Fate/Affection Doll   作:ラズリ487

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この回では『Fate/EXTRA CCC』のネタバレが含まれております。

ご注意ください


第22話 愛憎のアルターエゴ

「まず、翔さん。私の事、どこまで知っていますか?」

 

 マイルームに着き、最初に話した彼女の言葉はそれであった。

 思えば、自分はパッションリップのことについて何一つとして知らない。

 強いて分かる事と言えば……

 

「アルターエゴという存在。BBから分かたれた分身ってことぐらい……かな」

 

「え、その話……どこで?」

 

 リップは驚いたような顔で翔のことを見つめる。

 当たり前だ。この話は彼女にしていない。

 故に彼女が翔の言葉に驚いたのは当然の事だろう。

 彼は、1回戦の決戦前、突然、夢にBBが出てきて、それを伝えてくれたことを言う。

 

「あの人が……」

 

 暫く黙ったのちに、リップは静かに語り始める。

 

「その話は本当です。私はAIによって造られた英霊複合体。複数の英霊の性質を持つ『ハイ・サーヴァント』なんです」

 

 AIによって造られた人工サーヴァント。

 それぐらいの技術を持つAIということは、彼女は未来の英霊なのだろうか。

 

「そして私を造った人こそBB。ムーンセルが用意した健康管理AI。サクラのバックアップです」

 

 サクラのバックアップ。

 まさか、聖杯戦争が始まって間もない頃に、リップと桜の容姿で姉妹と勘違いしたが、そんな関わりがあったとは……

 今思えば、リップからの痛い視線も納得だ。

 あの時は、地雷を踏んでいたと申し訳なく感じる翔。

 

「そして私と、もう一人のハイサーヴァント『メルトリリス』は、BBの眷属であり、月の裏側にいたんです」

 

「月の裏側?」

 

 聞いたことない単語だ。

 今までムーンセル内のデータを何度か覗いたことはあったが、そんなデータは、見たことも聞いたこともなかった。

 それが、もし都市伝説的存在ならば、真っ先にあの白亜辺りが食いつくと思うのだが、彼女からもそのような単語は聞いたことない。

 

「それは、きっと語られることのない物語です。実はBBはある目的の為、何人かのマスターを月の裏側に落としたんです」

 

 その本当の目的はリップにもわからない。

 だが、パッションリップはBBの分身。だからこそぼんやりとだがわかることがある。

 その根底は、BBの心の奥には、どうしても救いたい人が一人いたのだ。

 その人の名前は『岸波 白野(きしなみ はくの)』。

 だが、リップには、もう記憶が曖昧で、その人が男なのか、女なのかわからないという。

 

「だけど、ある一人のマスターがそのBBの記憶、プログラムを改変。誰かを救おうとした行動は、破滅の道へと変わっていたのです」

 

 そして……私も利用された。

 あの自己愛の獣に、利用され、自分は命を落としたのだ。

 そのマスターの名前は『殺生院(せっしょういん) キアラ』。

 彼女は、BBの全てを利用し、同時にリップも、メルトの利用された。

 まるで、糸で動く人形のように……

 

「メルトと私は、BBの欲求。いわゆるエゴから作られました」

 

 切り離した愛憎、快楽、純潔、渇愛、慈愛の五つの感情から作られたアバタ―。

 そして、その中の一つの『愛憎』。

 愛憎のアルターエゴ。

 それが、目の前の、パッションリップの正体。

 

「BBの防御的な性格、求愛欲求、愛憎から生まれたアルターエゴ。それが私。そして彼女は、自分の中のエゴに適した女神を選び、その性質や力を抽出して組み合わせています」

 

 その数は三つ。

 まず一つは『パールヴァティー』。盲目的に、そして献身的に夫である破壊神シヴァを愛した美の女神。

 二つ目はパールヴァティーの側面ともされる戦いの女神ドゥルガー。

 その者は十本の神剣を持っており、自分のこの爪は、その十の神剣が形を変え、具現化した物。

 

「なるほど……」

 

 翔はリップの腕を見て呟く。

 確か、初めてリップがアサシンと戦った時、彼が珍しそうな顔をしたのは覚えている。

 今、思えばアサシンがそんな顔をするのは納得だろう。

 そして彼女に組み込まれた三つ目はブリュンヒルト。

 ブリュンヒルデとも呼ばれる、その存在は、恋した勇者に裏切られ悲しみと共に滅んだ戦乙女(ワルキューレ)

 

「私は月の裏側に落とされた一人に恋焦がれました。けど、盲目的な恋をあの人は否定しました」

 

 だから戦った。あの人を自分のものにするために……

 結果はリップの負け。

 だが、あの時の自分は生まれたばかりで、何も知らなかった。

 だから、あの人は許した。リップに罪はないと……

 そしてパッションリップは解放されたのだ。

 自分は、努力しようとした。自分を認め、いつかあの人に振り向いてもらおうと思った。

 だけどその矢先に……

 

「私は、殺されました。先ほど言った殺生院キアラの手に落ちて……」

 

「そう……だったのか」

 

