Fate/Grand Ordar The lost memory   作:カラクリヤシキ

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一つ目の断片見たり


喪失者の断片

(いよいよ黒いジャンヌとの戦いか…)

 

昨日から考えていた作戦を成功させるために十分に体力を回復させた私達は、黒いジャンヌダルクがいるオルレアンの城に攻め込むために向かっている。

 

作戦は、正面突破という正面からのぶつかり合い。

私達に気付いているのなら隠れても意味がないからこその作戦だけど、戦力も十分になった今の私達ならそれが出来る。

 

 

(この作戦も重要だけど、一番重要なのは…)

 

戦闘で上手く隙をついてジークフリートをファヴニールに近づかせて、直ぐ宝具を撃つこと。

あの巨体や百戦錬磨の英雄達の隙を突いて宝具であの邪竜の倒す。それが次の戦いで一番重要なことだ。

 

サーヴァントの戦闘をまだ少ししか見ていない私でも、それはとても難しいことだと思う…だけど、あの邪竜を倒さなきゃ私達に勝ち目はない。

 

でも、あの邪竜もサーヴァントも絶対隙がないわけじゃない。望みはある。

 

 

(それに皆のお陰で私とマシュが此処まで来れたんだ。頑張らなきゃ失礼だよ)

 

特異点に着いて間もなく戦力も絶望的な差があったのにこんな正面突破の作戦が出来るのは、やっぱり此処で出会ったジャンヌを筆頭にしたサーヴァントの皆とマシュ、そして私と同じ人でもワイバーンだって倒しちゃうすごい力を持った黒猫さんのお陰だと思う。本当に感謝の言葉しか出ない。

 

 

「あれが目的の城だね」

 

遠くに見える城を見据える。

上空にワイバーンが飛んでいるのが見える城は、遠目から見ても人が住んでいるような感じじゃない。あちこちにワイバーンが飛び回っているその城は、竜の巣窟に見えた。

 

 

『サーヴァントの接近を確認。数は、三騎!巨大な生命反応も接近している。間違いなくファヴニールだよ!』

 

「やはり、あちらも私達のことを探知していますね」

 

ジャンヌの言っている通り、向こうも気付いてるんだろう。城から巨大な竜の背に乗った黒いジャンヌとワイバーンに乗ったサーヴァント達が私達のいる所まで一直線に向かってくる。

 

昨日思っていたことが現実になる。

最後は必ずぶつかるだろうって思ってたけど、やっぱりまだ緊張する…皆の足を引っ張らないようにしなきゃ…

 

 

 

 

 

 

「もう逃げ隠れをするのを諦めましたか?」

 

そうこうと自身の気持ちを整理をしているうちに、私達の前に黒いジャンヌがファヴニールと共に降りてくる。そして、ワイバーンに乗っていた向こうのサーヴァントも飛び降りてくる。

 

黒いジャンヌと一緒にいる英霊の二人も二度目の顔合わせになるけど、やっぱりファヴニールの威圧感と同じで圧迫される感じがする。

サーヴァントから発する敵意なのか、別のものなのかはわからないけど、あまりいいものじゃない…

 

 

「やぁ、マリー。また会えたね」

 

「…」

 

黒いコートを着た男性がマリーを見て口角を緩ませている。たしか彼は、サンソンっていう人だったかな。

 

 

「えぇ、ごきげんよう処刑人さん。それに白い騎士さん」

 

「マリーさんのお知り合いですか?」 

 

『黒い服を着た人がシャルル・アンリ・サンソン。生前このフランスで処刑人を生業としていた人だよ。そちらにおられるマリー姫を処刑した人でもあるんだよ』

 

「マリーさんの…」

 

黒猫さんがマリーを見てからサンソンを見る。

前に戦った時に教えてくれてなかったら最後まで真名も知ることが出来なかったサーヴァント。

マリーのことなら本か何かで知ってるけど、さすがに処刑人が誰かなんて調べたりしなかったから彼の事は、全く知らない。

 

 

『隣にいる彼?いや彼女?は、おそらく白百合の騎士シュヴァリエ・デオンだと思う。マリー王妃と関わりがあった白い騎士なんてその人くらいしか思い当たらない』

 

