Fate/Affection Doll   作:ラズリ487

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第33話 転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)

 七つの宝石が輝きを放ち、迷宮の空がねじれる。

 太陽は閉ざされ、光を失った世界で、ガウェインの『聖者の数字』がその輝きを失った。

 陽光なき騎士は、かつての威容を保てず、リップの猛攻を受け止めきれない。

 

「ここまでとは……!」

 

 リップの爪が閃き、ガウェインを押し返す。

 翔のコードキャストが連続して紡がれ、彼女の動きは更に鋭くなる。

 その一撃一撃が確かに、王の騎士を追い詰めていた。

 

「第一段階突破、このままなら……!」

 

 翔の目に、確かな勝機が映った。

 この『迷宮』こそが、翔の考えた『聖者の数字』を打ち破る唯一の策。

 令呪の魔力をを上乗せした、リップの攻撃。

 そして、『宝石煌く七つのヴェール(ダンス・オブ・ザ・セブンヴェールズ)』による擬似的な宝具展開。

 その理想的な連携が、今まさに実を結んだ。

 

 ───だが……

 

「……なるほど。理解しましたよ、翔さん」

 

 静かな声が、迷宮に響く。

 レオは、ガウェインの背後でゆっくりと指先を動かしていた。

 その手には、無数の光の式が浮かび上がる。

 それは、彼自身の得意とするコードキャストだろうか。

 

「あなたの術式は、確かに美しい。だが、それは完成された賢者の石を模倣した擬似物質。つまり……模倣である以上、どこかしらに必ず、破綻点が存在する」

 

 翔がはっと顔を上げた瞬間、

 六つの宝石が、レオの指先から放たれた光線に撃ち抜かれる。

 

 ───宝石に、ひびが入る。

 

「っ!? 弱点を見破ったのか!」

 

 翔が叫ぶが、遅かった。

 砕け散った宝石から、魔力の奔流が暴発し、空間が軋む。

 続けざまに、残る宝石のひとつが、レオの攻撃の余波を受けて弾け飛んだ。

 眩い光が迷宮を包み込み、リップが悲鳴を上げる。

 

「っ……!? 翔さん、術式が……!」

 

「ぐうっ……! くそっ、魔力の供給が……切れて!」

 

 翔の体から力が抜け落ちていく。

 まるで生命そのものを吸い取られるような感覚。

 レオの声が静かに重なる。

 

「見事でした。まるで魔術師のようだ……ですが、やはりあなたは、人間だ」

 

 その瞬間、迷宮の壁が軋み、崩壊を始めた。

 翔の身体は、もう動かない。

 迷宮は消え、再び陽光が差し込む。

 世界の光が、再び太陽を取り戻したとき、翔は地に伏していた。

 

「リップ……魔力、を」

 

 翔が、声を絞るように吐く。

 だがリップの魔力供給も限界だった。

 迷宮が崩れ去り、陽光が世界を取り戻した。

 しかしその光は、今や二人にとって救いではなく、死の判決にもなりかねなかった。

 転じて優勢に立ったはずのレオが、静かに、だが即断的に動こうとする。

 その隙を、レオは逃さなかった──はずだった。

 

 ───……だが。

 

 翔が、腕を伸ばそうとしたとき、どこからか、静かな笑い声が聞こえた。

 それは、翔でも、リップでも、ガウェインでもない。

 その笑いは、レオ自身からであった。

 

「はは……ははは……駄目だ。こんなに気持ちが高揚したのは、こんなこといけないことなのに、抑えられない。こんな気持ちは、初めてだ」

 

 顔を火照らせ、気分が高揚する彼を見た時、翔は目を見開く。

 彼は、レオを始めて見た時から、何かが欠けていると、ずっと思っていた。

 傍から見ればすべて完璧にみえる。

 だが翔には、彼には何かが欠けているような感じの雰囲気を感じ取った。

 その内の『一つ』が今、埋まろうとしている。

 

「リップ。あそこにいるのはもう欠けた王なんかじゃねえ。人の感情を知り、学ぼうとする一人の人間だ」

 

