Fate/Affection Doll   作:ラズリ487

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第27話 gain(解放)_Beag-alltach&Mor-alltach(ベガルタ モラルタ)

 数日後、翔はマイルームでディルムッドについての情報を収集していた。

 白亜のランサーの真名、それは彼が宝具を使用したおかげでその正体を掴むことができた。

 しかし無傷で……ではない。

 その代わりとして、こちらのサーヴァントである、リップの左腕が思うように使えないというハンデを背負わされてしまったのだ。

 真名を隠すか、正体を明かしこちらの戦力を削ぐか……

 どちらも捨てがたいものではあったが、彼女、志波白亜は後者を選び取った。

 

「『ディルムッド・オディナ』……」

 

 ケルト神話におけるフィオナ騎士団の最盛期。

 癒やしの水を司る大英雄『フィン・マックール』が首領を務めた時代において最強とも言われる筆頭騎士。

 彼の宝具は、魔を断つ赤槍である『破魔の赤薔薇(ゲイ・ジャルグ)』。

 そして呪いの黄槍である『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』。

 二つの宝具は、派手さには欠けるものの、どちらも厄介な宝具である。

 改めて彼の宝具を確認しよう。

 

 ―――まず紅の長槍『破魔の赤薔薇(ゲイ・ジャルグ)』。

 

 この宝具は刃が触れた対象の魔力的効果を打ち消す。

 こちらのコードキャストや、魔力で編まれた鎧などの防御を無効化させるための能力を持った宝具。

 実質、この槍の前では、魔力で編まれた鎧や盾などは通用しないと思った方がいい。

 現に、ランルーの戦いで、彼女の編み出した盾のコードキャストを無効にしているのだから……

 

 ―――そして、黄の短槍『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』。

 

 こちらは、治癒不能の傷を負わせるというとんでもない代物だ。

 通常の解呪は不可能であり、この槍で付けられた傷は、あの槍を破壊するか、ディルムッドが死なない限り癒えることがない。

 

「唯一救いなのは……」

 

 しかし、ディルムッドはまだ本来の力を出し切れていない。

 それもそのはず、生前のディルムッドは、二槍流や二刀流だけでなく、剣と槍を同時に扱うという。

 ランサークラスで召喚された彼は、その剣を使用することはできない。

 それが、翔にとって、唯一の救いであるだろう。

 

「なにかわかりましたか?」

 

「まあな、生前の彼は剣と槍の両方を使っていたという情報があっただけでも大きな収穫だろう」

 

 リップからかかる声に翔は返答する。

 昨日のうちに翔は、痛覚を和らげるコードキャストを自作し、それをリップにかけている。

 それゆえ、彼女から翔にかける声は昨日と違い、苦痛に満ちていない。

 

「コードキャストの効果はどうだ?」

 

「はい。おかげで激しい戦闘以外は何とかなっています」

 

 明るい声で返答するリップ。

 となれば、効果は十分のようだ。

 本来であれば、完全に左腕のダメージをなく彼女を万全な状態にしたい。

 なにより、彼女を痛みから解放してあげたいのだが、さすがは英霊の宝具。

 翔の実力ではこの程度が限界のようであった。

 

「そういえば気になったんですけど、5回戦で翔さんが使ったコードキャストって……」

 

「あぁ、あれか」

 

 自分なりにまとめた例の決着術式のデータをリップへと見せる翔。

 それを見たリップは、驚きの声をあげる。

 

 ―――『宝石煌く七つのヴェール(ダンス・オブ・ザ・セブンヴェールズ)』。

 

 零の月想海にて翔が手に入れた決着術式。

 使用者であるマスターの魔力を全て消費し疑似的に『賢者の石』を複数作成、それを媒体とし発動する。

 その効果は、SE.RA.PHに登録されたサーヴァント全てのスキル、宝具を、B~Aランクの習熟度で発揮可能できる術式。

 そして賢者の石は、想像を絶する膨大な魔力量を持ち、かつ魔力が無尽蔵に供給される。

 だからあの時、彼はユリウスとの決戦の時に、サーヴァントの宝具の一つを使用することができたのだ。

 一回戦などで使えたのは、翔自身に、BBの授けたスキルに似た力があったため……翔はそう思っている。

 彼女は、BBはそれを、いつでも具現化する力をくれたのだ。

 

