Fate/Grand Ordar The lost memory   作:カラクリヤシキ

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運命の歯車が近づく…


聖女の決断

(くじ)引きですか?」

 

朝になり、聖人の英霊を早く見つけるために手分けをして探すことになったのを聞いたまりーさんが、籤で分けて決めることを皆さんに話をした。

 

 

「ええ、だって手分けして探すのですから、ここはやっぱりくじ引きで決めましょう!アマデウス、作って頂戴!」

 

「ただ君がやりたいだけだろう。まぁいいけどね。えーと、手頃な枝は…」

 

やれやれと言いながらも、あまでうすさんが籤に使えそうな木の枝を探してくれている。

 

籤引きですか…

 

 

「籤を引くのは、久しぶりですね…」

 

「黒猫さんってくじ引き、あまりやったことないんですか?」

 

「はい。どちらかといえば、おみくじみたいな物を作っていた方が多かったですね」

 

本当に懐かしい。戦場で作戦を決める時に作っていたことを今でも思い出せる。そういえば、沖田さんにも一度だけ籤をつくってあげましたね。

 

 

「おみくじを作ってたの?珍しい…」

 

「ええ、立香は、作ったことはないんですか?」

 

「ないよ。たぶんマシュもロマンもないんじゃないかな」

 

「ドクターの方は、わかりませんが私も経験がありません」

 

「私は、日本に行ってませんからね…」

 

『僕もないなぁ』

 

じゃんぬさんのような外国の方ならわかりますが、立香は日本人だから一度は作ったことがあると思いましたが…まぁ沖田さんも作っていませんでしたからね。

何百年以上も経てば変わるのも当然ですか…

 

 

「僕もマリアも作る機会という以前に出身は日本じゃないからね…よし、できた。大きい枝と小さい枝で分けたから引いてくれ」

 

あまでうすさんが七本の木の枝を下の部分が見えないように隠して握っている。今度は、誰と行くのか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は…じゃんぬさんとまりーさんの三人で行動するんですね」

 

みんなが引き終えて、2つのチームに分けられた。黒猫さんの方は、ジャンヌとマリーの三人で行くようだ。

数は、私達より一人少ないけど戦力で見れば意外と釣り合ってる感じがするから心配はなさそうかな。

 

 

「僕の方は、立香にマシュとジークフリートのところなんだけど…心配だな…」

 

アマデウスがマリーを見て悩んだ様子を見せている。

やっぱりマリーのことが心配なのかな。

 

 

「マリーのことが心配?」

 

「あーうん、できれば離れないように行動したかったけど、(くじ)で決めたことだしね。マリア、あまり寄り道するんじゃないぞ」

 

アマデウスは、くじの結果を妥協してマリーに注意する。

今更だけどアマデウスとマリーって会った時から仲がいい?ような、マリーが音楽バカって言うくらい結構遠慮がない感じだったよね…生前でどこかで会ってたのかな?

 

 

「大丈夫よ。こっちにはジャンヌと黒猫さんがいますから」

 

「…そうだね。君の宝具は、足が速いし、ジャンヌは、防御特化で黒猫は格闘が強くて…あれ、よくよく考えてみれば心配されるのは僕たちの方?」

 

確かに数は、私達の方が一人多いけどもジークフリートは、呪いのせいで戦うことなんて出来なくて、私もマシュ達のように前に出れないから戦力外。

 

マシュは、英霊の力を持っているけどまだ私と同じで戦闘にまだ慣れてない…だけど

 

 

「マシュは、凄く頼りになるから大丈夫!」

 

「先輩!」

 

マシュには、冬木っていう街から今まで守ってくれてたんだ。頼りないわけがない。

むしろ逆に私がマシュの言う先輩らしく出来ているのかが不安だよ…

 

 

「ましゅさんは、私も信頼を置ける方だと思いますよ。じーくふりーとさん。傷の方は、大丈夫ですか?」

 

