キノの旅(✕フーと散歩) -the Wonderful Days-   作:水霧

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SS4:おいはぎのはなし -the Story of the Nightmare- by alias(オリ) 

 一つの獣道が伸びていました。グネグネと曲がりくねっており、その両脇には緑が茂っています。まるで蛇のような道でした。それを挟むようにそそり立つは二つの山です。紅葉と緑の入り交じる山腹(さんぷく)が獣道に沿うように広がっていました。

 その片方の山の頂上付近に二人の山賊がいました。一人は八十を超えるだろう老人です。顔や手足の見える部分に(しわ)が走り、筋が浮き出ていました。もう一人は十代中頃から後半くらいいの若い少年でした。

 二人はそれぞれ双眼鏡を(のぞ)き、山の麓に伸びる獣道を観察していました。

 

 

 とある日のことです。

「長老、旅人が一人歩いています」

「ふむ。どんな旅人じゃ?」

「はい。茶色の襟の高いセーターを着た旅人です。両足に銀色の自動式拳銃が見えます。大きいリュックとショルダーバッグ、それに左腰にバックパックがあります。性別は……女の子です! パーマのかかった茶髪、細身の手足にちょっと膨らんだ胸、……ん? そこに灰色のハムスターを飼っているようです! 間違いなく女の子ですよ! どっちも可愛い……」

「うむ。優しい目付きに、どことなく気品を感じる。さぞ良いところの娘さんなのだろうな。……さて、あの旅人は儂らの“餌食”として適しているかどうか、襲うべきか答えてみなさい」

「はい。……あの旅人は襲うべきです! いくら二丁の自動式拳銃を扱っていても女の子ですよっ? 仲間と一緒ならまず間違いなく狩れますよ! ハムスターもいい値段しそうですし!」

「……話にならんな。零点以下じゃ」

「な、なぜですっ? どう見たってカモでは……?」

「着眼点は間違っておらん。しかしあんな可愛らしい娘が、一人でこんな悪路をノコノコ歩いてくると思うか? 儂らのような山賊に襲われるやもしれんのに」

「ここ以外に道がないからでは……?」

「それもある。が、大前提として間違っておるのじゃよ。空を見てみなさい」

「? …………鳥……鷹ですかね?」

「あの旅人は鷹匠(たかじょう)なのじゃよ。上空から周辺を警戒し、(あるじ)に危険が迫ると、敵を排除するように仕込んであるのじゃろう。つまり、二重警戒ということじゃ。それに旅人の手をよく見てみなさい」

「え? ……綺麗な手付きだなとしか……」

「女の子の手にしては少々太い。それに角張っていて厚みがある。あの体型から判断するに少々不自然じゃ。それにうっすらとじゃが、喉仏(のどぼとけ)のような“しこり”が見える。つまり、あの旅人は男の子である可能性が高いのじゃ」

「え、ええっ? えええっ?」

「あるいはそういう特殊加工を施しているのかもしれん。しかしそうだとしても、これほど高等な擬態、抜け目の無い警戒包囲網、自動式拳銃二丁のみから考えうる高度な戦闘能力を考えれば、明らかに引き分けは必至、最悪敗北じゃ。みすみす儂らがカモになるようなことはあってはならん」

「……」

 

 

 とある日の二人です。

「長老、旅人が二人歩いています」

「ふむ。どんな旅人じゃ?」

「はい。男の方は黒地のジャケットに……何でしょう? 下半身は銀色の(よろい)……で覆われています。荷物は大きいサイズの迷彩リュックに両腰にポーチ、左腰に剣を携えています。女の方は赤紫のジャケットに黒いパンツを履いています。荷物はショルダーバッグ、右脚に自動式拳銃を吊っています」

「うむ。男の方は暢気な面構えだが、女の方は鋭い目付きをしているな。……さて、あの旅人は儂らの“餌食”として適しているかどうか、襲うべきか答えてみなさい」

「はい。……あの旅人たちは襲ってはならないと思います。二人でもこちらが圧倒的に有利ですが、……何と言うか、ただならぬ気配を感じるのです。二人の荷物や装備は珍しく価値が高そうなのですが……」

「……六十点じゃな。まずまずじゃろう。しかし明確な根拠を伴わなければならん」

「その根拠とは?」

「あの二人、何気なく歩いておるが全周囲に神経を行き届かせておる。もしかすると監視されていることも察しておるのかもしれぬ。それに男が持っている剣……あれは“刀”と呼ばれる刀剣で、接近戦最強の武器なのじゃ。そして女の方は自動式拳銃の他に、ジャケットにもう一丁隠しておる。あの盛り上がりから、何か分かるか?」

