あの時、何かしていれば。
何かが変えれたのかもしれない。
例えばキリトのように自分から必要悪へとなった者に何か出来れば。
そう考えた時もある。
俺はキリトのように必要悪になれなかった。
なら何か出来ることを自分なりに探した。
βの時に開発としての運営権限で動いていた俺は軽くゲームバランス崩壊な武具を創り出していた。
『霊想刀』
カテゴリ【曲刀・刀・片手剣】
・筋力値3倍
・敏捷値2.5倍
・最大HP3.5倍
・与ダメージ1.3倍
・防御力100%貫通攻撃
・HP大幅自動回復
・全ソードスキル発動時間、硬直時間削除
『蒼天の護衣』
カテゴリ【胴防具】
・筋力値1.5倍
・敏捷値3倍
・最大HP1.5倍
・防御力3.5倍
・《索敵》、《隠蔽》使用時補正付与
・ダメージカウンター率250%
・HP大幅自動回復
・全状態異常無効化
・HP1%以上で致死ダメージを受けた場合必ずHP1残存
・装備している全ての武具の耐久値無限化
・取得経験値10倍
・取得コル量10倍
この二つの防具と武器は俺がβの時に使っていた装備でデザインからスペック全て俺が一人で創った。
無論βテストでこれを使えば無双出来てしまうので自重していたが今のSAOで自重する事も無い。
後は己の技術で階層を単独踏破していった。
一人ならパーティーのように気を遣う必要もなく全力で暴れ散らせるのでやりやすい。
そんなことで俺は攻略組よりも遥かに早く攻略しているからか、攻略組から休暇要望が出ているほどに。
だが俺は問答無用で攻略を進めたが、五十層攻略をしてさすがに一人は止めて攻略組に合わせるようにした。
基本的に階層の迷宮区マップを完全踏破したマップデータをアルゴに渡して、そこからプレイヤー達に渡るようにしている。
俺自身人嫌いなのと情報屋はアルゴ以外信用していないし。
その時にアルゴに言われた、いや言われてしまった。
「ユキ坊、攻略はしばらくお休みダ」
攻略組の幹部達全員がアルゴに頭を下げてでも言ってほしいと言われたらしく、アルゴもその気があったので俺に言ってきた。
俺も五十層のソロ攻略をしてさすがに厳しいと思っていたのと、攻略組の殆どが育ち切れていない為など・・・まぁ俺を止める意味は色々あるらしい。
なので俺は下層に降りて素材を集めることにして、数時間篭っていた。
「たぁぁぁぁ!」
数人ほどだろうか、声がする。
ただ聞こえただけだが、声の違いだけを判別して五人。
俺がいる階層は二十層で、このあたりは素材集めの階層として美味しいのでよくお世話になっているのだが・・・。
気になったので隠れながら見てみると、人数は六人でその中には第一層以来のプレイヤー、キリトがいた。
「・・・キリトのギルド・・・?」
そう思ったが第一層の言葉でキリトは孤立している。
勧誘するギルドは殆どないので恐らくは協力をしている・・・といった感じかな。
そんな考察をしていると一人の女性プレイヤーの後ろを取ったモンスターが草むらから出て噛み付こうとする。
このまま見ていればキリトが切り伏せるだろう。
だが最悪の自体を予想してしまった俺は隠れているのを忘れて飛び出した。
「なっ・・・!?」
《片手剣》スキル『ヴォーパル・ストライク』で思いっきり突進して突き刺して倒す。
いきなり現れた俺に警戒をするが、キリトはすぐに剣を下ろした。
「・・・まさか、ユキか?」
「何故そう思う?」
「ローブを着ていて小学生ぐらいの身長はユキ以外知らないからな」
「はぁ・・・合ってるよ」
「こいつは俺の知り合いだ、危険じゃない」
キリトが言うと全員武器を下ろした。
何故キリトが言っただけで警戒を一気に引き下げるのかと思ったが、ぱっと見でキリト以外の装備を見た。
「ん・・・下層ギルド?」
「えっと、キリトさんのお知り合い・・・なんですよね?」
「まぁ・・・」
「キリトさんに今俺達のギルドを手伝ってもらってるんですけど・・・その、一緒に・・・」
「お、おいケイタ。幾らキリトさんでも信用できるか分からないだろ」
「それでも、さっきのスキルを見たけどかなり強いと思うから・・・お願いできませんか?」
「・・・キリト、なんで?」