「ああ、一日休めたお陰で歩ける程度には回復した。だが戦闘の方はまだ出来そうにない…迷惑をかけてすまない」

 

「いえ、謝ることはありませんよ。私も迷惑を掛けてる身ですし…治せるように早く聖人を見つけに行きましょう」

 

「…すまない」

 

ジークフリートの傷も最初に会った時よりもだいぶ回復しているように見えるけど、私の目じゃ見えない呪いがまだ治っていない。私も早く聖人を見つけられるように頑張らないと…

 

 

「ジャンヌさん。この通信機で一定時間に連絡し合いましょう」

 

「わかりました」

 

マシュがジャンヌに通信機を渡す。これがあれば聖人を見つけたらすぐに伝えることが出来る。

 

 

「無理はしないでね。黒猫さんもだよ!」

 

「わかりました」

 

「はい、立香も気を付けて!」

 

「それでは、行きましょう。アマデウス、無事に帰ってこれたら貴方のピアノを聞かせてねー!」

 

そう言いながらマリーも黒猫さん達と一緒に西側に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ。気になってたんだけど、アマデウスってマリーと生前で知り合っていたの?」

 

黒猫さん達が別れて見えなくなった頃にさっき分からなかったことを思い出して、それをアマデウスに聞いてみることにした。

 

やっぱり気になるよね…

 

 

『ん?立香ちゃんは、知らなかったのかい?結構有名な話なんだけどね』

 

「そんなに有名なの?」

 

『うん、何を隠そう其処にいるアマデウス君は六歳の頃に七歳のマリーアントワネット王妃にプロポーズしたんだよ』

 

「プ、プロポーズ!?」

 

生前に会っていたんだろうなって思ってたけど、まさかプロポーズをしてたなんて思わなかった。しかも六歳の頃にだなんて、あまりの早さにびっくりだよ。

 

 

「なんで生前の知り合ったかの話でその話が出てくるんだ…ちょっと待ってくれ。なんでその話を君達が知っているんだ!?」

 

『歴史に書かれてるからね。さっきも言ったけど結構有名な話でテレビにも出たくらいだよ』

 

「そんなに有名になるほどの話か?!子供の時の話だぞ。誰だ!その話を広めた奴は――――!!」

 

アマデウスが頭を押さえて天に向かって叫ぶ。

プロポーズの話が広まっているのは、恥ずかしいだろうけどそれにしては少しオーバーのような…なにかあったのかな。

 

 

『気持ちはなんとなくわかるよ。そのプロポーズは断られた話だからね』

 

断られてた話だったんだ…それは辛い…

 

「悪夢だ…あの話が有名だなんて…広めた奴は、絶対に悪魔かなにかだ」

 

「あはは…」

 

アマデウスは、頭が痛くなったのか額を手で覆う。それを見て乾いた笑みが思わず零れる。たしかに、告白した話が広がったら羞恥で悶えちゃいそうだよね…しかもそれが断られた話となると…内心で手を合わせる。ご愁傷様…

 

 

「今は忘れよう。うん。そうだ気になっていると言えば、僕も話していた時っていうより朝起きてから気になってたんだけどさ。その着物って黒猫のものじゃなかったかい?」

 

アマデウスが気持ちを無理やり立ち直らせたアマデウスが私の着ている羽織を見る。

 

 

「これね黒猫さんが貸してくれたんだ。意外と暖かいんだよ!」

 

「うん、暖かそうなのはわかったけど…」

 

「?」

 

「それ、返さなくてよかったの?」

…………

……

 

 

しまった…

 

 

「返し忘れてた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まりーさんとあまでうすさんにも聞いたのですが、じゃんぬさんも生前、何かを成し遂げたのですか?」

 

立香達と別れて歩いている道中に黒猫さんが私の生前の話を聞きたいと言ってきた。

 

 

「私の生前ですか…」

 

