「忘れ物無いか?」
「ん」
制服に着替えて身支度を済ませ、戸締まりをして美玲と共に登校する。
両親は共働きで海外に出張しており、今回は長期に渡って日本から離れている。
美玲がアイドルとして上京することをきっかけに、俺も一緒に宮城から東京に引っ越して美玲と二人暮らしをしている。
美玲に一人暮らしはさせられないと、両親の頼みで俺も美玲と共に上京することになった。
美玲の世話と家の事は両親のほうから俺に任されている。家事全般はもう手馴れたものだ。
『なにすんだ!ひっかくぞー!』
『こら美玲! すみませんうちの妹が』
昔から問題を起こしていた美玲の世話をし続ける俺を見てきた両親から意図せずして得られた信頼の上でのことだった。
「じゃあな」
「ん」
学校に入り教室の入り口で美玲と分かれる。美玲とは違うクラスなので隣の教室に入る
「おはよう美貴」
「おう」
席につくと、後ろの席に座る友人から挨拶を受ける。こいつは朝からよくこんな上機嫌な顔ができるものだ。
「今日も妹と仲良く登校したみたいだね」
「なんだよそれがどうした」
「いや、なんか見てて微笑ましいと思って」
「馬鹿にしてる?」
「そんなわけないだろ」
なんでそんなに嬉しげなんだよ。
「僕の双子の妹は別の学校だからね。兄妹で登校できる君達を見て少し羨ましいと思って」
「…まあ悪いものじゃないけど」
「はは、相変わらず妹が大好きなんだ」
「うるせえな八つ裂きにすんぞ!」
「はい、爪兄妹の兄の八つ裂きいただきました」
こいつにはいつもペースを狂わされる。
現生徒会長、成績は学年トップ、先生や友人からの信頼も厚いこの男の名前は
彼には私立の進学校に通う双子の妹がいるらしく、クラスが同じになった時に似た境遇の者同士として仲良くなった。
爪兄妹というのは早坂兄妹のあだ名だ。
美玲は事あるごとに「ひっかくぞ!」と威嚇し、美貴も激昂した時は「八つ裂きにするぞ!」とよく発言していた。珍しい双子の男女ということもあり、周囲が面白がって付けた名前だ。
『うー、なんだよっ!ひっかくぞ!』
小柄な体格で爪を立てて威嚇する美玲はさながら小動物のようだとクラスに可愛がられ、ファッションにも詳しいことから女子中心に人気者になり、半ばマスコットのようなポジションにおさまっている。
『あ゛あ゛ッ!? 八つ裂きにすんぞ!!』
妹と違い身長が高く、声変わりも早かった美貴は気が昂ぶった時は14歳とは思えない威圧感を出して威嚇する。この時の美貴は教師すら怖気づく。
小型犬の妹と番犬のような兄はよくセットで見られ、『早坂の爪兄妹』として2年校舎の名物になっていた。
「そうだ、ちょっと聞いてよ」
「なんだよ」
「昨日幸子がさ、やっとデビューすることが決まったんだ」
「へぇ」
幸人の妹がアイドル候補生であるという事は聞いていた。聞けば美玲と同じ事務所でしかも同期なのだという。
「美玲さんには先に越されてたけど、これからは同じ舞台で頑張るって意気込んでたよ」
「さっきから嬉しそうなのはそのせいか?」
「かわいい妹の頑張りが認められたからね。僕もまるで自分の事のように嬉しいんだ」
「シスコンめ」
「君には言われたくないね」
こいつは自分の妹をカワイイカワイイと恥ずかしげもなく人前で言う。こういうのって普通他人には言えないだろ。うちの生徒会長は変人か?
自分と同じく俺もシスコン仲間にしたいらしいが、俺はお前ほど美玲のことは溺愛していない。
「僕の妹は可愛いからね。すぐに美玲さんより人気のアイドルになるよ」
「……美玲は負けねえからな」
「やっぱり君もシスコン入ってるよね?」
「普通だ普通」
美玲のことは普通にかわいいと思っているが、俺はシスコンじゃない。
そりゃ作った料理を美味しいと言ってくれるのは嬉しいし、新曲が出たら買うつもりだし、美玲がアイドル活動に忙しいから掃除洗濯やるのは面倒だが嫌いではない。
昨日みたいに一緒に遊びに行くのも好きだし、何よりずっと一緒に居るんだから嫌いになどなるはずがない。
幸人と一緒にするなと念を押しておいたが、やっぱりシスコンじゃないかと同族を見る目で見られた。分からない奴だなお前は。
あ、今日美玲ダンスレッスンって言ってたな。疲れて帰ってくるだろうし、疲れが取れるもの作ってやろう。
美貴は怒った時が怖いだけでいつも怖がられる不良ではないです。