「さて……」
「うわあ……興味ある本がいっぱいです!」
彼らの向かった先は図書室。買い出しが済んだので、それら全てを購買から転送してもらい。翔とリップは校内の図書室へ来ていた。
調べるのはもちろん、無敵艦隊についてだ。
リップが興味関心にいろんな場所を見つめるのを見ながら、翔は目的の本を探しだし読み始める。
無敵艦隊といえば大航海時代におけるスペイン海軍の異名だ。その数は、千トン以上の大型艦100隻以上を主軸とし、合計6万5千人からなる英国征服艦隊だ。
それはスペインを『太陽の沈まぬ王国』とも言われるようになった無敵の艦隊だ。
まさに力こそパワーを体現した編成……俺好みの編成だなと翔が思いながら本をめくる。
だがその無敵とも言われたスペインも僅か80隻しかなかったイギリス艦隊に敗れ去るのだ。
『太陽の沈まぬ王国』のスペインとその太陽を落としたイギリス……
ふと背中に妙な違和感を感じ、顔だけ後ろに向ける翔。
「……情報が絞れてきたな。リップ?」
「本ってこんなに文字があるんですね……」
ふと背中に妙な違和感を感じ、顔だけ後ろに向ける翔。
気づけば翔の背後にぴったりくっついて、彼の後ろから本を見ていたリップ。背中に妙な違和感があると思ったらこういう事だったのか。
無意識にリップから押し当てられている何かを気にしないように、本をしまう翔。
いや、正確に言えば、背後で何が起きているかを連想すれば、確実に理性がやばいことになる。だから考えないようにしているという事が正しいのだろうか。
この状態を続けるなど、もはや拷問に近い何かを感じる。なので、さりげなく体を動かし、うまくリップのそれに当たらないようにする翔。
話を戻そう。大航海時代、それは主に15世紀から16世紀を指す言葉だ。
翔は推測する。もし艦隊こそサーヴァントが敵宝具なら……彼女は船員ではない。艦隊を率いた人物ともなればまずはクラスはライダーで確定。
だが、英国で艦隊を率いた英雄の女性など聞いたことがない。
しかし……だ。
確定的証拠はないが候補であるならば一人いる。
それは『太陽の沈まぬ王国』を破った『太陽を落とした男』。
だがあの慎二のサーヴァントは女性であった。この時代に名を広めた女性であり、艦隊を率いた人物などいただろうか。
なにがともあれ、これについてまずは調べてみよう。
もしかしたらあの女性についてわかるかもしれない。
リップにも頼み、それ関連の本を探していたが……
「馬鹿な。ない……だと!?」
「こっちもです翔さん」
馬鹿な、本が全て見つからないとは、歴史好きな物好きにちょうど全て借りられてしまったのだろうか。
がっくりと肩を落とす翔に、リップが声を掛ける。それはリップの視線の先を見て欲しいとの事。
彼女の手の関係上、本棚は触る事が出来ない。触れれば間違いなく本棚が大変なことになる。翔はリップの視線の先の本棚を指で触れてみる。
翔が手を触れ、リップに『この辺りか?』と言えば、それに頷く彼女。
彼が見ており、手で触れている場所は、大航海時代関連のありそうな本棚。翔が指を進めていれば、そこにはいくつか抜かれている形跡があった。
「……なるほど」
「あ、やっぱり……ですか?」
翔は頷く。もし自分が慎二の立場ならば、ここの図書室の本棚全部、アリーナに転送する。絶対そうする。
それか、この図書室丸ごと爆破。そうでなきゃ『正解』を教えているようなものではないか。
資料を隠すなら辺り一帯をぶち壊すぐらいの隠滅をしなければならない。
ともあれこれは間違いなく慎二の仕業。だがそんな彼が、やらかしたことによって、翔が知りたいことは知ることができた。
あとは自分のマイルームに行って、やるべきことをやるだけだ。
そう、殺風景と言われていたマイルーム改造計画。ついにそれを実行するときが来たようだ。
「……ふう、こんな感じだな」
「随分と雰囲気変わりましたね!」
ある程度値段を調べ、買ってきた手ごろなインテリアを並べていった翔。
やはり前にリップに殺風景といわれたのが今でも心に残っていたというのが原因でもあるが、ここまで人に言われると、グサリとくるものなのだろうか。
