なんでだろう。
こんなに求めても、手に入らない。
君はするする逃げてくね。
私は確かに君に言ったよ。
「君は私にとってかけがえのない存在だよ。」
「君は私にとって唯一無二なんだ。」
君は毎回、照れたように、はにかんで言ったね。
「知ってる。」
そういえば数少ない君が私に向けた言葉もあったね。
「俺に甘えすぎじゃない?」
私は君があまりに唐突に言うもんだからびっくりしたよ。
でも、確かこう答えたよね。
「君にしか甘えられないの。」
君と過ごした日々がキラキラした思い出として頭の中に流れてくる。
今となってはとても昔のことみたいだね。
君と歩いた帰り道。
君と出かけたお店。
君と過ごした教室。
全てが思い出となってしまった…。
あの日。君との仲が壊れてしまったあの日。
あの日から君との距離は少しずつ少しずつ離れていった。
今ではもう、話すことすらできないね。
もし、あの頃に戻れるなら。
もし、もう一度やり直せるなら。
絶対にこんな結末にはしないのに。
「本当に?」
急に聞こえた無機質な声。
声の方向には、ぬいぐるみみたいな、猫みたいな、謎の生物。
「あなたが今話しかけたの?」
「うん。そうさ。」
私はこの子を知っている。
「…インキュベーター。」
「おや、どうして僕の名前を?」
私は思わず歓喜も表情を浮かべた。
二次元でしかいないと思っていた。
本当にいるわけないと思っていた。
でも、今目の前にいるのは紛れもなく、まどマギのキュウベエ。
私がずっといてほしいと思っていた存在。
「僕を知っているなら、話は早い。」
あの名言が聞ける日が来るとは!
期待が膨らむ。
キュウベエの次の言葉を待つ。
「僕と契約して魔女になってよ。」
…え?
…魔女?
「魔女だ。」
念押しするようにキュウベエは言った。
「そこはふつう、魔法少女じゃないの?」
キュウベエはため息をついた。
「魔法少女も魔女も理論的には変わりないと思うんだけどな。」
キュウベエは面倒くさそうに説明を始めた。
「僕の役目は人の不幸を集めることさ。」
「不幸を集める?」
「そう。人の不幸にはとてつもないエネルギーが含まれている。それを集める術を持っていた僕ら、インキュベーターは宇宙の安定化を図るため、利用することにした。」
「で?なんで、魔女が必要なの?キュウベエができるなら、いらないでしょう?」
「僕らが不幸な人に、その不幸を集めさせてくれ、とお願いしたら断られることのほうが圧倒的に多い。そこで僕らは人間を利用することにした。」
「戦いとかするわけ?」
「いやしない。」
魔法少女から、どんどん離れた存在ということが明らかになってくる。
聞けば、すべて答えてくれるわけだ。
「君らが相手するのは不幸な人だ。SNSを使ってやってもらう。」
「…変身したりとかは?」
「しないよ?返信はするだろうけど。」
寒いダジャレが余計に空気を凍らす。
「願いはかなえてくれるの?」
「それはもちろん!なんでも!」
それなら、私がすることは決まっている。
「いいよ。魔女になってあげる。その代わり、過去に戻る魔法を頂戴。」
「交渉成立…だね。」
キュウベエの目が妖しく赤に光った。
「よろしく。