自分の生前で成し遂げたこと…これといって、自慢できるような話がないので、何を言えばいいのかわからず悩んでしまう。

 

 

「もちろんよ!ジャンヌは、私達の国フランスを救った聖女なんですから!」

 

私が迷っている時にマリーが満面の笑みを出しながらまるで自分のように私の行ってきたことを黒猫さんに話していく。

 

 

「まさか、国を救った人とは…じゃんぬさんは、凄い偉人なんですね」

 

「いえ、そんなに凄くはありませんよ…」

 

話を聞いた黒猫さんが私に凄いと言うが私自身、そんな偉人と言われるようなできた人間ではない…

 

 

「神の声を聞いた時から私は、この国を救うために戦争をしてきました…」

 

確かに私は、人々を救ったのでしょう。ですが同時に戦争で敵兵を殺し、そして私が率いていた兵士達も戦争で死んでいった。

 

 

「血を流す戦争でしか止めることも救うことが出来なかった私が…そんな血塗れの旗を持つ私が偉いとは思えません」

 

私自らが手を血で汚すことは、あまりなかった…ですが、私の指揮に従ってくれた兵士たちの戦争で流れた血が、敵兵の血が、見えない血が私の手と持っている旗に染まっているのを自覚している。

 

 

 

 

そんな私が聖人だと自信を持って言えるはずがない…

 

 

 

 

 

 

「ジャンヌ…」

 

「あっ」

 

マリーが心配そうに私を見ている。

いけない。あまりよくない雰囲気にしてしまった…

 

 

「すみません。あまり口で言うべきことではありませんでしたね…」

 

謝るが既に遅く、重い空気が漂う。私が原因でこのような空気にしてしまったことに心が沈む…内心でも謝罪をする。

 

 

 

「…私は、まだ貴女と出会ってまだ五日も経ってません」

 

そんな重い空気の中を歩いていると、黒猫さんが私に語りかける。

 

 

「貴女の生前のことなんて今聞いた事ぐらいしか知りませんし、何が好きで何が嫌いなのかすらもわかりません」

 

そう言って黒猫さんは、歩みを止めて私を見る。

その表情は、マリーのような心配しているものではなく…

 

 

「ですが、たった数日でも貴女がどのような人なのか。それぐらいならわかります」

 

可哀想なものを見たような哀れみのものでもない。

 

「生きている見ず知らずのフランスの兵士や民を救いたいと思って行動できる。とても心が強く、優しく、そして思い悩むことが出来る女性だと思います」

 

その目は、真っ直ぐに私を見ていて

 

 

「そんな行動も出来て、人を想える貴女が、汚れている人だとは思えません」

 

その言葉は、生前に関わった誰もが救国の聖女に対して語りかけているのではなく。

 

 

「ですから、もうそれ以上自身の身をあまり蔑まないでください。

貴女は、人を思いやることが出来る()い人ですよ」

 

 

 

ジャンヌ()を見て言ってくれているのだと感じ取れた。

 

 

 

「――――」

 

…ありがとう、そういった感謝の言葉を言うべきなのに、何故か口に出せない。そのように接せられるのは、神の言葉を聞いたときからなかったものだからか、自分でもわからない。

 

代わりに胸の辺りが少しだけ軽くなっているのがわかる。悪い感じではない…むしろどこか心地よく感じる。

 

 

「そうよジャンヌ、もっと胸を張ってくださいな!」

 

「…はい」

 

マリーが、初めて会った時にも見たその絶えない微笑(ほほえ)みを向けて(はげ)ましてくれる。

 

 

 

 

…気付けばさっきまで感じていた重い空気が消えているのがわかる。いつもの空気に戻っているのを実感する。

 

 

 

…改めて思います。

本当に私は、良い人達に巡り合えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それに貴女のような美人がそのような暗い顔しか出さないのはもったいないですよ」

 

「び、美人ですか……」

 