シュヴァリエ・デオン…この人もサンソンと同じで、知らなかった歴史の人物。

マリーの事は、知っているけど周りの人の事を知らない…冬木の時は、ドタバタで考えることも出来なかったけど、こういった細かいことが今後の人理修復の成功に大きく左右されるんだと内心で納得する。

 

次の特異点に行けれたら、少しでもいいから情報を得てから行こう。そのためにも先ずは…

 

 

「処刑人と騎士。どちらも国や人のために動く人達ですね…それの真逆をしているということは、あの御二人も」

 

『狂ってしまっている。そう思った方がいいだろうね。彼と彼女?の霊基パターンもバーサーカーだしね』

 

前にいる黒いジャンヌ達に意識を集中させる。

カルデアに帰れるか、帰れないか、なんて話は一端隅に置いて目の前にいるサーヴァント達の動きを見張る。

黒猫さんもある程度二人の事を知ることができたのか、黒いジャンヌ達の方に目を向ける。

 

 

「長話は、終わったかい?ああ、まだ続いてても、もう聞かないよ。僕は、早く君の首を斬りたいんだ」

 

サンソンが、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。だけどサンソンの視線は、私達じゃなくて…マリーだけを見ている?

 

 

「召喚されてから人を殺し続けたからか生前よりもずっと強く、上手く殺せるようになったんだ。

ああ、早くこの剣で君の首を斬りたい。早く君に上手くなった僕の剣を見せたい。もう一度君の美しい最期を僕に見せてくれ」

 

「…ちっ、シャルル・アンリ・サンソン…やっぱり生前から狂っていたのか」

 

…狂ってる。

サンソンから出る言葉を聞いて私もそう思った。

彼は、マリーしか見えてないんだ。

そして生前にやったことをまたマリーにやろうとしている。首斬りを彼は、より綺麗に、上手に殺せるように、美しい最期を見たいためだけに街や村にいた人達を殺し続けてきたんだ。

 

もしそれが本当だったら…それは、もう狂ってるとしか言えないと思う。

 

 

「何をしているのです。早く殺しなさい!」

 

「言われなくても今やるところだよ」

 

「…そうだね」

 

…来る!

サンソンが手に持つ剣を構える。デオンもレイピアを手に持つ。

サンソンが今まさに私達に、マリーに向かって斬りつけようと走り出そうとする。

 

 

 

 

 

 

ドッ

 

 

 

 

それと同時だった。

デオン(・・・)がサンソンの後ろに向かって走り、その勢いで背中をサーベルで貫いた。

 

 

 

「かっ…ぁ…」

 

デオンが突き刺したサーベルを引き抜く。

引き抜いた胸元から血が漏れ、服を血の色に染めながらサンソンが俯せになって倒れた……え?

 

 

『え?何が起きたんだ!?映像が少し荒いからよくわからないのもあるけど、マシュ教えてくれ!』

 

「は、はい。たった今、戦闘になるはずだったのですが…シュヴァリエ・デオンがシャルル・アンリ・サンソンの背中を武器で貫きました」

 

『えぇ!?どういうこと?!』

 

「わ、私も分かりません」

 

ロマンとマシュが分からなくて混乱しているけど、それは二人だけじゃない。私も目の前で起きたことが分からなくて混乱している。

なんで敵であるデオンがサンソンを…?

 

 

「な…ぜ…?」

 

「何故?そんなもの決まっているじゃないか」

 

デオンは、血に塗れたサーベルを振り払いながら地面に俯せになって倒れているサンソンの言葉に返事をする。

 

 

「王妃に刃を向けるのならば、私が何もしないのは不自然だろう?」

 

王妃、マリーを殺そうとしたんだから当然排除するだろう。当たり前のことをしただけだとサンソンに言う。

 

たしかに王妃に刃を向けた人を騎士が倒すのは、なんとなく分かるけど…

 

(狂化されてるのにそんなことが考えられるの?!)

 

「な、なんで、確かに狂化を付与してるはずなのに!?」

 

「狂化…うん、そうだよ。僕は、君に狂化を付与されてまともな思考も出来てないよ。今だってこの国の人を殺せって体を熱くさせてるよ…」

 

黒いジャンヌもまさかこんなことになるとは考えていなかったらしい。それだけ狂化が強く、命令を聞かせる自信があったからなんだろう。

 

だけど狂化も絶対じゃない。聖女マルタのように狂化に抗うことが出来た人もいる。

でも、それにはとても強い精神が必要になるはず。だけどデオンは狂化に抗うことが出来た…ということは、デオンも強い精神力を?だとしても、何で今…?

