ソレスタルビーイングによる武力介入に合わせて第三世代ガンダムが完成を迎え、秘密裏にテストを兼ねた武力介入が行われていく。
とはいえテストはトレミーチームではなく、何故かおれの方に回ってくる。
『GN粒子、広域散布完了。敵部隊の通信網遮断を確認』
テストには目撃者の数を極力減らすためと、世間に目をつけられない様に中小規模のテロリストの宇宙基地などを対象に行われている。
宇宙ならテロリスト同士の小競り合いで片付けられて目撃者も限定出来るからだろう。
「デビュー戦も近いからな。今日はお前ひとりでファイナルフェイズまでやってみなさい」
『はい。お兄さま』
おれがクルジスで拾った子供は一命を取り留め、腕も再生治療で治すことが出来た。その辺りも世界の数段先を行くイノベイドの技術があればこそだ。ソレスタルビーイングの技術よりも更に先を行く技術はイノベイドだから触れられるものだろう。
複製されたガンダムデュナメスを駆るその娘の名前はシルヴィア。
クルジスで拾ったから刹那と同じくクルジスの少年兵かと思ったら、白人の女の子だったでござる。土汚れと血塗れでわからなかったんだよ。
傷が深かった影響か、記憶をなくしていた。いやガンダムマイスターとして刹那と接する機会もあるのだから、記憶がないことはむしろ好都合だった?
「いやな考え方も出来るようになった」
この20年。リボンズの文字通り影として動いていたおれはそれはそれは陰湿な争いとか揉め事とか散々見てきた。
戦争根絶の為の大義に賛同してその人生を懸けている人が大半でも、一部にはやはり代替わりの折りにその志を忘れてしまった関係者も多い。
アレハンドロ・コーナーもそのひとりだけど、まだ若い上に自分の代で武力介入が行われるのを知っているから余裕もあるし、リボンズもアレハンドロ・コーナーの財力を利用して擬似太陽炉を造っているからアレハンドロ本人もコーナー家の悲願とやらの達成は座していれば転がってくると確信があるのだろう。
だが似たような連中はそうじゃない。いつ武力介入が行われるかもわかっていない者が多い。監視者はある程度ヴェーダから情報は貰えるものの、そうでない者は逸る者もいる。
そういった連中の排除もいつもおれの仕事だ。
リボンズめ。雑務は全部こっちに放り出しやがって。
でもその代わりにおれがガンダム開発計画や私設戦力を持つことも容認されている。
GNPシリーズと、その運用母艦の開発。
GNTーX01 ガンダムゼフィランサスも更なる改装を受け第三世代ガンダム相当の性能を持ったGNPー01 ガンダムゼフィランサスとして生まれ変わりよりGP01 ゼフィランサスに近い外見のガンダムとなった。
まぁ、今乗ってるのはそのテストの為に新造したGNPー00 ガンダムブロッサムだけどね。
この機体はツインドライヴ・システムのシステムテスト機としても造られている。
ツインドライヴ自体は第二世代ガンダム時代に研究されていた技術だが、どうしても2基のGNドライヴの同調が出来なくてお蔵入りになっている。
だが今は擬似太陽炉といういくらでも弄り回せる太陽炉がある為、再び日の目を見ることになった。
擬似太陽炉はリボーンズガンダムと同じく肘の部分に搭載され、核融合炉はコアファイター側に搭載されている。ちなみにこのツインドライブ・システム、リボンズには内緒で搭載されている。
だからGNPシリーズであるおれのガンダムでもこのブロッサムにしか今のところは搭載されていない。搭載予定ならサイサリスとステイメンにもあるけど。
てかGPシリーズが化け物過ぎてそれを再現頑張ったからブロッサムの時点でスペックが第三世代ガンダム越えてて恐い。
ゼフィランサスでさえ推力はνガンダムより上なんだぜ? フルバーニアンなんかフェネクスより推力上で、サイサリスでもシナンジュより推力上って。
確かにMSの性能が推力で決まるわけじゃないし重量にも違いがあるから出力=機動力にはならないだろうけどさ。それでもそれだけの推力が0083の時代で実戦配備されていて、Z時代後半の高級MSにも及ぶ性能はあっただろうGPシリーズってやっぱ頭おかしいぞアナハイム。
このブロッサムも推力はサイサリスには及ばないが、ゼフィランサスよりは上だ。さらにGN粒子の質量軽減効果も合わさって高い機動力を有している。そこにツインドライヴが合わさってもうコレ性能的には第四世代行ってないかな?
