Fate/Affection Doll   作:ラズリ487

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第30話 SE.RE.PH(セレフ)

 アリーナにて、トリガーを探している最中、リップの表情が優れないことに気づいた。

 彼女の眉間に寄せたしわが、今までにないの苦悩をまるで表しているようだ。

 どうしたのだろうか……

 最初に思い付いたのは、白亜のランサーの槍であった。

 だが、あの槍の効果は、使用者は死すれば効果が無くなる。

 故に、あれはもう効果が切れているはずだ。

 

「リップ? どうしたんだ?」

 

「え、あ……なんでもありません。行きましょう」

 

 こちらの言葉がけで我に返った様子だが、やはり彼女の表情は優れぬまま。

 何か不安な事でもあるのだろうか……

 それとも、体調が優れないのだろうか。

 だとしたら、今日のアリーナの探索はここまでにして、帰還した方がいいかもしれない。

 

「体調とかは……大丈夫か?」

 

「ち、違うんです、体調は大丈夫です! 例え今、目の前で翔さんが『眼鏡キラーン!』とか言っても大丈夫です! 全然動じませんから!」

 

「お、おい……俺は眼鏡してないぞ」

 

 少しばかり、わたわたと言い訳を話した後、リップは力なく俯いてしまう。

 アリーナに来てからというものの、リップはずっとこの調子なのだ。

 エネミーとのバトルも、何時もより精彩を欠いている気がする。

 やはり体調が悪いのではないだろうか……

 少しばかり時が経ち、彼女の口がようやく開いた。

 

「……私は、ムーンセルに再現された身です。ムーンセルにおける英霊は、制約が付くんです。セラフ内に現界したサーヴァントは最終的に必ずムーンセルを守らなければなりません」

 

 ムーンセルが定めし絶対的条件。

 それは優先度の問題だ。

 SE.RA.PH(セラフ)内に顕現したサーヴァントは、最終的にマスターよりムーンセルを守らなければならない。

 

 ───ムーンセルが危機にさらされた際、マスターよりも、ムーンセルを優先するべし。

 

 それが何よりの条件であった。

 それを破った際には、ムーンセルは、そのマスターとサーヴァント共々に消し去るだろう。

 いや、まずは規約を破ったサーヴァントのマスターを真っ先に消滅させるだろう。

 その後、サーヴァントを失ったマスターをゆっくりと処理すればいいだけなのだから。

 

「既に私にも、警告は来ています。でも……そこまでわかっていて、私にはどうしていいかわかりません。翔さんを想ってしまえば、どうしていいか分からなくなる。でもそれでは、翔さんの迷惑になるってわかっていてもです」

 

「リップ……」

 

 苦悩を現した表情を表しながら、一言ずつ話すリップ。

 彼女は遠回しに、自分はサーヴァント失格と言っているのだろう。

 絶対的に優先されるムーンセルよりも、自身のマスターである翔を気付けば優先してしまっている。

 本来であれば、そのようなことはあってはならぬのだ。

 力なく俯くリップ。

 サーヴァントとしての最低条件。

 世界基盤(ムーンセル)主人(マスター)、どちらを取るかの計り。

 そのバランスを崩している事を彼女は、翔に謝った。

 

 それは───

 

「それなら……」

 

 アリーナの霊子が乱れるのを翔は感じ取り、その方角を見る。

 空間が歪み、中より現れるのはエネミーではない何か。

 そこには、人に翼が生えた、天使のような敵性プログラムが立っていた。

 虚ろな、それでいて禍々しい姿。

 存在感が虚無のくせに、排除の意志だけは強烈に伝わってくる。

 あれは間違いなく、セラフが送り込んだ適正化プログラム(アンチウイルス)だろう。

 

「リップ、それを言うなら、俺も失格だ」

 

「え?」

 

 自身の身体をセラフの分身へと向け、翔は言葉を放つ。

 

「俺もムーンセルなんて知ったこっちゃない。仮に聖杯とリップ、どっちが大切だなんて言われちまったらさ」

 

 息を吸い、目を閉じる。

 瞼の裏に浮かぶのは、今まで通ってきた数々の光景。

 そして、彼は目を開いた。

 輝くのは、決して揺るぐことのない意志を秘めた瞳。

 

「俺は迷わずリップを取る」

 

「翔さん……」

 

