ソードアート・オンライン ~幼い心は強く~   作:紅風車

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第二十九話

狂い、狂い、狂い。

数多くの非道な実験により擦り減りきった精神。

辛いと、嫌だと言えず。

感情を封じて甘んじて受けるしかできなかった投薬。

許容量を超える知識量を無理矢理、幼い脳へ詰め込む。

 

度重なる投薬により、異常な成長を遂げる事になる肉体は幼い少年の命を少しずつ減らす。

眠らなくても活動が出来る身体。

力を入れれば、その見た目からは考えられないほどの膂力。

計略を考えれば、常人には考えられないほどの戦略や発想を生み出す。

普通の人としてでは扱えない剣技は使いすぎれば自身の身を壊すことにもなるほど。

 

常人が受ければ発狂し、廃人になる事が決まるほどの脳のダメージを受けた少年は。

終わることがない永遠の暗闇にて意識の覚醒を拒む。

大切な少女を守りたいと考えても、行動を起こしたくても。

本能的な自己防衛が妨げ、眠りを続けていた。

 

「ユキ」

 

明るく、天真爛漫な紺色の少女。

少年が愛しく想い、自分の意思で救うことの出来た一人で。

少年の境遇を共感し、慈しもうとした彼女は。

 

暗く、覚めることのない夢のまどろみで寄り添っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

苦痛の悲鳴をあげたユキを背負い、自分達の家へと帰ったユウキはベットへ寝かせると常に傍でその姿を見守っていた。

目が覚めないかもしれない、そんな恐怖を感じながらもユウキは冷たく震えるユキの小さな手を握って、身体を抱きしめていた。

 

「・・・ユ、キ・・・」

 

自分より二つ下であそこまで頑張れる事のが凄い思えると同時に、それをさせなければならなかった事も悔いてしまっていた。

 

「ごめんね・・・」

 

普段なら流す事も少ない涙が溢れるようにルビーのような目から流れていく。

 

「起きて・・・起きて、よぉ・・・!」

 

自分の我が儘だったとしても、また自分の名前を呼んでくれる小さな男の子の声が。

声変わりのなかった高めの声を聞きたかった。

 

「ぁ・・・」

 

その時、ユキの閉ざされた口から呻くように聞こえた声を聞き逃さなかった。

ピクッと冷えた指が、泣いているユウキに握られ絡められていた指に返すように、少しだけ。

 

「ユキ・・・?ユキ!起きてるの!?」

 

先程のほんの少しだけしか今日は反応はなかった。

それでもまだ生きているんだと分かったことがユウキにとってどれほど嬉しく思ったか分からなかった。

ぎゅっと強く抱きしめないように優しく。

ユキの身体を包んでいると泣き疲れからかユウキの意識はとろとろと眠気に襲われていった。

 

 

 

 

 

ユキが倒れてから、一週間近くが経ちはじめた頃。

ユウキは迷宮攻略に姿を一切見せなくなり、ユキの傍にいることを最優先にしていた。

度々ユウキとユキの様子を見にキリトやアスナがやってきたりしているが、何も変わらずが続いていた。

 

「ユキ・・・ボク、少し疲れちゃった」

 

あれからユウキはユキの元を一切離れなかった。

外を出るときはローブを自分とユキに着せておんぶをして出ていた。

それも家の近くで散歩をする程度ではあったが、時々反応を少しするときがあった。

 

「一緒に、ずっと、このまま居たい・・・な」

 

ユウキにとってユキは自分の全てを捧げても良いぐらいに大切な存在になっていた。

迷宮攻略という現実世界への帰還も二の次になるほどにまで。

親友のアスナですら手を付けれないほどだったのだから、ユウキの惚れ具合は凄まじいと言える。

 

「・・・ぁ・・・」

 

小さく、呻く声。

それを聞き取ると手を握って傍にずっと寄り添っていた。

この触れ合いもユキの心を癒すのに効果があると、何故か分かることが出来ていた。

返す反応は小さいながらも、ユウキにとっては嬉しく感じるのだから。

 

「ユキ・・・ボクはここに居るよ」

 

震えはじめた手を握りながら反対の手でユキの頭を撫でる。

ゆっくり、ゆっくりと優しく撫で付けると。

その手が止められていた。

 

「ぁ・・・ぁあ・・・」

 

それはユウキの意思ではなく。

明確な誰かの手によって止められた。

 

「ゅ・・・う・・・き・・・」

 

弱々しくなってしまったながらもその存在をユウキへ向ける人。

 

「ゆき・・・」

 

「ぉ・・・は・・・よ」

 

外は暗く、夜ということを示しており、目線だけを右上に向ければ時計も夜を示す。

それを理解してないということはユキは、未だに心身が治しきっておらず、疲れ果てている状況にはなっているということがユウキにはすぐ理解できた。

 

「まだ寝てて良いんだよ・・・?」

 

「ぁ・・・ぅ・・・」

 

ユウキに言われてか、すぐにまた眠りへと入ったユキは強くはない力で精一杯に甘えた。

 

「・・・置いて、かないで・・・」

 

少しすればユキから漏れた言葉は幼いときの記憶だろう。

家族に捨てられたユキは置いてかれてしまった。

 

「絶対に、置いてかないよ。ボクはユキと居るんだから」

 

頭を撫でながらユウキはそういうと目を閉じ、眠りについた。

 

 

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