 ならば翔も、レオの感情に応える。

 彼はそれに敬意を払い、全霊を尽くす。

 膝をついた翔、傷ついたリップの姿を見て、レオは思考する。

 

 ───そして、理性と感情の狭間で、レオが動く。

 

(彼らは弱っている。近寄れば一斬りで仕留められる。ですが……)

 

 だが、レオはそれを許さなかった。

 追い詰められた者ほど、逆転の一手を持ちうる可能性がある。

 だが、万が一のことも考えれば、彼に近づかず、この場から全力を持って倒すのが良いだろう。

 

(寿々科翔という男が、何をやらかすか分からりません。ならば、選択の余地を与えず、ここで終わらせる)

 

 彼の腕に走る令呪の刻印が静かに、だが確実に輝きを増した。

 

「レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイが命じます。ガウェイン! 聖剣(ガラティーン)最大出力! パッションリップを焼き尽くしなさい!」

 

 声は高揚している、しかしそこに躊躇はない。

 そして令呪は、彼の意志に従い燃え上がった。

 一画、二画、躊躇なく令呪を使った。

 令呪が白熱を帯びると同時に、周囲の空気が圧されるように変質する。

 その命に、ガウェインは深く頷いた。

 騎士として、主に与えられた命令に背くことなどありえない。

 

「承りました。我が主の意志に従い、日輪の全霊を以て敵を滅ぼしましょう!」

 

 ガウェインの声に、どこか誇り高き静寂が宿る。

 だがその誓いは慈悲ではなく、断罪の雷鳴であった。

 令呪の力により、聖剣の輝きが尋常ならざる勢いで増幅する。

 太陽の加護が……今度は“人為的”に、濃縮されて剣身に集束される。

 刃は金環を描き、刀身の周囲に炎の輪が展開した。

 その光景は、SE.RE.PH(セレフ)との戦いで見た時よりも圧巻であった。

 

「この剣は太陽の移し身。あらゆる不浄を清める(ほむら)の陽炎!」

 

 聖剣が放つ光は、まるで昇る太陽そのものが地へ落ちるような凄まじさであった。

 光の奔流が一条、二条と放たれ、地平を焼きながら翔たちへと収束していく。

 

「っ!」

 

 翔は咄嗟に身を起こし、リップを庇うように前へ出た。

 だが令呪に増幅された炎は、尋常の防御では押し留められぬ剛烈さを持っていた。

 地を焦がしながら、炎の奔流が迫る。

 視界を埋め尽くす白光の中で、翔はリップに問い掛ける。

 

「なあリップ。もし俺が、ここで逃げろと言ったら、お前はどうする?」

 

「そ、そんなの……」

 

 リップの声が震える。

 

「嫌です! 翔さんを置いていけません!」

 

 炎の奔流が走る中、彼女は叫ぶ。

 そんな、彼女の声に翔は目を閉じる。

 そしてしばしの沈黙、彼は目を開け、リップに微笑みを返した。

 

「……なら、一緒に抗おうぜ。最後の最後まで足掻くんだ」

 

 その言葉が、空気を裂く光の中で確かに響いた。

 翔が口の端で笑う。

 その姿に、レオの胸が一瞬、痛んだ。

 それは『理解』という言葉では形容できぬ微かな熱。

 

(これが……感情。彼らが言う『想い』というものなのですか)

 

 レオはその熱を感じながらも、躊躇を飲み込んだ。

 己が選んだ道は、慈悲ではなく理。

 感情を知ろうとも、それに飲まれてはいけない。

 ガウェインの聖剣(ガラティーン)が唸りを上げた。

 令呪の加護を受け、灼熱の太陽が剣先に凝縮される。

 瞬間、光が形を持つ。

 それは、まるで天より落ちる白金の流星。

 

「……志波、お前の遺した武器、今ここで使わせてもらうぜ」

 

 レオとの決戦前、翔は何かに導かれるように……片づけられ、一つの教室になっていた志波白亜のマイルームへと足を運んだ。

 そこで見つけた、彼女が最後まで取っておいた切り札。

 

 ───それを今、彼は引き抜く。

 