 人では無い自分。

 この自分にとって「命」以外に、何も得るもののない戦いで唯一手にしたもの。

 それが、自分とリップの絆だ。

 何もなかった自分が手に入れた、偽りのない感謝と、尊敬の念なのだ。

 セラフが送り込んだ適正化プログラム(アンチウイルス)はただじっと翔達を見つめている。

 

「だからあんなやつは、ここで倒しちまおうぜ、リップ」

 

「……はい!」

 

 翔の言葉に、リップの瞳に活気が戻る。

 そうだ、あんなやつに負けてはいられない。

 アリーナの適正化プログラム(アンチウイルス)に向き直る二人。

 その背に、もはや迷いも憂いも無い。

 何故なら翔にとって、今大切なのはリップであるから。

 

「サーヴァントの優先順位の変化を確認。これによりサーヴァント『パッションリップ』を危険因子と判断。防衛プログラム『SE.RE.PH(セレフ)』排除を執行」

 

 無機質な声が響き、今までの敵性プログラムと一線を画す巨大な光の羽を生やした無機質な天使のような外見を持つ者。

 その手には天使が持つには、あまりにも禍々しい光を放つ槍が握られている。

 SE.RE.PH(セレフ)の突進と共に戦いの火蓋は切って落とされた。

 槍による鋭い一撃をリップは、自身の腕で防御する。

 そして、反撃の一撃をリップは繰り出すもSE.RE.PH(セレフ)は触れずに防御する。

 

「コードキャストより高い出力の障壁だな」

 

 先程の障壁を見て翔はそう判断する。

 なにせSE.RA.PH(セラフ)から送り込まれた、適正化プログラム(アンチウイルス)だ。

 サーヴァントの攻撃を軽く防げるコードキャストは持っているのだろう。

 リップの一撃が軽くいなされ、SE.RE.PH(セレフ)は手に握る槍で追撃を繰り出す。

 なんとか回避するも、反撃の隙がなかなか見つかる様子はない。

 攻めあぐねているとSE.RE.PH(セレフ)は突如として後ろに飛び下がる。

 

「『|shock();』」

 

「まずい。リップ下がれ!」

 

 コードキャストを紡ぎ盾を展開、そしてリップに下がるように命令する。

 盾を利用した時間稼ぎを翔は考えたが、SE.RE.PH(セレフ)から無数に放たれた弾丸は、翔の展開した盾を容易く破壊した。

 これは盾で防ぐことができる代物ではない。

 まるでSE.RE.PH(セレフ)が弾丸に、何らかの追加コードを上書きしているかのようだ。

 

「ぐっ!?」

 

 弾丸は、盾を破壊後、翔の右肩に着弾。

 その衝撃で体は吹き飛び、地面を転がる。

 肩に受けた一撃はそこまで深刻なものではないが、SE.RE.PH(セレフ)の攻撃手段を見抜かなければ反撃はできないだろう。

 

「サーヴァント、マスター、共に解析完了。戦闘コード『seal_all();(全行動封印)』実行」

 

 言葉と同時に、翔とリップの周囲に光の帯が現れ二人の体を拘束する。

 

「こ、これは……!?」

 

 なんとか抜け出そうとするも、ビクともしない。

 今のは、本来であれば特定の行動を封じるコードキャストなはずだ。

 だが、現在の状況から見るに、放たれたコードキャストは、全ての行動を封じる効果を持つ。

 SE.RA.PH(セラフ)から送り込まれた、適正化プログラム(アンチウイルス)

 つまりはSE.RA.PH(セラフ)の権化。

 プログラムの行動を封じるコードキャストで、マスターとサーヴァントを封じるなど造作もないだろう。

 こうなってしまえば成す術もない。

 

 ───つまりは詰みだ。

 

 SE.RA.PH(セラフ)が誇る最高ランクの防衛プログラムに対し、翔達が勝つ可能性など全くないに等しいのだから。

 リップと翔は身動きが取れないまま、SE.RE.PH(セレフ)を睨む。

 

「こんな形で聖杯戦争を終わらせていいのかよ。ムーンセル!」

 

 翔の叫びなど、聞くはずもなくSE.RE.PH(セレフ)は近づいてくる。

 このままでは二人纏めて消えてしまう。

 そんな結末などごめんだ。

 こんな形で、聖杯戦争を終わらせていいのか。

 しかし、そんな思いも虚しく動けない翔とリップに対し、SE.RE.PH(セレフ)は再び槍を構える。

 処理するが如く、槍による攻撃でリップは成す術もなく貫かれる……

 

