Fate/Affection Doll   作:ラズリ487

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第16話 運命の分岐点

 決戦場のエレベーターから出てきた翔は、歩き続けることなく、近くの壁へともたれ掛り、座り込む。

 今は歩く気力さえない。彼が目の前で見たありすの死。

 あの光景は、彼の心を沈ませるには十分すぎるほどであった。

 そんな沈んだ心に、何かが染み込むような暖かい声が掛けられる。

 

「死を悼んでいるのですね」

 

 ゆっくり顔を見上げれば、レオがお辞儀をしているところであった。

 おそらく彼がここにいるという事は、彼もまた無事三回戦を終えたという事。

 彼の言葉に翔は「そうだな」と返す。

 

「命が失われるのは悲しい事です。それがこのような無慈悲な戦いであればなおのこと」

 

「意外だな、お前がそんな言葉を掛けるなんて」

 

 彼は次期盟主である存在。西欧財閥のレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。

 そんな彼には、最強の一角であるセイバーのサーヴァント『ガウェイン』を従えている。

 そしてあの黒コートのユリウスの関係者であることは明白だろう。そんな彼が、まさか自分にこんな言葉をかけてくるとは思わなかった。

 

「しかし、無慈悲ねえ……無意味じゃなくてか?」

 

「ええ」

 

 レオは眼を閉じ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 この聖杯戦争は、憎しみによって殺し合うのではない。お互いに同じ目的を持ったまま相容れずに戦うしかないのだ。

 それは、人ととしての心を持ったまま、人を殺めるということ、それはとても悲しい。レオは言葉を続ける。

 

「何かに渇望するから人は聖杯(きせき)へと手を伸ばします。自分以上の物に采配をゆだねるしかない。そう、誰しも自分がこの世で一番正しいと信じる事が出来ないから」

 

「……だから無慈悲な戦いか」

 

「ええ、それが悲しい。いや、哀れと言ってもいいでしょう。地上の貧困もこの戦いもまた同じこと。足りていないから奪うしかない。その調停をするために僕はここに来たのです」

 

 まるで救世主だ。それは混迷した世を導く一人の救世主のような言葉にも感じ取れた。

 彼は西欧財閥の当主、地上の世界の王になるためにここに来ている。

 だけど、やはり何かが足りない。翔から見てレオは完璧すぎる存在だ。それは他の人から見ても同じであろう。しかし、なぜレオには何か一つだけ足りないものがあると感じてしまうのだろうか。

 それさえあれば、彼はもっと完璧に近づくはずなのに。

 翔にはその違和感の正体は何かはわからない。だがそう感じたのは紛れもない事実であった。

 

 

「あなたの悼みも、彼女の痛みも認めます。いずれは誰も無慈悲な死を迎えないように、欠如がなければ争いはありません。人々に完全な平等を」

 

 世界に徹底した管理と秩序、それが今のレオの目指す世界という事か。

 彼に賛同を求めるかのように、彼は翔に近づく。

 レオの言葉は、癒す薬の様だった。

 ありすの死で沈んだ心を優しく包むように癒すような……

 

「これがこの世界にあるべき姿、理想世界なのだと、彼女の消滅を悼んだあなたなら賛同してもらえるはずだ。そうでしょう?」

 

「……一つ気になったことがある」

 

 ゆっくりと翔は立ち上がり、レオを見つめる。

 翔にとっては救世主にしか聞こえない彼の言葉、そんなレオの言葉に少し疑問が出来たのだ。

 

「そいつはハーウェイの……いや違うな、西欧財閥にとっての理想か?」

 

「万人にとっての、ですよ。理不尽な死が待つ世界は誰しもが避けたいものでしょう?」

 

「ひっどい言葉ね。資源まで独占されて生き死にまでアンタらに管理される社会が万人にとっての理想っていうの?」

 

 どこからか聞こえる言葉によって、レオを翔はその方角を見つめる。

 歩いてきたのは赤い服を着ている少女、凛であった。

 放った声には、その瞳に負けないぐらいの敵意がこもっている。

 彼女はレオと関係があるのだろうか。

 