キリトに事の顛末を聞くと、十九層でジリ貧になっていたこのギルドを助けたことがきっかけらしい。
まぁキリトらしいけど・・・知り合いだからって俺にまでか・・・。
「ユキ、嫌なら断っていい」
俺が人嫌いなのを察して言ってくれたのだろうな。
しかし、どうするか・・・。
このまま断っても良いし、攻略休憩の暇つぶしで付き合っても良いし・・・。
「・・・条件として、俺の事を詮索しない。それならギルドには入らないけど少しは構わない」
「本当!?ありがとう!」
「良いのか?」
「別に。少し戦闘を見てたけど危なっかしいのもある」
「危なっかしい?」
「キリト気づいてないの?」
まさかキリト気づいてないのか・・・。
いやずっと戦いを見ないといけないから後ろにいる女性にまで気が回らないのか。
「あの人、戦うとき目つぶってるよ」
「・・・本当か?」
「ずっと見てた。怖いんじゃないかな」
「そうか・・・一度ギルドハウスに戻って話し合ってみるよ」
「ん・・・俺も行かないと駄目?」
「さっき協力するって言っただろ」
自分で言った手前何も言えず、キリトは一度ギルドハウスに戻ろうと進言して戻ることになった。
戻る途中に出てくる雑魚は俺が憂さ晴らしに全て斬り飛ばしていたのを後ろで見ていた人達はすごい観察してきて普通に怖かったり。
そんなことでギルドハウスに案内されて入って改めて紹介することになった。
さっきの俺を勧誘してきたのは《月夜の黒猫団》リーダーのケイタ。
片手剣と盾を使っている女性がサチ。
索敵や罠解除など特殊なスキルを使う女性はクロハ。
投げナイフ、投擲で援護をする男性がダッカー。
そして一時的に協力関係の【黒の剣士】キリト。
「ん・・・言うの面倒・・・」
「あ、あはは・・・」
「ユーキ。ソロ専」
「ユキでいいぞ、知り合いにはそう呼ばれてるから」
「じゃあユキさん・・・ローブって?」
「・・・詮索なんだけど」
「・・・すみません」
別に怒りはしないけれどローブについてはあまり触れられたくない。
姿隠すためにもう何ヶ月も装備してるから愛着もあるのとリアルの姿を見られるのが嫌だから。
「それで戻った理由なんだけど、サチについてなんだ」
「えっ・・・私?」
「そう。サチがどうしてあんなに攻撃をあまり与えられないか漸く分かったよ。ユキに教えてもらったからだけど・・・」
「・・・気づけ、それぐらい」
「ぐ・・・そ、それでサチ。戦うとき目を閉じてるだろ?」
「・・・うん」
「・・・怖い?戦うの」
俺がサチに聞くと静かに頷いた。
やはり怖かったんだ、だから少し怖じけづいたように動いていたのか。
隠れて見ていた時、サチだけ目を閉じていたのをはっきり見てたし。
「ケイタ、これは本人の意志だけどサチに片手剣は向いてないと思う。恐怖心だけは俺達にはどうしようもないから。どうしても戦力がいるなら長槍とかにしておくのがいい」
「そうか・・・」
「もしくは生産職だな。戦うのが怖くても貢献したい人がやるもので攻略ギルドでも重要になる」
俺は座っているサチの隣に座る。
気づかれてないと思っていたのと指摘されたことによる言葉に対しても恐怖が見えた。
「・・・サチは、どうしたい?」
「え・・・?」
「皆みたいに戦うなら手伝う。だけど戦うのが怖いなら・・・街に篭るべき」
「っ・・・」
「戦えない人を圏外に連れ出しても足手まとい、死なせるだけ。だから聞く。サチは、どうしたいの?」
「私は・・・」
「ん・・・ケイタ。少しサチに時間をあげたのが良い。考える時間を」
「・・・分かった。そうさせるよ」
「だってさ。ゆっくり考えれば良いよ」
俺はサチの頭を椅子の上に立って少しだけ撫でる。
すぐに止めたけど、サチが安心出来れば良い。
恐怖心が勝って考えることが出来ずに結論を出すのは良くないからこうした。
「ユキ・・・?」
「ん、落ち着いて考える。ゆっくり・・・ね?」
「・・・ありがとう」
「じゃ、俺出る。宿屋探さないとだから」
「あ、待って!」
宿屋を探しに出ようとするとケイタに呼び止められた。
キリトと同様に協力関係なのでギルドハウスの部屋を使っていいと言われた。
