? まさか俺のいない間に営業妨害でもされたのか? 相手はどんな奴らだ?」

 

 勘の鋭い雄二の言葉を受けて、僕はクレーマー二人の姿を頭に思い浮かべる。一度見たら忘れられないような、モヒカンの変態と坊主頭の変態の先輩コンビだ。

 

「変態の二人組だよ!」

 

「すまん、該当者が多すぎて絞りきれん」

 

 本気で悩んでいる様子の雄二である。……おい、何故こっちを見るんだ。

 

「そういうことなら、早急に対策を講じる必要があるな。翔子、俺はFクラスに戻る」

 

「……分かった」

 

 小さく頷くのは、召喚大会で雄二とペアを組んでいるAクラス代表の霧島翔子さんである。大和撫子然としたその立ち姿は、下劣な品性しか持たない雄二とは明らかに釣り合っていない。

 

「ごめんね霧島さん。雄二がこんなのでごめんね」

 

「どういう意味だ明久コラ」

 

「……大丈夫。私はそんな雄二が好きだから」

 

「…………!」

 

「落ち着けムッツリーニ。落ち着いてそのスタンガンをしまうんだ。こんなところで暴行事件を起こしたら清涼祭どころじゃなくなる」

 

「……それに、雄二はさっき約束してくれた。命に代えても勝利を約束するって」

 

「ちなみに翔子。もしその約束を俺が果たせなかったらどうなるんだ?」

 

「……調教、拷問、処刑」

 

「「「…………」」」

 

 不穏な単語のみを残して、霧島さんは去っていった。

 

「なあ明久、ムッツリーニ。俺たち親友だよな?」

 

「……骨くらいは拾ってあげるよ。残っていればだけど」

 

「…………墓石は和風と西洋風、どっちがいい?」

 

「頼むから俺の死を前提に話を進めるのはやめろ」

 

 ブツブツと独り言を呟きながら恐怖に震える雄二を連れて、僕らは教室へと戻った。

 

   ○

 

 その後雄二の提案により、学校の備品であるテーブルをパクる……お借りすることで、無事に営業を再開することができた僕たちFクラス。懸念事項を一つ解消し、僕とガヴリールは再び召喚大会の特設ステージへと向かった。

 

「クククッ、逃げることなくやってきたようね。その勇気だけは褒めてあげるわ!」

 

 ステージ上で決めポーズを取り、そんな大仰な台詞を言い放つのは、クラスメイトの胡桃沢さんである。宣言通り、彼女も二回戦に勝ち上がっていたようだ。

 

「さあガヴリール! 今日こそ私とアンタの因縁に決着をつけようじゃない!」

 

「うざっ。お前ずっとそのテンションで疲れないの?」

 

 高らかに宣戦布告する胡桃沢さんとは対照的に、とことんうんざりした表情を隠そうともしないガヴリール。

 

「明久、とっとと片付けるぞ。そして私は休ませてもらう」

 

「う、うん。でも、そう簡単には勝てないと思うよ」

 

 僕らの相手は胡桃沢さんだけではない。もう一人、彼女とペアを組んでいる人も倒さなければならないのだ。

 

「そうですよガヴちゃん。私もそう易易と勝ちを譲るつもりはありません」

 

「ラフィ……」

 

 透き通るような声と共に胡桃沢さんの背後から現れたのは、皆さんご存知ドS天使、Aクラス所属の白羽さんだ。彼女の学力が相当なものだということは前回の試召戦争で分かっている。間違いなく、最も警戒するべき相手だ。

 

「吉井さんも、よろしくお願いしますね?」

 

「よ、よろしくね、白羽さん。あ、あのさ、僕はフィードバックのある観察処分者だし、もしよかったら──」

 

「分かってますよ、吉井さん」

 

「白羽さん……! ありがとう、手加減してくれるんだね……!」

 

「いい声で啼いてくださいね?」

 

