バカと天使とドロップアウト   作:フルゥチヱ

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第四話 バカと駄天使の共同戦線

 時刻は午後一時。文月学園校舎三階、新校舎と旧校舎を結ぶ渡り廊下には、FクラスとDクラスの試験召喚戦争による戦火が広がっていた。

 秀吉と島田さん率いる先攻部隊は、既に最前線でDクラスの生徒たちと交戦状態にあることが報告されており、僕が部隊長を務める中堅部隊は現在その後ろで待機している。

 

 屋上で雄二から受けたDクラス戦の作戦は至って単純。時間稼ぎだ。正確に言うと、姫路さんが試験を受けて戦線に参加するまで時間稼ぎである。

 姫路さんは学年トップクラスの学力を持つ女の子なのだが、振り分け試験を体調不良で途中退席してしまっている。そのため、最も近い時期に受けたテストの点数が召喚獣の戦闘力となる試験召喚戦争において、持ち点が零なのだ。

 だが戦端が開かれれば、参戦クラスに所属する生徒は補充試験を受けることができるようになる。この試験で姫路さんが一教科でも多く点数を回復できるように時間を稼ぐのが、僕たちの仕事というわけだ。

 

「吉井! 先行部隊が撤退を始めたぞ!」

 

 伝令役として廊下を行ったり来たりしている横溝くんからの報告。ならば先行部隊を援護するためにも、僕ら中堅部隊が加勢に行くべきだろう。

 

「じゃあお前、先行部隊に伝えてきてくれ」

 

 中堅部隊の参謀であるガヴリールが横溝くんに言った。

 

「いのちだいじに」

 

「了解であります!」

 

「いや了解しちゃダメだよね!?」

 

 誰だこの子に参謀役を任せたのは!?

 一見、先攻部隊を気遣っているかのような伝令だが、それはつまり自分たちで何とかして生還しろ、ということだ。丸投げである。僕ら中堅部隊がここで待機していたことも無意味になってしまう。

 前線へと駆けていく横溝くんを尻目に、ガヴリールはため息を吐いた。

 

「人間がごちゃごちゃ多すぎてうぜぇ」

 

「いや、それが試召戦争だし……」

 

 五十人対五十人の大規模な団体戦である。

 まあ確かに、廊下に何十人もの生徒が固まっている状況というのは少し鬱陶しい。

 

「あ、そうだ。自爆特攻してきてもらおうよ。敵さん道連れにさっさと滅んでくださいって感じで」

 

「鬼だ! あんた天使のくせに鬼だ!」

 

 戦死者は終戦までの間、地獄の補習を受けさせられるというのに。そんな作戦ばかり執っていては、士気が下がるどころか、仲間からの信頼も失ってしまう。

 ここは部隊長である僕がしっかりしないと。そう思って、消火栓の影に身を隠しながら最前線の戦場に耳を傾ける。

 

「──さあ来い! この負け犬が!」

 

「鉄人!? 嫌だ! 補習室は嫌だぁ!」

 

「黙れ! 捕虜にはたっぷりと指導をしてやるぞ。補習が終わる頃には趣味は勉強、尊敬するのは二宮金次郎、愛読書は学問のすゝめという模範的な生徒に仕立て上げてやろう」

 

「だっ、誰かッ! 誰か助けっ……イヤアアアアア!(ギィィィィ、ガチャ)」

 

 召喚獣を戦死させてしまった同級生の悲鳴が廊下中に木霊した。同時に誰かがごくりと生唾を飲み込む音。

 なるほど、前線の雰囲気は大体分かった。

 

「総員撤退ィ!」

 

「がってん!」

 

「いいのか!? 吉井隊長! 天真参謀!」

 

 中堅部隊のメンバーが一目散で戦線離脱した僕とガヴリールに問う。良いも悪いもあるか! あれはもはや洗脳部屋だ! 終戦後解放されたとしても、トラウマという重石をずっと心に背負わなければいけなくなる魂の牢獄だ! 僕は仲間の信頼よりも己の保身を選ぶ!

