問 以下の意味を持つことわざを答えなさい
(1)得意なことでも失敗してしまうこと
(2)悪いことがあった上にさらに悪いことが起きる喩え
吉井明久の答え
『(1)雄二も木から落ちて全身複雑骨折』
坂本雄二の答え
『(2)明久の泣きっ面蹴って顔面陥没骨折』
教師のコメント
君たちは仲が良いのか悪いのか、一体どっちなんですか?
島田美波の答え
『(2)股蹴ったり』
教師のコメント
トドメを刺さないでください。
土屋康太の答え
『(1)弘法にも筆下ろしの誤り』
教師のコメント
土屋君、後で職員室に来なさい。
木下秀吉の答え
『(2)釈迦にも教科書の読み違い』
教師のコメント
教科書を読み違えているのはあなたです。
姫路瑞希の答え
『(1)天狗の飛び損ない
(2)虎口を逃れて竜穴に入る』
教師のコメント
先生はもう姫路さんしか信じません。
「吉井、やるじゃねぇか!」
「おめぇはやるときゃやる奴だと思ってたぜ!」
準決勝を終えて教室に戻ると、須川くんや横溝くんたちクラスメイトから手荒い歓迎を受ける。僕らが召喚大会で留守の間、中華喫茶を守ってくれた頼もしい仲間たちだ。
「一人だけあんな大舞台で良いカッコしやがって、絶対許さねぇ……!」
「全部天真さんのおかげじゃねぇかこの役立たずが……!」
「何やり遂げたみてぇな顔してんだ……! こっちだって殺る時は殺るぞこの野郎……!」
本当に手荒かった。僕を取り囲んで殴る蹴るの暴行を加えてきている。どうやら彼らに仲間への労いという概念は皆無らしい。
「お前ら、そのへんにしておけ」
僕へのリンチを止めるよう皆に忠告してくれたのは、これまた準決勝を終えて戻ってきた雄二だ。やっぱり腐っても友達だね。優しいところもあるじゃないか。
「明久がここで死ぬと、俺の殺る余地がなくなる」
こいつは友達じゃない。僕の敵だ。
「む、雄二は明久たちに比べて、随分と戻ってくるのが早いではないか」
「…………もしかして瞬殺?」
「まあな。翔子の奴が一人で片付けちまった」
秀吉とムッツリーニの疑問に雄二が答える。まあ、雄二のペアである霧島さんは僕ら二年生の代表だもんね。召喚大会の参加者の中では間違いなく最強だろう。
「じゃあ雄二は何してたの?」
「俺は悠然と構えていることで、対戦相手に威圧感を放っていた」
「なるほど、産業廃棄物だね」
こんな奴と組まされて、霧島さんも可哀想に。
「しかし雄二よ。お主、一回戦では霧島の足を引っ張ってワザと敗退しようとしていたではないか。それはもうよいのか?」
そんな秀吉の言葉に、雄二は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……翔子の奴に訊かれたんだ」
「何を?」
「………………新婚旅行はどこへ行きたいか、と」
流石は霧島さんだ。交際期間や結婚式という過程をすっ飛ばして結婚したという結果だけを残すだなんて。
「俺は……! 俺の未来を守る為に、負けるわけにはいかないんだ……ッ!」
まあワザと霧島さんの足を引っ張って敗退なんて行為に手を染めたら、処刑されるのは火を見るよりも明らかだしね。優勝して霧島さんと交渉をするほうがまだ可能性があると雄二は考えたのだろう。
「あの、明久くん」
