問 以下の文章の( )に正しい言葉を入れなさい。
『光は波であって、( )である』
月乃瀬=ヴィネット=エイプリルの答え
『眩しいもの』
教師のコメント
女の子は日焼けが気になりますよね。
胡桃沢=サタニキア=マクドウェルの答え
『いつか倒すべき存在』
教師のコメント
がんばってください。
天真=ガヴリール=ホワイトの答え
『大事なところをガードするもの』
教師のコメント
あなたは光を何だと思っているんですか。
白羽=ラフィエル=エインズワースの答え
『秘密の花園を隠すための物』
教師のコメント
天真さんと白羽さんは今すぐ光に謝ってください。
颯爽と現れた召喚獣による一撃の元に玉野さんの召喚獣は切り捨てられ、そのまま実体を失い消滅した。
さ、流石はムッツリーニ! 保健体育だけで僕の総合科目にも匹敵する点数だよ! でもなんで彼がここに?
「て、鉄人先生! 早く! 早くこの危険人物を補習室に軟禁してください!」
そんな疑問を僕が抱えていると、玉野さんの狂気によってちょっとおかしくなっているガヴリールが、補習室の番人こと西村先生に涙目で懇願する。
「おお、玉野か。たっぷり勉強漬けにしてやるぞ。……あと天真、先生と付けるのはいいが、ちゃんと西村先生と呼べ」
「そんなのどっちでもいいんです! 今すぐ私と明久の半径十メートル以内から彼女を遠ざけてくださいっ、ラッパ吹くぞ!?」
言いながらガヴリールは世界の終わりを告げるラッパを掲げる。ヤバい! この駄天使、脅しじゃなく本気で吹くつもりだ!
獣のように唸り声を上げるガヴリールを羽交い締めにしてどうどうと落ち着かせていると、玉野さんは戦死により無事補習室へ連れて行かれた。
「アキちゃんガヴちゃん! 私は諦めないからねっ! 無事に卒業できると思わない方がいいよ!」
という、とても危険な捨て台詞を残しながら。
つ、疲れた。色々な意味で危険な戦いだった。未だに召喚獣のフィードバックでお尻痛いし。
「…………明久、お疲れ」
「あ、ありがとうムッツリーニ! おかげで助かったよ! 今日のMVPは君で決まりだね!」
照れたように頬をかくムッツリーニ。いやいや、本当に助かったんだって! おかげで僕とガヴリールの貞操が守られたのだから!
「…………これを届けるように言われてきた」
「雄二から?」
彼はこくりと頷くと、懐から一枚の紙切れを取り出し、僕に差し出してきた。
そのメモには、姫路さんの補充試験が終了したという旨と、僕ら中堅部隊への撤退命令が記されていた。つまり、ついに姫路さんを含めた雄二率いるFクラス本隊が動き、Dクラス代表討伐に打って出るということだ。
「あ、そっか、伝令役の横溝くんが戦死しちゃったもんね。だからムッツリーニが伝えに来てくれたんだ」
「…………展開している科目が保健体育で良かった」
「ちなみに違う科目だったらどうしてたの?」
「…………見捨てていた」
「だよね」
そういうところは流石僕の親友というべきか。もし僕が逆の立場だったとしても間違いなく見捨てている。
「…………ところで、さっきから天真は何をしている」
ガヴリールはずっと、鉄人と玉野さんの去って行った方を威嚇し続けていた。僕の腕にしがみついたまま。
ムッツリーニは据わった目で僕を鋭く見下ろしながら言う。
「…………異端審問会は他人の幸せを許さない」
「ちょ! 落ち着いてムッツリーニ! これには深い訳が!」
「…………言い訳はあの世で聞く……!」
「それ僕死んでるじゃないか! わかった! 話し合おう! だからそのボールペンを納めてくれ!」
不承不承といった様子でボールペンをポケットに戻すムッツリーニ。いったいボールペンで僕の身体に何をするつもりだったんだ……!
僕は思い出しながら、さっきまでの状況を説明する。
「えっとね、まずDクラスの玉野さんっていう女の子に女装を求められたんだ」
「…………」
ぽん、と僕の肩に優しく手を置くムッツリーニ。見事な変わり身の早さである。こういうところ嫌いじゃないよ。
「ま、まあその話は置いといてさ! みんな、Fクラスに戻ろう!」
各々文房具を手に武装をし始めていた頼もしき戦友たちをFクラスに押し戻す。それはDクラスへ向けるべき戦意であって、決して僕へ向いている殺意ではないよね?
