「よしっ 準備オーケー」
出汁を舐めて味を確認し、晩御飯の支度が完了して一息つく。
肉に火は通った、野菜も柔らかくなった。あとは妹の帰りを待つだけだ。
そう思った束の間、玄関の扉を開く音が聞こえた。そして
「ただいまー!」
その声と同時に扉が開き、女の子が姿を見せる。
髪を染め、左目をピンクのハートが描かれた眼帯で隠し、紫とピンクを基調とした服に被った帽子には動物の耳をモチーフにした突起。
そしてそこから手の位置まで垂れ下がる布の先には大きな爪が付いている。
このド派手な格好の少女の名前は早坂美玲。この
「おう、おかえり」
「良い匂いだな! 今日なに?」
「親子丼」
「やった!卵とろとろでな!」
「分かってる。すぐ流すから手洗ってこい」
「うん!」
女の子は洗面所のほうに行き、俺は卵を割って溶きほぐす。
「うまいか?」
「すげーうまい!」
「そりゃ良かった」
自分も目の前の親子丼を口に入れる。うん、我ながら美味い。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまー。ウチが洗い物するから兄貴休んでろよ」
「いやいいよ、お前レッスンで疲れてるだろ」
「今日はあんまり疲れてないし、いいから任せろっ」
妹にキッチンからリビングに追いやられ、皿を運ぶ美玲を横にソファに座る。
手持無沙汰になったのでとりあえずテレビをつけてみた。テレビには大勢の観客を前にトップアイドルがステージ上で華やかに歌い踊る様子が映った。
美玲もいつかはこれくらいでかいステージで歌うのだろうか、片割れの妹の未来に思いを馳せてみる。
あ、そういえば。
床に置いていたかばんに手を伸ばし、一つの袋を取り出す。
「美玲ー」
「んー?」
「これ」
洗い物をしていた美玲が振り向き、手に持って見せた物に視線が向く。
「あっ」
「たまたま見つけたから買った」
それは美玲とユニット仲間がジャケットに居るCDだった。
「なっなんでっ!」
「新曲出すんなら教えてくれてもよかったのに」
「だ、だって恥ずかしいだろっ!」
「なんで? 衣装すげえかっこいいし可愛いじゃん」
「そういうこと言うなっ! ひっかくぞっ!」
顔を赤くしてがるるると威嚇しながら皿洗いに戻る美玲。
こういう可愛い反応も見られるなら買った甲斐があったものだ。
皿洗いを終え、美玲がリビングに来た。丁度ヘッドフォンに流して聞いていた新曲が終わった。
「ど、どうだ?」
少し遠慮がちに聞いてくる妹。ああ言ってもやはり評価は気になるか
「良かった。美玲の声の魅力が良く出てたと思う」
「そっか…そっかぁ…」
下を向いているが、その声は誰が聞いても嬉しげに聞こえるだろう。その様子を見て思わずにやけ顔を隠すのを忘れそうになった。
「メンバーの森久保と星も良い声だな。かわいいし結構好きかも」
とはいえジャケットにいる森久保乃々はどことなく不安げな印象を受けるし、星輝子はモロにパンクな風貌をしてるから単純な可愛さとはまた違うが
美玲がピクっと反応し、顔を上げる。追加で褒めたつもりだったのだが、期待に反してジトっとした目を向けてきた。
「なんだよ」
「乃々と輝子…好きなのか?」
不機嫌な顔で尋ねる美玲。どうしたんだこいつは
「お、おう。だって美玲いつも色々話してるだろ? 仕事で何があったかとか、一緒にどこに遊びに行ったとか。良い子達みたいだし」
「むぅー、良い子達なのはそうだけど…」
「あ、良かったら会わせてくれる?」
「だ、駄目に決まってるだろ!何言ってんだバカ兄貴!」
「嘘、嘘だって! ひっかこうとするな!」
「がるるるるる!!」
身内だからってアイドルに会えるわけじゃないなんて分かってるってのに。
「かわいい女の子に兄貴を会わせくないし…」
美玲が何か言ったみたいだが、よく聞こえなかったので捨て置いた。