ソードアート・オンライン ~幼い心は強く~   作:紅風車

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第十話

いつのことだったか。

数年前ぐらいだったそれは俺という人格を大きく成長させられ、子供らしくない言動になった要因だった。

 

 

人体実験で捕らえられた俺は様々な実験が行われた。

最初こそ俺は抵抗していたが、いつの日からかそんな事すら止めた。

やるだけ無駄だと分かっていたのもあるかだろうか、動くことが出来てもただ無気力だった。

 

 

独りを好むようになったのは物心ついたときから独りだったから。

周りに大人が居ようと誰も近寄らず、実験の時のみ俺は連れ出された。

同じような境遇の子もいたのかもしれない。

だが俺はそれを知る事すらしなかった。

 

 

ある日、研究員が俺が一番だと言うようになった。

何が一番だったのか当時は分からなかったが、恐らくは今までで一番良い出来だったのだろう。

神が与えた才能は様々な方向へと使われ、振るわされてきた。

剣で切る、刀で切り裂く、弓で射抜く。

多才な才能を生まれ持った俺はかなり弄られた。

身体能力においても強化され、鉄をも武器があれば叩き切れた。

 

 

ある時俺は教えられいった知識に興味を示した。

とある剣士が放った剣撃は不可視でありながらほぼ同時に三つの斬撃を放って燕を斬った。

『燕返し』と呼ばれるその秘剣が気になった。

初めて何かに興味を示したのは、人を殺せる剣術。

だがそれを研究員には決して悟らせなかった。

 

 

だが実験施設は突然破壊された。

どれだけの日が経つのか分からなかったけど、手早い動きで施設を駆け巡る人がいた。

そして辿り着いた。

牢獄のような部屋に捕らえられた俺のところにまで。

すぐに俺はそこから助け出され、すぐに病院へと搬送された。

色んな身体検査を受けて静かに病室にいると扉が開いた。

スーツを着ていて眼鏡をかけた胡散臭い男性がいきなり入ってきてベッドの近くの椅子に腰掛けた。

 

「こんにちは」

 

「・・・」

 

挨拶してきたが俺は無言を決め込んだ。

何も話すことは無いという意味で。

 

「君は、家族が欲しいかい?」

 

家族というものは知識としては知っていた。

だがどんなものなのかはそこまで分からない。

見て聞くのと実際に体験するのでは違うから。

 

「・・・ほ、しい」

 

だから好奇心で俺は欲しいと言った。

どんなものなのか体験したかったから。

 

「明日、この病室に君の家族になりたいと言う人達がやってくるよ。それまでは待ってて欲しい」

 

「・・・わか、った」

 

そう伝えると男性はにっこりと笑って病室を出ていった。

明日またやってくる誰かがどんな人なのか、気になって眠れなかった記憶がある。

 

 

漸く眠れて起きた時には2人の家族がいた。

女性は起きた俺に手を振ったりしていた。

男性はあまり良くない表情だった。

 

「・・・だ、れ?」

 

いきなり喋った事に驚いたのか女性は手の動きが止まっていて男性は信じられないような顔だった。

 

「あなたを引き取りたいって言った家族です。私はあなたのお母さんですよー」

 

お母さんと言われた時は凄く何度も言った。

それを再確認するように何度も何度も。

泣いていた俺をあやすように泣き止ませてくれた。

 

「あなたも何か言ってくださいよ」

 

「ふん」

 

「全く・・・ほーら、お母さんですよー?」

 

この時から男性は不機嫌そうで俺を見る目がゴミ同然だったのは覚えていた。

俺もこの男性にだけはあまり近づかなかった。

 

 

何故こんな事を思い出したのだろう。

俺はもう捨てられているのに。

まだどこかで捨てられていないと思っているのだろうか。

考えれば分かるのにな、あれだけもぬけの殻ならば。

 

「ん・・・ぁ・・・」

 

あまり寝なかったからか、寝落ちていたみたいだ。

夜中に出歩いてサチを見つけたのは覚えているんだけどなあ・・・。

 

「眩しい・・・」

 

「あ、起きたんだ」

 

隣を見ればサチが座ってこちらを向いている。

だがその表情は心配そうだった。

 

「ん・・・おはよ」

 

「おはよう、昨日は・・・大丈夫だった?」

 

「昨日・・・?」

 

「・・・覚えてないの?」

 

昨日はサチが夜中に出歩いていたのを見つけて連れてかえって・・・。

そこから少しだけ話してコップを洗っていたら抱き着かれたのか。

 

「発作・・・か」

 

「え?」

 