武装の大型ビームライフルも手のコネクターからGNドライヴに直結出来るため高い威力を発揮するものの連射が出来ないため、ゼフィランサスと同じビームライフルを装備して出撃する事になるだろう。
そんなブロッサムの強みはレドームセンサーによる高精度射撃能力とレドームパーツ自体がGNフィールド発生器を兼ねている為、ツインドライヴと連動させて高い防御力を発揮出来る点だろう。
またこのドラムフレーム部を換装すればソレスタルビーイングの各ガンダムのパーツでも装備可能である。
わかりやすい様に青と白に塗装されているシルヴィアのデュナメスは確実にテロリストのMSを撃ち落としている。ジンクス用のGNロングライフルを使いティエレン宇宙型を撃墜していく。
シルヴィアの射撃はリヴァイヴ仕込みだからなぁ。ロックオンとも良い勝負になるだろうけど、シルヴィアはスナイパーっていうわけじゃない。射撃も出来るマイスターだってだけだ。
デュナメスに乗せているのは、デュナメスが一番シルヴィアの戦いかたに合っていただけだ。強化改造も施し腰のGNバーニアは2基から4基に増設してあり、サダルスードのパーツも組み込んで新しいガンダムに見える偽装もしてある。フルシールドの代わりにGNフィールド発生器を増設したセンサーシールドを装備しているからGNフィールド発生時ならヴァーチェ並みの高い防御力もある。
そしてそんな射撃ガチ機体に反して唯一異端な装備は両腰のアタッチメントに装備されている二本のGNブレイドとGNミサイルを外してまで増設したスカートアーマーのGNバーニアとそこに内蔵しているGNダガー、足にはデュナメスと同じくGNビームピストルが外付けされている。
このガンダムは胸部に核融合炉、ケルディムやサバーニャの様にGNドライヴは腰に位置している。型式番号はGNNー002 ガンダムゲリンゼルとなっている。
この装備はシルヴィア本人のオーダーだ。ビームサーベルよりもGNブレイドを好むし、射撃も近接も得意なのは少年兵時代の身体が覚えている戦い方なのだろう。パーツ干渉しないようにセンサーシールドは接続アームの延長やOSの調整までする程だった。
果敢に接近戦を挑むティエレンもいるが、あれは敢えて懐に誘い込んでスカートアーマーから抜いたGNビームダガーをサーベルモードにしてティエレンを切り裂いた。そのまま別のティエレンにはGNロングライフルで四肢を撃ち抜きながら接近し、GNビームサーベルで胸部を突き刺した。てかやり方がえげつねー。リヴァイヴの仕込みか?
