Fate/Grand Ordar The lost memory 作:カラクリヤシキ
私は、夢を見ている。青空の下を駆ける夢。
息苦しくない。吐血もしない。病がなくなった体。
走って、走って、走って…新選組の皆さんと戦場へ、町の子供達と戯れたり…
そして、支えてくれたあの人のもとへ…
もしそれが叶うのなら――――
「……」
目が覚める。鳥の鳴き声が外から聞こえる。
外は雲一つない快晴だというのに私は、布団に横になっている。
体は、いつものように少し重い。やっぱり、さっきのは夢だったのか…残念。
「最近寝てばかりですね…」
寝込む回数が少しずつだけど
まだ目に見えてという程ではないが、確実に病が体を蝕んでいるのがわかる。
いつもと変わらないように見えるのに…
「治らない…かぁ…」
この病で私が倒れるのも時間の問題…
――――もしかしたら明日にはもう…
「っ」
考えていたことを消すように頭を振る。
いけない、いけない、何を考えているんだか…病は気からとも言うのに…
沖田さん、そんなに軟弱じゃありませんよー。
「沖田さん、起きましたか?」
「黒さん…」
黒さんが襖を開けて部屋に入る。
手には、いつも用意してくれる水と薬を乗せたお盆を持っている。
「辛いのでしたら、横になったままでも…」
「大丈夫ですよ」
体を起こす。これぐらいなら少し意識すればなんとかできる。
いつもお世話になっているんです。このぐらいのことは…
「体、やはり重そうですね…」
…やはり、いつも貴方には見抜かれてしまいますね。これ以上は心配されないようにしているのに…意味がないじゃないですか。
でも私のことをちゃんと見てくれる人が側にいるだけで、さっきのような後ろめたい考えなんか消し飛ぶ。
ただ近くにいるだけで、身体が暖かく感じる。
「はい…でも寝たおかげで体力もそれなりに回復したので少しはマシです」
「そうですか…そう…ですよね…」
「黒さん?」
黒さんが何故か言いづらそうな顔をする。
どうしたんでしょう?
「沖田さん、貴女に聞いてほしいことがあります」
何かを決意したのか真っすぐこちらを見る。
一体何でしょう…
「少し前に腹を割って話そうと思っていたことです」
「腹を割って…あぁ、花見の時に言っていたことでしたね」
あの時は、私が
「…沖田さん達に隠していたことがあるんですよ」
「隠していたこと?」
正直、驚いた。黒さんが隠し事をしている素振りなんて見えてなかったのもあったが、なにより私達に言えないことがあるなんて思ってもみなかった。
「実は、私…」
黒さんが私を見据えて
「記憶がないんですよ」
「え?」
黒さんの記憶が…無い?
「それは、いったい…」
「正確には、この黒猫と呼ばれる前の記憶が無いんです」
「黒猫さんと呼ばれる前の…」
呼ばれる前の記憶が無い…
「記憶を無くした私は、ある武家の娘さんに拾われ、其処で住ませてもらい、名前もその方達から頂いたんです」
「そうだったんですか…その方達は今…」
「…その方々とはもう離れ離れになってしまいましたが…今でも感謝しています」
離れ離れ…何かの事情で離れることになってしまったのか、それとも…
それは、聞かないでおこう。
「沖田さんが倒れていたと言っていたあの場所」
黒さんが、外の庭を見る。今でも思い出せる。
「意識が失う前は、傷を負ってしまったところまでは覚えているんですが…」
ん?傷?確かあの時には、そんな傷はなかったはず…もしかして服とかで隠れてて気づかなかった…あ!?