「・・・でも」
「サチの事に気づいてくれたお礼・・・といえば良いのかな」
「・・・じゃあ少し外に出る。素材足らないし」
なんとなく俺はその場から逃げるようにギルドハウスを出ていくと路地の裏に走っていく。
「・・・人なんて嫌いだ」
人なんて自分の利益でしか動かない。
なのに何故優しくされただけでモヤモヤとするのだろうか。
「・・・変・・・なの・・・」
その変な感じを吹き飛ばすためにフィールドに出ると視界に見えたモンスターを斬って、斬って、斬り飛ばす。
暴れるように荒れ狂って、辺りにはモンスターすらいなくなるまで斬った。
「・・・はぁ」
気がつけばあれから数時間経って夜遅くなっていた。
いつも迷宮区で寝ていたりしていたからか、あんまり気にしていないけれど・・・こんなに暗くなるんだ。
「・・・暗い・・・な」
さすがに何か言われそうだったから戻ろうとすると近くで戦闘音が聞こえた。
このまま無視しても良いが、今からの時間になればモンスターのポップ率も上がって一対多になりやすくなる。
実力があれば大丈夫だけどケイタ達のように集団でも危険なところはある。
「・・・一応、行くかな」
気になるので《隠蔽》で隠れながら近付いて見てみると、その正体は戦闘で押されているサチ。
周りにはサチ以外いなかった辺り一人で出てきたのだろう。
このままだとサチの腕では逆に倒されて死ぬ。
そう思っていればいつの間にか俺はサチと戦闘していたモンスターを切り伏せていた。
「・・・ユ、キ?」
「・・・危ない。戻ったのが良い」
「っ・・・」
サチだけでは確実にやられてしまう。
集団で押されていたのにサチだけで行けるわけが無い。
俺のようにチート装備があるのなら話は違うけど。
「ギルドハウスに戻ろう?話はそこで聞くから」
「・・・はい」
戻る途中出てきたモンスターは数時間前のように俺が切り捨てていったので難無く戻れた。
そしてケイタに言われて使わせてもらう個室にサチを連れて座らせた。
「・・・ちょと、待っててね」
俺はアイテムストレージからコップなどを取り出して《料理》スキルですぐに飲み物を生成するとサチに渡した。
「これは・・・?」
「飲んでみれば分かる」
「・・・ココア?」
「ん・・・自作品」
「暖かい・・・」
サチに渡した飲み物は俺が数ヶ月かけて集めまくったデータで作り出したココア。
実はこれを自分以外に飲ませるのはサチが初だったりする。
「・・・どうして外に出てたの?」
「お昼に指摘されて、戦っていれば怖くなくなると思ったから・・・」
「・・・素直に言うよ。死にたいの?」
「そ、れは・・・」
「夜の時間はモンスターの出現量が増えて危なくなる。サチみたいに戦闘を避けてる人が出る時間じゃない」
「・・・私ね、怖いんだ。色々」
「・・・そっか」
「聞かないの・・・?」
「俺の事を詮索しない条件。だからサチの事も聞かない」
「・・・ありがとう」
「ん・・・別に」
飲み終わったココアのコップを受け取るとギルドハウスに備え付けである台所で洗ってストレージに直す。
「ユキ」
すると部屋からサチが出てきて俺に抱き着いてきた。
いきなりだったけど俺はそれから逃げるように動く。
「・・・止めて」
「・・・ユキ?」
「止めて・・・」
その時だけサチが凄く怖く見えた。
何故か、昔を想起させられて、怖くなった。
「ユキ・・・どうしたの?」
「嫌・・・嫌・・・」
それが抑え付けていた何かが壊れたような感じがして、俺は何度も同じ言葉を言った。
「来るな・・・来るな・・・嫌・・・」
「ど、どうしたの?」
強い拒絶をする俺に近づくサチが昔の事に重なった。
それが怖くて、何か言っているのだろうサチの言葉が耳に入らなくなって、それが余計に俺の恐怖を煽った。
「サチ!どうしたんだ!」
「キリト!ユキが!」
「嫌・・・嫌・・・嫌、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
子供のように俺は泣きじゃくれば、叫び出して、部屋の隅っこで縮こまる。
全てが何もかも見たく聞きたくないと言うように俺はそれで意識を失った。