 

「どこに逃げる?」

 

「Fクラスに戻っても前線に強制連行されるだけだ! 裏門から脱出しよう!」

 

 階段へ向かって一直線に駆ける僕たち。その背中のなんと無様なことだろう。だが自分のプライドよりも大切なものがある。

 裏門から自宅へというのは遠回りのルートになってしまうが、四の五の言っている場合ではない。とにかく今は家が恋しかった。Fクラスや試験召喚戦争のことを全て忘れてお布団に沈みたい。

 しかしそんな切なる願いは叶わなかった。

 

「吉井いいいいいいい! 天真あああああああ!」

 

 騒ぎを聞きつけた鉄人が僕らに向かって猛ダッシュしてくる。怖ぁ!

 階段まであと一歩というところで、僕たちの前に筋肉の塊が立ち塞がった。

 

「吉井よ、天真よ……試験召喚戦争は授業の一環だと去年あれほど教えただろう?」

 

「はっ、はい! 勿論存じております西村先生!」

 

「ならば、理解しているはずだよな? 敵前逃亡は死に値すると!」

 

「ご、ごごごごごめんなさいぃ!」

 

「……まあ、今回は階段の手前ギリギリで踏み止まっているから許してやる」

 

 躊躇なくジャパニーズ土下座を繰り出す僕たちに、鉄人は呆れたようにそう言った。

 踏み止まったというより踏み止まるを得なかったんですけどね。鉄人の身体に全速力で激突とか確実に打撲程度じゃ済まない。肋骨の二三本は軽く持っていかれるだろう。

 

「ただし、お前たちが戦死した暁にはたっぷり可愛がってやる。Dクラスに敗北した場合はさらに別途で個人授業を受け持ってやろう。ありがたく思え」

 

「全員突撃しろぉー!」

 

 絶対に負けられない理由ができてしまった。鉄人とマンツーマンで授業とか拷問以外の何物でもない!

 

「お前らぁ! Dクラスの連中を血祭りにあげてやれ!」

 

 僕の号令とガヴリールの鼓舞に伴い、Fクラス中堅部隊が前線へと進軍を開始する。

 すると、向こうからこちらへ走ってくる影が二つ。先行部隊を率いていた秀吉と島田さんである。

 

「明久、援護に来てくれたんじゃな!」

 

「秀吉、島田さん、残存兵力はどんな感じ?」

 

「ウチらを含めてあと五人、全員点数は瀕死寸前といったところね。もうちょっと早く来てくれればよかったのに……なんで目を逸らすのよ?」

 

「な、何でもないよ! それより、ここも直に戦場になる。早く撤退して点数を補充してこないと!」

 

「そうじゃな。ここは任せたぞ明久! 天真!」

 

「いってらー」

 

 愉快な仲間たちが無事撤退するのを見送ってから、今度は僕ら中堅部隊が前線に躍り出る。

 フィードバックがあるからできれば召喚したくないのだが、補習室と鉄人の個人授業は絶対に回避しなければいけない。そのためには姫路さんの力が必要不可欠。ならばここは僕たちが時間稼ぎに徹するしかないのだ。背に腹は代えられぬ、というやつである。

 

「いたぞ! Fクラスの第二部隊だ!」

 

「五十嵐先生! 承認お願いします!」

 

「承認します」

 

 Dクラスの部隊と共にやってきた化学担当の五十嵐先生が召喚フィールドを展開する。この空間は半径十メートル程度。会敵し、僕らは一斉に声を上げた。

 

試獣召喚(サモン)!」

 

 その掛け声と同時に、僕らの足元に魔法陣が広がる。試験召喚システムが作動し、その中から召喚獣が顕現した。

 

 化学

『Fクラス 吉井明久 43点 & ガヴリール 27点』

『Dクラス 鈴木一郎 92点 & 笹島圭吾 99点』

 

 召喚獣の頭上に僕たちの点数が浮かび上がる。

 ってなんだ二十七点って!? いくらなんでも酷すぎる!

 

「明久、これが堕天した私の実力だ」

 

「自信満々に言い放ったよこの子!」

 

 僕も人のこと言えない点数だけど、ガヴリールに至ってはDクラスの二人にトリプルスコアつけられてるじゃないか!