「ほら、ガヴリールも」
さっきからいじけっぱなしの駄天使に手を差し出す。ガヴリールはその手を取って、ぐいっと引っ張った。
「……運べ。私はこんなに頑張って疲れた」
「わかったよ」
「あと焼肉奢って」
「明日から僕に水だけで生活しろと!?」
かくして、僕らの小さな戦争は終わりへと向かう。
〇
その後、本隊に合流した姫路さんの手によってDクラス代表平賀源二は討ち取られ、僕らFクラスの勝利でこの試験召喚戦争は幕を閉じた。平賀くんは精悍な顔立ちと太い眉が特徴の男子で、Dクラスの女子からも慕われているみたいだ。あれ、急に殺意が沸々と湧いてきたぞ。
彼は素直に負けを認めて教室の交換に応じる構えを示したが、Fクラス代表坂本雄二はDクラスの設備を求めることはなく、代わりに一つ条件を提示した。
「大したことじゃない。俺が指示を出したら、窓の外にあるアレを動かなくしてもらいたい」
「Bクラスの室外機か」
「教師には睨まれるかもしれないが、そう悪い取引じゃないだろう?」
平賀くんは雄二の提案を二つ返事で了承した。
そして翌日。僕たちFクラスはDクラスとの試験召喚戦争で失った点数を取り戻すべく、クラス一同で試験を受けていた。
「疲れたぁー……」
とりあえず四科目が終了。鉛筆を卓袱台の上に放り投げて、畳の上で伸びをする。瞬間、肩や腰やらがバキバキと嫌な音を立てた。うわ、凝ってるなー。
隣の席のガヴリールをちらりと見ると、彼女は卓袱台に突っ伏して既に熟睡の構えを取っている。ボサボサの髪が鬱陶しかったのか、それらを束ねポニーテールにして。僕のストライクゾーンど真ん中じゃないか。ついつい惑わされそうになるが、同時に普段の彼女の姿を思い出し急速に熱が冷めていった。ほんと顔だけは滅茶苦茶好みなんだけどなぁ。
ともあれ、今から待ちに待った昼休みである。僕は鞄から水筒(inソルトウォーター)を取り出して昼食にしようとした時。
「あっ、あの、皆さん……」
もじもじした様子の姫路さんに声を掛けられた。どうしたんだろう。
「あっ、そういえば今日は、瑞希がお弁当作ってきてくれたんだっけ?」
相変わらず平坦な島田さんが、姫路さんをフォローするように言う。ん? お弁当?
「おお、そういえばそんな話もしたのぉ。まさか本当に全員分作ってきてくれたのか?」
「…………忝し」
「は、はいっ。ご迷惑じゃなかったらどうぞっ」
迷惑だなんてとんでもない!
そうかぁ、姫路さんは本当に僕ら全員のためにお弁当を……なんて優しい子なんだろう! おかげで僕、午後のテストも乗り切れそうだよ!
「ありがとう、姫路さん!」
「ああ、助かるぜ」
「本当ですか? 良かったぁ~……」
ほっと胸を撫で下ろす姫路さん。
「じゃあさ、せっかくだし屋上で食べない? こんな薄汚いところじゃ姫路さんに申し訳ないよ」
「…………ナイス提案。この時期の屋上は風が強い」
流石はムッツリーニ。飽くなきパンチラへの欲求だ。
「んじゃ、俺は飲み物でも買ってくるわ。お前ら、何かリクエストはあるか?」
「僕はコーラで」
「では緑茶を頼むぞい」
「…………ナタデココ」
「人間の生き血を所望するわ!」
「了解。緑茶にナタデココにダイエットコーラに明久の生き血な」
「ちょっと待って雄二! なに勝手に僕の血液を差し出そうとしているの!?」
皆と和やかな団欒を楽しむはずのお昼休みが、狂気的な献血現場に早変わりだ。それに胡桃沢さんは悪魔とはいえ、別に血を飲む必要はなかったはず。
しかもダイエットコーラってカロリーゼロじゃないか! 僕が要求したのは普通のコーラだ! 貴重なエネルギーを摂取できる機会になんてことをしようとするんだこのゴリラ・ゴリラ・ゴリラは! ちなみコーラは五百ミリリットル一本で大体二百キロカロリーあるらしい。僕だったらこれだけで三日は生き延びることができる数字だよ!