少なくとも、今までよりは外見は良くなった。ちゃんと人が住んでいる生活感みたいなのがちゃんとある。
もうこれで机を移動させただけの殺風景極まりない教室……なんて言わせない。
あとはベッドが二つ、あくまで就寝用である。大事な事なのでもう一度言おう。あくまで就寝用である。
今のままでは寝床が定まってないため、そしてリップにも休息が必要だと思い、ベッドは二つ、購入することとしたのだ。
ちなみに、ここにある二つのベッドはリップの、あの腕にも耐えれるように、自分で少し細工をしてある。
まさか自分に、こんな技術があるとは思えなかったが、まあ使える技術などがあれば、どんどん使うのが自分という人間だ。
「すごい、ベッドってこんなにふかふかだったんですね翔さん!」
ベッドに飛び移って、凄く表情が緩んでいるリップ。まあともあれベッドでこんなに彼女が喜んでくれるならいいことだ。
そんな喜ぶ彼女を見て、翔が微笑んでいれば、前に鳴った携帯端末が鳴り響く。
『
早いな、もう二つ目の鍵が生成されたのか。
決戦まで時間はあるものの、戦いというものに慣れておかなければ慎二のサーヴァントを倒すことはきっとできない。
部屋の整理を一通り整理したら、リップと共に二層に向かってみよう。
幸せな表情でベッドで転がっているリップを見ながら翔はそう思った。
第2層は、1層とはまた違い、異なる雰囲気を放っていた。
その光景はまるで海の深くまで来てしまったかのような錯覚さえ覚えるほど……
そんな深海のような場所を翔とリップは歩いている。
おそらく、ここのエネミーの特性は1層とは違うだろう。
そして……翔の推測が正しければ間違いなくここに慎二が隠した書物がある。
あのサーヴァントの真名は絞れてきている。だがまだ完全な真名看破にはまだ足りない。だがここには必ず最後の一押しがここにあるはず。
「あ? なんだこりゃ……」
少し進んだところで、通路を塞ぐものを発見した。青色の通路とは対照的の赤い壁。これは侵入者を拒む何かに近いものだった。
ここは電子の世界、その単語で言うならばファイアウォールに近いだろう。
翔がそれに触れてみるが、何も起きない。どこかに解除キーでもあるのだろうか。
違う通路を進もうとしたところで、リップが自分について来ていないことに気付く。
見れば彼女はその赤い防壁を見て『うーん……』と唸っている様子だった。見た感じ力づくでは破壊できそうにもないが……
「翔さん、魔力を回してくれればこれ、破壊できるかもしれません」
なんてことだ。もし破壊できるとなればそれに越したことはない。
だが本当にあの腕があれど、あの防壁を破壊することができるのだろうか……
まあリップがそう言うのだ。一度は試してみるのがいいだろう。
「では私の合図で翔さんは魔力を私に回してください」
「わかった、やってみるぜリップ」
そう言い、リップが翔のその言葉に頷くと、巨大な腕を防壁に当て、目を閉じるリップ。一体何をしているのだろうか。
その静寂は少しの間続いた。翔はただリップの合図を待つのみ。
彼女は何をしているのだろうか。だが彼女の真剣な顔を見る限り、今語りかけるのは厳禁だ。
集中力を乱さないために、自分ができることはただ見守るのみ。
そして翔がいつでも魔力を回せる準備が整うと……
「今です翔さん!」
言われるがままにリップに魔力を回す翔。直後、彼女の『潰れて!』という声と共に、巨大な金色の爪が防壁に目掛け放たれる。
その光景に目を見開く翔。彼の目の前の光景は、障壁が音を立ててガラスのようにバラバラに崩れ、周りに散っていく光景だったのだ。
正直に言うと翔には何が起きたかわからない光景である。
「ははは、さすがだなリップ。ところで今のって……」
「はい! ちょっとこの壁の中身を覗いて弱い部分に一撃を入れただけです!」
嬉しそうに腕を振り上げてはしゃいでいるリップ。なるほど、弱い部分に一撃を入れたのなら納得できる。
今まではリップは一撃必殺しか頭の中では考えてないのだろうかと思っていたのだが、こういったことも出来なるなら役に立つことがいづれあるかもしれない。彼女の意外な
一面に感心しながら翔とリップは進み始める。