 

「おい、こいつら雑魚だぞ」

 

「指揮官クラスかと思ったが当てが外れたな」

 

 一応これでも部隊長と参謀です。

 

「さっさと終わらせて本丸に攻め込むぞ!」

 

「ああ!」

 

 武器である片手剣を構え突進してくる二体の召喚獣。僕たちの点数だと軽く当たっただけでも大きなダメージを負ってしまいそうだ。

 

「ガヴリールは後方から援護をお願い! 僕が動きを抑える!」

 

「おっけい」

 

 白と水色を基調としたセーラーを身に纏い、小さな弓を携えたガヴリールの召喚獣がフィールドの内側ギリギリまで後退する。必然的に、残された僕の召喚獣が二人と相対する形になる。

 

「この点差で二対一を選ぶなんて、やっぱFクラスの連中は馬鹿だな!」

 

「食らえッ!」

 

「どっこいしょお!」

 

 左右からそれぞれ振り下ろされる一閃。その攻撃を僕は召喚獣の上体のみを仰け反らせギリギリで回避する。的を失った二体の召喚獣は激しく接触。お互いの点数を大きく減らす結果になった。

 

「なんだ、今の気持ち悪い動きは!」

 

「気持ち悪いは余計だよ!」

 

 通常、召喚獣に細かな動きをさせることは困難である。その理由は本体と召喚獣のサイズの差に起因する。なので、彼らのように召喚獣の操作に慣れていないと、単調な動きしか取ることができない。

 しかし僕は観察処分者。教師から召喚獣を用いた雑用を押し付けられているうちに、自然とコツを身に付け、今ではこんな動きも可能になった。まあ、観察処分者の数少ない利点といったところだろう。

 

「へへっ、Fクラスも中々やるでしょ?」

 

 煽るように言うと、二人は僕をぎろりと睨み付けてきた。あーあ、余所見しちゃダメなのに。

 ──ブスッという何かが突き刺さる鈍い音が響いた。

 

 化学

『Dクラス 鈴木一郎 0点 & 笹島圭吾 34点』

 

 更新された点数に彼らは呆けた声を上げる。

 なんてことはない。僕が敵を引き付けている間に、ガヴリールが矢を射った、ただそれだけのことだ。

 状況を理解しきれず立ち尽くしていたもう一体の召喚獣も僕の召喚獣の持つ木刀で刺し貫くと、二体の敵は持ち点を全て失い、ポリゴンの結晶となってバラバラになり、やがてそれも消滅した。

 

「いえーい!」

 

「いえーい」

 

 鉄人に連行される二人を横目に、僕とガヴリールはハイタッチを交わす。

 流石はガヴリール。ゲーム友達歴一年の相棒だが、試験召喚戦争においても連携はバッチリだ。

 

「天真参謀! 何か作戦を下さい!」

 

 Dクラスの別動隊に応戦するクラスメートたちが懇願する。

 ガヴリールは一瞬だけ面倒くさそうに眉を潜めてから作戦を告げた。

 

「……あー、ガンガンいこうぜっ」

 

「「「おおおおおおおおお!!!」」」

 

 雄叫びが戦場に響き渡った。それに対抗するようにDクラスの指揮官と思わしき男も大きな声を上げる。

 ここからが正念場だと、僕は自分の頬を叩いて気合いを入れなおした。

 

   ○

 

「吉井! 横溝がやられたみたいだ! 情報が帰ってこない!」

 

「こっちの竹中先生側の通路はもう俺一人しか残っていない! 増援を!」

 

「藤堂がもう瀕死だ! 誰か援護してやってくれ!」

 

 状況は劣勢も劣勢だった。僕とガヴリールは連携攻撃でDクラスの生徒を何人も討ったが、それでも全てを捌けるわけじゃない。取り零したDクラスの生徒が少しずつ僕らの味方を減らしていく。さらに悪いことは重なるもので、教科を頻繁に変えることでやり過ごしていたものの、僕らの召喚獣の点数もいい加減限界がきていた。僕はフィードバックもあるから身体も辛いし。

 しかも、Dクラスはここを勝機と見たのか本隊を動かしてきている。撤退したいところだが、今僕らが退けば防衛線は瞬く間に決壊し、代表の雄二がいるFクラスに大挙して攻め込まれることは確実だろう。