黒猫さんに美人と言われて、少し戸惑ってしまう。

美人?私が?…内心でもまだ混乱してしまっている…

 

 

「言われたことがないのですか?」

 

「はい…そのようなことは言われたことがなくて…」

 

「まぁ、それでは恋もしたことがないの?」

 

「男性と付き合ったことは一度もありません。子供の頃は、よく男の子と混じって遊んでましたし、その頃は髪の毛も短かったので男の子と間違われるくらいでした」

 

子供の時なんてやんちゃでしたし、恋をするような年頃の時なんて戦争をしていて、考えることもありませんでしたね…

 

 

「それは、もったいないわ!私がその頃の年なんて恋に恋していましたわ。それに14才になる頃なんてもう結婚もしました!」

 

「14!?そ、それは、凄い…」

 

私では考えられない若い年齢の時にマリーが結婚していたことに驚愕する。

英霊になったばかりのせいなのか聖杯の知識が僅かでもマリーのことを知ってはいたが、それは知らなかった。まさかそんなに早く結婚しているとは……

 

 

「ジャンヌも恋をすればいいと思うわ。そうすればきっと今とは違う世界が見えると思うから!」

 

「そういうものなんですか…?」

 

「そういうものよ!」

 

私は、話を聞いていてもいまいち実感できないが恋をしてきたマリーが言うのだから間違いはないのだろう。

 

恋…恋なんてしたことがないから、まだそれがどんな感じなのかもわからない。

 

 

でも…もし、そのような感情を抱くことになるのなら…

 

 

「じゃんぬさん?」

 

もし、贅沢が言えるのなら――――

 

 

「なんでもありません…行きましょう!」

 

 

私を見てくれる人に(それ)を向けたいな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処も襲われていましたか…」

 

「そのようですね…でも、他の街と比べたらそれほど壊れてませんね」

 

私のルーラーとしての能力を使ってサーヴァントを探知できた街に着いた私達は、街の中に入って辺りを見渡す。

既に他の街のように壊されている所が見られるが、酷い壊れ方をした所はあまり見当たらない。

もしかしたらこの街にいるサーヴァントがジークフリートのように襲撃を防いでくれていたのかもしれない。

 

 

 

この街にサーヴァントがいるはず……

 

 

「ん?じゃんぬさん達と似た生命力を持った人が近づいてますね」

 

黒猫さんが見ている場所を見ると、通路を歩いて近づいて来ている男性が見える。

白いマントの下に竜を象った鎧を着た長髪の男性…これほど近くにいればルーラーとしての力を使わずともこの人から強い魔力を感じ取ることができる。間違いなくサーヴァントでしょう…それに、この感じ…

 

 

「聖人のサーヴァント…?」

 

「…む?よくわかりましたね。初対面のはずですが……あぁ、そういうことですか」

 

目の前のサーヴァントは、腰に差している剣を抜くことはせずにこちらの動きを伺っている。

警戒していますが、あちらも襲ってこないところを見ると黒い私の手先ではないようですね。

 

 

「いきなり来てごめんなさい。私は、サーヴァント。真名はマリーアントワネットです」

 

「私は、黒猫と申します」

 

「…狂化はされていませんね。それにそちらは人間の方ですね…失礼な話し方をしてすみません。私は、ライダー、真名ゲオルギウス。この街を守っている者です」

 

マリーと黒猫さんのことを聞いたサーヴァントは、構えを解く。どうやら彼は、狂化されていないかどうかを確認していたようだ。

 

真名も明かしたということは信用してもらえていると思っていいでしょう。

 

 

「聖ジョージ、聖人ゲオルギウス。黒猫さん、やりましたよ!この方がもう一人の聖人です」

 

サーヴァントの真名を聞いた私は、思わず声を上げてしまう。まさかこんなに早く見つかるとは思わなかった…

 

 

「この方が聖人の…こんなに早く見つかるとは思いませんでしたね…」

 