 ───はずだった。

 

「それはいけません」

 

 響いたのは肉を裂く音では無く、剣と槍がぶつかり合う金属音。

 SE.RE.PH(セレフ)は危険を感じ後退をすれば、翔達では無い人物を見つめる。

 

「お前は……レオ!?」

 

「寿々科翔と決着をつけるのは他ならぬ僕です。ここで終わってしまうなんて許しません」

 

 彼らの目の前に立ってたのは、他ならぬレオとそのサーヴァントであるガウェインだった。

 どうやらガウェインの持つ剣が、SE.RE.PH(セレフ)の槍を容易く受け止めていたようであった。

 その光景を見た翔は、驚きを隠せなかった。

 SE.RE.PH(セレフ)の力はあまりにも強力すぎる、明らかに普通の人間では太刀打ちできない存在だ。

 それなのにも関わらず、ガウェインは余裕の表情を見せているのだ。

 まるでこの程度の存在など、敵ではないとでも言わんばかりに……

 いや、事実そうなのだろう。

 ガウェインは受け止めていたSE.RE.PH(セレフ)の槍を、剣で弾き返す。

 槍を弾かれたSE.RE.PH(セレフ)はその反動を利用し、ガウェインの頭部へと槍を薙ぎ払う。

 

「その程度の攻撃、私には通りません」

 

 ひと際響く金属音。

 薙ぎ払われた槍は、確かにガウェインの頬に一筋の傷を作った。

 だが、その代償としてSE.RE.PH(セレフ)の使っていた槍は真っ二つに折れ、刃先がアリーナの壁へと突き刺さったのだ。

 SE.RA.PH(セラフ)から送り込まれた存在が、力負けするとは考えもしなかったのだろう。

 ガウェインが剣で薙ぎ払えばSE.RE.PH(セレフ)は容易く吹き飛ばされ、動きが途端に鈍り始める。

 

「良い機会です。見せてあげましょう。ガウェイン、宝具の開帳を許しましょう。その威光であれ(SE.RE.PH)を焼き払いなさい」

 

「御意。我が聖剣は太陽の具現。王命のもと、不浄を焼き払いましょう」

 

 その言葉と共に、聖剣に纏う灼熱を束ねていく。

 いうなれば、それはまさに太陽であった。

 王の行く先を照らし、あらゆる不浄を薙ぎ払う焔の陽炎。

 

「この剣は太陽の映し身。もう一振りの星の聖剣」

 

 聖剣は王の決定により、引き抜かれた。

 これこそが彼を、ガウェイン卿を象徴する宝具。

 

「『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)』!!」

 

 居合いの様な構えから放たれた聖剣が薙ぎ払われ、灼熱が撃ち出される。

 王とその剣が月の加護を受けるのに対し、彼とその剣は太陽の恩恵を受ける。

 エクスカリバーが星の光で両断するならば、ガラティーンは太陽の灼熱で焼き尽くす。

 灼熱をまともに受けたSE.RE.PH(セレフ)の槍は焼き尽くされ、伸ばした手はガウェインを掴むことならず崩れ去る。

 そして、まるで何もなかったかのように適正化プログラム(アンチウイルス)は消え去った。

 その光景を、翔はただ見ているだけしかできなかった。

 SE.RA.PH(セラフ)が送り込んだ最強のセキュリティプログラムである適正化プログラム(アンチウイルス)

 それをガウェインは、いとも容易く打ち破って見せたのだ。

 

「あれが、ガウェインの宝具。なんて力なんだ……」

 

 翔は目の前の光景を見て改めて思い知らされた。

 

 ───『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)』。

 

 ガウェインを円卓の騎士たらしめる聖剣。

 それは、翔が想像していたものよりも、遥かに強大なものであったと。

 そして、そんな存在に自分は勝たねばならないのだと。

 

「ここに来てよかった。少しでも遅れていたら、あなたとの決着がつかなかったかもですから」

 

 SE.RE.PH(セレフ)が倒され、翔とリップを縛っていた光の帯が消え去るとのを確認すると、柔らかな笑みを見せながら、レオはリターンクリスタルを取り出す。

 ここに長居する必要な無い、このままここを後にするつもりらしい。

 

「では僕達はこれで。決着の時を楽しみにしていますよ?」

 

 そう言ってレオは、ガウェインと共に光の中に消えていく。

 翔はただ、その背中を見ていることしかできなかった。

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