Fate/Affection Doll   作:ラズリ487

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第14話 誰かのための物語

「トリガーは……これで二つ。三回戦もいけそうだ」

 

 アリーナにて二つ目のトリガーを入手したとき、翔はふと黒いアリスを思い出す。

 あの二人はまるで鏡のような存在だった。

 鏡の国に移ったありす。

 誰もがきっと一度は思う物語の主人公。

 もしあの黒いアリスが本当に架空の存在だとしたら……?

 彼女のサーヴァントは物語が生み出した架空の存在。架空の存在を英霊にしたサーヴァント。

 

「もしあのアリスが本当に架空の存在だったら……」

 

「ありすのための物語、『誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)』ってことじゃないですか?」

 

「うまいこというなリップ。そうだな、もしあの黒いアリスに名前を付けるとしたら、きっとそうなる」

 

 だが確定したわけではない。翔はありすを探し出す。

 そして今まで浮かんだ数々の結論を確定する。今日で6日、決戦は明日なのだ。

 白亜と共闘したジャバウォックはあれ以来姿を見せていなかった。恐らく決戦で間違いなくあれを使ってくるだろう。

 それの対策も考えなければならない。もう時間はあまり残されていないのだ。

 翔は考えながらアリーナの出口をくぐると……

 

「うお!?」

 

「あ、お兄ちゃん。どうしたの顔が怖いよ?」

 

 目の前に白いエプロンドレスを纏った少女。ありすがいた。

 まさかアリーナから出て目の前にいるとは思わなかった。

 だがこれで探す時間が省けたというもの。

 答えてくれるかはわからない。だけど問わなければらない。

 怪訝な顔をするありす。これを付き付けるのはあまりにも残酷だろう。

 明日には敵同士なのだ。なのに心が痛む。

 

「なあありす、お前は……」

 

「あたしはありすの夢。ありすが読んだお話の姿」

 

「!?」

 

 全く予測もしていなかった声。その声がしたと同時にリップが実体化し、翔の側面を守るように立つ。

 リップの目の先に移るのは、本人ではない黒いもう一人のアリスが立っていた。

 

「……ありすが望んで聖杯が答えたお友達」

 

 ジャバウォックもお友達だよ。

 けどあの子はサーヴァントじゃない。

 あの子はアリス。

 アリスはありす。

 ありすはアリス。

 

 全く同じ声で交互に喋るが、最終的には意識が混濁してくる。

 まさに鏡。彼女たちはまるで一枚の鏡のような存在だ。

 これで確定した。誰もがきっと一度は思う物語の主人公。

 あの黒いアリスは架空の存在。

 彼女のサーヴァントは物語が生み出した架空の存在。架空の存在を英霊にしたサーヴァント。

 そんなことは構わず、目の前の少女はにこりと笑う。

 これが戦いじゃなければどんなによかったことだろう。

 

「いよいよ明日だね!お兄ちゃん!新しい遊び、楽しみにしててね!」

 

「楽しみにしててね!」

 

 ありすとアリスはそんな言葉を残しながら目の前から消える。

 決戦前でこんなことを思うのは駄目だと思う。だが思ってしまった。

 

 ―――倒せるのか?

 

 だが一人じゃない。

 自分にはパッションリップという強力なパートナーがいるのだ。

 リップは見つめている翔に気付いたのか、にこりと笑うリップ。

 自分は一人じゃない。挫けそうになる心は奇跡的にも彼女が支えてくれているようなものだ。

 そんな彼女に感謝しつつマイルームへと向かった。

 

 

 

 

「決戦前にあの子達の正体が分かってよかったですね。あとは正面からぶつかり合うだけです!」

 

「はは、まあな。正面からの突っ張り合いはお前の得意分野だしな」

 

「お任せください!」

 

 マイルームにて元気に腕を振り回すリップ。

 やめてくれ、そんなことをしてこの部屋が壊れても俺は責任は取れないぞ。

 決戦前だというのに、別の事にひやひやさせられながら、情報を整理する翔。

 

「翔さん。あの子達の事、かわいそうだと思いますか?」

 

 腕を振り回すのをやめ、翔に向き直るリップ。

 正直に言えば、戦いたくない相手だ。

 ダン卿も慎二も聖杯に願望を持ち、自分に立ち向かった相手だった。

 そしてその実力は強大だった。だからこそ必死に戦えた。

 

「正直に言うと、そう思っている。だからこそどうすればいいかわからない」

 

「だったら次の戦い、絶対に勝ちましょう」

 