「え、傷?!だ、大丈夫なんですか?」
「それなら、跡もなく塞がっていたので問題はありません」
ほっと息を吐く。まぁ、冷静に考えれば、大事ならばこんな風には喋れてませんよね…私、なにしてるんだか…
「話を戻しますね。傷を負って、それが原因で眩暈で意識が朦朧としてる所までは覚えているのですが…何故庭で倒れていたのか…それがまったく覚えがないんです」
傷が原因で気を失い、気づいたら此処にいた…たしか会った時もそんな話をしていましたね。前にも思っていた事で、普通そんな傷で負って知らない場所にいるだなんて考えにくい…あの時は、高熱だけだと思ってましたが、それも同じような事。
「とても、信じられないような事だと私も思います。
ですが、信じていただきたい…」
黒さんが私に頭を下げ、私に言う。信じてほしいと。
「信じますよ」
「…え?」
即答。黒さんも下げていた頭を上げる。表情は、とても驚いた顔でその場で固まっている。
『何故?』って思ってるんでしょうね…
「普通ならそんな話を信じることなんてできません」
もし、こんな話を赤の他人から言われたのなら信じられる訳がないと言って
話はお終いになっているでしょうね。
それはそうだろう。なんたってそれは、どんな人なのかすらも分からないんだから。
全てを信じられる訳がない…
「初めて会った頃の黒さんが言っても…おそらく信じなかったでしょう」
「…」
「でも、今は違います」
そう。今は違う。
黒さんが優しいのも、厳しいのも、料理が上手なのも、甘味が好きなのも、
少し抜けてて天然なのも、意外と顔に出るのも、お酒が弱いのも、面倒見がいいのも…
黒さんが私のことを心から心配していることも知っている。
もう他人なんかじゃない。
「私、これでも結構長い間、貴方と一緒にいたんですよ?」
近藤さんや土方さん、新選組のような家族とは違う…
「黒さんのことは、少なくとも他の
でも、それとは別の暖かさで…
「黒さんについて聞かれたら、
「だから、言えるんですよ」
良いところも、悪いところも、誰よりも近くで貴方を見てきたからこそ言える。
「――――今の話を全て信じますと」
「――――」
いつも私の傍にいてくれた人を、
「黒さん?」
黒さんが
どうしたんでしょう?
「…あ、あぁ、すみません。なんでもありません…なんでも…」
すぐに我に返って、なんでもないと言う。
本当にどうしたんでしょう?
…あ、そうだ
「そういえば、なんで急に
ちょっとした疑問だった。なんで今、私にそれを打ち明けたんだろう?
「…一つ思い出したことがあるんです。沖田さんのその病と似たようなものを」
黒さんの前の記憶に私の病のことが…?
「ここからが本題です。沖田さん」
「貴女のその病、治せるかもしれません」
…え?
「…今…なんて……」
時間が止まったのかと思うぐらい静かになった。
…私の病が治るかもしれない?そんな言葉が聞こえた気がした。
聞き間違いかもしれないと、再度聞き直す。
「私の記憶に
聞き間違えではなかった。
でも…本当に…
「記憶の断片でしたので本当に治るのかは、やってみなければわかりません…」
治るかどうかは、まだわからない…。そんな曖昧な言葉でも私は嬉しかった。
心臓の鼓動が早くなるのがわかる。
「…それは…本当に」
「はい。少し荒療治ですが、治せるはずです」
身体が無意識に震えている。
それは、しょうがないと思う。だってそれは、今まで、何処に行っても治すことが出来ないものと言われていたものなのだから。
どれほど、治したいと願っていても、薬を飲んでも、休んでも治らないものだった。病に侵される体を唯々眺めていることしか出来ない日々を過ごした。
そんな、今まで苦しめていたこの病が治るかもしれないと、初めて治る可能性があるなんて言われたら…あまりの嬉しさに体が震えるに決まっている。
でも、同時に不安もある…治らないんじゃないのか?そんなどうしようもない不安も少なからずある。本当に大丈夫なのかと…
「…あ」
黒さんが震えている私の手を両手で強く握る。
「沖田さん、もう一度聞きます」
まるで不安を消すように、強く優しく包むように、割れ物を壊さないように…
「私を信じてくれますか?」
最初に言った言葉を問い掛けた。
その言葉に思わず安堵の笑みが零れる。
ただ、手を握っただけなのに…不安が掻き消える。
「はい」
返事は変わらない。
たとえ治らなかったとしても、文句なんてない。
むしろ、此処で断る方が嫌だ。そっちの方が死ぬに死にきれない…
「わかりました。では…」
黒さんが、手を放して私の両肩を掴んで…
「失礼します」
私の体を引き寄せて抱きついた…
……んん!?