ガタガタと震えだした雄二を教室の隅に追いやって触らないようにしていると、鈴を転がすような声で名前を呼ばれた。
「姫路さん。さっきの試合、見ててくれた?」
「は、はい! すっごく格好良かったですっ!」
姫路さんはモジモジした様子ながらも、そんな嬉しいことを言ってくれる。頑張った甲斐があるというものだ。
「…………姫路。実はさっきの試合、録画しておいた」
「えっ、本当ですか土屋君……っ!?」
「…………今なら明久のブロマイド(メイド服エディション)も同梱」
「買います! 言い値で買いますっ!」
「…………交渉成立」
内容はよく聞き取れなかったけど、ムッツリーニと満面の笑みで話をしている。姫路さんがFクラスに馴染めているようで何よりだ。
「それにしても、アキも天真さんも普段とは比べ物にならないくらい高得点だったわね」
「まあね。僕らだってやる時はやるんだよ?」
美波の言葉にグッとサムズアップすると、彼女は呆れたような表情で笑う。
「あっーはっはっは! 流石はサタニキアブラザーズである吉井と我が
胡桃沢さんも僕たちの勝利を褒め称えてくれる。なんだかんだでこのクラスは気の良い連中ばかりだ。しかし称賛を受けたガヴリール本人は、胡桃沢さんの言葉に眉を顰めていた。
「サターニャ、お前気付いてないの?」
「へっ? 何が?」
「いや、明久が日本史の点数を上げたからさ。これでお前は名実ともに文月学園のドベに輝いたわけだけど」
「なっ……!?」
胡桃沢さんはグワシと僕の両肩を掴んでくる。凄い握力だ。
「吉井っ! この私を上回るなんて、師匠に対する敬意が足りてないわよ!」
「ええっ!? そんなこと言われても……!」
「一人だけ鉄人の補習を逃れようだなんて許さないわ! 必ず補習室に引きずり込んであげる……!」
な、なんて悪魔的な所業なんだ……! 胡桃沢さん、恐ろしい子……!
「お前ら、騒ぐのはそのへんにしてそろそろ行くぞ。もうすぐ決勝戦だ」
復活した雄二の言葉に、僕とガヴリールは顔を見合わせて頷く。
決勝戦に勝ち進んだのは、僕らのペアと雄二・霧島さんのペアだ。どちらが勝っても学園長との約束は果たされるし、何より姫路さんの転校だって阻止できるはずだ。
「今までと違って絶対に勝たなきゃいけない試合じゃないから、少し緊張感に欠けるけどね」
「そう思うなら、俺に勝ちを譲ってほしいんだがな」
「あはは、それじゃせっかく見に来てくれたお客さんに失礼じゃないか。雄二が相手でも、全力で戦うつもりだよ」
「ま、それもそうだな。それじゃ、先にステージに行ってるぞ」
雄二がFクラスを出ていくと、ガヴリールが僕の側に寄ってきて、こんなことを訊いてきた。
「……で、本音は?」
「雄二を人生の墓場に叩き落としてやりたいんだ。ガヴリール、協力してくれる?」
「それでこそ明久だね」
ニヤリと顔を歪ませる僕たちに、美波と秀吉は苦笑いを浮かべていた。
○
「──遂に決勝戦が行われます。何と決勝戦まで勝ち進んだのは、四人中三人がFクラスの生徒たちです! これはFクラスに対する認識を改めなければなりません!」
ステージに入場すると盛大な拍手を浴びるとともに、司会の人が嬉しいことを言ってくれる。姫路さんのお父さん、どうか彼女の転校を考え直してあげてください……!