「っと、悪いけど見逃せなくてね」
逃げようとする中型の輸送艦。中は非戦闘員も居るだろうけど、ガンダムを見た人間は生かして逃がすことも出来ない。
大型ビームライフルを構え、GN粒子を充填する。
核融合擬似太陽炉は粒子の色が蒼い為、粒子ビームもセンチネル系みたいに蒼いビームを撃つ。
そんな蒼いビームが輸送艦を貫く。
護衛のヘリオンがこちらに気付いて向かってくる。シルヴィアも彼方は片付け終わる頃だろう。
「速攻で決めさせてもらう。トランザム!!」
トランザムの理論はわかっている為、その機能を実装するのも簡単だ。もっともやはりツインドライヴと同じく今はこのブロッサムにしか搭載されていない機能だ。
ゲリンゼルもトランザムは可能だが、ヴェーダ側から情報を秘匿して貰っている。
機体が赤く発光し、高濃度のGN粒子が脳量子波を高め、接近してくるヘリオンの機動予測が未来予知染みたものとなり、レドームの解析能力も上がったことで所謂置き射撃で2機のヘリオンを撃墜する。
「っぅ……ふぅぅ…」
小さく息を吸い。大きく息を吐く。命を奪うことに忌避感はないが、それでも戦う者ならともかく戦わない者まで殺すのは毎度のことながら気分はあまりよくはない。
『敵基地の制圧を完了しました。お兄さま』
「よし。データからガンダムに関するものはクラックしてダミーにすり替える」
完璧に片付けないのはフォンの例もある為だ。あまりに綺麗すぎて情報操作からソレスタルビーイングの存在に気づかれかねないからだ。
こうした秘密裏の武力介入を続けながらガンダムのテストを続けていく。
トレミーチームにはシルヴィアが合流し、ついでに何故かおれもシルヴィアのお供でソレスタルビーイングに正式合流する指令がヴェーダから回ってきた。
◇◇◇◇◇
ソレスタルビーイング。戦争根絶を掲げる私設武装組織。世の中から戦いを無くすために生まれた組織。
お兄さまが働いていらっしゃる組織。わたしが属する組織。
「シルヴィアちゃーん、今ヒマかなぁ?」
手招きをしながらわたしを呼ぶのはお兄さまの妹さま。ヒリング姉さま。
「なんでしょうか? ヒリング姉さま」
「ヒマならさぁ。アタシに付き合ってくんない?」
ヒリング姉さまはわたしは苦手です。いつもわたしをいじめます。
「イヤとは言わないでしょ?」
「っ……」
掴まれた腕がビキッと痛む。容赦ない力で握られる腕に顔をしかめてしまう。
「あら、どうしたの? かわいい顔が台無しよシルヴィアちゃーん?」
「ぅぅっ……」
痛くても耐えないとならない。逆らったらもっと酷くなる。
「こーんな弱っ子。なんでルインズは贔屓するのかしらね? アタシの方が優れてるのに」
「ぁぅ…っ」
メキッと骨が軋む。
「アタシに頼めばマイスターに潜入するくらいしてあげるのにねぇ。なんでアンタに話が行くのかしらねー?」
「そ、それは……」
それはわたしにもわからない。ただわたしはお兄さまの為にMSに乗っているだけで。
「なにをしているんだ。ヒリング」
「ありゃリヴァイヴ。別になにもしてないわよ?」
パッと手を放すヒリング姉さま。リヴァイヴ姉さまが来てくれてわたしの腕は助かった。
「ウソをいう。来なさいシルヴィア。ヒリング、この件は一応黙って置こう」
「はいはい。やぁね、アタシだけ悪者で」
「事実悪者だろう。いくぞシルヴィア」
「あ、はい…」
ヒリング姉さまが物凄い睨み顔でわたしを睨みながら、わたしはリヴァイヴ姉さまに手を引かれてその場から逃げ出せた。
「あまりヒリングと二人きりになるなと言ったはずだが?」
「すみません。急だったので」
「リジェネ・レジェッタはどうした?」
「用があると姿を消してしまわれて」
「チッ、使えんやつめ」
ヒリング姉さまはこわいですが、リヴァイヴ姉さまは別の意味でこわいです。リジェネ兄さまはよくわかりません。
「リヴァイヴ姉さま、もう平気です」
「なにをいう。骨にヒビが入ったはずだ。君は計画の為に必要だ。この様なことでヴェーダの計画に穴があってはならない」
リヴァイヴ姉さまは優しいです。でも義務感の様な優しさなので、お兄さまの様にわたしを愛してくれる優しさとはまた違います。
「ヒリングの醜い嫉妬など気にするな。君は人間にしてはよくやっているよ」
「すべてお兄さまのお陰です」
お兄さまが居るからわたしの人生は意味を持ちます。MSに乗るのもそれでお兄さまの手伝いが出来るからです。
「そうだね。彼のお陰で君はここにいる。でなければ私も君の面倒は見ていない」
「はい…」
リヴァイヴ姉さまもお兄さまを慕っている。だからわたしの面倒も見てくれます。ヒリング姉さまが嫉妬するのもわたしがお兄さまの妹だからでしょう。
「君が余計な傷を負って彼の手を煩わすわけにはいかない。わかっているね?」
「はい」
だからお兄さまはヒリング姉さまがわたしをいじめている事を知らず、リヴァイヴ姉さまも報告せず、わたしも何も言いません。
to be continued…