黒猫さんもまだ見つからないだろうと思っていたらしく。見つけることが出来た聖人ゲオルギウスをまじまじと見ている。

 

 

「私を探していたようですね…事情を聞いても?」

 

「実はーーーー」

 

 

 

私達は、聖人ゲオルギウスに竜殺しのサーヴァント、ジークフリートに掛かっている呪いのことを伝えた。

 

あとは、彼が協力してくれれば…

 

 

「ーーそれで貴方にも協力してもらって、その呪いを解いてもらいたいのです」

 

「なるほど、邪竜を倒すためにその呪いを解きたいのですね…いいでしょう。この街の住人が避難を終えたら協力します」

 

「本当ですか!」

 

聖人ゲオルギウスが呪いを解く手伝いを二つ返事で答えてくれた。よかった…これで呪いは、なんとかなりそうです。

 

そうだ。この事を早く立香達にも教えなくては

 

 

「ありがとうございます!では、このことを立香達に伝えますね」

 

「ましゅさんから渡されてました物ですね。どんな道具なんですか?」

 

マシュから貸してもらった通信機を出すと黒猫さんが物珍しそうに通信機に見ながら聞く。通信機を知らないのでしょうか?

 

 

「これは通信機という物で、遠くにこれと同じものを持っている人と話すことが出来る道具なんですよ」

 

「そんなに小さな道具で…いつの時代も人の物作りには、驚かされますね…」

 

そう言って黒猫さんは、感心したように私の手にある通信機を見る。

黒猫さんがいたところには、なかったのでしょうね…あ、繋がりましたね。

 

 

『ジャンヌさん、何かありましたか?』(二人ともいい加減に静かにしてー!)

 

「聖人ゲオルギウスさんを見つけました。そちらは、問題ありませんか?」

 

『本当ですか!それは、よかったです。こちらの状況なんですが…』(はぁ!何で子ジカに指図されなきゃいけないの!?子ジカの癖に生意気よ!)

 

通信が繋がり、マシュと立香の声が聞こえたことに安心を覚える。あちらも無事のよう…なんですが

 

 

「あの、後ろから大きな声が聞こえるのですが…」

 

先程からマシュの声の後ろから?立香の声と知らない人の声が聞こえる。それに立香が、焦っているような感じが声から伝わる。

 

 

『はい…実は、先程、ティエールという街に着いた所なんですが』(子ジカじゃなくて立香だよ!というかこんなに煩かったら私にも通信が聞こえないよ!せめて戦闘は、やめようよー!)

 

マシュが説明している時にまた大きな声が聞こえる。

私の聞き間違えでなければ、戦闘という言葉が聞こえてきた…まさか

 

 

「もしかして、その街に敵のサーヴァントがいるのですか?」

 

『敵…とは違うと思います。それと私達が戦闘しているのではなくて、街に既にいたサーヴァント2名が戦ってまして…』(そこの蜥蜴(とかげ)に賛成する気はありませんが、貴女に止められる筋合いはありません。それよりも貴女の着ている見覚えがあるその羽織を後で渡してください)

 

『それで先輩が止めに入っているのですが…』(渡すわけないよ!もう、静かにしてよ。このは虫類達!)

 

また大きな声がしたと思った一瞬、通信機から聞こえていた煩い音がまるで無かったかのように静かになる。マシュも話してこないので何が起きているのかが、いまいち分からない…

 

 

『あ、すみません。また掛け直します!』(カチンと来ました…そこの蜥蜴(とかげ)を焼く前に)

 

そして間もなく、プツンッとその言葉を最後に切れてしまった。

………

 

 

「向こうの方、大丈夫なんでしょうか…それに何処かで聞いたことのある声が…」

 

黒猫さんが通信機を眺めながら心配そうに言う。それは仕方ないと思った。

 

 

「大丈夫と言ってましたが、心配ですね…」

 

「こちらの避難が終わりましたら急いで戻りましょう…ん?」

 

黒猫さんが話を中断して視線を空に向ける。

私も察知出来たので黒猫さんがいきなり空を見た理由が分かる。

 

それにこの感じは…!!