 ならば、と、僕はフィールドを展開する先生の背後に忍び寄り、ボソッと告げた。

 

「……竹中先生、ヅラがずれてます」

 

 その言葉に反応した古典教師の竹中先生は「ちょっと急用が」と言い残し男子トイレへと逃げて行った。これで戦線を少し縮小することができたはずだ。

 

「藤堂くんは可哀想だけど諦めて! 僕らだけでもDクラスの進軍を阻止するんだ!」

 

「了解!」

 

 僕の指示を受け、みんなが廊下を塞ぐように陣形を組む。ガヴリールだけ何故か僕の後ろに待機。サボる気満々かコイツ。

 

「ややっ? その声はアキちゃ──吉井くんでは!?」

 

 突然、Dクラスの主力メンバーの一人が僕らの前に飛び出してくる。全力でダッシュしてきたのか頬を紅潮させた三つ編みの女の子だ……って、ゲーッ!? た、玉野さん!? なぜこんなところに!

 

「おい明久、誰だこいつは」

 

 僕の後ろから顔を覗かせながらガヴリールが問う。

 

「事あるごとに僕に女装させようとする僕にとって三番目の天敵だよ」

 

 言うまでもなく一番の天敵は鉄人、二番は坂本雄二である。

 

「なるほど、変態か」

 

 その通り。

 彼女の名前は玉野美紀。去年の清涼祭で不慮の事故により女装しているところを目撃されて以来、何故か僕に女装することを強いるようになった危険度MAXの女の子だ。勿論僕自身にそんな趣味はないので常に逃げ回っているんだけど……ちぃっ! 彼女はDクラス所属だったのか!

 

「あっ、あああああ、あああアキちゃ吉井くんっ! こ、こんなところで会うなんてすごい偶然だねっ! これはもう、運命みたいなものだよね! 運命の出会いだよねっ!」

 

「違う! こんなもの運命とは認めない! これは呪いとか祟りとかそういう類のものだ! だから僕の側に近寄らないでくれ!」

 

 僕が果たした運命の出会いは後にも先にもたった一つ、マジ天使時代のガヴリールとの出逢いだけだ。綺麗なままの思い出に泥を塗らせるわけにはいかない!

 

「て、照れないでっ吉井く──アキちゃん! でもそんなアキちゃんも可愛いよぉ……今の時間なら保健室空いてるからさっ。ほらっ、女装、しよ?」

 

「嫌だあああああーっ!」

 

 僕は心の奥底から沸き立つ恐怖に絶叫する。

 なんで男の尊厳を失うような真似をしなくちゃいけないんだ! 僕は男らしく格好いい吉井明久のままで或りたいんだ!

 しかも今、吉井くんをアキちゃんに訂正したよね!? 違うから! 逆だからそれ! 本当の僕を見て!

 頭を抱えていると、ガヴリールが僕の肩に優しく手を置いた。

 

「……明久、これから私、もうちょっと良い子にするよ。だからお前も達者でな」

 

「やめて! そんな風に同情しないで!」

 

 というか見捨てる気満々じゃないか! こいつ僕を売る気だ! さっきまでの連携はどこに!?

 

「これもある意味連携プレイだっ」

 

「自己保身のために仲間を見捨てることを連携とは言わない!」

 

「ええいうるさいぞバカッ。私は変態とは関わりたくないんだ」

 

「僕だって嫌だよこの駄天使ッ!」

 

 睨み合う僕たち。可愛い顔してるくせに相変わらず生意気だな!

 

「あれあれあれっ!? そこにいるのはガヴちゃ──天真さん!? なんでマイエンジェルの二人が一緒にいるのっ!?」

 

 今度はガヴリールに反応する玉野さん。ん? なんだか嫌な予感がする。

 

「ああっ、もしかしてここは天国!? アキちゃんとガヴちゃんなんて夢の組み合わせだよっ! まさに私のための楽園!」

 

 瞳に危険な色を宿し、トリップ寸前の玉野さん。

 ガヴリールは口角を不自然に歪ませ、まさかと冷や汗を垂らしている。

 

「二人とも食べちゃいたいくらい可愛いっ! ああダメっ、欲張りな私……でもっこんなの見せられて我慢できるわけないよ!」

 

「ひいいいいいいっ!?」

 

 頬を上気させて荒い息を吐きながらこっちへ向かってくる玉野さんに悲鳴を上げるガヴリール。正直今すぐ逃げ出したいが、ここで逃げたら防衛線は崩れてしまうし、何より敵前逃亡で戦死扱いだ。まさに前門の玉野さん、後門の鉄人である。さ、最悪だ! 考えうる限り最悪の状況だ!