雄二はそんな僕の反論を無視して、胡桃沢さんに問うた。
「というか胡桃沢、お前も来るのか?」
「い、いちゃいけないわけ!?」
「いや、だってお前昨日は来なかっただろ」
「時間を間違えたのよ! おかげで何もしていないのに補習室に強制連行されるし、最悪の一日だったわ!」
なるほど、どおりで昨日のDクラスとの試召戦争で胡桃沢さんを見なかったわけだ。まさかサボり扱いで補習室にいたとは……。しかし、あの鉄人の地獄のような制裁を受けても既にけろりとしている精神力は凄いと思う。
「ガヴリールはどうする?」
「うむ。空腹だが、今の私には動こうという気力が全く湧かない。後で向かうから先に行っといてくれ」
「ぷぷぷ、情けない奴ね!」
「お前いっぺん宙舞っとくか?」
そう言って拳を握りしめるガヴリールから、胡桃沢さんは無言で距離を取る。
僕がいつものように運んであげても良かったのだが、どうにも彼女は立ち上がることさえ億劫らしい。ガヴリールは卓袱台に頬をぷにっと押し当てたまま、教室を出ていく僕らを見送った。
僕と秀吉とムッツリーニ、そして姫路さんと胡桃沢さんが屋上へ。雄二と荷物持ちを買って出た島田さんは財布を持って一階の売店へと向かっていった。
「姫路さん、鞄持つよ」
「あ、ありがとうございますっ、吉井くん」
受け取ると、意外にもずしりとした重量感がやってくる。教科書などは教室に置いてきているみたいだし、本当に大きなお弁当を作ってくれたのだろう。大変だったろうに。ちょっと感動。
扉を開くと、涼しい風が僕らを屋上に迎え入れてくれた。日差しも強めだし、肌寒さも感じない。この気候なら昨日寒気を覚えていたガヴリールも平気だろう。
「良いお天気ですねっ」
「…………絶好の覗き日和」
「ムッツリーニよ、お天道様は見てるもんじゃぞ?」
秀吉の至極まともな突っ込みにムッツリーニは少しだけ葛藤する。一応罪の意識はあったらしい。
「フッ、憎き太陽よ。いつかこの私、大悪魔サタニキアが撃ち落としてやるわ」
己を大悪魔と豪語する胡桃沢さんは掌を太陽に翳しながら、物凄く壮大なことを呟く。その姿は一見、様になって格好いいのだが、太陽光が眩しかったのか目をシュバシュバさせているのが非常に珍妙だった。
「シートも持ってきたんですよ」
姫路さんはバックを開いて中から可愛らしい水玉模様がプリントされたビニールシートを取り出す。笑顔で張り切る健気な彼女に、僕もつられて笑みを零した。
みんなでわいわい騒ぎながらシートを敷いて、上履きを脱いでからそこに足を投げ出す。なんだかちょっとしたピクニック気分でテンション上がってきた。
「気持ちいいねー」
「テスト明けということもあって、素晴らしい解放感じゃな」
「…………気分爽快」
「えへへ、なんだか小学生の頃の遠足を思い出しますよね」
「懐かしいのう、ワシは海浜公園に行った記憶があるのじゃ」
「私はタルタロスまで行ったわ!」
「うふふ、サターニャさんは迷子になってそうですよね」
「なっ、そんなことないし! 普通にリーダーとかやってたし!」
両手を握りしめて抗議する胡桃沢さん。
……ん? あれ、今六人いなかった? 確かここにいるのは僕と秀吉とムッツリーニと姫路さんと胡桃沢さんの五人だったはずなんだけど。雄二や島田さんやガヴリールが来るのはもうちょい時間かかるだろうし、僕の気のせいかな?
「ところで吉井さん、私コンタクトを落としてしまったのですが……すいません、ちょっと探すのを手伝っていただけないでしょうか?」
「ええ!? それは大変だ、早く見つけないと!」
コンタクトなんて高級品、踏みつぶしたりしたら大ごとだ!
僕は足元に細心の注意を払いながら四つん這いの姿勢になり、目を凝らしてコンタクトレンズを探す。くそっ、今日は日差しが強いから探しにくい!