この2層は進んでいけば、進んでいくほど、周囲の光景が深く暗くなっていく、まるで海底の奥深くに自分たちが進んでいるような感覚で、不気味な感じさえ覚える。
そしていたるところに浮かぶ沈没船。まるで船の墓場ともいえる深海の光景が見渡せばそこに広がっているのが分かる。
しかし、歩いてみれば慎二のサーヴァントに関する資料は見当たらない。しかしあの慎二の事だ。普段ならば気付かない場所に隠しているのだろう。
どこか探してないところは、考えながら翔が壁に手をかけながら進んでいると……
「あ、え、ちょ、ぬわっ!?」
手が壁をすり抜け、間抜けな声を出しながら転倒する翔。
だがすり抜けた先で翔が落ちることなく、身体はそこにある。
言うなればここは隠し通路……見えない道がそれを物語っている。
思わぬ収穫だ。良く見ればその先には沈没船の甲板らしきところもある。いかにも慎二が何かを隠しそうなところだ。
翔とリップがそこへ向かい、アイテムが入った箱に触れてみる。
「これは……手記?」
「みたい……ですね」
どうやらこれが慎二が必死になって隠した物らしい。羊皮紙に書かれたそれは何かの航海日誌のようだった。
文字の霞み具合から察するに、かなり前に書かれた物のようだ。翔が辛うじて呼んでいると、そこにはいくつかの島の名前や襲った船の積荷。
正に荒海を駆けた航海日誌。襲った船の積荷まで書いてあるという事はこれを書いた人物は海賊ということがわかる。
そしてこの書物は間違いなくムーンセルが再現したデータだ。慎二もこのフォルダを消去することが出来ず、仕方なくここに隠したのだろう。
そして彼が気になった文字がそこにあった。
「
慎二が必死になって隠した物と
答えは絞れた。慎二のサーヴァントの真名。
その人物は商人にして冒険家、私掠船船長にして艦隊司令官。
世界一周を初めて生きたまま成し遂げた人類最初の偉人。人類史においてターニングポイントになった星の開拓者。
そして、自ら得たその収益で母国イギリスを、当時世界最強だったスペインを打ち破るまでに導いた英傑。
そう、『太陽の沈まぬ王国』を歴史の盟主から引き摺り下ろした……太陽を落とした男。違う、太陽を落とした女だ。
忠実とは違って女性だったのが驚きだが……これで答えは出た。
「リップ、慎二のサーヴァントの真名がわかった。彼女の名前は……『フランシス・ドレイク』だ」
その後、第2層のトリガーをゲット。道中でのエネミーとの戦闘。その戦闘を積み重ねていく毎に、リップの細かな戦い方までわかってきた。
後は、その時に応じてリップに合った戦術を指示していくのが自分の役目。
今日はアリーナから出ようとし、出口に向かったところでリップが何かに気付いたように、辺りを見回す。
「翔さん! アリーナの階層データを全表示できるコードキャストってありますか!」
翔に向き直ればそのような事を口にするリップ。自身に魔力を通し、その文字列を探る翔。
階層データ表示、検索、一致……これだな。見つけたコードキャストを使う翔。
「これか……『view_map();』」
そのコードキャストを使えば頭の中に大量の情報が流れ込む……それをリップにも見えるようにマップ出力すれば、その中に勢いよく近づいてくる二つの点が分かる。
間違いない、これは慎二とそのサーヴァントだ。
おそらく、手記を手に入れたことが何らかの形で慎二にばれたのだろう。
正反対に逃げることはできる。だがそこから逃げた所で、近くにエネミーの反応がある。逃げようにも、エネミーがいる状態慎二のサーヴァントと挟み撃ちになるのもごめんだ。
ならば、ここで迎え撃つしかないのか。慎二達が向かってくる方向を見つめる翔。
「……チッ! こんなところまで探すなんて、ずいぶんと必死じゃないか。まあその本はすぐに僕の手元に戻るんだけどさあ! さあ、思いっきりやっちゃいなライダー!」
「仕方ないねえ、慎二。追加分の報酬は用意しておくんだよ!」
慎二が自身のサーヴァントに命令し、彼の前に出る女海賊。戦闘は避けられない。翔を守るようにリップが前に立つ。
二回目の慎二のサーヴァントとの戦闘。だが前の戦いを知らない翔ではない。少しはできるようになったはずだ。