 やばい、このままだとまた虐殺される。

 

「よしガヴリール! 胡桃沢さんは僕に任せて! 観察処分者同士、熱いバトルを繰り広げてみせるよ!」

 

「待て明久! それは私への負担があまりにも大きすぎる!」

 

「その覚悟や良し! 吉井、相手になってやるわ! いくわよラフィエル!」

 

「はい! サターニャさん!」

 

「──開け地獄の門。根源より導かれし亡者たちの魂を束ね、昏き深淵の底より今こそ解き放たれよ! 試獣召喚(サモン)!」

 

試獣召喚(サモン)ですっ♪」

 

 展開された魔法陣の中から現れる二人の召喚獣。

 

 古典

『Aクラス ラフィエル 177点 & Fクラス サターニャ 13点』

 

 胡桃沢さんの点数は流石の一言だ。期待を裏切らない。

 しかし、白羽さんの点数は少し予想外だ。勿論高得点であることに違いはないけど、前回日本史で教師レベルの点数を叩き出していた彼女にしては低めに感じる。

 

「あー……今回の教科は古典でしたか。ごめんなさいサターニャさん、苦手科目なんです。なんだかヒエログリフの解読をしているみたいで」

 

「案ずることはないわラフィエル。この私に任せておきなさい」

 

 胡桃沢さんの頼もしい言葉に苦笑いを浮かべる白羽さん。台詞は確かに格好良いが、点数が低すぎてどう返せばいいのか困っているみたいだ。しかし、これは間違いなく僕らにとってはチャンスである。

 

「13点のサターニャなんて、いないも同然! 明久、二人がかりでラフィを倒すぞ!」

 

「そうだねガヴリール! 僕たちのコンビネーションを見せてあげよう!」

 

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

 いつもの掛け声で、僕たちも召喚獣を呼び出す。

 

 古典

『Fクラス ガヴリール 88点 & Fクラス 吉井明久 9点』

 

「……明久」

 

「……正直、悪かったと思ってる」

 

 この中で日本生まれ日本育ちは僕だけのはずなのに、どうして僕の点数が一番悪いのだろう。

 

「あらあら、吉井さんは本当にお勉強が苦手なんですね。よかったら、私が教えて差し上げましょうか?」

 

「え、本当?」

 

 なんて魅力的な提案なんだろう。女の子と二人で勉強だなんて、男なら一度は憧れるシチュエーションだ。

 

「はい。問題を間違える度に石抱を一枚ずつ増やしていくというのはどうでしょう? 一生懸命お勉強に励めること間違いなしです♪」

 

 人はそれを拷問と呼ぶ。

 一生懸命やるということに、本当に一生を賭けなければならない。

 

「ラフィ、明久に軽い気持ちで勉強を教えるのは止めておけ」

 

「どういうことです? ガヴちゃん」

 

「明久はお前の想像する以上に──空前絶後の馬鹿だ」

 

「なるほど……!」

 

「待って! 今の台詞の一体どこに納得したの白羽さん!?」

 

 そしてガヴリール、君に馬鹿とは言われたくない。

 

「流石は吉井ね……! この私が唯一認めた弟子なだけはあるわ!」

 

「なるほど、サターニャさんのお弟子さんでしたか。これは私では導けそうもありませんね」

 

「違うよ? 胡桃沢さんが勝手に弟子としてカウントしてるだけだよ?」

 

 そんな話を続けていると、立会人の先生から注意が入った。

 

「君たち、後が支えているので、試合を始めてください」

 

 なんだか僕たちの試合って、いつもこんな感じな気がする。一度くらいは穏便に事が運んでほしいものだ。

 

「よし、勝負よガヴリール!」

 

「まあ待てサターニャ。その前に一つ確認だ。あれを見てみろ」

 

 僕も釣られてガヴリールが指差した方へと目を向ける。そこには、僕らの名前と点数、そして所属クラスが表示されたディスプレイがあった。

 

