システムソフトウェアの日常譚   作:ありぺい

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第1章 「ガーランドと星の少女」
4.07死す


 

 

皆おなじみ家庭用ゲーム機「PS4」

その中に、俺はいる。

意識を持って最初に知ったのは、俺の名前が「4.07」という事だ。

4.07というのは、恐らくソフトウェアのバージョン名だろう。

いつこんな事を知ったのかは自分でも分からない。

 

辺りを見渡しても、誰も居ない。

やる事もないので暇を潰していると、首から下に胴体がついている事を知った。

手首をふらふらとさせてみると、その体は自分の意思で動く事も分かった。

 

ーーーーーーファサッ……。

 

「何だこの紙」

 

頭上から髪の上に、何かの用紙のようなものが降ってきた。

それと同時に、発声まで可能だと知った。

 

二つ折りに畳まれた用紙を開くと、ご丁寧に何かが記されていた。

 

《12月8日を以て、バージョン4.06から、バージョン4.07にアップデートする》

 

ーーーーーーーーーーーーあぁ…なるほどな。

 

察する能力が全力で働いたのか、俺の記憶に何か操作が入ったのかは知らないが、俺は完全に事情を把握した。

 

「4.06…こいつを消せばいいんだな」

 

俺の言葉に応じるかのように、空虚な無の空間に、突如扉が現れる。

俺は躊躇いなく、そこに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーくっそ…なんなんだよ。ちくしょうめ……!

 

4.06を消して新たにPN4のシステムとして成り代わるはずが、逆に「のされて」しまった。

 

土手っ腹に穴が開き、最初は感じてた痛みも徐々に和らいでいく。

もはや苦痛も分からない。

 

「さようなら4.07。『磁気消去』」

 

それが、聞こえてきた最期の言葉だった。

俺は手に入れて間もない体が消えていくのを、薄らいでいく意識の中でぼんやりと感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不思議な感覚だな。

あの攻撃で、死んだんじゃねぇのか?

 

俺は、背中に何か硬い感触を覚えてそう思った。

PS4内は基本的に平面を合わせて作られた空間だったから、凹凸ってのは違和感があるな。

 

違和感は背中の感覚だけでなく、鼻の感覚もそうだ。

鼻を通る空気が、とても言葉にはできないような、何とも言えない何かを俺に伝えてくる。

 

それに目を閉じてても分かる煌めいた光。

相当大きな電球が光っているのだろう。

 

ノイズ音の様なものも聞こえる。

掠れるような抑揚を感じるその音は、今まで聞いた事が無いものだった。

前まで、聞こえてきたら不快感に苛まれていたそれが、何故か今は心地よかった。

 

色々と考えてたら意識がハッキリしてきたみたいだ。

俺は目を開いて状況を確認する事にした。

 

「うわっ、眩しっ!…………なんだこれ…何だこれ!」

 

質素な部屋を想像していたのに、予想外にハイスケールな世界が視界に飛び込んできた。

くっそ…なんだこれ。何がなんだか訳が分からない。

目に入ってくるもの全てが、俺の理解を超えている。

 

頭上には、サイズだけで言えば小さな光球が、これでもかと言うくらいに光っている。

超高電圧のライトなのだろう。なんでそんなものを天井に貼り付けているのかは知らないが、とにかくとんでもないものだって事は理解できる。

光球から目を背けると、青い壁紙が天井を覆っているのを確認できた。

というか天井高ぇなおいっ!