「そして、もう一人は二年生の学年首席、Aクラスの霧島翔子さんです! やはり彼女も勝ち上がってきました!」
一際大きな歓声が客席から上がる。僕らとフィールドを挟んで向かい合うのは、Fクラス代表坂本雄二とAクラス代表霧島翔子さんのコンビだ。容姿だけならガヴリールも負けていないと思うけど、学年首席である霧島さんはやはり人望や知名度が桁違いなのだろう。
「ガヴおねえちゃん頑張れーっ!」
「天真せんぱーいっ! 頑張ってくださーい!」
「アンタはやればできる子だわ! 自信持って!」
「ここまで来たら優勝しちゃいましょう!」
「この私以外に負けるだなんて、許さないんだからね!」
だけど、勿論ガヴリールにだって彼女を応援してくれる人たちがいる。特に千咲ちゃんなんか手作りの旗を振っていて、試合に出場する僕らよりも気合が入っていた。
「あいつら……応援なんていらないって言ったのに」
ガヴリールは照れくさそうに頬を掻く。相変わらず素直じゃないなぁ。
「……吉井、天真。いい試合をしよう」
「うん。霧島さん、僕らが相手でも手加減はいらないからね?」
「……分かった、頑張る」
霧島さんとそんなやり取りを交わした後、立会人の教師がフィールドを展開した。
「「「「
一斉に掛け声を上げて、僕らの召喚獣が顕現する。
英語
『Aクラス 霧島翔子 491点 & Fクラス 坂本雄二 73点』
『Fクラス ガヴリール 77点 & Fクラス 吉井明久 59点』
もはや溜め息すら出てしまうほどに圧倒的な点数差だ。あの姫路さんすらも凌駕してしまう霧島さんって、本当に凄いんだなあ。僕らFクラスの三人で同時に襲いかかったとしても、霧島さんには敵わないと断言できる。
「それじゃ、やろうぜ明久。お前とは決着つけたいと思ってたからな」
「あ、その前に雄二。一ついいかな」
手をゴキゴキと鳴らして闘争心を露わにする雄二に対して、僕は告げる。
「あ? なんだ?」
「中華喫茶の宣伝をしておきたいんだ。お客さんが増えたとはいえ、売上が増えるに越したことはないし」
「なるほどな。お前が考えたにしちゃ上出来な案じゃねぇか。好きにしろよ」
「霧島さんも、ちょっとだけ時間を貰ってもいいかな?」
「……私も構わない」
二人の了承を得たので、僕は司会の先生からマイクを受け取って、中華喫茶の宣伝を行うことにした。
「清涼祭にご来場の皆様、僕は二年Fクラスの吉井明久と言います。僕らのクラスでは今、本格的な飲茶と胡麻団子が楽しめる中華喫茶を営業しています。可愛いウェイトレスも沢山いますので、試合後に是非お立ち寄りください」
ペコリと頭を下げると、お客さんたちから拍手が上がる。これで売上が増えるといいな。
「じゃ、雄二もクラス代表として一言頼むよ」
「俺もか? まあ構わんが」
こっそり細工を施したマイクを雄二に投げ渡す。ここから作戦開始だ。
奴が口元にマイクを当てた瞬間、僕はムッツリーニに合図を送った。
「Fクラス代表の坂本雄二だ。聞いての通り【姫路の方が翔子よりも好みだな。胸も大きいし】。ウェイトレスの人気アンケートも行っているので【勿論俺は姫路に投票したぞ。胸が大きいからな】──ってちょっと待て!」
流石はムッツリーニ、完璧な仕事だ。秀吉の声真似も本人と遜色ないレベルである。
まるで般若のような形相をしている霧島さんに気付いて、雄二は即座に弁明を図ろうとする。
「ち、違うぞ翔子! これは明久の奴が……!」
「……分かってる」
「だ、だよな。お前はこんな手に引っかかるような奴じゃ──」
「……雄二とはじっくり話し合って、分かり合う必要がある」
「話し合うだけだと言うのなら何故俺の両腕を拘束しようとする!? そして何故召喚獣でも襲いかかってくるんだ!? 倒すべき対戦相手は向こうの二人だぞ!?」
「ふははははっ! さあ霧島さん、手加減はいらないよ! その浮気男に鉄槌を下そうじゃないか!」
「神に代わって私がその男の罪を裁くことを赦すよ」
