Fate/Affection Doll   作:ラズリ487

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第12話 Alice's Tea Party

死を悼め

 

失った物への追悼は恥ずべきものではない

 

死は不可避であり

 

争いがそれを助長するのなら

 

死を悼み、戦いを憎み

 

死を認め、戦いを治めるがいい

 

 

 

 

 第三回戦、開幕。

 残りマスターの数は32人となった。

 この戦いに参加した半分以上の人数がこの聖杯戦争で命を散らした。

 ここまでくれば当然、廊下や図書室、食堂などで会う人数も当然減るものだ。

 この戦いは戦争であり、頂点を決める戦い、だが翔にはこの光景が寂しく感じた。

 だが、このままではこの先、生き残ることはできないと翔は感じていた。

 1回戦では、慎二の作戦に為す術もなく陥り、腹部を貫かれた。

 2回戦では、感情に任せて狙撃が直撃し、リップはあと一歩遅ければやられていた。

 

「……何とかしないとなほんと」

 

 自分はほかのマスターに比べて圧倒的に経験が少なすぎる。

 せめて失われた記憶さえ戻ればいいと思うのだが、今のところ思い出す事もない。

 次の対戦相手の選出までは時間があるようだ。ならば今のうちにアリーナへいき、鍛錬した方がいいかも知れない。

 

 

 

 

 アリーナにて、ふと決戦の時の光景を思い返す翔。

 自分は慎二の時もダン卿の時の戦いでも、必ず状況を打破できるものを持っていた。

 あの『約束されし勝利の剣(エクスカリバー)』と黒い弓だ。あれは何なのだろうか……

 コードキャストの時のように魔力を練り、あれを具現化しようとするも今では手に出てくることはない。

 

「あれをうまく使えればな……」

 

 翔の直感で思う。あれをうまく使う事が出来たら間違いなく今まで以上にリップの支援はできる。

 あの天才の慎二でさえ、翔自身がサーヴァントみたいだと言わせたことだ。

 使いこなせれば必ず役に立つものではあるとは思う。だが出せなければ意味がない。

 

「なあリップ。決戦の時に俺の魔力が急激に上がったりはしなかったか?」

 

 リップは歩きながら考える仕草をした後に口を開く。

 

「ない……ですね。でもあのすごい剣とか弓とか、威力はサーヴァントよりも下だとは思うんですけど、並のコードキャスト以上はあったと思います。あのロビンさんから短剣を引きはがしたくらいですし」

 

「そうか……」

 

 ますますわからない。そういえば決戦で思い出したが、自分の夢の世界をぶち壊してきゃっきゃしてた、BBちゃんとか言う小悪魔的なあいつは元気にしているのだろうか。

 あれ自身は生きていればいいことあるかもしれないと言っていたが、どうも彼女が言うと胡散臭くなるのはなぜだろうか……あの性格のせいであろうか。

 翔が考えていれば、影がふわりと通り過ぎるのを確認できた。リップが何も言わないことから彼女は気付いていないのだろう。

 

「おいリップ、今なんか横切ったような……」

 

 翔の言葉を言い終える前に、自身の袖を何かにぐいっと掴まれる翔。

 始めはリップだろうかと思ったが、彼女の腕で気付かないのはおかしい。振り向けばそこには少女がいた。

 姿は白いエプロンみたいなドレスを身にまとった少女……ということだろうか。

 そしてなんとなくだが、この子は自分に近い何かを感じた。

 外見は、似ても似つかない二人だ。でも翔からはこの子からは近しい何かを感じたのだ。

 

「お兄ちゃん! 遊ぼ!」

 

 その言葉に翔もリップも目を丸くした。

 誰という言葉をいう事も忘れ、目を丸くしながらぴょんぴょん跳ねる白い少女を見つめる。

 見た所、十歳ぐらいだろうか、だがその仕草はまるで人形のように無邪気だ。

 

「あたしはあたし(ありす)! ねえ遊んで遊んで!いいでしょ?」

 

 ありすと言った少女が跳ねるように翔にとびかかれば、背中に抱き着き、よじよじと彼の背中を登り、翔がおんぶしている状態へとなっていた。

 あまりにも無邪気すぎる。この子はNPCなのだろうか。

 そもそもここはアリーナだ。NPCがここに入れたのだろうか。もしかして期間限定のクエストみたいな感じなのだろうか。

 リップが不機嫌な目つきで少女を見つめると、その少女は『べー』といったふうに舌を出す。自分もいつかはあんなふうに背中に抱き着いてみたいのに自分の腕がそれを許さない。

