「学校?」
「ええ。あなた達、義務教育終えてないんだもの」
優紀の義姉である絢音から言われたそれは、優紀にとっても木綿季にとってもあまり、良い思い出はないだろう。
木綿季がいじめられていた学校のせいで印象が良くないのだ。
「もしくは・・・あるところに勤める、っていう方法があるわ」
「ん・・・どれ?」
絢音が優紀達に見せたのは封筒がされている書物。
優紀がそれを受け取り、封を切ると中からはいくつかの紙が出てきた。
「ん・・・」
七色・アルジャービンという人物が優紀達を雇いたいという旨で、仕事内容、勤務時間など様々な事が書かれていた。
「その七色ってのは科学者で、どこからか聞き付けたのか優紀達を引き込みたいらしいのよ」
「・・・そう」
「え、えとお姉さん。これってボクも・・・?」
「そうでしょうね。じゃないと優紀を釣れないもの」
「姉さん。会って、話したい」
「良いわよ。向こうも予定が今は空いてるらしいから明日ぐらいで構わない?」
「ん・・・いい」
「学校に関しては任せるわ。行きたいのなら言いなさい。ただし木綿季ちゃんも巻き込むのならそれ相応にね」
「ん・・・」
絢音はそれを言うと家を出て行った。
今からも仕事があるのだろうと察した優紀は何もいわず、七色と呼ばれる人物を調べた。
「ん・・・天才、科学者」
優紀が知るかぎりの天才科学者は萱場晶彦という科学者だ。
サイト上では七色は仮想現実に対する研究を重ねているようだった。
しかし仮想現実を可能にした自立コンピュータのカーディナルシステムは解析が出来ていないためにそれ以上の研究が出来ていなかったようだった。
カーディナルシステムを作り上げたのは優紀自身で、そのデータはサーバーへ上げられておらず、優紀の頭の内部で記憶されているためにどこにもカーディナルの根本が流れていない。
「ゆう」
「ん・・・?」
「七色っていう人に会って、どうしたいの?」
「分からない」
「・・・そっか」
「でも、気が向いたら、手伝うのは、やぶさかじゃない」
素直に言わなくとも木綿季にはその意図が伝わっているために、クスッと笑われると優紀は頬を膨らませた。
「ふふっ」
「むぅ」
「ボクも手伝うからね?」
「ん・・・分かった」
その時、木綿季のお腹から音が鳴る。
小さく可愛い音だったが、顔を真っ赤にして俯く。
「・・・ん、おなか、すいた」
「だね・・・」
「・・・作る」
優紀の家事能力はその辺の主婦顔負けの手腕のため、木綿季は出来るのを待つだけ。
最初こそ木綿季も手伝おうとするが、手慣れた動きに自分がそれを見て学ぼうとしていた。
「慣れてるね」
「ん・・・」
「ボクも出来るようになりたいなぁ・・・」
「木綿季は、そのまま、がいい」
「えーっ・・・」
「ん・・・」
そう言いつつも木綿季の手料理ならば優紀は容易く食べるが、それは敢えて言わない。
木綿季が家事をやるようになれば優紀の普段の日課がなくなるのだ。
「出来た、よ」
てきぱきと作られた料理は良い匂いを醸し出しており、木綿季はもう我慢出来なさそうだった。
「美味しそう~・・・」
「ん、いただきます」
「いただきますっ」
いち早く木綿季は箸を動かしご飯を食べる。
口に入れた瞬間とろけたような表情になり、美味しそうに食べていた。
「ん~・・・美味しい!」
「ん、良かった」
普段通り作っている方法で料理を作ったとはいえ、自分以外に食べてもらうのは気恥ずかしさがある。
「ん・・・美味しい」
誰かとご飯を食べるのはこれほど味が変わるのだと分かると優紀はもう独りでは食べれなくなりそうだと思った。
「ごちそーさま!」
「っ、早い」
物の見事に木綿季は完食しており、満足そうな表情だった。
これほどまで喜んでくれるのなら優紀としても作った甲斐はある。
「・・・うん」
ーーー木綿季がいるだけでこんなに世界が変わるんだ。
そう考えれる思想に限界なんてなかったのだろう。
非人道的に身体を弄られた優紀は人としての在り方をまた助けられていたのだから。