 リップの言葉に、言葉を発する事が出来ない翔。

 いろんな、しがらみから解放され、ようやく歩む事が出来るリップを、そのキアラというマスターは殺したのか……

 

「あと一つ。私達アルターエゴには、一つだけ許された特殊能力『id-es(イデス)』というスキルがあります」

 

 リップは説明を続ける。

 彼女のイデスは『怪力』から進化した、いわばチートスキル。

 どれほど巨大な容量であろうと『手に包んでしまえるもの』ならその爪で潰し、圧縮する事が出来る。

 圧縮できるものはリップの手より小さいものだけ……ではない。

 彼女の『視点上において、手に収まるもの』なら対象として扱うことができる。

 さすがに大きすぎるものは、時間が掛かるが、その気になれば、超高層ビルなども圧縮できてしまうという。

 今は、そのスキルは弱体化してしまい、ただの『怪力』としてのスキルとなってしまっているが、令呪などの補助があれば今では恐らくだが使えるようにまでなったという。

 

「それが私、ハイサーヴァント『パッションリップ』の全てです」

 

 今まで頑なに話さなかった彼女の秘密。

 それは今、彼女は勇気を振り絞って、話してくれた。

 彼女の表情からするに、後悔はしていないだろう。

 だが翔には一つ気になっていることがあった。

 先ほど言っていた、リップが始めて恋焦がれた人についてだ

 

「なあリップ。その恋焦がれた人に会えなくなって、後悔はしていないのか?」

 

「今の私に、その記憶はないです。男の人だったか、女の人だったのかすら忘れていますので……」

 

 ですけど……と、パッションリップは言葉を続ける。

 

「あの人は、私達と前から向き合ってくれた。私が成長できたのは、あの人のおかげでもありました。あの人からは『恋』というものを教わりました」

 

 そして……リップは翔を見て、優しく微笑む。

 

「寿々科翔。あなたに会う事が出来た。今の私はそれだけで十分に幸せです。あなたは私の呼びかけに答えてくれた」

 

 だからこそ怖かった。

 自分の全てを知られるのが怖かった。

 自分が嫌われるのが怖かった。

 

「……リップ」

 

 翔はリップに片膝を付き、彼女の金色の腕を見つめる。

 彼女と初めて会った時、ただ自分の命の灯が消えるのを迎えるしかなかったとき『まだ終われない』とただ叫ぶことしかできない自分に手を差し伸べてくれた。

 あの時の光景は今も色褪せない。

 自分が、この聖杯戦争が終わり、元の世界に帰ったとしても、きっと忘れることはないだろう。

 リップの全てを知った今でも、この気持ちが変わることがほとんどない。

 翔にとって、リップとは紛れもなく尊い存在であった。

 

「俺はな、最初はあのように言ったけど、きっと心の片隅では、お前に怯えていたんだと思う」

 

 静かに手を伸ばし、翔はリップに触れる。

 それは紛れもなく、彼女の金色の腕の部分。それを見た時、リップは気付いた。

 今まで、翔はリップの頭を撫でたことが数多くあれど彼女の、その腕の部分には触れたことが無かったのだから……

 

「リップ、俺はリップに相応しい人間になりたい。サーヴァントとか、マスターとか、そんな関係じゃない。俺はリップと対等の人間になりたい」

 

「翔さん……」

 

 今、この時、翔は『本当の意味で』リップを受け入れた。

 手を離し、立ち上がる翔。

 彼もまた、今まで見せていた表情はなくなっているのを彼女は感じた。

 翔からもまた、決意の表情が見られるのを彼女は知ったのだ。

 

「お前がこのタイミングで、この話をしたかは、見当が付く。今回の対戦相手、アサシンのサーヴァントだな?」

 

「正解です。あのサーヴァントは今までの相手よりも数段上、下手すると、勝てないかもしれません。だから、この戦い、私は全てを出し切ります」

 

 決意の色が見えるリップからのその言葉。

 それを意味することは間違いなく……

 

「今回の戦い。私は宝具を使います。使う場面は翔さんに全てを任せます。今までの戦い、あなたと共に駆け上がり、そう思いました」

 

 今まで自ら禁じてきた切り札。

 パッションリップはそれを使うと言った。

 それが意味することは、ユリウスが強敵であるという事の証明にもなる。

 そのためには、まずあのサーヴァントの姿の見えない秘密を明かさなければならない。

 そうしなければ、宝具を当てることすら、出来ないのだから……

 彼女の決意を無駄にするわけにはいかない。

 勝負の鍵は間違いなくリップの宝具。

 それはこの戦いに勝利するための切り札になるだろう。

 

 

 

 

 それから数日後、トリガーを入手し、校舎内へと戻った翔は改めて、あのアサシンのサーヴァントの対策を考える。

 前にも考えたが、ダン卿のサーヴァントも姿を消していたが、今回は根本から違うような気がする。

 加えてユリウスの実力から考えれば、あの仕組みが分からなければ、どうしようもできないように感じた。

 

「おや、翔くんじゃないか。リップの具合はどうだい?」

 

「ああ、志波か。もう元通りだぜ……だけど、今度は敵側で問題が……」

 