「サターニャ、お前の所属は何クラスだ?」

 

「そんなの決まってるじゃない、Fクラスよ!」

 

「だよな。ならサターニャ、どうしてお前はそっち側に立っている?」

 

「……!!」

 

 衝撃を受けたかのような顔をする胡桃沢さん。対して白羽さんは冷や汗を浮かべている。

 

「あ、あの、サターニャさん?」

 

「そこにいるラフィは、私達にとってはライバルのAクラス。お前が本当に付くべき立場はどっちだ?」

 

「勝負よラフィエル! Fクラスの支配者として、アンタを倒してみせる!」

 

「サターニャさん!?」

 

「やったぞ明久。使い捨て装甲板を一つ確保だ」

 

 見事交渉に成功しウィンクするガヴリール。彼女の中での胡桃沢さんに対する評価が気になるところだが、これで少し状況が傾いた。

 

「いくらラフィエルとはいえ、三対一なら私達が圧倒的に有利! いくわよガヴリール! 吉井!」

 

「わかった! 白羽さん、覚悟って危なああああああ!? すんませんしたっ! 自分覚悟足りてませんでした!」

 

 白羽さんの召喚獣が放った一撃をギリギリで避ける。相変わらずなんて容赦のない攻撃なんだろう。僕が観察処分者だって知ってるくせに! 

 二度目の攻撃がくることを警戒して木刀を構え直したが、再び白羽さんが弓を射ることはなかった。いつの間にか彼女の背後に、ガヴリールの召喚獣の姿があったからだ。

 

「──あらガヴちゃん、いつの間に?」

 

「サターニャと交渉している時にこっそりとな。試合開始は宣言されてたし、文句ないだろ?」

 

「なるほど。流石はガヴちゃん、抜け目ないですね。完敗です」

 

「じゃ、降参ってことでいいか?」

 

「はい、私はそれで構いませんよ」

 

 弓を手放して、自ら敗北を認める白羽さんである。ガヴリール凄い! あの白羽さんをこんな簡単に倒してしまうなんて……!

 白羽さんが降参を宣言したことで、パッと笑顔になってこちらへ駆けてくるのはクラスメイトの胡桃沢さんである。この勝利も彼女の存在あってこそだ。勝利の喜びを共に分かち合おうじゃないか!

 

「やったわね二人とも! 私達Fクラスの結束が、あのラフィエルに打ち勝ったのよ!」

 

「胡桃沢さんのおかげだよ! ありがとう!」

 

「うへへっ、やめなさいよ、照れるじゃない!」

 

 恥ずかしそうに頬を掻く胡桃沢さん。

 

「ガヴリール、アンタもやれば出来るじゃない。私達が手を組めば、この世に敵なんて──」

 

「なに勘違いしてんだ?」

 

「……ひょ?」

 

「まだこの戦いに決着はついてないぞ」

 

 そう言って、ガヴリールは躊躇なく。

 弓矢を胡桃沢さんの召喚獣の顔面に叩き込んだ。

 

「ぐはぁぁっ!? 目が、目がぁぁ!?」

 

 顔を手で押さえながら地面をのたうち回る胡桃沢さん。観察処分者特有の、召喚獣のフィードバックによるものだ。胡桃沢さんの召喚獣は点数をすべて失い消滅してしまった。

 

「なんてことすんのよガヴリール! 私達、同じFクラスの仲間じゃなかったの!?」

 

「何を言うサターニャ。さっき私が言ったことを思い出せ」

 

 お前の所属は何クラスだ?

 どうしてお前はそっち側に立っている?

 お前が本当に付くべき立場はどっちだ?

 

「──仲間とは一言も言ってないよなぁ?」

 

 いっそ清々しいほどのゲスっぷりだった。

 

「……勝者、吉井・天真ペア」

 

 どこか不満げな先生の判定を受けて、僕らは無事三回戦進出を決めた。


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