そして、今気づいたことだが、前のように焦りが意外とない。敵の情報を少し知れたからだろうか……
「いけ! ライダー! ありったけの弾をぶち込んでやれ!」
「はっ! 派手に散らしていくその戦法、アタシは嫌いじゃないよ!」
先に動いたのは慎二のサーヴァント、ライダーであった。慎二の言葉と共に、突進しながら二丁の拳銃を巧みに扱い、その二つの銃口から火が吹く。
突進しながらの連射、それを簡単にやってのけるあたりやはり英霊。対するリップも、その弾丸を自身の腕で防御しながら、慎二のサーヴァントを迎え撃つ。
そしてリップの巨大な腕の振り下ろし、それを読んでいたかのようにライダーは横に回避、零距離で銃を向ける。
彼女が気づいた時にはもう遅い、ライダーがリップの頭部に目掛けて引き金を引く。
その弾丸は容易くリップを貫く、マスターが何もしなければの話だが……
「『
「なっ!?」
すかさず翔のコードキャストにより、襲い掛かる弾丸から身を逸らすリップ。彼の使ったコードキャストは敏捷強化。
これにより、間一髪でリップは弾丸から身を避けることに成功したのだ。
翔のコードキャストを見た慎二は焦りの表情を浮かべているのが分かる。最初に戦った時には、戦い方をまるで知らなかった翔が、今突然コードキャストを使ったことに驚いているのだろう。
僅かだがライダーの攻撃パターンが読める。ならばこの好機を逃さない手はない。
リップの腕の横薙ぎを、後退しながら避けたライダーが右手の拳銃を上空に放つ。
後退しながらライダーの背後の現れるのは、前の戦闘で見せた大砲の群れ。
次の行動は、カルバリン砲……!
「こいつをくらいな!」
まだリップの敏捷強化が残っている。ならば……!
「今だリップ!」
巨大な大砲より弾丸が放たれ、耳をつんざくような、空を遠雷の如き唸りを伴った砲声が渡る。
だが、前のようにやられっぱなしではない。それに突進するかのように砲弾の群れを突き進むリップ。
チャンスは一瞬、翔は右手を前に出し砲台を見つめる。一発だ、一発撃ち落とせればいい。
彼女へ、リップへ向かってくるのだけでいいのだ。
「『
翔より放たれし弾丸、それはリップへ襲い掛かる弾丸のみを撃ち落とし、彼女の道を作る。
地面が抉られ、立ち込める煙、その煙の中から飛び出すリップ。リップの傷は少ない。翔がコードキャストで補助したおかげだ。
大砲の爆撃より生還したリップはそのままライダーに向け、その巨大な爪を振るった。
「っ!?」
顔をしかめるライダー。
リップの爪を掠らせる程度で回避した彼女だが、その一撃は重い。
その傷は決して浅くはなく手痛い一撃となっただろう。
そしてライダーが銃を放つ直前に、アリーナ全体へ警告音が鳴り響き、ノイズのようなものが走り、二人はマスターの側へと強制的に戻される。
セラフが介入し、戦闘を強制終了させたのだ。
爆撃によって少しの傷を負っているリップだが、相手側の傷はそれよりも深かった。前回とは結果が大違いだ。
「うっ……嘘だ。この僕が傷を受けるなんて……」
その結果に慎二も取り乱さずにはいられなかった。
まるで信じられないと言わんばかりに目を見開き、身体を震わせている。
「俺だってなにも学んでないわけじゃない。少しは分かったか慎二」
険しい表情で慎二に言う翔。相手の行動を読みながら戦術を即座に組み立て、リップに指示する。ぶっつけ本番でどうかと思ったが、なんとかいけたようだ。
だがこちらも疲労がないわけじゃない。今でも倒れそうなぐらいには疲労している。
「く、くそ、調子に乗りやがって! 決着は本番で付けてやる!」
「ああ、こっちもそのつもりだ。次会うときが決着の時だぜ慎二」
まるで吐き捨てるかのように慎二が言うと、サーヴァント共に消える慎二。
どうやら撤退したらしい。なんとかなったということか。
とにかく目標であった第2層のトリガーをゲットもした。そして出口も近い、ここは一回帰った方がいいだろう。
着実にタイムリミットは迫っているが、これでトリガーがなく不戦敗はなくなった。
あとは慎二との決着までに力をつけるだけ。
ともあれ、今日は休んだ方がいいだろう。翔とリップはアリーナから出ることにした。