「めめめ、めちゃくちゃじゃないですか!?」

 

 リップからこう言われるのも無理はない。

 翔も初めてこれを使ったとき、でたらめもいいところだと思ったくらいなのだから。

 だが当然デメリットも存在する。

 

 ―――それはムーンセルからの攻撃だ。

 

 この術式発動中は、ムーンセルによる防衛プログラムが作動し、常時肉体に負荷がかかり続けるため、発動限界時間一杯まで使うと肉体が消滅する。

 つまり彼の身体を考えれば、もって術式発動限界時間は約10分。

 正に試合を、決着へと持っていくための術式だ。

 

「でも出力方法は、使用者である翔さんの全魔力ですか。となると無闇に連発はできないんですね」

 

「あと賢者の石の破壊も弱点だ。これが破壊されれば膨大な魔力の供給が追い付かなくなって術式が自然消滅する」

 

 翔の周囲に展開される賢者の石。

 それが破壊された場合、術式による魔力供給が追い付かなくなるため、術式が自然崩壊し、使用不能になる。

 術式が自然消滅すれば、その時点で負けが確定だろう。

 こちら全魔力を使っており、さらには術式の反動で動けないだろうから……

 だがその反面、これは間違いなく強力な武器となる。

 決戦までの期間に少しでもこの術式の使い方を勉強する必要がある。

 今日も、リップの今の状態での戦闘に慣れるためにアリーナへと向かう翔であった。

 

 

 

 

 二つ目のトリガーを入手し、アリーナから帰還しても白亜は一切顔を見せることはなかった。

 できればもう一度、今のリップでどう戦えるか確認しておきかったが、彼女も手の内をこれ以上、晒すつもりはないのかもしれない。

 しかし、トリガーを入手されている形跡があることから、どうやら白亜達とランサーは、トリガーだけを手に入れて早々退散したようだ。

 それを、疑問に思いつつも、翔とリップはアリーナにて特訓。

 ついに、決戦の日である。七日目がやってきた。

 

「あちらも何か準備している可能性があるな……」

 

 今日、白亜との決戦がある。

 今までの行動からして、彼女が何も準備しないとは考えにくい。

 恐らく、今まで考えてもいないようなことを、決戦場でするかもしれない。

 こちらの戦い方もいきわたっている以上、今までのどの相手よりも気を付けないといけない相手だ。

 

 ―――そしてこちらはリップの左腕が、思うように使えないというハンデがある。

 

 アリーナでの特訓は、そんな状態でも、様々な戦い方ができるようにしたものであった。

 その成果が実を結ぶかなど分かりはしない。だがやらないよりはましだ。

 

「この戦いが終われば残り二人……」

 

 そう、この決戦で自分か白亜、どちらか一人しか帰ってこない。

 ここまで来て白亜に負けるつもりなどない。だがそれは彼女も同じだ。

 この聖杯戦争も終わりが近づいてきているのだ。

 最初の頃であれば、白亜と自分は天と地ほどの差があったはず。

 だが今はきっと、彼女に追いつき、そして追い越せる実力になっていると信じたい。

 

「大丈夫です。翔さんと私ならきっと勝てる!」

 

「ああ、そうだな。俺とリップなら、きっとあいつも追い越せる!」

 

 リップの言葉に笑顔で返答する翔。

 こうやって、自分を守ってくれる相手がいる、

 翔はこの戦いが終わり、再びこの校舎を見るのだ。

 ランサーを、白亜を倒して……

 

「翔さん、少しづつですけど、変わってきましたね。今までも頼もしかったのに、なんだかさらに頼もしくなった感じです」

 

「ば、ばか……突然何を言うんだお前は……」

 

 リップの言葉を聞いた途端、恥ずかしさが湧き出てしまった翔は、さっさと支度を整えて、マイルームから出る準備を行う。

 ついに決戦の時だ。

 

