Fate/Affection Doll   作:ラズリ487

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第29話 最終決戦

最も弱きものが

 

最も強き者に挑む。

 

迷いと嘆き

 

決断と成長に満ちたその道程こそ

 

人間の証である。

 

聖杯は強きものにのみ与えられる。

 

最後の二人は、ともに性質の違う強者となった。

 

であれば───

 

もう一度君に贈ろう。

 

光あれと……

 

───熾天の玉座にて君を待つ

 

 

 

 決勝戦、開幕。

 128人のマスター、128人のサーヴァントによる闘争。

 それも残りあと2人のみとなった。

 マイルームの静寂を破るかのように、端末から電子音が鳴る。

 

『二階掲示板にて次の対戦者を発表する。』

 

 これが最後だ。

 聞きなれた電子音から端末に視線を向ける。

 それを聞いた翔とリップは、同時に立ち上がる。

 

「翔さん。最後の相手はやはり……」

 

「間違いなくあいつだ。というかあいつ以外考えられねえ」

 

 最後の1週間が、今ここに始まった。

 あんなに賑わっていた廊下には誰もいない。

 ただ静寂を切り裂く二人の足音が響くのみ。

 そして端末の指示通り、掲示板に移動すると、既に先客の姿があった。

 

「やっぱりお前か。レオ」

 

 やはりというべきか、掲示板の目の前に立つ人物は翔の良く知る人物であった。

 レオ・ビスタリオ・ハーウェイ。ガウェインを従えし、最強のマスター。

 

「こんにちは」

 

 レオはいつも通りの優しげな微笑みを向けてくる。

 その一歩後ろには彼のサーヴァントである、ガウェインが剣のごとく佇んていた。

 レオとはまた違った穏やかな瞳。

 だが彼は円卓の騎士の一人。

 今は、敵意も戦意も感じられない。

 そこにあるのは、鉄の忠誠心と、主へのゆるぎない信頼だけ。

 

「おや、掲示板がようやく変わったようです」

 

 レオの言葉に翔は掲示板に目をやる。

 こうして掲示板を見るのも、これが最後だ。

 浮かぶ文字はわかっているが、それでもなお掲示板を見続ける。

 

 マスター:レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ

 決戦場 :七の月想海

 

「これで……僕達は正式に討つ者、討たれる者の関係になったわけですね」

 

「あぁ、これが決勝戦。俺とお前だけの戦いってことだ」

 

「ええ、改めて……よろしくお願いします」

 

 涼しい顔で言ってのけるが、声に微妙な変化があったのを翔は見逃さなかった。

 これは戦いへの緊張ではない。

 

 ───高揚だ。

 

 この少年の王は、この戦いに期待を抱いている。

 

「不思議なものですね」

 

 翔を見て、レオが口を開く。

 

「最後に、僕の前に立つのがあなただとは正直、想像できませんでした。最初に見たときのあなたとは全く違う。長い様で短かった、この戦いがあなたを成長させたのでしょう」

 

「そうか。お前にそう思ってくれるなんて、俺も捨てたもんじゃないな」

 

「ええ、今ここにいるあなたは決勝で戦う相手として最もふさわしい。実力だけじゃない、その魂の在り方もだ。ふふ、こんな気持ちは初めてです。まるで恋する少女の様で少し照れますね」

 

 はにかむようにレオは笑った。

 まるで、生まれて初めて、人間らしい感情を楽しめたというように。

 

「これがどちらの為に用意された運命なのかは分かりません」

 

 ですが……レオは言葉を続ける。

 

「今ではあなたとの戦いが僕が王になる必要な一歩であるような気さえします。故にあなたに敬意と心からの感謝を。僕がまだ知りえない世界の側面を見せてくれるあなたに」

 

 彼の言葉に嘘はない。

 レオは偽りのない敬意を翔に払っている。

 そして、同じくらい彼は信じているのだ。

 

 ───自らの勝利を

 

 ───自らの正しさを

 

 ───勝つのは自分だと誰よりも強く確信している。

 

「っ……」

 

 その言葉に翔は、目を開く。

 微かにだが、ようやく分かった……彼に何が足りないかを。

 聖杯戦争、初日に彼に出会い、何かが欠けているような感じの雰囲気を感じ取った正体。

 それはきっと……

 

「レオ。気持ちはわかりますが、これ以上の親睦は不要かと。彼らは既に障害である存在です。言葉を交わす時は過ぎました。好敵手と認められたのなら尚更です」

 

「そうですね。ありがとうガウェイン。少しばかり、僕も熱にあてられたようだ」

 

 翔が一つの結論を導き出そうとしたとき、それはガウェインの言葉によって遮られた。

 彼の言葉を聞き、レオは背を向け去っていく。

 その別れの笑顔は、いつもより穏やかな感じがした。

 引き返すレオを見つめる翔。

 思い起こせば自分は、いつもレオの背中を見ていた気がする。

 住む世界や、見ている場所があまりにも違い過ぎて、彼の言葉はまるで異国の言葉を、話しているかのようであった。

 

 ───勝つ事を当然としてきた少年。

 

 ───勝利以外の未来を許されない王。

 

 ───生まれながらの絶対者。

 

 そんな彼と対等になったとはとても思えない。

 だけど……

 たった一つの頂。その頂きを目指してたどり着いたこの場所では、見える景色は同じなはずだ。

 

「勝つぞリップ」

 

「はい!」

 

 ―――さあ、勝負だ。最後の王よ。

 