「ううん、何でもない」

 

これは俺の問題で、サチが介入することじゃない。

まさか抱き着かれただけで発作が出ると思わなかったけど睡眠時間が少なかったからか。

 

「・・・キリト達は?」

 

「素材集めで確か・・・二十一層に行ってるよ。キリトは嫌そうだったけど」

 

「二十一層・・・まずい」

 

「そうなの?」

 

「アインクラッド一番のトラップ地帯。俺も危なかったから覚えてる」

 

二十一層は手練れでもトラップに気をつけなければレッドゾーンになりやすい。

また、結晶無効化などHPに直結する物を無効にするトラップもあることから二十一層は危険視されやすい。

 

「・・・死なれたら困るから行ってくる」

 

「わ、私も」

 

「自分を自分で守れないサチはどうやって戦うの。正直足手まといだよ。でも・・・一人は寂しいだろうし、この子と居てくれる?」

 

「・・・え?」

 

「よいしょ・・・」

 

『にゃ~』

 

俺がローブから出したのは愛猫のミア。

第一層で超極低確率で出現する猫をテイムしている。

お魚をあげたら懐かれたのをローブの中に隠して一緒に過ごしたりしてる。

サチもSAOに猫がいるのを知らなかったみたいで、俺の猫を恐る恐る持ち上げた。

 

『にゃー』

 

「可愛い・・・この猫って?」

 

「ミア。その子と一緒なら寂しくないかなと」

 

「・・・ありがとう。私待ってるよ」

 

「ん・・・じゃ」

 

俺は転移結晶を使って二十一層迷宮区最寄りの圏外村に転移する。

二十一層迷宮区にはモンスターが自然湧きが無いのを利用してトラップ湧きの反応を《索敵》で探す。

すると迷宮区マップにプレイヤー反応があったので、その場所に急ぐとマップには書かれていない道へと入っていった。

 

「隠し・・・?それもマップに表示されるのにな・・・」

 

今一度確認でマップ踏破率を見てみると100%ではなく96%と表示されていた。

俺がここを攻略するとき100%だったはず・・・まさか攻略が進むと解放されるタイプか?

 

「念のため後をつけるか」

 

ある意味目立つ黒づくめのプレイヤーがいたので恐らくはあれがキリト達だ。

そのあとをつけるように付いていくと、キリトが焦ったような声をあげた。

 

「止めろ!それは罠だ!」

 

その瞬間警報音が鳴って俺は移動術を使ってでもその中に入り込んだ。

部屋の中心を見ると宝箱が開封されており、それがキーとなって発動するトラップだ。

 

「キリト、守ることを重視して」

 

「分かった!」

 

《索敵》のおかげで発動したトラップ湧きのモンスターは分かった。

ソードスキルを使うまでもなく通常攻撃で持って行けるモンスターだけが湧いたため、すぐに片をつける。

 

「動くなよ。・・・《無明剣》」

 

小さく呟くとそれだけでモンスターのHPが一瞬で0になった。

二十一層とはいえトラップ湧きのモンスターは二十一層以上の強さを持つ。

それを俺は赤子を捻るように剣を振り回しただけで総数30体を切り伏せた。

 

「・・・解除するから待ってて」

 

「あ、ああ」

 

《罠解除》スキルをセットして発動したトラップを解除すると警報は止まって出入口が開いた。

キリト達の方へと振り向くとキリト以外は恐怖と拒絶が見えた。

俺を化け物として見ているような目で。

 

「・・・先、帰ってていい」

 

「だが・・・」

 

「帰って!」

 

「・・・分かった。一先ず帰ろう」

 

「・・・ああ」

 

俺の明確な拒絶にキリトが察してくれたのか、ケイタ達を連れて帰っていった。

キリトは人との距離を分かっているからこういうとき有り難い。

 

「・・・はぁ」

 

二十一層迷宮区を出ると歩いて主街区へと歩いていく。

道中にはレベル上げで奔走しているプレイヤーがいて、今となっては普通の光景。

 

「・・・お日様」

 

データの世界とはいえ現実そっくり作られた太陽は眩しく照らしていた。

俺の荒んだ心を照らされているような感じがして嫌だったので小走りで行くとすぐに主街区に着いてしまった。

元々距離も遠くなく、最寄りの圏外村から数十秒で到着できるほど。

主街区の中心にある転移門を使おうと向かっているとちょうど転移門で言い争っている声が聞こえた。

別段こういう風景は珍しくなく、《決闘》などで決めていることが多い。

それを利用して男性が数少ない女性を決闘で負けさせて服従させているような光景も時々見る。

今回もそんなものだろうと気にせず転移門を使おうとする。

 