 それを得意げにされ、その仕草に歯をギリギリとするリップであったが……

 

「なあ、リップ。学園でこんなやつ見たか?」

 

「えっ!? あっ!? えっと……見てないかと」

 

 翔が振り向く直前に、リップの表情が元に戻る。あまりにもリップが動揺していたので、翔も気になったが、彼女は突然振るのが苦手なのだろうかと思う事とした。

 

「ねーねー、あたし(ありす)オニごっこがいいなあ」

 

「……しょうがないなぁ。ちょっとだけだぞ」

 

 それを聞いたありすが笑顔で『やったー!』というと、背中から勢いよく飛び降り、走り出す。

 だがそれを見た翔が危険を察知する。ここはアリーナだ。そして彼女は奥に行こうとしている。

 

「お兄ちゃんならきっと遊んでくれると思ったの! じゃあお兄ちゃんがオニだよ!」

 

「お、おいまて!」

 

 翔の言う事を聞くこともなく、ありすはアリーナの奥へと走り去ってしまう。

 たとえNPCでも放っておくのは危険だ。捕まえるしかない。

 

「追うぞリップ!」

 

「はい!」

 

 アリーナを走る翔とリップ。ちょっとずるいが悪く思わないでくれ、そう思いながら翔が使うのは『view_map();(階層データを全表示)』。この辺には通路が二つあり、しばらくく進めば合流するという事が分かった。

 そしてリップが走ればあの彼女に追いつくことも容易だ。ならばできることは挟み撃ちだろう。

 翔がアイコンタクトをすれば、リップはそれに気づき、頷いて別の道へと入る。

 だが妙だ。この辺はまだエネミーが存在するはずなのにそれが1体も……いない。

 

「お兄ちゃんこっちだよー!」

 

「よそ見はいけません! お姉ちゃんが通せんぼしちゃいます!」

 

 ありすが『あっ!』と声を上げた時にはもう遅い。リップが両手を広げれば、もう隙間からは逃げならない完全な通せんぼとなる。

 少々ずるい気もするが、それがリップなのだ。許せありす。

 何とか追いついた翔がありすの肩を触れば少女は『あーあ』と声を漏らす。

 

「ははは! リップはすごいだろ!」

 

「すごいよ! つかまっちゃったー」

 

「つかまっちゃったねー」

 

 もう一つの声に翔もリップも目を丸くした。先程までいなかった黒いエプロンドレスの少女がいたのだ。

 しかも顔つきまでありすそっくり、傍から見ればありすが二人いるという事になる。

 

「ねえねえ、今度はあたし(ありす)のお話、きいてくれる? あたらしい遊び場にしょうたいするわ!」

 

 ―――ようこそ! ありすのお茶会へ!

 

 気づけば何かに座っていた。それが椅子だという事には数秒と掛からない。

 先程までアリーナにいたはずなのに、ここはまるで宮廷の庭だ。

 まるで写真などで良く見る豪華な宮廷の庭だ。そして翔の目に映るのは豪華な椅子。純白のテーブルクロスの上に乗っかっている物は、紅茶やタルト、あとは食パンなり一目見れば美味しそうなものばかりで、しばらく見ていればお腹がすくものばかりだ。

 リップは向かい側に座っていた。よく彼女を支える椅子があったもんだと一瞬思ったが、そんなことを口にすれば彼女に何されるかわからないので今思ったことはなしにしよう。

 

「わたしはあたし(ありす)

 

「あたしもあたし(アリス)

 

 ありすたちはずっとお兄ちゃんを見ていたの。彼女たちはそう言葉を続ける。だって翔はありす達と一緒だから、きっと遊んでくれると思った。

 彼女たちはそう言葉を続けている。

 なんだろうか、まずい。頭がぼんやりする。

 

「お兄ちゃん、貴方のお名前はなあに?」

 

 名前、名前、なんだっけ、思い出せない。

 ここからぬけ出さないとまずい。名まえが思い出せない。

 そもそも、はじめからなまえなんてなかったんじゃないか……?