目測で距離を測ろうにも、遠すぎてよく分からない。1テラピクセル程度だろうか。いや、この感じだとペタでも足りないかもしれない。

 

上を見上げすぎて首が痛くなり、くるりと1周頭を回して下を向いた。

今さっきまで俺が寝ていた場所には、灰色の大きな塊が、床から半分程むき出しになって埋まっていた。

床は少し柔らかい緑色で、足踏みすると少しだけ沈む。

もう一度、今度は力強く踏むと、それに応じて床も沈んだ。

今度は飛んで、両足で踏みしめた。

あっ、なんかもふもふしてて楽しいかも。

俺がぴょんぴょん跳ねていると、誰かに急に声をかけられた。

 

「楽しそうですね、旅の方ですか?」

「違うからなっ!!」

 

あまりの驚きに、俺は声を張り上げて否定した。

 

「旅人じゃない…?なら王国の視察の方ですか?お召し物も相当なものに見えますが」

「えぇっと、そうだな。まず旅人ってのがよく分からんが、多分違うぞ。王国なんちゃらっても違ぇ。それと、今俺が否定したのは飛んでた事にだからな!別に跳ねてたら楽しくなったとかじゃねぇからな?!」

 

危ない危ない。

一度だけ、ソフトディスクに反射する自分の姿を見た事があるが、なかなか渋くてイケてるお兄さん、って感じの見た目だった。

その渋いお兄さんが床の感触程度でエンジョイしてたとなったら面目丸潰れだ。

 

俺の服装は、恐らくPN4を象ったと思われる、黒を基調に2本の青線が右胸で交わる、奇抜ながらも堅苦しいスーツだ。

正直自分ではこの服にあまりセンスを感じないが、いい服だと言われれば悪い気はしない。

 

話しかけてした少女は4.06とは違って、小柄な、そして優しそうな子だった。

ここのサーバーに配置されたAIだろうか、色々事情を知ってそうだ。

 

「ここの世界はいったい何の目的の為にあるんだ?」

 

大事な事は簡潔に訪ねる。

PN4のシステム(になるはずだった者)として、無駄な事は聞かない。これが今出せる質問としてはベストだろう。

しかし、少女の口からは全く予想してなかった返事が飛び出してくる。

 

「ふふっ、もしかして詩人でしたか?でもあんまりセンスないですよ?あっ、草の上で跳ねてたのも詩を考えてたとかですか?」

 

どういう事だよ、いつ俺が詩を読んだよ。

こんな簡単な受け答えすら出来ないとは…これだから低スペックのAIは。

 

まぁ、事態を把握するためには目の前の少女しかヒントがないのも事実だ。

俺は質問を続けた。

 

「ならここのサーバー名は何だ?」

「さぁばぁあめー?なんですか、それ?」

「ここの場所の名前だよ!馬鹿ッ!」

「ひ、ひぃっ…!」

 

ついもどかしくて叫んでしまった。

少女は手に持っていたバスケットを落として、頭を抱えてうずくまった。

中に入っていた赤い玉がゴロゴロと緑の床に転がる。

 

「あっ、すまん。怖がらせるつもりじゃなかったんだが」

 

俺は赤い玉を拾ってバスケットに戻した。

艶のあるその玉は、手に取るとずっしりとした重みを感じた。

 

「ありがとうございま……す?」

「なんで疑問形なんだよ」

「だって落としたのは貴女のせいですし……」

 

怒鳴ったのも元を辿ればお前のせいだろ、と言いたくなったが、イケてるお兄さんとして追い打ちを掛けるような言い方もどうかと思ったのでやめておく。

 

「あぁ、一個ダメになっちゃってますね」

 

そう言って少女は赤い玉を1つ取り出した。

たしかに、丸くて赤い光沢を放つそれに、傷跡が付いている。

 

「これは、もう売り物にはなりませんね……そうだ、ここで会ったのも何かの縁です。これ、一緒に食べませんか?」

「というかこれ食べ物だったのか?」

「そうですよ、『林檎』っていうんです。珍しい食べ物でもないんですけど、知らないって事はもしかして他国の人なんですか」

 

他国というのはよくわからないが、食べるという概念はだけ知っている。

PN4の外で行われている生命活動の一部だった筈だ。

 

「良いのか?俺なんかが食べて」

「領主様には内緒ですよ?」

 

少女はそう言って微笑んだ。




2/23追記、今話の完成度に納得がいかなかったので、できるだけ早めに書き直します!

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