「…久しぶりに人に、それも女性に抱きつくので少し恥ずかしいですね…」
「く、く、黒さん?!な、なにを!!?」
初め、何をされたのか分からず頭が真っ白になっていたが、それがわかった瞬間、顔がどんどん熱くなっていくのがわかる。
っというかなんでいきなり?!
「まだ体が震えていたのを落ち着かせるのもありますが、治すためには、貴女が
「そ、そうなんですか…」
たしかにまだ震えてましたけど、今は色んな意味で震えちゃってますよ!?
…まぁ、落ち着かせてもらっちゃいましたよ。代わりに心臓が煩いことや顔が凄く熱いですけど…
私のことを異性として見てくれて沖田さん大勝利ーだなんて思ってませんよ。…多分。
というよりも私が近ければ近いほど良いってどんな治療なんでしょう?
そう思った時
ポゥッ
黄緑色の光が目に映る。
「これは…」
まるで蛍の光のようで、その光が私と黒さんの体から発せられているのが分かるのにそんなに時間は、掛からなかった。
これは、いったい…
「どうやら成功したようですね……」
私が状況がつかめていないなか、黒さんは、少し腕の力を緩めて言う。
顔は、抱き合っていて見えないが、緊張が切れたように穏やかな声だけが聞こえる。
黒さん、なにをして…いえ、それよりもあなたは…
「黒さん…貴方は、いったい…」
「私もまだわかりません…ただ一つだけ分かるのは」
「貴女を救えてよかった…」
パリンッ
「――――」
光が消える。
その瞬間、私の中から何かが
「沖田さん、立ってみてください…」
黒さんが私からゆっくりと離れ、私の前に座る。
「?わかりました」
言われた通り、立ち上がる。…これといって何かが変わったようなことはーーーー
「…あれ?」
辛くなかった…立ち上がる動きだけでも少し苦労していた体が嘘のようにスッと立ち上がれた…え?あれ?
「体が……」
軽い。胸もスゥッとしていて、呼吸もとても楽になっているのがわかる。
こ、これはまさか…!
「少し庭で体を動かしてみてはいかがですか…」
「は、はい、行ってきます!!」
私は、
「成功したようですね」
遠目から庭を走り回る沖田さんを見る。
どうやら無事に終わることができたようです…
「…」
正直な話、最初は、私の方がとても不安でした。
記憶を一部思い出したと言ったが、それは、本当に断片のようなものだったのもそうですが、
『信じます』
まさか、たった一言でその不安が消えるとは思いませんでした。
…この胸をすくような気持ちを私は、あまり経験したことがない。
ですが、これと似たような所を私は、見たことがある。したことがある。
それがただの気のせいではなく、自惚れでなければ…
『この程度で嫌いになる筈がないんですよ』
「巴、貴女もこんな気持ちだったのですか?」
もしそうだったのなら、とても嬉しい。そう思わずにはいられない。
あぁ、本当に――――
「よかった…」
「はっはっ――――!!」
走る――――走る――――走る――――
庭の中を全力で走る。唯々ひたすらに走る。体が軽い。重石を背負い続けたような体が羽のように軽い。
「軽い!」
足を止めて深呼吸をする。あぁ、いつ以来だろう。空気がこんなにも美味しく感じるのは!
「あ」
つい舞い上がってしまって忘れてました…
黒さんにお礼を言わなくては…
部屋に向かって走る。
本当に治してくれるなんて、こんな奇跡を起こしてくれるなんて!感謝してもしきれない気持ちでいっぱいになる。早く伝えたい。この気持ちを、この想いを…!
