ソードアート・オンライン ~幼い心は強く~   作:紅風車

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第三十話

ユウキが目覚めると側で一緒に寝ていた少年の姿がなくなっていた。

 

「ユキ・・・?」

 

今のユキの心身では戦闘をやろうとは考えないと思い、家を出て少し歩く。

ユキとユウキが暮らす二十二層はモンスターポップが一切無いため戦闘は有り得ない。

 

「ん・・・」

 

家の近くを流れる川の近くでユキは静かに座っていた。

長い黒髪が風に煽られ、涼しく感じれた。

 

「ユーキ」

 

ユウキが後ろから優しく抱きしめると少し驚いたのかユキの身体がビクッと震える。

 

「ん・・・ユウキ?」

 

「そーだよ?」

 

ユウキだと分かるとそのまま身体を預けて手を握る。

これほどまで無防備にしているのもユウキだからこそだろう。

でなければ心身共に疲れていようが警戒をしているほどだった。

 

「んぎゅ」

 

「外に出るのは良いけどせめてメッセージで教えてね?じゃないと心配なんだよ?」

 

「ん・・・ごめん、なさい」

 

「うん、よろしい」

 

ユウキは軽々しくユキを持ち上げると抱いたまま、ホームへと戻る。

メッセージには主にキリトとアスナのメールが来ており、その大体が攻略会議の進み様などだった。

つまるどころ、ユキという攻略組最強のプレイヤーの事よりもSAOの階層攻略が優先されていた。

 

「ユウキ」

 

「んー?」

 

「・・・七十五層の攻略、いこっか」

 

「・・・良いの?」

 

「ん、わかんない」

 

ユウキとしては、ここでもう少し療養して欲しくはあったものの、攻略組から早く復帰しろという声が多かったのも事実。

 

「ユウキに言っておくね。多分、リアルに戻ったら・・・」

 

「戻ったら?」

 

「この世界の僕と違うかもしれない。それでも一緒に居てくれる?」

 

「当然。ボクは言ったよ?ずっとずっと一緒にいるって」

 

強くユキを抱きしめるとユウキの胸に抱かれたユキから小さく泣き声がした。

よしよしと頭を撫でながら泣き止むまでそれを続けるとユキを離してクイックメニューから装備を変えた。

ユキも同様に装備を変えるとホームを出て鍵を閉めていく。

お互い手を握ってユキが掲げたのは転移結晶。

 

「転移、七十五層」

 

SAO最後と言われる事になる階層攻略。

その大きな要となる人物が攻略当日に復帰するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が七十五層の主街区へ転移すると迷宮攻略メンバーが集っていた。

 

「ユキ、ボクが一緒だからね」

 

「ん・・・」

 

ピタッとユウキに引っ付いており、人嫌いは治らなさそうだとユウキは思いながらとある人物を探す。

とはいってもその本人はよく目立つのですぐ見つかるが。

 

「あっ!アスナー!」

 

「・・・?ってユウキじゃない!?」

 

「ごめんね?少し時間かかって・・・」

 

「良いのよ?ユキ君の事だろうと思ったもの」

 

ユウキとユキからすれば理解者でもあるアスナとキリトは良い友人でもあり、親友だった。

攻略会議にも来なかったのは何かあるからだろうと思い、強くは言わないようにもしていたのがアスナ主導でもある。

 

「ふむ・・・二人は来れたのだね」

 

「ん・・・」

 

達観したような声はユキにとって聞き覚えのある声。

まだその時ではないだろうと考え放置していたが、ユキは決断していた。

 

(・・階層攻略後、ボス討伐なら権限使っても疲労が残る)

 

血盟騎士団ギルドマスターであるヒースクリフ。

その正体が誰なのかをユキは知り得ていた。

今までは泳がせていただけで。

 

「ユキ?どうしたの?」

 

「ん・・・何でもない」

 

今はユウキを心配させないよう、普段通り取り繕う事を優先させた。

 

「それでは、向かおう!我々の一歩が現実世界へと帰還する進歩となるために!」

 

リーダーシップを取るヒースクリフの声に攻略参加者の士気は高まるばかり。

 

「・・・絶対に死なせない。ユウキは誰にも」

 

狂った笑みを浮かべかけた稀代の暗殺者は愛しき少女を守るために、その技を奮う。

 

「よしっ、ユキ行こ!」

 

ヒースクリフによって開かれた回廊結晶の行き先は迷宮第七十五層のボス部屋前。

 

「ん・・・分かった」

 

ぎゅっと握られたその手にユキは連れていかれるも、自分自身の足も進めた。

 

 

 

 

 

回廊を潜ると大きな扉があり、そこへ参加者が集っていた。

最終的な確認を終え、各々が緊張を張り巡らせながら。

 

「キリト、アスナ」

 

「ん、なんだ?」

 

「どうしたの?ユキ君」

 

いきなり話し掛けられた二人は何だろうと思いながらユキへと振り向く。

 

「・・・ユイとルルは?」

 

「あの二人は俺達の家にいる。本当ならユキのところなんだが・・・その・・・な」

 

「・・・?」

 

「キリト!?だ、だめだよ!」

 

「・・・ユウキ。いくらなんでも寝てるユキ君に・・・ねぇ?」

 

「アスナまで・・・」

 

ユウキが焦るほどというのは気になるも二人が安全にしているのが分かると少しほっとしていた。

ユキにとってもあの二人は少し特別で、ユウキとはまた違う関係なのだ。

 

「ん・・・安全なら、良い」

 

「・・・これが終われば俺達は帰れる」

 

「キリト君?」

 

「・・・ん」

 

ユキはここで気付いていた。

キリトは一体誰の事を示して帰れると言ったのか。

このSAOにて最速の攻略法を。

 

「準備は良いかな?」

 

緊迫した空気が一瞬にして消え散り、空気が変わった。

 

「これは我々の、SAOにいる全てのプレイヤーの命運を握る戦いだ。これからを、現実世界へと帰るための掛橋へとなり得るのがここにいる全員だ」

 

 

「我々の戦いを、勝利し生きてプレイヤーへと伝えるのだ!滞った攻略をまた一歩ずつ進めるため!」

 

ヒースクリフの激励が不安へとなっていたプレイヤーを活気づける。

リーダーシップがあるというのはその指揮下にある者を如何に勇気付けるかが重要だ。

 

「行くぞ!我々の帰還を叶えるために!」

 

その瞬間プレイヤーの雄叫びが一斉に聞こえた。

それほどまでに活気づけられているのだ。

それを行えるのはごくわずかなのだろう。

 

「生きて、帰ろうね」

 

「ん・・・」

 

ユキの頭の中で何かが変わった。

ただの人としての思考から、全ての無駄を取り除き、効率的に邪魔を切り捨てる残忍な暗殺者へと。

 

「あは・・・」

 

その狂った笑みに気づけたのは誰か居たのだろうか。

古今東西、ありとあらゆる戦闘技術を身につけたユキに並ぶ事が出来るのは、誰なのだろうか。

それを知るものは誰も、いない。

 

 

 

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