 猛烈な吐き気が襲い掛かる。まるで体中から、体温という体温が抜け落ちた気分だ。

 翔が直感で感じる事は、ここにいては自分達が危ないということだ。

 

「うっ……お兄ちゃん、ちょっと具合悪くなっちゃったから帰るね。ほんとごめん」

 

「翔さん、肩貸しますよ! ここは退きましょう!」

 

 口を押え、まるで本当に具合が悪いようにすると、あらかじめ立っていたリップに肩を貸してもらい。走り出す。

 この場所に来てから、妙に悪寒が走っていた。今では自分の名前が思い出せない。

 これは明らかに敵の攻撃を受けている。ここはあの子たちの結界……ということだろうか。

 そしてその性質は『忘却』。名前も姿も、最終的には何もかも忘れられる。そんな結界。

 

「翔さん! 無事ですか!」

 

 アリーナから退却した後、リップに下ろしてもらい。肩で息をする翔。

 アリーナで戦闘するよりも疲れが半端ない。一息ついたところで自分の名前を確認する翔。

 

「俺は、寿々科翔。よかったちゃんと覚えている」

 

「翔さん……」

 

 翔の微笑む顔を見れば、ほっと息をつくリップ。自分の名前をお互いに確認した後に、リップが感じたことを翔に説明する。

 彼女たちが発動したのは固有結界というものらしい。術者の心象風景で現実世界を塗りつぶし、内部の世界そのものを変えてしまう大規模な結界のことらしいのだ。

 そんなもの大規模な魔術を使うなど……相当な相手のようだ。できればあたりたくないのだが……

 そんなことを考えていればポケットの携帯端末から音が鳴り響く。となると自分が次に対戦する相手が決まったらしい。

 

『2階掲示板にて次の対戦者を発表する』

 

 やはりメッセージにはこう書かれてあった。ならば確認するしかない。

 

 翔がその場から立ち上がり、その掲示板に向かえば、再び紙が張り出されていた。

 

 1つは自分の名前、もう一つは……

 

「まじかよ……あいつを倒さなくちゃいけねえのか」

 

 紛れもなく対戦相手の欄には『ありす』と書かれてあった文字を見つけたのであった。

 

 

 

 

 マイルームに戻れば翔は頭を抱える。

 無垢な子供の遊び程、冷酷なものは存在しないと思う。

 可愛がっていた蝶も、愛でるのに飽きると、優雅に飛んでいる生きる手段でもある羽を、何のためらいもなくむしってしまう。

 自分も油断していればすっぱりと手足を切り落とされるかもしれない。そんな蝶のように……

 正に自分が受けた攻撃はそれであった。自分はもう少しであの少女達に存在を消されてしまうかもしれなかったのだ。

 それはまるで白紙のように真っ白と……

 だがそれでもあんなに小さな子も倒さなければならないとは……

 

「あの固有結界とやらは厄介だな」

 

 もし決戦場であんなものを使われたら厄介だ。あれをどうにかしなければ存在を消されて即退場だ。

 何かしなければ、こちらからは手を出せない。

 だが翔の予測だが、あそこで存在を消されるのならもしかしたらそれに抗えるのではないかと感じる。

 そんな考えに辿りついたのは、最後に彼女たちが投げかけた言葉……

 

『お兄ちゃん、貴方のお名前はなあに?』

 

 思い返す無邪気な言葉。もしかしたら自分の名前さえ分かっていればあの結界に抗えるのではないかと考えたのだ。

 だがこれが仮にヒントになったとしよう。結界に入れば自分の名前が消される。

 自分の名前を忘れない、いい方法を考えなければならない。

 

「……あいつに聞けば分かるかな」

 

 

 

 

「自分の名前を忘れない方法? 翔くん、もしや君は記憶喪失が進行しているのでは?」

 

「いや、それとこれとは話が別なんだけどさ」

 

 食堂の席で美味しそうに『焼きそばパン』を頬張りながら、白亜は考えていた。

 ちなみに、この焼きそばパンは翔の相談料だ。翔から、自身のオススメの品でもある、あの麻婆豆腐を進めてみたのだが……白亜はそれを聞くやすぐに翔に向けて『あんたバカぁ?』と言われてしまい、仕方なく、彼女が今まで、よくおいしそうに食べていた焼きそばパンにしたのだ。

 なぜここの麻婆豆腐を勧めただけで、そんなこと言われるのか翔にはわからなかったが……

 

「しかし、記憶を消される結界なんてねえ、アリーナ全体を書き換えちゃうなんて凄まじいことするね全く」

 

「だから結界の中で名前を思い出せばどうにかなると思ってな」

 

「そんなの簡単よ」

 

 彼女の明るい返答が帰ってくれば翔が目を丸くする。そんな簡単に名前を思い出す方法などあるというのか……?