「生まれた子供を平気で飢え死にさせる世界が? 十年先の人生まで、寿命までデザインされる人間が?」

 

 余計なお世話よ、と凛は言葉を続ける。

 

「噂通りの人ですね、ミス遠坂。国連からその将来を期待されながら、中東の武装集団に身を投じた若き魔術師」

 

 中東の武装集団に……なるほど、通りでと翔は思う。

 初めて凛を見た時に感じた、瞳の奥に宿る意思、あれはただものではないと思った。

 あの強い意志はアイドルなどという存在では到底、ありえないものと翔は彼女を初めて見たとき感じたのだ。

 

「あなたの言い分もわからないではありません。ですが資源の配分は効率のいい配分をするための物です。それは富むための冨。支配欲から生まれた資源の独占は決して行いません。それは僕らの支配圏の実態を見ていただければわかると思いますが」

 

 ハーウェイの管理都市なら知っていると凛は言葉を続ける。

 階級に応じた生活が保障されている。不安要素のない平穏な世界。

 それはどこにも行けない。いや……行く必要がない楽園。けれどそこには未来がない。希望も幸せも……

 人がただ生きているだけの世界。

 翔は眼を閉じ考える。

 そんなものがハーウェイの望む世界?

 それではまるで停滞を目指しているだけなのでは……?

 

「笑わせるわ。娯楽あっての人間じゃない。私、見ての通り肉食なの。農園(ファーム)暮らしは性に合わない」

 

 まさに凛の戦いは生きるための戦いのようなものなのだ。

 だがそれは凛の強さがあってこその生き方ではないのか。

 

「生きるための戦い……それを肯定するのもいいでしょう。ですが、ミス遠坂。だからこそ僕はあなたに問います」

 

 ―――あなたは全ての人間に自分と同じ強さを求めますか?

 

 鋭い視線で凛に問うレオ。その返答には予想外であったのだろうか。

 凛も眼を逸らし、言葉を詰まらせる。

 それを見たレオはやはりと言った顔をする。それは『できませんよね?』と言っているふうにも捉えられる。

 

「あなたは、自分の身勝手さも傲慢さもわかっている」

 

 だからこそ、その苦しみを共有出来ないと、全ての力なき人々に自分と同じ苦悩を負えと強制できない。レオの言葉に凛は歯を食いしばる。

 

「で、できるわよ。私、そんなお人好しじゃないし」

 

「そうですね。脱落する人間がいれば自分が助ければいいと思っている。だから……」

 

 ―――あなたでは、僕に勝てない

 

 はっきりと、そして断言とも取れる言葉でレオは言い放った。

 レオは言葉を続ける。凛の言う幸せは狭いのだと、人間を救いたければ人間を捨てなければならないと。今は支配者が必要なのだと……

 それはあなたには無理だ。そして……

 

「今の僕にもありません。ですが、聖杯の力があれば」

 

 地上の全て、いやこの星を照らす光になれる。

 そう、この少年王は断言した。

 

「西欧財閥の支配領域は現在、世界の約3割です。ですがその市民達から不満の声は出ていません。反抗は常に域外から発生しています。それは、あなたの言うファームが完全であることの証。故に僕は言いましょう」

 

 ―――羊になれないなら死んでください。

 

 これが西欧財閥の本質。本当に……?

 レオが掲げるのは本当に停滞を目指した世界なのか……?

 そうは思えない。彼は地上の王でもある存在。

 その停滞は無意味ではなく何か意味があるのではないのか?

 だがその答えは今の翔には出てこない。

 

「……筋金入りね。その王様ぶりだけは褒めてあげる。一つだけ分かったことがあるわ」

 

「わかっていただけましたか?」

 

「ええ、私がこの聖杯戦争に参加したのは間違っていなかったってね!」

 

 それは間違いなく凛の宣戦布告であった。

 レオが王道なら凛もまた王道。

 戦うは聖杯戦争の決戦場。どの道勝ち上がるのはただ一人だ。

 そして凛とレオは立ち去る。

 そこには何もない自分ただ一人。

 

「翔さん……」

 

 リップが実体化し、静かに、そして心配そうに翔に声をかける。

 閉じていた目を静かにあける翔。

 レオの理想、凛の決意。だが自分は……?