 思いのほか、精神は落ち着いていた。

 今までの戦いが、走馬灯の様によぎる事もない。

 戦いへの不安で呼吸が乱れることもない。

 焦りも、気負いもない。

 ただ一つ、微かな驚きがある。

 こんなにも落ち着いている自分自身だ。

 それだけが意外だった。 

 

 

 

 

 情報を集めに図書室へ行こうとしたとき、ふとある一つの扉の前で足を止めた。

 そこは、もう誰も居なくなり、片づけられてしまった一つのマイルーム。

 6回戦で自分と戦い、消え去った志波白亜のマイルームであった。

 

「翔さん、どうしたのですか?」

 

「わからない。だけど、誰かがここを開けろと俺にそう言った気がするんだ」

 

 翔の言葉に首をかしげるリップ。

 誰に言われたかは翔でもわからない。

 だが、何かに導かれて気がするのは確かだ。

 その導きを信じ、扉を開ける翔。

 彼女のマイルームは、既に片づけられており、一つの教室へとなっていた。

 何の変哲もない教室、その片隅に何か光るものを見つけ、その場所へと足を進める。

 

「これって、礼装の箱……?」

 

 リップが首をかしげながら言葉を紡ぐ。

 触ってみたところ、軽い鍵のような魔術がかかっていたが、直ぐに解除できそうだ。

 翔は、その鍵を解除し、礼装の箱を開ける。

 

「……?」

 

 その中に入っていたのは、鉛色の石球だった。

 これが白亜のマイルームにあったという事は、彼女が最後まで取っておいた切り札なのだろう。

 程度、説明データが入っていたので、それを覗いてみることにする翔。

 

「っ!? これは……!」

 

 これは礼装と言えるのだろうか……

 だが、これを使えばガウェインとの戦いで強力な武器となる。

 しかしその為には、こちらにも様々な準備が必要だ。

 

「……志波、お前の武器、使わせてもらうぜ」

 

 礼装の箱を閉じ、それをしまう翔。

 果たして、これを用いた作戦が成功するかもわからない。

 だが、これを手にした瞬間、暗闇が続く通路に一筋の光が見えた気がした。

 

 

 

 

 白亜のマイルームから出て、数十分。

 翔とリップは、図書室でレオのセイバーの情報を集めていた。

 今回、最強の相手を戦うにあたって最も幸運なのは、相手サーヴァントの真名がわかることだ。

 円卓の騎士の中でも屈指の実力者ガウェイン。

 警戒するべきはやはり彼の持つ聖剣『ガラティーン』であろう。

 だが同時に、もう一つ警戒するのがある。

 

「『聖者の数字』……ムーンセルの聖杯戦争では、事実上太陽の沈んだ時間に敵と戦うことは許されていない。つまり俺達はこれを突破しなければ、ガウェインに勝ち目はない」

 

 『聖者の数字』。

 その効果は、午前9時から正午までの3時間と、午後3時から日没までの3時間の間、力が3倍になる能力。

 故に戦うときには、本来の力が3倍になったガウェインと戦わなければならない。

 全ての力が3倍になったガウェインは、恐らくリップの腕力を以てしても押し返される。

 

「だから、あの時、ヴラド三世の宝具を受けても……」

 

「あ、でも翔さん。本の下の方を見てください」

 

 リップが声を掛けたのは、ガウェインの伝承。

 どのような英霊であれ、例外がなければ、弱点というのは必ず存在する。

 伝説によれば、ガウェインは日没まで耐えたランスロット卿により討たれ死んだ。

 これを解釈すると、一度でも傷付けられた相手には、その効果を発揮できなくなるという弱点……という考えにもなる。

 つまりガウェインの弱点は『落陽』。ということは日に落とせばいいのだが……

 

「つまり目標は、どうにかして日を遮断して、セイバーに攻撃を当てるか……」

 

 日の当たらない場所に誘導する……という手が最も最善なのだろうが、そんな手にレオ達が乗るはずもないだろう。

 となると……自らの決着術式を使い、ガウェインをこちらから、引きずり込む手が最も有効。

 だがその様な宝具などあるのだろうか……?

 それに決着術式の発動には時間がかかる。

 そんな隙を、レオが許すはずもない。

 考えれば考えるほど、泥沼に引き釣り込まれるような感じだ。

 

「あいたっ」

 

 翔も考えると同時に、リップも考えていたのだろう。

 思考を巡らせながら歩いていればいつの間にか、本棚に激突しているリップの姿がそこにあった。

 そしてその振動により、一冊の本が落ち、彼女の頭に激突する。

 それが痛かったのだろう。リップはその場でうずくまってしまった。

 

「おいおい……気を付けろよ?ここの本が全部落ちてきたら、俺もリップも埋まっちまうほどだからな」

 

「ううぅぅぅ……ごめんなさぁぁい」

 

 涙目のリップの頭をさすりながら、本を手に取る翔。

 そして戻そうとしたとき、その本の題に目をやる。

 そして彼の手が止まったかと思えば、その本をめくり、内容を確認する。

 

「ん?翔さん?」

 

「……これだ。これがあればガウェインの『聖者の数字』を突破できるかもしれねえ」

 

 彼が見たのは、ある伝承。

 ガウェイン関連でも、円卓の騎士関連でもない、全く別の伝承。

 だが、寿々科翔ならば、その伝承すらも武器となりえる。

 全くの偶然から、彼は一筋の攻略を見出したのであった。

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