「……自動式拳銃にしてはサイズが大きいけど……マシンガンにしてはスッキリした形状ですね。……分かりません」

「おそらく、接近戦最強の銃、“ショットガン”じゃ。おそらくバレルを短く切り詰めたものじゃろう。つまり、狙撃しようにも勘付かれ、接近戦でも絶望的ということじゃ。あれはお主の言うように襲ってはならん旅人たちじゃ」

「……! こっちをっ?」

「イカン! 気付きおった! すぐに逃げるぞっ! 早くせいっ!」

「はっはい!」

 

 

 とある日のことです。

「長老、旅人が一人歩いています」

「ふむ。どんな旅人じゃ?」

「はい。セーターにパンツ、リュック、靴と全身黒尽くめの男です。腰の辺りが盛り上がってることから、ポーチを二つ持っているようです。外見からは武器となりそうなものは見当たりません。せいぜいリュックで締め付けてる傘くらいだと」

「うむ。物腰が柔らかそうな顔付きと雰囲気をしておるわい。……さて、あの旅人は儂らの“餌食”として適しているかどうか、襲うべきか答えてみなさい」

「はい。……あの旅人は襲うべきだと思います。服装からしても銃火器を持っているとは思えないし、それにたった一人です。あの旅人を援護するような者は周囲にはいません。目新しいものはありませんが、そこそこ荷物はあるかと」

「……そうじゃな。八十点はいく報告じゃ」

「え?」

「マシンガンやショットガンといった重武器はなく、手榴弾を用いても、あの地形ではかえって不利になりやすい。囲まれた時には手榴弾は使い物にならぬからじゃ。それにあの旅人はどことなく自意識過剰な面が見受けられる。周囲の警戒やそれに対する反応が過剰すぎるのじゃ。つまりビビリということ。そういう者は本番に弱体化しやすい傾向が強い。総合して、襲う価値あり、じゃ」

「でっでは……」

「他の者に報告しなさい。今から一時間、旅人の周囲を囲むように移動しながら機を(うかが)い、隙を突くと」

「はい。……こちら××地点……応答せよ……」

「しかし……なんという間抜け面じゃ……。緊張感の欠片もない……。先日見たような旅人たちとはえらい違いじゃの……」

「……今から一時間…………」

「ん? あの旅人、様子が変じゃ。ちょっと待ちなさい」

「これから、……? どうしされましたか?」

「もう一度あの旅人を見なさい」

「? ……何か不審な点でも?」

「口が動いておる」

「息切れでは?」

「息切れにしてははっきりと動いておる。……あれは何者かと話しておるようじゃ」

「何者、って誰とです? それに無線機を耳に付けていませんし」

「ここからでは分からぬ。が、確かに話しとる」

「鼻歌か頭がオカシイのでは?」

「…………! あ、ああ、あれは……まっまさか……」

「何か見つけられたのですか?」

「襲撃は中止じゃ! 中止!」

「! な、なぜですっ?」

「ええから言う通りにせいっ! 襲撃は中止! あの旅人は絶対に襲ってはならんっ!」

 

 

「儂らが狙うは自分の力を過信し、やたらめったら他人を傷つけるような(やから)じゃ。今日の出来栄えを見ると、お主の眼力もちょっとは鍛えられてきたかの」

「……」

「じゃが、自惚(うぬぼ)れるでないぞ。まだまだ学ぶことは山ほどあるのじゃからな」

「はい。……ところで長老、僕のような若輩者をベテランと一緒に行動させ、勉強させるようになったのは、長老が第一線から退(しりぞ)いた頃だと聞いたのですが」

「そうじゃ。儂が提案したのじゃ」

「もしかして、先ほどのと関係があるのですか?」

「ふむ。そうじゃな。……あれは儂がベテランとしてバリバリやっていた頃じゃった。一人の旅人を見つけ、襲う計画を念入りに立て、実行した。山登りの格好をした男で、儂らが山賊だと知るとすぐに降参し、命だけはと嘆願してきたのじゃ。何やら珍しい物をたくさん持っていて、四角い蝶番(ちょうつがい)が一番目についた」

「見張りの発案が見事に成功したわけですね? 良かったじゃないですか」

「……あの旅人も……同じのを……あっ……あああ……!」

「長老? どうされたのですか?」

「あ、あいつはおっお、鬼じゃった……! あ、ああ……あっあの若かりし頃が生き地獄なら、あれはむっ無間地獄じゃ……! へ、へらへらしておるくせっくせに、どっどくを、どくをたべものに、くるしむざまをわらって、わら、わらっ」

「ちょっ長老っ? しっかりしてください!」

「過ち……おなじっあやまちをくりかえしては……くりかえしては……!」

「長老!」

「く、くすりを……くすりを……! げどく……やくをおおっ!」

「気を確かに! 長老!」

 

 

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