 自分にはなにもない。何もないまま人の命を奪い続ける。

 それが翔にはとてつもなくつらかった。

 本当に今の自分には何もない。それは自分こそ価値があるとはとてもじゃないが言えないほどには……

 

「あの二人には、信念があるのか。命をかけられるほどの理由が、決意が……」

 

 今の自分はそれを探している最中。

 もちろん、探すことなど容易な事ではない。時間もない。

 だが何もないままでは一歩も進む事は出来ない。

 自分のほうが価値があるなど、とは言えない。

 自分のほうが生き残るべきなど、とは言えない。

 今の自分には何もない。だからそれを見つける。

 それは立派な事でなくていいだろう。

 いつか彼らと戦場で会うときには、戦う理由として恥じない何かを見つけよう。

 

「翔さん。あんなに沈んだのに、あの二人に会って顔が変わりましたね」

 

「そうか?」

 

「ええ、短期間ですけどとっても強くなりました」

 

 リップの微笑みに、翔も笑顔で返した時、背筋が凍りつくような感覚に襲われた。

 何者だろうか。振り向くが、なにもいない。

 前にも同じような感覚に襲われたのを思い出す。

 あの時は……そうだ。ユリウスに襲われた時と全く同じだ。

 となると、近くに彼がいる事は明白……だが不意にその殺気が遠ざかる。

 どうやら翔が感じた殺気は、視聴覚室に向かったらしい。

 なぜユリウスが視聴覚室に……彼の事だ。何かをしでかすつもりなのだろう。

 

「リップ。ついて来てくれ」

 

「はい」

 

 リップもその気配を感じとったようだ。リップと翔は視聴覚室へと向かう。

 その扉の前まで物音を立てずに進んでいく。そしてやはりだろうか。その中から声が聞こえる。

 翔は物陰に隠れ、耳を澄ませる。

 その声の正確な内容までは分からない。だが、これは間違いなく呪文(プログラム)詠唱(記述)だ。

 はっきりとは聞こえないが、なぜだがそう感じ取ることは出来た。

 

「やはり決戦場ともなるとセキュリティは最高レベル。この障壁(ファイアウォール)はさすがに……くそ」

 

 決戦場。もしや彼は今、決戦場の中身を覗こうとしていた……?

 確かに対戦相手の情報が分かればそれだけでこちらが優位になれる。

 視聴覚室からでたユリウスは、そそくさと廊下を歩いて翔の視界から見えなくなる。

 もし決戦場を見ていたとすれば誰の戦いを見ていたのだろうか。少し興味がわく。

 

『のうユリウスよ。あの時の小童が部屋に入っていったぞ。あのカラクリを見られても良いのか?』

 

 歩くユリウスに対して、誰かの声がユリウスの耳に届く。

 間違いなく、アサシンのサーヴァントだろう。

 そのサーヴァントの言葉にユリウスは眼を閉じ、言葉を放つ

 

「奴の力ではあれをどうにもできない。いや、むしろこちら側で始末する手間が省ける」

 

 

 

 

 視聴覚室の中に入った翔。その中は薄暗く、一つのスクリーンの明るさのみがこの空間に明かりをつけている。

 本来なら天井にプロテクターとかありそうなものだが、置いてあるのは旧式の映写機。

 電脳世界のはずなのに妙にレトロにも感じられる。

 ここに訪れる機会などめったにない。だが見た所、特に変わったところが無い様にも感じられる。

 

「翔さん。あの真ん中の機械。何か変ですよ?」

 

「そうか?」

 

 リップが視線を映写機に向ければ、翔もまたそれを見る。

 確かにリップの言った通り、映写機らしくない余計な筆遣いを感じる。

 間違いなく何かコードを使ったのだろう。他ならぬユリウスの手によって。

 何が目的か調べればわかるはず……翔はゆっくりとその映写機に手を伸ばして……

 