「ほうほう。聞かせてもらおうじゃないか」

 

 翔は白亜に敵サーヴァントであるユリウスのサーヴァントについて話す。

 特に姿が見えないということに、興味を示した白亜は、考える仕草をしている。

 やはり透明化は、どのマスターも対策を考えたいのだろう。

 

「透明化のスキル、これができるのは三つの可能性だね」

 

 順番に白亜は翔に説明していく。

 まず一つ目は、特殊な装具、あるいは宝具等を使い、周囲に同化している事。

 これは、前に戦ったダン卿のサーヴァントである『ロビンフッド』が使ったのが、これに当てはまるだろう。

 となると、アサシンのサーヴァンが使っているのは、これではない気がする。

 二つ目は、魔術等を使い、ただ単純に透明化している事。

 三つ目は、集中力に依存し、気配を遮断している事。

 

「翔くんの言葉と、私の推測では三つ目あたりが怪しいんじゃないかって思っているけど……そうだ。そんなお悩みの君に、私から三つのプレゼントを差しだそう。ほれ、手を出すのだ」

 

「お、おう」

 

 言われるがままに翔が手を出すと、白亜の手から三つの何かが翔の手の中に収まる。

 どうやら、何らかのトラップか何かの類だろうか。

 

「私がさっき言った三つ。それぞれに対応するトラップだよ。いつか使うと思って取っておいたけど、もう使う機会がなさそうだしね。あなたにあげる。相手の能力を探り、正体を掴めってね」

 

 彼女が笑いながら、説明する。

 この罠の性質は、同じ場所に置く事が出来ないという事。それを注意してくれというのが白亜の言葉だった。

 まさか、彼女がここまでしてくれるとは思わなかった。

 だがやはり気になる。

 どうして彼女はここまで自分に対して協力的なのだろうか。

 このムーンセルの戦いにおいて、基本的に自分以外は敵という事は彼女に理解しているはずだ。

 なのに、ラニのマラカイトの一件の時もそうだ。

 まるで全て知っているかのように、彼女は常に先回りし、情報を提供している。

 さすがに、ありす達に自分共々吸い込まれた時は、動揺を見せていたが、基本的には全てがわかっている。

 彼女の行動から、そんな気がしてならないのだ。

 

「なあ、志波。今まで気になっていたが、どうしてそんなに俺に協力的なんだ? こんなことすれば、いつか俺達が敵対することだってあり得るかもしれないのに」

 

 その言葉を聞いた白亜は、暫く黙りこむ。

 そして少しの時が経ったあたりだろう、静かに翔に語りかける。

 

「前に言ったでしょう。私はただ、あなたが気に入っただけ。それ以上でもそれ以下でもないし、そんなことはわかっている」

 

 健闘を祈るわ。そう言って、白亜は翔に背を向け、手をヒラヒラと振りながら、その場を後にする。

 彼女の真意は分からない。

 ただ何とも言えない、疑問を抱きながら、翔は白亜が去った方向を見つめているのであった。

 

 

 

 

「主よ、これでよいのですか?」

 

「いいんだよランサー、これでいいの。まさか最初に言ったこと、忘れてるわけないでしょ?」

 

「忘れるわけもありません。あの言葉が無ければ、きっと主とすれ違いが起きていた。だからこそ、俺はあの言葉に感謝をするのみですから」

 

 校庭に出た白亜は霊体化したランサーから心配の言葉をかけられる。

 それを聞いた白亜は、心配する必要はないと言葉をかけ、近くの椅子に座り、空を見つめる。

 彼女が見上げた空は、一点の曇りなく、澄み渡った青空そのもの。

 それを静かに見つめ続ける白亜。

 彼女がランサーに言った言葉、それは……

 

『私はきっと、途中から誰かのために動くと思う。それをあなたは見守って欲しいの』

 

 もしかしたら、彼女の行動は、ランサーの……彼の忠義を踏みにじってしまう行為かも知れない。

 だけど、ランサーは、それに納得し、それでもなお、白亜に仕えると彼は言ってくれた。

 むしろ、その言葉を感謝しているとまで彼は言ったのだ。

 その言葉に白亜は、救われたのを覚えている。

 そして彼女は翔の姿を思い出す。

 がむしゃらに突き進む彼を見て、白亜は思ったのだ。

 

 ―――あの人なら、変えられるかもしれない。

 

 ―――あの人なら、やってくれるかもしれない。

 

 5回戦まで、突き進んだ彼を見て、彼女はそう思った。

 彼は間違いなく、あのアサシンのサーヴァントを突破し、6回戦に進むだろう。

 となれば、恐らく、次の戦いか、決勝戦で、自分は彼と戦う事になる。

 そんなことはわかっていた。

 いづれ来る翔との戦い……

 その戦いで手を抜くつもりはない。むしろ全力で彼と対峙するのみ。

 そこで自分が勝てば、翔はその程度の人間だっただけだ。

 

「さて、私もそろそろ切り札の最終調整をしておかないとね」

 

 青空を見ながら、白亜は静かに誰にも聞かれぬ言葉でそう呟いた。

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