 

「手にでも書いておけばいいじゃない。子供だましには子供だましをってやつ」

 

「手……か」

 

 自分の手を見つめている翔に白亜は微笑む。あまりにも笑顔で白亜から顔をじろじろと見られてしまい、顔を背けてしまう翔。

 

「翔くん、変わったね。生き残ることを考えるようになったし」

 

 焼きそばパンを食べ終え、食堂を出て廊下を歩く翔と白亜。

 しかし、手に書く……か。まさかそういうふうな答えがあるとは思わなかった。

 確かに自分の名前を手にでも書いておけば、それをきっかけに思い出せるかもしれない。

 結界に入った瞬間に消されてしまえばそれまでだが、やってみる価値はある。

 とりあえず自分にできることはマイルームに戻って対策か、トリガーの入手のためにアリーナに行くことぐらいか。

 だがアリーナにはあの子たちがいる可能性もある。そう考えていれば、ひらりと一枚の紙が翔の目の前に舞い落ちる。それを拾う翔。どうやらトランプのようだ。

 

『Pussycat pussycat where have you been?』

 

 この文章、訳せば『子猫ちゃん、子猫ちゃん、いったいどこに行ってたの?』だ。

 この文章は英米を中心に親しまれている童謡『マザーグース』の歌の一つ。だがなぜこの文章が……

 翔が考えていれば、コンコンと窓を叩く音が聞こえた。

 その刹那、背筋に悪寒が走る。振り向いてはいけない。振り向いたら……

 

「お兄ちゃん、見つけたー。お兄ちゃん、ここに秘密の抜け穴があるの。ここから遊び場に自由に出入りできるんだよー?」

 

「ありす……!」

 

 翔が叫べば、ぽかんとした表情で白亜が翔を見つめる。

 白亜はその場所を見て、声を上げる。その場所はユリウスがハッキングし、まだ修復されていない抜け穴のような場所なのだ。

 

「まずい……! 志波! 逃げ……」

 

 翔が声を掛けた時にはもう遅かった。竜巻のようなものが発生し、翔、白亜を飲み込みながら、二人は抜け穴の中に飲み込まれていく。

 それに抗う事は出来ずに、二人は為すがままにありすたちによって引き込まれていった……

 

 

 

 

「う……」

 

 翔が目覚めた所はとてつもなく広い空間であった。

 外見はとてつもなく広いドーム……と言ったところだろうか。その中心にそびえ立つ塔が一つ、その周囲に同じような塔が複数。それ以外は何もない場所だ。

 確かユリウスは、あの校舎をハッキングし、強制的に決戦場へと飛ばしていた。この場所は、見たことない場所である事から本来なら自分達は行けない場所なのだろう。

 近くにいた、白亜が目を覚ます。彼女が離れずに飛ばされたのが幸いした。

 

「志波、無事か?」

 

「おぇー……強制的にワープさせられるのって結構気持ち悪いのね」

 

 どうやら自分は相当、ありすに気に入られたようだ。こんな広いドームに招待されるとは思わなかった。

 そして彼女たちが何処にいるのかもわかる。

 

「翔さん、気に入られたんですね。あの子達にすごく」

 

「らしいな……」

 

 リップの言葉に翔はそう返答しながら、そびえ立つ塔の一番上に彼女たちはいた。白いエプロンドレスの少女と黒いエプロンドレスの少女、その二人がなにやら手をつなぎ、何か歌を歌いながら。楽しんでいる様子であった。

 それを見届けてここから返してくれるのならばそれでいいのだが……

 

「そうだあたし(アリス)。あの子も呼んでみようよ!」

 

「そうねあたし(ありす)。いい考えだわ」

 

 二人が楽しげな表情で片手を上げればそこから練られるのは、膨大な魔力の塊……だろうか。

 そして現れるのは全身が赤色の巨人。その出現にこの場所の床や天井、何もかもが揺れていた。

 ありす達の目の前に現れたもの、あれは一言で言えば『怪物』だろう。

 

「一緒に遊びましょう! ジャバウォック!」

 

 ジャバウォック、それがあの怪物の名前だろう。

 本来ならば逃げるしかない敵だろう。だがここは逃げ場のない広場。

 どうする。本当に詰みか……?