 

 

「狂化でやることが色々と矛盾しちゃったけどね…でもね竜の魔女。これだけは言わせてもらうよ」

 

デオンが見上げ、ファヴニールに乗っている黒いジャンヌを見る。後ろ姿だから分からない。でも、声で怒っているのが伝わる。

 

 

 

「――――英霊を、白百合の騎士をなめるな」

 

ズッ

 

逆手に持ったサーベルでデオンは、自身の胸に目掛けて突き刺した。

 

「なっ…」

 

「これで…もう貴様の命令に従うことはない…」

 

心臓に向かっての一突きで霊基を破壊したことで現界を維持出来なくなったデオンの体から金色の粒子が出始めている。霊基を破壊したから現界が出来なくなっているんだ…

 

 

「この国を…王妃を守ってくれた君達に感謝を…」

 

デオンが私達を見て感謝の言葉を言う。

その雰囲気は、今まで感じていた狂った感じではなくなっている。

 

狂化が無くなった姿を見て、その人の言葉を聞いてようやくわかった。この人は、マリーが無事だったから最後の最後で抗ったんだ…憶測でしかないけども、そう思えてならなかった。

 

だって、その声色は、今から消える人のそれではなく…

 

 

「君たちの戦いを応援するよ。もし呼んでくれたら…この剣、全力で振るわせてもらうよ」

 

とても穏やかに金色の粒子となって消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄金の光となって消えていくところを最後まで見届ける。

話の通りなら彼女?…シュヴァリエ・デオンという方も、あの深緑の女性と同じで無理矢理『狂化』という呪いのようなものを付与され、この国の人々を殺し続けさせられていたのだろう…

 

 

「ぐ…ぁ…」

 

「おいおい、いくら何でもしぶと過ぎだろう」

 

ズッ…ズッ……

もう一人の敵である英霊、サンソンという方が、胸から血を流しながら地面を這いずり、ゆっくりと此方に向かってくる。傍目から見ても重症…それに、体から黄金の光になって消えていくのが分かる。

 

この方も長くはない…そのような体になっても動くのは…

 

 

「サンソン。貴方は、本当にどうしようもなくて、可愛い人…」

 

近づくサンソンさんにマリーさんが近寄り、彼の頭を撫でる。

 

「生前に私の首を貴方は、斬りました。そして、今も情熱的に私の首を斬ろうとしているのも伝わっています」

 

「マリー…」

 

泣いた赤子をあやすよう狂化で感情を狂わせていた彼を落ち着かせるように頭を撫でる。

 

 

「でも、ごめんなさい。また貴方に斬られることは出来ません…」

 

「ーーーー」

 

「でも代わりに、これぐらいはさせてください。私が原因で狂ったんですもの…」

 

だからどうか、安らかに眠ってください。そうマリーさんが言葉を口にする。

聞いたサンソンさんは、一瞬目を見開く。そして、徐々に目をゆっくりと閉じていき…

 

 

「僕は…」

 

その言葉を最後にサンソンさんも黄金の光となってこの場から消えた。

 

…彼の言動は、狂人のそれでした。

ですが、最後に消える間際に見せた姿は、先程消えたデオンさんと同じようにとても安らいでいたと思えた。

マリーさんの言葉に救われたのか、それとも狂化というものが解けたからなのかはわかりませんが…彼も彼女?もまた深緑の女性と同じ被害者だったのでしょうか……

 

 

「なんでよ…」

 

静かになったこの場に女性の声が響く。

呆然と立ち尽くし、今まで口を閉ざしていた竜の魔女が小さく言葉を漏らす。

 

「忠誠なんて、信じるなんてくだらないものなんかで…狂化を付与したはずなのに…なんで、なんでよ!?」

 

小声から徐々に上げ、言葉に怒りと苛立ちを隠さずに声を荒らげる。彼女にとっても、あの二人がこのような事態も予想外だったのだろう。おそらく狂化というものにも過信したのでしょうか…

 

トットッ

 

 

邪竜の前まで歩いて近づく。

幸いあの邪竜が前と同じように怯えているからか、それとも主人である竜の魔女から命令が下っていないからなのか動きを止めている。話をするなら今ぐらいでしょう。

 