「おい」

 

その声は先ほど言い争っている男性で、隣には怯えた様子なフードを被ったプレイヤーもいた。

 

「・・・なに」

 

「なに、じゃねぇんだよ。俺が話してる横を歩くんじゃねぇよ」

 

そしてこういうプレイヤーもいる。

転移門に限らないが、その場所を占領して我が物顔で寛ぐプレイヤーが。

俺は別に気にはしないけど俺以外の人が迷惑になっていれば対処したりはする。

 

「・・・そう。なら別のところに行く」

 

そして俺が別の場所へ行こうとすると動いて妨害して来る。

ローブの姿だからこそ大体は女性プレイヤーと決めかかる人も多く、間違ってもいない。

 

「・・・邪魔」

 

「あぁん?邪魔なのはお前だろうが」

 

さすがに俺もいらっとしたので愛剣の霊想刀を引き抜くとソードスキルを発動させた。

《圏内》でもしソードスキルを使えばどうなるか。

圏内エリアは絶対にHPが減らない設定で守られているが、ソードスキルの威力は消えない。

つまりはダメージが無いがぶっ飛んだりはする。

《片手剣》スキル『ヴォーパル・ストライク』は重突進でぶっ飛ばし力が馬鹿みたいに高い。

モンスター相手だと突き刺さるが、人相手ならばぶっ飛ばしがある。

 

「・・・吹き飛べ」

 

俺はそれをモーションを取るだけで発動させ、この男を吹き飛ばした。

軽く15mほどはぶっ飛んだようで、気も失っているだろう。

圏内戦闘による吹き飛ばしやエフェクトは使用者のステータス依存。

筋力が高いほどより強く遠くに、派手なエフェクトになる。

 

「・・・逃げるなら、今のうち」

 

「えっ?は、はい!」

 

フードの人は逃げるように転移門で転移していった。

俺に頭を下げてお礼も言っていた辺りあの男に負けたのだろうか。

 

「はぁ・・・転移、二十層」

 

《月夜の黒猫団》のギルドハウスがある二十層に転移する。

さすがに時間をかけすぎた感じがするので少し早めに向かってギルドハウスの扉を叩いた。

 

「・・・おかえり」

 

「ん・・・」

 

「キリト達、中にいるよ」

 

「・・・そか」

 

出迎えたのはサチで中に入ると全員テーブルを囲むように座っていた。

そして二人が立ち上がって俺の前で頭を下げた。

 

「「ごめんなさい!」」

 

「・・・なんで、謝る」

 

「そ、それは」

 

「ただ謝れば良いと思うなら謝らないで」

 

「・・・怖かった、ユキさんがあのモンスターを一瞬で片付けたとき、ユキさんが怖く見えた」

 

「俺も・・・同じです」

 

「・・・そ」

 

これ以上は俺がいても良いことにはならない。

さすがに俺が原因で関係がギクシャクするのは嫌だし。

潮時かな、お休みも。

 

「キリト、ケイタ。俺はこのあたりで終わるよ」

 

「・・・そうか」

 

「・・・分かりました」

 

「これ以上は何も出来ない。それじゃ、ばいばい」

 

『にゃー』

 

サチから抜け出すようにミアが俺のローブへと入った。

一応猫ポーチ的なのは作ったからそこにいるのだけど、定位置になったらしい。

明確に俺は去るとケイタ達に告げるとキリトが走ってきた。

 

「ユキ!」

 

「ん・・・」

 

「フレンド・・・構わないか?」

 

俺のフレンドリストには一人だけ登録されている。

情報屋《鼠》のアルゴ。

その人物以外は一切登録がされておらず、今までも申請は来ても断っていた。

 

「・・・それは、嫌・・・かな」

 

「理由・・・聞いていいか?」

 

「・・・キリトが嫌ではない。ただ、消えるのなら独りで消えるよ。死ぬ時も。だからフレンドは断る、じゃないと来ちゃうじゃないか」

 

「・・・寂しくないのか?」

 

「今までも、寂しいと思ったことなんて無い。ありがとう、こんな俺でもなろうと思ってくれて」

 

 

「じゃあね、キリト」

 

「待て!」

 

俺はキリトに呼び止めれようとも気にせず転移結晶を空に掲げた。

蒼く透き通る結晶は月光りに照らされて美しく見える。

 

「転移、五十一層」

 

俺はそう呟くと、結晶から溢れ出る光に飲まれて二十層から姿を消した。

 

 

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