俺の目の前にはヘルメットのような形を想起させる黒い塗装がされ緑色のランプが点灯していた。
VR・・・仮想現実へとフルダイブするこの機械はナーヴギアと呼ばれ初回一万ロッドだが販売された。
俺は茅場晶彦の協力関係で貰った。
初回はキャリブレーションで身体のあちこち触ったがまぁ・・・初回だけだからと高を括っていた。
まさか下半身もじっくりしないとなのはびっくりだったけど。
俺はナーヴギアを被ってベッドに寝転んだ。
「リンク・スタート」
時刻14:00になった瞬間俺は仮想世界へと意識を飛ばすためにその呪文の言葉を放った。
虹色の輪をくぐり抜け様々なシステムチェックが終わる。
そして目を開ければそこは。
1万人がプレイするソードアート・オンラインの世界風景だった。
「・・・風が・・・気持ちいな」
自分も製作者として関わった。
主にグラフィックとゲームプログラム関連で。
その時にどうすれば良いのかを覚えているからやり方はわかる。
「・・・早めに、動こうかな」
軽めにβと変わらないか見てみたが全く一緒だったし良いか。
「ねー!そこの子ー!」
「ん・・・?」
呼ばれた気がして辺りを見渡すとこちらに手を振って来る女の子。
長い紫の髪で赤い目が特徴の元気な女の子。
「えっと・・・何か」
「迷いない動きだったから、このゲーム知ってるのかなーって」
知ってるどころかかなり深く関わっている。
だけど人に関わるのは好きじゃない。
「・・・初めてだから」
「そっかぁ・・・」
「それじゃ」
「うん、ごめんねー!」
例え幼くても人は人。
俺の事を真っすぐ見てくれた人なんていなかった。
だからあの子には嘘をついた。
「・・・早く動こう」
俺は武器屋で片手剣を購入。
初期武器だけど第一層にはかなり高性能の片手剣クエストがあるからそれを入手すれば当分は大丈夫。
《始まりの街》を出ると、フィールドには猪モンスターがいた。
あれが最初期のモンスターでおそらく一番狩られやすい。
ソードアート・オンラインは剣の世界で魔法は一切ない。
だがそれを上回るソードスキルが目玉で俺も組み上げるのは苦労した。
ソードスキルは特定のモーションを取ることで発動できる。
身体を動かせば立ち上がるけど、慣れないとソードスキルの強制行動に引っ張られやすい。
「・・・ふっ!」
《片手剣》スキルの《ソニックリープ》を立ち上げると一瞬で猪はポリゴン片へと変化した。
普通にソードスキルを使っても一発では持っていけない。
さすがに序盤で連発して勝てるHPにはしていないし。
念のためステータス画面を開くとβテストのデータがそのまんま引き継がれており、アイテムストレージも最後にβテストを終えた時のままだった。
「・・・なんでだ」
茅場がそういうふうに設定したのなら別だが、これは確実にフェアじゃない。
ビギナーとの隔たりを作るし、難易度も易しくなる。
「・・・俺だけ・・・なのか」
とりあえずこれはしばらくださないほうが良いか。
だけどフロアボスの偵察としては使える。
とりあえず装備していても見た目反映を切れる部分は装備しておく・・・か。
βテスト限定装備のはずなんだがなあ、俺がそういうふうに設定した装備だし。
『無銘の指輪』
・筋力値30%増加
・敏捷値20%増加
・取得経験値3倍
・取得コル量4倍
・ソードスキル熟練度上昇率1.25倍
・ソードスキル硬直時間短縮0.5秒
この指輪はβテスト限定で出現していた装備で、正式ではデータはあるが装備は出来なくなっているはずなんだがなあ。
性能もステータスダウンになるようにしてあるぐらい徹底的だったが。
「・・・一応つけよう。うん」
レベルも確認したが、19でかなり格差がある。
というかこれは隠せない気がする。
「あらゆる情報を切っとこう・・・」
《索敵》スキルは相手を看破できると情報が見えてしまうので、そのために《隠蔽》スキルを発動しておく。
これなら、【(索敵値ー隠蔽値)ーレベル差】という計算式が作れて索敵による看破が難しく出来る。
「とりあえず・・・・・のんびり」
そうしようとした瞬間、遠くから鐘の音が鳴り響いた。
「・・・転移?」
転移エフェクトで強制転移されたのは《始まりの街》の広場。
そこにはどんどん転移されてきた人がやってきて、かなりの人数が集まっている。
そして中心からどろっとした液体が出てきて、それはローブを被った人の形を作った。
『ようこそ、ソードアート・オンラインの世界へ』
『私の名前は茅場晶彦。唯一この世界を操作できるプレイヤーだ』
『プレイヤー諸君は恐らくメニュー画面からログアウトボタンが消えていることに気づいているだろう。だがこれは不具合なのではない。ソードアート・オンライン本来の仕様である』
『ログアウトする方法はただ一つ。このゲームをクリアすることだ。諸君らが今いるここは第一層、それを第百層まで上り詰め百層のフロアボスを倒せばゲームクリアとなる』
いきなりの事に俺以外のプレイヤーは困惑、混乱になっているものや、罵声を浴びせる。
仕方ない事だろう、いわば突然監禁されたも同然なのだから。
『しかし、諸君らには充分注意してもらいたい。以後このソードアート・オンラインの世界では一切の蘇生アイテムは機能しない。諸君らのアバターのHPが0になった瞬間、ナーヴギアの脳破壊シークエンスが起動し、諸君の脳を破壊する』
『また、現実世界のナーヴギア取り外しも有り得ない。忠告を無視しナーヴギアの取り外しを行った物が既に存在し、およそ二百名程がゲーム及び現実世界からも退場している』
茅場が見せて来る一つのニュース画面。
今現実世界で放送されているものなのだろう、それが現実だと訴えている。
確かにナーヴギア程であれば人の脳を破壊できる。
簡単に言えば電子レンジの原理と同じなのだ。
電子レンジの仕組みをナーヴギアに仕込んでいるのでそれを暴走させれば簡単に殺せる。
『また、この場に君がいるのなら言いたい。騙してすまなかった』
それは誰に向けられているのか俺以外は分からないだろう。
だが俺はその謝罪をしっかりと受け取った。
『さて、諸君らには私からのささやかな贈り物をさせていただいた。確認してほしい』
その時に近くで鏡から溢れる光に呑まれているプレイヤーを見た。
そしてそれは収まったとき、変わっていた。
最初と違う全くの違う顔に。
『これでソードアート・オンラインの正式リリース及びチュートリアルを終わる』
俺はその瞬間、この場から逃げた。
何もまず色々とやることがあった。
だけどまず、逃げたかった。
そうして路地の裏に移動した俺は、アイテムストレージを漁って、『身隠しのローブ』を見た目装備に装備して姿を隠す。
手鏡はその状態で使った。
これはリアルのアバターを再現するものだと分かったから。
「うっ・・・」
手鏡から溢れる光が眩しくて、目をつぶった。
光が収まって覗いてみれば、リアルの自分が写っていた。
女の子のような容姿に顔で、腰に届く長い黒髪。
そして日本人とは思えない蒼い眼。
「・・・自分・・・」
これからどうしようかと思いながら、《隠蔽》スキルと《索敵》スキルを発動させてその場で一度寝ることにした。
スキルを切らないかぎり俺に気づけるのはいないのだから。