 予想外の言葉に翔は目を丸くする。彼女はなにかあの、ありす達に対して思うところがあるのだろうか……

 

「私は頭がいい方じゃないからよくわからないけどこれだけはいえます。彼女たちは、この月の聖杯戦争という悪い夢を見続けているんです。一回戦の人も二回戦の人も彼女を倒す事が出来ず、未だ彼女は悪い夢を見続けている。だから私達で終わらせるのが、せめてもの彼女達への手向け……じゃないんでしょうか」

 

「リップ……」

 

「私も悪い夢なんて見ていたら、誰か覚まさせてくれって思っちゃいますから」

 

 最後にニコリと笑うリップ。確かに言われてみればそうだ。彼女たちは残酷なこの月の聖杯戦争という悪い夢を見ているのだ。

 自分達が彼女の描く絵本の最後の一ページにならなければいけないのだ。

 そうでなければ彼女たちはこれからもずっとこの夢を見続ける。

 リップに助けられるのはこれで何度目だろう。心に張り付いていた重い何かが取れる音がした。

 自分に向けて無邪気な笑顔を向けてくる相手を倒さなければいけないのは心が痛むが、乗り越えなければ自分の命がなくなるのだ。

 それこそ、最初に放たれた結界のように……

 突きつけられる選択。それはきっと、とても残酷だろう。だがそれでも負けるわけにはいかない。

 

「リップ。情報を整理しよう」

 

 まずはありすが『お友達』と呼んだあの怪物。

 あの生物の名前はジャバウォック。リップと白亜のランサー二人で挑んでも勝ちには至らなかった相手。

 あの凶暴さ、破壊が形を取ったような相手。あれを初めはバーサーカーだと思った。

 間違いなくありすは、あのジャバウォックを決戦でも使ってくるだろう。問題はどうやってヴォ―パルの剣を当てるかだが、そこは後程考えよう。

 

「翔さん、志波さんからのアドバイスは覚えていますか?」

 

「勿論だ」

 

 当然覚えている。あのアリスが固有結界を張った時の対処法。

 その力は自我と共に存在を消滅させるもの。

 ありすは、人の名前が分からなくなるとだけしか言わなかったが、そんな生易しいものではない。あれは自我と共に存在を消滅させる結界だ。

 あそこに長時間いればいるほど、こちらが不利になり最終的には負ける。まるで猛毒のような結界だ。

 そこで白亜がくれたアドバイス。それを使う。

 

『お兄ちゃん、貴方のお名前はなあに?』

 

 あの時ありすが放った無邪気な言葉。もしかしたら自分の名前さえ分かっていればあの結界に抗えるのではないかと翔は考えたのだ。

 

 そして最後、白亜のランサー言っていたジャバウォックはサーヴァントではないという言葉。

 そう、仮にあのジャバウォックをサーヴァントだとしよう。

 そうするとありすは双子のマスターという事になってしまう。聖杯の定めた定義ではマスターとサーヴァントは一対。

 そして白亜が自分のマイルームで言っていた言葉、令呪の反応が自分を含め、翔ともう一つの反応しかなかったという言葉。

 そこから導き出される答えは……

 

「全てが同じモノか……」

 

 ジャバウォックも固有結界も、あの黒いアリスがしたことなのだ。

 そこまでできるという事は間違いなくそれが彼女の宝具であることは間違いないだろう。

 そして……翔は二人のありすを思い出す。

 あの少女自体がサーヴァントに取り込まれてしまっているのだろう。

 ありすのサーヴァントはありすの夢がなければ動かない。

 その逆もまた然り……あの、ありす自身もまたサーヴァントがなければ生きていけない。

 おそらくは戦争か何かで死に伏した少女の想いの終着点。

 少女が望んだ最期の希望。最後の夢をかなえる泡飛沫のような存在。

 それがあの黒いアリスの正体。

 あれが何と呼ばれるのかはわからない。

 あえて名付けるなら……ありすのための物語、『誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)』だろう。

 

 

 

 

「ようこそ、決戦の地へ。扉は一つ、再びこの校舎へ戻るのも一組。覚悟を決めたのなら闘技場(コロッセオ)の扉を開こう」

 

 この言葉を聞くのは三回目、言峰の言葉に頷き、翔は二つの暗号鍵(トリガー)をセットする。

 言峰が横に立ち、翔とリップは扉の中に入っていく。

 いつもなら、この後、目の前に対戦がいるはずだ。

 だが……この日は何もかもが違った。

 目を開く翔。何か違和感を感じる。ここはエレベーター。翔の目の前には攻撃防止用の障壁がそびえ立っている。

 だが目の前に、ありす達は……

 