「!?」

 

 訳の分からない呪文(プログラム)の羅列。

 頭の中が一気に焼ける感覚に陥る。

 それは全てこちらの攻撃に向けられている。

 

「うわあああああああ!?」

 

「翔さん!?」

 

 まるで脳内で花火が起きたような感覚に、翔は叫び声をあげる。

 映写機から吹き飛ばされるように翔の身体が宙に浮き、仰向けで勢いよく倒れる。

 今のは何だったのだ。幻覚か何かだったのだろうか。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「な、なんとか……」

 

 これは並大抵の人間が触れていいものではない。触れたらそれこそ、その目の前にあるのは『死』そのものであるだろう。

 そんな翔を強引に引き戻したのは、剣がぶつかり合う音。

 必殺の意志すら感じる。空を裂き、地を割るような勢いの音。

 翔はユリウスが再び来たのではないかと疑うが、どうやらそうではないらしい。

 鼓膜越しでは無く、直接電脳に写るのは……

 

「ラニと凛……!」

 

 これは、二人の決戦場の戦いだ。

 動き出した映写機がそのスクリーンに二人の戦いの様子を映し出している。

 二人の戦いはまさに圧倒的であった。

 お互いの武器で突き、斬り、薙ぎ払い、そして受ける。

 その軌跡は眼で追う事は到底できなかった。ただわかるのは刃の散らす花火のみが二人の戦いの存在を証明している事。

 威力においてはラニが優勢だろう。だが凛の方も押されてはいない。

 勝負は全くの互角に見える。

 しかし、なぜユリウスは途中で退出したのだろうか……

 他者の戦いを見る。それは情報なしに戦うことになる聖杯戦争において圧倒的なアドバンテージを誇れる。

 勿論、それは言うまでもなく違法だ。

 これは闇討ちなど反則(ルール―ブレイク)など関係ない、ユリウスの企みだろう。

 だとしたらなぜ彼は途中で退出した……なにか意図があるのかそれとも、問題(アクシデント)が……?

 

「翔さん、これ……凛さんの勝ちだと思います」

 

 サーヴァントは全くの互角、しかし、マスターに差があるという事か。

 確かによく見れば、凛の方が咄嗟の対応力が一枚上手である。

 対してラニの方は無表情ではあるが、若干の焦りが見える。

 一方の凛には、確かな自信が見える。あの、自信はおそらく勝機をつかんだ自信だ。

 と、突然戦闘の音が鳴り止む。

 動きがあったのはラニの方。サーヴァントが構え、力が、エネルギーが集まっていくようにも感じる。

 それはスクリーン越しでもわかる、桁外れの力。

 

「全高速思考、乗速、無制限。『北天に蛇を(モード・オシリス)』任務継続を不可能と判断。申し訳ありません師よ。あなたに頂いた筐体(からだ)と命をお返しします」

 

 ―――入手が叶わぬ場合、月と共に自壊せよ。

 

 それはラニによる自爆であった。

 あまりにも馬鹿げている。あんなのは自殺行為なんてものではない。あの魔力の消費量は、凛どころか、決戦場そのものが融解してしまうのではないだろうか。

 そして翔は見た。ラニの手の甲にある刻印が消えるのを……

 『令呪』。この聖杯戦争、全ての戦いを通して使える。たった2回だけの切り札。ラニはそのカードをここで切ったのだ。

 

「まさか、ラニの身体は……!」

 

 翔は叫ぶ、ここまで来てしまえば翔だってわかる。

 ラニの身体は、元からこういった機能があったのだと……

 

 

 

 

「捨て身にもほどがある……! あれは間違いなく魔力回路の臨界収束。そんなのただの自爆じゃない!」

 

「ヒュウ。カミカゼってやつか。さて、どうするかねお嬢ちゃん。確かアンタらの専売特許だろ? ありゃあ」

 