 

「会うのは、二度目ですね」

 

「あなたは…やはり、生きていたのね。予想はしていましたが…」

 

邪竜が大きいため見上げる形で、その背に乗っているジャンヌさんと同じ姿をした竜の魔女を見る。彼女も私の事を覚えていたようだ…これなら少し話しやすいですね。

 

 

「何度見てもジャンヌさんと同じ姿と声ですね…本当に変わってますね」

 

「ふん、当然でしょう。私が本当のジャンヌダルクなんですから」

 

本当のジャンヌダルク。彼女から嘘を言っている様子はない。…尚更(・・)彼女自身から聞きたくなってしまった。

 

 

「本物、ですか。では何故貴女は、この国を壊そうとするのですか?」

 

「はぁ?」

 

前々からジャンヌさんの話を聞いたりして思っていた疑問。それを彼女に、本物のジャンヌダルクだという竜の魔女に聞く。

 

 

「何故?そんなもの決まっているでしょう!私を裏切り、そして火刑で殺したこの国を、民を憎んでいるからだ!!」

 

「…」

 

それはジャンヌさんから聞いた生前、通信なるものから聞いたダヴィンチさんの話で知った復讐の理由。

 

それは、 知っていること(・・・・・・・)。彼女から私が知りたいのはそれではない。

 

 

「他にはないのですか?」

 

「……え?」

 

黒いジャンヌさんは、目を点にして硬直してしまう。何を言っているのかが分からないといった顔をしている。

少し言い方が雑だったのもあるかもしれませんね…もっと分かりやすく言いましょう。

 

 

「この国が憎い、裏切った人々が憎い。貴女の雰囲気や言動は、そういった負の感情しか出していませんが…それ以外の、この国や村での良い出来事や大事な方々のことは、一時でも思い浮かべたりしないのですか?」

 

「そんなもの…?」

 

「簡単なものでいいです。例えば子供の頃にたくさん遊んだ事や親に褒められたり、叱られたり…そういった日常や楽しかった頃の事は、一切考えたりしないのですか?」

 

「……」

 

これが私が知りたかったもの。彼女に聞きたかったことの一つ(・・)。ジャンヌさんの生前の話を聞けば聞くほど大事なものだということが伝わっていた。

 

(彼女が本物というのであれば…どうして、それを壊すことが出来るのでしょう?)

 

人というものは、大切であればあるほど、それを失うことに恐れを抱く。それが自身で壊そうとするのならば尚更動きが鈍くなるはず…しかし彼女にそのような様子はない。むしろ嬉々としている。

 

何故私がそのようなことをしている彼女の事を知りたかったのかは、自分でもわかりませんが…何故だか無性に気になる。

 

 

「私は…あれ…子供の頃…?」

 

「?」

 

しかし返事はなく。代わりに思い悩んだ様子を見せている。

…どうして?彼女に言ったことは、悩む必要など何処にも……

 

…いや、まさか

 

 

「まさか貴女」

 

「惑わされてはいけませんぞジャンヌ!」

 

竜の魔女の後ろに法陣が浮かび上がり、其処から青い服を着た男性が私の言葉に重ねて大声で竜の魔女に話しかける。まだ敵がいましたか。

 

 

「ジル…」

 

「あの者達は、紛れもない我々の敵。我々の邪魔をする存在の言葉などに耳を傾ける必要などありません。」

 

ジル、たしかジャンヌさんと共にこのフランスで戦った人。話では目が突き出たりする時があるのでよく指で戻してたりしていたと聞きましたが…たしかに飛び出んばかりに目が出てますね。

 

 

「…そう、ね。ええ。そうでした。殺す奴等の話を何故あんなに真面目に聞いていたんだか…どうかしてましたね」

 

彼の話を聞いた竜の魔女から混乱していた様子が無くなり立ち直っていることがわかる。更に、もう先程のように話したとしても聞く気など無いといった雰囲気まで伝わる。

 

 

「知りたいことは聞けず仕舞いですか…しかし……」

 

肝心な知りたいことを言っていただけなかったが、竜の魔女と話をして分かったことが幾つかありましたので()しとしましょう…

 

しかし、彼女を見て何処か似ていると感じた。

おそらく私の記憶に関する何かだと思う。何処かで感じたことがある。竜の魔女の復讐する姿を見る度に、頭痛がする。

 