 

「お兄ちゃんとは遊びたいけど隣のお姉ちゃんはいらなーい。潰しちゃえージャバウォック」

 

「ちっ、呼ぶしかないか……! 来て! ランサー!」

 

 呼びかけに答えたランサーは漆黒の髪をした、緑色の軽装の鎧のようなものを着た人物。顔立ちは、右目の下に泣き黒子のある美男子といってもいいだろう。その男性が右手の赤く輝く長槍と、左手の黄色く輝く短槍、その二本を構える。

 

「これは、ずいぶんと大物だ我が主よ」

 

「お願い、私を守ってくれるかしら」

 

「当然の事……!」

 

 ランサーが白亜の前に躍り出れば、振り下ろされるジャバウォックの腕を黄色く輝く槍で受け流し、俊足の槍兵は赤の槍の一撃を放つ。

 だが直後の光景にランサーは目を細めた。彼自身が予想していた、ジャバウォックを斬り裂くという光景は起こらなかったのだ。

 ランサーの赤い槍がジャバウォックに触れた瞬間、あの怪物がただの幻であったかのように"通過"したのだ。

 

「……槍が通り抜けるか」

 

 もし貫いていたならば手ごたえは確実にあったはず。もしジャバウォックを穿ったのであれば、それを貫く鈍い音が響き渡ったはずなのだ。

 だから貫いたのではない。槍が通り抜けたのは間違いないようだった。

 この事態に驚いているのは誰でもないランサー本人であった。ランサーにとっても、これは想定して無かったイレギュラーであるらしい。

 

「なるほど、あなたはサーヴァントではないという事か。どのような手段で呼び出したかはわからないが、それは0から魔力で編み上げたもの。ならば我が槍が通り抜けるのも納得がいく」

 

 槍を手慣れた手つきで回し、持ち直せばランサーはジャバウォックを見つめる。

 存在自体が魔力となれば、ランサーの槍の一本は封じられたようなもの、相性は限りなく悪い。

 

「邪魔をするの?」

 

 黒いアリスが彼に向けそう発言すれば、ジャバウォックが殺意の咆哮を上げる。翔とリップはそれに身を竦ませるが、白亜の隣に立つのはサーヴァントの三騎士の一人でもある槍の英霊だ。

 彼らが身を竦ませるような咆哮など彼にとっては自身に纏う風のようなもの。

 そのアリスの言葉に対し、ランサーはまるで挑発するように笑みを浮かべながら、もう片方の黄色い槍の先をジャバウォックへ向ける。

 

「邪魔をする? それは間違っているぞ。ここでの聖杯戦争は128人のマスター、128人のサーヴァントによる闘争。俺を邪魔者というのであれば、魔力で0から編み上げられたジャバウォックこそ部外者であり、邪魔者。お前の言葉が『失せろ』と同義ならば、まずジャバウォックから自害させ果てさせるがいい」

 

 槍を回し、構えるランサー。相性は限りなく悪い相手ではある。だがこのサーヴァントは三騎士の一人であるランサーだ。

 その程度で後れは取らない。ランサーは白亜に一言伝えれば、ジャバウォックへと突進する。

 

「ランサーはなにを?」

 

「出口を探してくれだってさ!」

 

 翔の質問に勢いよく答えると、地面に手を付き、目を閉じる白亜。

 ここでの戦いはジャバウォックに勝利することではない。二人で協力してどうにかこの、場所を抜け出すかだ。

 送られた場所から推測すればどこかに必ず綻びがあることは白亜は知っていた。ここはユリウスがハッキングし、まだ修復されていない抜け穴だ。

 問題はそこを探すまでランサーが時間稼ぎできるかどうかだが……

 今のランサーでは限りなく分が悪い。

 

「来るか……!」

 

 ジャバウォックが腕を振り上げるのをランサーは見つめたとき、彼は即座に動いた。あれはまさに破壊という概念が具現化した何かだ。

 あの存在相手ではまともに槍を交える事すらできないのは彼自身が一番わかっていた。

 故にランサーはあのジャバウォックと真っ向勝負などという愚は侵さなかった。

 周囲にはありす達がいられるぐらいの柱が数本そびえ立っている。その壁を足場とし、ジャバウォックの攻撃を掻い潜りながら、黄色い槍を突き刺す。

 

「槍の効果は発揮しているようだ。だがこれではきついものがある」

 

 黄色い槍は確かにジャバウォックの右腕を貫いた。だがジャバウォックはそれをまるで気にしないが如くランサーに腕を振り回していた。

 だが効き目があると分かっていれば多少はいい。この黄色い槍の効果は戦闘が長引けば長引くほど効果が発揮される言わばボディブローのようなものなのだ。

 まるでその場所に災害が発生している様だった。ジャバウォックという災害が、ありす達のいる柱以外を残し粉砕されていっている。

 あの一撃をひとたびくらえばそれこそ、ランサーが潰されることは間違いない。

 