 

「大島先生! 早く承認をっ! 私これ以上我慢できませんっ!!!」

 

 いったい何を承認させるつもりなんだ!? 召喚獣だよね!? 君の表情からして何か別のものの承認も求めている気がしてならない!

 

「わ、分かった、承認する」

 

 Dクラスの本隊に連れられてきた保健体育の大島先生がフィールドを展開する。

 

試獣召喚(サモン)!」

 

 僕らの部隊とDクラスの本隊のメンバーが一斉に召喚獣を呼び出す。他のFクラスの連中は玉野さんを相手したくないのか、別のDクラス生徒に向かっていった。ちくしょう!

 

 保健体育

『Fクラス 吉井明久 56点 & ガヴリール 42点』

『Dクラス 玉野美紀 133点』

 

 僕らの点数が召喚獣の頭上に表示される。流石は腐ってもDクラス、僕らの倍以上の点数だ! ガヴリールはまたトリプルスコアつけられてるし!

 

「うおりゃああ!」

 

 ガヴリールは玉野さんの狂気にあてられ錯乱しているのか所構わず矢を放ち続ける。落ち着かせようとしたが、その前に一本の矢が見事僕の召喚獣の尻に突き刺さった。

 

「痛あああああっ!?」

 

 フィードバックによる激痛に悶え廊下をのたうち回る僕。フレンドリーさの欠片もないガチのフレンドリーファイアである。なんてことをするんだこの駄天使! 僕の点数が半分以上持っていかれたじゃないか!

 

「ぐふふふ、勝負ありかなっ? 殆どそっちの自滅みたいなものだけど……大丈夫だよアキちゃんガヴちゃん、最初は優しくするからっ! 二人とも可愛がってあげる!」

 

 そう言いながら手をワキワキさせて迫る玉野さん。一体なにが大丈夫だというんだ! まず君の頭が大丈夫か!?

 僕の悲鳴で正気を取り戻したらしいガヴリールが脱兎の如く玉野さんの召喚獣から距離を取る。できればもう少し早く正気に戻ってほしかったなあ!

 

「──ど、どどどどどうしましょう明久さん! 身の危険を感じます! 私たち今すっごくピンチです!」

 

 ガヴリールは狼狽しながら僕の腕にぎゅっとしがみ付く。

 あれ? これ正気どころか堕天以前にまで戻ってない? まさか恐怖が限界突破して、一時的に人格が崩壊してしまったのか!? 天使をそこまで恐れさせるとか玉野さんヤバい!

 

「安心して、責任は全部私が持つからっ! 二人は本能のままに身を預けてくれたらいいから!」

 

 その言い方だと僕たちにも責任の一端があるみたいじゃないか! 僕たちは無実です!

 

 保健体育

『Fクラス 吉井明久 25点 & ガヴリール 18点』

『Dクラス 玉野美紀 133点』

 

 点数も風前の灯である。というか玉野さんの点数を一点も削れていない! さっきの乱射は僕の点数を無駄に減らしただけか!

 もはや絶体絶命かと思われたその時──僕の耳元で小さな声がした。呟き程度の、だが、確かな詠唱。

 

「…………試獣召喚(サモン)、加速」

 

 突如出現した召喚獣は腕輪を輝かせると、一瞬で急加速し、その手に携えた小太刀で玉野さんの召喚獣をすれ違いざまに一刀両断した。

 

 保健体育

『Dクラス 玉野美紀 0点 VS Fクラス 土屋康太 441点』

 

「む、ムッツリーニィーッッ!」

 

「…………(グッ)」

 

 こうして、僕とガヴリールにとって最恐の敵は討ち取られ、補習室へと消えた。

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