「……ありがとう、吉井も天真も良い人」
「騙されるな翔子! そいつらはお前を誑かそうとする悪魔──あばばばばばばーっ!?」
霧島さんの召喚獣は雄二の召喚獣を一撃で粉砕し、霧島さんは雄二本人を一撃で断罪した。
『Aクラス 霧島翔子 WIN VS Fクラス 坂本雄二 DEAD』
意識を失って白目を剥く雄二を、霧島さんは愛おしそうに抱きしめている。対戦相手である僕らのことなんて見向きもしない。きっと彼女には、召喚大会の優勝よりも大事なことがあるのだろう。
「霧島さん、僕らの勝ちでいいよね?」
「……うん。私達の負け」
「よし、僕らの勝利だ! やったねガヴリール!」
「うむ」
いえーいとハイタッチを交わす僕とガヴリール。
「あー……優勝は、吉井・天真ペアです……」
司会が正式に僕たちの優勝を宣言してくれる。
それなのに、何故か観客席から上がる拍手は疎らなものばかりだった。
○
「明久、いつか必ずキサマをコロス……!」
「上等だ、殺られる前に殺ってやる……!」
殺意に身を任せて睨み合う僕と雄二。卑怯汚いは敗者の戯言でしかないというのに、往生際の悪い奴だ。
「優勝したというのに、締まらん連中じゃのう」
「…………これが俺たちの日常」
決勝戦を終えてFクラスに戻ると、忙しなさそうに働くクラスメイトたちの姿が見える。どうやら僕らが優勝したことによって、お客さんが予想以上に増えたみたいだ。僕も手伝ったほうがいいだろう。
「待て明久。喫茶店も大事だが、その前にババア長のところに行くぞ」
雄二に肩を掴まれる。学園長のところに行くって、さっき表彰式で会ったばっかりだよ?
「馬鹿野郎が。少しは頭を使え。あんな人目につく場所で取引の話なんか出来るわけねぇだろうが。今から今日のツケの清算に行くぞ」
「……雄二、取引って?」
霧島さんが小さく首を傾げている。どうやら雄二は、ババア長との約束を霧島さんには伝えていなかったらしい。
「Aクラスの出し物もあるだろうが、翔子も無関係じゃないからな。悪いがついてきてくれ。勿論天真も来い」
「……分かった」
「メンドくさいなぁ。まさかあの婆さんが全ての黒幕だったりするの?」
「ある意味そうかもしれん。今からその確認に行く」
「ババアが黒幕……って、ええぇ!?」
じゃあ喫茶店が何度も妨害されたり、変なチンピラ連中に絡まれたりしたのも、学園長が原因ってこと!?
「ババアのせいで、危うく世界が滅びかけたじゃないか……! 文句の一つでも言ってやらないと……!」
「何を言ってるんだお前は。いいからとっとと行くぞ」
「……やっぱり吉井は面白い人」
先を行く雄二と霧島さんを追っている途中で、ガヴリールが僕にこんなことを訊いてきた。
「なあ明久。お前、私のことを隙あらば世界を滅ぼそうとする邪悪な天使だと思ってないか?」
「うん」
「いや、そんなことないから。私はどこにでもいる至って普通の天使だから」
絶対に嘘だ。
ガヴリールは滅ぼすと決めたら本当に世界を滅ぼす。それだけは間違いないと僕は確信していた。
【清涼祭 試験召喚大会 結果】
優勝:吉井・天真ペア
一回戦 数学
☆Fクラス 吉井明久 63点
Fクラス ガヴリール 22点
★Dクラス 清水美春 108点
Dクラス 玉野美紀 99点
二回戦 古典
☆Fクラス 吉井明久 9点
Fクラス ガヴリール 88点
★Fクラス サターニャ 13点
Aクラス ラフィエル 177点
三回戦 保健体育
☆Fクラス 吉井明久 53点
Fクラス 土屋康太 511点
★Aクラス ヴィーネ 306点
Aクラス 木下優子 321点
準決勝 日本史
☆Fクラス 吉井明久 166点
Fクラス ガヴリール 222点
★Aクラス 常村勇作 209点
Aクラス 夏川俊平 197点
決勝戦 英語
☆Fクラス 吉井明久 59点
Fクラス ガヴリール 77点
★Fクラス 坂本雄二 73点
Aクラス 霧島翔子 491点