 凛のサーヴァントが緊迫した状況に不釣り合いな飄々とした口調で凛に尋ねる。

 ラニの心臓に位置する光り輝くあれは、凛の推測が間違いなければ、間違いなく本物の第五真説要素(エーテライト)だ。

 それは爆発すれば、間違いない。アリーナは軽々と消し飛ばすだろう。

 

「いつの時代の話よ! 軽口は後よランサー。あれが爆発する前に、宝具で中心を穿ちきって!」

 

「おう、らしくない大盤振る舞いか! いいね、いよいよ決着だ!」

 

 凛の槍兵は力を溜め、ラニのサーヴァントを見つめる。

 力と力……あれの決着は間もなくつく。負けた方は令呪の剥奪を待つまでもなく、消し飛ぶ。そんな力同士の激突。

 いや、勝った方も、無事で済むかは怪しいだろう。二人ともここで共倒れの可能性もある。

 スクリーン越しに戦いを見つめている翔が息を飲む。

 

「もしかして翔さん。二人を救いたいとか思っていたりしてませんか?」

 

 リップの言葉に翔は彼女の方へと顔を向ける。

 自分はただここで見ているだけなのか、それとも……

 しかし、リップの言葉には違和感があった。

 救う手段などない、そういう言い方ではなかった。

 リップは何かを知っているのか……?

 

「あの(スクリーン)とここは繋がっています。私でもそれはわかる。だから助けに行くことはきっとできます」

 

 ですけど……と、リップは言葉を続ける。

 ここから決戦場までの距離、多くの障害、それらを抜けて瞬間移動すると考えれば間違いなく令呪が必要だと……

 不可能を可能にするたった2回の奇跡、それが令呪。

 帰り道もまた同じ、間違いなくその2回はここで使うことになる。

 

「ここは私の意見は言いません。翔さん……いや、マスターの意見に従います。あなたを救うかもしれない、未来を変えるかもしれない奇跡『令呪』を2つ、今ここで本当に使うのですか?」

 

 二つの令呪、二つの奇跡、二つの切り札。それをここで切る。それはあまりにも重すぎる。

 あと何戦あるかもわからないのだ。この聖杯戦争でそれを選ぶことは死を選ぶにも等しい。

 令呪を見つめる翔。自分は何のために戦っている。翔はあの二人の戦いを間近で見てしまった。

 少なくとも、今の実力では到底、間違いなく倒す事が出来ない二人。

 次の戦いで二人の内どちらかに当たったら、自分は間違いなくそこで倒れる。

 自分が死ぬことを承知で、そこまでしてあの二人を救う理由があるのか。

 恐れてしまった、恐怖してしまった。

 手が震える、口が震える。

 そのためらいが、すなわち……

 

 ―――他にも選べたはずであろう選択肢を奪う事となった。

 

 交差する光の中、凛の青いサーヴァントが動く、激突の時、もう間に合わない。

 全てが白く輝いた。それはビッグバンにも匹敵するような衝撃。

 

「うわああああああああ!」

 

 四散するエネルギー。それが容赦なくスクリーンをも叩き、空間がひび割れ、爆発の衝撃で翔は吹き飛ばされる。

 リップが翔の名前を叫び、駆け寄る音がする。

 映写機は音を立てながら、その部品が弾け飛び、小さな爆発と共に煙を立て、その役目を終える。

 もうスクリーンは何も写すことはない。あるのは虚無の暗闇だけ……

 衝撃で吹き飛ばされた翔。その威力があまりにも大きかったらしい。立つ力さえなく、彼は意識を失う。

 

「……アクセスできていたようだな」

 

「あなたは……!」

 

 意識がない翔を庇うようにリップがその男の前に立つ。

 去ったかと思っていたユリウスが、まだ残っていたようだ。

 

「あそこまでの強力なセキュリティを破ってまだ命があるとは……それほどの魔術師という事か。いや、それでは理屈に合わんな」

 

 となると残る可能性は『――――――』ということか。

 彼が何を言ったかはリップには、その声が小さく、聞き取ることはできなかった。

 ユリウスは、リップの背後にいる翔をみつめると、彼は『なるほどな』と声を漏らし、去っていく。

 今度こそ……本当に……

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