そう。何処か歪で…真っ直ぐに復讐をする彼女を見ていると…頭痛が更に酷くなる(・・・・・・・・・)

復讐する姿の竜の魔女を見て一体私は、何をーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

 

『■■■』

 

 

 

ーーーー何かが頭の中を(よぎ)り、激痛が襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ」

 

「…黒猫さん!?」

 

黒猫さんが突然片膝を地面に着けて倒れ込みそうになる。

突然の出来事に私も皆さんも一瞬固まるが直ぐに硬直を解き一番近くにいた私が彼に近寄る。額に手を当てているから顔はよく見えないが、肩で息をしている。さっきまで話していたのに…一体何が…

 

 

「な、ファヴニール!?」

 

彼の様子を見ていた直後、辺りに咆哮が響き渡る。

邪竜ファヴニールの咆哮。

 

向こうの私が慌てた様子を見せる。

おそらく命令を下していないのか、勝手に動いてしまっているようだ。

 

(まずいっ、攻撃が来る!)

 

あっちの事を今考えている暇なんてない。

既にファヴニールのその大きな口から炎が見えている。

体内で練りに練った灼熱。それが今まさに私達に向かって放たれようとしている。

 

 

(避けるのは、もう間に合わない。炎を受け流すなんてそもそもやり方を知らない。なら、やることは一つ!)

 

「皆さん!私の後ろに!」

 

ファヴニールに向けて旗を構え己の魔力を旗に集中させ

 

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!!!」

 

自身の宝具を発動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファヴニールの放つ炎が宝具の守りに直撃する。

 

 

「くぅ…!!ハアァアアアアァァァ!!!!!」

 

自身の魔力をありったけ宝具に注ぎ込む。

物理、霊的を問わずありとあらゆる攻撃から身を守る宝具。だが、その宝具である旗から嫌な音が聞こえる。ファヴニールの放つ規格外なブレスに耐えられていない…まずい…このままじゃ!?

 

 

「疑似宝具展開します!」

 

隣から声が聞こえ、私の守りの前に巨大な魔方陣で形作られた障壁が展開される。これは…!

 

 

「私も守ります!」

 

「マシュ!」

 

マシュが私の隣に立ち盾の宝具を発動する。

先程よりも衝撃が和らいでいるのがわかる。いける!

 

 

「「ハアァアアアァアア!!!」」

 

私達だけを狙う灼熱の嵐から皆を守り続ける。

 

一分、あるいは30秒にも満たない時間が一時間にも感じてしまう地獄とも言うべき時が過ぎていく。

 

 

一片の油断も許されない瞬間も過ぎ去り、防ぎ続けた私達にその時(・・・)がやってくる。

 

 

 

 

「な、なんとか凌ぎきったね…」

 

「はい…」

 

ファヴニールの炎のブレスが終わった…

灼熱の炎が止み、追撃が来ないことを確認した私とマシュは、地面に座り込む。私達が立つ場所以外の地面は、黒に染まり、所々に炎が立ち上っている。その跡を見るだけでもその馬鹿げた威力が伝わる。さすが邪竜と恐れられた竜だと改めて再認識する。

 

 

「すみません。足を引っ張りました…」

 

「黒猫さん!大丈夫ですか?」

 

「はい。お陰様で治まりました」

 

黒猫さんも、どうやら大丈夫のようだ。しかし何故急に黒猫さんは、倒れたのでしょう…?

 

 

「ばかな…ファヴニールの炎を正面から防ぎきるなんて」

 

「なんと…」

 

考えていることを中断し、前にいる二人を見る。

ファヴニールの炎を止めた。その事実に竜の魔女とジルが目を見開いて固まる。止めた私自身が言うのもなんですが、よく止めることが出来ましたよ…本当に。

 

 

「なら、もう一度…!」

 

しかし、ファヴニールの攻撃で疲弊している私達を見た竜の魔女は、今度こそ止めを刺すべくファヴニールに命令を下そうとする。

 

 

 

 

しかしその直前、ファヴニールの背後から青い光が空高く昇る。

 

「…これは、ジークフリート!?」

 