「黒さん!沖田さん、復活しましたよー!」
部屋に駆け込む。黒さんは、さっきと変わらず座ってますね…
…っ
「黒さん…それ、どうしたんですか?」
黒さんの口元を指さす。間違いじゃなければ、口元から一筋に伝うそれは…
――――血――――
「?」
自分でも気づいていなかったのか、口元に触れて、それを見る。
「これは…っ」
「黒さん!」
倒れそうになる黒さんを
「…たしか…ただかなり消耗するだけの筈なんですが…」
虚ろのような目で
「記憶も当てになりませんね…」
「しゃべらないでください!今、医者のところまで…!」
そう言って、黒さんを背負って行こうとした時だった。
またあの光が見えた。
「なんですかこれは…」
黒さんの手がさっきのような光を出して指から消えていく。いや、指だけじゃない。腕、肩、足…体中からそれが起きている。
いったいなぜこんなっ…
……
…
あっ…
「私の…せい?」
私の病を治したのが原因でこうなった?
病を治したいと黒さんに言ったから?
私が病弱だったから…?
私のせいで黒さんが…消える…?
いやだ…
「い、いやです」
いやだ…
こんな別れ方は嫌だ。
戦場で死んで別れるならわかる。病で死んでしまうのならまだわかる…
――――私、猫を飼おうと思ってたんです…
「お願いです…」
――――黒猫を側に置けば、この病が治る…そんな迷信があるんですよ
こんな、身代わりになったような別れ方なんて…私を助けたせいで…
――――そんな時に貴方が来たんです。
「待って…」
消えそうになっているところを手で押さえる。
だが、指の間から光が漏れて止まらない…どうしてっ…!
――――私の
そして――――
「私の
視界が少しぼやける。支えている腕の力が無意識に強くなる。
「まだお礼も言ってないんですよ?貴方と病が無くなって気兼ね無く話せるんですよ…だから!」
まだ言っていないことが沢山ある!行きたいところもある!話したいことも!伝えたいことも!まだまだ沢山!他愛のない話も!バカなこともして笑い合いたい!
「だから…お願いです…」
――――一緒に居たい――――
「私を置いていかないでください…」
ポタッ…タッ…
黒さんの頬に大粒の涙が伝う。止めようと思っても止まらない。目の奥から次々と溢れる。
「同じ絵巻を見ているような感じですね…」
黒さんが私を見る。
「本当に貴女は、似てますね…」
消えかけている腕を伸ばして私の頬に触れる。指をゆっくりと動かして涙を拭っていく…
「せっかく、病が治ったんですよ?…そんな顔をしないで…いつものように笑顔を見せてください」
「そんなこと…」
私が原因でこうなったんですよ…笑えるわけが…
「…お願いです」
気づけば黒さんの足が全て消えている。拭っていた手も消えている。
黒さんも時間がないことを悟っているようだった。
…お願いしてるのはむしろ私の方なんですよ?早く戻ってとお願いしてるんですよ…
それができないのに、私にお願いするなんて…
「黒さん…貴方は、酷い人です。…女性を泣かせておいて笑えだなんて…」
「すみません…」
「謝らないでくださいよ…もう…」
えぇ、酷い人です。本当に…本当に……
――――本当に…優しい人です。
「――――あぁ、やっぱり、貴女もその
自分でも笑えているのかわからなかったが、どうやらちゃんと出来ているようだ。
「沖田さん」
黒さんが私を見る。黒さんも痛みで苦しんでいたような顔ではなく…
「――――ありがとう」
笑っていた。
――――黒さんが消えた…
「あ…」
黒猫が消えて、今の今まで、その手で支えていた重さも、
「黒さ……」
沖田は、何処を見ても黒猫はいないことを改めて実感する。
さっきまで止まっていた
「あ…あぁ…ぅあ……!」
今まで我慢していた女性の声が
『対象の弱体を確認。再度の捕獲に実行。結果は、成功。』
『状態は、衰弱による睡眠状態。ただし、体が回復し目を覚ます恐れがあり細心の注意が必要。
本来ならば、世界の計画通りに
――――だが
――――人理焼却――――
世界にとっても予想外な邪魔が入ってしまった。
やぁ、こんばんは。これで過去を一つ終了とさせていただきます。
予想より少し長めでしたが、完成できて嬉しいです…
では、第5話の進行状況の等は、活動報告で書かせて頂こうと思います。
それでは、活動報告、感想、等がありましたらゆるりとお書きになってください!ではー!