 同時にこのとき、翔が必死に構築してきた勝利のための方程式が今、ここに完成した。

 

「『転輪する(エクスカリバー)────」

 

後より出て先に断つ者(アンサラー)────」

 

 ガウェインが真名を紡ぐと同時に、翔の背後に帯電した鉄球が浮かび上がる。

 聖剣と逆光剣。

 世界の理と、因果を覆す刃。

 それぞれの真名が、時の流れを歪めながら交錯する。

 

勝利の剣(ガラティーン)』!!」

 

「『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』!!」

 

 ガウェインの咆哮が空を裂く。

 太陽の奔流が解き放たれ、天地を焦がす光が翔を飲み込もうとする。

 翔の詠唱が重なる。

 遅れて放たれたはずの球体が、瞬間、時の前後を覆すように輝いた。

 

 ───交錯。

 

 その発動にほんの一瞬、されど明らかに遅れて翔の帯電した球が真の力を解き放つ。

 未来を切り裂く剣が、太陽よりも先に届く。

 炎を逆流させ、光を切り裂く一条の閃光。

 天地が悲鳴を上げ、時間が止まった。

 

 ───世界が、悲鳴を上げた。

 

 光と光が衝突し、天地の境界が崩壊する。

 時間が一瞬、止まったかのようだった。

 

「翔さんっ!!」

 

「まだだ……リップ、目を逸らすな……!」

 

 全てを白に染め上げる閃光の中心で、翔は確かに立っていた。

 その姿は、もはや人ではなく志波白亜の遺した意志と、パッションリップの想いを背負う、一人の『戦士』だった。

 

 

 

 

 光が収まっていく。

 戦士は地に立ち、騎士は地に伏した。

 この決勝戦、翔にとって重要だったのは、タイミングであった。

 逆光剣とも称される『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』は『対峙した敵が切り札を使う事』を条件に発動することで、発動順序を改竄するカウンターに特化した迎撃宝具である。

 明らかに遅れて発動した宝具は、時間を遡りガウェインが宝具を解放する寸前でその心臓を撃ち抜いた。

 

 ───倒れた者に、切り札は使えない。

 

 故に、ガウェインの宝具はなかったこととなり、彼自身も何が起こったのか理解できないまま、地に伏したのであった。

 

 ───決勝戦の戦術は、翔の中で二つの段階に分かれていた。

 

 第一段階は、何としてでも『聖者の数字』を破り、その驚異的な防御力を無力化すること。

 そして、第二段階が、ガウェインに宝具を使わせることであった。

 

 ───こんなもの、ただの危険な綱渡りだ。

 

 仮に『聖者の数字』が有効な状態のまま、ガウェインが宝具を使っていれば、『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』はその防御力を前に意味を成さない一撃になっていた可能性もある。

 そもそも驚異的な力を持つガウェインに、成す術もなく討ち取られていた可能性も高い。

 そのほかにも様々な敗因が考えられる。

 故に、翔とリップがガウェインを倒すには『聖者の数字』を無力化した状態からの『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』以外になかった。

 

 ───決着を伝える壁が現れた。

 

「もう手足が動かない。いえ、力が入らない……不可解です。胸を貫かれたのに、欠けた穴を、埋められた気がする」

 

 愕然としたまま、レオは動かなかった。

 それは彼にとって本当に、信じられない結末であり、ありえない事態だったのだろう。

 

「レオ……俺は、お前に出会ってからずっと、ずっと思っていたんだ。お前は完璧だ。だけど何かが足りない、それがなんなのかを……」

 

 聖杯戦争、初日にレオに出会い、何かが欠けているような感じの雰囲気を感じ取った正体。

 それはきっと……

 少しの間を置き、翔は言葉を続ける。

 

「今、お前の中にはきっと『信じられない』と思っているはず」

 

 翔の言葉を聞き、レオは目を見開いた。

 そして、小さく笑った。

 

「ああ……そうか。信じられない、と思ったことが僕の限界だったのですね」

 

 全ての合点がいったと言うように、レオはふっと微笑んだ。

 