あの青い魔力を放つ者の正体に気付いた竜の魔女が驚愕を露にする。

ファヴニールの予期せぬ行動と互いが見えなくなる程の灼熱(・・・・・・・・・・・・・)。そして私達がファヴニールの攻撃を受けきれたこと(・・・・・・・)による予想外な結果が竜の魔女のルーラーの力を疎かにしてしまい、ジークフリートを接近を許してしまった。

 

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

炎を放った直後の無防備となったファヴニールの背に向けて天高く昇る魔力を帯びた大剣を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジークフリートが放った宝具は、ファヴニールを切り裂き、地を余波で破壊する。

 

 

「やった。今度こそ決まった!」

 

振り下ろされたジークフリートの大剣が、地面を余波で破壊しながらファヴニールを真っ二つ斬る。声を上げることもなく倒れたファヴニールを見て、ますたぁが声を上げて勝利したことに喜ぶ。ワイバーン達も親玉であった邪竜が倒されたことで混乱して慌てた様子で飛び回っている。そのワイバーン達の行動を見て私も一番の障害となっていたあの邪竜が本当に倒せていることを思い内心安堵する。

 

 

「そんな…ファヴニールが…」

 

竜の魔女は、その光景を目にして未だに信じられないといった顔をしている。たしかに私達英霊を凌ぐ生命力を持った存在だったあの邪竜が、こんなにもあっさりと倒されるなんて思わなかったのでしょうね。

 

だけど今回は、竜に対して強い威力を発揮する宝具を持ったジークフリートがいたことで倒すことが出来た…そして何よりもあの邪竜が背後に回られる隙を作ってしまった事があの邪竜の一番の敗因だろう。生前に殺し合ったジークフリートの動きには目をくれず、私達にしか見ていなかったのは何故なのかは分かりませんが、倒せたのだから些細なこと。

 

 

「ジャンヌ!ここは、一度城に戻って態勢を建て直しましょう」

 

「…そうします。ここは、一旦戻ります」

 

ジークフリートの宝具からギリギリ逃れた竜の魔女とそれに付き従う男。

 

 

 

「行かせると思いまして?」

 

扇子を広げ炎を圧縮させそれを幾つも放つ。

十分な射程距離。竜の魔女に当たらなくとも、乗っているワイバーンを倒せば共に落ちてくれる。

 

 

「キェアァ!」

 

しかし、そう上手くはいかない。

ジル・ド・レェは手に持つ本を開き、瞬時に怪物を召喚して私の炎を防ぐ。私の炎に直撃した怪物は苦しんだ声を出しながら黒い霧となって消える。

 

たしかあのヒトデのような怪物は、海魔というものでしたか?あの本から召喚された所を見る限り、この化け物を召喚するのがあの宝具の力と見ていいでしょう。

 

 

「此処で止められては相手の思う壺でしょう…立香達は、竜の魔女を追ってください」

 

黒様がますたぁ達に竜の魔女を追うように言う。たしかにジル・ド・レェは、竜の魔女を城に戻れるように時間を稼いでいる。此処で足止めをされ続けたら、あの竜の魔女が聖杯で今度は何を仕出かすのか分かったものではない。

 

 

「わかった!」

 

「私達も終わり次第直ぐにそちらに向かいます」

 

「はい!」

 

「お願いします!」

 

ますたぁが走り、それをマシュとジャンヌが後ろに付いていく。あの二人がいればますたぁは、竜の魔女の所まで無事に辿り着けるでしょう。

 

 

「ジャンヌのところに行かせは…!」

 

「させません」

 

ゴウッ

 

ますたぁ達の行く手を阻もうとする海魔達を炎で焼き払い、召喚をするジル・ド・レェに炎を放つ。新たな海魔の召喚で自身の身を守るジル・ド・レェの隙を突き、ますたぁ達をこの場から離れることに成功した。

 

 

「この蛇がぁ!ジャンヌに傷を負わそうとする貴様等は、まさに悪の所業!許されざる行為!貴様らは、ジャンヌの礎となるべきなのだ!!!」

 

ジル・ド・レェの魔力が高まる。それに呼応して彼の宝具から海魔が数十体以上が召喚される。そして先程まで混乱していたワイバーン達も徐々に収まっていき、標的である私達に向けて戦闘態勢に入る。

 

 

「ふーん。この数なら今度は、私の出番ね!」

 

海魔の群れにワイバーンの群れの前にエリザベートが手に持つ槍を地面に勢いよく刺す。そして、彼女の体から発する魔力が高くなっていくのがわかる。この魔力の高まり方は…まさか宝具の真名解放?

