キノの旅(✕フーと散歩) -the Wonderful Days- 作:水霧
「ふぅ……今日も疲れたなぁ」
「お疲れ様です。ですが、例の国は見当たりませんね」
「ん。もうちょっと先かもしれない。……気長に探しますかねぇ」
「駄目ですよ。ただでさえ予定より二十三時間も過ぎているのです。これ以上先延ばしにしていたら食料が尽きてしまいます」
「そこら辺の動物とっ捕まえればいいよ」
「こんな男に食べられてしまう動物が可哀想です」
「おい、オレはどうなってもいいんかっ」
「動物ではなく、草でも食べていれば、」
「シマウマかよっ。そこまで雑食じゃ、」
「ん? ちょっと黙ってください」
「……」
「……ダメ男、誰かが通信してきました」
「え? 誰かって……だれ?」
「相手は非通知のようですね。どうしますか?」
「おかしいな。どこの誰にも連絡先は渡してないはずなのに……どこから漏れた……?」
「出ますか?」
「逆探知できる?」
「逆探知はですね、ちょっと待っていてください」
「うん」
「……これ自体にはその機能はないようです。しかし、通話と同時に録音設定はできます。背景音が分かれば、ある程度の位置は絞り込めますね」
「分かった。……繋いでくれ」
「では、スピーカーで通します」
「あいよ。……こんなこと初めてだな。緊張する」
『……あ、繋がった! よかった~! もし無視されたらどうしようかと思ったよ!』
『……もしもし?』
『あ、すみません! 唐突で申し訳ないです!』
『あんた誰だ? どうしてこの連絡先を知っている?』
『いやあ、行きずりの国で教えてもらいましてね。けっこう有名な方だそうじゃないですか』
『……オレの用件は後でいいか。とりあえず、話はなに?』
『おお、ありがたい! 実はとある出来事があって旅に出ることにしたんですよ。その体験談を本にして、旅の収入にしてるんです』
『へぇ、ってことは
『一応、私はとある国の出版社に雇われていて、その売り上げを渡してるんですけどね』
『ほー、世界の報道記者みたいな感じかな。そういうの、オレ好きだよ』
『そう言ってくれるととても嬉しいです! だけど、ついに切れちゃったんですよ~』
『? 何が?』
『ネタですよ、ネ・タ!』
『その、本にするネタってこと?』
『そうなんですよ~! それで、お願いがあってこうして話しているんです』
『察するに、ネタになりそうな話を聞かせてほしいってことかな』
『さっすが! で、お願いできますか? できればインパクトのあるやつがいいんですけどね。そうじゃないと、各国の出版社に売り込んでもきついんですよー!』
『あ、原稿は旅の途中で書いて、それを出版社で刷ってもらうんだ。なかなか面白いなぁ。でもオレなぁ、そこまで衝撃的な旅はしてきてないよ? どっちかというと、のんびりほんわかのほほんとしてる方が好きだし』
『ん~、例えば、どこかの王様の救出劇だったり、お姫様とのラブシーンだったりありませんかね。そういう要素にも挑戦したいんですよー』
『やけにピンポイントな要求だな。まるでオレを見てきてるかのような……。かなり前にオレを尾けてた人ってあんた?』
『いんやいんや! まさか! そんなわけないじゃないですかっ』
『あ、そう……。その類はあるにはあるけど、いろいろ忙しくて覚えきれてないしなぁ。話としては不十分すぎるかも』
『そうですか……』
『多分、作家さんの望むような体験談は普通の旅人に比べて少ないと思う』
『そーですかあ……押しかけるようなマネをしてすみません』
『いいよ。で、今度はこっちの番だな。どうやってこれを?』
『ああ、以前、どこかの国で本を借りませんでしたか?』
『本? ……いや、覚えてないな。ちょっとはっきりしたいから待っててくれ』
『どうぞ』
「保留音を流しました」
「話は聞いてたな? ……本なんて借りたか?」
「いや、その記録はないですね。しかし相手方は嘘を言っているような感じではありません。こちらの記録し忘れがあったでしょうかね」
「マメなフーに限ってそれはないよ、うん。……う~ん……本、本か……」
『ごめんごめん。ちょっと聞いてまた保留にするかもしれないけど、聞きたいことをいくつか』
『はい』
『まず、何の本を借りてた?』
『えっと……あ、そうそう! 私の本ですよ! “困窮旅人逃亡録”っていう本なんですけど、ご存じないですか? けっこう有名なんですけど』
『“困窮旅人逃亡録”……うん、聞いたことがないな。ごめん、あんまり本には興味がなくて』
『そうですか……。なら、今度どこかの国に立ち寄った時に、ぜひ読んでみてください! 私の渾身のシリーズなんですよ!』
『う、うん。見かけたら読んでみるよ。……で、その本を借りた日付けとか人の名前とかを知りたいんだけど』
『え? ……うっんと……今から十日くらい前みたいですね。名前は……“カカシノカンベエ”さん。旅人さんみたいで、盗まれるとまずいので念の為に連絡先が書いてあったようです。それが、“カンベエ”さん、あなたのだったんですよ。幸い、本は無事に返却されたようですけど』
『……全部分かった。ありがとう』
『え?』
『お礼をしないとね。要望に応えられるか不安だけど、こんな話はどうだろう』
「ダメ男、一体どういうことですか?」
「それより、こっちの連絡先をすぐに変更してくれ。……ったく、困ったもんだよ」
「既に完了させました」
「さすがだな」
「それで、どういうことですか?」
「あぁ、多分オレの連絡先を知ってる人間が、身分証明の連絡先として、オレのを書きやがったんだ」
「あー、なるほど。十日前だと、ダメ男は宝探しをしていましたからね。変な話だとは思っていましたが、そういうことですか」
「うん。ほんとに迷惑な話だ」
「しかも、まさか相手があの方だとは思いもしませんでしたよ」
「え? 知ってんの?」
「“困窮旅人逃亡録”は今や世界中で大ヒットしている、ベストセラー小説ですよ。主人公の亡命を書き記した内容で、その間に様々な国を訪れては
「そんなに知ってるとは、大分ハマってるみたいだな」
「むしろこのくらいも知らないダメ男が“人間失格”なのですよ。多少は
「二回言わなくていいっ。しかもひどくなってるしっ」
「ですが、その小説の秘密が分かりました。作者様が自ら旅をしながら、こうやって体当たりでインタビューをしていたのですね」
「みたいだな。シリーズ化してるって話だし、自分の分だけじゃ追いつかないんだろうな」
「しかしやはりは才能、ネタを聞いただけではあれほど世界観が広がりません。ダメ男も読んでみるといいですよ」
「あ、あぁ、今度見かけたらな」
「それと同じ形態の小説もありますよ。別の作者様ですけどね。とある大食らいの旅人の様子を描いた小説です。旅人はハングリーな雰囲気が強いのに、恐ろしく大食漢なのです。しかし武器を握らせたら、右に出る者がいないほどの達人なのです」
「フーって読書家だったっけ?」
「一般常識的には読みます」
「流行りにノセられて本読みそうだな」
「それは一理ありますね。どこかの誰かさんがしっかりしてくれれば、色んな種類の本を読めるでしょうにね」
「ぬぅ……」
「さて、明日に備えて睡眠を取ってください。就寝時間を二分過ぎています」
「オレの予定分刻みすぎるっ」
「ではおやすみください」
「はいはい、おやすみ。…………すぅ……ふぅ……」
「さすがに早いです。もう熟睡していますね。……これで続きを書いてくれるでしょうね。よかったよかった」