「援護します!」

 

「助かる!」

 

 ジャバウォックの振り回す片腕をリップが正面で受け止める。能力こそ落ちてはいれど彼女の豪腕と爪の破壊力はほかのサーヴァントからすれば脅威である。

 意を決してランサーへ襲い掛かるジャバウォックの一撃を止める事が出来た。

 

「はぁ!」

 

 リップがジャバウォックの一撃を押し返した隙に、ランサーは黄色い槍をジャバウォックへと伸ばした。

 狙うが先はジャバウォックの足元。いくら強靭な肉体を誇るジャバウォックでも足への一撃は大きい。深々と足へ槍が刺さり、ジャバウォックは地面へ転がる。

 いつもならこの場で止めを刺しておくのだが、今のランサーの槍ではジャバウォックに致命傷を与えられないのは本人が一番わかっていた。

 どうやらあれを倒すには特定の道具が必要らしい。

 なのでランサーとリップは後退し、様子をうかがった。

 

「主よ、状況は」

 

「見つけたわよ。でもあの高さじゃランサーの槍でも……」

 

 白亜が見つけたデータを今いる人に送り、それをリップ、ランサー、翔が見つめる。

 彼女の見つけた空間の綻びは遙か上空に存在する。そこに大きな魔力の一撃を食らわせば転送コードを用いて脱出できるが、あまりにも高度が高すぎるためこれではここからランサーが跳躍し、空間に一撃を与えても綻びを斬り裂く一撃にはならないのだ。

 令呪を使うしか方法がないのか……白亜が苦い表情で左手を見つめていると……

 

「いや、一つ方法がある。リップ、一回戦の時のあれ。できるか?」

 

 突然、翔が放った言葉に白亜は目を丸くする。転倒したジャバウォックが起き上がりつつある。

 理由を聞きたいが、今はそんな時間すらも許してくれないらしい。

 

「いいわ、翔くん。それでやってみて。時間がないの」

 

「ああ!」

 

 彼がやろうとしていることをリップは理解している様だった。

 まさかメルト以外にこれをすることになるとは、彼女でも思っていなかった。

 だがやらなければ、翔が死ぬ。それだけは許してはならないのだ。

 

「ランサーさん!私の腕に乗ってください!」

 

「……そういうことか。了解した!」

 

 彼女がやろうとしているのは一回戦でライダーに放ったリップのロケットパンチ。それの応用だった。

 彼女の腕は巨大だ。下手すれば人、一人は乗れるサイズはあるであろう。

 そこにランサーを乗せ、途中までは彼女のロケットパンチの推進力で移動。その後ランサーが一気に跳躍、その綻びに穴をあけるという作戦だ。

 それが成功するかはわからない。だがそれしか方法がないのもまた事実。

 

「行きます! 振り落とされたら知りませんからね!」

 

 彼女の掛け声と共に巨大な金色の腕がランサーを乗せ、空を舞う。

 チャンスはこの一瞬。それに全てを賭ける。

 そしてランサーは確信した。この距離ならば自身の跳躍力のみでいけると……

 

「穿て……! 我が槍よ!」

 

 ランサーが跳躍する。紅く輝く魔力を噴射させ、ランサーが宙を舞う。狙うは一点。

 渾身の一撃を込め、赤い槍を前へと向ける。

 赤い閃光が綻びに穴をあけたのは白亜達の距離でも十分に分かった。

 綻びに穴が開き、そこから光が漏れる。それを見届けた白亜は即座に転移のコードを打ち込む。

 

「あーあ、逃げられちゃった。あの子も寂しそう」

 

「また一緒に遊べるわあたし(ありす)

 

 ジャバウォックが起き上がったころには、翔達の姿は光となって消えた後だった。

 それを見届けたありすが残念そうにがっくりと首を落とす。

 ありす達が残されたこの場所には、静寂のみが漂うのみ。

 

「さあ、本をまた読ませて。あたし(アリス)あたし(ありす)のお話好きよ」

 

「うん! じゃあ穴に飛び込んだ白兎の話の続きをするね」

 

 ありすが笑顔を浮かべれば、黒いアリスに話の続きを読み聞かせる。

 そのお話を聞いている黒いアリスは嬉しそうに笑うのであった。

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