ソードアート・オンライン ~幼い心は強く~   作:紅風車

32 / 37
第三十二話

閑静な住宅街、そんな場所で一人の少年が家の中に入る。

村雨と書かれた札があり、家からは寂れた物を漂わす。

 

「・・・久々」

 

少し嬉しそうな声色をしているも、その表情は全く動いていない。

 

「・・・はあ」

 

中はあの時から何一つ変わっていなかった。

協力したあの日から、何一つ。

 

「・・・」

 

想起されていくのは義理の姉と妹と過ごした日常。

それも段々掠れていて、はっきりと思い出せない。

SAOというゲームで優紀が得た事もあれば。

失っていったものもあった。

例えば、今もなお動かない表情。

自分を捨てた義理の姉妹。

発狂に等しい苦痛と疲労はそんなものを奪っていった。

唯一、優紀自身が持ちうる身体能力や演算、処理能力といったものは変わらなかったが。

 

「ん・・・」

 

少し昔を思い出していると優紀の携帯が振動を起こす。

携帯に表示された画面には『菊岡さん』とあった。

 

「・・・はい」

 

『お、出てくれた』

 

「・・・かけてきたんですから」

 

『君に言われていた事は全て終えてあるよ。その書類や手続き、そして設備も用意させてもらった』

 

「・・・はい」

 

『電話越しではあるけど、正式に君にやってほしい仕事を依頼させてもらおう』

 

「・・・内容、確認」

 

『囚われたSAOプレイヤーの原因究明、及び救出。それに従って仕事人である君には最大限の協力をさせてもらうよ』

 

「報酬、は」

 

『分かっているよ。それは公には言える内容じゃないだろう?』

 

「・・・了解。報酬が、支払われない場合、全力で潰す」

 

『おお、怖い怖い・・・期待しているよ。君には頭が上がらない立場なんだ』

 

そういうと菊岡は電話を切った。

優紀が菊岡に要求した報酬は、村雨優紀の戸籍を紺野家へと入れる、必要以上の干渉を自分とその友人や家族にしないことが挙げられた。

菊岡という人物は上の立場だと見抜いての要求で、優紀としてはこれを見逃すわけには行かなかった。

 

「・・・先に、あそこに行こう」

 

仕事をする前に、そのやる気を出すためかつて自分が入院していた病院へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

少し時間がかかったが、病院へと着くと受付へと歩く。

 

「すみません」

 

「はい、って優紀くん?」

 

「・・・はい」

 

「何か・・・ってお見舞いだったかな?」

 

「そう、です」

 

「ええっと・・・はい、これ持っていけば入れるからね」

 

「ありがとうございます」

 

ほぼ毎日のように病院に来ており、入院時から関わった人が多かった。

今回の受付の人物も優紀とは顔見知りで、今もなお病院へ来ている理由を知っている。

エレベーターで5階へと上がると23号室の扉を3回叩いた。

中からは返事がなく、優紀は扉を静かに開けるとベッドの側で椅子に座る。

 

「・・・ん」

 

ベッドで横たわるのはSAOで優紀と恋仲で結婚もした木綿季がナーヴギアを被ったまま目を閉じていた。

 

「・・・木綿季、来たよ」

 

優紀が帰還したあと、リハビリをしている途中に菊岡がやってきて現状を教えていた。

SAOサバイバーの数百人が未だ帰還しておらず、中にはアスナや木綿季も同様だった。

 

「・・・少し、少し・・・だけ」

 

木綿季に抱き着いて優紀は声を押し殺した。

病院の壁は薄く、泣き声はばれてしまう。

優紀よりも細くなってしまった木綿季の身体は不健康そのもので、力を入れてしまえば折れてしまうだろう。

 

「・・・ん、よし」

 

 

「木綿季、待っててね。頑張る」

 

優紀は名残惜しそうにしつつも、病室を後にして病院を出ていく。

そしてタクシー乗り場でタクシーに乗ると、とある場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タクシーから下りると、着いたのは東京都の千代田区にある総務省。

神奈川県に住んでいる優紀にとってタクシーの料金が凄まじいが、その料金は経費で落とすことにしたようだった。

本来ならば優紀が総務省の内部に入ることはないが依頼のため仕方なくだった。

 

「・・・はあ」

 

「・・・?そこの僕。ここに何か用かな?」

 

「・・・ここで、会いたい人が居るんです」

 

「ふむ・・・どんな人なのか聞いて良いかい?」

 

「菊岡誠二郎っていう眼鏡の人です」

 

「菊岡さんのお客さんは聞いているよ。恐らく君の事だろう。分かった、案内しよう」

 

たまたま役人が近くを通っていたのが運が良かった。

優紀からすれば内部に入る方法も知っている容易くはない。

菊岡という人物も立場は上と考えれば易々と名を出すべきか悩まれる。

 

「しかし菊岡さんが言ってた協力者が君みたいな子供だとは・・・世の中はわからないことだらけだ」

 

「・・・そうですか」

 

「菊岡さんが捕まえて来る協力者にハズレはないんだ。今までもね。だから今回のは少し予想外だ」

 

こういった会話でも優紀は最低限しか喋らなかった。

この手でも情報を聞き出そうとするからだ。

それを知っており、差し当たりのない会話で済ませると菊岡の姿が見えていた。

 

「お、きたきた。やあ、優紀くん」

 

「・・・どうも」

 

「菊岡さん、今回の事件、この子に任せるつもりですか」

 

「ああ。正式に依頼で雇っているから報酬もださないとだけどね。それでもその価値がある」

 

「・・・まあ、これ以上は聞かないでおきます。頑張って下さい」

 

案内してくれた役人はさっとどこかへ行くと菊岡はこっちだよと案内する。

その案内の部屋の中には数十人ほどおり、扉の札には仮想課とあった。

 

「さて優紀くん。お願いしても構わないね?」

 

「ん・・・条件」

 

「・・・まさかあれ以上にかい?」

 

「・・・ある程度、ハッキングするから邪魔しないで」

 

「なるほど・・・分かったよ。結果を出せたら教えてほしい。原因究明を纏めないとだからね」

 

「・・・ん」

 

優紀は用意されたパソコンを立ち上げると何があるのかを一通り調べた。

基本的には問題のない物で、使い勝手は悪くはなさそうだった。

 

「・・・まずは、サバイバーから、か」

 

調べるは、まずSAOサバイバー。

その情報と繋がれたナーヴギアからの逆探査を行うべく天才が動き出した。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。