みなさんはどう思うかわかりませんが、自分は0話→プロローグと思っています、はい。
では前回の続きから、どうぞ!
「ほらよ、サイン。2つでよかったな」
「はい、ありがとうございます!」
雷光がたまたま寄ったライブハウスであるCiRCLEの店員まりなは、お店用と自分用に貰った雷光のサインを見て感激していた。
雷光はそれを何とも思わずに荷物をまとめていた。
しかしまりなはサインのある部分を見て不思議に思った。
「あの……一ついいですか?」
「なんや?今度は家族にでもサイン書け言うんか?」
「い、いえ……ただ、サインに"風林火山"と書かれていないのが不思議に思って……」
「………………」
そう、まりなは雷光が書いたサインにバンド名、風林火山と書かれていなかったことに疑問を覚えたのだ。芸人でも自分のコンビ名は添えるように書くものだが、バンド名もそれと同じのはず。なのにそれがないのは何故なのかと、その理由をまりなは知る由もないのだ。
雷光はまだ自分と風林火山のメンバーしか知らないことをまりなに話してもいいだろうと思い、話しにくくて重たくなっている口を開いた。
「………それはな、オレが風林火山を抜けたからや」
「えっ……!?」
雷光が脱退の事実を告げるとまりなは驚いて少し後ろのめりになった。それを見た雷光は脱退した理由を聞かれているような気がして、さっき風林火山のメンバーとの間で何があってこのライブハウスに寄ることになった経緯を話した。
「……ってことや。だからオレはそこに風林火山の名前を書かんかった。風林火山が好きやったんなら、すまんな」
「…………………」
まりなは雷光の話を聞くとだんまりとしてしまった。きっと失望したのだろうと雷光自身は思っていた。
しかしまりなは何か考え込んでいる様子も見せていた。そんなまりなはついに何かを決めたように口を開いた。
「あの、ご迷惑でなければ……」
「ん?」
「…………ご迷惑でなければ、ここで働いてみませんか?」
「………は?」
その提案はあまりにも唐突で雷光の思考は一旦停止した。
「だって雷光さん、お仕事を迷っているんですよね?それでしたらライブハウス、ちょうど良くないですか?」
「う〜ん、確かにな……」
「どうですか!?」
雷光の思考が復活して考える仕草を見せると、まりなは輝いた期待している目で雷光を見つめた。
「………ちょっと考えさせてくれるか。返答は必ずするさかい」
「っ……わかりました!」
雷光は返答を保留にしてスタジオを出た。まりなは検討してくれるだけでも嬉しく思っているようで、元気よく頷いて雷光の後を付いていった。
「さて、どうするかな……」
雷光は自宅で帰りに買ったお酒を飲みながらまりなから言われたことを考えていた。さらに飲む前につい〇たーで風林火山脱退を呟いたので、今そこのタイムラインのバンドファンは騒いでいるだろう。
さて話は戻すが、雷光が迷っている理由はバンドを抜けたことで自分は音楽に携わることに少し抵抗を覚えていること。そして、まりなが求めているのは
雷光の中では、まりなは風林火山の響木雷光を頼ってあんなことを言ったのではないだろうかという考えが強い。
雷光は机に突っ伏してお酒の缶を見つめながらだんまりとして、いつの間にか眠りについてしまった。
「ん……うぁぁ……うるせぇ……」
翌日の昼、缶が転がる机で目が覚めた雷光はスマホから鳴る着信音にうなされながらもなんとかそのスマホに手をつけて、通話の相手を確認せずに電話に出た。
「ん……もしもし?」
「あ、雷光!一体どういうことだよ、脱退って!」
「あぁ?うるせーな、涼真……」
「そりゃあうるさくもなるわ!」
電話の相手は
涼真は主にバンドイベントなどを主催している会社に所属していて、その会社が運営しているライブハウスでは何度かライブをしたことがある。
「まぁ、お前には色々世話になったしな……」
「全く、その通りだ。で、これからどうするんだ?」
「これからか……まだ考えてるとこや」
雷光は涼真に昨日の出来事は話さなかった。それは、「どうせあのライブハウスに行くのを迷っているなら断って自分の会社に来い」とか言われそうだからだ。
「お前のことだ。どうせ音楽を続けようかってところから迷ってるんだろ?」
「正解……なんか嫌になってな、色々」
雷光はそう言いながら昨日の出来事を思い返して目つきを悪くした。