 

 

 

「久しぶりだね。翔くん」

 

 そして、迎える決戦の日。

 トリガーをセットし、決戦場のエレベーターの浮遊感に身を任せていると、向かい合う影のうち一つから声が聞こえる。

 視界が明るくなり、姿を見せるは、志波白亜とそのサーヴァントであるランサーだ。

 

「おお、リップちゃんの左腕、ずいぶん動かせるんだね。こりゃあ計算狂ったかな。いや、ただ翔くんの実力を甘く見すぎていた……だけかな」

 

 リップの左腕を見つめながら、そのような言葉を放つ。

 さすがは、白亜といったところだろう。彼女の左腕を見ただけで、どれぐらいの効果のあるコードキャストを使用したのか分かったようだ。

 彼女がいる以上、こちらの情報、戦い方の大半は知っているはずだ。

 恐らく彼女は、翔の実力を考えつつ、弱点を突く特訓を行うことも当然可能だ。

 間違いなく、彼女は、彼女なりに勝ちを狙う作戦があるはずだ。

 

「ここまで来たのなら、覚悟は出来て居る様ね。だけど私の願いは変わらない。あなたを倒し、あいつを倒して、ムーンセルの在り方を変える」

 

「俺の目的も変わらないさ。俺はまたあの校舎へ戻る。リップと共に!」

 

「なら証明してみなさい!あなた達のほうが、私とランサーよりも強いということをね!」

 

 エレベーターが止まる。決戦の場へと到着したのだ。

 着いた場所は、珊瑚があり、熱帯魚が優雅に泳ぐ南海のような場所。

 その光景は幻想的な光景だった。

 だがこれから起こるは、二人の生死を分ける戦い。

 

「勝者が更なる道を歩み、負けたものは、分解されこの歴史から消える。どちらが勝者か決着をつけましょう。ランサー!」

 

「我が主に、勝利をもたらしましょう!」

 

 ランサーと白亜が構える。

 ここまで導いてくれた恩人にして最大の敵、志波白亜。

 そして彼女と共に歩むのは、ケルト神話にて『フィン・マックール』が首領を務めた時代において最強とも言われる筆頭騎士。

 そんな存在の人との戦いが、今ここに始まるのだ。

 

「最強だろうと何だろうと、私が全部ぺちゃんこにしてあげます!」

 

「フィオナ騎士団が一番槍、参る!」

 

 どちらも、マスターを聖杯にたどり着かせる、その二人の意思は、誰よりも強い。

 だがこの決戦で、生き残るものはただ一人。

 つまり、お互いの意思がぶつかり合い、その想いが強い方が生き残る。

 この戦いは、そういう戦いなのだ。

 

 ―――Sword, or Death(死にたくなければ剣を取れ)

 

 どちらからではなく、両者が一斉にぶつかり合い、戦いの火蓋がここに切って落とされた。

 

 

 

 一撃目は、ランサーが優勢となった。

 大きく切り払われる形で後方へと吹き飛ぶリップ。そしてそれを追うランサー。

 

「リップ!援護する!『shock(32)(弾丸)』!!」

 

 今の一撃で隙をさらしたリップへの追撃を防ごうと弾丸のコードキャストを放つ翔。

 しかし、その弾丸は、向かい側より飛んできた弾丸によってかき消され、相殺される。

 

「甘いわ。そんなものではランサーには届かない!」

 

 翔よりも正確な狙いかつ威力の高い弾丸。

 ランサーに全力を出させつつも、彼女もまたコードキャストを用いて戦い余裕を見せている。

 そして、ランサーの二本の槍。

 赤の槍を使えば、魔力のある攻撃は遮断、そして黄色い槍を使えば治癒不能な傷を負う。

 この試合、長期戦になればなるほど翔達のほうが不利となる。

 だが、短期決戦などという事は、あの白亜が許さないだろう。

 

「『微笑むサロメ』……」

 

「『gain_agi(32);(敏捷強化)』!」

 