 

 

「ワイバーンですね。最近よく襲撃してきますね…」

 

「いえ、それだけではありません…竜の魔女も来ています!」

 

「なんですと!」

 

 

今の私達があの竜に見つかれば助かる見込みは限りなく少ない。早くここから離れなくては…!

 

 

「早くここから離れましょう。今の私達では勝てません!」

 

「……それは、無理です」

 

「え?……あっ」

 

ゲオルギウスが見る方向に街の人がいる。そうだった…まだ避難している途中でした。

 

 

「ここは、私が残りましょう。あなた方と街の人達を避難させる時間くらいなら稼いでみせます」

 

「っそんなことをしたら…」

 

「死ぬでしょうね…ですが、彼らを見放すことは出来ません」

 

ここにゲオルギウスを置いていけば間違いなく殺されてしまう。それは、ゲオルギウスも理解している。

もし、ゲオルギウスを連れて私達が離れれば、まだ避難できていない街の人達が殺されてしまう。最悪の場合、全滅に…それは、絶対だめだ。

 

でも、此処に私達が残ったとしてもあの竜には勝てない…

 

 

いったいどうすれば……

 

 

 

「そんなに悩まないでジャンヌ」

 

「…マリー?」

 

私の横にいたマリーが微笑みかける。そして、心配しなくてもいいという風に言ってゲオルギウスに近づいていき…

 

 

「ゲオルギウスさま。ここは、私に任せてください」

 

マリーがこの街に代わりに残ると言った。

 

 

………え?

 

 

 

「…何故ですか?ここの人達は、貴女のことは全く知らない無縁の方々ですよ。貴女が命を掛ける意味は…」

 

「意味はありますわ。それはもうすごく大きな」

 

ゲオルギウスも何故マリーが残ると言ったのか分からないようだ。私も、いきなり何でそんなことをマリーが言ったのかが全く分からない…どうして…

 

 

「確かに此処の人達は、私が王妃であることも知りません。だって私が生まれるずっと前の時代ですもの。知らなくて当然です」

 

そう、この時代には、まだマリーアントワネットは、まだ生まれていない。存在していないのだから誰一人として知っている人なんていない。

 

なら、なんで…

 

 

「でもね。過去も未来も、私にとっては関係がありません」

 

マリーの声が少しずつ大きく上がっていく。

 

 

「私は、王妃!マリー・アントワネット!民を守るのが私の役目!その役目を持つ私が民の危機を守らなくてどうするというんです!」

 

 

胸に手を当てて高らかに宣言する。

私は、王妃だと。

今まさに、目の前で危機に(ひん)している民を守らなくて何が王妃だと言うんだと私達に言う。

 

彼女のその役目に過去や未来なんていうものは関係がない。

彼女は、どこに行っても王妃で、このフランスに住む民達は、彼女の守るべき人達になるのだと…

 

 

(でもそれは…)

 

無意識のうちに手に力が入る。

 

 

「だから、お願いします。ここは、私に譲ってください」

 

「…わかりました。そこまで言うのでしたら此処は任せましょう」

 

「ごめんなさい。そして、ありがとうございます。私の我儘を聞いてくれて…黒猫さんもごめんなさい。約束は、また何時かになりそうです…」

 

「な…」

 

 

黒猫さんは、その場で立ち尽くしてしまい。ゲオルギウスは、マリーに任せて後ろに下がる。

 

 

「…ぁ」

 

マリーが前に出るその一瞬、彼女の目を見る。見えてしまった…マリーの目が揺れたのがわかった…

 

マリー、やっぱり貴女…っ

 

 

「まって…」

 

「ジャンヌ、アマデウスに伝えてください。ピアノ聞けなくてごめんなさいって」

 