「ふっ、そうか。なら今度やるフェスのコンテストに来てみないか?」
「コンテスト?オレに審査員をしろとでも?」
「違う違う。ただ見るだけでいい。部屋を用意して中継を繋いでやるからさ」
「いや、でも……」
「どうせ暇なんだろ?だからいいじゃん」
「なんやねん、その言い方………見に行くだけやからな」
「了解。場所とかはら〇んで後で送るから見といてくれよ」
「はいよ」
「んじゃ!」
雷光は涼真との通話が終わるとため息をついてスマホを机の上に置いた。
「……片付けるか」
雷光は机とその周りに散らかっているお酒の缶を見てため息混じりにそう言って片付けを始めた。
「おっす雷光!」
「久しぶりやな。せや、出演バンドのリストあるか?」
「なんだよもうちょっと再会を喜ぼうぜ……はい、これが今日出演するバンドのリストだ」
「ありがとう……ほう、やっぱり聞いたことある名前がいくつかあるな」
雷光は涼真から手渡された今回のコンテストの出演バンドリストをバンド名をひとつひとつ確認するようにじっくりと見た。
その中には雷光も聞いたことがあるバンド名もいくつかあり、このコンテストの貴重さを表していた。
「当たり前だろ?なんたって、"FUTURE WORLD FES."のコンテストだ」
「そうやな……(オレも出たかったな……でも今となっては叶わぬ夢、か)」
FUTURE WORLD FES.はバンドをしている人なら誰でもそこを目指すと言われているフェスで、所謂このジャンルでは頂点と言われるフェスでもある。それに参加するにはコンテストで優勝もしくは入賞する必要がある。そのコンテストはアマチュアでも参加できるがプロでも落選が当たり前。その狭き門だからこそそのフェスを目指す人も多いのだ。
そしてそれは雷光も同じ。風林火山なら確実にフェスに出れると確信していた。だが実際は他のメンバーの理想はそこまで高くはなく、フェスを目指していたのは雷光のみであった。脱退した今となってはその夢を叶えることは難しく、雷光はフェスに出ることを諦めていた。
「あと30分ぐらいでコンテストは始まるから、もう少しだけ待っててくれ。そこのテレビ付けたらステージの様子がみれるから」
「あぁ、ありがとう」
「じゃ、俺は仕事があるから。またコンテストの後でな」
「あいよ」
涼真は必要なことだけを言い残して部屋から出ていきステージの方へ向かった。
ドアが閉まると雷光は涼真に言われたテレビの電源をつけた。
「お〜流石に観客多いな〜」
雷光は画面に映ったステージ前にコンテストの開始を心待ちにしている観客の数に感心した。そして雷光は再びリストに目を向けた。
「なんか色が違うバンドがいくつかあるな……えっと、"注目のバンド"か……」
雷光はリスト内のいくつかのバンド名の色が違うことに気がつき、そのバンドを上から順にチェックしていった。
そのバンド名はやはりと言うべきか、雷光が名前を知っているバンドであった………"ある1バンドを除けば"……
「"Roselia"……?聞いたことないな……」
その
「Roselia……最近結成された"ガールズバンド"……ガールズバンド?」
ガールズバンド……女の子のみで結成されたバンドを世間はそう呼んでいる。
Roseliaはその中でも最近結成されたバンドで、実力はまさにトップクラスである。さらにネットには、"今回のコンテストの有力候補"とまで書かれていた。
雷光は再びリストに目を向けて、"ガールズバンド"という単語は涼真から聞いたことはあるが、そこまで詳しくは知らない。『女の子がバンドを組むのは珍しい』程度のことしか思ってはいなかったが、それがこんなコンテストまでに及んでいるとは知らなかった。
この機会にリスト全てのバンドをネットで調べると、その全てがガールズバンドだった。詳しく調べると今日のコンテストはガールズバンドの部であったらしい。
「そう言えば今回からフェスは2日間になったとか発表があったな……忘れてたわ」
そう、今回のフェスは2日間で行われる。
1日目はそのガールズバンドのフェス、2日目はガールズバンドを含めた全バンドのフェスが行われる。
『キャーーー!』
「お、はじまるか」
雷光はテレビから歓声が聞こえるとリストを机の上に置いてテレビに映るステージを見つめた。
どのガールズバンドの演奏も良かった。
女の子でも男と同じように、音で人を魅了できるのだと身を持って感じされられた。流石はコンテストに出るだけのことはあると言えよう。