「『敗北』を想像しなかった。いえ、その機能を持たなかった」

 

「ああ、そうだ……『敗北』。それがお前には足りなかったもの。欠けていたものの正体であり、答えさ」

 

 レオは、ゆっくりと目を伏せた。

 その瞳の奥に、これまでなかった微かな陰が宿る。

 それは痛みでも、怒りでもない。

 初めて知る「悔しさ」という名の色だった。

 

「……それは無欠ではない。ただ、恐れが無いだけだ。僕には、そんな“当たり前の心”が……なかったんですね」

 

 微笑むその顔は、清らかで、どこか少年のようだった。

 翔は、息を詰めたまま彼を見つめる。

 

「今、抱いているこの感情……不条理を恐れ、不合理に反発する……“もう一度”“次は負けない”……」

 

 言葉を紡ぐレオの声は、次第に震えながらも確かにあった。

 それは敗北を受け入れる者ではなく、初めて“負けを理解した者”の声。

 

「……うん。難しいですが、これはいい感情です。残れなかった者の奮起。ただ“諦めない”ことが、こんなにも力になるのですね。悔しさも、悲しみもある。死を迎えた恐れもある。それと……これは、やはり“執着”なのでしょうね」

 

 翔は黙って聞いていた。

 リップが小さく嗚咽を漏らす。

 戦場の残滓が、彼らの間にゆっくりと流れた。

 

「僕はそれらの感情を、本当の意味で理解していなかった……愚かだな。そんな人間に、人々を導けるはずもなかったというのに」

 

「……いや、レオ。お前は間違っちゃいなかったさ」

 

 翔はそう呟きながら、拳を握った。

 「負け」を知ってなお、そこに立つ者の姿を、彼は確かに見たのだ。

 

「……ありがとう。翔さん」

 

 レオの声が静かに、しかし確かに響いた。

 「敗北」という欠けた欠片を得て、彼の瞳は初めて、人の色を帯びていた。

 

「……」

 

 立ち上がった白き従者、ガウェインは何も言わなかった。

 重い鎧の軋む音が、静まり返った空間に響く。

 彼はゆっくりと歩を進め、倒れかけた主の前に跪く。

 その姿に、レオは微かに笑みを浮かべた。

 

「ガウェイン。あなたは知っていたんですね。真の王となるために、僕に足りないものが何であるかを」

 

「我が主──いえ、王よ。私は……」

 

 ガウェインの言葉を、レオはそっと首を振って制した。

 彼の瞳は、初めて感情という名の光を宿していた。

 

「わかっています、ガウェイン。あなたは“敗北”が必要であることを知りながら、僕を勝利させるために全力で剣を振ってくれた。命を懸けて、僕に忠義を尽くしてくれた。いつか僕が敗れる時のために……その時が必ず来ると知った上で、僕の成長に付き添ってくれた」

 

 少しの間を置き、レオは言葉を紡いだ。

 

「あまりに非合理的な生き方ですが……心から礼を言います。あなたでなければ、僕はきっと気づけなかった。この“当然の敗北”を、ただの偶然の敗北とみなして、無情に切り捨てていたでしょう」

 

 その声は静かで、けれど確かな温度を持っていた。

 それを聞きながら、ガウェインは深く頭を垂れる。

 

「いいえ、王よ。貴方ならば、どのような敗北であれ受け入れたでしょう。私は騎士として、ただ剣を捧げたまで。貴方の成長は、貴方の心によるものです」

 

 彼は微笑む。

 燃え尽きる太陽のように、穏やかで、美しい笑みだった。

 

「ですが……今は、その成長に立ち会えたことを光栄に思います。貴方は真実、誉ある王だった」

 

 沈黙が、二人の間を満たす。

 風が吹き抜け、焼け焦げた地を撫でていく。

 レオはその風の中で、ふと目を閉じた。

 

「……ありがとう、ガウェイン」

 

 その言葉に、騎士は深く一礼した。

 その姿が光に溶けるように消えていくまで、レオは目を逸らさなかった。

 

 ───王と騎士。

 