「いない……!?」

 

 身構える翔とリップ。本来なら対戦相手が目の前にいるはずなのにそれが存在しない。

 

『あ、お兄ちゃんたち来てくれたんだ! じゃあ、また遊べるね!』

 

『きょうはなにをして遊ぶの? かくれんぼ? オニごっこ? おままごと?』

 

 だがこのエレベーター内に響くように聞こえるのは、間違いなくありす達の声だ。

 どこかにいるはずなのに、どこにもいない。

 決戦前に分かったことといえば、ありすはサイバーゴースト。

 その存在ともなれば、エレベーター内で姿を隠すことなど造作もないという事なのか……

 

『あ、じゃあかくれんぼにしよう! ありすはもうお城にいるから』

 

 お城……? 彼女たちは既に決戦場にいるというのか。

 エレベータを介さずに、そのようなことまでするとは……やはりこれも、ありすがサイバーゴーストであるからだろうか。

 

『そうだね。あたし(アリス)たち、だれの目にもとまらないのはとくいだもんね。そうして探しているところ、首をちょんぎっちゃうの』

 

『……ちょんぎっちゃうの?』

 

『うん。ゲームでダメな人はちょんぎっちゃうの。それが『ふしぎの国(ワンダーランド)』のルールだもの。だから見つけてくれないお兄ちゃんはやっつけちゃおうね』

 

 首をちょん切るとはまた物騒な……

 だが、それを平気で笑顔でやってしまうのが、ありすなのだろう。

 しかし、本気で首をちょん切られればこちらの命がないので別の遊びを提案するのもいいかもしれない。

 

「なあ、ありす。別の遊びにしないか?」

 

『じゃましないでよ。お兄ちゃんとはもう話してないよ』

 

『ええ、あたし(アリス)あたし(ありす)と話しているだけだもの』

 

『そうだよ。あたし(ありす)あたし(アリス)だけと話すの』

 

 せっかくおなじだと思ったのに。

 ようやく、おなじひとだとおもったのに。

 やっとやっと、さみしくなくなるとおもったのに。

 わたしのコトをきらうなら、お兄ちゃんなんていらないの。

 彼女、ありすは言葉を続ける。ありすはずっと一人なのだ。

 今もムーンセル聖杯戦争という悪い夢を一人で見続けているのだ。

 夢はいづれ泡飛沫のように消え、目覚める。2回戦までの人達はありすの夢を覚まさせることはできなかった。

 心が痛む、胸を抑える翔。だからこそ自分達がありすの夢を覚まさせてやるのだ。

 

『そうよ。あたし(ありす)あたし(アリス)だけいればいいの。だってあたし(アリス)あたし(ありす)だけのあたし(アリス)だもの』

 

『お兄ちゃんはあたし(ありす)だけのあたし(アリス)じゃない。だからお兄ちゃんはもういらないの』

 

『そう。もうじゃまなの』

 

 まるで飽きたおもちゃ道具を捨てるかのような言葉だ。

 本当に無邪気で残酷。油断すれば生きる手段の羽をむしり取られた蝶のようになってしまうのは明らか。

 彼女たちからすればこれは『戦い』ではない。これは『遊び』なのだ。

 翔が考えている間にエレベーターが止まる。どうやらついたようだ。

 

『……でも、お兄ちゃんが遊びたいっていうんだったら、今日だけはいっしょにあそんであげるね』

 

『やさしいねあたし(ありす)。だからあたし(アリス)も遊んであげる』

 

『いっぱい遊ぼうね。もう逃げ出しちゃイヤだよ』

 

 誰が逃げ出すものか。必ず、ありすを見つけ出す。

 そしてこの戦いを終わらせる。それがどういう意味かわかっているとしても、やらなければならない。

 翔はエレベーターの扉をくぐる。

 扉をくぐり抜ければ、全身に感じる突き刺すような寒さ……

 

「ここが決戦場か……!」

 

「データが書き換わってる……ここまでなんて……!」

 

 リップと翔が驚きの声を上げる。

 エレベーターを抜け、彼らの目に映ったのは決戦場の光景ではなかった。

 極寒の地、遠くに見えるのはお城だろうか。息が詰まるほど激しい雪と風の中、彼は遠くの城を見つめる。

 寂しいアナタに悲しいワタシ。最期の望みを叶えましょう。

 戦いの火蓋はここに切って落とされた。

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