そして、演奏はRoseliaの番となった。
「さて、一体どんな演奏するんや?」
雷光は期待の目でテレビを見つめて演奏の開始を待った。
「エントリーNo.16、Roseliaです。曲は、『Re:birth day』」
曲が始まった時、観客は大きな歓声をあげた。そして雷光はその演奏を聞いて思わず席を立ってしまった。
「嘘やろ……これで最近結成されたバンドやと……!?」
その演奏は、最近結成されたバンドとは思えない完成度だった。同時に雷光もそのRoseliaに魅了された。
すると気づいた時には、雷光は走り出していた。向かう場所はもちろん、ライブ会場。
関係者専用の通路にはライブ会場を見下ろすことが出来るところに繋がる入り口があるため、雷光はそこを目指した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
雷光は息を切らしてその場所の扉を閉めてゆっくりと柵に近づいた。そしてステージを見下ろしてRoseliaの姿を見つめた。
「やっぱり来たか……」
「涼真……」
「凄いだろ、あの子達」
「あぁ、これなら入賞は確実やろ……」
「そうだな。入賞なら、な……」
「……どういうことや?」
「そのままの意味さ……」
「わけわからん……」
2人は会話さえしていたが、その目はRoseliaから離れてはいなかった。
とてもその小さな体から出たものとは思えないほどの音を出しているドラム。
「あのツインテールの子が
とても綺麗で正確な音色をしているキーボード。
「あの黒髪ロングの子が
全体を見事に支えて、曲の素晴らしさをより高めているベース。
「あの茶髪のポニーテールの子が
焦らず冷静で正確に弾いていたが個性的な音をしているギター。
「あの水色のロングヘアの子が
そして会場を圧倒し、バンド全体を引っ張っているボーカル。
「そしてあの灰色のロングヘアの子が
この5人の個々の実力もトップクラスだが、バンド全体としてもバランスが良く見事に音がマッチングしていて、曲の質を上げて観客を魅了していた。
雷光はボーカルの子の名前を聞いてそれがどこか聞いたことのあるものだと気づいた。
「確かボーカルの子の名前は湊友希那ちゃんやったな。湊、湊…………あっ、まさか!?」
「お、気づいたか?そう、あのボーカルの子は"あの湊"の娘だ」
雷光は『湊』という名前を必死に頭の引き出しから探しまくって、ついにその名前の人物を思い出した。
そのバンドは人々を魅了したが、プロデビュー後しばらくするとその勢いは若干ではあるが落ちていた。売り上げとしてはよかったが問題なのは曲だった。プロデビューして少し経ったときの曲とそれまでのダイヤモンズの曲は何か違うものがあった。
その実態はダイヤモンズをプロデュースしている会社の思惑にあった。その会社は売り上げのためなら"バンドの個性"すら
それからダイヤモンズは解散を発表、表舞台から姿を消した。いつしかそのバンドのことは誰も話さなくなった……まるで忘れたかのように。解散の理由はメンバーの不仲説など色々あったが、その真相は"曲"にあったのだ。
そんなバンドのボーカル、優輝は雷光や涼真の知り合いで親友と呼んでもいい仲だ。雷光と涼真は解散した理由を飲みの席で優輝からこう聞いた。
『自分が、自分達が好きな音楽を会社はさせてくれなかった。これは趣味ではない、"ビジネス"で、俺たちの音楽なんていらないんだと。そんなビジネス音楽なんて嫌だ。俺たちは、俺たちの好きな音楽を世間に広めたくてデビューしたんだ。だけどプロの世界とはそういうものなのかと思って、解散にしたんだ。これがあの会社の実態さ……』
「そうか、あの子が……」
雷光はどこか懐かしく感じながら優しい目で友希那を見つめた。
実は雷光は昔に友希那と会ったことがあるのだ。それは友希那がまだ幼い頃で、優輝に呼ばれて湊家に行った時に少し話したりした程度であるが、その時の友希那を見ているからこそ、父親と同じボーカルとしてステージに立っていることがとても微笑ましく感じた。
「実はな、あの子はうちの会社のスカウトを断ったんだ」
「え?」
「うちの会社の奴が友希那をスカウトしたんだ。『受けてくれたら確実にフェスの舞台に立てる』って。でもあの子は
「へぇ……流石、優輝の娘やな」