マリーの横に硝子(がらす)の馬が顕現(けんげん)し、その馬に(またが)る。

 

ピアノが聞けない…それは、つまりーーーー

 

 

「待ってください!まって、マリー!」

 

向かってはいけない。止まってくれとマリーに制止の言葉を掛ける。

 

 

「ジャンヌ。またどこかでお会いしましょう!今度は戦いがないお茶会でお話ししましょう!」

 

だがそれを言うのが遅かった。

 

マリーが硝子の馬を走らせながら私にその言葉を言い残して離れていった…

 

 

 

 

 

「…」

 

マリーがいなくなった場所を見ていた私は、顔を俯いてしまう。

 

近くにいたのに止めることが出来なかった…

止められなかったことに心中で後悔する。何故もっと早く言えなかったんだと…

 

でも、そんなことを考えていても現実は、変わることはない。

 

 

 

 

マリーが私達のために犠牲になるという現実が…

………

……

 

 

「…行きましょう」

 

ギリッ…

 

気持ちを押し殺す。

彼女を助けに行きたい…だけど、それは出来ない。

それを為せるだけの力もない。あの邪竜からマリーも街の人を全て守れるだけの力がない私が今出来ることは…一刻も早くこの場から離れること…

 

 

それ以外に方法なんて………

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それは、よくありませんよね」

 

 

 

 

 

 

 

「…黒猫さん?」

 

呟きが聞こえ、俯いていた顔を上げる。

私の前にいる黒猫さんがマリーの向かった場所をじっと見据えていた。

 

 

「お二人は、先に立香達のところに行ってください。私は、まりーさんの後を追います」

 

「なっ!?」

 

予想外の言葉に頭が一瞬真っ白になる。

だけど、すぐに我に返ることが出来たが、黒猫さんが言った言葉にまだ困惑してしまっている。

 

黒猫さん、何を言って…

 

「危険です!サーヴァントの身でも危ういのに人の身で、魔女の前に立てば間違いなく貴方も殺されてしまいます!」

 

黒猫さんが向かうことをゲオルギウスが反対する。それは、当然な理由だ。

いくら黒猫さんが強いと言っても人の身、サーヴァントを相手に戦うなんて無茶だ。

 

 

「人ではサーヴァントを倒すことは、容易ではありません。それにワイバーンなんて比にもならない邪竜もいるんですよ!置いていけません!」 

 

私も彼のことを止める。これ以上マリーのような犠牲を出したくない。そんな気持ちを持って彼に言う。

 

 

「相手方が強いのは、承知しております…その上で行くんです」

 

「なら!」

 

「…もし、御二人が此処に残り、万が一にでも、げおるぎうすさんを失ってしまえば呪いを解くことが出来なくなります。

じゃんぬさんは、立香達を守れる重要な人です。間違っても失うわけにはいきません」

 

 

確かに、ゲオルギウスを失ってはいけないことを私もマリーも理解している。黒猫さんが私の宝具で立香達を守れるものだということもわかっている。

 

でも、それで黒猫さんを置いていく理由には…!それに、そうならないためにマリーが…

 

 

「まりーさんもそれと同じくらいに…いえ、それ以上に失うわけにはいけません…失いたくないのですよ」

 

「……っ」

 

それを聞いた瞬間、止めようとした言葉が出なくなってしまった。

 

 

「一応じゃんぬさん達のような方々とは、一度戦ったこと(・・・・・・・)があるので戦い方は、心得ています。生き残ることぐらいなら出来ると思います…」

 

 

言葉が詰まってしまう。

 

黒猫さんに行かせないために説得しようとする言葉を出すことが出来ない。

黒猫さんは、マリーを助けたい…とは言っていないがその行動の理由がそれだということが十分に読み取れてしまった。

 

 

「………」

 

それを感じてしまった私は…マリーを止めることが出来なかった私には、これ以上止める言葉が出せないでいる。

このまま黒猫さんを向かわせたら帰ってこないかもしれないのに…

 