 

 

「バートリ・エルジェーベト!!!」

 

宝具の真名を口にした直後、とんでもない声を辺りに響かせる。その声は、魔力を乗せているせいなのか定かではありませんが、桃色なのか黒色なのか…色を帯びた音が渦状になって敵に向かう。

それを浴びた海魔達は、次々と倒れ黒い霧と共に消えていき、飛んでいるワイバーン達も次々と地に落ちて力尽きていく…その様を見て、ようやくあの音が彼女の宝具だということがわかる。

 

 

 

……………それにしてもです。

 

 

 

 

「~~~~~!!?!?!?」

 

思わず耳を手で塞ぐ。

なんですかあれ?何なんですか!?あの聞くに堪えない雑音は!!?

宝具の矛先を向けられているのは、私達じゃないのに耳の鼓膜が呪いで破壊されるのではと本気で思ってしまった。

大事なことなので、もう一度言いましょう。

 

酷すぎる音だと…!!!

 

 

「すごい個性的な歌声ね」

 

「み、耳が腐り落ちる…ほんとーにヤバイ…」

 

「味方も巻き込んでどうするのです…」

 

「すまない…まさか味方から不意討ちが来るとは思わなかった」

 

私達の殆どが耳を塞いであの音を耐えていた。特にアマデウスという方は、地面に倒れながら悶えている。彼の耳は、普通の人より何倍も良いようなのでこうなるのは当たり前でしょう。

 

 

「え?え?皆どうして耳を押さえてるのよ?!私の美声と歌が聴こえないじゃないの!」

 

そして、その呪言とでも呼ぶような音が止み。満足気な顔で私達を見る。

しかし、今この惨状を作り上げた本人は、自分の宝具でこうなったなんて全く理解していない顔で私達を見て、何故耳を塞いでいるのか分かっていない始末…

 

 

「あれ、歌だったのですか?呪言ではなく?」

 

「?何を言ってるの?ちゃんとした歌よ」

 

本気ですかこの音痴蜥蜴…嘘は言っていないのが分かるので余計に質が悪い……?そういえば黒様は、耳を塞いでいませんでしたね…

 

 

「黒様も歌?を聞いてたのに大丈夫なのですか?」

 

「あれならまだ(・・)聞けるという感覚がありますね」

 

…まことですか。

そのような言葉と似たものを、此処にいる者達(蜥蜴を除く)の心の声が一つになった気がします。あれならまだということは、前に似たモノを聞いた事があるということなのでしょう…それももっと酷かったもの(・・・・・・・・・)を…

 

それって一体どんな地獄なのでしょうか…

 

 

「おのれ…悪質な音を…ぐっ!!」

 

目が飛び出てそうな怪物のような顔立ちをしたジルドレェが怒りを奇声を上げる。

息を絶え絶えにしながらも立ち上がる。

 

 

 

「…私は願いを…叶えなくてはならないのだ!!」

 

宝具であろう本を片手で持ち、天に向ける。

 

「この国を壊し!民を殺し!!我が望みを、復讐のジャンヌを完成させるのです!!!」

 

男から禍々しい魔力が溢れ始める。

その魔力は、本に集中している。しかも、先程の海魔を呼び出した時よりも力を込めている。まさか宝具の発動!

私は、勿論。此処にいるサーヴァントの方々もそれに気付く。しかし、

まずい、間に合わなーーーー

 

 

 

 

ゴキャッ

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーそういうことでしたか」

 

「!?」

 

ジル・ド・レェの首が捻れ折れる。

突然の出来事に炎で阻止しようとしていた手が止まり、そして驚愕する。

ジル・ド・レェの後ろには、先程まで私の隣にいた(・・・・・・)黒様が立っていた。

 

動きを阻止するまでの間、瞬きをした覚えなどないのに……一体どのようなカラクリを…

 

 

「やはり、戦い方は違えど、これだけは共通(・・)していますね」

 

「か…き……」

 

首が折れた男の体が倒れる。だが、倒れた男の魔力がまだ感じる…ということはまだ生きているということ。

 

ゴチャッ

 

黒様もそれに気づいていたのか、倒れた男の頭部に拳を振り下ろす。殴られた箇所の地面が陥没し、殴られた顔面が埋まる。

 