優輝も実はメジャーのスカウトを受けた時、最初は断ったのだ。
「自分だけでは嫌だ。デビューするのはバンドメンバー全員でだ」と言い放ち、スカウトマンはそれを承諾したが、結果的にはああなってしまった。
「………いいバンドや」
そう様々な思いにふけながらライブを見ていると、パフォーマンスが終わったみたいで観客は始まった時よりも大きな歓声をあげた。
雷光もそのパフォーマンスには拍手を送るしかなかった。
「すごいな、あの子ら。これがバンドの……ガールズバンドの素晴らしさか」
「興味が湧いてきたか?」
「あぁ……じゃ、部屋に戻っとくわ」
「了解」
そして雷光は部屋に戻りコンテストの続きをそこから見た。
「お疲れさん」
「おい涼真、一体どういうことや?」
コンテスト終了後、雷光がいる部屋を訪れた涼真は雷光から睨まれて焦ってしまった。
「おいおいどうしたんだ?」
「どうもこうもないやろ………なんであのRoseliaが落選しとるんや?」
「あぁ〜………」
そう、Roseliaはコンテストに落選した。
入賞は確実だと雷光も、そして涼真も思っていたはずだ。なのにRoseliaは落選した。
「はよ答えろ!」
「わかった、わかったから……」
少し怒りが湧いている雷光を涼真はなだめて理由を説明した。
「審査員曰く、Roseliaには入賞してフェスで出てもらうより、優勝して出てもらいたいのだと。結成して日は浅いけどあの実力だ。だからそう思ったんだろう」
「ほう、そうか……」
「お前の気持ちはわかる。でもうちの会社はRoseliaに期待して敢えて不合格にしたんだ。来年、もっと素晴らしいパフォーマンスを期待して……それこそ優勝するぐらいにな」
「……なるほどな」
雷光は涼真の話を聞くとまとめていた荷物を持った。
「帰るのか?」
「あぁ、やりたいことみつけたさかいな」
「やりたいこと……?」
「あぁ、それはな────」
雷光はその"やりたいこと"を涼真に話すと、涼真はニヤッと笑った。
「なるほどな。それならもし
「ありがとうな。ほな、またな」
雷光はそう言うと部屋を出ていった。
その後、涼真は1人息を吐いて天井を見つめた。
「……さて、俺も頑張るぞい!」
────CiRCLE
「いらっしゃ……あ、雷光さん!」
「よぉ、姉ちゃん。返事しに来たで」
「本当ですか!?で、お返事は……」
雷光はその帰りにCiRCLEを訪れて、まりなからのこのライブハウスで働かないかという誘いの返事をした。
その返事は………
「………受けさせてもらうわ」
「本当ですか!?なら早速オーナーに……」
「ただし、それはオレのやりたいことが終わったあとや」
「やりたい……こと?」
「あぁ……オレは"ガールズバンド"に惚れてもうた。だから日本中のガールズバンドを見てみたいと思った」
「それなら、ここはガールズバンドの子がよくライブを……」
「わかってる。でもな確かめたいんや。ガールズバンドが、
「その、やりたいことって………」
「それはな────」
雷光が自分のやりたいことを語ると、まりなはどんどん興奮して目をキラキラとさせた。
「いいと思います……凄くいいと思います!」
「そ、そうか?そう言ってもらえると嬉しいわ」
「わかりました!オーナーには伝えておきますから、必ず帰ってきたらここに来てくださいね!」
「あぁ、約束する」
「が、頑張ってくださいね!」
「ありがとうな、姉ちゃん。ほなな」
「あ、あのっ……!」
「ん、どうした?」
まりなは去ろうとする雷光を呼び止めた。
「あの、その"姉ちゃん"って辞めてもらえますか?私には月島まりなっていう名前があるんです」
「………なんやそんなことかい。わかったよ。ほなな、
「っ……はい!」
そして雷光は今度こそCiRCLEを出ていった。まりなは服の胸のあたりを掴んで雷光が出ていった出口の方を見つめた。
「さ、仕事仕事!今日も残り、頑張るぞい!」
まりなはそれから仕事に戻った。
「さ、行くか。手始めに千葉でええかな」
そして雷光は、日本のガールズバンドの素晴らしさをその目で確かめるために東京を飛び出した。
雷光が涼真やまりなに話した"やりたいこと"……それは一体なんなのか?
それはまた、次回のプロローグで。
────続く
ありがとうございました!
作者はRoselia推しなのです……紗夜さんいいよね。
では次回からプロローグです。プロローグはどのように進むのか、お楽しみに!