 

「でも…」

 

「…聖女、一つ御聞きしますが、彼の実力は?」

 

どうすればいいのか分からなくなってしまっている時にゲオルギウスが私に黒猫さんのことを聞いてくる。

 

 

「私もまだ把握しきれてませんが、一人でワイバーンを倒していますが…?」

 

「ワイバーンを…ふむ…」

 

私もまだそこまで詳しくない為、その程度の事しか言えないが、ゲオルギウスにはそれだけでも十分だったのか、少し考える素振りをした後に黒猫さんの方を見る。

 

何故いきなり、黒猫さんのことを…

 

 

「貴方に聞きます。剣に腕の覚えはありますか?」

 

「?多少ありますが…」

 

「そうですか……ならば…」

 

黒猫さんに質問して、それを確認すると彼は、自分の腰に差している剣を鞘ごと抜いていく。

 

 

………まさか

 

 

「これを貴方にお貸ししましょう」

 

「ーーーー」

 

内心で驚愕する。

今ゲオルギウスが渡そうとしている剣は、紛れもなく宝具。自身の生前から扱っていた武器を、それも会ったばかりの人に渡そうとしている。それに…

 

先程まで反対していたのに何故?!

 

 

「…よろしいのですか?」

 

「自衛が出来る力が無ければ無理にでも連れていこうと思ってましたが、ワイバーンを倒せる力があるようなので…ですが、サーヴァントもいるような戦場に何も持たせずに行かせるわけにはいきません。

宝具は、撃てませんがそれなりの剣です。大抵の敵ならば倒せるでしょう」

 

本来ならば最初のように止めるべきなんでしょうが…

そう呟きながら彼の前にその剣を渡すようにして彼の前に出す。

 

 

「ですが、一つだけ約束をしてください」

 

黒猫さんが剣を受け取ろうとした時、ゲオルギウスが黒猫さんの目を見ながらそれを言う。

 

 

「必ず、この剣を返しに来てください。それがこの剣を渡す最大の条件です」

 

生きて帰ってきなさい。

この剣を取り、戦場に向かうのであれば必ず生きて帰ってこの剣を返しにくるようにと…ゲオルギウスは、黒猫さんに言う。

 

 

 

「ーーーーわかりました」

 

カチャリと鞘と柄を持ち、躊躇なくそれを受け取った。

 

 

止めることが出来ない。

 

でもこれは、マリーのように止められないんじゃない…

もう黒猫さんの中には、行く選択以外にはないのだと…剣を持つ彼の姿を見て悟ってしまった。

 

 

 

おそらく、ゲオルギウスもそう感じたから止めることをしなかったのでしょう…

………

……

…ならば

 

 

「…黒猫さん。一つだけお願いがあります」

 

「なんでしょう」

 

 

ーーーー私も信じましょう。

 

 

小さく震えている手を旗を握って黙らせる。もし、この決断をするのなら早くしなければならない。一刻を争う事態なんだから…

 

 

「本当に危ないと思ったらなりふり構わず逃げてください。無事に戻ってきてください…」

 

あの時にマリーを止めることが出来なかった私が言えることは、これしかない…自分の非力さに胸を締め付けられる。

 

 

「――――ええ、わかりました」

 

その言葉を最後に黒猫さんは、この場から走り去っていった。

 

 

 

…信じていますからね。貴方が無事に戻ってきてくれることを…

 

 

 

 

「行きましょう」

 

「はい」

 

私と聖人ゲオルギウスは、立香達のいる街に向かって走り出した。

 

 

 

どうか主よ。あの二人をお守りください…




やぁ、こんばんは…。遅くに書いていてやっと書き終えたところです。予想より長くなってしまいました…
次の10話目の話の進行状況等は、活動報告に書かせていただいておりますので御時間がありましたら、どうぞゆっくりと見に来てくださいませ…!
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