 

「止めはさせましたね」

 

男の魔力が途絶えて宝具の発動もする気配がなくなり、ジル・ド・レェの体も黄金の粒子となって消えていく。

 

 

「お見事です…」

 

その言葉しか思い浮かべられない。

一瞬。本当に一瞬だった。少しでも遅れていればあの男の宝具が発動されてしまい、その隙に逃げられてしまったかもしれない。最悪の場合は、私達の誰かが消えてしまったかもしれない。

 

それを人の身で未然に阻止した…見事と言う他の言葉が見当たりませんでした。

 

 

「倒せたのは良いのですが…竜が向かってきてますね」

 

城の方に城からワイバーンが飛来してくる。

逃げた竜の魔女が聖杯も使ったのでしょう。数は、先程蜥蜴がこの場で倒したワイバーンの数を優に越えている。切り札であった邪竜も倒された今、彼方も形振り構ってはいられないのでしょう。

 

 

「そのようですね。私達ならば、ワイバーンの一体や二体どうということはありませんが、数が多いですね」

 

しかも城から出てくる竜が途絶えない所を見ると、聖杯で無理にでも呼んでいるのでしょう。ますたぁの所に合流したいという時に…

 

 

「それなら此処は、任せてくれ」

 

ジークフリートが大剣を構える。

 

「俺の目でも追うことが出来ない程の力を持った貴方なら我々よりも早くマスター達と合流出来るだろう。それに、竜殺しなら自信がある」

 

「それは良いですね。あれならワイバーンに遅れる事もないでしょう。外は、我々に任せてください。鼠一匹逃さないよう全力を尽くしましょう」

 

「私も残ります。ワイバーンを野放しには出来ませんから…黒猫さん、ジャンヌのことをお願いします」

 

「マリアが残るのなら僕も残るよ。それに最後だし、僕なりの大盤振る舞いをしようじゃないか。こんなにやる気になる僕なんて生前でも滅多にないから特別さ」

 

ジークフリートに続いて他のサーヴァントの皆さんも外に残り、他の街や村にワイバーン達が行かぬように倒すことを伝える。この方々の力があれば

 

 

「ま、あの数なら及第点ってとこね。私も此処で暴れさせてもらうわ」

 

「…………え」

 

前言撤回しましょう。少しの不安が出来上がりました。

 

「ちょっと、何か文句があるの?!」

 

「大いにありますが、選り好みも出来ないので目を瞑りましょう…くれぐれも先程のような歌声を出さないでくださいね」

 

「え!?せっかくタダで生で聴けるのに…」

 

例えタダであろうと、あんなものは二度と聴きたくない。お金が掛かるのなら尚更…それよりも今の言葉を聞いて、とてつもない悪寒と感じながら確信しました。もし注意しなければこの蜥蜴、絶対にところ構わずまた歌おうとしてたということに…この蜥蜴には、十分注意を払っておきましょう。

 

 

「…馬鹿な話はここまで。どうぞお先に行ってください黒様。また会えましたら楽しい時を過ごしましょう」

 

「わかりました。此処は、お任せします…武運を祈ります」

 

黒様がその場から走り去る。

やはりと言えばよいのでしょうか、想像よりずっと足が速く。瞬きをした時には既に彼の姿は見えなくなっていた。真っ直ぐ城に向かって行った筈なのに、城から向かって来るワイバーンも彼を目で捕らえられてないからか、一直線に私達のいる場所に向かって来ている。

 

 

「さてと…」

 

扇子を広げ前に構える。私以外のサーヴァントの皆様も各々が持つ得物を手にし、あと僅かな時間が過ぎれば激突するであろうワイバーンの群れに向けて構える。

 

戦闘準備は、既に終えた。

 

ーーーーさぁ、何処からでも来なさい。

 

統率が出来ていない烏合の衆に遅れを取るほど私の(ほむら)は、弱くなどない。

見事一体も漏らすことなく焼いてみせましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旦那様のためにも…ね?ふふ、ふふふふふ…




やぁ、こんばんわ!
やっと、この特異点も終わるところまできましたが、最後まで気張っていこうと思います!
次の話、第13話の投稿予定は、いつものように活動報告に書かせていただいておりますので、お暇がありましたら、どうぞお立ち寄りくださいませ!
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