 彼女の金色の巨大な爪を構えれば、同時にリップの魔力が変わる。

 その魔力は守りを捨て、攻撃に特化されたもの。

 リップがそのスキルを使うと同時に、翔が彼女に敏捷強化のコードキャストを使う。

 同時にランサーが、目視の適わぬ神速の連続の突きを、彼女の体の部位を、ほぼ同時に狙ってくる。

 

「やあ!」

 

「せいっ!」

 

 ランサーの突きを防ぎ、威力を高めたリップの一撃。

 一撃が来ることを予想したランサーは、突きの構えを解き、そのまま下から突き上げる弧を描くような払いによって受け流す。

 敏捷などはリップより上なランサー。

 しかし、筋力では唯一リップに負けている為、彼女の一撃の重さをそのままランサーが受け止めようものなら、その身ごと砕かれる。

 もしくは力負けして吹き飛ばされるか……

 故にランサーは受け流しという選択肢をとった。

 十の力を、十で受ける必要はない。

 その中の一の力を使えば、十の力の動きを逸らすことも、ランサーならば造作もないこと。

 彼がやったのはそれだった。

 

「ランサー、下がりなさい

 

 白亜の言葉を聞いたランサーが、後退し、白亜の隣へと立つ。

 リップも同じように下がり、翔の元へと戻る。

 

「何か策があるのか?」

 

「翔さん……私、なんか嫌な予感がします」

 

 心配げな表情で、向こう側を見つめる。

 確かに、翔も同じような感覚を先程から抱いていた。

 向こうが何をしてくるかはわからない。

 だがこの後に、とてつもなくやばいものが飛んでくるのではないかという感覚だけが先程から感じているのだ。

 

「翔さん、どうしましょう」

 

「分からない。だが志波の補助は厄介だ。だから俺が志波を引きける。だからリップは引き続きサーヴァントを狙ってほしい」

 

「わかりました。ならそれに従います」

 

 リップが前に出ると同時に、ランサーもまた前にでる。

 どうやら作戦会議は同時に終わったらしい。

 

「そっちの話し合いは終わったようね。なら見せてあげるわ!私の切り札を!」

 

 白亜が叫ぶと同時に目の前に出現する解読不能なコードが連続する。

 それが何重にも連なり、白亜は通常の聖杯戦争では不可能な一つの可能性を見つけた。

 本来ではあれば、これはあり得ない現象である。

 だがムーンセルは全ての平行事象を観測する。

 あれは魔術なのだろうか。

 いや、もしかしたら魔術という範囲を超えたものに当たるかもしれない。

 

「『gain(解放)_Beag-alltach&Mor-alltach(ベガルタ モラルタ)』!!」

 

 その瞬間、ランサーは光に包まれる。

 そして現れるは、今までの緑を基調とした鎧ではなく、青を基調とした鎧に身を包んだ、雰囲気すらも変わったランサー。

 そして、なにより翔が驚いたのはそのランサーが持っている武器だ。

 今までは赤い槍と黄色い槍の二本であったはず。

 

 ―――それが赤の槍と、赤の剣へと変わっていたのだ。

 

「嘘だろ……」

 

 さすがの翔も言葉を隠し切れなかった。

 彼女はランサーのディルムッドに、セイバーのクラスを追加したのだ。

 つまり今、翔達の目の目に立っているディルムッドは、ランサーであり、セイバーのクラスであるのだ。

 確かに、これが彼女の切り札ともなれば納得がいく。

 彼女は、ディルムッドの全盛期を今、ここに取り戻したのだから……

 

「さあ翔くん。そろそろお別れね。だけどあなたを倒すには、このディルムッドこそふさわしいわ!」

 

「我が主の言う通り、今の俺はランサーでありセイバーである。フィオナ騎士団が一番槍『ディルムッド・オディナ』──推して参る!」

 

 翔と白亜の隣の人が同時に消え、火花を散らす。

 ランサークラスで召喚された彼は、その剣を使用することはできないのが唯一の救い……だった。

 だが今の彼はランサーでありセイバー。

 つまり今まで使えなかった二振りの剣を使うことが可能となったのだ。

 想定していなかった最悪の場面が今、ここに体現された。

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