「では、失礼しますね。よいしょっと」
と、そんな軽い声が聞こえたかと思うと、四つん這いになっていた僕の背中に、なんだか柔らかい感触と共に人ひとり分くらいの重みが伸し掛かってきた。
「……」
というか、人ひとり分だった。
彼女は僕の背中に当然のように座り、とても晴れやかな笑顔で僕を見下している。
「あの白羽さん」
「なんでしょう、吉井さん」
「コンタクトは?」
「コンタクト? 私は両目ともに視力はバッチリですが」
「騙されたあああーっ!」
がくりと項垂れると、白羽さんはあらあらと微笑む。慈愛に溢れた表情だが、やっていることは完全にサディストの所業だ! 人の親切心を利用するなんて卑怯だぞ!
「ラフィエル!? アンタいつの間にいたの!?」
「私はサターニャさんのいるところ、例え火の中水の中です」
「だから怖いっつの!」
僕を椅子にしたまま胡桃沢さんと談笑する白羽さん。
「…………お前は、白羽=ラフィエル=エインズワース……!」
「まあ、かの有名なムッツリーニさんに名前を存じていただけているなんて光栄です」
「…………!(ブンブンブン)」
ムッツリーニは首を全力で振って否定する。ムッツリの誇りに賭けて
「っていうか僕を椅子にしたまま普通に話を続けないで!」
「ああっごめんなさい。でも吉井さんって、とっても座り心地が良いんですよ?」
「フォローになってない! 椅子として高評価されても嬉しくないよ!」
上品に手で口を隠しながら、満面の笑みを零す白羽さん。この人は本当に人を揶揄うのが好きだな……!
彼女の名前は白羽=ラフィエル=エインズワース。ガヴリールと同じく天使学校を卒業して下界に降りてきた天使だ。まるで宝石みたいにキラキラ輝く銀色のロングヘアに、十字架をあしらったヘアピンと赤いリボンが特徴の美人さんである。しかし、その美貌に騙されてはいけない。彼女の本性は面白いことを何よりも愛するが故に、その為なら他人を玩具にすることも辞さない天性のサディストなのだ! その
僕が白羽さんに目を付けられるようになったのは、恐らく文月学園の入学式の日、セーラー服で登校してしまったことが原因だろう。彼女はそんな僕を愉快だと思ったらしく、今でもこうして
しかしそんな彼女も、天使学校を次席で卒業しているエリートらしい。主席は堕天しかけてるし、天界の未来が時々心配になる。
「では吉井さん、一つクイズです。ででん」
鈴を転がすような声で言う白羽さん。えっ、なに? クイズ?
「見事正解すれば、ここから退いて差し上げましょう」
なるほど、そういうことか。ふっ、僕を揶揄おうったってそうはいかないぞ。僕は頭は良くないけれど、クイズなら得意なのだ。クイズ番組もたまに見てるしね。
「では問題。『椅子』は英語でなんというでしょうか♪」
「……僕の、負けだ……」
クイズなら……! 知識を必要としないクイズであってくれれば……ッ!
「えっと、答えは『Chair』ですよね?」
「はい、姫路さん正解です。あらぁ、吉井さんはこんな中学生レベルの英単語も答えられませんでしたか♪」
「流石は明久といったところじゃな」
「…………期待を裏切らない」
「へ? ちぇあ? ってなに?」
胡桃沢さん、今日から僕たちは親友だ。同じ観察処分者同士、仲良くしようじゃないか。
「そ、そんなことよりさ! 早く姫路さんの作ってくれたお弁当食べたいな! 僕もうお腹ペコペコだよ!」
僕は全力で話題を逸らす。というかむしろ、ここまでが本題から脱線しすぎなのだ。せっかく姫路さんがお弁当を作ってきてくれたというのに、白羽さんの
「あっ、どうぞっ。あんまり自信はないですけど……」
ビニールシートの中央に重箱を置き、姫路さんはその蓋をぱかっと開いた。
「おおっ!」
僕たちは一斉に歓声を上げる。
その大きな重箱の中には、から揚げやエビフライ、おにぎりやアスパラ巻きなどの定番メニューや、野菜の緑がとても色鮮やかなサラダなど、沢山の料理がぎっしりと詰まっていた。見てるだけでお腹が空いてくるようだった。
──僕たちはまだ知らない。たった今開いたこの重箱が、決して開けてはいけないパンドラの匣だったということを。