 その最後の別れは、敗北の中にあってなお、限りなく清らかなものだった。

 

 レオはガウェインの消えた跡を見つめた後、こちらに振り返った。

 その目には、彼らしからぬ、けれど年相応の一つの涙があった。

 

「やだな。熱が冷めていくのは恐いです。これが、人の底の感情……絶望。こんな単純なことでさえ、僕は知らなかったのですね」

 

 涙を拭いながら、レオは立ち上がり、翔と向かい合う。

 彼の声には、確かな悲しみと静かな決意が宿っていた。

 

「でも、この敗北は、僕の王道に必要なものでした。ここまで登った道を途中で降りることはできない。敗北を知ってこそ、僕は完全な王になりえる」

 

 ───けど今は……

 

 レオは俯き、静かに言葉を落とした。

 

「それを活かせないことが、ただ……残念です」

 

「っ……」

 

 胸の奥がズキリと痛んだ気がした。

 令呪は明確に主人の心に反応している。

 目の前で今にも消えそうな彼を、レオをこのまま見捨てていいのか?

 誰のものであれ死は哀しい。

 また、少年は世界の王となるもの。

 現実に生きている人々を導く機会を与えられている。

 今の彼なら、より良い形に社会を変革できるかもしれない。

 その可能性をこの場で奪い去る、それは正しいことなのか?

 救える保証はない。

 しかし、令呪を使うのなら、あるいは……

 翔は唇を噛み、リップへと視線を向けた。

 

「リップ、今から俺のやること、何も言わずに見ていてくれないか?」

 

 リップは、涙をこらえるように頷いた。

 

「私は、翔さんを信じます。あなたの正しいと思うことを、彼にしてあげてください」

 

「ああ、ありがとう」

 

 これは最後の戦いではない……

 あの時の白亜からの言葉で、翔はそんな予感がしていた。

 だが何より、彼が消えるのを黙って見ていることなど自分にはできない。

 翔は消え行く少年に近寄り、その体に令呪を押し付け、願う。

 意志(コマンド)はただ一つ───

 

「レオ、せっかく人間になれたんだ。ここで終わるのは、もったいねぇだろ?」

 

 令呪が燃え上がり、一つの光がレオへと移っていく。

 その瞬間、聖杯戦争の法則がわずかに軋んだ。

 聖杯戦争のルールは、令呪を持たぬ敗者を消滅させる。

 新たな令呪を手に入れたレオは、確かな存在感をその身に宿し、そこに立っていた。

 翔の手の令呪の残りは、四つから二つへと減っていた。

 令呪を移植するというその行為に、もう一つが消費されたのだろう。

 

「あなたが……救ってくれたのですね。以前の僕なら、あなたのその行為が全く理解できなかったでしょう」

 

「……今はどうだ?」

 

 翔の問いに、少年はわずかに微笑む。

 その表情は、どこか満たされたように柔らかかった。

 

「今はきちんとわかる。不合理があっての人間、間違いがあるから人は面白いのだと。ともあれ、僕はあなたに生かされた。その意味を、言葉ではなく“為すべきこと”で示します」

 

 翔は小さく笑い、肩をすくめた。

 そして、穏やかに笑った。

 

「ならもう“敵”なんて言葉はいらねぇな。お前はもう、王としてだけじゃない。人としても、隣に立てるだろ?」

 

 その言葉に、レオは一瞬目を見開き、そしてゆっくりと頷いた。

 

「……ええ、そうですね。ならば翔さん、これからは共に並び、立つものとして」

 

 少年は踵を返し、光の差す出口へと歩み出す。

 翔もまた、その隣に並ぶ。

 レオには戻るべき世界があり、指導者として果たすべき使命がある。

 彼が戦士である幼年期は……ここで終わったのだ。

 背中を追うのではなく、同じ歩幅で並ぶ。

 それは、戦いの終焉ではなく、始まりを告げる歩みだった。

 翔、レオ、リップの足音が、聖杯戦争の舞台に響く。

 世界は再び、静寂を取り戻した。

 けれど、その静けさの奥で確かに、新しい光が、ゆっくりと灯っていた。

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